2020年11月23日月曜日

中国軍の侵攻を食い止められるか。通常兵器アクセス戦略、海洋プレッシャー戦略提言に見る新しい米軍作戦構想

 

米シンクタンクの構想を米軍は実現することが多く、実際に米海兵隊の最近の動向をみるとすでに今回の提言内容は現実になっている感があります。テニアン島など再整備が行われていますが、問題は記事が指摘するように残存性であり補修能力の確保でしょう。日本も宮古島にやっと駐屯部隊が生まれましたが、同様に残存性を確保して中国を悩ませる存在にできるかが問題でしょうね。



珠湾を上回る効果の奇襲攻撃で勝利を収める可能性ありと見て北京は台湾制圧に踏み切るだろうか。既成事実づくりを米政策立案部門は最も嫌う。


非核兵器で中国が奇襲攻撃してくるのを打破する方法を米軍は模索すべきとアナリスト、サム・ゴールドスミスSam Goldsmith が海軍大学校研究誌に寄稿している。


「中国は米国が相手の高じん度対戦の場合に核兵器投入を自ら制限する可能性が高い。中国は長距離通常兵器による戦域レベル攻撃の手段を保有している」とゴールドスミスは「米国の通常兵器アクセス戦略で中国の通常兵器先制攻撃能力を打ち消す」“U.S. Conventional Access Strategy: Denying China a Conventional First-Strike Capability”で記している。


「こうした戦略通常兵器による先制攻撃の選択肢に中国が進むのを米国は効果のある通常兵器アクセス戦略でも阻止すべきである」



太平洋での領土をめぐり米国と開戦になった場合、中国軍は日本、グアムのほか洋上の米前方配備部隊を無力化する可能性が高い。次に人民解放軍は西太平洋に向かう米増派部隊を攻撃するはず、とゴールドスミスは見る。


この戦略でPLAは傘下の四軍、陸軍、海軍(PLAN)、空軍(PLAAF)、ロケット軍(PLARF)を投入する。PLAN潜水艦部隊は米艦船、潜水艦を洋上あるいは港湾内で雷撃し、陸上目標を巡航ミサイルで攻撃する。


PLAAFは地上待機中の米軍機、洋上あるいは港湾内の米艦船潜水艦を攻撃する。PLAAF機材が空中発射する長距離ミサイルあるいは中国本土から発射する通常弾頭弾道ミサイルで米軍基地が攻撃を受ける。


「米軍は通常兵器アクセス戦略を導入し、PLAによる介入対抗戦略counterintervention strategyとバランスを取るべきだ」というのがゴールドスミスの提言だ。「目的は中国による通常兵器先制攻撃への抑止効果を米軍に与え、必要に応じPLA長距離攻撃能力を低下させ、米軍増派部隊の到着を容易にすることにある」


米軍による通常兵器アクセス戦略は四種類の戦力が必要だ。①戦域レベルの受動的防衛で前方配備米軍部隊にPLA先制攻撃に対し残存性を高める。


②通常兵器アクセス戦略により米軍は開戦直後からPLA戦力を低下させ、空中給油機や航空施設を使えなくする。


③戦域レベルの補修能力でPLAによる通常兵器攻撃で損傷を受けた滑走路を再度使用可能にする。


④迅速対応能力で米軍の長距離爆撃機、戦闘機を西太平洋各地の基地に迅速展開し、補修作業を完了したばかりの滑走路で事前配備した航空燃料や対地貫通通常型兵器を利用する。


ゴールドスミス提言と関連するものとして2019年5月発表の戦略予算評価センター(CSBA)による構想がある。


CSBAは中国の優位性否定につながる「海洋プレッシャー軍事戦略による内部からの防衛作戦構想 inside-out defense operational concept」をペンタゴンに提言していた。


「海洋プレッシャー戦略では中国指導部に対し西太平洋での軍事侵攻は失敗に終わると理解させ、結果として実施を踏みとどまらせる」とCSBAが説明していた。


米陸軍、海兵隊部隊に移動式ロケット発射装置を配備し、若干の米艦船や小規模空軍派遣部隊が支援し中国付近の島嶼部から中国軍の移動線内を攻撃する。


こうした「内部配備」部隊により中国の防衛線に穴が生まれる。


「内部からかく乱する防衛構想の実施のためには中国ミサイル射程内で米軍部隊は残存性を確保する必要がある」のでリスクもあるとCSBAは認めている。


ゴールドスミス提言ではこうした部隊は中国軍の攻撃を生き残り、増派部隊の到着を待つ前提だ。陸上装備ロケット弾、迅速補修、補給物資投下で米軍部隊は立ち直り、中国軍の前進を阻み、奇襲攻撃をかけると見る。■


この記事は以下を再構成したものです。


What If China Launched a Surprise Attack on the U.S. Military?

November 22, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: ChinaMilitaryTechnologyMissilesA2/adWarHistory

by David Axe 


David Axe served as Defense Editor of the National Interest. He is the author of the graphic novels  War Fix, War Is Boring and Machete Squad


2 件のコメント:

  1. 通常兵器アクセス戦略(U.S. CONVENTIONAL ACCESS STRATEGY)、初めて言葉を知りました。
    で、ゴールドスミス氏の同タイトルの論文(ネット上にPDFあり)をちょろっと読みました。
    冷戦時代の核による相互確証破壊を現代及び通常兵器で再現しようとするもので、
    『戦略的には、通常兵器アクセス戦略は中国指導者に対し、PLA通常兵器の先制攻撃を受けた直後であっても米軍がどのようにして中国にコストを課すことができるのか、より明確に理解してもらうことになる。』
    平たく言うと、中国人が机上演習をやった時に「通常兵器でもイケそうやん」と思わせちゃダメってことで、理屈はわかるのですが。
    日本に当てはめて考えると・・・単独じゃあ厳しいなあ。台湾はもっと厳しい。

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  2. ぼたんのちから2020年12月7日 18:03

    習が先制奇襲攻撃の誘惑にかられる可能性が、今後、ますます高まるかもしれない。
    戦争の契機は、指導者の現状認識が恣意的になり、戦争の推移が自分に都合の良いように妄想するところから生まれると考えれば、習はそのような罠にはまりつつあるように見える。
    米中冷戦がより深刻さを増し、中国国内の経済・社会的状況が今以上に悪化すれば、毛の悲願である世界覇権の獲得を目指す習が、冒険的で短絡的考えを持ってもおかしくはない。
    PLAの奇襲攻撃は、米太平洋軍と日本軍(自衛隊)、それに台湾軍に大きな損害をもたらすことは間違いない。結果として、短期的にPLAは第1列島線内で優位になるだろうが、それまでだろう。その後は、いずれにせよPLAのミサイル、航空機、艦艇は虱潰しに破壊され、PLAは手も足も出ないようになるだろう。問題は、そのような状況に好転するまでの方法と時間である。
    記事の先制攻撃の対応策は、攻撃を受けた後の拠点の維持に主眼を置き、抑止力にはなるものの消極的に見える。むしろ、残存性と長距離反撃能力を持つ経済的に合理的な兵器を多数整備すべきなのかもしれない。それは、例えばドローンであり、多用途無人潜水艇であるだろう。
    また、九州以南には多くの飛行場、港湾があり、これらを整備し、有事に備えることは、極めて有効な抑止力になると考える。

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