2020年7月24日金曜日

燃料タンク装着したMQ-25スティングレイの近況写真を次期副大統領候補と噂の上院議員がツイッターで公開

ーイングMQ-25空母艦載無人給油機のテスト機材T1が主翼下にコバム製バディ燃料給油タンクを装着する姿がはじめて明らかになった。タミー・ダックワース上院議員(民、イリノイ)がミッドアメリカ空港を訪問し、ツイッターでT1の写真を掲載した。

同議員によればボーイング施設を訪問したのは先週のこと。ミッドアメリカ空港はスコット空軍基地に隣接し、セントルイスから18マイルほど離れている。ボーイングはT1を4月に同地に移動し、民間機登録番号N234MQを取得し、5か月後に初飛行させた。

OFFICE OF SENATOR TAMMY DUCKWORTH
中央車いすに乗るタミー・ダックワース上院議員。ミッドアメリカ空港のボーイング施設でT1が背景に見える。July 2020.
OFFICE OF SENATOR TAMMY DUCKWORTH

「先週、@MAAirportを訪問し、海軍の新型MQ-25無人機システムを見ることができた」と同議員はツイッターに写真数点を掲載した。「ミッドアメリカ空港はわが州の経済で大きな推進役となっており今後も必要な連邦政府支援を得られるよう努力して行きたい」

ダックワース議員は退役米陸軍中佐で、2004年にイラクで乗機UH-60ブラックホークがロケット推進手りゅう弾の攻撃を受け両脚を失った。2013年から2017年イリノイ州選出下院議員ののち上院に当選した。現在は上院軍事委員会に籍を置き、今年の大統領選挙ではジョー・バイデンの有力副大統領候補といわれる。

ボーイングはT1試作機を2019年からミッドアメリカに置き、作業を進めている。同社はMQ-25スティングレイ無人給油機の契約を一年前に獲得していた。コバムのバディ給油ポッドは海軍でF/A-18E/Fスーパーホーネットが給油機任務で運用しており、無人艦載機(UCA)ではその運用が重要視されている。UCAは開発中止となった無人艦載偵察攻撃機(UCLASS)構想を引き継いでいる。

T-1テスト機はボーイングのUCLASS提案に手を加えたもので、同社は技術開発モデル(EDM)試作機を計4機引き渡す契約になっている。この一号機は来年の引き渡しとなる。残る3機も2024年までに納入される。

ボーイングはT1で空母艦上の各種取扱いテストを近い将来に始めたいと説明。ただし、艦上での飛行テストはEDM各機を使い、2022年以降の開始という。

MQ-25により海軍艦上航空部隊には革命的効果が現実のものとなり、将来の運用に変化が生まれる。同時にF/A-18E/Fスーパーホーネットを給油機任務から解放し、本来のミッションに投入し、機体の疲労度も軽減できる。

スティングレイ以外に今後登場する新機種や改良型がその他ミッションも引き継ぐはずで、情報収集偵察監視(ISR)もその一つだ。海軍は空母航空部隊の将来像として有人機無人機の併用を描いている。

ダックワース上院議員が公開した写真から少なくとも今はボーイングがMQ-25を給油機として開発を進めている様子がわかる。■


この記事は以下を再構成したものです。

Illinois Senator Tammy Duckworth saw the prototype fitted with the pod during a recent tour of a Boeing facility in her state.

BY JOSEPH TREVITHICKJULY 20, 2020

Contact the author: joe@thedrive.com

2020年7月23日木曜日

2030年のF-35はここまで性能強化される(はず)

ッキード・マーティF-35にはこれからの10年で以下が期待されている。

  • 世界各地で2千機超が供用され、さらに増える。機体販売単価、運航費用双方で第四世代機をわずかに上回る程度になれば販売に拍車がかかる。最新のブロック4仕様では現行型のコンピュータ処理能力の25倍になり、機内のデータ融合エンジンでアクティブ、パッシブ双方のセンサーのデータが有効活用可能となる。
  • コックピットの状況認識機能が向上し、パイロットは各種兵装を選択可能となる。ロッキード・マーティンAIM-260あるいはレイセオンAIM-120高性能中距離空対空ミサイル6本を機内搭載する、洋上標的攻撃に共用打撃ミサイル、新型長距離打撃ミサイルのスタンドイン攻撃兵器 (SiAW) を機外に搭載する。極超音速巡航ミサイルの外部搭載の可能性もある。ロット22機材がロッキード組立ラインを離れる2030年には新型空中発射回収式装備により探知能力が向上し、兵装搭載量もミッション内容により倍増する。
  • F-35の役割も制空攻撃任務から広がる。陸軍、海軍ともにF-35のセンサーデータで迎撃ミサイルを遠隔制御している。空軍の分散型指揮統制体制ではF-35の処理能力、センサーデータや通信能力で各ドメインで広範な攻撃効果を上げるのが狙いだ。F-35は空軍が通常使用する範囲を超えた役割を果たしそうだ。

U.S. Air Force F-35A
米空軍のF-35Aが5月にネリスAFBで飛行テストに供されたが、GBU-49レーザー誘導爆弾を搭載していた。性能改修でレイセオンGBU-53/Bストームブレイカーの運用が可能となる。Credit: Airman 1st Class Bryan Guthrie/U.S. Air Force

10年先といっても決して遠い先のことではなく、実現は大いに可能だろう。10年前のF-35は危機的状況にあった。飛行テストは2009年に停止され、サプライチェーンは混乱していいた。当時国防総省で調達・技術導入の責任者だったアシュトン・カーターは状況説明を受け事業中止を提案していた。

ロッキードはF-35の500機超を9か国に引き渡しずみで、さらに三カ国が導入を決めた。2022年にロット14生産が始まると機材単価は77.9百万ドルまで低下する。

ただし同機開発のこれからの10年では、初期と同様の苦しい状況が予想される。

F-35共用開発室(JPO)はブロック4追加改修策でハードウェア・ソフトウェア66点の改修が必要と把握し、2019年5月に議会に報告していた。まず改修8点が2019年中に実施の予定だったが、実現したのは自動地上衝突回避システム一点のみだった。フルモーションヴィデオ機能を海兵隊向けF-35Bに搭載する構想もハードウェア面で予定より遅れていると会計監査院(GAO)が報告している。

JPOではブロック4開発の迅速化対策も採用した。性能改修は4回の主要改訂で実現するべく、ブロック4.1、4.2、4.3、4.4と六か月間隔で性能向上をめざすとし、継続性能開発提供 Continuous Capability Development and Delivery (C2D2)と呼ぶ。ロッキードでは30P5ソフトウエア開発が今年第三四半期内に完成する予定だ。この後、30P6が2021年第一四半期に登場する。この迅速開発体制は遅延の影響を縮小するのが狙いで、従来は大型ソフトウエア改修が二年おきにリリースされ都度遅延が発生していた。だがC2D2がテストに入ると、新たな問題がみつかった。たとえばブロック4のソフトウェアコードでブロック3Fで問題なく作動した機能が「問題」になったとGAOは指摘している。

ブロック4で次の大型改訂は2023年の予定で、ブロック4.2では Technical Refresh 3 (TR-3)ハードウェアがはじめて扱えるようになる。ここでは新型統合コアプロセッサ、機内記憶装置、パノラマコックピット表示が含まれる。ブロック3i(2016年)以来初のコックピット内演算処理となるTR-3でセンサー能力は一気に向上し、とくにBAEシステムズ製ASQ-239電子戦装備の利用が注目される。

F-35 panoramic cockpit display
F-35ではパノラマコックピット表示に加え、TR-3で新型統合コアプロセッサが導入され、処理能力が一気に25倍に増強される。Credit: U.S. Air Force


ただしTR-3改修にも開発面で課題がある。JPOは2021年度に42百万ドルを追加投入しTR-3の「技術的複雑性」の打開を目指すとしている。

「ハードウェア-ソフトウェアをひとつにとらえた開発日程の課題にサプライヤー各社が苦労している。このためハードウェアの暫定発表によりリスクを減らしつつソフトウェアを並行開発する」と空軍は2021年度予算説明書で述べていた。

F-35の特定調達報告書selected acquisition report (SAR)最新版を国防総省は7月初めに公表し、TR-3について同様の記述があり、とくに新型プロセッサ用のゲートウェイで課題の複雑さのため追加支援がサプライヤー一社で必要となったためのコスト上昇に触れている。コアプロセッサと機内記憶装置の開発も遅延中と同SARにある。

TR-3を搭載したブロック4.2仕様が配備されればF-35のパッシブセンサー能力は大きく向上する。またこの性能向上でBAEの電子戦装備特にジャミング発生装置がラック2A、2Bを有するASQ-239で使用可能となる。主翼前縁部に搭載の帯域2、3、4向け受信機、また帯域5用受信機により低周波から超高周波に至る無線信号受信を可能とする向上策もBAEが検討している。TR-3の強力な処理能力が加わればF-35は未遭遇の信号に対しても有効なジャミングが可能となる。敵対勢力がソフトウェア依存の無線交信や周波数変更方式のレーダー装置に切り替える中で認知電子戦cognitive electronic warfareといわれる分野が重要性を増している。

現行日程のままならTR-3とブロック4.2改修はロット15機材で間に合う。ロッキードは機内兵装庫改修に取り組んでおり、レイセオンAIM-120ミサイル搭載量を6発に増やす。ロッキードのAIM-260が実用化されれば外寸が同じなため6発搭載できながら射程は大幅に伸びる。

兵装庫改修で空軍の新型SiAWミサイル運用も可能となる。これは海軍の高性能対放射線誘導ミサイル射程向上型に新弾頭をつけるものだ。イスラエル資金を導入し主翼に燃料タンクを追加すれば有効距離は25%増加する。ただし、これは機体のレーダー探知特性を重視しなくてもよいミッションの場合だ。

2020年代末までにF-35の運用実態は1990年代末の設計段階と大きく異なるはずだ。空軍のスカイボーグ事業は地上及び空中から発射する各種無人機開発で、自律飛行可能なウィングマンの実現を目指している。F-35パイロットにはスカイボーグ自律装備の運用技量の訓練を意味し、各種ミッションを実施させることにつながる。米空軍はF-35パイロットにスカイボーグを再利用可能装備として運用させたいとする。いいかえればいったん発射したミサイルを標的が無価値と判明すれば回収して再利用するのと同じだ。

20年前に設計陣が想定したF-35は当初予定より遅れ調達運用経費は上昇しととはいえ、実戦機材として利用可能となった。次の10年でJPOとロッキードは利用可能となった新たな性能を追加し、さらにスカイボーグやSiAWといった最新技術の導入も図る。F-35の歴史を特徴づけるのは過大な期待と開発期間中の低い実績だ。ブロック4開発が構想段階から現実に移行する中でこれまでの過ちの繰り返しは避けるべきだろう。

 

【これからどうなる】

Flight Paths logo

楽観視だと

  • 一時的に停滞したものの世界各国の防衛支出は拡大に戻り、ロッキードは4千機の販売に成功する
  • 懸念は残るもののロッキードはブロック4改修化を予定通り予算内で実現する

中立的見方

  • 各国の防衛支出は2040年まで増加せず、事業には逆風となる
  • ブロック4近代化改修は遅延し予算超過するものの調達に悪影響は出ない

悲観視すれば

  • 各国の国防支出は減少を長期間続け、戦闘機分野は1990年代同様の「調達閑散期」に入る。
  • TR-3リフレッシュとブロック4は大幅に遅れ、大幅予算超過で調達予算がさらに削減される。

この記事は以下を再構成したものです

 

Lengthy F-35 Upgrade List To Transform Strike Fighter's Future Role


Steve Trimble July 20、 2020

2020年7月22日水曜日

米陸軍がブラッドレイ戦闘車両の後継装備の提案要求を公表

   

シリア北東部の名称非公開地点にある米陸軍基地で待機するブラッドレイ戦闘車両部隊 Nov. 11, 2019. (Darko Bandic/AP)


陸軍は遅れている有人操縦切り替え式戦闘車両 optionally manned fighting vehicle (OMFV)で初期設計段階での提案要求原案を7月17日に発表した。ブラッドレイ歩兵戦闘車両の後継装備の再立ち上げで大きな一歩となる。

OMFVは陸軍が目指す次世代指揮統制事業f Army Futures Commandで初の大規模調達案件となる。

初期段階は40日間の期間で、業界の反応を吸い上げて次のRFP段階に移るもので、今年後半にRFPが出る。最終版RFPは2021年6月の予定で上上限5社に設計契約を交付し、次の競合段階に移る。

「OMFV事業では五段階の最初の段階にあり、業界の意見、希望や画期的な思考内容がかぎとなります」とブライアン・カミンズ少将(地上戦闘車両装備の統括官)が声明文を発表した。「業界にはフィードバックや知見を期待し、真の意味で画期的な車両が実現するようにしたい」

次世代戦闘車両横断機能チームを率いるロス・コフマン准将がここに加え、「望ましい性能諸言を細かく定義することで設計を必要以上に制約させないことが決定的に重要と考える」と述べている。

「陸軍は業界とオープンな意見交換を保ち、OMFVの最終的な性能諸元に技術面の進歩の裏付けを与えたいと考えている」

業界から情報フィードバックを重視する姿勢は同事業の過去を振り返れば意外な感はしない。OMFV構想が生まれた時点で陸軍は試作競技を二社に絞りこみ、評価の末一社を採択する構想だった。

だが昨年10月にOMFV提案企業はジェネラルダイナミクス・ランドシステムズ一社となり、他の企業は要求内容と日程のため脱落していた。

その結果、1月に陸軍は事業を再度立ち上げなおすと発表し、競合を促すとした。そこには3月に開かれた議会公聴会で幹部が猛烈な批判を受けたこともある。

RFP原案は政府の入札公募ウェブサイトに7月17日に掲載されており、「業界による設計の自由度とともに技術革新の盛り込みを許すべく、陸軍は性能諸元の数値表現や説明はしない」とある。

カミンズ少将は「業界を一定の解決策の中に封じ込めるまねはしたくない」と説明。「業界には逆にこれまで得た知見から創造的な思考で陸軍に画期的な技術内容や解決策を提示するよう奨励しつつ、構想の実現を目指したい。実用化されつつある新技術を採用しながら将来の発展性の余地を残したOMFV装備を実現したい」■

この記事は以下を再構成したものです。

US Army releases draft RFP for Bradley vehicle replacement

By: Aaron Mehta

2020年7月20日月曜日

F-15無敵伝説に異論を唱える筋の主張の信ぴょう性は?

F-15は高性能かつ高信頼度の機材だ。高齢化しているとはいえ退役までまだ活躍するだろう。

ボーイング及び米空軍の公式発表ではF-15の戦歴は104対ゼロの圧倒的勝利とある。だが敵勢力の空軍部隊にこの伝説的戦闘機を撃墜したとの主張もあるのは事実だ。

撃墜主張に共通項が一つある。証拠が皆無なのだ。

初期の成果はほとんど公表されていない。イラク空軍の39飛行隊MiG-23MSがイスラエル空軍のF-15をイラク西部で撃墜したと主張が1978年からある。イラク空軍の退役関係者がこの主張を繰り返しているものの、証拠は提示できていない。

次のF-15撃墜と称する1981年春の事案のほうが知名度が高い。話は各種変形しているが、事実上すべてがロシアのメディア発だ。

一番多く引用されたのは1981年2月13日のイスラエルF-15編隊がシリアのMiG-25P編隊に待ち伏せ攻撃し、うち一機を撃墜したとするものだ。その報復でシリアが1981年6月29日にMiG-25P編隊でR-40/AA-6アクリッド空対空ミサイルを25マイル地点から発射しF-15一機を撃墜したとする。

だが、この話には無理がある。シリア、ロシア双方がレーダー記録テープや機体残骸といった証拠を提示していない。またシリア空軍はMiG-25Pは受領していない。フォックスバットを導入したが二機がMiG-25PDS迎撃機仕様で、MiG-25Pではない。

MiG-25PDSは輸出用劣化版といわれるが、実は初期型よりも装備は充実している。強力なスメルチ2Aレーダーを MiG-25P同様に搭載し、赤外線探知追尾システムを機体前方下部に、レーダー警告装置を空気取り入れ口内のブリスターにそれぞれ搭載し、チャフ、フレア放出装置も主翼に積む。そこで「シリアのMiG-25P」というだけで信憑性が下がる。

さらにイスラエルが1981年2月に撃墜したフォックスバットはMiG-25R偵察機でレバノン上空を単独飛行していた。ロシアの言い分と異なり、シリアはMiG-25PDS単機でF-15を報復撃墜したと言っているのでこのことは重要だ。

シリアで流布している話ではMiG-25PDSにMiG-25Rの偵察飛行を模して高高度高速でベイルート方面に飛行させたとある。イスラエルがF-15の八機編隊を迎撃に向かわせると、シリア機がR-40二発を編隊の先頭機に向け発射し、一発は距離は37マイルで、残りは31マイル未満で、AIM-7Fスパローの有効射程外だった。スパローは当時のイスラエルで最長射程を誇る空対空ミサイルだった。

シリアによればF-15は被弾し海面に墜落した。イスラエルパイロットは射出脱出したらしい。同様の対決場面に触れ、イスラエルではF-15でMiG-25をスパローミサイルで撃墜したとの報道が出た。

もっと有名な事例は1982年6月9日のことでシリアのMiG-21がF-15DにR-60/AA-8アフィドミサイル一発を命中させた。大損害を受けたものの同機はイスラエルに帰還し緊急着陸した。機体はその後修復された。

そのほかにも注目すべき事例があった。1982年7月3日にシリアのMiG-21八機編隊がイスラエルのF-15四機、ミラージュIIICJあるいはクフィール四機とベイルート上空で遭遇した。シリアは四機を喪失したもののイーグル一機を撃墜したと主張。

この時の空戦に触れたイスラエル記事はないが、地上に目撃者数十名がおり、レバノン報道が伝えていた。

最後に、ロシア側記事では少なくとも三機のイスラエルF-15を撃墜し、すべて1983年のこととある。シリアのMiG-23MLがF-15二機を10月4日、もう一機を12月4日に撃墜したという。その主張を裏付ける証拠はロシアは提示していないが、関係したシリア空軍パイロットの氏名は示している。■

この記事は以下を再構成したものです。


Is the Air Force's F-15 Eagle Really Invincible?

It keeps winning big in practice war games.


2020年7月19日日曜日

主張 核兵器誕生75周年にペリー元国防長官が核兵器使用権限について懸念を示す


The world's first nuclear explosion on July 16, 1945, in New Mexico.


1945年7月16日午前5時30分。史上初の核のきのこ雲が閃光とともにニューメキシコの砂漠に出現した。ハリー・トルーマン大統領は広島、長崎へ初の原子爆弾投下を命じ、200千名の生命が瞬時に消えた。

だが、それで最後だった。米国、ロシアは核兵器数万発の整備に数兆ドルを使ったが、核兵器は一回も戦闘投入されていない。その理由は幸運がすべてで政策決定はわずかな役目しか果たしていない。

我々が共著した新刊The Buttonであきらかにしたようにトルーマンは軍将官から核爆弾使用を取り上げ、文官に使用をまかせる構想だった。トルーマンは100千人もの生命を奪うのは「考えるだけで恐ろしい」と思った。このため三発目以降の投入は中止されたのだろう。ただトルーマン構想では原爆使用の権限を与える文官は大統領一人だった。その後の米大統領は全員が核戦争を開始する権限を有していることになる。

話は一気に2020年に飛ぶ。米国民の大多数はこの権限について知らない、または意識していない。これまでは。ドナルド・トランプ大統領の不安定な気性と権利濫用傾向のためこの大統領権限が懸念されている。ただし、核のボタンに指を置きそうな精神状態の大統領はトランプが初めてではない。リチャード・ニクソンも退陣前数か月は大量飲酒していた。また今後の大統領に無謀な動きに出るものがいないと断定できない。

トランプが大統領の座にあるかぎり普段なら話題にならない疑問が出てくる。大統領にここまでの権限を与えてよいのか。そもそも必要なのか。冷戦時の残滓なのか。

この形でよいはずがなかった。ジョン・ケネディ大統領は1962年に「論理的に言って合衆国大統領が核兵器投入の決定に動く理由がない。歴史の必然でこの権限が与えられているのである」と書いた。ま神話の正当性はずっと前から誇張されたままだ。

神話その1:米国は数分で核兵器を発射する体制にある。

トルーマン以降、大統領に権限を認める理由は核戦争の予防から逆に核兵器使用の促進に代わってきた。ロシアの核ミサイル攻撃は米国本土に30分未満で到達する。実現すれば核の真珠湾攻撃となり、瞬時に大破壊となる脅威のもとで生活しているのが現実だ。これは1960年代から変わらない。こうした攻撃の可能性がごく少ない、あるいは米国は即座に反応すべきと考える理由がない。ともに危険な仮定であり、大統領が時間の重圧の中で最悪の破滅的決定を下してしまうかもしれない。核戦争勃発を防ぐには大統領に考える時間をもっと与える必要がある。

たとえば、米国の大陸間弾道ミサイルICBMは脆弱な装備で、大量攻撃の到達前に発射しないと、格納サイロ内で破壊される。だからといって即座の発射を正当化できない。米国には他に核兵器数百発が潜水艦に残り、爆撃機も発進できる。このためロシアが先制攻撃に乗り出せば自殺行為となる。ロシア指導部がいかに無慈悲でも自殺行為には走らないはずだ。

さらに攻撃警報で即座にICBMを発射すれば極度なまでの危険行為となる。「攻撃」が誤報の場合があり、実際に過去発生している。ペリー元長官も在任中に誤報の警告を二回経験した。誤報で核兵器を使用すれば、誤って核戦争を勃発させる究極の悪夢となる。

神話その2: 大統領は過ちを冒さない

もちろんこれは誤りである。核戦争の迅速決定となると、大統領は不十分な情報のまま判断の可能性があり、感情が不安定となったり、飲酒の影響下の場合もある。あるいは誤報に反応する可能性もある。

ロナルド・レーガン大統領は核兵器使用の決定は6分間で下す必要があると述べ、「すべてが素早く展開する危機状況ではじっくり検討したり理由を考える余裕がない」と述べていた。

神話その3:核兵器はサイバー攻撃に脆弱ではない

サイバー攻撃がコンピューター、配電網、通信設備にどこまで被害を与えるかを考えることが多い。事実はわが方のネットワーク対応システムは核兵器の指揮統制用装備も含めすべてサイバー攻撃の前に脆弱である。敵がコンピュータを乗っ取り米国に核攻撃が迫っていると誤報を与えたとしよう。実際には何もないのに攻撃の接近を「見る」ことになる。サイバー脅威は偶発核戦争の危険を大幅に引き上げる。

こうしたリスクを減らすべく次期大統領は核政策そのものを変更する必要に迫られる。大統領の専権事項たる核兵器使用権限も含み核兵器の先制使用を禁じ、陸上配備ミサイルは段階的に廃止すべきだ。ICBMの抑止力は機能せず、逆に核戦争による破壊の可能性を高める。偶発事故が発生すればそれでおしまいだ。

危険なほど無責任な政策が続いてきたが、75年間を核兵器となんとか共存できた。だがこれは単純に幸運のたまものであり、考え抜かれた末の結果ではない。核の惨状を回避するには、大統領に核のボタンを押させてはならない。だれが大統領になっても一人で人類の運命を支配するのはあまりにも危険だからだ。■

この記事は以下を再構成したものです。

ペリー元国防長官他が核兵器管理の現状について警句を鳴らしているのは多分にトランプ大統領を危険視しているからでしょうね。


JULY 16, 2020


  • William J. Perry served as the 19th U.S. Secretary of Defense. He is a co-author of the just-released book “The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.” FULL BIO
  • Tom Collina is director of policy at Ploughshares Fund and co-author, with former Defense Secretary William Perry, of the just-released book "The Button: The New Nuclear Arms Race and Presidential Power from Truman to Trump.”

2020年7月18日土曜日

F-22: イスラエル(及び日本)はなぜ調達を許されなかったのか


スラエルは米国製防衛装備を大量入手してきた。だがF-22ラプター戦闘機を導入できなかった理由とは何か。

米イスラエル協力をもっとも強く示すのがイスラエル版のロッキード・マーティンF-35ライトニングIIで、機体改装を許されたのはイスラエルのみで、すべて中東での使用を念頭にイスラエル装備を搭載するためだった。

だがイスラエルにはF-35より多数が配備されている米製機体がある。ロッキード・マーティンによればイスラエルはF-16を300機以上入手している。1990年代の米軍余剰機材の入手から始め、イスラエルは米国外で同機の最大使用国になった。

このように緊密な軍事関係が両国にあり、技術共同開発や演習もしているのにイスラエルは希望通りにF-22を入手できなかった。なぜか。

ロッキード・マーティンは米空軍が運用し、世界最高性能の有人戦闘機であることに議論の余地はない。ステルス性能ではF-35を上回り、そのF-35は米同盟国への輸出が認められ、日本、イスラエルも調達している。

当初はソ連軍用機を空で撃破する機体として構想され、ステルス技術の最高峰を投入され、敵レーダーによる探知を逃れたほか、推力変更エンジンを二基搭載し、操縦性能を高めたほか、エイビオにクスでは機内外のセンサーの情報を融合し一つにまとめて表示する能力を狙った。

F-22の輸出に道を閉ざしたのは通称「オベイ改正法案」だった。デイヴィッド・オベイ下院議員の懸念は機微かつ極秘のF-22技術が輸出され米国の敵の手に渡りリバースエンジニアリングされることだった。とくにステルス技術を念頭に置いていた。

1998年に同議員は1998年国防総省予算認可法案に追加条項を提案した。内容は次の一文だった。「同法案で支出可能となる予算でF-22高等戦術戦闘機の外国政府向け販売を承認あるいは許諾することはまかりならない」

F-22の開発期間中に米空軍は750機もの大量調達を想定していたが、結局187機になった。

オベイ法案以外にF-22の障害となったのはF-22に対抗できる脅威がなくなったことだった。F-22はソ連の高性能機材に対抗する目的で開発されたが、ソ連解体で一時的にせよ米国の一極支配が実現し、高性能戦闘機のF-22には出番がなくなったのだった。■

この記事は以下を再構成したものです。

July 17, 2020  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Reboot  Tags: F-22MilitaryTechnologyWorldStealthIsrael



Caleb Larson is a defense writer for the National Interest. He holds a Master of Public Policy and covers U.S. and Russian security, European defense issues, and German politics and culture. This article first appeared earlier this year and is reprinted due to reader interest.