2022年9月2日金曜日

9代目となるUSSエンタープライズ(CVN80)の起工式が8月27日に行われました。若いオリンピック選手の贈ったことばがかっこいい。

 

次期エンタープライズになるフォード級空母が起工されました。以下、米海軍の広報資料からお伝えします


プログラム・エグゼクティブ・オフィス・エアクラフト・キャリア広報部発表資料

 

ァージニア州ニューポートニューズのHII-ニューポートニューズ造船所(NNS)で2022年8月27日土曜日、オリンピックメダリストのシモーン・バイルズSimone Bilesとケイティ・レデッキーKatie Ledeckyが、「ここに、USSエンタープライズのキールが真正かつ公正に敷かれたと宣言します」の言葉とともに、鋼板にイニシャルをチョーキングし、熟練溶接作業員がエンボス加工し未来のUSSエンタープライズ(CVN 80)のキールに貼り付けた。

 

レデッキーは全米最新鋭の空母の歴史的な起工式に出席し、バイルズはテキサス州スプリングから事前録音されたメッセージで参加した。5年前の2017年8月24日、バイルスとレデッキーは、USSジェラルド・R・フォード(CVN78)級空母の3番艦エンタープライズ建造の最初のマイルストーン、ファーストカットオブスチール式典に出席していた。

 

土曜日、NNSの溶接工エフォニー・キングとジョナサン・リショーが小さな鋼板に選手のイニシャルを溶接し終えると、NNSのリードリガー、マイク「チリ」ウィリアムズがレデッキー選手に無線機を渡し、レデッキー選手はNNSのクレーンオペレーター、チャーリー・ホロウェイに688トンのキールユニットをドライドックに下ろすよう命じた。これは、CVN80が完全に組み立てられると、エンタープライズの前方半分を支える部分だ。セレモニープレートは、キールに永久に貼り付けられる。

 

2022年4月5日、NNSがエンタープライズの最初の「スーパーリフト」でキールユニットを搭載して以来、エンタープライズ建造は予定通り進んでいる。最初の主要構造部材が設置され、作業員は、事前装備済みモジュールを結合し、乾ドックで空母の組み立てを続けている。

 

空母プログラムエグゼクティブオフィサー(PEO CV)のジェイムズ・ダウニー少将Rear Adm. James P. Downeyは、「これは艦とクラスにとって重要なマイルストーンです」と述べた。「造船所はUSSジェラルド・R・フォードとジョン・F・ケネディ建造から得た教訓を、エンタープライズ建造に適用しています。我々の業界パートナーは、統合デジタル造船のベストプラクティスをプロセスに適用しており、コストとスケジュール両面で効率化を実現している」。

 

ジェラルド・R・フォード級新造船計画室を率いるブライアン・メトカーフ大佐は、本艦の建造効率について例を挙げた。「CVN 80とCVN 81を2隻購入することで、初期建造プロセスで効率化が実現できました。また、大型スーパーリフトをあらかじめ装備した空母建造は、これまでのフォード級船体より大きく効率化しました」。

 

CVN80のドライドック建艦プログラムはスーパーリフト131基で構成する。これに対し、USSジェラルド・R・フォード(CVN78)は162基、未来のUSSジョン・F・ケネディ(CVN79)は155基のスーパーリフトで建造された。

 

エンタープライズは、アメリカ独立戦争でイギリス軍から捕獲後、1775年就役したスループ艦として誕生し、この名を冠したアメリカ海軍軍艦は9隻目となる。最後のエンタープライズ(CVN 65)は、1961年から2017年まで世界初の原子力空母として活躍し、現在は造船所近くに係留され、環境影響評価結果と廃棄方法に関し海軍の決定待ちだ。

 

エンタープライズの伝統

第二次世界大戦中、USSエンタープライズ(CV6)のチーフヨーマンを務めた99歳のビル・ノーバーグ退役兵曹は、起工式に出席し、建造者と船員が一体となった遺産を称えた。ノーバーグは、USSホーネット(CV8)から発進したドーリットル空襲やミッドウェー海戦など、太平洋戦争中の重要局面を直接目撃した。ノーバーグの「エンタープライズ」は、その名を冠した7隻目だった。

 

PEO航空母艦エグゼクティブ・ディレクター代理であるケヴィン・コーミアKevin Cormierは、ノーバーグがCV 6とCVN 80をつなぐ存在だと指摘した。「造船とメンテナンスは過酷で不朽の活動です。乗員に奉仕し、海上の挑戦に応える戦闘艦を準備する仕事は、これまで以上に重要です」。

 

設計・建造から不活性化・廃棄に至るまで、艦の全使用期間を通じ空母艦隊を建造・維持・支援する乗組員と艦の設計者・建造者の努力が連鎖的に存続する。コーミアは、ジェラルド・R・フォード級新造船プログラムオフィスの副プログラムマネージャーを兼務している。

 

式典出席者の顔ぶれ

エリック・レイヴン海軍次官Under Secretary of the Navy Erik K. Ravenが基調講演し、今回の式典の意義を語った。「この式典は、この造船所で、この国で、この日に、新たな艦の生命が、多くの世代のアメリカ国民、軍人、友人、家族、指導者、パートナー、同盟国に奉仕するため始まったことを示すものです」。

 

レイヴンはさらに、「先代のビッグEの目の前で、我々は今、次世代エンタープライズ、最新の未来の海軍艦艇、CVN 80のキールを置く」と宣言した。

 

レイブンはまた、2022年は空母運用100年の節目だと指摘した。1922年3月20日、USSラングレー(CV 1)は実験艦としてスタートしたが、すぐに「革命の触媒となり、海上戦闘を変え、海軍の活動範囲の拡大が証明された」と述べた。「空母は強さと希望の象徴となり、紛れもない米外交の代表として世界で認識されている。未来のエンタープライズは、海と世界の自由を守る我々のコミットメントの、もうひとつの確かなシンボルとなるだろう」。

 

レイブンは2022年4月13日に海軍次官の職責に就いた。海軍省の最高執行責任者(COO)および最高管理責任者(CSO)を務める。

 

米艦隊司令官ダリル・コードル大将Adm. Daryl Caudleは、「エンタープライズは、比類なき機動性と航続距離、先進の戦闘・制御・通信システム、艦内原子力発電、さらにおそらく最も重要な、前例のない速度と持続性を備えた最も堅牢かつ致死的な次世代攻撃機を運用できる能力など、その戦力を通じ統合抑止構想を進める鍵となる」と発言した。

 

このほか、ロブ・ウィットマン下院議員Rep.Rob Wittman(共、バージニア1区)、エレイン・ルリア下院議員Elaine Luria(民、バージニア2区)、ボビー・スコット下院議員Bobby Scott(民、バージニア3区)など、著名な参列者がいた。

 

エンタープライズ起工式には、ニューポートニューズ・シップビルディング社長のジェニファー・ボイキンJennifer Boykin、大西洋海軍航空部隊司令官ジョン・マイヤー少将RADM John Meier、PEO CV大将ジェームズ・P・ダウニー大将、ニューポートニューズの造船監督官ハンナ・クリーワルト大佐Capt. Hannah Kriewaldtら海軍と業界の代表が出席した。

 

艦のスポンサーについて

同艦のスポンサーは、国際的に名が通っている。レデッキーは、2012年、2016年、2020年の3大会で10個のメダルを獲得したオリンピック選手。オリンピック金メダル7個、世界選手権金メダル15個は、女子水泳選手として最多。レデッキーは、14の世界記録と37のアメリカ記録を更新した。6月に個人種目で世界選手権5連覇を達成した初の水泳選手となり、歴史に名を刻んだ。

 

バイルズ選手は、米国女子体操界で最多のメダルを獲得し、世界選手権とオリンピックで32個のメダルを獲得した。2016年と2020年の2回のオリンピックに出場し、米国の体操選手としては最多7個のオリンピックメダルを獲得した。バイルズは、メンタルヘルス啓発の提唱者としての活動が評価され、2022年7月7日に大統領自由勲章を受章した。

 

両親デイヴィッド・レデッキーとメアリー・ジェン(ヘーガン)・レデッキーが会場にいる中、世界チャンピオンレデッキーは、国の真のヒーローである労働者について話した。「しばしば認識されていない...非常に困難で大変な仕事で働き、実体を作り構築し...、国民の健康、社会、自由が保護されています」。レデッキーは造船所労働者に感謝し、「軍の戦力維持を支援することにより、皆さんは国の安全の維持を助けているのです 」と述べた。

 

レデッキーは第二次世界大戦中、太平洋の「最悪の戦いで」戦闘外科医として第一海兵師団に従軍した亡き祖父、エドワード・ジョーダン・ヘーガン医学博士の功績を振り返り、造船業者や軍属、家族の犠牲に触れた。

 

彼女は、水泳でも人生においても、持久力、不屈の精神、一貫性の重要性について語り、特徴は彼女お気に入りのトレーニングのマントラに反映されている。レデッキー選手は、「リードして、リードし続ける」、「近道はしない」をトレーニングの信条としている。

 

レデッキーは、「水泳のもう一つの大切な要素である効率性で、造船技師たちがそれぞれの仕事を完成させるために働きつつ、『ビッグE』の名声に恥じないように近道をしていないことが私にはわかります」と述べた。レデッキー選手はBig E "ファミリーに、「最終目標を念頭に、チームメイトの小さな勝利を祝い、...その過程でお互いを励まし合う」よう呼びかけた。

 

共同スポンサーのシモーン・バイルズ選手は、テキサス州スプリングにある自宅ジムから録音メッセージで、エンタープライズの伝統の一部であること、命名・引渡しに向け進む同艦の次の大きな節目を祝うことを誇りに思うと述べた。

 

ジェラルド・R・フォード級

ジェラルド・R・フォード級は、全長1,092フィート、幅124フィート、総トン数10万トンで、30ノット以上で航行可能な空母。フォード級は、従来型空母より少人数の乗組員で運用できる設計で、現行ニミッツ級と比較して、耐用年数50年間の総コストで大幅削減が期待されている。

 

将来のUSSエンタープライズは、2029年に不活性化される予定のUSSドワイト・D・アイゼンハワー(CVN 69)の後継となる予定だ。■

 

Keel Laying commemorated for third ship in Gerald R. Ford-Class, the future USS Enterprise (CVN 80)

 

29 August 2022

 


MALDデコイにより米空軍は敵防空網を突破し、強力な攻撃実施を目指す。米軍機電子声紋のみまらず、EW攻撃能力まで付与された最新型二注目

 

ADM-160 MALD(ミニチュア空中発射デコイ)は、その名の通り、巡航ミサイルのように航空機から発射される小型装備で、現役の米軍各機のレーダー特徴を模倣する。MALDは敵の地対空ミサイルを破壊できないが、高度な統合防空網を排除するため大きな役割を果たす。



全長9フィート、重量300ポンドのMALDはこの機能SAS音紋補強サブシステムを通じ発揮し、広範囲の周波数で発信するアクティブ・レーダー・エンハンサーを活用し、ミサイル型のMALDを、ステルスの元祖F-117ナイトホークからB-52など大型爆撃機に至るまで各種機種で、防御レーダー・システムを誤動作させる。


MALDの取り組みは1990年代に始まった。湾岸戦争でアメリカがADM-141戦術空中発射デコイ100機以上を連合軍航空機に先駆けイラクに展開し、イラク軍指揮官の目を欺き防空レーダーアレイを作動させることに成功した。敵レーダーが作動すると、連合軍航空機はAGM-88 HARMなど対レーダーミサイルで交戦し、その後の航空作戦のためイラク上空を安全にするのに極めて有効な手段となった。


ADM-141 TALDを発進させるF-14トムキャット (Wikimedia Commons)


しかし、1990年代後半にMALDの開発は減速し、システム・コストを低く抑える目標が遠のいた。2002年に空軍はMALDコンセプトを一新する準備をし、3万ドルのADM-160Aを廃棄し、レイセオンのADM-160Bという、大型で性能の高い、単価12万ドルの新型を採用した。


2016年には、ADM-160C MALD-Jが正式に就役し、他の航空機のレーダーリターンを模倣できるオリジナルのSignature Augmentation Subsystemだけでなく、CERBERUSという名称で開発されたモジュール式電子戦能力も組み込まれた。CERBERUSは単一ジャマーではなく、1分以内で交換できる各種電子戦(EW)ペイロードを提供し、戦場の状況に合わせてEW攻撃を行うことができるようになっている。


ADM-160 MALDの能力を示すイメージ図。


言い換えれば、小型で消耗品のMALD-Jは、F-16かB-52で戦場に運ばれ、あらゆる種類の航空機の到来と敵の防空体制に勘違いさせ、早期警戒と標的レーダーアレイを妨害し防衛軍の対応をさらに困難できる。


MALD-Jは、海軍のEA-18Gグラウラーのような電子戦専用機ほど広範な能力や威力はないものの、EWペイロードを交換して効果を発揮できるため、非常に有効なシステムだといえる。また、MALDは回収不能(消耗品)であるため、グラウラーより敵防衛システムに近い地点を飛行でき、発信範囲の減少を相殺できる。


米海軍のEA-18Gグラウラー電子攻撃機は、世界で最も高性能なEWプラットフォーム (U.S. Navy)


現在使用中のMALDは、500マイルをカバーし、1時間以上滞空でき、その間に周辺のレーダーオペレーターの作業を複雑化させる。最新型のMALD-Xは、暗号化データリンクと、高度なEW機能を備え、他の機体から情報を取得できる。


これまでのMALDは発進後、事前収集した情報に基づきプログラムされた飛行経路を飛行し、経路がどれだけ有効であったとしても、ミッションに参加できなかった。しかし、MALD-Xでは、戦闘中にコマンドを発行し、戦況の変化に応じ飛行経路を変更できるようになった。このような進化を遂げ、2018年に飛行試験実証が完了した。MALD-Xは最終的に、MALD-Nと呼ばれる海軍向けシステムになる予定だ。


ADM-160 MALDの想像図 (U.S. Air Force)


高度の防空能力を有する国との大規模紛争では、ADM-160C MALD-Jが敵領空を真っ先に通過する可能性が高い。この妨害デコイを巡航ミサイルや航空機と一緒に大量投入すれば、防空システムはスコープに映るレーダーが本物か架空か見分けなければならず、しかも妨害機能で送られてくる静電気を選別しなければならなくなる。


敵空域に殺到する現実のレーダーリターンや模擬レーダーリターンに迎撃ミサイルを発射すれば、これらのシステムはAGM-88やF-35が搭載する予定のAARGM-ERなどの対レーダーミサイルの攻撃の前に弱く、同時に地対空ミサイルの貯蔵量も枯渇させる。


MALDの使用イメージ


より限定的な戦闘では、例としてF-15Eストライクイーグルが目標に接近する様子をMALDの編隊が表現すれば、敵の注目を集め、より高い高度を飛ぶF-35が目標に弾薬を展開することも可能だろう。


このように戦闘戦術をミックスし、過去の実戦で活用された戦術をMALDで再現することで、高い有効性を維持することができる。レーダーに映る戦闘機や爆撃機の群れを無視するのは、たとえそれが囮(おとり)であると分かっていても、リスクが高すぎる。


さらに、JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)のような長距離の低視認性巡航ミサイルを加えれば、A-10やB-52、さまざまな戦闘機、あるいはRapid Dragonプログラムにより貨物機までもが大規模戦闘に加わる。

MALDを広範な統合戦略の一部として使用することで、アメリカは第二次世界大戦中の空襲を彷彿とさせる航空戦へのアプローチに復帰できるだろう。ただし、現代の戦闘では、敵のレーダースクリーンに実際に表示される目標のほとんどは実在せず、ステルス機や巡航ミサイルの脅威は、照準スコープにまったく表示されないかもしれない。


どんな相手にとっても非常に難しい問題となる。■


ADM-160 MALD: America's secret weapon to engage air defenses isn't a weapon at all - Sandboxx

Alex Hollings | August 18, 2022



Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


2022年9月1日木曜日

ウクライナへの供与もあり、台湾含む各国への装備品納入が大幅に遅れている。問題解決は可能だろうか。

 



Photo: Taiwan Ministry of National Defense via AP


月初め、ナンシー・ペロシ米下院議長の台北訪問に対抗し、中国が海峡で過去最大の軍事演習を行った際、弾道ミサイル東風が10発近く台湾上空を通過した。



 この訓練では、中国海軍が初めて台湾の東側に展開し、台湾を完全包囲した。中国のメッセージは明確だ。北京は容易に台湾を封鎖し、世界のサプライチェーンに大打撃を与え、米国や同盟国が台湾軍に武器を提供するのを妨げることができる。

 この事件を受け、米国議員たちは、中国による台湾封鎖、あるいは侵略を阻止するため、いわゆるヤマアラシ戦略として、台湾にできるだけ多くの兵器を輸出する必要性を強調している。ただし、台湾は米国からの140億ドル相当の対外軍事売却の未引き渡しに直面している。

 米国は台湾向け兵器売却が、中国による台湾攻撃を抑止するため不可欠と見なしているにもかかわらず、いまだに実現できていない取引には、2017年まで遡るものがある。

 上院外交委員会の共和党スタッフ、ララ・クラウチLara Crouchは8月のヘリテージ財団のパネルで、「状況が悪化する前に、台湾の能力整備で新しい展開を見る必要がある」と述べた。「究極の目標は、台湾が強化され、(中国人民解放軍を)阻止するため最良の立場に立つことであり、我々の対応で選択肢を与えることだ」。

「アメリカの台湾への武器売却政策と、北京からの脅威がどの程度増加するか減少するかとの間には、恒久的な関連性が不可欠だ」とクラウチは付け加え、武器は台北に「侵略、サイバー攻撃、その他のシナリオに自衛する能力」を与えると指摘した。

 議会は、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドへの武器売却の遅延の可能性と同様に、台湾への武器送付の遅れを解決すべく動いている。

 下院外交委員会のグレゴリー・ミークスGregory Meeks委員長(民主党)はDefense Newsに対し、同委員会は「必要な防衛装備品をより迅速に提供するため、迅速化とお役所仕事の軽減を支援する法案を現在作成中」と語った。

 一方、膨大な兵器の引き渡し遅延は、やっかいで動きが遅い対外軍事販売プロセスが、太平洋地域における北京を抑止する米国の努力を蝕んでいる様子を物語る。

 政府の対応遅れ、サプライチェーン問題、生産要件など理由は様々で、この問題を解決するのは簡単ではないと、同委員会の上級委員であるテキサス州選出のマイク・マッコール下院議員(共)Rep. Mike McCaulはDefense Newsに語っている。「巨大船の向きを変えるようなもので、非常に複雑な問題だ」と述べた。


プロセス

対外軍事売却のプロセスは、潜在的な顧客が特定の米国製兵器システムの要請書を提出した時点で正式に始まる。その後、国防総省と国務省でそれぞれ審査を行い、機密技術の開示リスクや利害関係国の潜在的な人権問題など、さまざまな問題を評価する。

 審査が終わると、国務省が売却承認を決定し、それが米国の国家安全保障上の利益に資することを証明する。その場合、国防総省の国防安全保障協力局は、該当取引を公表し、議会に正式通知する。30日間の議会審査期間を経て、米国政府は外国の購入者に正式な申し出と承諾の書簡を送る。

 これが、最終的な契約締結まで数年に及ぶこともある長いプロセスだ。そして、米国兵器メーカーは国防総省から最終契約を受け取るまで、生産を開始しない。

 扱いにくい対外軍事販売プロセスの問題は何年も続いているが、最近の防衛産業基盤におけるパンデミック関連のサプライチェーン問題が、遅れをさらに悪化させている。

 納品が遅れる原因について、クラウチは次のように語っている。「この件では、いつも多くの非難が浴びせられますが、実際には販売内容によるものなのです。「国務省の問題であることもあれば、国防総省の問題であることもある。そして、業界の問題でもある」。

 米国政府は、台湾が受領を待つ10種類の兵器システムの売却を承認しており、うち数点は、納入が10年後となる予定だ。

 米国は現在ウクライナとそのヨーロッパの同盟国への武器提供に集中しており、ウクライナ軍はロシアの侵攻を防ごうとしている。

 米国は、ハープーン対艦ミサイル、スティンガー対空ミサイル、高機動砲ロケットシステムなど、台湾向けの一部を含む数十億ドル相当の武器をウクライナに送った。


米国は、台湾への物品が滞っているにもかかわらず、ウクライナにハープーン対艦ミサイルを送った。(U.S. Navy)


ラジャ・クリシュナモルティ議員Rep. Raja Krishnamoorthi(民、イリノイ州選出)は、ペロシ議長(カリフォルニア州選出)に加わった訪台後の記者会見で、「ウクライナに供給するニーズを考えると、防衛産業基盤のサプライチェーンへのストレスは増大している」と述べた。

 ウクライナが中心的な役割を果たす一方で、台湾はワシントンが送ると約束した品目の列で、他のいくつかの国の後ろに残っている。

 例えば、ロッキード・マーティンF-16の生産待ち行列では、中東や東欧数カ国が台湾より先行している。2019年、国務省は台湾に80億ドルで同戦闘機66機を売却することを承認したが、台北が同機を受け取るのは2026年の見込みだ。

 「サウジアラビアは、台湾よりも優先順位が高いことがある」と、ウィスコンシン州選出の共和党マイク・ギャラガー議員Rep. Mike Gallagherは、7月の台湾のワシントン特使との会談を前に、Defense Newsに語っている。「我々は状況を注視する必要がある」 と述べた。

国防総省は、台湾や他の太平洋地域のパートナーへの未実施契約だけでなく、コメントを求めるDefense Newsの繰り返しの要求に答えていない。

 トランプ政権下で駐日大使を務めたテネシー州選出のビル・ハガティ上院議員(共)Sen. Bill HagertyはDefense Newsに、「滞留は対日軍事売却プログラム全般で恒常的に見られる持続的な問題だ。パートナー各国で発生している」と述べた

 承認プロセスが円滑に進んでも、売却が失敗に終わることもある。例えば、日本が購入予定していたイージス・アショア・ミサイル防衛システムのキャンセルだ。日本は当初、北朝鮮ミサイルの脅威を防ぐためイージス・アショア防衛システムの購入をめざし、初期費用と30年間のメンテナンス費用合わせ21億5000万ドルになると見積もっていた。

 国防安全保障協力庁は、売却を2019年に公示した際、日本のコスト見積もりを使用していたが、同見積もりは非常に不正確だった。

 日本はその後、総費用は41億ドルで、当初評価のほぼ2倍になることに気づいた。

イージス・アショア・システムの設置が予定されている日本の2つの地方では、防衛省が現地を訪れる代わりにGoogle Earthでを選定したという報告を受けて、国民の反発が起こった (Mark Wright/U.S. Missile Defense Agency)


米国の同盟国にとって、低レベルの兵器コストを正確に把握することは困難であり、イージス・アショアのような高度システムでは、さらに複雑になる。

 イージス・アショア設置が予定されている日本の2つの地方では、日本の関係者が現地を訪れずグーグルアースを使い設置場所を選定したとの報告を受け、国民の反発が起きた。

 米国から承認されたにもかかわらず、日本は2020年に購入を断念した。国民の反発を理由にしたものであり、資金予測の誤りは理由ではない。


問題への対処

現在、米国議会は、このプロセスを改善し、ひいては同盟国への武器納入を迅速化することを目的としたさまざまな取り組みを開始している。

国防総省と国務省はそれぞれ、外国への軍事売却を承認するまでに数カ月から数年かかることもある審査を行っている。このプロセスを早めようとする議会スタッフは、ある審査を特に改革するよう求めている。

 国防総省の国家情報公開政策委員会が、機密扱いの技術を潜在的な顧客に移転することが米国の国家安全保障上の利益になるかどうかを評価する技術安全保障・対外情報公開審査は、1年以上かかることもある。特にアジア顧客への先進的な武器販売では、紛争時に機密技術が中国の手に渡る可能性があるため、このような事態が発生する。

 クラウチによれば、議会は、完全性を維持しつつ、審査を短縮することに関心を持っている。

 「私たちは、こちらの技術をどこにでもばら撒きたいとは思いませんし、保護する必要があります」。「プロセスの改善方法を考える必要があります」。

 上院は、外交委員会が台湾政策法案を9月に採決する際に、台湾への納入遅れに対処する具体的な行動の最初の一歩を踏み出す。

 超党派の同法案は、対外軍事援助(外国に補助金や融資で米軍の装備を購入する能力を与えるプログラム)を通じ、台北に45億ドルの軍事援助を提供する。

 この援助は台湾が米国製武器を購入するのに役立つが、武器売却の滞留が続く限り、意義は薄くなると法案作成者は考えている。そのため、法案は国防総省と国務省に台湾への軍事売却に「優先順位をつけ、迅速に行う」よう要求している。

 さらに、国防総省と国務省は、防衛メーカーが複数契約で兵器システムを同時製造するバンドルルートによる売却を遅らせることを禁止する。

 また、同法案は台湾を非NATOの主要同盟国として指定し、武器輸出を促進する。また、大統領が「台湾のために、軍需品の備蓄を設立する」ことを可能にする。


揚陸強襲揚陸艦ワスプでスティンガー模擬弾を発射する米海兵隊員。米国はウクライナに数十億ドルの武器を送り、スティンガー対空ミサイルなど、台湾への引き渡しが遅れている品目も含まれている (Cpl. Ryan G. Coleman/U.S. Marine Corps)


この備蓄で、米国は台湾に軍需品や潜在的に他の資産を事前配置し、中国の攻撃に対し投入できるようになる。同法案では、2025年まで年間5億ドルを事前備蓄に充てることになっている。

 同法案は、台湾、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドへの2500万ドル以上の外国軍売却について、国防総省と国務省に2017年まで遡り報告することを義務付けるもので、下院外交委員会は先月、武器売却プロセスについて広範に扱う武器輸出納入解決法案を賛成票によって可決したところだ。

 カリフォルニア州選出の共和党ヤング・キム議員 Rep. Young Kimが提出した同法案では、報告書に、対象国への武器納入予定が遅れる理由を詳述する一方、滞留で生じるギャップを埋める暫定能力の特定を求めている。各議員はキム議員による法案を年次国防承認法案の修正案として追加し、下院は先月、329-101で可決した。

 外交委員会のトッド・ヤング上院議員Sen. Todd Young(共和党、インディアナ州選出)によれば、これまでのところ、滞貨に対処するため議会の活動の多くは「非公式」なものだったという。しかし、努力の一環として、「台湾への装備納入を早めるためできる限りのことをするようサプライヤーに圧力をかける」ことが含まれているという。

 マッコール議員は、米国製兵器に対する需要の高まりに対応するため、防衛メーカーは「革新性、敏捷性、柔軟性」をもっと発揮し生産規模を拡大すべきであると述べた。

 また、ハガティ議員は、軍事売却の問題点を解決するための「タイガー・チーム」に触れた。

 タイガー・チームとは、特定の問題を解決するため集められた技術専門家グループだ。ハガティ議員は、米国と相手国の専門家が、安全保障評価の違いや手続き上の障害など、武器売却プロセスにおける最も厄介な問題を解決するためのグループを想定している。

 台湾の場合、軍事売却プロセスを正式に開始する要請書を提出する前に、台湾が必要とする兵器の評価、コストの予測、米国から機器を調達するための予算の可決に2年以上かかることもある。

 タイガー・チームは、正式に売却開始する前に、ワシントンと台北の間のコミュニケーションを改善し、潜在的問題で対立を解消することにより、時間を短縮できる可能性がある。ハガティ議員は、駐日大使時代にタイガー・チームを活用し、日本向け売却のタイムラインを短縮する「プロセス改善の機会」を見出したという。

 ハガティ議員は、「対外軍事売却プロセスの時間を短縮する改善をまとめ、滞貨を減らすために多大な努力を払ってきた」と語った。「外国政府のパートナーも、プロセス改善の機会を求めている」。

 2020年-ハガティが上院議員に立候補するため大使を辞任した翌年、日本が2015年に国務省が承認したRQ-4グローバルホーク偵察機3機の購入中止を検討しているとの報道がでた。問題は、米空軍がノースロップ・グラマンの無人機を購入中止したため、システムのコストが23%上昇する予測があったことだった。

 しかし、不運なイージス・アショア売却とは異なる結末となった。日本は、コストアップが予想されるにもかかわらず、最終的にRQ-4購入を進める選択をした。ノースロップ・グラマンは2021年に日本向けの無人機の試験飛行を開始し、今年中に納品する。■


Taiwan is buying US weapons, but Washington isn’t delivering them

By Bryant Harris

 Aug 31, 12:00 AM



About Bryant Harris

Bryant Harris is the Congress reporter for Defense News. He has covered U.S. foreign policy, national security, international affairs and politics in Washington since 2014. He has also written for Foreign Policy, Al-Monitor, Al Jazeera English and IPS News.


ウクライナ戦で落ちたロシア製軍事装備の評価。武器しか工業輸出品がないロシアにとって痛い。しかし、ロシア人はなぜ公然と嘘をつけるのか。

 

Su-75チェックメイトとSu-57ステルス戦闘機。 Image Credit: Creative Commons.

 

クライナ戦争が始まる前、軍事アナリストほぼ全員が、はるかに高度な武器と装備を持つロシアがウクライナを席巻し、数週間で占領すると見ていた。

 

 

 しかし、そうはならなかった。

 その結果、ロシア軍は恐ろしいほどの死傷者を出し、武器や装備の損失も相当なものになった。情報不足、過信、訓練不足、士気の低下など、理由は多数あるが、それ以外の状況も浮かび上がってきた。

 その一つは、ロシア軍の最新兵器が、米国や西側諸国の装備と同等かそれ以上であると宣伝し、海外販売を促進しようとしてきたが、宣伝だけであったということである。実際、ロシアの先端兵器の多くは、宣伝されているほど高度ではない。

 では、なぜロシアの先端兵器が失敗するか。過去数十年間、ロシアはアメリカに追いつくために、新しい戦闘機、ステルス機、新型爆撃機など、多数の装備を作ろうとしてきた。 今回も理由はいくつかある。ロシアの先端兵器と、誇大広告と差がある理由を見てみよう。

 

プーチンの帝国探求が軍事近代化を阻害した

 

プーチンは1999年に政権につき、25年近く政権を維持してきたが、国営の政府系ニュースメディアで本人がシナリオをコントロールしていることも少なからず影響している。国民はクレムリンの言い分だけを受け取るので、プーチンは国民から人気を保っている。自由な報道はなく、肯定的なニュースや出来事を伝える。

 しかし、旧ソ連の崩壊を嘆き、自らを新たなピョートル大帝と公然と喧伝する彼の攻撃性がロシアの先端兵器開発を阻害している。

 軍事目的よりも政治的な目的を優先してきた。ロシア経済は彼が宣伝するほど強固ではないが、それでも彼はソ連時代の戦術であるハイブリッド戦を続けた。ロシア経済はNATOや西側との長期戦に耐えられないので、これで軍事力の使用を節約している。そして、その戦略の一環として核兵器の脅威がある。

 プーチンのドミトリー・ペスコフ報道官は、露骨な警告を発した。「国内安全保障の概念があり、それは公開されている」とCNNに語った。「核兵器が使用される理由はすべて読むことができる。存亡の危機、我が国にとって脅威であれば、我々の概念に従って使用する」。

 ロシア侵攻後の経済制裁は、武器輸出の目標を押し上げている。

 

ロシア兵器は西側チップを内蔵している

 

ロシア侵攻によって打ち出された経済制裁で、ロシア軍も影響を受けている。経済制裁で、ロシアは交換部品や装備品の生産能力を失った。さらに驚くべきことに、ロシア兵器にはアメリカやヨーロッパの技術が大量に組み込まれている。

 6月、ウクライナの諜報機関と協力する米調査官が、ロシア兵器を可能な限り調査した。ほぼすべての兵器に、マイクロチップ、回路基板、エンジン、アンテナなど、西側技術が使われていた。

 戦争が始まり、制裁が課されて以来、ジーナ・ライモンド商務長官Commerce Secretary Gina Raimondoは、チップ不足がモスクワの武器や装備の生産能力を麻痺させているかと聞かれ「無条件にイエス」と答えている。

 「半導体含む輸出規制のカテゴリーでの米国の対ロシア輸出は、2月24日以来90%以上減少した」「だから不自由なのです」

 

ロシアの "先進的 "兵器は先進的ではない

 

ロシアの先進的な兵器の多くは、宣伝文句通りの性能を発揮していない。ロシアはSU-57を 「第5世代のステルス戦闘機」と宣伝している。しかし、Sandboxxニュースでアレックス・ホリングスは、「Su-57は地球上で最悪のステルス戦闘機か?」という正当な質問を投げかけた。

 1980年代のFA-18ホーネットと同程度のレーダー断面積で、ステルスモードを実現するため必要なエンジンがまだ納入されておらず、ロシア航空宇宙軍は第4世代のSu-35Sにも搭載されているサターンAL-41F1エンジンを使用せざるを得なかった。その結果、性能は低下し、ステルス性も失われている。

 モスクワは、センサーとエイビオニクス・パッケージがF-35共用打撃戦闘機に匹敵すると主張したが、航空アナリスト多数は、これは典型的なロシアの威勢の良い発言に過ぎないと考えている。ロシアはSu-57を4機生産すると考えられているが、1機は納入前に墜落した。その結果、現役で使えるのは3機だけだ。

 Kh-101空中発射巡航ミサイル(ALCM)は、ウクライナ目標に対する長距離攻撃で何度も失敗したことで悪名高い。3月には国防総省高官が「発射に失敗するか、標的に命中しないか、接触しても爆発しないかのいずれかだ」と発言して話題になった。

 T-72主戦戦車は、第一次湾岸戦争以来証明された自動装填式砲で設計上の欠陥がある。ロボット戦車ウラン9は、歩兵支援用の進化形と言われていた。30ミリ自動砲、対戦車誘導ミサイル、火炎放射器などで武装している。モスクワによると、操作員から2マイル近く離れても操作できる。これはまったくの誇張された表現だった。

 ロシアはシリアで同装備をテストしたが、ひどい出来だった。戦車が制御装置からの視線から外れると、信号が途絶えた。30mm砲発射にも問題があり、照準が安定しないため移動中に発射することができなかった。また、走行軌道の信頼性が低く、頻繁に現場での修理が必要だった。

 

Su-75

Su-75 artist rendition.

 

 

 リストはまだ続くが、ロシアの最新兵器の正確な姿をお伝えしたつもりだ。

 ウクライナ軍はモスクワを膠着させ、南部のケルソン周辺で反攻を展開中だ。ロシア戦車隊は壊滅状態であり、機甲部隊に古参兵のT-62戦車などを配備している。ロシアの力の神話は、崩れてしまった。

 

Russia's Military Has a Serious Problem: They Can't Build Advanced Weapons - 19FortyFive

BySteve Balestrieri

 

WRITTEN BYSteve Balestrieri

Steve Balestrieri is a 1945 National Security Columnist. He has served as a US Special Forces NCO and Warrant Officer before injuries forced his early separation. In addition to writing for 1945, he covers the NFL for PatsFans.com and his work was regularly featured in the Millbury-Sutton Chronicle and Grafton News newspapers in Massachusetts.


イランが公海上で米海軍無人艇を拿捕しようとしたが、米海軍に阻止された事件が発生。無人装備の拿捕リスクが浮き彫りになった。

 

U.S. Navy photo

今回の事件は、無人装備の利用が急速に拡大する中で、盗難リスクという未解決問題を浮き彫りにした

 

ランのイスラム革命防衛隊海軍(IRGCN)は昨日、アラビア湾で米海軍第5艦隊の無人水上艇セイルドローンを拿捕しようとした。イラン側はその後、無人艇を解放した。今回の試みは、無人装備が拿捕の脅威に直面しているとの懸念を浮き彫りにした。

米海軍の公式発表によれば、事件は現地時間8月29日午後11時頃、第5艦隊が公海を通過中、IRGCN支援艦Shahid Baziarを確認した際に発生した。同艦が米国の無人探査機「セイルドローンエクスプローラー」(USV)を曳航しており、IRGCNが同艦を捕獲しようとしたと海軍は主張。

イラン・イスラム革命防衛隊海軍の支援艦Shahid Baziar(左)が、Saildrone Explorer無人探査機を不法に牽引している映像のスクリーンショット。. Credit: U.S. Navy

これを受けて、警備艦USSサンダーボルト(PC-12)が付近での作戦から方向転換し、ヘリコプタ海上戦闘飛行隊26がMH-60Sシーホークを非公開場所から発進させ、事態対応を支援した。第5艦隊と第26ヘリコプタ海上戦闘飛行隊はともにバーレーンに司令部を置き、アラビア湾を拠点に活動している。海軍の報告によれば、4時間後に、IRGCNはUSVの曳航線を外し、それ以上の混乱はなく、海域を離れたとされる。

米海軍中央司令部および第5艦隊(NAVCENT/5th Fleet )司令官のブラッド・クーパー中将Vice Adm. Brad Cooper,は、「IRGCN の行為は非道、不当で、プロの海上部隊の行動と矛盾している」と述べた。「米海軍は警戒を怠らず、国際法が許す限り飛行、航行、作戦を継続し、地域全体でルールに基づく国際秩序を推進する」。

「USSサンダーボルトの乗組員のプロ意識と能力により、イランの違法行動を阻止した。米中央軍(CENTCOM)司令官マイケル・クリラ大将Gen. Michael Kurillaも別の声明で「今回の事件は、イランが中東で不安定化、違法、非専門的な活動を続けていることを改めて示した」と付け加えた。

2014年の編隊訓練で、他のPCと並走する沿岸警備船USSサンダーボルト(PC12)。Credit: Mass Communication Specialist 2nd Class Taylor M. Smith/U.S. Navy

太陽電池で動くUSV「Saildrone Explorer」は、海軍第5艦隊が運用する無人システムの一つで、2021年に紅海北端のアカバ湾で最初のミッションに投入された。デジタルホライズンと名付けられた実証実験の一環として、同ミッションは、第5艦隊の任務部隊の1つタスクフォース59が監督した。同部隊は、センサーと無人技術を組み合わせ、より強固な情報収集能力を確立し、海上における領域認識の向上を支援する無人システム運用に重点を置いている。

Saildroneの状況把握の役割を知っていれば、海軍が胴装備の異常な動きを察知し、第5艦隊の対応を促したと考えるのが妥当だろう。しかし、海軍の声明には詳細が記載されておらず、それが事実かどうかは不明だ。また、何らかの理由で使用不能になった可能性もある。The War Zoneはこの件に関して、NAVCENT/第5艦隊に問い合わせたが、返事はまだ来ていない。

国際海上演習/Cutlass Express 2022でアカバ湾を航行するSaildrone Explorer無人水上艦。 Credit: Mass Communication Specialist 2nd Class Dawson Roth/U.S. Navy

また、海軍は発表で、セイルドローンはセンサー、レーダー、カメラなどを備えた米国政府所有物であるが、航行とデータ収集を市販技術で構成していることを指摘したことも重要な点だ。このため、セイルドローンは幸いにも、盗難未遂の時点で機密性の高い情報やシステムを保存していなかった。

イラン軍が他国の海洋装備を押収するのは、以前からある。最近では、IRGCNがホルムズ海峡で、7,200トンの「石油系化学物質」を積んだ韓国籍タンカーを押収した。IRGCN はその後、沿岸部のホルモズガン州検察庁が環境プロトコル違反で出した令状に基づき、同国の港湾・海事機関から押収の要請があったため、押収したと主張している。今週の事件後、IRGCNがSaildroneが国際協定に違反と主張するかどうかが興味深いところだ。

しかし、無人船に人間が乗っていないことは、IRGCNが今週行ったような敵対的行為へる障壁を著しく低くする。乗員がなければ、死亡事故や捕虜の奪取など、より不安定な国際紛争を引き起こす可能性のある行為も起こらない。

2021年1月4日、韓国籍のタンカー「Hankuk Chemi」に群がるIRGCのボート。 Credit: Tasnim News Agency

2019年にイランが海軍のグローバルホークを撃墜し、米国が人的被害や捕虜の獲得がなかった航空機への攻撃に対し適切な反応を決定するのに苦労した事例があったが、対応側にも同様の複雑さがある。この状況は、米国政府の資産が破壊されたことを考慮すると、セイルドローン事件と大きく異なるが、それでも対応を決定する上で同様の問題が浮き彫りになった。米国は懲罰的攻撃を検討したが、最終的に断念した。

この問題は、海軍が多層的な無人艦艇部隊を拡大するにつれて、複雑になっていくだろう。今年のリムパック中の(PHOTOEX)では、海軍の無人試験艦が各国の海軍と一緒に航行し、その姿を垣間見ることができた。

環太平洋戦略的経済連携協定(リムパック)2022で航行する艦船。USS Michael Monsoorを先頭に、左端に無人艦の列が見える。Credit: Mass Communication Specialist 3rd Class Dylan Lavin/U.S. Navy

 

USVDIV-1と呼称された同部隊は、Sea Hunter、Seahawk、NomadとRangerの名称のGhost Fleet Overlordオフショア支援船2隻で構成された。USVDIV-1は、ズムウォルト級駆逐艦3隻と無人水上艦が所属する実験部隊「Surface Development Squadron One(SURFDEVRON)」に所属している。SURFDEVRONは、2045年までに150隻の無人艦を開発する海軍の目標達成に向け、ハイエンド無人水上装備運用と技術の進化に磨きをかけるため、国防総省が今年初めに終了させたGhost Fleet Overlordを引き継ぐ。

人命を守ることが、無人システム普及を支持する顕著な論拠の1つであることは間違いない。また、無人システム、特に艦船には他にも多くの利点がある。しかし、船舶から生身の船乗りを排除することは、IRGCNのような違法行動が拡散する機会を招き、特定の状況下では、国防総省が対処をせまられそうだ。また、将来の無人水上艦は、より繊細な装備や武器を搭載するだろう。

今回の事件はほぼ問題なく解決したように見えるが、このような行為の将来はより不確実である。■

Iran's Attempted Theft Of U.S. Navy Drone Boat Is Likely A Sign Of What's To Come

BYEMMA HELFRICHAUG 30, 2022 8:38 PM

THE WAR ZONE