2016年10月5日水曜日

★インド向けUS-2販売で日本が柔軟性を示す構え



なかなか進まない商談にはインド側に問題があるようですが、本案件はなんとか成約させたいものです。ライセンス生産が可能なのかわかりませんが、ノウハウの詰まった同機の技術情報をどこまでブラックボックス化できるかが重要ですね。

Japan promotes 'flexible' US-2 sale to India

Jon Grevatt, Bangkok - IHS Jane's Defence Weekly
04 October 2016

  
インドは新明和US-2i水陸両用機を導入し、捜索救難用に運用したい考え。 Source: Japanese Maritime Self-Defence Force
  1. インド向け新明和工業US-2の価格で日本が柔軟な姿勢を見せており成約を狙う。
  2. 両国政府はここ数年に渡り同機販売を交渉中でインド海軍(IN)へのUS-2i12機の納入は総額16億ドル程度といわれる。
  3. 9月末に日本の防衛省広報官はIHS Jane'sに対しインド要求には「柔軟に」対応して成約を急ぐと述べている。柔軟性とは機体価格だけでなく、インド産業界を機体生産に関与させることも含む。
  4. ただし同報道官からはインドからUS-2i調達方針が明確に示されていないため商談が停滞していると明らかにした。INは完成機2機を新明和から導入し、残る10機はライセンス生産したいとの意向を示していた。
  5. 「日印防衛当局間では検討を急ぐことで合意している」と報道官は語っている。「ただし協力の具体的協議のためインド側が可能な限り迅速に調達方針を示すよう防衛省は期待している」
  6. また報道官は「インドが調達方針を決定次第、当方もインド側要望に柔軟対応し両国間協力を具体化していきたい」と述べている。
  7. US-2i輸出案件は2015年12月に両国間で合意されており、インド政府によれば「防衛装備・技術の移転」と関連し「機密防衛情報の保護」も盛り込まれている。■


2016年10月4日火曜日

★★日本が2030年代供用開始を狙う無人ウィングマン構想を発表



自動車で自動運転(自律運転ではありません)が意外に早く実現しそうで、航空機へも波及して装備庁が考えるロードマップは加速化されるのではないでしょうか。ただし、機体やエンジンの技術開発が追いつかないとアンバランスな機体になってしまいますから結局2030年代まで待つ必要があるのかもしれません。

Aviation Week & Space Technology

Unmanned Wingmen For Japan’s Piloted Force Planned For 2030s

Japan lays out a plan for pilotless combat aircraft to help fighters
Sep 23, 2016 Bradley Perrett | Aviation Week & Space Technology


無人ウィングマン構想

  1. 人工知能には航空戦闘での機体操縦は攻撃任務より難易度が高い。このため自律飛行可能な軍用機開発を目指す各国は対地攻撃任務から着手するのが普通だ。
  2. だが日本人にとって無人機による攻撃はあまりにも乱暴に聞こえるので、同国の防衛企画部門は一気に空対空の自動化を提案しているのだろう。この課題を実現すべく、有人戦闘機とともに飛行し、支援する高性能無人機の提案が浮上している。パイロットの指示を前提とする。機体は戦闘支援無人機またの名を無人ウィングマンと呼ばれ、まずセンサー搭載機材として前方を飛行し、その後攻撃任務を実施するはずだ。
  3. 機体はファミリー構成で2030年代に登場するとの技術ロードマップを防衛省の外局である防衛装備庁(ATLA)が発表した。防衛省は以前にも無人ウィングマン構想を検討していたが、今回はさらに前進させている。ロードマップには弾道ミサイル防衛用の機材も2030年代に供用開始するとある。
  4. 構想では無人機を五種類に分類し、まず二型式が最も簡単な構造で小型で運搬可能な見通し線外の通信用で日本はすでに供用中だ。三番目はまだ完成していないが、衛星通信の中継用の機材で米国にはジェネラルアトミックスMQ-1、MQ-9やノースロップ・グラマンQ-4の各種がこの任務を実施している。その後に控えるのが無人戦闘航空機で最後に長時間飛行用の軽量機や太陽光動力機がある。
  5. ATLAはこの内第三種と第四種に資源を集中配分するとし、優先順位がミサイル防衛と航空戦闘にあることがわかる。
  6. 同庁はこのうちBMD用途の無人機が武装するか明らかにしていない。むしろセンサー搭載機として2007年にテスト済みのエアボスシステムから赤外線探知機を派生させるようだ。ATLA作成のロードマップでは高高度長時間運用の機材に典型的な機体構造を示しており、極端に細い主翼とプロペラ推進式双発構造のようで、ボーイングが1980年代末に開発したコンドルに類似している。センサーは機首上部のタレットに搭載している。
  7. 防衛省技術研究本部(TRDI)が無人ウィングマン構想を検討開始してから少なくとも6年経過している。同本部はその後、2040年代に供用開始で、提国産新型戦闘機F-3の性能向上型と一緒に運用するとしていた。F-3初期型は2030年ごろに供用開始の見込みだ。
  8. ATLAは「高度自律飛行技術による無人ウィングマンがF-3で利用可能となるのは15年から20年後」と見ているが、2035年より前には実用化にならないだろう。と言うのは同庁が技術実証を2029年から2033年になるとの見込みを出しているからだ。F-3に無人ウィングマンとの共同運用に向けた改修が必要となる。
  9. 無人ウィングマンの最初の型式はセンサー機だろう。ATLA発表の概念図では戦闘機の前方を飛行し、データリンクを確立するとしている。この実現は15年から20年後だろう。
Japanese defense ministry concept of unmanned wingmen aircraft
防衛省が想定する無人ウィングマン編隊は敵ミサイルをおびき出し、敵標的を探知する Source: Japanese Defense Ministry

  1. 20年以上先に二番目の機種が同じ機体とエンジンを共有し武装運用可能な機体として登場するだろう。また20年後にはセンサー搭載型は敵ミサイルを吸収するスポンジの役目を果たすはずだ。センサー搭載型のウィングマンは敵ミサイルの価格を上回るので、敵ミサイルの命中を受けることは受け入れがたい。ATLAはスポンジ任務で敵攻撃を不調に終わらす構想で機体操縦制御とともに電磁対抗措置を活用する。
  2. ATLAは無人ウィングマンの構想図を二通り公表している。一つは広胴で主翼が胴体と一体化されており、45度から50度の後退角がつく。もう一つの構想図は全長が細長く、後退角は60度と高速機のようだが、機首近くについたポッドで抗力が大きく、ステルス性は乏しいようだ。レーダー搭載ポッドだろう。これは明らかにセンサー搭載専用機材だ。
  3. これに対し無人ウィングマンはF-3パイロットが制御しつつ、単独戦術行動が可能となるだろう。パイロットはおそらく一般的な指示で探査あるいは攻撃すべき場所を与えると無人機が自動的に最適行動をとるのだろう。また有人機では不可能な仕事もこなすと防衛装備庁は説明しており、人体が耐えられない高G操縦で敵ミサイル攻撃に対応できる。
  4. 探査から攻撃、さらに回避行動まで取らせるのは日本国外での無人機の発展と同様で人工知能技術の向上で飛行行動の選択肢の広がりを期待しているのだろう。
Japanese defense ministry concept of unmanned aircraft for ballistic missile defense.
弾道ミサイル探知用の無人機は2030年代に実用化されるとみられる。 Source: Japanese Defense Ministry

  1. Saabは選択式に有人操縦となるグリペンE/Fが現在の高度維持自動機能や自動航法から「基本航空移動性能」や離着陸まで自動化できるように進展するとの技術推移の姿を公表している。その後に同戦闘機は自律運用で基本飛行制御をこなし、編隊長(有人機)から一定の位置を維持したまま飛行できるようになる。この考えは日本が無人ウィングマンにセンサー任務を期待するのと同じだ。
  2. 次の段階にはSaabはローリングやルーピングのような高等操縦、さらに編隊長に合わせた戦術旋回飛行があるとしている。そして最終段階は最も困難な視程外戦闘で例としてクランキングやパンピングがある。日本も無人機による敵機攻撃や敵ミサイルをおびき寄せ回避する想定で同様の飛行性能を想定しているはずだ。
  3. 無人ウィングマンの動力、推進系の研究は2019年度(平成31年度)から始まる。日本がねらう技術は高びんしょう性、メタ素材(天然には存在しない特性)によるステルス性、機体の変形技術とバイスタティック方式レーダーだろう。
  4. このレーダー技術では送信機と受信する機体は別になるが、防衛装備庁は具体的な運用方法を述べていない。可能性としてはセンサー任務のウィングマンが発信し攻撃任務のウィングマンが受信役にまわるのだろう。有人機が受信するか、無人機の後方から安全に発信して無人機に気づかれないように接近させ敵撃墜を狙うことも可能だろう。
  5. F-3の作戦行動半径は無人ウィングマン機をはるかに上回りそうだ。センサー任務の無人機は大型機になるだろうが、運用上は戦闘空域の近隣で運用させるか、空中発射とすればよい。ATLAは2011年にジェット推進式無人機の開発を完了したと述べており、空中発射式で滑走路に着陸できるとしていた。F-15Jは二機を搭載でき、各機は自重750キロだ。
  6. 別の方法は空中給油をミッションごとに数回繰り返すことだ。疲労を覚えるパイロットがいないことで無人機は戦闘空域に何回も往復移動して短時間しか戦闘空域に留まれない欠点を補うのだろう。
  7. F-3構想の最新版は2014年に改定され長距離飛行と大武装を重視する一方で機敏な操縦性は犠牲にしている。
  8. F-15から発射する無人偵察機は富士重工業が製造し、日本では同社が無人機では主導的なメーカーだ。無人ウィングマンの製造でも同社が有利な立場になるとみられる。対抗する三菱重工業が戦闘機の製造では高い知見を有する。■


オーストラリア次期潜水艦建造でDCNS・ロッキード連合が開発契約交付を受ける


オーストラリア潜水艦選定問題ではストレスを感じた国内読者が多かったと思いますが、太平洋地区の重要なパートナー国のオーストラリア海軍の戦力整備は日本も関心を決して失っていては許されない問題です。引き続き、本問題の進展をフォローしていきます。


DCNS Satisfied With Australia's Pick of Lockheed for Sub Project

By: Pierre Tran, September 30, 2016


PARIS — DCNSがオーストラリ政府が同社およびロッキード・マーティンの設計契約を承認し、バラクーダ・ショートフィン1A遠距離攻撃潜水艦構想が前進することを歓迎する声明を発表。
  1. 「DCNSは第一段階契約がオーストラリア向け次世代潜水艦建造事業で締結に至ったことを歓迎し、ロッキード・マーティンが戦闘システム統合事業者として選定されたことも歓迎する」
  2. 設計および展開契約が調印されたことで事業着手に向かい、ロッキード社および現地業者との統合調整が開始されると同社は述べている。
  3. オーストラリア国防相マリーズ・ペインおよび国防産業相クリストファー・パインから9月30日に報道ではレイセオンが優勢といわれてきたものがロッキード・マーティンが選定されたと発表している。
  4. オーストラリア発表を受けて「長期間に渡るフランスの潜水艦部門での戦略的提携関係の大事な第一歩」とフランス国防相ジャン・イブ・ルドリアンも同日声明を発表している。
  5. DCNSの株式35%はタレスが保有しており、同社はソナー技術で独自の技術力を誇る。
  6. 「DCNSはオーストラリア政府、ロッキード・マーティン社ならびにオーストラリア国内産業界と長期に渡る戦略的関係を築くことに期待している」とDCNS会長兼CEOのエルヴェ・ジローは述べている。「今回の契約によりDCNSはオーストラリア向け次世代潜水艦建造の第一段階に進むことができる」
  7. 同社がインド向けに建造中のスコルペヌ型潜水艦の技術情報が漏洩した事件で国内メディアが表明した懸念は無関係とオーストラリアは主張するつもりなのだろう。
  8. フランス政府はDCNSを支援し、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズおよび日本政府が後押した三菱重工業・川崎重工業案を破り採用されている。■


A2/ADの用語を葬る米海軍


エアシー・バトルと同じくA2/ADの用語も過去のものとなるのでしょうか。米海軍は一般解よりも特定解を推奨するためにも足手まといになる用語を葬りたいのでしょうね。では中国を対象に構築する戦略をどう名付けるのでしょうか。さらに空軍他にも納得できる名称を低減できるのでしょうか。海軍作戦部長のお手並みに注目ですね。

CNO Richardson: Navy Shelving A2/AD Acronym

October 3, 2016 5:31 PM

160929-N-OT964-120 NORFOLK (Sept. 29, 2016) Chief of Naval Operations (CNO) Adm. John Richardson speaking at Naval Station Norfolk, Va. on Sept. 29, 2016. US Navy Photo
160929-N-OT964-120 NORFOLK (Sept. 29, 2016) Chief of Naval Operations (CNO) Adm. John Richardson speaking at Naval Station Norfolk, Va. on Sept. 29, 2016. US Navy Photo

WASHINGTON, D.C. — ペンタゴン用語の接近阻止領域拒否が各軍、軍事研究でかれこれ15年にわたり頻繁に使われている。だが海軍作戦部長のジョン・リチャードソン大将から海軍ではこの用語の使用を取りやめるとの発言が出てきた。

9月27日に米海軍協会とCSIS共催の海洋安全保障対話の中で同大将は海軍内ではA2/ADの表現の使用を控えさせると述べた。

「思考を明確かつ明瞭にするために...A2/ADは独り歩きしておりなんでもかんでもどこにでも誰にでも適用される言葉なのでもっといい表現に変える」

「課題は個別具体的で特定のものなので『一つで全部当てはまる』式の用語でミッションを表現すれば混乱を生むだけで、かつ明瞭でもない。代わりに戦略を論じるときは具体論で語り、対応する敵勢力との比較で能力についても論じていきたい。地理条件、作戦概念、技術内容の文脈の範囲内で語るべきだ」

特定の空域、陸地あるいは海域で敵の接近を拒否することは古典的な戦略であるものの、軍事上の概念として一般化した用語は1990年代末から登場し、2000年代初頭から略語として知られるようになった。これは精密兵器が敵側にも導入される中で米軍が直面する新しい脅威の表現だとブライアン・クラーク(予算戦略評価センター)は解説。

A2/ADの知名度が2000年代初頭に上昇したのはペンタゴンが中国の軍事力に注目したのが契機だ。

「長期に渡り中国が長距離精密攻撃能力を整備してきたことで西太平洋の軍事バランスが変動しはじめており、中国が次第に有利になれば中国がいつの日にか米同盟国側に侵略を試みることになりかねない」とアンドリュー・クレピネヴィッチとバリー・D・ワッツ共著のThe Last Warrior: Andrew Marshall and the Shaping of Modern American Defense Strategyにある。

それ以降クラークは「略語として多用され思ったより長く生き残った」という。

リチャードソン大将は誘導兵器や中国本土を取り巻く「赤い弧」での米軍の作戦が不可能となれば大変だと発言。
China's anti-access area denial defensive layers. Office of Naval Intelligence Image
China’s anti-access area denial defensive layers. Office of Naval Intelligence Image


「確かに新装備が普及してきていますが軍事上の課題はこれまでと本質的に変わりはありません」


「挑戦課題であることに変わりはありませんがA2/ADだけに目を奪われると次の課題を見失いかねません。根本的な変動がそこまで来ており、次の段階の競争競合が始まろうとしています」

その一例として「敵より優勢な地位を保つために何が必要か。世界中いかなる場所の状況がリアルタイムで監視可能でオンデマンドで画像が手に入る時代にです。これが間もなく実現しようとしています」登リチャードソン大将は述べた。

足手まといとなる用語を捨ててペンタゴンの活動を再構築することは決して新しい現象ではない。

昨年初頭に国防長官官房が論争を呼んだエアシー・バトル室の名称を変更している。同室にはA2/AD脅威をペンタゴン横断的に対応する策を考える役割が与えられていた。エアシー・バトルの新名称はグローバルコモンズ・アクセスおよび戦略各軍共用コンセプトJoint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons (JAM-GC 発音ジャムジーシー)に改められ、同室は統合参謀本部に吸収されている。■


トランプ、クリントンの国防観、安全保障政策はここまで異なる



米報道機関はなんとかクリントンを当選させたく必死になっているようですが、状況は極めて流動的です。ここで米国内でテロ事件でも発生すればあるいは海外で危機状況が発生すれば一気に情勢が変わりかねません。軍関係者としては不毛の選択を迫られそうですが、トランプの方がまだマシということになるのではないですかね。クリントンがタカ派と言うのは日本では信じる人は少数派でしょうね。


From troops to nukes: This is how Trump and Clinton would manage the military


米軍は来年1月に新しい最高司令官を迎える。好き嫌いに関係なく当選に最も可能性の高い二人の選択で今後四年間にわたり軍の姿は大きく変わるが変容ぶりは選択次第で全く異なるだろう。
  1. ドナルド・トランプ大統領の下で軍は人員、装備面で劇的にまで拡大するが、任務はひろがらないはずだ。同候補は世界各地の問題地点への米介入に疑問を隠すことなく述べており、米軍が多国籍軍に参加することにも懐疑的だ。米軍の海外拠点も減る方向に向かう。
  2. 対象的にヒラリー・クリントンが11月に勝利を収めれば、かねてから外交といわゆるソフトパワーを多用すると発言しており、世界各地で発生する小規模な介入でもこの姿勢を貫くはずだ。また同性愛者,性統一障害者に門戸を開いた軍の方針を歓迎しており、女性にも職種を開放したことを評価している。
  3. 軍各部隊の隊員には両候補者に不快感を示すものが多く、明確に一方の支援に傾くことはないようだ。9月中に行われたMilitary Timesとシラキューズ大共同の現役隊員向け調査では85パーセントがクリントン候補に不快感を示す一方で、66パーセントがトランプ候補にも快く思っていないことが判明した。
  1. 確かに両候補ともにそれぞれの所属政党の安全保障に関する基本線を混乱させており、両党主流派と対立する立場を示している。
  2. トランプは米軍が一層主導的な役割をはたすべきとの共和党流の主張に馴れきっている同盟各国に懸念を生じさせている。「同候補は非介入主義だ」とダグ・マクレガー退役米陸軍大佐は述べている。「広義では同候補は過去からの決別を公約しており、単に任期で最長となる8年間にとどまらず25年にも及ぶ影響が生じるでしょう。外交政策、国防政策の両面で。これまで世界各地に関わるべくあらゆる理由をつけてきましたが、その結果どうでしょう。この国は破産に向かっており、ちっともいいことがないではないですか」
  3. クリントンのほうが現状維持に近く、軍は規模縮小してもハイテクかつ強力な威力を実現するとしている。民主党には軍事力行使を快く思わない傾向が強い。「クリントン候補の方が強力な国際主義の信奉者です」と語るのはマイケル・ヌーナン(シンクタンク外交政策研究所で国防専門家)だ。「トランプよりタカ派でしょう。国防政策、外交政策を論じる際にはリベラルだ保守だと言っても意味がありません」
  1. その他にも相違点はある。トランプはロシアと仲良くなりたいという立場で、実現すれば米外交政策へ大きな影響が生まれ、米軍のヨーロッパ内での役割にも変化が生まれる。クリントンは総額1兆ドルを投じての米核兵力近代化事業に懐疑的で、厳しい選択は必然だ。米軍がテロリスト対策で国際法を遵守すべきかとの点で両候補の意見が異なる。両候補ともに議会に国防支出の上限設定をやめさせると公約している。
  2. 首都ワシントンの常識では次期最高司令官は軍の再構築に大きな指導力は発揮できないはずとする。国防予算は議会が依然として管理しており、軍の拡充あるいは削減の最終意見を述べる立場にある。だが上下両院ともに11月に改選を控えており、各軍の隊員は選挙で軍の行方に自ら影響を与えられる機会ととらえている。どちらの候補を選ぶにせよ、ペンタゴンのトップも交替となるはずで、国防上の優先事項や新しい状況が上層部交替で生まれるはずだ。
軍の規模と国防支出はどうなるか
  1. 大統領選で評論家はトランプを意図的に曖昧な発言に終始しかつ具体論はほとんど明かさない傾向がクリントンより目立つと批判している。だが軍の規模に関しては両名の立場は逆転する。トランプは人員規模と装備整備の目標を公言しているが、クリントンは一般論で「最良の装備と世界最強の軍」を維持するとしか発言していない。
  2. トランプは9月に陸軍の正規軍規模を54万名とし、現在より5万名増し海兵隊は1万名増やし、現行の23大隊を36大隊体制にすると述べている。ともにバラク・オバマ大統領がイラク、アフガニスタン後の軍の体制として削減を続けてきた政策を逆転させる。
  3. トランプはさらに「水上艦潜水艦合計350隻」と「最低1,200機の作戦用機材の空軍兵力」を公約としている。海軍にとっては27%の増加となる。空軍は2千機の作戦機材があると公言しているが、そのうちすぐに任務投入可能なのは1,100機程度しかないので、トランプ構想は空軍にも装備増となる。
  4. 「ロシアの装備は当方より近代化が進んでいる」とトランプは第一回目の大統領候補討論会で9月26日に述べている。「こちらは新装備の拡充が遅れている。ある日目をやるとB-52が飛んでいた。視聴者の皆さんの父親より古い機材で祖父が飛ばしていた機材だ。他国に対抗できていない」
Cover Mil 3B-2爆撃機をホワイトマン空軍基地(ミズーリ州)で整備する。ドナルド・トランプは大統領当選後の機材、人材目標として空軍機材の拡充にも触れている。対抗する民主党候補ヒラリー・クリントンは一般論に留まっている。Photo Credit: Mary-Dale Amison/Air Force
  1. トランプの選挙運動から見えてくるメッセージは明らかだ。大統領当選の暁には軍事力拡充を進める。その財源はまた別の問題だ。
  2. 「軍に必要な装備は調達し、価格が本来の水準より高くなるのは仕方がない」と討論会で発言している。それでも全国納税者連盟は陸海空軍と海兵隊を増員すると750億ドルが最初の5年間で必要になると試算しており、毎年3%の上昇要因となるとする。無駄な支出を削減したり、非制服組職員を削減しても追いつかないという。
  3. つまりトランプの国防予算はこれから五年間に軍事支出の上限を突破するのは必至で長期にわたる議会との予算折衝が必要となる。オバマ政権はこのやりとりから逃げていた。
  4. クリントンの国防案は軍事力増強を公約していないので予算支出上限に抵触しないはずだ。
  5. 退役軍人会の年次総会の席上でクリントンはアメリカは「軍事優位性を一歩でも失うことは許されない。またペンタゴンには賢い支出をしてもらい予算手当も安定的かつ予測が付く形で認める」と述べていた。だが人員増、装備拡充の代わりにクリントンは「納税者のお金を賢く使う国防予算を編成する」とし、「技術革新や新性能で21世紀の脅威に対抗できるように予算を投入する」と発言。
  6. この言い振りはオバマのめざした筋肉質で技術に重きをおいた軍の姿と共通するものがあり、小規模な特殊作戦や無人機依存に焦点をおいていた。クリントンもトランプと同様に無駄と不正を減らし国防支出を節約すると公約している。
  7. クリントンは「外交と最前線の活動で国内に脅威になる前に問題を解決する」と強調している。つまり、国務省にもっと予算を計上して軍事支出より優先させるということか。
軍をどのように投入するのか
  1. 米軍の基本任務と世界における役割で両候補の描く姿は大きく異なる。
  2. クリントンはアメリカの権益と国際法の遵守の前進に軍の積極的な役割を想定して、海外同盟国に展開する部隊には「世界のいかなる場所でも即応できる」体制を期待している。
  3. ここにクリントンのタカ派としての見識が反映されており、軍事介入や現在進行中の作戦拡大をやむなしと見ていることが伺える。クリントンは2003年のイラク侵攻に賛成票を投じておいr、2009年のアフガニスタン増派を支持し、2011年にはリビア介入を主張した。クリントンはアメリカ例外論の信奉者であり、レーガン時代の共和党員と通じるものがあり、ブッシュ時代のネオコンからも一定の支持を得ている。
  4. 6月の外交政策演説でクリントンはイランに対する行動を警告した。「世界は理解してくれる。米国が必要に応じ決定的な行動を取ることを。軍事行動も含まれ、イランが核兵器を取得するのを阻止する」
  5. 反対にトランプは我々の記憶に残るいかなる共和党員とも異なる。軍事介入そのものに懐疑的なことでは民主党の基本的姿勢に通じるものがある。軍の現状におおっぴらに批判を加え、指導層には「破滅的」との評を下し、オバマ政権下で将軍職は「ガラクタにまで成り下がった」としている。トランプは財政上の安定度を優先する考えを公約しており、米国人の一般家庭の価値観も重視する一方で世界各地で指導的な立場につくのは回避する。
  6. そのためトランプは海外での米軍事力の行使に慎重な姿勢を示している。トランプによればイスラム国戦ではロシアに主導的立場を取らせれば良いとし、サウジアラビアや韓国に独自に核兵器を整備させ敵勢力を封じ込めば良いと主張する。
  7. トランプはクリントンの経歴を繰り返し批判し、海外軍事活動への支援姿勢もそこに含めている。「ヒラリー・クリントンが侵攻、介入、転覆を考えたことのない国は中東にはひとつもない。引き金を引きたくて仕方がない一方で戦闘になれば不安定さを示す人物」と述べている。
  8. 「ISISは打倒する」とトランプは言うが、軍事力行使は本当に必要な場合に限るとする。米国の中東政策には批判的で納税者のお金は国内で効果的に使うべきだと主張する。「中東には6兆ドルを投入した」とトランプは討論会で発言。「それだけの資金があればこの国を2回再建できた。本当に恥ずかしい。クリントン長官のような政治屋がこの問題を生んだのだ」
  9. 両候補の立場は対ロシア関係で一番明確な違いを示す。クリントンはヨーロッパに軍を増派しロシアの野望に対抗すべきとする。「クリントン大統領はロシアには対して心配はしないと思いますね」とマイケル・ルービン(アメリカンエンタープライズインスティテュートの国防問題研究員)は見ている。
  10. だがトランプはNATO同盟関係の費用ならびに価値そのものに懐疑的だ。トランプがロシア大統領ウラジミール・プーチンに親しみを表明したことから米ロ関係が再構築に向かうのではないかとオマー・ラムラ二(ストラトフォー地政学情報提供企業の軍事専門家)は見ている。「トランプ政権が発足すればロシアとの関係が好転する兆しが出てくるはず」という。
社会政策、環境政策はどうなるか
  1. オバマ政権は軍の人事政策で歴史的な改革を実施し、「聞くな、話すな」方針は撤回され、同性愛者にも門戸が開かれた。さらにすべての戦闘任務が女性に開放されペンタゴンは今年夏に性不一致障害者の採用を解禁した。
  2. クリントンは性不一致障害者に関する決定を賞賛し、女性には軍務登録に応じるよう求めている。これは必要になった場合に徴兵となる制度だ。また同性愛を理由に軍務を離れざるを得なかった在郷軍人の軍務記録を更新すると約束している。
Women Rangers左からクリステン・グリースト大尉、リサ・ジャスター少佐、シェイ・ヘイバー中尉は陸軍生え抜きのレインジャー学校を初めて卒業した女性将校。ヒラリー・クリントンは軍の人事政策がオバマ政権により変更されたことを評価。一方、ドナルド・トランプは軍は社会実験の場所ではないと述べた。(Photo by Paul Abell/AP Images for U.S. Army Reserve)
  1. クリントンは性的マイノリティー向けに「完全平等」を選挙戦の前面に掲げており、オバマ政権が残した変革をさらに拡大するとしている。公約では同性愛者の隊員や軍属の悩みや課題をタウンミーティングで傾聴するとしている。
  2. トランプはこの問題を重視する姿勢を示していないが、昨年中は連邦政府の政策や事業に見られる「政治的中立性」をひっくりかえすと約束していた。同性結婚には反対姿勢を示し、州法により性不一致者が公衆トイレに入ることを禁じているのを支持。副大統領候補マイク・ペンスは「聞くな、話すな」規則へのあからさまな支持で知られている。
  3. 共和党綱領が今年夏に採択され、(トランプ陣営が作成に関与している)、「軍を社会実験の場に使うこと」に反対する文言が入っている。軍は任務実施の準備を整えるべきで高水準の人材を確保し、軍務に関する人事決定を正しく行うべきであり、「社会的あるいは政治的課題」の解決を目指すべき場ではないとする。
  4. オバマ政権の実績をもとに戻すことが狙いなのかは不明だ。議会内にも現政権による変革を快く思わない向きがあるが施策を元に戻すことはほぼ不可能と認めている。職務変更や解雇が発生するからだ。だが変革の実施方法での決断では考慮の余地があり、変革方向をさらに希求するためには新施策が必要なのかで議論の余地がある。
  5. 気候変動でも軍への影響があり、議論が必要だ。憂慮する科学者連盟による最新報告では海面水位上昇で2100年までに軍事基地合計128箇所が水没の危機にあるという。オバマ政権は気候変動は国家安全保障問題と位置づけ、議会と軍における再生可能燃料の導入でやり合いがあり、天然資源の獲得をめぐり社会不安が生まれ、テロ集団が増える可能性があると警告していた。
  6. クリントンも気候変動が安全保障問題だと認識しており、第一回討論会ではトランプが問題の背景にある科学的事実を無視していると非難している。「一部国が21世紀のクリーンエネルギー大国になろうとしている」と述べ、「ドナルドは気候変動は中国人のほら話だと思っているようだが現実問題です」と発言。
  7. これに対しトランプは反論し、環境問題は大事だが、クリントンが言うほどの深刻さはないと述べた。またオバマ、クリントン両人がエネルギー政策として太陽光エネルギーへの公的資金投入を提唱していることを非難し、「大量の失業が発生する」ため政策は撤回されるべきと述べている。

新兵器開発、核兵器改修はどうなるか
  1. 国防支出では両候補ともこれまでの共和党、民主党の基本姿勢と同じに見える。トランプはペンタゴン予算を増額するとしながら、規模と手当の方法も不明だ。クリントンはオバマ政権の基本路線を踏襲するとしながら軍事即応体制への懸念はほとんど口にしていない。
  2. それでも軍事専門家の多くが次期最高司令官にはペンタゴン予算すべてを統制することは不可能と指摘する。次期大統領がホワイトハウス入りする時点で強制予算削減は実施中で2021年まで措置を続けるはずだからだ。軍事支出増の法案は成立の可能性が薄い。
  3. 「予算環境は2017年1月になって急変換しないし、大統領当選者次第で変わることもない」と話すのはクリストファー・プレブル(CATO研究所の国防専門家)である。それによるとティーパーティー派の共和党員は政府支出の殆どに反対の立場でペンタゴン予算増額に必要な議会内意見取りまとめを阻止してくると見る。「2011年から続いている閉塞状況が急に変わることはない」
  4. クリントンは予算強制削減策に反対でオバマ政権が残した国防支出路線の支持を公言している。徐々に現状の支出上限を上回る規模とし、上限枠が今後引き上げられるのを待つ策である。一方、軍の「再建」を誓うトランプにとってワシントンの手詰まり状態が立ちふさがるだろう。
  5. ペンタゴン上層部からはここまで国防予算が厳しいと全体の即応体制に悪影響が生まれ、装備近代化事業にも波及するとの警句が出ており、F-35共用打撃戦闘機、B-21長距離打撃爆撃機や海軍の長期建艦計画を例に上げる。次期大統領は各事業の評価を正しく行い、構想段階から国防総省の正式予算手続きに移行させるべきだが、両候補の立場が完全に明白になっていない。
  6. クリントンは新型核兵器開発案には反対する意向を表明している。ペンタゴンの目標は1兆ドルで米核兵器の近代化を図ることで、新型爆撃機、新型地上配備大陸間弾道ミサイルや新型弾道ミサイル潜水艦を整備したいとする。「理解できない」とクリントンは1月に発言している。合わせて核兵器軍縮への支持を表明している。
submarine Rhode Islandオハイオ級弾道ミサイル潜水艦ロードアイランド、キングスペイ(ジョージア州)にて。海軍はオハイオ級後継艦の建造計画を推進したいとする。 (Mass Communication Specialist 1st Class James Kimber/Released)
  1. トランプからは核兵器の投入を示唆する発言が出ている。「ISISが米国を攻撃してきたら核で反撃していけない理由があるだろうか」と3月にMSNBCで発言している。また核兵器について大統領が「予測不可能」であることが必要だとくりかえし発言している。
  2. 具体的な発言がないことが関係者を苛立たせている。「政府機関で最大規模で最大額の予算執行をする省庁でこの国の安全を司る機関の話ですよ」とマンディー・スミスバーガー(非営利団体政府監視団の軍事専門家)は語る。「両候補とも将来の姿について意味のある討論はほとんどなかった」
  3. 大統領選挙戦が終盤に入り一つ確実なことがある。軍事専門家は両候補の選択に不安を感じている。「多数意見は『投票所に行って鼻をつまむ準備ができているか』」だと最近退役した海軍提督が話している。軍内部でこの話題が広まっているという。トランプの感情起伏を心配しながらクリントンの国務長官時代の電子メール取扱のまずさは言語道断で弁解の余地が無いという。毎日極秘情報を取り扱うだけにこう見るわけだ。「両候補もテストに合格できる人物でなない」と先の提督は述べた。■

Leo Shane III covers Congress, Veterans Affairs and the White House for Military Times. He can be reached at lshane@militarytimes.com.
Andrew Tilghman covers the Pentagon for Military Times. He can be reached at atilghman@militarytimes.com.


2016年10月3日月曜日

第二次朝鮮戦争に備える---核兵器の使用可能性は?


北朝鮮が核運用能力を整備する前に片を付ける先制攻撃論がどうも強まってきたようです。その場合に核兵器使用の選択肢も検討には入っているものの、現状では使えない兵器のままなのか、それとも誰も経験したことのない新型核兵器の開発が促進するのかもしれません。文中で言う「核環境でも作戦行動可能な部隊」ですが、機能する保証もなく、絵空事に終わるのでしょうか。おそらく北朝鮮へ侵攻し、政府機能を喪失させる部隊のことでしょうね。

Preparing for The Next War in Korea

By BOB BUTTERWORTHon September 26, 2016 at 4:01 AM
  1. 戦闘準備で実際の戦争を回避することがある。また準備してあれば実際に開戦となっても有益だ。北朝鮮に対して開戦となればどうなるかを示すとともに同盟国韓国には米国がともにいることを真剣に見せるべき時が来た。
  2. 米韓通常兵力による軍事演習が一番良い選択肢で核攻撃の際の作戦能力を見せつけることが可能だ。
  3. 第二次朝鮮戦争の想定では米核攻撃で北を破壊するシナリオが多いが、今年になり米軍は2回も韓国へ爆撃機を派遣し、金正恩に対して核攻撃能力がこちらにあることを刷り込んでいる。だが米軍が核兵器を北に投下する実現性は低い。金が原子爆弾を使い開戦しても同じだ。
  4. その理由としてよく言われるタブーやエスカレーションの危険はあたらない。投入がふさわしい兵器がないのだ。これまで低威力で最小限の放射能しか出さない一方で電子電磁効果を上げる兵器を求める声があり、戦術レベルの精密攻撃にふさわしい手段が必要とされてきた。これに一番近いのは低威力のB61-12爆弾で爆撃機から投下できるが、放射線レベルは遥かに高い。もし北朝鮮にロシア製高度防空体制が導入されていれば、爆撃機の生還は望み薄だ。
  5. もちろん要求条件に適合した核兵器を個別に開発することは可能だし、これまでも米ロの軍事作戦立案で検討されてきた。だが国内政治上、米国がこのような特殊兵器を選択することは考えにくい。これまで政府が守ってきた政策を逆転させるからだ。
  6. さらに軍事作戦上で今より広範な用途に核兵器を開発することへの反対意見は多い。実現すれば実戦投入の可能性が高くなるためだ。どちらにせよ核爆発は選択肢に入らない。使用後の事態の複雑さとともにエスカレーションを抑制できるのか危惧され、戦争終結のゆくえや戦後復興でも問題が複雑化するだけだ。
  7. だが米国は小出力核兵器による軍事解決方法が必要なのであり、本格的な核兵器は使うべきではない。仮に敵が投入しても変わらない。この点は長年に渡り共有された認識だ。1993年末に当時の国防長官レス・アスピンは「核兵器はこちらより強力な敵地上兵力に対抗できるが、米国通常兵力は圧倒的な強さを保持しており、敵に回るはずの勢力が逆に核兵器を入手しようとしている。最終的には米国が対抗兵器を確保して事態を収めることになるだろう」と発言していた。
  8. 当時のクリントン大統領指令PDD-18に先立ち、国防総省は核拡散が発生した場合のアクションの選択肢も準備していた。「拡散対抗策」の名称で核攻撃下でも行動可能な普通科部隊の創設もそのひとつだった。さらに広範な緊急事態への対応として特任部隊は同盟国側が懸念する域内抑止力の実効性も担保するはずだった。(韓国は2010年の天安撃沈、ヨンビョン島砲撃を受け米抑止力効果に懐疑的になっていた。)
  9. もしそのまま進めていれば、普通科地上部隊が装備訓練をともに受けて核攻撃下でも軍事作戦が可能となり、戦略上も敵の挑発に即応できていたはずだ。ただし挑発効果も米側の軍事対応に時間がかかれば薄まる。そのような外交軍事上の調整は熟考と手間をかけるべきであり、非核軍事力を重視するとともに選択肢となれば抑止力体制の長期間維持で生まれる不確実性が着実に減っていただろう。
  10. 「拡散対抗」政策は1993年に想定されていたが本格的な実施に移らなかった。新構想の想定する任務、予算規模で既存の政策との整合性をだうやってはかるかですぐに疑問視された。こうした疑問は今も残るが、アスピン長官が考えた軍事力はいまでも実現していない。
  11. 国防科学委員会が2005年に「核爆発が発生すると既存の装備、指揮統制能力(C2)、情報収集監視偵察(ISR)、その他支援システムが使用可能のままでいられるか保証がないことが結論」と報告している。同委員会はその五年後に「ほぼ20年に渡り、核攻撃での残存性を装備の強靭化あるいは迅速作戦により『継戦』を続けられるとしてきたが答えは不明のままだ。もし(汎用普通科部隊が)核攻撃にさらされれば任務遂行は運任せになるか故障装備の復旧にかかってくるだろう」と報告している。
  12. こうした弱点が補正されないと米軍はジレンマに陥り、大統領に低出力核兵器の投入あるいは作戦実施が失敗する可能性の高い通常兵力の投入の選択肢を提示できなくなる。■

イラン国内に不時着したRQ-170の謎とリバースエンジニアリングで生まれたイラン製「雷電」UAV


技術を一気に進める安価な方法はその技術を盗むことで、古今東西同じです。盗む側にとって棚からぼたもち状態なのは欲しい機体がこちらにやってくることで、今回のRQ-170の他にもサイドワインダーミサイルやB-29の例がありますね。今回の事例では機体そのものより内部の情報や情報収集手段が手に入った価値のほうが高いのではないでしょうか。

Iran unveils new UCAV modeled on captured U.S. RQ-170 stealth drone

Oct 02 2016

  1. 10月1日イランのイスラム革命防衛隊(IRGC) が新型戦闘無人航空機(UAV)セエケエSaeqeh(雷電)を公表した。
  2. 新型無人機は長距離型で精密誘導爆弾四個を搭載し、原型は米RQ-170センティネル(2011年にイランが捕獲)だ。
  3. IRGC航空宇宙部門長アミラリ・ハジザデ准将はイランは米国を上回る性能の航空装備を有するにいたり、UAV部門の工業力はミサイル部門同様に発展するだろうと述べている。
  1. イランはRQ-170をコピーしただけでなく、新たな性能を実現したようだ。「カンダハールの野獣」がイラン国内に不時着した背景は現在も謎のままだ。イラン機はセンティネルより微妙に主翼が小さいがRQ-170にある機体前面の空気取り入れ口がない。
  2. また同機に着陸装置がついているのかも不明だ。
new-iranian-drone-copy-rq-170-2
  1. 本誌が2011年以来報道しているように謎の解明には多数の説がある。
  2. イラン側は同機をハッキングしたと主張しているが、ステルス無人機はレーダーでは探知できないはずで、イラン東部で故障のため不時着したのだろう。(また米軍は同機の捕獲防止のため派遣された特殊部隊は同機破壊ができなかった)
The Iranians say the RQ-170 was hijacked using Jamming and GPS spoofing attack tailored on known vulnerabilities of the UAV highlighted in Air Force official documents.
  1. イランはRQ-170の制御乗っ取りにジャミングとGPS探知攻撃を使ったと主張し、米空軍も認めるUAVの弱点に言及している。
  2. だが筆者は一番可能性が高い説は同機はレーダー探知されず、イランの無人砂漠地帯に何らかの故障のため不時着したと信じる。
  3. 米側は当初はこの事件を公表しないつもりだった。なぜなら無人機が不時着した地帯で同機の発見は不可能、あるいは機体が相当の損傷を受けていればイランが捕獲したとしても技術の獲得は困難と見ていたためだ。また公表吸えばイラン上空でのスパイ活動を認めることになり、イラン核開発を阻止しようとするイスラエル秘密作戦に与していることが暴露されてしまう。
  4. だが羊飼いがほぼ無傷の同機を発見すると一気にニュースがあふれ、米側も同機喪失を認めざるを得なくなった。イランには思わぬ好機となり、世界向けに宣伝戦を展開し、同国の電子サイバー戦能力の成果だと喧伝した。
  5. いうまでもなく、以上は同機が学校体育館の中にある写真が公表されてからの推測の一つにすぎない。このシナリオではジャミングやGPS探知、衛星リンクの暗号解読や制御リンク乗っ取りは全く関係ない。イランは確かにこの分野での技術を示しているため、一部説ではUAVをジャミングして乗っ取ったとしているが、米無人機に技術上の弱点があるのは事実だが現実とあまりにもかけ離れた解説と言わざるをえない。
  6. イランはさらに別のUAV二機種を入手している。RQ-11が二機と少なくとも一機のスキャンイーグルがペルシア湾からイラン国内に侵入した後に捕獲されている。
  7. いずれにせよ2013年2月にその二年前に捕獲したRQ-170内部のデータの暗号解除に成功していなくてもデータの一部にアクセスできた映像を公開している。
  8. センティネルが撮影した画像では機体下部のカメラがカンダハール飛行場に着陸する様子、C-130が一機、リーバーが少なくとも一機カンダハール基地のシェルターに入っているのが見える。
  9. そうなると内蔵メモリーは有益な情報を含んだままで、機体制御が失われた際に完全に自動消去されていなかったことになる。搭載するFLIRタレットが撮影した画像含めデータが入手された可能性がある。
  10. 2014年5月11日にイランはセンティネルをコピーしたUAVを明らかにリバースエンジニアリングの成果として公表した。イラン版のUAVは捕獲したセンティネルの隣に展示されていた。
  11. 2014年11月10日にIRGC航空宇宙軍司令官アミル・アリ・ハジザデ准将から同機の初飛行に成功したと発表があった。センティネルのコピー機が飛行する様子のビデオが公開されている。
  12. 2016年10月1日に公開された写真でイランがRQ-170のコピー機を多数整備しているのがわかる。次に来るのは何か要注意だ。
new-iranian-drone-copy-rq-170-3
Image credit: Sepahnews, @Azematt