2022年8月31日水曜日

米空軍の発想が柔軟すぎる。B-52で貨物輸送し有事の迅速分散運用ACEコンセプト用に専用コンテナBOCSを開発し実証運用が行われた。

 

U.S. Air Force photo by Senior Airman Chase Sullivan

B-52の爆弾倉に貨物コンテナを搭載した演習で、迅速な展開がより現実的になった

 

ークスデール空軍基地は、B-52Hストラトフォートレスが興味深い役割を演習で担ったと発表した。4機の爆撃機に、爆弾倉に収まる比較的大きな貨物コンテナを搭載し、米空軍の迅速展開コンセプトをテストした実証は、将来の作戦機の展開における物流フットプリントの減少の可能性を示したとある。

バークスデール基地の声明によると、演習に参加した4機のB-52Hは、同基地の第2爆撃航空団の所属機。8月16日から19日にかけて、ワシントン州のフェアチャイルド空軍基地に移動し、ACE(Agile Combat Employment)ミッション関連の演習を実施した。一般にACEミッションは、各地から予測不可能な分散作戦を実践することで、生存能力を高め、前方地域で戦闘力を生み出すことを主眼とする。ACE関連演習は、空軍が遠隔地にある厳しい施設や小規模な物流施設を活用し、柔軟かつ機敏な運用を可能にする一助となることを意図している。特に、ACE作戦では貨物運搬が重要な要素となるため、今回のB-52実証の重要性が際立つ。

今回のACEテストミッションでは、B-52爆撃機を主に使用して、革新的な貨物輸送作戦を模索するとともに、生存性と厳しい環境での作戦を念頭に置いた、有機保守支援の提供方法を実証した。B-52は、BOCS(On-Board Cargo System)という貨物輸送システムにより、爆撃任務以外の役割、つまり貨物支援機としての役割を果たした。

空軍はBOCSを、B-52Hの爆弾倉内のハードポイントに接続する設計の貨物コンテナだと説明している。各B-52はBOCS2つを搭載し、各爆弾倉に1つずつ、最大5,000ポンドの整備・支援機器を搭載し、B-52一機で合計10,000ポンドの空輸能力を実現する。

主に訓練だが、B-52の三個爆撃航空団すべてがBOCSを自由に利用できるようになったという。以前のB-52は、貨物保管庫が皆無に近かった。

BOCSは、少なくともコンセプトとしては、2006年の航空戦域バトルラボで、最も有用な取り組みとして生まれた。The War Zoneは、空軍グローバル・ストライク司令部にBOCSの出自について照会したが、返事はもらっていない。いずれにせよ、空軍は、ACEミッションにBOCSを追加することで、爆撃機展開における貨物支援の必要性を軽減し、その結果、作戦の補給活動の負担を削減することを期待しているようだ。

バークスデール空軍基地でのアジャイル戦闘演習の後、第2航空機整備飛行隊の飛行士がB-52オンボードカーゴシステムからメンテナンスとサポート機器を降ろした。Credit: Airman Nicole Ledbetter/U.S. Air Force

「当初のBOCSコンセプトは、爆撃機の常時プレゼンスを成功させるために必要なあらゆるものを戦術的にフェリーする機会を作ることでした」と、第2爆撃航空団航空機メンテナンス飛行隊生産管理官のアンソニー・ウィリアムズ曹長は言います。

演習では、ACEの任務全体と同様、時間も重要要素だった。ACEでは、軍用機を短期間で各地に配備することを重要とし、整備支援のシナリオは、BUFFの飛行を維持することから始まる。バークスデール第2航空整備飛行隊の整備員は5人1組のチームに分かれ、必要な修理・整備・交換機材をBOCSに効率よく詰め込み、今回の派遣をスタートさせた。チームは、B-52の着陸、再武装、修理の練習のため、フェアチャイルドに飛んだ第96爆撃中隊の機内に同乗したという。

航空機の整備を担当する空軍戦略航空兵站部長のジェイソン・スネデカー少佐Maj. Jason Snedekerは、「航空機1機につき整備員5名が搭乗すれば、有事の際に航空機の再生を確実に行い、ACE支援が可能な自立したロジスティクス能力を持てる」と述べている。しかし、B-52の乗員に加え、5人の整備員をどのように輸送したかは不明で、これについても空軍グローバル・ストライク司令部の説明を待っている。

バークスデール空軍基地でのアジャイル戦闘配置演習の後、B-52搭載カーゴシステムを降ろす第2航空機整備飛行隊員 Credit: Airman Nicole Ledbetter/U.S. Air Force

フェアチャイルド空軍基地は、演習で重要な役割を果たしたといえよう。B-52Hは2010年に滑走路が改修されて以来、初めて運用されることになるため、不慣れさに加え、爆撃機特有の設備がないことが、整備チームや搭乗員に実際のACE運用に近い形で挑戦する機会となった。

第8空軍とグローバル・ストライク・オペレーション・センターの司令官であるアンドリュー・J・ゲバラ少将Maj. Gen. Andrew J. Gebaraは、「彼らの努力のおかげで、我々が普段見慣れている大きなフットプリントなしに、大きな火力を目標に投入できることが証明された」と述べている。

フェアチャイルド空軍基地で、B-52H内部の搭載貨物システムの外壁を取り外す、第2航空整備隊の生産監督官であるアンソニー・ウィリアムズ・ジュニア曹長(左)と第2航空整備隊のエンジン整備士であるアーロン・ワイルス上級航空士(右)。 Credit: Senior Airman Chase Sullivan/U.S. Air Force

武器輸送に関しては、ACEに所属する爆撃機がB-52Hの武器パイロンのみ、あるいは武器パイロンと爆弾倉の間に弾薬を分散搭載し、航空機が目的地に飛び、その弾薬を使用して迅速に作戦行動を開始できるように、BOCSアプローチの使用が考えられる。しかし、このようなコンセプトで前線基地で本戦闘を継続することには疑問が残る。そこで、BOCSを片方のベイに、武器を残るベイとパイロンに搭載する、あるいはBOCSを両方のベイに、武器をパイロンに搭載することが考えられる。

また、B-52が各10,000ポンドの貨物を搭載しても、貨物専用機1機の最大積載量には及ばない。例えば、C-130の最大積載量は42,000ポンドで、C-17の最大積載量は170,900ポンドだ。そのため、BOCS搭載のB-52は、これまでのようにACEの初期配備をサポートするためC-130が必要としなくなる可能性はあるものの、持続的なロジスティクス問題は依然として残る。BOCSが運べる貨物の種類は、システムの寸法で制限され、爆弾倉の寸法でも制限されるため、貨物輸送機が通常運ぶ大きな貨物は運べない。

爆撃機が活動できる場所と、そこに到着した後に活動できる手段の両方を拡大することは、既知の拠点が機能しなくなったり、危険にさらされる将来のハイエンド紛争では非常に重要になるかもしれない。空軍はここ数年、このような開発を優先してきた。爆撃機が重要地域付近で飛行できる基地を複数確保することは、将来の大規模紛争で極めて重要になるからだ。

フェアチャイルド空軍基地で行われたアジャイル戦闘演習で、滑走路をタキシングする4機のB-52H ストラトフォートレス。 Credit: Senior Airman Chase Sullivan/U.S. Air Force

ACE環境でのBOCSの活用は、B-52を数十年、少なくとも2050年まで、おそらくそのはるか先まで機能させるための一連の強化・改良の中で最新のものだ。B-52は、少なくともB-52JまたはB-52Kの新型機となり、新型AESAレーダー、ロールスロイスF130ターボファン・エンジン、極超音速兵器搭載など各種アップグレードが行われる。

BOCSとACEの組み合わせによる副次的な空輸能力で、B-52運用の幅は大きく広がった。■

 

The B-52 Bomber Is Now Also A Cargo Hauler | The Drive

BYEMMA HELFRICHAUG 30, 2022 1:49 PM

THE WAR ZONE


新空母USSエンタープライズの起工、空母ブロック購入を続ける米海軍は空母12隻体制の実現に向かう

 


.HIIのニューポートニュース・シップビルディングで建設中のUSSエンタープライズ(CVN-80)の艦尾部分。 (Justin Katz/Breaking Defense)



国防総省は、空母のブロック購入で前回は40億ドル節約できたと主張している。今回もそうなるのか?



海軍の次期主力艦「USSエンタープライズ」の建造準備が進む中、海軍と元請企業HII、産業供給部門は、さらに2隻の空母の「ブロック購入」の可能性について計算を始めている。

 ジェラルド・フォード級建造のプログラム・マネージャーであるブライアン・メトカーフ大佐Capt. Brian Metcalfは、HIIのニューポートニューズ造船所で、「それが最も効率的に建造する方法だ」と述べた。「そして、それは調達に最も効率的な方法なのです」。

 エンタープライズ(CVN-80)と続くドリス・ミラーDoris Miller(CVN-81)は、2018年後半に「ブロック購入」された。この表現は基本的に、海軍が両艦建造のすべての物資と労働力を単一契約で交渉したのを意味し、その結果、一括発注と近年の予想以上のインフレを回避したことにより、推定40億ドルの節約になったとペンタゴンは述べている。

 海軍の高官、HIIの幹部、そして空母建造に必要な膨大な供給部門の代表者とのインタビューで、海軍がフォード級空母(CVN-82とCVN-83)のもう一組を追求すると決定した場合にこの取引の利点について全員が賞賛していることがわかった。

 HIIの最高経営責任者であるクリス・カストナー Chris Kastner は、「ここ数年のインフレで何が起こったか考えてみてください」と言った。「海軍の賢い購入方法です」。

 エンタープライズとドリス・ミラーは、初号艦フォードとジョン・F・ケネディに続く3隻目と4隻目のフォード級艦船で、プログラムの当初の4隻となる。しかし、業界が大きな関心を寄せる中、海軍は追加購入を積極的に検討している。

 メトカーフ大佐は、海軍はすでに複数のシナリオについて国防総省に情報を提供しているが、2023年度に議員に明確な答えを出す予定だと語った。

 「我々が最適と考えるシナリオは、2隻を8年ごとに4年センターで配置することだ。「先進的な調達資金を使えば、2年分確保できる。リードタイムは上昇している。何か発注すると、以前より長くかかるようになってきた」。

 空母調達で、「センター」とは、艦船の建造ペースを意味する。もし2隻を「4年センター」で購入すると、予定されているマイルストーンはほぼ4年間隔で並ぶことになる。

 海軍と産業界が購入のセンターを選ぶ際には、建造スケジュールが遅れないよう十分な長さと、産業界が労働力を多忙にする小さなギャップを考慮する必要がある。

 空母のサプライチェーンに焦点を当てた産業基盤連合の会長であるリック・ジャンニーニRick Gianniniは、同団体が2月に会員企業2,000社中158社を対象に拠点候補について調査を行ったと記者団に明らかにした。

 「90%の人々が、もしセンターが7年であれば、非常に難しく、労働力に大きな問題を引き起こすだろうと感じているとわかった」とし、「6年(センター)になれば88%、5年(センター)に下がっても産業基盤の61%であった」。

 いつ、どのように最終決定を下すかについては、議会が最終決定権を持つ。来年度に国防総省がメトカーフ大佐の言う「シナリオ」の一つを選択する見込みで、議員が2024年度国防費法案の起草を始めれば、大きな問題になりそうだ。■


As Enterprise's keel is laid, Navy and industry advocate for another aircraft carrier 'block buy' - Breaking Defense

By   JUSTIN KATZ

on August 26, 2022 at 3:37 PM


次世代エンジン開発契約をエンジンメーカー以外にボーイング、ロッキード、ノースロップにも交付した米空軍がめざすのは競合状態の活性化か

 


ジェネラル・エレクトリックのXA100適合サイクルジェットエンジン。2020年テスト現場で。General Electric

 

先進エンジン契約を交付された5社のうち3社は、航空機メーカーで、戦闘機用エンジンは製造していない

 

 

 

空軍は次世代適応推進プログラム(NGAP)の関連業務で、各最高額10億ドル近い契約を5社に交付した。このエンジンは、次世代航空優勢計画(NGAD)の一環で現在開発中の第6世代の有人ステルス戦闘機含む機体の動力源に期待されている。ボーイングロッキード・マーチンノースロップ・グラマンがNGAPの契約者に含まれていることは、空軍が新しいエンジンサプライヤーに門戸を開いていることを示すとともに、新開発エンジンが搭載される予想の次世代有人航空機の全体設計で競争が続いていることを強調している。

 

国防総省の契約発表によると、オハイオ州のライトパターソン空軍基地の空軍ライフサイクル管理センターは、8月19日にNGAP契約を締結した。今回の受注額はそれぞれ9億7500万ドル。ボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンに加え、ジェネラル・エレクトリックプラット&ホイットニーもNGAP契約を獲得した。

 

NGADとして開発中の第6世代有人戦闘機(これはロッキード・マーティンのコンセプトアート)は、NGAPエンジンを搭載すると予想される. Lockheed Martin

 

各契約で共通する詳細は、ペンタゴン公示では次のように記載されている。

 

「設計、分析、リグ試験、プロトタイプエンジン試験、兵器システム統合を通じた技術成熟とリスク低減活動のために、プログラム上限9億7500万ドルの無期限納入/無期限数量契約を獲得した。この契約は、次世代適応推進プログラムの試作段階を実施するためで、将来の航空優勢プラットフォームに能力を実現する推進システムを提供し、推進産業基盤をデジタルに変換することに重点を置くものとする。作業は...2032年7月11日までに完了する」。

 

ペンタゴン通達にあるNGAPの項目には、NGADや実際の航空機に関する作業については一切触れていない。しかし、現在、戦闘機のエンジンメーカーはジェネラル・エレクトリックとプラット・アンド・ホイットニーだけだ。

 

ボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンの3社が契約を結んだことは、興味深い。特に、NGADの有人戦闘機型の機体部分を争っている可能性が高い三社と、GEやプラット&ホイットニーとの間で、エンジンをめぐる直接競合で生まれる潜在的な利益を空軍が探っているように見える。

 

6月、ケンドール空軍長官は、有人NGAD機の開発に関して「まだ競争が続いている」と明かしたが、詳しく語らなかった。その際、ケンドール長官は、このプロジェクトはこれまでの開発・取得プロセスで進められると予想しているとも述べている。このコメントは、NGADの有人戦闘機がエンジニアリング、製造、開発(EMD)段階に入ったという同月初めの発表に続くものであった。航空宇宙産業では、EMDは一般的に特定のシステムの開発を正式に開始することとされる。

 

NGAPもNGADの一部であり、新兵器、センサー、ネットワーク、戦闘管理機能、有人・無人航空機など、さまざまな次世代戦術航空戦闘能力を開発する各プロジェクトで構成される。第6世代有人戦闘機は、戦闘機と呼ばれることが多いが、これまでの戦闘機のデザインと異なる。ステルス性、航続距離、積載量を重視した設計で、機動性にも優れている。

 

ノースロップ・グラマンのプロモーションビデオのスクリーングラブに見られる、先進的な有人戦闘機のコンセプトのレンダリングなど。 Northrop Grumman capture

 

 

提案されているNGAPエンジンの具体的な詳細、あるいは将来搭載されるかもしれない機体の詳細については、やはり極めて限定的だ。NGADプログラム全体も高度に機密化されている。

空軍は過去に、適応型エンジン移行プログラム(AETP)とNGAPの間に直接的な関連性があると公表している。AETPでは、ジェネラル・エレクトリックとプラット&ホイットニーが、それぞれXA100、XA101と呼ばれる先進エンジンを開発した。設計の詳細は異なるものの、どちらも「第3の流れ」と呼ばれる気流を備え、状況に応じ燃費向上や性能向上を目的とするモードを動的に切り替えるのが特徴だ。

 

2018年時点の空軍のブリーフィングスライドでは、将来の先進戦闘機含む様々な航空機にAETPプログラムおよびフォローオンの取り組みを通じて生まれるそうな利点を示していた。USAF

 

 

AETPの焦点は、F-35統合打撃戦闘機に新エンジンを開発することだった。現状では、GEはF-35に同社のXA100、またはその派生型を搭載することを提唱しています。同社は、XA100によってF-35AやCの航続距離が30%程度伸び、加速も20~40%程度、燃費も25%程度向上すると主張している。もちろん、これらはすべて、特定の搭載物やミッション・プロファイルなどの要因に依存する。

プラット・アンド・ホイットニーは、XA101を推進するよりも、既存および生産中の統合戦闘機全機が搭載する同社製F135エンジンのアップグレードを提案している。

 

ケンドール空軍長官は、全交換オプションを支持すると公の場で表明しているが、個人的な意見であることを強調している。F-35統合計画室は選択肢を検討中で、コストと互換性が大きな要因になりそうだ。最も重要なことは、AETPエンジン設計のどちらも、少なくとも現状では、短距離離陸と垂直着陸が可能なF-35B型機には物理的に適合しないことだ。B型は、大きな垂直上昇ファンと多関節エンジン排気ノズルのため、内部構成に関して厳しい設計上の制約があり、新エンジンはこれらに統合する必要がある。

 

同時に空軍がAETPのどちらのオプションも追求しない場合、アメリカのジェットエンジン産業基盤に深刻な悪影響を及ぼす可能性が生まれると警告している。

 

Defense Newsによれば、AFLCMCの推進部門を率いるジョン・スネーデンJohn Snedenは、今月初めの記者会見で、「産業基盤の一部が崩壊し始める」と述べた。「もし、AETPを進めず、ベンダー一社で終わらせると、そのベンダーは、実質的に、先進推進産業基盤を縮小させる結果に我々を追い込むことになる」。

 

Air Force Magazineによると、ケンドール長官は7月のPotomac Officers Clu会合で、AETPについて質問され、「決断が必要で、それが今私がいる場所だ」と述べていた。「余裕がない、あるいは各軍間で合意が得られないプログラムにR&D(研究開発)資金を費やし、ぐずぐずしていたくはない」。

 

これらのことを考慮すると、空軍がエンジン・サプライヤーを広げることに関心を持ち、企業の競争を促進しようとしていることは驚くことではない。このことは、NGAPプログラム、空軍の将来の第6世代「戦闘機」、およびNGADプログラムのその他の要素に関し、NGAP契約社間、または他の企業間のさまざまな相互作用の可能性を排除するものではない。

 

ケンドール長官は、ここ数ヶ月で何度も、目に見えるものを生み出さない高リスクの開発サイクルから離れ、より伝統的な取得プログラムに戻したいと話しているが、同時にもっと斬新なアプローチへの扉も開いている。新しい企業にNGAPエンジン・オプションを提案させ、それに伴うサプライチェーンやその他の考慮事項を真剣に検討するよう求めるだけでも、米国のジェットエンジン産業基盤に長期的な利益をもたらす土台を築けるかもしれない。

 

NGAPのエンジンが搭載される航空機がどうであれ、勝者総取りの結果になる可能性は極めて低い。これらのプロジェクトで「負けた」企業が行う研究開発の一部は、より大きなチームの努力の一部として、最終設計に組み込まれる可能性は大いにある。そうすることで、エンジニアリングや買収プロセスを加速させ、コストやリスク負担を分散させることができる。また、ジェネラル・エレクトリックやプラット&ホイットニーは、たとえ自社設計が採用されなくても、重要な生産能力を提供できる立場にある。

 

後者の点については、NGAD の一環として、AETP エンジンのバリエーションや派生機の開発に資金を提供することは、空軍や海兵隊、海軍が F-35 のエンジン換装に関し最終的にどのような方針を取るかでヘッジを提供する。少なくとも過去には、統合戦闘機のAETPを進めるべきかの判断は、遅くとも2024年以降と理解されてきた。この時期は、空軍がNGAD有人型の設計を絞り込む時期でもある。

現在すべてのF-35の動力源となっているF135エンジンの試験運転。USAF

 

AETPが選択された場合、少なくとも一部F-35に2027年から2030年の間にエンジン供給を開始できる。これだとペンタゴンが契約通知で述べているように、NGAP作業の初期段階を2032年までに完了させるとの想定に沿うことになる。

 

結局のところ、NGAPの取り組みと、NGADプログラムの有人型を取り巻く幅広い競争から何が生まれるかは、まだわからないままだ。F-35に関するAETP決定がどんな影響を及ぼすかは、未解決の問題だ。空軍は過去に、AETP設計のバリエーションや派生型が、第4世代戦闘機にも搭載される可能性があると述べていた。

 

はっきりしているのは、NGADの「戦闘機」プロジェクトに関して、エンジン含み非常に活発な競争が行われていることだ。NGAPの契約は、NGAD戦闘機や他の戦闘機の動力源に関し、現状を大幅に打破する可能性がある。

 

次世代戦闘機にどのような設計案を選択するにせよ、米空軍は2030年代に次世代機を就航させる土台作りを着実に続けている。■

 

Air Force’s Next Gen ‘Fighter’ Engine Competition Shakes Up Status Quo

BYJOSEPH TREVITHICKAUG 22, 2022 3:18 PM

THE WAR ZONE

 

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ロシア=ウクライナ戦は消耗戦に移行したが、終結へのシナリオはどうなっているのか

 

 

戦争は、一方が他方を軍事的に打ち負かすことで終わるわけではない。

 

 

ーチン大統領は2022年2月に開始したロシアのウクライナ侵攻で当初は、すぐにゼレンスキー政権を降伏、あるいは崩壊させるのが可能と計算していたようである。しかし、ウクライナ側の激しい抵抗と、欧米(特に米国)の大規模な武器供与により、そうならなかった。 半年がたち、戦争は消耗戦と化している。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が認めたように、ロシア軍はウクライナの約20%の領土を占有している。しかし、欧米の支援を受けたウクライナ軍はロシア軍のさらなる進出を阻止できるかもしれないが、ロシア軍をロシアに押し戻すこともできそうもない。しかも、双方とも停戦の準備が整っていないため、戦争は数カ月、あるいは数年続くかもしれない。

 しかし、戦争には終わりがある。この戦争はどうか。ロシアが現在の困難な状況にもかかわらず、事態を好転させ、ゼレンスキー政権を降伏・崩壊させる当初の目的を達成する可能性は残っている。一方、欧米の支援を受けたウクライナ軍が、ロシア軍を以前獲得した領土のすべてとは言わないまでも、大半から追い出すこともあり得る。

 しかし、戦争は一方が他方を軍事的に打ち負かすことで終わるわけではない。例えば、第一次世界大戦末期のドイツのように、内部崩壊したり、1980-88年のイラン・イラク戦争のように、長年の戦闘の末に双方とも相手に勝てず、戦争継続のコストが受け入れ難いため停戦に応じたりすることもあり得る。実際、ロシアとウクライナのいずれもが軍事的に優位に立てないとすれば、どちらかが崩壊する、あるいは、それぞれが相手を倒すことをあきらめるまで、戦争は続くことになるであろう。

 では、数カ月から数年にわたるロシアとウクライナの消耗戦は、どう展開されるのだろうか。長期紛争において、勝者として勝利することはできなくても、敗者となることを回避する可能性を高めるそれぞれの側の強みと弱みは何だろうか。

 これまで見てきたように、ウクライナ人は祖国を守るために粘り強く戦うことを厭わず、国民をリードする大統領を擁している。ロシア軍ほど大規模でも強力でもないが、ウクライナ軍は欧米(特に米国)の大規模な軍事支援の恩恵を受けており、ロシア軍の動きを止め、進撃を妨害できた。しかし、欧米からの継続的な武器供与がなければ、たとえロシア軍に多くの死傷者が出たとしても(プーチンは甘受すると思われる)、ウクライナ軍がロシアのウクライナ全域への進攻を阻止できたかは疑問だ。

 ロシア軍はウクライナよりはるかに多くの人員と物資を喪失しているとはいえ、依然として大量の兵器を保有している。また、ウクライナの膠着状態が続いたからといって、プーチンが失脚するとも思えない。実際、ロシア国民の多くは、プーチンと対ウクライナ戦争を支持している。しかし、国民が戦争の行方をよく知っているウクライナと異なり、ロシア国民はロシア軍の不調や死傷者の多さについてほとんど知らされていない。実際、ロシアでは戦争を戦争と呼ぶことさえ犯罪行為とされている。しかし、戦争が長引けば長引くほど、ロシア国民は欧米の経済制裁だけでなく、ロシア中の家族が戦争で愛する人を失い、ネガティブな影響を受ける可能性が高くなるのではないか。プーチンは、国内の反発を招く危険を冒してまで戦時動員を本格化させるか、そうせずにプーチンが成功したと考えるような戦争終結に持ち込めないようにするか、難しい選択に迫られるかもしれない。

 消耗戦では、どちらがより長く持ちこたえられるかが重要となる。ウクライナにとって最大の問題は、欧米がいつまで支援を続けるかだ。欧米の制裁とロシアの欧州へのガス供給削減により、エネルギー価格は大幅に上昇し、欧州の国民に悪影響を及ぼしている。経済的な痛みが長く続けば、ロシアへの融和を主張する政党が出てくるかもしれない。もちろん、アメリカによるウクライナ支援は継続され得るが、ヨーロッパの協力がなければ、その提供はより困難となる。一方、アメリカのウクライナ支援が激減または終了した場合、ヨーロッパ諸国が単独でウクライナを対ロシアで維持できるかも疑問だ。  プーチンは、2024年までロシア軍がウクライナで持ちこたえれば、プーチンに同情的でゼレンスキーに敵対することで有名なドナルド・トランプがホワイトハウスに戻り、アメリカのウクライナ支援が減少または終了し、に勝利できると期待しているのだろう。

 もちろん、トランプが再選となり、プーチンの期待通りの行動をとるかは、決して確実ではない。しかし、プーチン側としては、それを見極めるまで長く持ちこたえられなくなるかもしれない。ウクライナでのロシア軍の損失が続き、ロシア人全般の経済的苦境が続くと、ロシア社会の中で、そしてプーチンにとってより不吉なことに、ロシア軍内部で反対勢力が拡大する可能性がある。そうなれば、プーチンは政権を維持するため、ウクライナからロシアに軍を再配備を迫られかねない。ただし、軍がプーチンに忠実であることが前提だ。また、プーチンが解任、無能力、死亡などの理由で政権から転落した場合、プーチンが選んだ後任者でも(ましてやそうでなくても)、ロシア経済の崩壊を防ぐためウクライナ戦争を中止する可能性もある。

つまり、ロシアとウクライナのどちらかが継戦できなくなるシナリオを想像することは可能だ。しかし、実際にどちらのシナリオが実現するのだろうか。いつ、どこで、どのような事態が発生するかは、まだ予測できない。しかし、アメリカのイギリスとフランスへの支援は、第一次世界大戦を終結させたドイツ崩壊に貢献し、ソ連、西欧、湾岸アラブのイラク支援は、イラン・イラク戦争でホメイニ師がサダム・フセイン打倒の試みを断念することに貢献したことに注目すべきだ。欧米、特にアメリカのウクライナに対する支援が継続されるか否かは、ロシア・ウクライナ戦争の結末と同様に重要な要素だ。■

 

The Russo-Ukrainian War of Attrition: How Will It End? | The National Interest

August 28, 2022  Topic: Russia-Ukraine War  Region: Europe  Tags: Russia-Ukraine WarRussiaVladimir PutinNATOWar

by Mark N. Katz

 

Mark N. Katz is a professor of government and politics at the George Mason University Schar School of Policy and Government, and a nonresident senior fellow at the Atlantic Council.

Image: Reuters.


2022年8月30日火曜日

制裁措置で露呈したロシア防衛産業の弱さ。ロシアは結局中国のジュニアパートナーになってしまうのか。

 

Su-34. Image Credit: Russian Military.

 

 

シアの防衛産業には、苦労が待ち受けている。自給自足と自称しているが、ロシア産業には西側の部品と支援を必要としていることが判明した。自給率が世界で最も高いロシア産業が、制裁により供給不足に悩まされている。防衛分野で自前主義は不可能なのか。これは安全保障で何を意味するのだろうか。

 

理論的には、国家は自国の防衛産業基盤に物資を供給するチェーンを注意深く守るべきだ。国家は可能であれば防衛産業を可能な限り内製化することで脆弱性を低減させようとする。もちろん、これはすべての国家で可能なことではなく、海外の防衛産業に一部または全部を頼らざるを得ない国家もある。しかし、特に大国は、防衛において可能な限り自律的であろうとする。

 

この論理は、数十年にわたる複合工業生産のトレンドと真っ向から対立する。20世紀後半、ほとんどの産業は少なくともある程度までグローバル化し、資源や最終製品の完成部品を国境を越えたパートナーシップに依存するようになった。インフラストラクチャーと投資により、このような統合は自給自足よりはるかに効率的なものとなった。グローバル化の時代、防衛産業は確かに芽を出したが(トランスナショナルな生産と技術革新が西側とソビエト圏双方の防衛力増強で特徴となった)、防衛は主要セクターで最もグローバル化が遅れている。公平を期すため、「バイ・ローカル」の少なからぬ部分は、国内産業(および労働者)向け補助金も含んでおり、同じ論理で正当化されがちだが、完全な自国主義とは言えない。

 

この逆風にもかかわらず、現代の防衛産業は自国主義を貫けるだろうか。

 

ウクライナ侵攻でロシアは不完全な国防自給自足体制の問題に直面した。ロシアの防衛産業基盤が欧米と密接に結びついていることは、難しい現実である。ロシア産業が西側諸国の部品に明らかに依存していることにロシア人でも驚いているようだ。ロシアは、高性能兵器を維持するのに十分なチップを調達しようと入念な努力を行っている。ロシア事例は、防衛サプライチェーンの脆弱性を示しており、各国が自国の防衛産業基盤に不可欠な要件の国産化を促しているのだろうか。 ロシアのジレンマに対する簡潔な答えは、少なくとも先端部品に関する限り、防衛分野における自給自足は、第一級の軍事能力を求める国家にも不可能であるということだ。一部の国が挑戦する可能性はあるが、成功する国はほとんどないだろう。近代的な防衛産業基盤には高度部品が必要であり、それは世界的な技術産業(ごく少数の国が保有)か、ハイテク市場へのオープンアクセスによってのみ入手可能であるというのが厳然たる事実だ。

 

このため、高度ハイテク兵器に必要な部品は、西側諸国で入手可能で、西側は利用できるが、この技術的エコシステムの外にいる人にはかなり利用しにくい世界になっている。これは、冷戦時代、米国が西側技術へのソ連のアクセスを阻止するため莫大な手段を講じた状況と多くの点で類似している。しかし、今回は米国がより強力な優位性を享受している。サプライチェーンの力学、輸出規制、知的財産法などにより、米国はこれまで享受していたよりもはるかにグローバルなテクノロジーをコントロールできるようになった。スウェーデンとフィンランドのNATO加盟により、これらの国々の技術部門と欧米の多国籍防衛産業基盤との統合が加速されることは間違いない。

 

西側諸国が防衛産業基盤の高度化を維持したまま、このエコシステムから逃れるのは極めて困難だ。例えばトルコや韓国は、欧米製装備品の国内代替品の開発に力を入れているが、この努力はサプライチェーンの信頼性への懸念からというより、主に輸出規制を回避するためのものだ。トルコがロシアの防空機器に浮気しているにもかかわらず、トルコと韓国は共に欧米の技術エコシステムの完全な参加者であり続けている。

 

この先はどうなる?

この技術的な未来は、ロシアと中国の両方にとって醜いものに見えるが、特に前者にあてはまる。冷戦時代に存在した技術ブロックを再構築して、ロシアを対象に西側の技術ブロックを拡大すれば、モスクワに利益をもたらさないし、モスクワと北京の間にくさびを打ち込む結果になりかねない。民生技術経済に深く関与している中国がロシアをどこまで支援するかという難しい選択に迫られることになろう。さらに、ロシアと中国は、国際防衛市場におけるシェアをめぐり、ますます直接的な対立を深めている。

 

つまり、北京はロシアを自国の技術エコシステムと防衛産業基盤に引き込みたいのだろう。ロシアは明らかにジュニアパートナーの地位になる。■

 

Russia's Defense Industry Is In Serious Trouble Due to Sanctions - 19FortyFive

ByRobert FarleyPublished24 hours ago

 

 

Dr. Robert Farley has taught security and diplomacy courses at the Patterson School since 2005. He received his BS from the University of Oregon in 1997, and his Ph. D. from the University of Washington in 2004. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), and Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020). He has contributed extensively to a number of journals and magazines, including the National Interest, the Diplomat: APAC, World Politics Review, and the American Prospect. Dr. Farley is also a founder and senior editor of Lawyers, Guns and Money.


中国経済が不動産バブル崩壊に怯える中、中国の軍事力整備にこれからどんな影響が出るのか

  

2014年1月、中国・西安で取り壊される違法建築の建物

 January 2014

Rooney Chen / Reuters

 

北京の負債が満期を迎える

中国経済を脅かす不動産バブル崩壊

 

国の不動産セクターが揺らいでいる。中国最大の民間デベロッパーが外債をデフォルト(債務不履行)した。ほとんどのデベロッパーは、国内債券の借り換えに苦戦している。住宅価格は過去11カ月間、下落し続けている。新規建設は45%減少した。最も深刻なストレスは、未建設マンションのプレセールで多額の資金を調達したデベロッパーにさかのぼる。しかし、住宅の完成を保証する準備金の積み立てに失敗したところもあり、住宅購入で住宅ローンを組んだ世帯は支払いを止めると脅している。

中国の不動産危機は、金融リスクもあるが、結局は経済成長の危機である。新規不動産の開発・建設は、現在の中国の経済活動で4分の1以上を牽引していると言われており、不動産市場の一時的な低迷が、経済の長期的な低迷につながることは想像に難くない。

中国で国家が支援する金融システムは、大きな損失を出すことができるので、金融崩壊は回避できる。ある国家支援機関が別の国家支援機関に資金を投入することで、破綻した不動産会社向け融資で損失が発生しても、債権者が破綻し債務不履行の連鎖が起こる事態を抑えることができる。中国政府は、国策銀行を通じ資金援助を行い、民間開発業者が放棄した建築プロジェクトを完成させるよう、国策開発業者に依頼できる。政府による介入は経済運営で最適な方法ではないが、資金力のある機関が存在することで、不動産市場向け融資がすべてストップする不安定な事態は避けられる。

その結果、中国は2008年の米国の大不況並の危機を迎えることはないだろう。しかし、だからといって中国経済が安心できるわけではない。中国がこれまでのように輸出を増やすことで経済成長を促進しようとすれば、COVID-19の大流行やロシアのウクライナ侵攻などのショックから立ち直れていない世界各国にも深刻な影響を与える。

キリギリスじゃない、アリだ

金融機関は、中国の不動産開発業者やマンション購入希望者、公共インフラを整備する地方政府などに巨額融資を行ってきた。中国の大手政策銀行は、一帯一路構想の一環として世界各地で建設プロジェクトに融資を行っている。中国の金融システムは、過去20年間平均でGDPの約45%という非常に高い国内貯蓄率のおかげで、海外から多額の借金をせず、融資を行うことができた。これに対し、ほとんどの主要国ではGDPの約25%を貯蓄しており、パンデミック以前は、中国以外の貯蓄率の高いアジア諸国でも、概ねGDP比30%を貯蓄していた。中国と同レベルの貯蓄を行っているのは石油輸出国だけで、しかも石油価格が予想外に上昇した後の短期間だけである。

貯蓄はしばしば美徳とされ、多額の対外債務がないため、中国は現在の不動産不況を管理する選択肢が増えている。対外信用、特に銀行に対する対外信用は、市場が悪化するとすぐに引き揚げられることが多い。これに対し、国内調達の資金は、一般的に中国国内に滞留する。

しかし、過剰貯蓄は、事実上国内債務の増加を必要とする経済環境を助長し、現在の中国の財政難を生み出した。なぜなら、貯蓄が多いことの対極が国内消費の低さだかrだ。その結果、過去20年間の中国の急成長は、輸出というバラストか、定期的な投資というバラストに依存してきた。

2008年の米国大不況に匹敵する危機は、中国には訪れないと思われる。

2008年の世界金融危機以前は、中国国内の債務残高の対GDP比は安定していた。これは、中国が金融セクターを抑制し、輸出の驚異的な成長によって経済と産業の発展を推進できたからである。輸出主導の経済成長は、中国国内の債務リスクを最小化したが、その他世界経済にとっては不安定なものであった。欧米では製造業を中心に雇用が失われ、米国では大幅な対外赤字による需要減退を家計の借り入れ増加で乗り切ったが、これは世界的に不安定なものとなった。2008年の景気後退の要因のひとつとなったのである。

世界金融危機後、中国は貿易黒字を縮小させながら高成長を維持し、不動産やインフラへの異常な投資を行った。このような高額の投資を行うには、国内の借入金も増やす必要があった。世界金融危機後の10年間で、中国の国内債務残高の対GDP比は150%前後から250%をはるかに超える水準へ上昇した。要するに、家計、地方政府、不動産開発業者、国営企業の負債が、いずれも所得を上回るスピードで増加したのである。これは危険な動きだ。

しかし、中国の中央政府の債務は安定しており、GDPの20%未満と、世界の主要国の中でも低い水準にある。中国の中央政府が中国経済において大きな役割を担っていることは間違いないが、それは中国の主要大手銀行と投資ファンド多数をバックアップしているからだ。中国政府は巨額の税金を徴収しているわけでもなく、社会保障に多く支出をしているわけでもない。失業保険制度もなく、質の高い国民皆保険制度もなく、農村部からより豊かな沿岸部の都市に移り住んだ中国人労働者が利用できる公共サービスも限られている。

その結果、財政的な強みと弱みが異様に混在している。北京の中央政府は、中国で最も収益性の高い企業数社を所有し、中国の金融システムの中で最も健全な部分、すなわち大手国営銀行を支援している。中央政府は直接的にはほとんど負債を抱えていない。しかし、地方政府は多額の負債を抱え、収入基盤も脆弱である。また、地方のインフラプロジェクトに融資するため設立された多くの国営企業の間接的な責任者でもあり、地方資本の弱い銀行の多くをバックアップしている。

中国の中央政府は、不動産バブルの損失をすべて補填することは望んでいない。

一方、大手不動産開発会社は、途方もない負債を抱えている。最大の民間不動産開発会社恒大集団エバーグランデの市場借入金は約1000億ドルである。約束したマンションや未払いの請求書をすべて数えると、同社の借金は推定3000億ドルにもなる。同業他社のバランスシートはこれより少し小さい程度だ。中国の負債総額は、中国ほど貯蓄性の高い経済にとっては問題ではない。本当の問題は、経済の誤った部分が負債の大半を抱え、返済が困難になることだ。

しかし、中国は不動産不況がもたらす当面の金融リスクを管理しそうだ。一部の弱小不動産開発会社は、期限内に全額を支払えないかもしれない。しかし、中央政府には、大手不動産開発会社に融資している重要な機関を保護する能力がある。北京はまた、地方銀行を救済し、地元の重要企業を支援する必要を迫られる地方政府を支援することもできる。

しかし、中国の中央政府は、すべての損失をカバーすることを望んでいない。過剰支援は、最も経営状態の悪い不動産開発業者に融資した業者の教訓を生かせず、新たな危険な行動を引き起こす可能性があるからだ。同時に大手不動産開発会社を同時に破綻させるわけにはいかない。また、過去の投資プロジェクトで損失が発生し、新規のインフラ融資がストップすることも許されない。未払い請求、建築プロジェクトの停滞で中国経済が機能不全に陥るからだ。都市部の失業者や未完成物件の購入者の怒りが、社会と政治の安定を脅かす。開発業者の債務再編は避けられないが、再編は、金融システムが関連損失を負担し、経済への信用の流れが完全に停止しないようにする措置と組み合わすべきだ。

新しいモデル

金融危機を回避することに加え、中国政府は不動産セクターに代わる新しい成長エンジンを見つける必要がある。具体的には、家計消費に活力を与える必要がある。COVID-19のロックダウンの影響を受け、不動産価格の下落は、経済全体が消費者需要を必要としているときに、家計が支出を控えるようになる可能性がある。

つまり、中国は家計に直接支援を行うという新しい景気刺激策に移行する必要がある。中国の消費低迷は、限られた社会保障、高い所得格差、消費税と給与税が税収の大半を占める税制による低所得世帯の負担がもたらす不安の反映である。長期的には、社会保険制度の強化、特に公衆衛生への支出増と失業保険制度の充実が必要であり、財源は中央政府が徴収する累進所得税の引き上げによってまかなう。

短期的には、地方政府の歳入を増やすことで、社会サービスや所得支援のための既存のシステムを強化する必要がある。中国はこれまで、財政負担を地方政府に転嫁することで、中央政府の借入金を抑えてきた。しかし、このやり方では国の財政が不安定になりかねない。地方政府の収入は不動産不況の影響を受け、不動産開発業者への土地売却に大きく依存しているため、予算が圧迫されている。家計消費と国策投資による経済の健全化には、中央政府予算の増額が必要である。

しかし、中国は既存モデルからの脱却に消極的である。家計消費への直接的な支援は非生産的であるというのが中国トップの考えであり、財務省は中央政府の財政赤字を大きくすることに一貫して抵抗してきた。最近の中国政府発表によると、インフラへの国内投資を増やし、輸入品に代わり国産技術を導入することで、成長を再開させたいようである。しかし、国内消費の拡大という安定した基盤なしに中国経済を動かし続ければ、時間の経過とともに不安定さが増えるばかりであろう。

グローバル経済への影響

中国の貿易パートナーは、中国内部の議論の結果に大きく関心を寄せている。世界経済の大部分にとって、中国の成長方針は、成長速度と同じくらい重要である。中国は、2019年に武漢で発生したCOVID-19からの回復を、家計消費の回復ではなく、輸出に求めた。世界の需要がモノにシフトし、あらゆるところで物価上昇圧力がかかる中、世界各国は中国からの供給増を(常に温かく迎えるわけではないにせよ)容認してきた。中国の貿易黒字は、COVID-19関連の混乱が世界的にも中国国内でも緩和されるにつれて、自然に減少すると予想されていた。

しかし、そうならなかった。それどころか、最新の貿易データでは、中国の輸入の弱さを背景に中国の対外黒字が増加している。夏の間、世界経済が供給量減少に適応しようと必死になっているときに、中国の景気減速によって商品需要が減少したことは、世界経済には幸運だった。しかし、だからといって、中国経済が大量に生産できる工業製品の需要を生み出す中国自身の能力が持続的に不足している状況を、世界経済が補えるわけではない。

2009年、中国経済が輸出から国内不動産投資へ軸足を移し、米国の住宅危機による世界的な影響を軽減できたのは、中国の金融システムが十分な強度を備えていたからである。また、中国にはより多くの住宅と近代的なインフラが必要だった。世界金融危機以降、中国の世界経済に占める割合が約3倍になっていることもあり、今日、中国は大きな混乱なしに不動産から輸出に大きく舵を切ることはできない。不動産でて失われた国内活動を、中国製品への世界需要対応で補う必要があるが、規模はあまりにも大きく、中国の貿易相手国自体も、自国の債務問題に悩まされている。

中国は、家計需要を維持・強化する措置を講じ、不動産投資に過剰依存してきた産業部門が消費者の内需に対応できる新しい方法を見出すことで、不動産投資の永続的な減少に対処できる。とりわけ、中国政府関係者がこの難しい事実を受け入れる必要がある。内部債務の増加と異常に高い投資額の時期の終わりは、中国の歴史的な急成長が過去の物語になる可能性が高いことを意味する。■

Beijing’s Debts Come Due: How a Burst Real-Estate Bubble Threatens China's Economy

By Brad Setser

August 30, 2022