2015年5月13日水曜日

★LRS-BあらためB-3はこんな機体になる



LRS-BはB-3と呼ばれるようです。B-3に期待される役割は今までの爆撃機から相当の乖離があるようです。-Bでない機体も早く見たいですね。

What The B-3 Bomber Should Be

By ROBBIN LAIRD on May 12, 2015 at 10:08 AM


Northrop Grumman Long Range Strike Bomber concept LRSBノースロップ・グラマンのLRS-B構想図 
米空軍には前身の陸軍航空隊時代から爆撃機運用で長い実績がある。B-17空の要塞は誕生時こそ物議を呼んだが、ヨーロッパ大陸がナチ・ドイツに占領されると真価を発揮した。
  1. だがB-17への道は平坦でなかった。戦前には戦闘機パイロットと爆撃機支持派の意見が対立し優劣を争った。爆撃機は残ったが、代償も大きかった。B-17は護衛なしでナチ占領地へ飛び、搭乗員多数が死亡した。その後長距離護衛戦闘機が投入されると爆撃機と協調して戦った。
  2. 太平洋戦線に投入さたB-29はは冷戦時代各機種の先駆けとなり、B-52が登場する。空軍爆撃機は「戦略」機材として核三本柱の中核になった。ベトナム戦争では通常型戦闘で効果を発揮し、大量爆弾投下能力が高く評価された。
  3. B-52は今日でも現役だが、B-1とB-2が加わり、B-52が登場した時代では想像もつかない用途に投入されている。現在の爆撃機は近接航空支援含む戦術用途に使用され、精密誘導爆弾やセンサー類により正確に目標に投下できる。
  4. これから登場する長距離打撃爆撃機はB-3と呼称され、戦術・戦略爆撃の定義が変わる時代に生まれる機体となる。
lockheed boeing long range strike bomberボーイング=ロッキードのLRSB構想図
  1. 新型爆撃機には飛躍的な新性能機ではなくB-2の技術を流用するが、単なるB-2後継機ではない。それはオスプレイがCH-46ヘリコプターの後継機種ではないのと同じだ。
  2. B-3はボーイング=ロッキード共同事業あるいはノースロップ・グラマンのいずれかが生産することになるが、空の戦闘で革命的な変化が進むさなかで実戦化される。航空戦力は21世紀のすべての戦場で効果の実現手段となっている。F-35が各国に導入されれば、空軍力の再定義につながり、攻撃・防御をともに効果的に実施する体制が米国及び同盟国で成立し、広範囲の脅威に対応できる。
  3. 最新機はF-35のように情報ネットワークを形成し、単機も全体の一部として運用可能となり、攻撃と防御を同時に実施できる。これが可能となったのはC5ISR(指揮・統制、通信、情報処理、戦闘システム、情報収集監視偵察機能)によるところが大である。
  4. B-3は単に爆弾搭載量を増やし、長距離を飛び戦略ミッションをこなすだけの機体ではない。同機は航空戦闘部隊の効果を増幅する機体だ。航続距離とペイロードは基本性能として重要だが同時に新設計のステルスが効果を上げる。だがそれはまだ基礎部分に過ぎない。
    1. 第一に爆撃機には米国及び同盟国のF-35、無人機、その他ISR機材からのセンサー情報を活用する。第二にC2システムを搭載し戦闘中の各機に個別情報を提供する
    2. 第三に前方に投入される各機の戦闘管理を提供する
    3. 四番目に武器の進歩が加速化しており、各種兵装が多様な機種で利用可能となる。そこでB-3にはセンサー応用の攻撃能力も加えるが、必ずしも戦闘の第一陣に加わる必要はなく、最重要な機材ではなくても中核機材になるのは確かだ。.
    4. 第五にB-3は核兵器運搬用途以外に抑止機能を実現する。たとえば北朝鮮が核ミサイルを発射する前に時間的に効果のある攻撃を行う。
  5. 言い換えればB-3は航空戦力の新定義の一部となり、前方に配備するF-35の効果を引き上げる存在になる。また目標情報を提供し、センサーつき兵装を大量に投下し、核兵器の運用を夢見る新興国家に対する抑止手段となる。
  6. こうしてみるとB-17との共通点はほとんどなく、B-52に近いが、B-2ほどの強力な戦略機材ではない。長距離飛行し高い効果を実現させる。共同作戦や連合空軍部隊で利用されるだろう。
  7. 第五世代戦闘機やミサイル防衛体制が目標を探知すると、B-3が統合航空作戦の調整・統合機能を発揮できる。つまり同機のセンサー類、C2情報管理機能が不可欠になる。
  8. 攻撃・防御一体体制で中心となるのはS3革命である。つまり、センサー、ステルス、スピードの三要素により敵探知、破壊、対応を効果的に多数の脅威対象を相手に行うことだ。
  9. 航空部隊の中心となるB-3により米国は中国に対し優勢な立場を固める。戦闘情報管理機能を有する同機はこれまでなかった存在となる。同盟国と相互運用リンクでむすばれ、米本土や沿海部に展開する米軍部隊も情報を共有できる。米軍は同盟各国と共同作戦を高度な接続状態で実施する必要がある。B-3は必要なときに投入され同盟軍の戦力を増強する存在になる。
  10. 同機により21世紀の米国及び同盟国の空軍力を大きく向上させることが期待される。
筆者ロビン・レアードは国防コンサルタントでBreaking Defense 寄稿者のひとり。自身でSecond Life of Defenseウェブサイトを主宰。


2015年5月12日火曜日

★中国の武器輸出の動向は要注意



中国がどんどん武器輸出を伸ばしています。しかも相手国は西側が相手にできない国も含まれています。さらに価格が安いためこれではまるでダンピングで各国の軍拡を後押しするようなものですね。米海軍協会があまり知られていない中国の武器輸出の実態をまとめてくれましたので見てみましょう。

A Look at China’s Growing International Arms Trade

By: Kyle Mizokami
May 7, 2015 9:42 AM

ロシアが中国人民解放軍海軍PLANのタイプ054Aフリゲート艦の購入を検討中だ。一年前には考えられない事態だが、中国の軍事産業が西側の武器禁輸を尻目にどこまで伸長しているかを象徴している。

  1. 国内軍需産業を育成してきた中国の努力が実を結ぼうとしている。中国製艦船、航空機、レーダー、ミサイルが求めやすい価格で西側各国の製品の代わりに購入されている。中国製品の水準は西側より劣るものの、とにかく安いので大量に購入でき、納期が短く、政治的にも面倒がない。
  2. 1980年代はじめに中国は政治、経済両面で世界に開放した。短期間ながら中国の防衛産業は西側と相当の協力を展開したのは人民解放軍への装備が大需要と見られたためだった。
  3. ところが天安門事件(1989年)の惨劇で禁輸措置がとられ協力ブームは終わる。中国は産業基盤を自国で整備し解放軍の装備を供給せざるを得なくなった。このため、中国は相当の力を投入して西側装備品の改修や、諜報活動を西側防衛産業に向け展開し、ロシア製技術を改良し、新世代装備品を開発するなどポスト天安門時代を模索してきた。
  4. ストックホルム国際平和研究所によれば中国の武器輸出はこの5年で143%の増加している。今や中国は軍事輸出で米国、ロシアに次ぐ世界三番目だ。
  5. 安価だが高技術の中国製兵器が拡散普及すると西側は問題視するだろう。とくに英米両国が課題に直面する。高性能艦艇、ミサイルや航空機がアルゼンチンに輸出されると英国はフォークランド諸島の防衛対策で見直しを迫られそうだ。以下各国別に展望する。

アルジェリア

A Chinese-built Algerian corvette. Photo via mil.huanqiu.com
中国製のアルジェリア海軍コルベット艦 Photo via mil.huanqiu.com

  1. アルジェリアは2012年に中国へC-28Aコルベット艦三隻を発注した。パキスタン向けに製造したP-22ズルフィクア型フリゲートの船型をもとに上海の浦東中華造船Hudong Zhonghua が建造した。
  2. C-28A級は全長123メートル排水量2,800トンで武装はNJ-16 76ミリ複合多用途砲1門、C-802 対空ミサイル4基、FM-90N防空装備8基でHQ-7対空ミサイルを発射できる。タイプ730B近接防空システム2基、対潜魚雷発射装置6基、対ミサイル囮発射装置も備える。
  3. C-28A級も飛行甲板と格納庫を備える。中国建造の艦艇設計と異なり、アルジェリア向けコルベットにはタレス製レーダーを搭載し、指揮命令通信機能もタレス製にする。
  4. 一号艦は2014年8月に進水しており、今月にアルジェリアに引き渡す予定。さらに3隻を商談中。

アルゼンチン

A Chinese Type 056 corvette
タイプ056コルベット艦 

  1. マルビナス級はP-18輸出仕様フリゲート艦の派生型であり、もともとはタイプ056コルベット艦である。PLAN仕様のタイプ056は排水量1,400トン、H/PJ-26 76mm複合用途砲1基、AJK-10対空ミサイル発射機1にHQ-10ミサイル8発を搭載、YJ-83対艦ミサイル4発、30mm遠隔操作機関砲2基、324mm三連装対潜魚雷発射装置2基を積む。ヘリコプター発着甲板があるが、格納庫はない。曳航式ソナーアレイも追加装備している。
  2. P-18(排水量1,800トン)は中国船舶重工集団China Shipbuilding Industry Corporationが建造し、タイプ056よりわずかに大きい。マルビナス級の模型にはヘリコプター格納庫があり、ブラジルのウェブサイトNaval Powerは「アルゼンチンは機体重量10トンのシーキングヘリコプター運用のため飛行甲板の大型化を求めている。曳航式ソナーも利用し対潜能力を強化する」と伝えている。
  3. またアルゼンチンは中国製戦闘機の導入を検討中と伝えられている。数十年間放置した戦闘機部隊は劣化が進み、稼働可能な機体はミラージュ20機以下だという。アルゼンチンが検討しているのはFC-1 梟龍 および J-10 猛龍だ。
  4. このうちFC-1はパキスタンとの共同開発(パキスタン型式名はJF-17)で2004年に初飛行している。RD-93ターボファン一基を搭載し最高速度はマッハ1.6、戦闘行動半径は1,350キロ(840マイル)と言われる。
  5. FC-1の武装にはGSh-23-2機関砲を内蔵し、武装搭載用のハードポイントは7箇所ある。短距離対空ミサイルのPL-5、-7,-8,-9を搭載できる他、中距離対空ミサイルPL-12も運用できる。C-902対艦ミサイル2発を搭載し、対レーダーミサイル2発、誘導(非誘導)爆弾を2トンまで運用する。
  6. これに対してJ-10はJF-17より大型かつ高性能戦闘機で、ロシア製AL-3FNエンジン一基で推力は50%増えるが、戦闘行動半径は 1,000キロと逆に短い。エイビオニクスはJF-17よりすぐれ、高性能電子スキャン式アレイ(AESA)レーダーを搭載。J-10もGsh-23機関砲を内部に搭載し、ハードポイント11箇所で空対空あるいは空対地兵器を装着できる。

バングラデシュ

Durjoy-class patrol boat. Photo via Wikipedia
Durjoy-class patrol boat. Photo via Wikipedia
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  1. バングラデシュは艦艇近代化に乗り出しており、中国から6隻を2009年以降に導入し、潜水艦購入の商談も進行中。
  2. 2012年にバングラデシュは中古フリゲート艦2隻を中国から購入した。ソ連時代のリガ級をもとにしたタイプ053H2で、37mm機関砲2門、100mm連装砲2門、YJ-81対艦ミサイル4発と対潜水艦ロケット発射機を備える。現代の水準ではぎりぎりの線だが両艦は巡視任務についており、バングラデシュ海軍の示威的存在だ。
  3. また少なくとも2隻のShadhinota(「独立」)級コルベットも中国から購入している。発注は2012年で今年1月に二隻が引き渡された。このコルベットもマルビナス級と同様にH/P-26 76mm 複合用途砲1門、30mm遠隔操作機関砲2門、FL-3000N港湾防衛用ミサイルいシステム一基、C-803対艦ミサイルを搭載する。またタイプ730近接防衛システムやタイプ3200対潜ロケット発射機2門を搭載しているようだ。ヘリコプター発着甲板はあるが格納庫はない。
  4. さらにバングラデシュはダージョイ級警備艇2隻を購入している。武昌船舶重工Wuchang Shipyardが建造し、タイプ056に類似しているが長さは211フィートで排水量は650トンと小さい。沿岸警備用途に特化した設計で、対艦および対潜能力はほどほどだが2013年に2隻とも引き渡された。
  5. 中国とバングラデシュは2013年に総額240百万ドルで、タイプ035G改良型明級ディーゼル潜水艦2隻の売却を発表した。中古セ販売で以前はPLAN南海艦隊所属だったようだ。支払いは2018年で納入は2019年になる。
  6. 同艦の排水量は浮上時1,584トンで航続距離8,000マイルで、533mm魚雷発射管8門に魚雷18本を搭載する。バングラデシュの国防ウェブサイトでは同艦を改装してC-802あるいはC-803対艦ミサイルを搭載するとしている。
  7. バングラデシュ空軍も南昌 Hongdu K-8ジェット練習機9機を調達している。これはF-7BGI多用途戦闘機16機の導入に備えるものだ。F-7BGIは旧型F-7にない視認距離外での交戦能力があり、精密誘導爆弾も運用できる。

ミャンマー

A Chinese built Type 53H frigate. DoD Photo
タイプ53Hフリゲート艦  DoD Photo

  1. ミャンマー海軍は旧PLAN所属のタイプ053Hフリゲート艦2隻を2012年に受領している。排水量1,700トンで対水上戦に特化しており、100mm砲2門、37mm砲4門、対潜ロケット発射機2基等を搭載する。

ナイジェリア

An undated photo of a F-7Ni.
An undated photo of a F-7Ni.

  1. ナイジェリアはP-18輸出仕様コルベット艦2隻を発注しており、中国船舶重工集団が2012年に受注した。一号艦NNSセンテナリは今年2月に納入されている。二号艦は中国船舶重工が支援してナイジェリア海軍工廠が建造する。
  2. ナイジェリアのコルベット艦の戦闘行動半径は時速14ノットで3,000カイリで、通常のP-18より武装が軽い。H/PJ-26 76mm複合砲1門、30mm遠隔操作機関砲2門、20mm機関銃2門に減らされている。対潜兵器はソナー含め搭載されていない。
  3. ナイジェリア空軍は2008年にF-7NI防空戦闘機12機、FT-7NI練習機3機を受領しており、旧式MiG-21の代替とした。総額252百万ドルで、機体220百万ドル、弾薬類32百万ドルだった。

パキスタン

An undated photo of a JF-17, jointly built between China and Pakistan
中国とパキスタンが共同開発したJF-17 


  1. 習近平主席が先月パキスタンを公式訪問したのを受け、中国からタイプ039B/041元級潜水艦8隻の売却が発表された。総額20億から40億ドルになり、引渡し時期は発表されていない。
  2. 米海軍協会の『世界の戦闘艦艇』によればタイプ041は排水量3,600トンのディーゼル電気推進攻撃型潜水艦で大気非依存型推進装置(AIP).を搭載する。元級はロシアのキロ級に酷似している。元級はYJ-82対艦巡航ミサイル、Yu-4パッシブホーミング魚雷、Yu-8アクティブパッシブ両用ホーミング魚雷を搭載する。PLANで12隻が稼働中と見られ、最終的には20隻まで増強されるとある。.
  3. 元級が配備されるとパキスタン潜水艦部隊は相当の戦力アップになる。現在はアゴスタ70型2隻とアゴスタ90型3隻が在籍中で、アゴスタ90型は艦齢20年未満でAIPも搭載するが、70型2隻は老朽化している。
  4. 8隻の潜水艦の総額は不明だが、Jane’sは退役パキスタン陸軍将官が「5億ドル未満だろう」と発言しているのを引用。Defense Newsはパキスタン国防関係者がより求めやすい250から325百万ドルになると発言しているのを聞いている。参考までにベトナムはロシアから改良型キロ/タイプ636 1潜水艦6隻を総額18億ドルで購入している。
  5. パキスタンが新型潜水艦の導入に向かうはインドが戦略核抑止戦力を整備しているのが理由だろう。インド初の戦略弾道ミサイル潜水艦アンハントは海上公試を2014年12月に開始し、同型艦4隻が2023年までに整備されると見られる。
  6. またパキスタン空軍がJF-17戦闘機110機を中国から受領するとの発表があった。中国パキスタン共同事業のJF-17はパキスタンで生産中だが、現地メーカーでは短期に多数の機体を生産できなす、中国から納入されることになった。

タイ

Chinese Yuan-class submarine
元級潜水艦

  1. 2014年の軍事クーデターでタイは民主制各国との関係が悪化した。その機会を利用した中国が関係改善に成功し、タイへの軍事装備品販売を提示した。
  2. タイ海軍は長い間潜水艦の導入を希望しており、16百万ドルで潜水艦司令部を先に作っている。総額10億ドルで通常型潜水艦1ないし3隻の調達を希望しているといわれる。
  3. 国営の中国船舶重工集団はS-26Tをタイ向け潜水艦案として提示しており、元級を輸出仕様として「タイ海軍向けに設計した」と称している。

ヴェネズエラ

A Chinese-built K-8 jet trainer at the Zhuzhai Airshow in 2010. Photo via Wikipedia
中国製K-8ジェット練習機 Photo via Wikipedia


  1. ヴェネズエラの政治姿勢により従来の調達先スペインや米国からの導入は考えにくい。中国は同国と関係を強化し、ベネズエラ海軍に販売の商機を見出した。
  2. ヴェネズエラ海軍の潜水艦部隊は老朽化しており、交代が必要だ。タイプ209潜水艦2隻は1970年代製で高性能な元級が後継艦になる。また6隻あるマンスカル・スクレ級フリゲート艦もP-18で置き換える事が可能だ。.
  3. また対潜ヘリコプターとしてZ-9が9機ハルビン航空製造へ発注されており、1号機の引き渡しは2015年の予定だ。
  4. また36機のK-8ジェット練習機を総額82百万ドルで36機発注している。K-8は機体外部にガンポッドや1,000kgまでの空対地ロケット弾や非誘導式爆弾あるいは赤外線誘導方式の空対空みさいるを搭載できる。
  5. これとは別に24機の南昌L-15高等練習機も発注している。L-15のエンジンはアフターバーナー使用が可能で超音速で飛行できる。3トンまでとK-8より大きなペイロードが搭載できる。引き渡し予定は公表されていない。■


2015年5月11日月曜日

日比共同海軍演習の実施が迫る 海上自衛隊からは発表なし


新ガイドラインの想定する日本の作戦の延長線に南シナ海での海上自衛隊によるパトロールもありますが、今回のフィリピン演習がこの構想にどうつながっていくのか興味津々というところですね。中国は黙っていないでしょう。

Philippines, Japan To Hold Joint Naval Exercise In S. China Sea

Agence France-Presse 12:54 p.m. EDT May 10, 2015
MANILA, Philippines — フィリピン海軍トップが日本と共同海軍演習を南シナ海で実施すると5月10日発表したが、中国による同海域内での埋立工事とは無関係と強調している。
  1. 海上自衛隊から2隻、フィリピン海軍は1隻を派遣し、今月中に艦船がフィリピンに寄港するとジーザス・ミラン海軍中将Vice Adm. Jesus Millanが述べた。
  2. 「海上自衛隊は定期的にフィリピンへ寄港しており、その機会に海上衝突回避演習を実施したい」
  3. 演習場所は旧米海軍のスービック基地の外側海域だという。
  4. 訓練シナリオでは海上自衛隊艦船がスービックを出発し、フィリピン艦艇が同地に向かう。
  5. ミラン中将によれば日比演習は中国と領有権をめぐり紛糾していることとは無関係とする。
  6. フィリピンは同盟各国との防衛面での連携を強めつつあり、領土問題での中国の高圧的な態度を問題視している。
  7. 資源に恵まれた同海域はブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、台湾も領有をめぐり見解が対立している。
  8. ミラン中将は海上自衛隊との演習で装備が貧弱で域内でも最弱といわれるフィリピン軍の近代化にはずみがつくことを期待している。
  9. 中国と日本は東シナ海で尖閣諸島をめぐり対立があり、同諸島付近では両国の艦船や航空機のにらみ合いが常態化している。
  10. 今月はじめには日比の沿岸警備隊が海賊対策演習をフィリピンで実施している。コレも第二次大戦後初の出来事だ。
  11. 米政府関係者によれば急速に作成中の中国が人工島嶼は延べ面積800ヘクタールで直近5ヶ月で工事は75%が完成している。
  12. 米国の観察では中国の工事は浚渫からインフラ建設段階に移行しており、港湾設備、通信監視機能、補給兵站の各設備のほか、すくなくとも一箇所の滑走路が含まれているという。
  13. フィリピン側は中国のエスカレートする進展はフィリピン航空機を海域上空から締め出す意図があり、危険な対立につながりかねないと懸念している。
  14. 日本は国際法による解決を求めつつ、フィリピン艦艇の近代化では援助を約束している。■

北朝鮮の潜水艦発射ミサイル実験は本物か



週末に気になるニュースが入ってきました。北朝鮮が言っているような弾道ミサイルの水中発射の事実は確認されていませんが、本当なら大変なことです。ひきつづき注視していく必要がありますね。国連制裁や日本独自の制裁など関係ないのですね。

N. Korea Test-fires Submarine-launched Ballistic Missile

Agence France-Presse12:45 p.m. EDT May 10, 2015

NKOREA-MILITARY-MISSILE-TEST(Photo: AFP)
SEOUL, South Korea — 北朝鮮が5月9日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験に成功したと発表した。生存性の高い核第二撃能力につながる技術である。
  1. 最高指導者の金正恩 Kim Jong-Unが試射を自ら査察し、「世界級の戦略兵器」だと新開発ミサイルを評したと国営通信社朝鮮通信KCNAが伝えている。
  2. ただし今回のSLBMテストは確認されていない。SLBM試射は北朝鮮に弾道ミサイル技術の使用を禁じた国連制裁に違反する。
  3. SLBM技術を実用化した場合は北朝鮮の核脅威は新段階に移り、朝鮮半島から遠隔地への攻撃能力や、核攻撃を受けた際の報復力となる。
  4. 今年早々の衛星画像によれば北朝鮮潜水艦の司令塔に二発の垂直発射管が米分析で確認されている。弾道ミサイルあるいは巡航ミサイル運用の想定だ。
  5. 北朝鮮の潜水艦部隊で一部の艦に水中発射型ミサイルを搭載する試験を行っていると以前から見られていた。
  6. 韓国国防省は昨年9月に情報分析結果から北朝鮮が潜水艦用垂直発射管を開発中と発表があり、ゴルフ級潜水艦(排水量3,000トン)を改装し中距離弾道ミサイルの運用をねらっているとしていた。
  7. ジョンズ・ホプキンズ大の米韓研究所も同様の分析結果が出したがSLBM技術には非常に高額な予算が必要で、開発に「数ヶ年」が必要としていた。
  8. 「北朝鮮が言うとおりなら、予測よりはるかに早く実現したことになる」と国際危機研究所International Crisis Group (ソウル)の朝鮮専門家ダン・ピンクストンDan Pinkstonは言う。「SLBM能力が整備されると北朝鮮の報復能力の信頼度が高まりますが、海外情報分析を待ちたいと思います」.
  9. 上記朝鮮通信によれば潜水艦は発射深度から発射命令を待ってミサイル発射をしたという。ミサイルは空中に飛んだと通信社は伝える。
  10. 報道ではミサイルの大きさ、射程距離を伝えないばかりか、発射地点、発射時間も不明だ。
  11. ミサイル側面の赤字は"bukgeungsong"と書いてあるようで「北星」あるいは「北極星」(ポラリス)の意味だ。
  12. ただし北朝鮮は軍事関連画像を改ざんすることがあり、今回の配信写真も真偽を直ちに確認できない。
  13. 今回のテストは2012年の人工衛星打ち上げと同等の「おおいなる成功」だと金正恩が述べている。衛星打ち上げは弾道ミサイルテストの偽装だと国際社会から非難され、国連による制裁強化につながった。
  14. 北朝鮮が弾道ミサイル開発を進めているのは疑いはないが、どこまで開発が進んでいるかで専門家の意見は二分化されている。
  15. 再突入技術の実験は行っていないが大陸間弾道弾で必要となる技術だ。核弾頭の小型化技術でも意見がわかれている。■


2015年5月10日日曜日

★エアバス>A400Mがスペインで墜落



事故原因の究明が望まれます。トラブルが続くA400M開発がこれでまた遅れるのでしょうか。それにしても新造機が初飛行で墜落するというのは製造上の問題があったのではないでしょうか。
追記 事故は離陸直後に発生しています。ターミナル4を参照してください。

Airbus A400M Crashes During Test Flight

May 9, 2015 Tony Osborne | Aerospace Daily & Defense Report
Tony Osborne

5月9日エアバスA400M軍事輸送機がスペインで完成後の初飛行時に墜落し、搭乗していたテスト要員が死亡した。
  1. A400Mで初の死亡事故となった。同機はセビリアのサンパブロ空港(同機の最終組立工場に隣接)を離陸し、空港近隣の工場地帯付近に墜落した。現地時間午後1時の出来事だった。
  2. エアバスは搭乗6名のうち2名は救助され病院へ緊急搬送されたと確認した。重症であるといわれる。乗員はスペイン国籍のエアバス・ディフェンスアンドスペース社員。
  3. エアバス・ディフェンスアンドスペースによれば事故機MSN23はトルコ空軍向けの機体で来月に納入予定だった。同機は地上テストを終了し、初の飛行テストのため離陸したもの。
  4. 英国防省からは保有するA400M2機の運行を直ちに停止し、事故原因の究明を待つとの声明がでている。
  5. A400Mでは戦術運用能力の開発が遅れる中で全体日程を再編成するさなかで今回の事故が発生したためエアバス・ディフェンスアンドスペースには微妙な問題になっている。

(参考) Airbus Military A400M Fast Facts
Type : Cargo/Transport/Refueling
Crew : 2+1
Wing Span (Feet) : 139.1
Maximum Length (Feet) : 148
Maximum Height (Feet) : 48.3
Wing Area (Square Feet) : 2,384
Empty Weight (Pounds) : 169,000
Gross Weight (Pounds) : 300,900
Powerplant Number, Make & Model : 4 X TP-400-D6 turboprop/11,000 shp. Performance Typical for Primary Mission : M 0.7
Loading Typical for Primary Mission : 81,500 lb. cargo or 90,000 lb. transferable fuel
Source: Aviation Week Intelligence Network


2015年5月9日土曜日

★An-178輸送機が初飛行に成功



C-2輸送機の開発が遅れる間にアントノフからこんな機体が登場しました。ロシアとの関係が険悪なウクライナの同社はどこにこの機体を売り込むつもりなのでしょうか。

Antonov begins An-178 flight trials

Gareth Jennings, London - IHS Jane's Defence Weekly
07 May 2015


アントノフAn-178新型輸送機が5月7日に初飛行に成功し飛行テストを開始した。同機開発の発表から5年が経過している。
初飛行はキエフ-アントノフ空港(ゴストメル)(ウクライナ)を離陸しおよそ1時間滞空した。詳細は公表されていない。また今後の飛行テスト予定、量産計画、軍への納入でも情報はない。
An-178は双発ジェット機でAn-12「カブ」、An-26「カール」、An-32「クライン」各機の後継機種となる。An-178はAn-158リージョナルジェット旅客機に後部貨物扉をつけた構造で、機体前部、操縦席、前脚が共通になっている。.
IHS Jane's All The World AircraftによればAN-178の貨物室はランプ含み16.65m全長、貨物室床の全幅が2.745mで面積は40 m²、容積は125 m³ で、翼幅が28.84mで全長32.95m、全高10.14m。
ペイロードは最大18トンで貨物満載時の航続距離は1,000 km、巡航速度は445ノット。運用には2,500 m滑走路が必要だ。


中国フリゲート艦が黒海へ入る>ロシアへの販売が目的?


ロシア海軍艦艇の建造ペースが遅いことは知っていましたが、ここまで深刻なのでしょうか。また中ロの海軍艦艇でも装備品は相互運用ができる共通項が多いのでしょうか。考え方の違う艦艇を艦隊に導入することでロシア海軍が却って困る事態にならないのでしょうか。夫、ちょっと気が早すぎました。まだ中国艦艇を正式にロシアが導入すると決めたわけではありませんでした。中国のねらいはロシアへの売却よりも他の途上国への販売促進にあるのでしょうね。

Two Chinese Warships Enter Black Sea, Reports Link Visit to Possible Chinese Frigate Sale to Russia

By: Sam LaGrone
May 5, 2015 1:38 PM

Chinese frigate 547 Linyi passing through Bosphorus on May 4, 2015. Photo by Nurderen Özbek via Bosphorus Naval News
中国のフリゲート艦Liny i臨沂がボスポラス海峡を5月4日に通過し黒海に入った。
Photo by Nurderen Özbek via Bosphorus Naval News

人民解放軍海軍(PLAN)の誘導ミサイルフリゲート艦2隻が5月4日に黒海に入った。USNI Newsがボスポラス海峡を通過する両艦の画像を入手した。

  1. 二隻の目的地はノボロシスクで習近平 Xi Jinping 主席が第二次大戦ヨーロッパ戦勝記念式典でモスクワ入りする前に到着するとロシア国営通信が報じている。
  2. 二艦はタイプ54AJiangkai II 江凱II型フリゲート艦(各4,000トン)のLinyi臨沂とWeifang濰坊でロシアとの初の地中海共同訓練に5月に参加すると発表があったばかりだ。
  3. 江凱II型フリゲート艦はともに北方艦隊所属でこれに艦隊給油艦が海賊対策についているアデン湾から派遣される。
  4. これとは別に台湾紙China Timesは艦艇派遣には江凱II型の売り込みを狙う意図があるとロシアの国防専門家アレキサンダー・モヅゴヴォイAlexander Mozgovoy の解説を引用している。
Chinese frigate Weifang crossing into the Black Sea on May 4, 2015. Photo by Nurderen Özbek via Bosphorus Naval News
中国フリゲート艦Weifang 濰坊が黒海に入ろうとしている。5月4日 Photo by Nurderen Özbek via Bosphorus Naval News

  1. モズゴヴォイの解説では江凱II型の購入はロシアでフリゲート艦の老朽化が進む中で国産のセルゲイ・ゴルシコフ(プロジェクト22350、排水量4,500トン)が実戦化するまでのつなぎの意味があるという。
  2. 中国にとってはロシアから受注を取れれば、武器輸出に弾みがつく。中国はフリゲート三隻をアルジェリアへ、ミサイル防空システムをトルコへ、無人航空機をアフリカへ販売するのに成功しているとストックホルム国際平和研究所がまとめている。
  3. 潜水艦建造ではロシアは米国に次ぐ実力があるとみられるが、水上艦の建造能力は冷戦終結後に大きく低下している。.
  4. 例としてセルゲイ・ゴルシコフ級一号艦の就役では建造開始から足掛け7年をかけている。
  5. 海軍専門家エリック・ワーサイムは中国製艦船の購入はロシアが自国の建造能力の不足を認めることになると指摘する。
  6. 「ロシアの建艦能力が話題になるだろう。小国海軍でも自国で建造できる国がある。誘導ミサイルフリゲートでも例がある」と指摘するワーサイム(米海軍協会編世界の戦闘艦船の著者)は「導入が実現すればロシア造船産業の面目がつぶれる事態だ」と言い切る。■

2015年5月8日金曜日

★レーザーやレイルガンでソウル防衛は可能か?



「韓国へのTHAADミサイル配備」の続編です。考察を加えれば加えるほどミサイル防衛は完全ではない、であれば積極的な攻撃で数を減らしてしまえ、という展開です。やはり防衛だけでは勝てない、ということでしょうか。北朝鮮にとっては一番怖いのは先制攻撃を受けることではないでしょうか。とはいうものの、北朝鮮の攻撃で韓国、日本の一部都市部が消滅することが起こらないように祈るしかありません。そもそもそんな攻撃をすることで北朝鮮にとっても何も得になりませんが、軍事論理の世界ではやはり考えておくべき想定なのでしょうね。

Save Our Seoul: Can Lasers & Rail Guns Protect Korea?


By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on May 07, 2015 at 12:33 PM
Experimental Navy laser海軍のレーザー試験装置
WASHINGTON:  ミサイルが1,000発を阻止できるだろうか。現時点のミサイル防衛では不可能。今の想定は不良国家の小規模発射に対応すること。だが中国の第二砲兵隊ミサイル部隊はともかく、北朝鮮でさえ大量のミサイルを発射して迎撃ミサイルを圧倒できる。
  1. このため軍、産業界、学界で阻止方法の確立に懸命になっている。レーザーのように弾薬切れのない兵器もあるが、北朝鮮の脅威は新兵器にとっても高難易度の対象だ。
  2. 北朝鮮はまだ米西海岸攻撃はできないが、弾道ミサイルはすでに1,000発近く確保しており、韓国や日本各地が攻撃射程に入る。大部分は通常弾頭だが、専門家の多くが北朝鮮はすでに核弾頭の搭載が「技術的に可能」と見ていると核問題交渉にあたってきたジョエル・ウィット Joel Wit が述べている。
  3. 核搭載ミサイルはたくさん飛来するミサイルの一部かもしれないが、瞬時に区別できず数に限りがある迎撃ミサイルを振り向けていいか判断できない。いってみれば高性能爆発物のわらの山の中から核の針をさがすようなものだ。さらに財政が苦しい北朝鮮にとって経済的な理由もある。通常弾頭付きスカッド・ミサイルの生産コストは迎撃ミサイルよりはるかに安価だ。ではレーザーやレイルガンのような新技術でこの状況を打破できるだろうか。
Navy rail gun test海軍のレイルガン試験風景
  1. 専門家の半数は可能と見る。ただし、ある程度までであり、正しい戦術を使った場合に限る。
  2. 「指向性エネルギー兵器には大きな可能性がありますが、まだ構想段階です」と語るのはペンタゴンで戦略を練ってきたヴァン・ジャクソンVan Jackson だ。ウィットともに38 Northの報道陣向け朝食会で講演した。
  3. 「長期的には有望な技術になる」と Aerospace Corporation のジョン・シリング John Schiling  も同意する。(Aerospace Corporationは全米有数の安全保障関連宇宙技術者や情報部門経験者多数が勤務する国の宝のような組織である) 「米国は新技術を近距離戦術用に投入しようとしており、レーザー兵器で海軍艦艇の防御や短距離ロケット弾の迎撃を想定しています」 これでは韓国の都市部を防衛するには範囲が小さい。「北朝鮮の戦略級ミサイルへの対向手段はなにも開発していないのが現状です」
  4. なぜレーザーやレイルガンが近距離でしか有効な兵器にならないのか。ペンタゴンの予算方針だけが理由ではない。中心は物理法則だ。
  5. レーザーの根本的な問題は光線であることだ。光は直線移動する。目視できれば全てに命中するが、見えなければ不可能。反対にミサイルや砲弾は弧を描き水平線を長距離移動するので、見えない目標だといえる。(レーザー光線の方向を変更できるのは高性能ミラーを正しく配置した場合か、太陽と同等の強い重力場だけで、両方とも戦場での利用は期待できない) 巡航ミサイルのように低高度で飛行する目標は10マイルほどに接近するまで水平線に隠れるが、地形やレーザー発射台をどこまで高くできるかでこれは変わる。したがってレーザー兵器には物理的な成約がついてまわり、広範囲の防御は不可能だ。
  6. さらにレーザーの破壊効果は高熱で実現するが、巡航ミサイルや戦術弾道ミサイルの破壊には300ないし500キロワット級のレーザーが必要で、完成はまだ数年かかる。長距離弾道ミサイルの場合は宇宙空間から大気圏に突入するため弾頭部分は再突入時の高熱に耐える設計なのでレーザー光線の強度などへのかっぱなのだ。
  7. ではレイルガンはどうか。レイルガンはマッハ7で飛ぶ23ポンドの金属部材で破壊効果を期待する。また水平線の向こうにも発射できる。ただし局地防衛限定だ。海軍の構想では100マイル先の静止目標なら攻撃できるが、移動目標では不可。また目標の移動速度が高くなれば難易度が高くなる。レイルガンは迎撃ミサイルと違い一度発射したら方位変更ができないので目標が回避したら対応できない。ブライアン・クラーク Brian Clark (退役海軍士官)の試算ではレイルガンを飛来するミサイルへの迎撃に投入した場合の実用射程は20から40マイルにすぎないという。
  8. 「レーザーやレイルガンは短距離の拠点防衛手段」とマーク・ガンジンガー Mark Gunzinger も語る。ガンジンガーとクラークは戦略予算評価センター Center for Strategic and Budgetary Assessments の研究員だ。「電動兵器と迎撃ミサイルは補完関係」
  9. 国土全体の防衛には射程距離を伸ばす必要がある。「比較的少数の核ミサイルが北朝鮮から大規模標的に発射された場合は射程の長い海軍のSM-3が理想的な手段」とクラークは述べる。「たしかに高価格だが、発射陣地一つから数発の発射で広大な国土をミサイル攻撃から守ることができる」
Navy cruiser Lake Erie launches SM-3 IB missile 575519537757ad8b1368733557巡洋艦レイク・エリーがSM-3IB迎撃ミサイルを発射
  1. 米軍の関心はならず者国家がごく少数のミサイルを発射する場合に向けられ、一斉大量発射は想定外とクラークとガンジンガーは言う。北朝鮮が在庫1,000発の中からミサイル100発を韓国に短時間で発射したら、防衛側は高性能・高価格の迎撃ミサイルを撃ち尽くしてしまう。核弾頭つきミサイルは数発かもしれないが、区別不能だ。一発でも迎撃に失敗すれば広島以来の惨事になる。
  2. これだからミサイル防衛の効果を信じる専門家は少ない。「成功可能性80パーセントで通常兵器搭載ミサイルに対応できれば港湾設備や基地の防衛には有効でしょう」とグレッグ・シールマン Greg Thielmann (元国務省、兵器制御協会)が語る。「でも5発中一発が核弾頭で大都市上空で爆発したら手遅れです」
  3. 4発のミサイルが発射され4発とも核弾頭ならどうなるか。ミサイル防衛の成功率はせいぜい50%とクラークは算出している。「攻撃側は一つの目標に7発のミサイルを発射すれば95%の確率で目標に命中させられる」という。ソ連ならそうしただろうが、北朝鮮の保有する核兵器はまだ数が足りない。いまのところは。このため複数目標に多数の核弾頭を発射できない。
  4. シールマンは安心していない。核攻撃から国民の大部分を守れる方法が多分では民主体制では受け入れがたい。「主要都市が核攻撃で消滅する可能性を真剣に考えるべきでしょう。攻撃側も初回攻撃核報復攻撃をを覚悟する必要があります」 そうなると平和の維持に最良の選択は相互抑止力だという。
  5. 抑止が機能しなければミサイル防衛は戦時には有益な選択だ。だが平時の政治ではどれを調達しどこに配備するかの選択はひどく面倒になる。大量のミサイルを撃墜する唯一の手段はレーザーやレイルガンだけだ。だが有効範囲は限定される。長距離ミサイルを迎撃する唯一の手段は迎撃ミサイルだが、迎撃ミサイルの在庫は少ししかない。このジレンマからどの装備を重点的に調達するのか、どこを防衛するのかの選択に迫られる。
  6. 「イスラエルは人口集中地区や防空シェルター配置地区は局地防衛で守り、広大な地区は弾道ミサイル防衛で対応するが、人口密度が低い地区では防御態勢を低くしている」か全く配置していない、とクラークは言う。ヒズボラが発射する通常型弾頭ならこれで政治的に受け入れられるが、核兵器への対応ではこうはいかない。
  7. 大量ミサイル発射への最良の対応策は効果的な攻撃を与えることだ。ミサイル意外に補給処や指揮命令系統(C2)を攻撃する。「C2攻撃は北朝鮮のように硬直した階層構造の指揮命令系統の目標にはとても効果的」とガンジンガーは言う。
  8. 「歴史が参考になるのなら、ミサイル防衛とミサイル施設の疑いのある施設や指揮命令施設への圧倒的攻撃を組み合わせるのが良い」とアンドリュー・クレピネヴィッチAndrew Krepinevich (CSBA理事長)も認める。「第一次湾岸戦争での『大スカッド狩り』は面白い事例だ。TEL(ミサイル発射台搭載車両)で破壊が確認できた事例はひとつもなかったが、スカッド狩りがはじまるとイラクはそれまでの統制のとれた一斉発射を個別無調整発射に切り替えた。土砂降りが小雨になったようなものだ」 発射台は破壊できなかったが、ミサイル退避に集中させ結果として以前のような効果的な攻撃はできなくなったという。
  9. 米軍がスカッドを狙った際には航空機と特殊部隊を投入した。北朝鮮の領空や領土への侵入はイラクより難易度が高いだろう。代わりに遠隔地の重爆撃機や海軍艦艇からから巡航ミサイルを発射すればよい。
  10. 米軍は陸上発射式の巡航ミサイルを保有せず、MLRSのような短距離ロケットがあるが、これでは北朝鮮には到達しないとCSBAは分析している。米陸軍は長距離攻撃手段を開発すべきとCSBAは考える。
  11. 「長距離地対地ミサイルが攻撃手段の鍵となり、敵の攻撃能力を削ぐ手段となる」とクラークは言う。「長距離航空攻撃を補完し複数の脅威発生源へ対応できます」
  12. こちらが別の手段を講じ、多用な対応策を準備すれば、敵の対応はもっと難しくなる。攻撃を加えても敵のミサイルを全て破壊できない。また発射されたミサイル全数を空中で破壊することも不可能だ。攻撃力で敵のミサイルの数を防空体制で対応ができる規模までに落とす事が必要だ。そんな必要が発生しないよう祈ろう。■