2013年6月11日火曜日

A400Mを操縦してみてわかった同機の実力

 AviationWeekではときおり実機の操縦レポートがあり、自動車雑誌のドライブレポートのようなものなのですが、民間機の例がほとんどです。今回はA400Mをパイロット席で実際に操縦してみた、とのレポートです。羨ましい体験ですね。

 

Pilot Report Proves A400M’s Capabilities

By Fred George
Source: Aviation Week & Space Technology


June 10, 2013
Credit: Mark Wagner/Aviation-images.com
Fred George Toulouse


構想段階から30年かけてまだ就役していないエアバスミリタリーのA400Mアトラスの登場でヨーロッパ独自の大型輸送機が利用可能となり、米露以外の機種の選択肢が生まれる。.
  1. 開発・生産準備に投じられたのは300億ドルを優に超え、それだけに共同開発各国からの期待には高いものがある。今回本誌Aviation WeekはA400Mを操縦する機会を与えられた。
  2. A400Mの機体外寸はロッキード・マーティンC-130JとボーイングC-17の中間に位置する。西側世界ではもっとも高性能なターボプロップ機でフライバイワイヤ(FBW)飛行制御を有し、短い未整地滑走路からの運航が可能だ。
  3. 同 機の歴史は長い。概念を最初に提示したのは1982年で、要求性能をまとめたのは1996年。エアバスミリタリーが設立されたのが1999年でA400M に専念することとなり、固定価格による開発生産する契約が発効した。引渡し開始の2009年予定が遅れ再契約交渉となり、やっと初号機をこの7月にフラン ス空軍に引き渡すところまでこぎつけた。
  4. 同機は3月にヨーロッパ型式証明を得ており、兵站ミッションでの初期作戦能力獲得を経て就航する。「標準作戦能力」機の引渡しが今年末に予定され、2014年末までにアトラスに空中給油受入能力、機体防御能力、空中給油タンカー能力が加えられる。.
  5. エ アバスミリタリーによるとA400Mの性能はペイロード33トンで2,450 nm 、最大等裁量40トンで1,780 nm.で通常巡航速度はマッハ0.68あるいは390ノット(真対気速度)(KTAS)が高度37,000 ft.(通常の軍用作戦最大高度)で出せるという。高度31,000 ft.ではマッハ0.72あるいは422KTASになる。一般的な運用では降下部隊116名あるいは傷病兵66名を搭載する。または463L貨物パレット 最大9個、ユーロコプター・タイガー攻撃ヘリ2機、あるいは装甲兵員輸送車3両を搭載する。
  6. オ プションの空中給油パッケージでヘリコプターへ表示対気速度KIAS)105 kt.で給油を行える他、戦闘機に300 kt.での給油が可能。主翼左右に2,650-lb./min.で給油できるホース・ドローグ方式ポッドを装着するか貨物室後部に4,000-lb. /minのホース・ドラム式装備を取り付ければ合計三機へ空中給油ができる。オプションの貨物室内燃料タンクも入れるとさらに25,000 lb.を搭載できる。最大99,000 lb. 搭載の場合は250 nm、51,000 lb だと1,250 nmになる。
  7. 機体は通常の金属製で7.8 psi に加圧し、貨物室床面はトラック・ローラー方式なので貨物の取り扱いを楽にしている。主翼はカーボンファイバー製で15度まで湾曲する。T字尾翼も複合材を多く使いっており、水平安定板としての機能から形状を選んでいる。.
  8. シ ステムはA380を模範としているものの、軍用ミッションを考慮した手直しもしている。油圧は3,000-psiの二系統として飛行制御,着陸装置作動、 ブレーキ、貨物室ドア開閉、空中給油装置を作動させる。三番目の系統がないのもA380と同じだが、電動装置は二系統あり、ひとつが油圧系統の作動用に、 もうひとつを電動油圧ハイブリッド作動装置である。この冗長性は戦闘時の損傷を想定したもの。
  9. 着陸装置は14輪で非整地滑走路への着陸が可能る。車輪はタンデム独立方式で機体姿勢を未整地滑走路の地表形状にあわせ調整できる。
  10. Aviation Weekはエアバス主力工場のあるツールーズに赴きA400M操縦を試みた。MSN6号機の左側操縦席でベルトを締めると同社の主任テストパイロット、エ ド・ストロングマンEd Strongmanがインストラクターとして右座席にすわった。ストロングマンは2000年からA400Mに携わり2009年の初飛行も実施している。テ ストパイロットのマルコム・リドリーMalcolm Ridleyとフライトテストエンジニアのジャンポール・ランベールJean-Paul Lambertとティエリ・リュワンドウスキThierry Lewandowskiも搭乗した。
  11. MSN6 の運用空虚重量は177,250-lb. で量産型より850 lb. 重い。ペイロード882-lb. で無燃料重量は178,132 lb.だ。燃料は最大55,115 lb. 搭載できるが、今回は一部のみ充填し、ランプ重量は233,247 lbで計算上の離陸重量は232,365 lb.だ。軍用輸送ミッションでの最大離陸重量は310,851 lb.になる。
  12. 今 回はTP400エンジンの離陸性能を全開とし11,065 shp. を各エンジンから引き出すこととした。フラップを1とし(約10度)、V速度は110 KIASでV1離陸判断速度、129 KIASがV2エンジン不調でも安全に離陸できる速度だ。フラップ引き戻しは148 KIASでV速度は今回はラップトップコンピュータで計算したが、量産型で飛行管理システム(FMS)で自動計算される。FMSでは機体重量と重心位置を 検算し、水平安定版の角度を調整して離陸することになる。
  13. 今 回の飛行計画はツールーズ14R滑走路を離陸し、 9.3 nm南東へ飛行し、ツールーズ・ブラニアック無線局方面へ向かう。次に地面高度500 ft.へ降下し、低高度のままギャロンヌ地点を通過後ピレネ山脈のふもとカゼールに向かう。天候条件がよければ低空飛行のまま東に向かい20マイル飛行し てから中高度そして高高度に移動し巡航飛行性能の点検をしてからツールーズに戻るというもの。
  14. 天候はデモ飛行にうってつけで、1,000 ft.以下で雲の層がはじまり25,000 ft.まで続いている。これにより同機の低視認性の評価が可能となる。
  15. ス トロングマンがモニターディスプレーで始動前チェックリストをした。エンジン始動は簡単で、燃料ポンプを始動し、エンジンスタートノブを回すとエンジンマ スタースイッチをオフから不フェザー位置にしただけだ。デジタルエンジン制御によりその他の始動手順はすべて完了した。
  16. プロップが80 rpmまで加速すると振動が感じられたが、エンジンが安定するとマスタースイッチをフェザーから作動に変更して振動は消え、650 rpm で地上アイドル状態になった。
  17. 駐 車ブレーキを解除するとアイドル回転で機体がわずかに動いたが、出力レバーをタキシー開始にセットした。ストロングマンから出力レバー操作で主翼内側の第 二第三エンジン調節でタキシー速度のコントロールができるとのアドバイスが出る。カーボン製のブレーキは滑らかで機首の前輪操作も同様だ。
  18. 14R 滑走路の中央に機体を合わせる。離陸許可が出たので、推力レバーを飛行アイドル状態から前進ストップまで一気に動かす。エンジンは滑らかに加速し、プロッ プは860 rpmで安定すると中程度のノイズがコックピットでも感じられる。ノイズ軽減型ヘッドセットの使用を指示したが、コックピット内のノイズレベルはC- 130他ターボプロップ機より相当低い。
  19. 重 量出力比が5.25:1の同機は加速がきびきびかつなめらかだ。ローテーション速度に達するとサイドスティックを半分ほど引き機首が20度ほどになってか ら離す。フライバイワイヤ方式の飛行コース安定機能によりピッチとバンク角度は一定のままで機体は加速し、着陸装置とフラップを戻した。
  20. 高 度警告装置が作動したのは3,000-ft. の承認済み高度に近づきつつあったためで、出力レバーを戻し、エンジンを自動スロットルシステムに任せる。これでプロップは730 rpm まで減速し、出力は9,460 shpに下がったままで上昇する。さらにプロップ速度が下がるとコックピット内の警告音量も下がる。
  21. エアバス社のジェット旅客機と同じくA400Mでも出力レバーは自然に元に戻らない設計で、安定出力で一度とまったままになる。出力レバーが動くと乗員は自動スロットルの作動状態を視覚的触覚的に把握できると思うのだが。
  22. 高度3,000 ft. 、250 KIAS で水平飛行に移りエンジンを低騒音作動モードにすると、プロップ速度は650 rpmまで下がる。敵地飛行の場合も飛行音は小さくなるだろう。ツールーズ住民にも騒音はかなり下がる効果がある。
  23. ヘッドアップディスプレイ上の飛行経路ベクターシンボルでFBW飛行安定機能の利点を活用しながら、手動操縦で簡単に高度方位角を維持できた。飛行経路の微調整のためにサイドスティックで入力をしただけだ。
  24. ツールーズ・ブラニャックに近づくと雲に切れ目が見つかったので、右方向に急角度のバンクで地面高度500 ft. まで降下し、280 KIASでガロンヌへ向かう。付近の悪天候により低高度で振動があるが、飛行経路安定機能により機体制御は容易にできた。
  25. 民 生用FBWを改良したA400Mでは機体寸法に似合わない機敏性がある。サイドスティックへの入力では反応レスポンスはきびきびしてる。飛行は安定してお りラダー操作は実質上不要だ。電波高度計に連動した合成音声が高度を読み上げてくれるので、500 ft.での巡航を維持するのも楽だ。
  26. 前方監視赤外線画像システム(EVS)のカメラを作動させた。ストロングマンが左側HUDの前にカードをかぶせ、筆者の視野から外部を遮断した。HUD上でEVS画像を低空飛行するのは容易だとわかり、夜間や曇天時の戦術飛行ミッションで有効だとわかった。
  27. カゼールに近づくと最大性能での上昇を試すべく、推力レバーをぎりぎりまで前に動かすと、40度ピッチになる。初期上昇率は7,000 fpmに達し、低い雲の層はあっという間に突破した。
  28. そ のまま230 KIASで上昇しフライトレベル310(3万1千フィート)に達したところで巡航性能をチェックすることになった。重量227,000 lb.の機体はマッハ0.68で巡航中で、燃料を一時間7,700 lb.消費する形で飛行する。ISA-5C条件での巡航速度は394 KTASだった。さらにマッハ0.72のレッドラインまで加速。燃料消費は9,100 lb./hrまで増加。巡航速度は417 KTASになった。
  29. 再び12,000-16,000 ft.まで降下し、標準的な機体操作を一通り実施したところ目を見張る結果が得られた。280 KIASで急角度バンクし、機体は3gでストレスなく急動作してくれる。FBWの飛行性能制御のおかげだ。
  30. 迎え角(AOA)を大きくした飛行でも目を見張る結果だ。フライバイワイヤは揚力による主翼の性能上の変化を検知でき、「アルファマックス」と呼ぶ最大角度のAOAもFBWの通常の動作範囲内だ。アルファマックスは失速につながるAOAの寸前にプログラムされている。
  31. ストロングマンが失速防止対策をもうひとつ見せてくれた。自動スロットルでもアルファマックスになる十分前に推力をふやし機体を保護する介入をしてくるのだ。
  32. そ こで危険低速防止機能を切り、アルファマックスでの機体性能を確かめることにした。機体重量225,000 lbでフラップを4に選択、推力レバーをアイドルにもどし、高度を維持し、減速させてみた。98 KIASでアルファマックスに達した。その時点でFBWによる低速防護機能が働き、機体制御を失う事態には至らなかった。機首を下げ推力を増した段階で回 復を迅速に行えた。
  33. パワーオンで失速を試みたところフラップ4で速度105-120 KIASで飛行可能とわかった。フラップ4はヘリコプター向け空中給油の設定。フラップ4のままで110 KIASで苦なく飛行できた。
  34. フ ライバイワイヤでエンジン不調の際にパイロット負担のほとんどを解消できることがわかった。高度13,000 ft.速度121 KIASでエンジン出力100%とした段階で第四エンジンをアイドルにしたところ、FBWがエルロン、ラダー双方へのインプットを補正して飛行バランスを 維持することが確認できた。そこで、右側の第三、第四エンジンをアイドルにし、左側エンジン二基を100%出力にしてみるとFBWが飛行バランスを維持す るのが確認できた。
  35. その後ツールーズ空港へ正常の3度のグライドパスで計器着陸システム(ILS)アプローチで14R滑走路に着陸した。フラップ4でのVREF着陸速度は機体重量222,000 lb.で120 KIASだった。
  36. 最初のアプローチでタッチアンドゴーをしてから有視界飛行追い風パターンに入った。滑走路端を通過してから3,000 ft. (空港上空2,500 ft.)とし、着陸装置を下ろし、フラップ4で高度を保ったまま148 KIAS を維持。
  37. そ の段階で出力を落とし、スピードブレーキを全開にして12度の強行着陸パターンをシミュレートした。機体は制御が楽で毎分3,000-ft.の降下は快適 に感じられた。500 ft.上空でスピードブレーキを格納し、出力を増加し、通常の3度ILSグライドパスに乗った。その時点で速度は125 KIASへ減速。タッチダウンは滑走路標識を越したすぐの地点で機首は滑走路に近づくほど下がり、推力レバーをいっぱいに戻しブレーキを強く踏んだ。機体 はおよそ1,600 ft.で停止した。練習をつめば着陸時の滑走距離はもっと短くなるだろう。
  38. 同 機のローンチカスタマーのベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルグ、スペイン、トルコ、英国にマレーシアが加わり、C-17より小さいというすきま規 模で運用される。戦略輸送機としてC-130Jに対し速度、航続距離、ペイロードですぐれているが、C-17より低い。戦術輸送機としてなら急角度で強襲 着陸する能力がある同機は西側輸送機の他機が追随できない性能を有する。簡素な空港施設でも運用が可能だ。
  39. 最 初の引渡しはフランス空軍向けでいよいよ来月に迫ってきた。フランス空軍は一号機を軍用型式証明に使う意向で、さらに2機が年末までに納入される。同時に トルコも1機を受領する。2014年には生産規模を拡大する予定だが、ヨーロッパ各国の防衛予算動向に左右される。ヨーロッパ航空安全庁による型式証明が 下りればA400Mは米国製あるいはロシア製品の導入が政治的に困難な国にとって魅力的な選択肢になる可能性がある。■

2013年6月9日日曜日

数字ばかりが踊るF-35のコスト見積もりがさらに混迷化

SAR Underscores F-35 Sustainment Cost Confusion

By Amy Butler
Source: Aviation Week & Space Technology

June 03, 2013
Credit: Lockheed Martin
Amy Butler Washington

最新のF-35関連費用報告書を見るとペンタゴンは運用維持コストならびに50年供用で総額1兆ドルといわれる総費用の削減策の内容開示で消極的な姿勢が見えてくる。
  1. 今 回刊行されたF-35に関する個別調達報告書selected acquisition report (SAR)によるとF-35運用経費の見積もり額は一年前と同程度で、現行機種を運用した場合との差額が減っているだけだ。ペンタゴン内 の費用分析部隊は現行機で運用規模が最大のF-16C/Dの飛行時間あたりコストcost per flying hour (CPFH)を膨らませて、F-16とF-35の運用コスト比較をしている。
  2. 空軍参謀総長マーク・ウェルシュ大将がいみじくも言うように空軍には同一条件でコスト比較が必要だ。プログラム担当関係者ならびに米国各軍のユーザーは単に F-35のCPFHを下げるだけでなく、ライフサイクル費用全般の引き下げ方法を模索すべきである。CPFHは整備部門の技能水準や部品・燃料価格にも左右 される。
  3. 今 回のSARではF-16C/D型とF-35A間のCPFH比較で新しい切り口「補正」“normalizing” (現行機種運用コストを上方修正)を採用。費用分析に詳しい国防関係者によると「実際の数字を操作する」のはきわめて異例であるという。F-16 C/D部隊にはこれまで数十年のデータ蓄積があり信頼できる一方、F-35の飛行実績はわずか4年間だ。
  4. 「F- 16C/Dのコストは空軍コスト分析部門Air Force Cost Analysis Agencyと共同でF-35との比較のため補正した」とSARは記述。「よりよい比較のためF-16C/DのCPFH実績値を補正し燃料費および飛行時 間をF-35Aと同じ水準にした。F-16C/Dでも燃料経費、システムズエンジニアリングマネジメント、整備コスト、その他ソフトウェア開発、情報シス テムを加算し数字が大きくなっている」としている。さらにF-16C/DとF-35では設計年次、稼動時期それぞれが異なる。F-35は自律型情報ロジス ティックスシステムAutonomic Information Logistics System (ALIS)で機体診断データ、部品補給やミッション計画立案が広範囲に可能。F-16には装備されていないので、コスト試算では同一の条件での比較は不 正確さがつきまとう。
  5. そこで現在のF-16ではCPFHは$24,899(F-35の78%相当)で昨年の試算値$22,470(F-35の70%相当)から上昇。
  6. F- 35Aを50年間供用した場合のライフサイクル費用は1.1兆ドルのままでF-35計画管理室(PEO)長だったデイヴィッド・ヴェンレット海軍中将時代 の数字と変化がない。同中将によると「保守管理費用試算結果を見て各軍トップは一様に落胆していた」のが2011年のことである。
  7. 中でも米空軍は1,763機と最大規模の調達を予定しており、CPFHをことさら重要視している。ウェルシュ参謀総長は「比較検討上の数字を調節して F-16 C/Dでおおよそ$25,000、F-35で約$32,000となった。数字はこれからも微妙に変化するだろうし、検討要素も変わるが、おおよその方向性 は見えてきた」と発言。
  8. ただし今回のSARでもF-35が高価すぎるとの懸念を抑えることはできない。
  9. ク リストファー・ボグデン空軍中将Lt. Gen. Christopher Bogdanが率いるPEOが提示したCPFHは$24,000で今のところこれが最低金額だ。ボグデン中将はこの数字をオランダ議会関係者に3月に開示 しているが、この数字はSARもフランク・ケンドール国防次官(調達担当)Frank Kendallも裏づけていない。ケンドール次官は4月にF-35のCPFHは「今年中に下がる」と発言しており「ただしボグデン中将の数字まで は下がらないと思う」としている。
  10. だ がボグデン、ケンドールいずれの数字も正確ではない。ペンタゴンのコスト計算部門はF-35のCPFHを$31,923と算出しており、この数字は昨年議 会に報告した数字から変動していない。退任前最後の定期記者会見でマイケル・ドンレイ空軍長官は「引き続き同機のコストと性能の向上に努める。各部門とは 協議を継続中」と発言しているが、空軍は整備および訓練の双方で維持管理費用を削減する手段の方向性を示せずにいる。
  11. SAR は国防長官官房の費用分析・計画評価ost Analysis and Program Evaluation (CAPE)部門の作業結果が反映されている。F-35合同計画室も独自の数字としてSARの数字より低い額を、ケンドール次官に提出する予定だが、同 室はCAPEにこの数字の採択を希望しており、次回SAR(2014年春)に反映してもらいたいとしている。なお今回の試算ではF-35の開発、調達全体 の費用は米国(2,443機購入)だけで3,910 億ドル(約38兆円)で、これも一年前と大きく変動していない。ただし設計・調達に限ると前年比1.5%圧縮されており、おもに人件費単価が下がったこと が原因と、報告書はまとめている。■

次世代軍用多用途ヘリの実証機製作に残ったAVX

AVX Aircraft Wins Place On U.S. Army’s JMR Demo

By Graham Warwick
Source: Aerospace Daily & Defense Report

aviationweek.com June 07, 2013
Credit: AVX Aircraft

AVXエアクラフトは米陸軍の共用多目的機プログラム Joint Multi-Role (JMR) で選定されていることを認めた。同プログラムは高性能回転翼機の実証を2017年に飛行させることを目指すもの。

同社はフォートワース(テキサス州)に本社を置く新興企業でJMR技術実証フェイズ1に「カテゴリー1」で費用分担交渉の当事者に選定された。ベル・ヘリコプターおよびシコルスキー/ボーイング連合も選ばれている。

カテゴリー1提案とは「受理を推奨し予算交付を可能とするもの」と陸軍の契約用語で理解されている。陸軍応用技術局Aviation Applied Technology Directorateによるとフェイズ1で213百万ドルの予算を用意している。

陸軍の思惑はフェイズ1で最低でも二機種の実証機に予算を与えることだが、民間業者の費用分担次第だという。陸軍はカテゴリー1通過各社と技術投資契約の交渉中だ。

上記以外にカテゴリー1に入札した会社があるかは不明だ。さらにカテゴリー2では予算が確保されておらず、ここでの入札企業についても不明。EADS North AmericaはJMRから撤退し、陸軍の武装空中偵察ヘリ要求に集中することにしている。

AVXの提案は230ノットの同軸ローターにダクテッドファンをつけた複合推進機で高速飛行では回転翼の負担を軽減するため小さな主翼をつけるもので、実寸比70%の飛行実証機を製造し、エンジンは既存のジェネラル・エレクトリックT700を使用する。

ベル・ヘリコプターの提案は280ノットのティルトローター機でシコルスキー/ボーイングは230ノットの同軸ローター・推進エンジン複合機でシコルスキーX2実証機をもとにしたもの。陸軍は最低でも230ノットの巡航速度が必要としている。■


新 興企業の参画は業界の進歩に頼もしい存在です。注目はV-22のティルトローター技術の応用例がもうひとつ生まれるのか、同軸ローターに推進エンジンを複 合させた新しい構想が採用されるのか、とこれからのヘリコプターの姿を決定する選択がどうなるのかということでしょうか。



AVX Aircraft社のウェブサイト www.avxaircraft.com/company では機体構造が若干変更になっている様子が伺えます。ずいぶんスタイルがよくなっていますが、当初のイラストでは格好がわるいので手を入れたのでしょうか?


2013年6月7日金曜日

ブラジル戦闘機商談はボーイングが勝者になりそう

Brazil Closer To Boeing On Jets Deal After Biden Visit

By Brian Winter/Reuters

aviationweek.com June 05, 2013 
Credit: Boeing

ブラジルがボーイングF-18選定に近づいており、開発途上国の次期戦闘機選びの中でも最注目されていた案件はジョー・バイデン副大統領U.S. Vice President Joe Bidenのブラジル訪問を契機に決着しそうだ。
  1. バイデン副大統領は5月31日ジルマ・ルソフ大統領President Dilma Rousseff 会談し、ボーイングによる高度技術移転を米議会が承認すると確約している。
  2. ボーイング案は36機合計40億ドル規模で追加発注も含めるとさらに規模が増えそうだ。これだけの規模なので米国および欧州防衛産業が受注をめぐりしのぎを削ってきたわけだ。
  3. 選定に最後まで残ったのは他にフランスのダッソーエイビエーションSAおよびスウェーデンのサーブABだった。
  4. ルソフ大統領はまだ最終決定しておらず、公表予定も不明であると同国関係者は強調。
  5. . しかし同時にルソフ大統領からバイデン副大統領へのコメントおよび直近の出来事を勘案するとボーイング有利と見られ、次回ルソフ大統領の公式訪米(10 月)以前に最終決定となる公算が大。「もしボーイング受注となればバイデン副大統領の功績は大きいと見られるでしょう」とブラジル政府筋は語る。
  6. ルソフ大統領がボーイング案で懸念しているのは米議会が安全保障を理由に技術移転にまったをかけることだ。ブラジルは対米友好関係を維持しているものの、イラン他米国と対立する国家との関係で米議会関係者に苛立ちを覚えさせている。
  7. ルソフ大統領の政治的立場は現実重視の左翼で技術移転はエンブラエル含む国内防衛産業の基盤強化にとって重要と見ており、支払う費用以上の価値があるとしている。金曜日の会談でも大統領が最初に言及した話題がジェット戦闘機購入および大統領自身が技術移転を重視している点だったという。
  8. バイデン副大統領は議会が確実に本案件を支持するとの全面的約束こそしなかったが、自身の30年にわたる上院議員としての経験から大統領の懸念材料をひとつずつ説明していたったという。
  9. バイデン副大統領は上院内民主党議員は戦略的防衛装備売却問題でオバマ大統領案に反対したことはなく、ジョン・マケイン議員率いる共和党勢力も大部分がブラジル向け販売に支持の立場を表明していると説明。
  10. 国防予算削減の中で今回のように米国企業を助ける効果の野ある商談への反対姿勢は議員間で減ってきているとも副大統領が説明している。
  11. 戦略的に難易度が高い中東のような対象国への防衛装備売却には議会が待ったをかけた例が複数あるが、平和かつ民主主義が機能しえている南アメリカのような地域では問題がないとも発言。
  12. これに対しルソフ大統領からバイデン副大統領に対しボーイング有利になる「心強い」発言に感謝する旨の発言があったという。
  13. 以上の内容について確認を求められたホワイトハウスからは「私的会話についていちいちコメントしないが、一般論として米国はボーイング入札内容を強く支援する」との関係者発言が出ている。
  14. ブ ラジルの決定にハンディとなるのは戦闘機選定が先送りにされてきたことだ。ブラジル空軍の旧式ミラージュ戦闘機の後継機えらびが始まったのは1990年代 で、ルソフ大統領の前任は2009年にダッソーを選ぶ、と公式発言している。ただし予算問題や選挙をにらんだ動向など各種の理由によりその後の政権は決断 をしてこなかった。そのため企業幹部の中にはかれこれ10年もブラジルを相手に自社の売り込みに懸命になってきた一方で半ば冗談気味にブラジルは本当は戦 闘機を購入するつもりはないのではと嘯く向きもある。
  15. にもかかわらず今後こそルソフ大統領が今年中に決定を発表すると考えら得る理由があり、ボーイングが商談をものにすると考えられる。
  16. ブラジル軍部からはミラージュの保守維持は今年以降大変困難になるとの声があり、2014年に大統領再選を狙うルソフには経済の行方が微妙な時期に大規模支出決定を公表するなら来年まで待てないはずだ。
  17. ルソフ大統領は今回の商談をブラジルの戦略的な位置づけを今後数十年にわたり決定するものと位置づけており、これをバイデン会談で繰り返し発言しているという。
  18. . シリア問題など米国の意向とは逆の発言もあるものの、ルソフ大統領は米国とのいっそう緊密な協力関係を求めており、米国からの閣僚・大物議員の繰り返し訪 問を受けたのち、オバマ大統領からの公式訪問招待を受諾した。実現するとブラジル大統領の訪米は20年間ではじめてとなる。
  19. 米国の側では2月にエンブラエルを選定し空軍向け軽攻撃機材20機の契約を交付している。ブラジルの視点ではこれはF-18購入の必要条件だった。
  20. フランスはブラジルと潜水艦建造で合意しており、戦闘機選定で外れると潜水艦技術移転でも消極的になるかもしれないと関係筋は見る。
  21. フ ランスとスウェーデンからは世界貿易機関事務局長へのブラジル候補選出に反対する動きがあると伝えら得れたが、ブラジルは「そんなこともありますが、戦闘 機選定にすべて関係してくるでしょうね。大規模支出だからこそ正しい相手を選びたいのです」との関係者発言が出ている。■   

2013年6月6日木曜日

韓国F-X選定で念頭にあるのは北朝鮮よりも日本の存在なのか

何 かと日本への対抗心が強いおとなりの韓国ですがいよいよF-X第三段階の選定が大詰めになって来ました。F-35Aが最右翼なのでしょう。しかし、日本に この地域で唯一設置されることになっている同機の保守点検施設の利用は最初から排除するだけでなく、選定にあたっての潜在敵国の一番が日本と想定している ようで、日本の国防観との温度差は想像以上のようですね。どうして同じ価値観を共有すべき隣国が仮想的国になってしまうのか理解に苦しむところです。

South Korea Nears F-X Phase 3 Decision

By Bradley Perrett
Source: Aviation Week & Space Technology

aviationweek.com June 03, 2013
Credit: Lockheed Martin
Bradley Perrett Seoul

韓国F-Xフェイズ3の選定決定をいよいよ今月に控える中、要求水準が北朝鮮対応だけを想定していると考えたら間違いと韓国政府関係者は語り、60機もの高 性能戦闘機導入の決め手は戦略的な優位性の日本、中国、ロシアに対する確保だとする。同国は脅威をこの順番で意識しているらしい。
  1. 「近 隣国が戦闘機性能を向上させる中、わが国も追随する必要があります」と政府関係者その1は語る。二番目の関係者はさらに詳しく説明する。10年前にF-X フェイズ1および2で導入したボーイングF-15K合計60 機で北朝鮮への攻撃能力は十分な水準だという。フェイズ3の真の狙いは日本がロッキード・マーティンF-35Aを導入し、中国がJ-20を開発、ロシアも スホイT-50(PAK-FA)を開発中への対抗とする。フェイズ1および2でさえ北朝鮮は問題の一部と想定されていたにすぎないという。
  2. これこそ韓国の国防調達計画庁Defense Acquisition Program Agencyが空中戦と攻撃ミッションに等しい重要性をF-Xフェイズ3に与える理由だが、北朝鮮戦闘機部隊の撃滅は難題ではない。
  3. 今 年に入り北朝鮮が繰り返す挑発姿勢がフェイズ3の優先順位を変えたか不明だが、北朝鮮が米国製候補F-35AおよびF-15SEに優位に働いたのは明らか でユーロファイター・タイフーンは劣勢が隠せない。そのポイントは韓国防衛での米国の寄与度への見返りに米国製装備導入を大規模に行うことであり、米国製 二機種に選択が絞られる。
  4. 北朝鮮が好戦的態度に出る前は米国が韓国の大きな支えであることは意識しつつ、一度は例外的に米国製以外の戦闘機を導入してもいいのではとの機運もあった。とくにユーロファイターからは広範囲の技術支援の申し出があった。
  5. た だしKF-Xの国内生産は絶対条件ではなく、F-Xフェイズ3で技術移転条件を提示した会社が落札しても実際に移転できなかったらどうなるか。これが韓国 関係者が考える機材輸入の落とし穴だ。各社とも技術提供を提示しており、とくにユーロファイターは米国政府による規制対象ではない。さらにユーロファイ ターの株主EADSからはタイフーン導入の場合は20億ドルを投資するとの申し出がある。もしEADSが落札しKF-X計画が頓挫した場合は投資義務も消 滅する。このためKF-X開発支援との約束には疑問符がつく。戦闘機国産化には価格に加え実現不可能として国内の反対も根強い。
  6. EADS は整備施設と航空宇宙ソフトウェアセンターの設置も提案している。タイフーン国内生産も可能だ。米国側からも航空産業での付随恩恵も提案されている。韓国 航空宇宙産業Korea Aerospace Industries (KAI)はさらに大きな役割を果たす可能性がある。F-35では高度な内容の生産に関与でき、同機の長期間供用を考えるとメリットも大きい。ただし韓国 軍のF-35Aは日本国内の整備施設を使わないと韓国筋が見ていることだ。ロッキード・マーティンの提示内容は日本向けと同等であるべきと韓国は主張す る。「二番目の地位をもはや甘受できない」
  7. ロッ キードからはこれと別に米空軍のT-X次期練習機提案の一部としてKAIのT-50練習機二機購入のオファーがあった模様。EADSからT-50をスペイ ン向けに20機導入する追加提案が出れば望ましいとの意見もあるがEADSのKF-X向け投資提案にはこの取引の可能性は示されていない。
  8. タ イフーンは米国製機材より対地攻撃能力で劣るが空対空能力を重視すれば競合性はたかまる。F-15SEやF-35と同様にタイフーンも韓国が重要な要素と 見るLiancourt Rocks上空のパトロール実施が可能だ。韓国と日本が領有権で対立している地点である。このことは北朝鮮以上の潜在脅威を示している。
  9. 同筋によればタイフーンは英国の第一線機材で完成形であるのに対しF-35Aは開発が未完成の機材であり、F-15SEも相当の技術開発が必要な機材である。F-15Kの技術成熟度がフェイズ1および2の選定の決め手であった。
  10. F- 15SEとF-35Aでは韓国が想定する打撃ミッション内容で優位性が左右される。北朝鮮との開戦当初では北朝鮮領土奥深くの飛行は可能性が低い。実施す るには全面的なステルス機が必要だ。むしろ優先順位は前線付近の北朝鮮地上軍の攻撃であり、とくにソウルを狙う砲兵隊の殲滅におく。韓国空軍機とくにF- Xで導入する大型戦闘機は前線に繰り返し出撃し誘導爆弾をソウル北方に投下するだろう。
  11. 推 力と爆弾誘導能力がかぎで、F-15SEが候補機種の中ではもっとも有利だ。F-35Aも対地攻撃能力があるとはいえ、供用開始当初は兵装の外部装着がで きないのが不利だ。敵地奥深く侵攻するのにはF-35Aが適しているが、韓国はドイツ・スウェーデン共同開発のトーラス Taurus空中発射巡航ミサイルを導入しており、国産の地対地巡航ミサイルや弾道ミサイルも配備している。ただしF-35Aでもあえて北朝鮮上空を飛行 させ、攻撃目標を探知させるにはまず防空網を使えなくする必要がある。
  12. 各 種想定は北朝鮮の脅威度をどこまで認識するかでF-Xフェイズ3は左右される。実は韓国は日本をより憂慮しており、F-35Aが注目される。 Liancourt Rocks付近をパトロール中のF-15SEあるいはタイフーンが航空自衛隊のF-35Aを探知できず逆に撃退されたとの報告が入るのは韓国には受容でき ないだろう。F-15では基本設計の古さもあるが、韓国は同機を2060年まで飛行させる予定。
  13. F- 35Aの難点は三機種の中で一番高価格だが空軍としては一番ほしい機種であることだ。韓国政府はF-Xフェイズ3に8.3兆ウォン(73億ドル)を予算計 上しているが、実際には10兆ウォンになりそうと関係者は見る。事実、ロッキード・マーティンは108億ドルと見積もっている。F-15SEは価格が一番 下になるのはF-15Kの支援施設を利用できるためだ。そのため同機を稼動期間20年限定で導入するのが合理性を持ってくるが、政府関係者によるとこの案 は検討もされていないという。■

2013年6月4日火曜日

ロシア製高性能ミサイルS-300がシリアに引き渡されたらどうなるか

 なかなか見えてこないシリア情勢ですが、関係各国の動きのなかでもロシアには要注意です。今回取り上げる高性能対空ミサイルは単体では機能せず、システムで考えるべきものですが、意外に大きな影響を同地域に与えそうです。その中でも現実を厳しく見つめるイスラエルの考え方には日本ももう少し注意して追いかけていく必要があるのではないでしょうか。


Potential S-300 Sale To Syria Catches Israel’s Attention

By David Eshel, Jen DiMascio
Source: Aviation Week & Space Technology

June 03, 2013
Credit: ITAR-TASS/Landov File Photo
David Eshel Tel Aviv and Jen DiMascio Washington

国際社会がシリア内戦に介入すべきかを議論する中、イスラエルはシリアがロシア製S-300ミサイルを導入し防空網を強化していることに懸念を増大させている。
  1. イスラエルにとって.シリアの防空能力増強は潜在敵国と突如開戦になった場合に危険度が上がる意味があるとイスラエル空軍アミル・エシェル少将Maj. Gen. Amir Eshelは解説する。
  2. 「アサド政権は多額の予算で防空体制を整備しています」としSA-17、SA-22、SA-24の購入に加え、以前のイスラエル空爆の教訓から状況認識能力の向上を図っているという。
  3. 先 週になりロシアの外務副大臣セルゲイ・リャブコフ Sergei Ryabkovがモスクワの記者団にロシアはS-300引渡しを決定し、外国によるシリア干渉への対抗を支援すると発言している。この声明は欧州連合が武 器禁輸を緩和し、英仏両国が武装抵抗勢力への武器供与を検討中とする中で出てきたもの。もし、S-300が導入されれば地域紛争の危険性が増大するとエ シェル少将は見ている。
  4. そもそもS-300は100 km 超の範囲で弾道ミサイルや航空機の迎撃を想定し、S-300PMU2 ファヴォリFavorit だと6発同時発射で高高度と低高度の双方で同時に目標12個と交戦が可能。このS-300PMU2には対抗できる戦闘機は存在しない。
  5. 「ロ シアがS-300をシリアに販売すると勢力図が塗り替えられるでしょうね」と見るのは戦略国際研究所Center for Strategic and International Studiesのアンソニー・コーズマンAnthony Cordesmanだ。「引渡しが実現すれば米ロ交渉は無意味になし、同じような取引がイラン向けに起こることへの警戒感を呼び、イスラエルはシリア内戦 に引きずり込まれ、米国および同盟国の航空優勢能力を下げることになるでしょう」
  6. 一見するとS-300はS-200から大きく変化ないように見えるとコーズマンは語るが、実際はS-300は低空能力を大幅に改善し、ジャミングに強く探知が困難という。
  7. ただしS-300をシステムでみると未知数が多いという。レーダーとの組み合わせはどうなのか、発信所の機能水準でも不明な点があり、シリアの防空体制全般の向上にどこまで貢献するか見えてこないという。.
  8. ま たS-300がシリア防空網に統合化するには時間がかかるのではとの見方もイスラエルにある。ロシアが現地で技術支援しないと実用化できないとする見方 だ。統合化にはシステムを熟知し使いこなすための長期間の投資として、運用のみならず整備のための施設作り、運用部隊の訓練が必要だ。シリア軍の現状から 見てそれだけの人員と予算をこのために確保できるか疑問だというのだ。さらに国内武装反乱勢力から機材を守れるかも疑わしい。
  9. 低い確率とはいえ、バシャル・アル・アサド大統領Bashar al Assad が同システムをレバノンのヒズボラ勢力に引き渡す可能性もあり、イスラエルの視点ではこれが実現したら極度に深刻な事態となり報復攻撃は必至だという。
  10. 地 政学の観点でイスラエルに直接影響が出てくる。シリアが「もし明日崩壊したら、大量の兵器が分散し、各方向から自分たちに銃口が向けられる」とエシェル少 将は見ている。「奇襲攻撃の方法は多様化しています。ひとつの事件がエスカレートして数時間で対応を準備せざるを得ない対応が想定されます。つまり、イス ラエル空軍のもつ力を総動員することになります」
  11. シリアがロケットやミサイル数千発のをイスラエルに発射する事態をイスラエルは想定している、という。
  12. 高性能兵器がヒズボラのような敵性勢力に引き渡される、あるいは化学兵器の移転はわが国にとってまったく受入れられません」
  13. シ リア軍がヒズボラと共同でシリア北西の都市アルカサイルAl-Qusayrを強襲したとの報道をイスラエル空軍は注視している。同市はシリアからレバノン への交通の要所で占拠はシリア・レバノン間の移動路を確保する戦略的勝利。高性能の防空体制があれば兵器移送の阻止攻撃は高リスクになる。
  14. イ スラエル国防軍司令官ベニー・ガンツ中将Lt. Gen. Benny Gantz は「多方面で同時に戦闘状態が発生する可能性はかなりあります」と記者会見で発言しており、「地域不安定度を考慮すれば、わが軍は多方面対応の可能性に直 面しており、国防作戦の様相を書き直すような新しい現実の中におかれています」と発言している。■