2020年8月22日土曜日

米海軍の目指す次期戦闘機NGADはどんな機体になるのか

 

Lt. Rob Morris, from Annapolis, Md., observes a F/A-18F Super Hornet from the “Jolly Rogers” of Strike Fighter Squadron (VFA) 103 land on the flight deck of the Nimitz-class aircraft carrier USS Abraham Lincoln (CVN-72) on May 30, 2019. US Navy Photo

 

海軍が新型艦載戦闘機の開発作業を静かに開始した。20年ぶりの開発となり、事業室を立ち上げ、業界と協議を始めた。USNI Newsの取材でわかった。

 

新型機はF/A-18E/Fスーパーホーネット、EA-18Gグラウラー電子攻撃機を2030年代に更新する大規模事業だ。

 

調達部門トップに就任したジェイムズ・ゴーツは次世代航空制空戦闘機(NGAD)構想の事業推進室を立ち上げたと先週記者団に明かしている。

 

海軍航空システムズ本部(NAVAIR)が発足させたNGAD事業推進室だが、時あたかもペンタゴンは予算不足に直面しながら新国防戦略でロシア、中国の脅威にインド太平洋地区で対抗する必要に直面している。

 

 

新型有人戦闘機の目指す方向

米海軍は有人戦闘機の実現にむかっており、F-35CライトニングII共用打撃戦闘機で実現した性能以外にさらに進歩した技術も導入し、航続距離は伸びるはずとブライアン・クラーク(ハドソン研究所で海軍関係アナリスト)はUSNI Newsに以下述べている。

 

「既存の性能と同様の水準を21世紀モデルとして構築する必要がある。センサー入力は全てシームレスに融合統合し、パイロットに活用させる必要がある。自律運航機能の採用も必要だ」とクラークは解説する。「そうなるとパイロットにはコンピュータとの共同作業がF-35以上に必要になり、コンピュータが機体を飛ばしシステムを操作する度合いが今以上になる」

 

海軍は完全新設計の第六世代機というものの、ロッキード・マーティンF-35とボーイングF/A-18を合わせて新技術を盛り込もうとしているとクラークは解説する。

 

「これではうまくいかないのではないか。コストが上昇するが、海軍には予算に余裕はない」

 

F-35の戦闘行動半径が700カイリだが、海軍は1,000カイリ以上を望んでいる(クラーク)。

 

開発工程を加速化する

 

海軍が新型機の配備開始に想定する2030年代にはスーパーホーネットが耐用年数末期に達する予定で、海軍はスーパーホーネットの供用状態をにらみながら時間の余裕がないことも承知している。

 

事業を加速しつつ新設計構想の実現を狙う海軍だがペンタゴン予算に余裕がない。

 

「海軍は時間表を早めてNGADをスーパーホーネットに交代させるつもりだが、新設計でエンジンも新型になれば、技術リスクも増える。同時に日程を早めれば日程上のリスクが増えるし、対策予算が確保困難な環境になる」(クラーク)

 

海軍の2021年度予算案ではスーパーホーネット調達を終了し、製造元ボーイングとの複数年度調達の最後とする。海軍は5年間で45億ドルを捻出してNGADに使うと説明している。

 

議会予算局の2020年1月報告ではF/A-18E/Fの更新機に670億ドルが、グラウラーでは220億ドルが必要と試算している。

 

「試算には新型ジャマーポッドの配備費用、既存装備の能力向上費用は含んでいない」と報告書にある。「たとえば、海軍は新世代ジャマーポッドをEA-18Gに搭載するが、これだけで40億ドルかかる」

 

事業推進室立ち上げ

 

海軍はNGADの代替策検討(AOA)を2019年7月に行ったが、国防長官付のコスト評価事業評価(CAPE)はAOAは「不十分」と2019年9月にまとめたとNAVAIR広報官コニー・ヘンペルがUSNI Newsに明かしている。

 

NGAD事業のスタートとして海軍は次世代制空機事業推進室を5月に発足し、海軍ではこれをPMA-230と呼称している。その主幹にアル・ムソー大佐が就任した。ムソーは以前はミッション統合特殊事業室(PMA-298)でも主幹を務めていた。

 

海軍はNGADに関し民間企業との接触を始めており、ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンの競作になりそうだ。

 

情報請求がいつ出そうかと問われて、ヘンペル広報官は必要書類を準備中と答えた。

 

海軍からスーパーホーネット、グラウラーの後継機の詳細はほとんど発表されていない。だが2016年に海軍は各種システムのファミリー構成方式を模索しこれをF/A-XXとして戦闘機一機種を調達する以前の構想を変更した。

 

各種システムのファミリー方式で海軍は空軍のNGAD開発と類似した道をたどるとクラークが解説し、海軍は有人戦闘機を購入し、その他無人装備で補完してミッションを完遂する。

 

「ウェポンペイロード、ステルスも大切だが、速力、航続距離を重視する。C4ISR性能を引き上げるが、搭載量や敵防空網突破能力の一部は重視しない。こうした性能は無人装備に任せる。そこで各種システムのファミリー構成が活きてくる。F-35を5機投入するかわりに新型機3機うち無人機数機で同じミッションが実行できる」(クラーク)

 

新型有人機にはステルスを、無人機には速力、航続距離、大量搭載能力を任せるのが各種システムのファミリー構成の骨子だ。

 

海軍作戦部長マイケル・ギルディー大将は昨年末に海軍が目指す将来の航空戦力は有人、無人双方の装備で構成するとワシントンDCで開かれたフォーラムで述べていた。ただし、航空機の運用装備については今日の原子力空母以外の可能性もあると匂わせていた。

 

新型戦闘機構想が進む中で、敵勢力が低コスト長距離ミサイル整備を進めており、空母を狙うことへ対抗策が必要とクラークも指摘する。

 

「新型有人機の航続距離を延長して、中国、イランさらにロシアが長距離ミサイルで空母を狙う状況に対抗する構想ですが、勝ち目のないゲームになります。というのはミサイルのほうが安価なためです。航空機は高価ですので費用対効果で不利なのです」

.

有人機、無人機の併用でこの問題に対応できそうだ。

 

「費用対効果の問題はこれで解決できるかもしれません。航空機をそこまで長距離飛ばす必要がなくなります」

 

「機体を何千マイル飛ばしても、敵の対艦弾道ミサイルは2千マイル先から発射できるわけで、有人機は到達不可能です。有人機にはせいぜい千マイルまで対応させればよく、その先は無人装備に任せればよいのです」■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

Navy Quietly Starts Development of Next-Generation Carrier FighterN

By: Mallory Shelbourne

August 18, 2020 7:27 PM


2020年8月21日金曜日

今再び注目されるベルグラード中国大使館爆撃事件(1999年)

 ベルグラード中国大使館が爆撃で全壊したことで反米デモが中国で広がった。ただ大使館を意図的に爆撃する論理的な理由がなく、反中感情が爆撃につながったとの説明も不可能だ。

 

NATOによるユーゴスラビア航空戦はセルビア、コソボ双方で数百地点を空爆したが、ある施設の破壊により反西側、反米の非難が世界半周離れた地点で発生した。標的はベルグラードの中国大使館だった。

 

NATO空爆作戦は1999年3月24日に始まった。コソボのアルバニア系住民の迫害を止める交渉が流れた後のことである。ユーゴスラビア陸軍全体がコソボ住民の虐待に関与していたといわれる。目標リストには首都ベルグラードにある政治軍事両面の施設があった。

 

合計28千発もの爆弾がユーゴスラビアに落とされた。同国はオハイオ州と同じくらいの面積だ。当時の国防長官ウィリアム・コーエンは連合軍を「史上最高の精度を行使する空軍力」と述べていた。空爆で一般市民500名が死亡しているが、これだけの量の空爆としては目立って少ない犠牲で、NATOは各標的を「慎重に選択し」たうえで「セルビア市民の被害を最小限に抑えるよう多大な努力を払った」と説明していた。

 

ところが5月7日に、ベルグラードの中国大使館に共用直接攻撃爆弾5発が衛星誘導で命中した。投下したのは米空軍B-2スピリット編隊だった。中国人3名が死亡した。新華社のShao Yunhuan、光明日報のXu Xinghu 夫妻、さらに中国人20名が負傷し、5名は重傷だった。

 

ビル・クリントン大統領が異例の陳謝として「深い哀悼の念」を被害を受けた中国人に示し、攻撃は誤爆だったと述べた。NATOは大使館がユーゴスラビア連邦補給調達局 (FDSP)の司令部として機能していたとの情報で動いたと主張。

 

トーマス・ピッカリング国務次官は中国側への詳細説明で米国は国家主導によるミサイル部品のリビア、イラク、ユーゴスラビア各国向け供給先だと認識していたと述べた。ピッカリングは「多重要素の過誤」が1997年から続き、誤爆の原因を三点あげた。FDSPが入る建物だと誤って認識したこと、米軍、米情報筋が中国大使館の所在地を誤認識していたこと、またFDSPを実際に知る筋から裏をとらなかったことである。ピッカリングの指摘の通り、米NATO外交筋は移転後の中国大使館を「非爆撃目標」データベース上で改訂していなかった。

 

攻撃は誤爆だったというものの、反米抗議の波は中国全土に広がり、北京の米大使館はじめ各地領事館に数万名のデモ隊が押し掛けた。一部で略奪行為が繰り広げられた。中国当局が立ち入り禁止にしなかったらそのまま大変な事態になるところだった。

 

中国ではベルグラード大使館が破壊されたのは事故ではないとの見方が大半だった。中国政府でさえ、地図が古くて大使館が爆撃されたと信じることはできなかった。攻撃が意図的だったのかは別として、中国国民には外国人への反感が深く、その背景は数百年前にさかのぼる。不平等条約、一方的な要求やその他植民地主義が中国を弱体化させたとみる向きは今回の攻撃を外国勢力による恥辱が再び発生したとみた。

 

ただし同時に中国共産党が反西側デモをあおっている証拠もあった。中国当局は共産党の大学組織を通じてデモ隊をあおっていた。ガラス瓶、石、レンガ、ペンキさらに火炎瓶が北京の米大使館に投げられた。成都では領事公邸が放火された。中国共産党は厳しい統制を全国に敷いていたので、これ以上の暴力沙汰が許容されたとは思えない。ただ強力な米軍と情報機関が大使館の緑の屋根を軍事補給拠点と間違えたと想像するのは困難だ。

 

中国が陰謀説に傾いたのは無理もない。中国大使館が爆撃を受ける理由がなく、そもそも、すべての情報を握り、強力な米軍が誤爆するだろうか。単純な誤りのはずがない、中国大使館を爆撃するとは中国人民を苦しめる帝国主義の動きなのではないか。

 

だがそもそもなんのためなのか。意図的に大使館に爆弾投下することで中国を挑発する理由は論理的に考えてられない。米国の反中感情に動かされたとも思えない。陰謀説に動機が見つからないのが欠陥だ。説明がつくような悪意は愚行が理由ではないとのハンロンの剃刀の警句が思い起こされるのである。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

Oops: In 1999, a U.S. B-2 Bomber 'Attacked' ChinaAugust 19, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: B-2MilitaryTechnologyWorldWarChinaAir ForceStealth

by Kyle Mizokami

 

Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.


2020年8月19日水曜日

RIMPAC 2020が開幕。COVID-19のため規模縮小し、海自から いせ、あしがら が参加。


RIMPAC2020に向けハワイ真珠湾を出港するUSSエセックス(LHD-2) Aug. 10, 2020. US Navy Photo

 

 

太平洋演習が規模を縮小しハワイ沖合で本日開幕した。COVID-19のため参加国は当初の三分の一、人員は五分の一となった。

 

だが演習司令の米第三艦隊司令官スコット・コン中将はRIMPAC 2020開始のメッセージで規模は縮小されたものの太平洋を取り囲む諸国の相互運用体制の実現という演習の目標は十分実現できると述べている。

 

「当初RIMPAC 2020は三十か国の水上艦潜水艦50隻航空機200機25千名の規模で企画し、さらに陸上で4千名を支援に充てる構想だった。その通りなら史上最大規模のRIMPACになっていただろう。だが10か国22隻、潜水艦1、海上人員5,300名に縮小した」(コン中将)

 

「参加10カ国はオーストラリア、ブルネイ、カナダ、フランス、日本、ニュージーランド、韓国、フィリピン、シンガポール、米国で、これから二週間の訓練で各種の想定で運用技術を磨く。今年は海洋戦に中心を置き、対水上艦戦、対潜戦、海上阻止行動、実弾発射を展開する」

 

前回2018年は25か国45隻、潜水艦5、25千名がハワイから南カリフォーニアに至る海域に6月末から8月にかけ展開し、ロサンジェルス級潜水艦一隻から20年ぶりとなるハープーンミサイルの発射、各国海軍がテスト中の新型装備品の展示、さらに退役米海軍艦艇を実際に沈める演習(SINKEXs)を二回実施し、ここではシンガポール海軍の実弾が命中し予想より早く完了した。

 

今年は1971年の開始以来通算27回目の実施となり、2週間で完了する。陸上イベントはなく、揚陸演習もない。乗組員は演習海域到着からずっと艦内に留まり、例年のような各国人員が一緒の夕食風景も見られない。

 

SINKEXは一回のみで旧USSダーハム(チャールストン級揚陸貨物輸送艦)を実弾射撃で処分する。「各国部隊には運用技術を磨き、装備品への自信を強めるまたとない機会となる」とコン中将は記者団に文書で説明している。期間短縮で恒例の技術展示はなく、自由競技会も開催されない。後者は各国指揮官に多国籍部隊として課題を与えるものだ。

 

ただし、中国との領土問題に多数国が直面する中で最大限の参加国が集うことに意義があるとコン中将は述べている。「艦艇、人員を危機の際に集結させる能力があるうち、相互作戦体制を確立し、主要国との関係強化を図るが、幸い今は危機の真っ最中ではない。人間関係を築き、確立済みの信頼をさらに強化したい。このためRIMPAC 2020で関係者間のみならず世界に対して各国海軍部隊が一致団結して危機へ対処する決意があると示したい」

 

USNI Newsは参加国に中国の一帯一路構想で財政投資を受けるところが多い中で各国間の交流時間が減る意味についてコン中将に尋ねてみた。

 

コン中将は中国の名に触れず、以下回答してきた。「RIMPAC演習は二年おきとなっている。今回のRIMPACが終われば、次回演習の企画が始まる。招へい国も代表者を派遣し次回予定の調整にあたる。これにより各国には制服組代表同士の意思疎通、仲間意識、信頼が強まる」

 

また「RIMPACはこれまで同じ意識を共有するか国海軍が危機状況が到来しても域内安全と安定の確保のため共同作戦を展開する能力を培ってきたが、今回は海上演習のみになったRIMPAC 2020もこの点で例外ではない。ただし、残念ながらこの形での実施ではハワイ住民や演習参加国間の直接の接触はない。実はRIMPACではこの形の接触が重要な要素だ。一方でRIMPACの実施を見送れば別の不利益が生じる。海上交通の自由な流れを止めてはならず、守られなければならない。そのため我々は危機に対応する準備ができており、人為的な脅威のみならず自然災害にも対応する。RIMPACにより共同対処する能力が強化され、信頼も築かれる」

 

今回は海上行動に主軸を置き、陸上活動は中止となったため、米海軍の陸上支援要員も前回の600名が100名弱に削減された。各員はハワイへ移動したあと14日間の隔離措置を受け、さらにCOVID-19感染がないことを確認して演習に参加するとコン中将は説明。

 

さらに演習中も艦内でCOVID-19テストの準備ができているという。演習参加艦艇には医療室の整った艦もあるが、事態が進展し医療室の処理能力を超えた場合は、ハワイの軍施設へ搬送する。各艦艇はパールハーバー-ヒッカム共用基地で燃料糧食を補給するが、乗組員は艦を離れず、港湾関係者と接触しない。

 

「RIMPAC開催中は地元との接触は一切ない。しかしながらハワイ州民のみならず米国含む各国乗組員の安全健康の確保のため全力を尽くす」(コン中将)

今年の参加艦艇は以下の通り。

 

Australia

  • HMAS Hobart (DDG 39)

  • HMAS Arunta (FFH 151)

  • HMAS Stuart (FFH 153)

  • HMAS Sirius (O 266)

Brunei

  • KDB Darulehsan (OPV 07)

Canada

  • HMCS Regina (FFH 334)

  • HMCS Winnipeg (FFH 338)

France

  • FS Bougainville (A622)

Japan

  • JS Ashigara (DDG 178)

  • JS Ise (DDH 182)

New Zealand

  • HMNZS Manawanui (A09)

Republic of Korea

  • ROKS Seoae Ryu Seong-Ryong (DDG 993)

  • ROKS Chungmugong Yi Sun-Sin (DDH 975)

Republic of the Philippines

  • BRP Jose Rizal (FF 150)

Singapore

  • RSS Supreme (FFG 73)

USA

  • USS Essex (LHD-2)

  • USS Lake Erie (CG-70)

  • USS Chung Hoon (DDG-93)

  • USS Dewey (DDG-105)

  • USCGC Munro (WMSL-755)

  • UNSN Henry J. Kaiser (T-AO-187)

  • USNS Sioux (T-ATF-171)

  • USS Jefferson City (SSN-759)



この記事は以下を再構成したものです。


Scaled-Back, At-Sea RIMPAC 2020 Exercise Kicks Off Near Hawaii

By: Megan Eckstein

August 17, 2020 10:48 PM • Updated: August 18, 2020 10:38 AM


2020年8月18日火曜日

DEW(指向性エナジー兵器)開発はどこまで進んでいるのか

 向性エナジーが実用化されれば戦力増強効果は莫大となり、このため同技術の開発に重点がおかれている。

「指向性エナジー兵器」構想はかつては空想科学小説の世界だけの存在だったが、早くも1930年代に英航空省が「殺人光線」兵器の開発を検討していた。研究はロバート・ワトソン-ワットが担当し、実現不可能とわかり、研究成果はレーダー開発に流用された。

 

指向性エナジー兵器の開発は既存技術をもとに継続されており、高出力マイクロウェーブ波もその一例だ。一方でロッキード・マーティンなど防衛産業の電磁エナジー研究開発も進んでおり、高出力にして画期的な指向性エナジー兵器の実現をめざしている。

 

調査企業GlobalDataがこのたび発表した報告書では指向性エナジー兵器(DEWs)の技術成熟度が急速に伸びており、広範囲で活用できる実用的かつ費用対効果に優れた運用が視野に入ってきたとある。その通りに開発配備が進めば、DEWsには大きな革命的効果を長期にわたり生む可能性がある。

 

同社報告書ではここ20年間でDEWsの軍事活用は研究開発段階から作戦部隊に移り、なかでもレーザーの軍事利用は高効果を生む手段と認識されるようになった。また報告書では資金投入の増加傾向が多くの軍で見られ、2030年代にかけてもこの流れは続くとあり、研究開発活動がさらに拡大される。

 

米国はDEWs開発で世界をリードし、2017年度から2019年度だけでも資金投入を535百万ドルから1,100百万ドルと倍増させている。その他国に中国、インド、ロシアがあり、DEWs開発を急いでいる。ただし、こうした各国は米国に匹敵する熱意を同技術に示していない。イスラエルは中東北アフリカ地域で唯一同技術に力を入れている。

 

現在のDEWs開発の中心は防御用途で、重要インフラ施設の防御や軍用車両、装備品の防衛も期待されている。具体的には飛来するミサイル、ロケット弾、無人機、無人機の群れ、小舟艇に対応する構想だ。

 

「今のところDEWsは防衛に焦点を合わせており、大きな可能性を秘めるものの、通常型兵器に対しても優位性を発揮できる。そ光速性能、精密攻撃、規模を自由に制御できる特性、補給面での優位性、また発射当たり低コストであることがその理由だ」とGlobalDataでアナリストをつとめるヌレッティン・セヴィ(トルコ陸軍大尉)は指摘。

 

「DEWsは最近になり既存の運動性兵器と並んで戦闘場面に投入されるようになってきた」とセヴィはいう。「将来の戦闘場面を一変する可能性を秘めている。ただし、軍、防衛産業は課題を抱えており、レーザー兵器では大気の状態で効果が下がり、拡散、あるいは振動、熱ブルーミングといった問題を解決していない」

 

DEWs技術で高度技術の脅威に十分対抗できるとされ、極超音速ミサイルや無人機の同時投入もその例という。DEWsは非殺傷用途にも投入可能で、デモ隊鎮圧や機械類を作動不能にできる。GlobalDataによれば指向性エナジーは今後さらに威力を増大させ、戦闘の成否を握る存在になるばかりか既存兵器にとって代わる存在になるという。

 

「戦場に投入可能なDEWsがあるかないかで2020年代の軍部隊の差がひろがるはず」とセヴィはいう。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

Forget Stealth Fighters: Will Directed-Energy Weapons Revolutionize Warfare?

August 13, 2020  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarEnergy

by Peter Suciu

 

Peter Suciu is a Michigan-based writer who has contributed to more than four dozen magazines, newspapers and websites. He is the author of several books on military headgear including A Gallery of Military Headdress, which is available on Amazon.com.


2020年8月17日月曜日

南シナ海、東シナ海での中国の動きに米国はどう対応すべきかを米調査局はこう伝えている

 今回は2020年8月6日に米議会調査部が提出した報告書「議会向け資料 南シナ海・東シナ海における米中戦略競合の背景と争点」U.S.-China Strategic Competition in South and East China Seas: Background and Issues for Congressの内容を紹介する。

 

以下報告書より

大国間の競合状況に再び突入した国際安全保障環境において、南シナ海(SCS)が米中の戦略競合の舞台として浮上してきた。SCSでの米中戦略競合状態はトランプ政権による対中政策が対決色を強める根幹理由となっており、同政権はインド太平洋地区を自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に整備しようとしている。

 

近年のSCSでの中国の動きに大規模人工島構築、スプラトリー諸島での基地建設に加え、海洋部隊により周辺国のフィリピンやヴィエトナムに中国の主張を示していることがあり、米国の観察では中国はSCSで実効支配を強めていると映る。日本の統治下にある尖閣諸島は東シナ海(ECS)にあり、ここでも中国艦艇が行動を活発化しているのも米国の懸念するところである。中国が自国近隣海域のSCS、ECSを黄海とならび支配すれば、米国の戦略、政治、経済各面での権益がインド太平洋その他で結果的に影響を受ける。

 

SCS、ECSでの米中戦略競合で米国が最終的にめざす一般目標は次の項目に留まらない。西太平洋地区における米国の安全保障コミットメントとして条約上のコミットメントが日本とフィリピンに対し存在すること。米主導の安全保障の仕組みづくりを条約上の同盟国と協力国が対象として西太平洋で進めること。域内の力のパランスを米国や同盟国協力国に有利な形で維持すること、紛争の平和的解決原則に立ち、国際問題で「無理が通れば道理が引く」状況の台頭に屈しないこと、航行の自由ともいわれる海洋移動の自由原則を防護すること、東アジアで中国が覇権を確立するのを阻止すること、ならびに対中関係関連や広義の戦略競合関係の一部として各目標の実現をめざすこと、である。

 

SCSおよびECSにおける米中戦略競合で米国が今後具体的に目指すべき目標発議だけに留まらない。スカボロー礁でこれ以上の基地構築は中国に断念させること。SCS内地形周辺の基準線を設定すること、SCS上空に防空識別圏(ADIZ)を設定すること、ECSでは尖閣諸島周辺における中国艦艇の活動を縮小または終了させるよう働きかけること、スプラトリー諸島内でフィリピンが実効支配する地点へ圧力をかけている中国の動きを終了させる行動、スカボロー礁またはスプラトリー諸島へのフィリピン漁船によるアクセスを拡大させること、海上の自由の定義を米国西側勢力で採択すること、2016年7月に下ったSCSにおけるフィリピン-中国事案の仲裁結果を受け入れ順守すること。

 

トランプ政権は各種手段でSCS、ECS双方で中国との戦略競合に対応してきた。トランプ政権によるSCS、ECSでの対中国戦略競合方針が妥当かつ正しく裏付けがとれているか吟味するのが議会の課題である。また戦略の承認、却下あるいは変更も議会の職務であり、実施に投入する資源について、あるいはその双方についても同様である。

 

報告書本文は hereをクリックしてください。

 

この記事は以下を再構成したものです。

Report on US-China Competition in East, South China Sea - USNI News

August 14, 2020 12:19 PM

The following is the Aug. 6, 2020 Congressional Research Service report U.S.-China Strategic Competition in South and East China Seas: Background and Issues for Congress.

調査機関を議会が持っているのはうらやましい限りですが、こうした報告書が議員にどこまで影響力を持っているのか知りたいところですね。


2020年8月16日日曜日

イスラエル-UAE正式国交樹立の背景

 US Government graphic

“Look at the map and you will understand the huge importance of the agreement,” one expert told Breaking Defense.


スラエルとアラブ首長国連邦の国交樹立という歴史的発表が出たが、その裏で両国は地道な協力を続けてきており、イランが共通の敵との認識で一致している。


イスラエル、UAEの国交樹立前にモサド、退役軍関係者、サイバーセキュリティ専門家が頻繁に同国を訪問していた。


UAEを見てイスラエルと制式に国交関係を樹立する兆候が湾岸諸国に現れており、イラン神権政治の強硬態度への反発が背景にある。UAEはイエメンでイランが支援するフーシ派と戦闘を展開している。


UAEの動きが注目を集めるのは、同国が戦略的に重要なホルムズ海峡の南方沿岸を広く支配しているためで、北側に陣取るイランはこれまで何度も原油輸送で重要ルートの同海峡封鎖を公言してきた。国際報道ではイスラエル潜水艦部隊が同海域に活動中で、「特殊兵器」を搭載しており、イランがイスラエルに向け弾道ミサイルを発射すれば報復攻撃する準備ができている。「地図を見れば今回の合意内容の意味がわかる」とある専門家は指摘している。


イランが早速非難声明を出してきたのは想定内だ。公式声明でイランイスラム共和国はUAEが「インチキ、非合法、非人道的シオニスト政権」と国交正常化に動いたのは「恥ずべき試み」とし、ペルシア湾でのイスラエルの介入をけん制した。イラン革命防衛隊と関係が深いとされるタスニム通信社はUAE訪問のイスラエル代表団にモサド長官もいたと強調している。


実際にイスラエル情報機関モサドの上位関係者はこの数年UAEを頻繁に訪問してきた。またイスラエルのサイバーセキュリティやビッグデータ分析の専門知識が在UAEのイスラエル企業を介し流入している。両国の軍部交流は情報共有に留まっているが、イスラエルの軍、情報部で退役後にUAEで職につく傾向が強まっている。


議論になっている例にUAE民間セキュリティ企業ダークマターがあり、同社は組織的にイスラエル国防軍のエリートハッカーチーム、8200部隊の元関係者を採用している。人権活動家はイスラエル専門家はUAEで反政府集団とくにイランとつながる対象の監視活動を支援していると批判する。


今回の外交関係樹立でイスラエル国防企業はUAEで事業展開する道が開けた。UAEへの武器輸出はまだ検討されていないが、米援助資金の新規制によりイスラエル防衛産業に米国内に子会社設立が相次いでおり、ここを通じた協力事業の可能性が出てきた。


モシェ・ダヤンセンター理事でイラン研究が専門のウジ・ラビ教授は「イスラエル製軍用装備品の直接販売が将来可能になる」とし、「だが同時にイスラエルの専門技術を介した協力関係ではUAEの資金協力で国内セキュリティ関連のシステム構築に向かうのではないか」


ラビ教授はイランがUAE最大の脅威と指摘する。「経済のつながりは表面上こそ強固だが、イランはUAEが直面する敵対勢力であり、これからさらに強硬になっていくだろう」■


この記事は以下を再構成したものです。


Years Of Intel Contacts Laid Foundation For UAE-Israel Deal

https://breakingdefense.com/2020/08/years-of-intel-contacts-laid-foundation-for-uae-israel-deal

By   ARIE EGOZI

on August 14, 2020 at 2:12 PM


米海軍潜水艦部隊にアグレッサー隊が誕生。ただし....

 海軍は潜水艦アグレッサー部隊を発足させており、潜水艦戦、対潜戦双方に中国、ロシアを想定した対応の訓練に投入し、新戦術、新手順で脅威に対抗する。焦点となる分野の一つに電子戦の潜水艦運用への影響を見極めることがある。

 部隊は略称がAGGRONで水中戦開発センター(UWDC)に所属する。UWDCの本部のあるニューロンドン海軍潜水艦基地(コネチカット州グロートン)とポイント・ロマアネックス(カリフォーニア州サンディエゴ)に拠点を置く。同隊は2019年春から夏にかけて発足していたことが潜水艦部隊の公式出版物でわかる。海軍はAGGRONの立ち上げを2018年時点で発表していた。

「目標は経験にたけたレッドチームを相手に戦闘原則、戦略、戦術を磨き潜水艦乗員に戦闘シナリオを体験させること。レッドチームのつわものはリアル、ヴァーチャル含め訓練に投入していく」とチャールズ・リチャード中将(潜水艦部隊司令、当時)が2019年春に語っていた。「さらに遠隔地の攻撃指令所からレッドチームへ命令を伝える接続性を試す」「レッドチームの知見を潜水艦学校に反映できるようになる。アグレッサー部隊と最良の訓練シナリオの実現をめざしていきたい」


USN

ロサンジェルス級攻撃潜水艦USSアッシュビルがフィリピン海を浮上航行中。2020年6月



 アグレッサー部隊は「対抗勢力」OPFORとも呼ばれ、敵方つまり「レッド」部隊として実際に使われている戦術や教義を忠実に再現する。演習に現実味が加わり、自軍の「ブルー」部隊に実戦で敵が示す動きを体験する機会が生まれ、作戦構想が有効か試すことも可能となる。

 AGGRONで副司令をつとめる主任訓練教官の職務リストには「SUBFORで対抗部隊OPFORの性能を模擬する主任教官役を務める」とある。「DON(海軍省)及びDoD(国防総省)での敵勢力潜水艦戦およびASW(対潜戦)戦術の専門家になること」ともある。

 AGGRONは今後登場する戦術の有効度を試す手段として、さらに自軍能力をチェックする役目を負うことになりそうだ。さらに海軍が2020年8月13日付で発出した職務リストでは「潜水艦運用により各種電子戦(EW)プロジェクトを支援し、UWDCのAGGRONにおけるEW SME(該当分野の専門家)となること」との項目もある。

各プロジェクトの中身は不詳だが、電子戦は米軍内で関心が急速に高まっている分野であり、敵勢力でも同様で特にロシアの動きがある。今年初めだがロシア海軍も潜水艦発射式の使い捨てジャマーにより敵のソノブイを使用不可にできると発表していた。

 潜水艦の性能では海軍の秘密におおわれたネットワーク化電子戦エコシステムのNEMESIS(統合センサー対抗ネット化複合要素音紋)もある。ネットワーク化電子戦エコスシステムは今後の戦闘の様相を一変させる可能性を秘めている。潜水艦から無人潜水機を発進させる技術も進展しており、ここに電子戦ペイロードを搭載すれば間違いなく効果を上げるだろう。

 いうまでもなく、電子戦以外でも水中戦さらに潜水艦対潜水艦の戦闘には複雑な様相を示すものだ。敵の対戦部隊も水上あるいは空中から複雑な運用を迫られる。

 直接対決の形で訓練を米潜水艦とあるいは同盟国所属の艦と実施すれば、有効性を実証できる。米軍では空軍と陸軍にOPFOR部隊がすでにある中で海軍には潜水艦アグレッサー部隊があれば効果が期待されながら、これまで存在してなかった。

 ただし、AGGRONの前にも海軍は同じ構想を試している。2000年代中ごろにスウェーデンからMSwMSゴトランドを借り上げ、大気非依存型推進(AIP)方式のきわめて静粛なディーゼル電気推進の同艦をアグレッサー役に投入したことがある。ゴトランドは米海軍の原子力潜水艦やその他対潜部隊に実戦に近い体験の機会を実現した。米海軍はディーゼル電気推進艦運用を終了しており、世界各地で広く運用されている同方式の艦しかも高性能新型艦を投入したのはまれな機会となった。

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2005年サンディエゴの乾ドックに入るHSwMSゴトランド。米海軍が借り上げ運用開始した直後。


 そこで新編成のアグレッサー部隊がこのギャップを埋めるには相当の時間が必要になりそうだ。リチャード中将が想定していた部隊は海軍航空部隊の有名なトップガン戦闘機パイロット養成事業の潜水艦版だった。トップガンでは訓練後に原隊に復帰する。また一部は教官となり、自らが学んだ内容を後輩に伝えるのだが、潜水艦部隊にもこの構想が応用できると考えたのだ。

 リチャード中将は昨年、AGGRONはすでに知見の共有に取り組んでいると指摘していた。アグレッサー部隊は水上艦、固定翼機、回転翼基含む広範な対潜部隊全般にも恩恵を与えており、敵部隊を模す相手に技術を磨いている。

 残念ながらAGGRONには一つ重大な欠点が残ったままだ。少なくとも2019年末時点では専用の潜水艦を保有していなかった。とはいえ同隊にSSN数隻が配備されても、そのまま敵の戦力を反映するわけではない


RUSSIAN MOD

プロジェクト885ヤーセン級原子力誘導ミサイル潜水艦のセヴェロドヴィンスクはロシア潜水艦中で最高性能を誇る

 

 ロシアや中国では原子力推進の新鋭艦以外に高性能AIP搭載ディーゼル電気推進艦もその他各国と並び整備中だ。前述のように米海軍に同じタイプの艦がない。AGGRONもSSN向け演習でこうした艦がない中でディーゼル電気艦を模した運用を行うのは困難だ。

 ロシア、中国が潜水艦整備を進め、運用が活発になりつつあることへ懸念が高まる中、米海軍は潜水艦需要にこたえるのに苦慮し、定期整備も予定通り進んでおらず、AGGRONに専用艦が配備される日が早々に来るとは思えない。本誌では新型で低費用のディーゼル電気推進潜水艦を調達すれば、アグレッサー部隊の実効性があがると主張してきた。AGGRONで得られる成果は今後登場する新型原子力推進攻撃型潜水艦の開発にも資するはずだ。

 米海軍ではAIP搭載艦も含む同盟国の潜水艦との演習も定期的に実施している。その中で、ゴトランドと同様の借り上げ契約あるいはAGGRONが同盟国艦との共同訓練の機会を増やすことが現実味を増している。

 とはいえ、海軍に潜水艦アグレッサー部隊が初めて生まれ、現在のさらに将来の水中戦、対潜戦に対応する能力向上以外に潜水艦部隊にも現実の脅威への準備体制が高まることは間違いない。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

The Navy Now Has A Submarine Aggressor Squadron

 

  • The unit is intended to provide Navy submariners and anti-submarine forces with an opponent that fights just like a wide range of potential foes.

  • BY JOSEPH TREVITHICKAUGUST 14, 2020