2025年12月17日水曜日

アーセナルシップはミサイル1,000発を装備した米海軍の「戦艦」構想だった(National Security Journal) 実現しなかった構想

 

アーセナルシップはミサイル1,000発を装備した米海軍の「戦艦」構想だった(National Security Journal) 

― 構想を見ると単独での戦闘を想定せず、センサーやその他兵装など極端に単純化している様子がわかります。大海軍でないとこの種の艦艇の運用は現実的ではないですね。ステルスであれば潜水艦なので、条約で余剰となったオハイオ級をSSGNに改修するほうが理にかなった決断だったのでしょう。


ブレント・M・イーストウッド

Arsenal Ship U.S. Navy

Arsenal Ship U.S. Navy. Image Credit: Creative Commons.

要点と要約 

アーセナルシップは1990年代の計画で、最大1,000発の垂直発射兵器を搭載した合同部隊用「ミサイル・バージ」だった。空母を護衛し、海兵隊を支援し、全軍種のための陸上深部攻撃を実行する目的だった。

安価で少人数運用を前提とし、陸軍・空軍司令部とネットワーク接続される設計で、空母のコストをかけずに戦艦並みの火力を約束していた。

しかし冷戦後の予算削減、生存性の懸念、バーク級駆逐艦や潜水艦との機能重複により、1998年に計画は中止された。

中国海軍の急成長と長距離「キネティックミサイル戦闘」の脅威が迫る中、国防総省がまさに今必要とする艦艇を自ら放棄したのではないかと本記事は問う。

アーセナル・シップ(武器庫艦):米海軍の統合ミサイル運搬艦

米海軍はすなわちDARPAが1995年に「兵器庫艦」と呼んだミサイル運搬船という野心的な計画を推進していた。

同艦は艦艇設計の革命となるはずだった。

提案は実現しなかった——ズムウォルト級駆逐艦代わりに建造された——が、その開発は国防総省と海軍が新たな支配的な海上プラットフォームを求めていたことを示している。


ズムウォルト級駆逐艦(米海軍)。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。

アーセナルシップは協力な火力と強化された防御手段を備え、生存性を高める設計だった。

平和の配当が開発を阻んだ

この構想は時期が悪かった。冷戦はすでに終結し、ビル・クリントン大統領は防衛予算を削減すべき時期と判断した。

ソ連の脅威が消え、海軍が標的とする敵艦は減少していた。それでもアーセナルシップは魅力的な革新案だった。

最初の任務は戦域ミサイル防衛だった

この艦はSM-3ミサイル用の垂直発射管を備え、空母打撃群を保護する傘となるはずだった。少人数乗組員で長期間の待機が可能となり、他の艦艇に割ける人員が増えるという利点もあった。

防空迎撃ミサイルを満載

アーセナルシップの設計は基本に立ち返るアプローチを取った。

船体は目新しいものではなく、 レーダーは初歩的なもので、他の駆逐艦やフリゲート艦がイージス戦闘システムを担当し続ける予定だった。

DARPAは「ミサイル運搬船」というコンセプトを文字通りに受け取った。DARPAはアーセナルシップに驚異的な1,000発のSM-3迎撃ミサイルを搭載し、500基の垂直発射ベイを設けることを求めた。アーレイ・バーク級駆逐艦が搭載するミサイルはわずか100発である。

海軍はアーセナルシップの費用を賄えたのか?

アーセナルシップの建造費は3億~5億ドルと見積もられていた。これには膨大なミサイル費用は含まれていない。当時のSM-3ミサイルは1発あたり約1,000万ドルだった。

海軍はアーセナルシップを、軍の変革計画の一環と位置づけていた。

海軍はあらゆる敵を圧倒するため大規模な火力生成に注力しようとしていた。ダニエル・マーフィー少将はこの計画艦に熱意を示し「アーセナルシップは21世紀の戦艦として、陸上戦闘への多機能支援を提供する艦と定義するのが最適だ」と述べた

多目的任務で敵を惑わす

アーセナルシップは完全自動化され、沿岸域での近接作戦も、空母打撃群との深海作戦も可能だった。水陸両用攻撃を支援し、米海兵隊に近接航空支援を提供したり、後方に留まりミサイル防衛を担ったりできた。

しかしアーセナルシップは海軍専用ではなかった。

「パープルシップ」との位置付けで統合運用を目指していた。

陸軍や空軍との相互運用性を備え、両軍から火力支援任務を要請される可能性もあった。

アーセナルシップの攻撃能力も認める

1996年までに、海軍はアーセナルシップの作戦概念を確立していた。提案された多数の武装には、155mm砲、のトマホーク巡航ミサイルホーク地対空ミサイル、そして海軍のスタンダードミサイルの対地攻撃型が含まれていた。

それだけではない。アーセナルシップは、陸軍のATACMSと海軍の進化型シースパローも搭載する予定だった。

ただし、これらの兵器システムが全て同時にアーセナルシップに配備されるわけではない。「海軍の将来のアーセナルシップに配備されるミサイルの備蓄は、任務に応じて陸軍または空軍の将校が管理できる」と、アーセナルシップに関する論文は記している

海軍は乗組員をわずか50名と想定していた。同艦はニミッツ級空母の45億ドル、アーレイ・バーク級駆逐艦の8億ドルというコストと比較すれば割安と考えられていた。

DARPAと海軍は、アーセナルシップが長期間海上に留まり、空母打撃群の他の艦船から交代で乗組員を補充できると考えた。しかし、生存性が懸念された。アーセナルシップは十分な防衛システムを備えていたものの、装甲に欠けており、格好の標的となる恐れがあった。

1998年までに、アーセナルシップの支持者は批判派に敗れた。既存のミサイルフリゲートや駆逐艦で同等の任務を遂行できる以上、必要とされるプラットフォームとは見なされなかった。潜水艦の方が生存性が高く、同数のトマホーク巡航ミサイルを発射可能と評価されたのである。

議会はアーセナルシップの統合運用性に疑念を抱き、戦闘時に最終的な責任を負う軍種の特定が困難だった。議会は資金拠出を見送った。

結論

しかしアーセナルシップは興味深い構想だった。火力は圧倒的だった。少数乗組員と他軍種との相互運用性は価値あるものだった。

海軍の最新鋭で最も技術的に進んだ軍艦、USSズムウォルト(DDG 1000)が、ボルチモアのノース・ロカスト・ポイントにおける就役式典中に埠頭に停泊している。(米海軍写真:一等兵曹ネイサン・レアード/公開)

これはDARPAと海軍が、中国との間でいつ発生してもおかしくない「キネティック・ミサイル戦」の未来を当時から深く考察していたことを示すものだ。

今や国防総省はアーセナルシップ構想を再検討すべきかもしれない。その特徴の一部を他の艦艇に組み込む形でも。■

著者について:ブレント・M・イーストウッド

防衛問題に関する3,000本以上の記事を執筆したブレント・M・イーストウッド博士は、著書『世界から背を向けるな:保守的な外交政策』および『人間、機械、データ:戦争の未来トレンド』を含む計5冊の著書を持つ。ブレントは人工知能を用いて世界情勢を予測するテック企業の創業者兼CEOを務めた。米国上院議員ティム・スコットの下で立法フェローを務め、国防・外交政策問題について助言を行った。アメリカン大学、ジョージ・ワシントン大学、ジョージ・メイソン大学で教鞭を執った。元米陸軍歩兵将校である。X(旧Twitter)@BMEastwoodでフォロー可能だ。


Military Hardware: Tanks, Bombers, Submarines and More

Arsenal Ship: The U.S. Navy’s ‘Battleship’ Armed with 1,000 Missiles

By

Brent M. Eastwood

https://nationalsecurityjournal.org/arsenal-ship-the-u-s-navys-battleship-armed-with-1000-missiles/

il



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