スキップしてメイン コンテンツに移動

そうりゅう事故を米海軍元潜水艦乗りはこう見ている。痛々しいそうりゅうの写真から浮かび上がるシナリオが正しいかは今後の調査であきらかになるはず。

 The Japanese submarine Soryu after a collision in February 2021.

JAPAN COAST GUARD


 

 

本の潜水艦そうりゅうと貨物船の衝突事故についてThe War Zoneは元潜水艦乗員含む各筋から興味深い話を聞いた。通常の訓練のはずが事故につながったのはなぜか、米海軍で潜水艦勤務が長く、航行安全指導員もつとめた人物以外に、同じく米海軍潜水艦でソナーマンだったアーロン・エイミックからも話を聞いた。

 

前者は匿名の取材源とさせていただく。実際に何が起こったのか正確に把握できていない中、潜水艦に詳しい筋の見識から水中行動のわかりにくい世界で興味深いシナリオが浮かび上がってきた。

 

JAPAN COAST GUARD

Soryu after the accident.

 

まず、判明している事実をまとめる。2021年2月8日現地時間10:58AM、四国足摺岬南東約25マイル地点で、海上自衛隊のディーゼル電気推進潜水艦そうりゅうが鉄鉱石を運ぶバラ詰み貨物船オーシャンアルテミス(51千トン香港船籍)と衝突した。貨物船は中国青島を前週金曜日に出港し、岡山へむかっていた。

 

報道を見ると衝突で潜水艦乗員少なくとも三名が負傷している。当初、防衛省はそうりゅうの損傷は潜望鏡と通信装置を収めたマストに限定されると伝えていたが、損傷はその後もっと深刻だったと判明し、右舷潜舵がほぼ2つに割れている。またセイル上部にも大きな損傷が見え、音響タイル数枚が欠落している。

 

当時の双方の動きを記録した自動識別システム(AIS)のデータにはオーシャンアルテミスが北向きに航行し、衝突時の速力が7.7ノットから11.1ノットだったことがわかる。すべて公開情報。

 

そうりゅうは潜航していたが深度は深くなかったようだ。だが潜望鏡深度よりは深かったことがわかる。仮に潜望鏡深度だったなら観測員がオーシャンアルテミスを見逃すはずはなかっただろう。当時の現場は昼間で天候は良好だった。


JAPAN COAST GUARD

 

元潜水艦乗りはそうりゅうの潜望鏡がほぼ完全に上がっていることから、貨物船の船腹に直接衝突していないのではないかという。ここから衝突時には潜望鏡が下がっていたとの仮説が生まれる。あるいは、衝突で曲がったり、切断されたのかもしれない。潜水艦では潜望鏡は冗長性をもたせ二本となっている。これも確証を持って言えないのだが、事故当時の同艦が潜望鏡深度だったら貨物船を視認できていたはずだ、というのが潜水艦乗りの感想だ。

 

またオーシャンアルテミスはソナーの死角となる後方から接近したのではという。そうりゅうが確認できなかった理由に2つの要因がある。まず、事故当時は曳航式ソナーは格納済みで、これは浮上時の手順の一部だ。つぎに、潜水艦には後方把握のためのソナーは装備されていない。このため前方および側部ソナーで後方の状況把握につとめる。そうりゅうの進路が北よりだったらしいので、航行の一番多い外洋への警戒が手薄になっていたのではないか。オーシャンアルテミスは結果として潜水艦に向かい航行したはずだ。


JAPAN COAST GUARD

 

こうした事態が重なり、大型貨物船が後方から接近する最悪の事態となり、そうりゅうはベンチュリ効果で貨物船の船腹に吸い込まれたのかもしれない。この現象は決して未知のものではなく、ロサンジェルス級原子力攻撃型潜水艦USSニューポートニューズがホルムズ海峡野南で2007年に遭遇している。同艦は日本のタンカー最上川(川崎汽船)に吸い寄せられ、艦首を損傷し、艦長が解任された。

 

米海軍の元潜水艦艦長は何らかの人的要因が介在したと見る。そうりゅう乗組員は疲労あるいはストレスの影響下にあった、あるいは技量を過信していたのではないかというのだ。きびしい潜水艦勤務で、極度のストレスがかかると状況把握が低下することがある。演習後の乗員によく見られる現象だ、という。

 

JAPAN COAST GUARD

JAPAN COAST GUARD

 

別の可能性として、そうりゅう乗組員が浅海域でのソナー反響の読みに不慣れだったのか。事故発生地点が大陸棚上だったとすれば、反響経路が深海部と全く異なる。今回の取材源も「深海・浅海で生データは同じように見えるが、実は意味が全く違う。海底反響と直接経路を間違えてると距離が全く違うことに気づかない。これは経験豊かな乗組員でもよくある誤りだ」という。このシナリオだが、貨物船から返ってきたソナー音を海底からの反響と勘違いしたことになる。ただし、米海軍の元潜水艦乗りはそうりゅうのようなディーゼル電気推進艦の乗員は浅海域運用に慣れているはずだと述べている。

 

最後に、事故が単純な衝突事故で白昼の海面上で発生した可能性がある。「愚かしい事態が発生した」のか。


JAPAN COAST GUARD

 

これに対し、アーロン・エイミックが異なる見解を示しているので紹介したい。

日本のSSKそうりゅうがオーシャン・アルテミスと衝突した今回の事故は潜水艦がいかに危険と紙一重で運行されているのを改めて示した。事故直後にヘリコプターが撮影した写真を見ると、潜水艦の右舷が衝突したことがわかる。セイル、潜舵、マスト、アンテナに損傷が見られる。艦前方と後方に損傷がないのは衝撃が舷側に限られていたからだろう。

損傷がセイル上部と潜蛇に限定されているのは同艦が衝突時に潜航中だったからだろう。そうりゅうは潜望鏡深度になる前にオーシャンアルテミスの船腹に吸い付けられたのか、大型船の航行で押しのけられたのだろう。

 

潜水艦に詳しい筋から洞察力に富む説明が得られた。

 

事故原因が何だったにせいよ、重傷者が発生しなかったことに安堵するばかりだ。別の元米海軍士官は世界各地で超大型船が増えていることで、こうした衝突事故は残念ながら今後増える一方だろう、という。■

 

この記事は以下を再構成し、人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください


Veteran Submariners Explain What Might Have Caused Japanese Submarine Collision

 

Despite all the technology at their disposal, for a submarine crew, the simple act of surfacing can sometimes be fraught with danger. 

BY THOMAS NEWDICK AND TYLER ROGOWAY FEBRUARY 9, 2021

THE WAR ZONE

 


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

日本の防衛産業が国際市場でプレイヤーになれるか試されている。防衛面の多国間協力を支える産業が真の国際化を迫られている。

  iStock illustration CHIBA, Japan —  インド太平洋地域での中国へのヘッジとして、日米含む多数国が新たな夜明けを迎えており、軍事面で緊密化をめざす防衛協力が進む 言うまでもなく日米両国は第二次世界大戦後、米国が日本に空軍、海軍、海兵隊の基地を設置して以後緊密な関係にある。 しかし、日本は昨年末、自国の防衛でより積極的になることを明記した新文書を発表し、自衛隊予算は今後10年間で10倍になる予想がある。 政府は、新しい軍事技術多数を開発する意向を示し、それを支援するために国内外の請負業者に助けを求める。 日米両国軍はこれまで同盟関係を享受してきたが、両国の防衛産業はそうではない。 在日米国大使館の政治・軍事担当参事官ザッカリー・ハーケンライダーZachary Harkenriderは、最近千葉で開催されたDSEIジャパン展示会で、「国際的防衛企業が日本でパートナーを探すのに適した時期」と述べた。 日本の防衛装備庁の三島茂徳副長官兼最高技術責任者は会議で、日本が米国ならびに「同じ志を持つ同盟国」で協力を模索している分野を挙げた。 防衛省の最優先課題のひとつに、侵略を抑止する防衛システムの開発があり、極超音速機やレイルガンに対抗する統合防空・ミサイル防衛技術があるという。 抑止力に失敗した場合を想定し、日本は攻撃システムのアップグレードを求めており、12式地対艦ミサイルのアップグレード、中距離地対空ミサイル、極超音速兵器、島嶼防衛用の対艦ミサイルなどがある。 また、高エナジーレーザーや高出力マイクロ波放射技術など、ドローン群に対抗する指向性エナジー兵器も求めている。無人システムでは、水中と地上無人装備用のコマンド&コントロール技術を求めている。 新戦略の発表以来、最も注目されている防衛協力プログラムは、第6世代ジェット戦闘機を開発するイギリス、イタリアとの共同作業「グローバル・コンバット・エアー・プログラム」だ。 ハーケンライダー参事官は、日本の新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛予算の増強は、「時代の課題に対応する歴史的な資源と政策の転換」につながると述べた。 しかし、数十年にわたる平和主義的な政策と、安全保障の傘を米国に依存してきた結果、日本の防衛産業はまだ足元を固めらていないと、会議の講演者は述べた。 三菱重工業 、 川崎

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM