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2016年1月5日火曜日

展望:サウジアラビとイランの対立は中東の危機につながるのか


外交関係の断絶は戦争をするという意思表示で新年早々騒がしいことになってきました。原油価格の低下で一番苦しいのは大盤振る舞いの国家財政を維持してきたサウジアラビアであり、制裁解除で今年にも実現するというイラン原油の参入はこれ以上の価格低下を好まない同国にとっては見たくない事態なのでしょう。手を出すことはお互いに自生するのではないかと思いますが、原油価格は今のところ最低値に近い水準で張り付いたままで国際社会もこれで即座に需給が逼迫するとは見ていない証拠ですね。スンニ派シーア派といいいますが、サウジ、イラン両国でも両派は交じり合って暮らしているので簡単に区分できるものでもないと思いますが。

Analysis: Saudi Arabia, Iran and Middle East Brinksmanship

By: Cmdr. Daniel Dolan, USN (Retired)
January 4, 2016 1:16 PM • Updated: January 4, 2016 1:55 PM
Iran-SaudiArabia

この週末にサウジアラビアが著名な宗教指導者ニムル・アルニムルを処刑したことでイランはじめ世界各地のシーア派宗徒がサウジアラビアへ怒りをぶつけていることほどイスラム教宗派間の共存が難しいことを改めて示すものはない。

  1. アルニマル師はサウジアラビアのシーア少数派でサウジ現体制へ歯に衣着せぬ批判を繰り替えしていた。政権に暴力で手向かうよう扇動した罪で処刑された。

  1. 他の46名とともに断頭一斉処刑を行われたのは、急進思想タクフィンが理由で訴追されたもののはシーア派スンニ派双方にあった。イラン政府は以前からサウジ政府に著名な師の処刑は深刻な結果をもたらすと再考を求めていたが、警告を振りきった形のサウジが予定通り処刑をとりおこなったことで即座に反応が発生した。

  1. 在テヘランのサウジアラビア大使館が怒り狂う群衆に放火されたのは処刑数時間後のことで、4日には両国間の関係が険悪になり、双方が外交団の国外移動を求めている。シーア派が主流のイラク政府もサウジとの関係断絶をほのめかしている。

  1. 外交団追放および武力による脅かしは冷戦時の米ソを想起させる動きで、イスラム教の二大宗派間の不和は冷戦に匹敵する。スンニとシーア双方の教義上の対立はイスラムの価値観の根源から発生している。その両宗派の宗主たる存在がサウジアラビアとイランだ。両派の対立が代理戦争をレバノン、イエメン、シリア、イラクの各地で発生させている。

  1. 各地の紛争はもっと大規模で悲惨な結果をもたらす二大国間の戦闘を回避する役割もある。冷戦と同様に一つひとつの行動とその対応には思想上の意味があり、冷戦同様に偶発事故がエスカレートする危険がある。

  1. このような比較対照は世界各地で注視しているだろうが、興味をそそられるのは米政権が両派の対立から落ち穂拾いする可能性があることで、これは軽視できないし、無視するべきでもない。

  1. 米国の政策上の権益を考慮してジョン・ケリー国務長官はダーシュ(ISISI)のイラク・シリア内勢力との戦闘にサウジとイランが集中するよう求めている。先週もシーア派のイラク軍がダーシュが占拠していたラマディを奪還したが西側ではシーア派が中心のイラク陸軍がスンニ派が多数のラマディを解放するか関心を呼んでいた。ラマディでシーア派のイラク正規軍は外国軍隊以上に歓迎されない。穏健なスンニ派部隊を求める動きが出ている。ラマディを引き続き保持し再建できるか深刻な課題だ。

  1. スンニ派部隊に治安維持にあたらせラマディ再建を助けることが米政府の目下の課題だ。地域内の大国間でこれ以上の大規模対立が生まれればこの課題の実現は難しくなるはずだが、本当にそうなるだろうか。

  1. サウジアラビアの宿敵への制裁措置と軍事攻撃の警告が解除となりつつある中で、力のバランスが移動しつつある。サウジアラビアは明白なメッセージを送っているのであり、自国権益はあくまでも守るが、イランの警告や西側友邦国の外交上の求めには動じないというのだ。今回の断頭処刑で交渉が有利になるのか、世界各地のイスラム教徒に自国の教義上の優位性を訴えることになれば最良の結果となる。

  1. 逆にサウジがイランとの直接対決に踏み出せば最悪だ。歴史を見れば、相手方の国力増進を見て今こそ開戦すべきだと考える例が存在している。日本帝国が開戦を決意したのは1941年12月のことで、当時の日本は米国の造船台に新造艦多数があるのを知り回避できない戦争ならこれ以上敵国が強大になる前にたたくべきだと考えたのである。

  1. イランが段階的に核開発事業を解体していることで核兵器生産の発生を大幅に遅らせている。さらに世界各国の銀行が凍結イラン資金を解除すればイランの通常兵器購入に結びつくのは必至だ。サウジアラビアはこの状況を開戦時期ととらえているのだろうか。専門家の大部分はサウジアラビアとイランのエスカレーションは起こりえないと見ている。そうであれば安心だが、西側各国はこの地域で発生した直近の大国間戦争を覚えているはずだ。イラン・イラク戦争(1980年)とイラクのクウェート侵攻(1990年)で世界は驚かされた。

  1. サウジアラビアがアルニムル師を断頭処刑した動機がなんであれ、一つ確かなのはただでさえ不安定な地域で炎がかきたてられたことだ。これ以上燃え上がらないよう祈るばかりだ。■

原注 ドーラン中佐は戦略戦争論を海軍大学校の遠隔教育で教えるととtもにメイン大学で歴史学の非常勤教授を務める。EP-3E特殊用途機の飛行士官を以前勤めており、USNI NewsおよびProceedings誌にたびたび寄稿している。


2015年7月2日木曜日

★なぜISISは一向に弱体化せず、逆に強くなっているのか



最後の発言が救いで経済振興ができれば過激主義に走る必要も減るのはだれでも理解できます。問題はどうやって世界全体が繁栄できるのかであり、暴力の連鎖を止めることなのですが、残念ながら暴力が最高の解決手段であることにかわりなく、対ISIS(今やアルカイダも的とみなし撲滅を誓っている)作戦は今後10年単位の期間がかかるだろうというのがブログ主の悲観的な見方です。

Panel: ISIS ‘Stronger, Tougher and Smarter’ Than Expected

By: John Grady
June 29, 2015 1:46 PM

イラク第二の都市モスルの陥落から一年たったが、イラク・シリアのイスラム国(ISISあるいはISIL)は「今までより強く、打たれ強く、賢い」敵となり、米国の予想を超え、中核構成員を失い死傷者を多数出しても迅速な回復力を示している。

  1. 会場の戦略国際研究所(CSIS)でワシントン・ポストのデイビッド・イグナティウスDavid Ignatius は「ISISの作戦展開の価値観は超高速、一方米国は超低速」と評した。

  1. CIA元副長官スティーブン・カップスStephen Kappasからはテロリスト対策で「9.11以後の教訓を忘れている」米国には驚きを隠せないと発言があった。また米国には「以前はうまくいったのに今度は失敗する事を作る」能力があると評している。またISISはイラク、シリア両国ならびに北アフリカで「真空地帯すべてを埋め尽くした」とも発言。

  1. 「ISIS戦闘分子は生き残る決意が固く、実際に生き残っている」とカップスは評し、日本兵が数週間に及ぶ空襲や砲弾の雨を生き残り、海兵隊相手に太平洋各地でしぶとく戦った第二次大戦の例をあげた。

  1. また質疑応答の部ではカップスはイラク国内のスンニ派と米国の同盟国・協力国は今回の戦闘が「厳しい局面になろうとも米国は見放さない」と理解すべきだと回答。

  1. イグナティウスからは米戦略でイラクのヌーン・アル=マリキに首相職を降ろさせ、国際有志連合でイスラム過激主義の敗退を目指し、治安部隊を動員し、スンニ派を巻き込んだのは基本的に正しい戦略だったとの発言があった。

  1. 「現在の問題は事実だがこの戦略を否定するものではない」とし、地域内連携やイラク国内部隊の動員が例だとする。

  1. イグナティウスはオバマ大統領には「作戦の責任を取る人物が必要だ。ジョン・アレン(退役海兵隊大将)はその責をとったが、ホワイトハウスでは誰も取っていない」と評した。実際には国務省にポストが生まれ、中央軍を相手にスンニ派過激主義者を撃退したのはどちらか言い争っているという。

  1. カップスは「各国駐在大使に信を置く」とし、ライアン・クロッカー Ryan Crocker 元大使とデイヴィッド・ペトレアス将軍Gen. David Petraeus がイラクでともに戦い、目標を達成していると指摘。

  1. スンニ派の「地方部族は一度足らずとも」米国を助けているとカップスは指摘。ISISとの戦いに再度勝つことは8年前「に増して困難な仕事」になったという。「不信感はいったん生まれると急速に拡大する」

  1. ふたりともイラクが単一国家として存続できるか疑問に感じており、スンニ派が政府を信用しない限り無理だという。

  1. 逆にふたりとも米国が今後数年間のうちに大規模地上部隊を派兵するとは見ていないが、前線航空統制官の派遣、物資提供の拡大、訓練教官の増強はありうるという。

  1. 「訓練や支援とは大変難しい業務だ」とカップスは言い「一緒にいなければならない仕事」で小銃の使い方を体得させたからといって帰国できないのだという。

  1. ただ米国の関与が拡大していない理由についてイグナティウスは「イラクと聞くだけでアレルギー反応を示す国がひとつある。アメリカ国民よりも大統領のほうが拒絶反応を示している」

  1. 米国には現在もイラク国内に情報源があるが、シリアには少ない。事実は「敵のことが十分わかっていない」のだとイグナティウスは言う。

  1. カップスはイランまで含み多くのレベルで「交戦を確信しているCIA情報官は多い」という。ここにシリアも含み、バシャ・アル=アサドに権力の座を降りるか、カダフィのリビアのように野垂れ死にするかの選択しかないと説得できるシリア人がいるという。

  1. イグナティウスはイランQuds部隊がISISの攻撃下にあったイルビルに最初に到着していると指摘。イルビルはイランの代理をつとめるシーア派戦闘分子を抱えるイラクの都市だ。イランは現地にかけつけて「戦闘開始の能力』があることを見せつけ、チクリットやアンバール県でも同様だったが、それぞれスンニ派が優勢な地方で「完勝をおさめていない」と指摘している。

  1. カップスは「外国人戦闘員の数が2万人と言われるが、にわかに信じがたい」と発言。イラク戦争時にはアルカイダ系外国人戦闘員の推定数はISISの十分の一だったとする。
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  1. 今の懸念は外国人戦闘員がそれぞれ帰国したらどうなるかという点だ。「みつけだすことができるだろうか」との疑問があり、安全保障と法執行の中間で迅速さが重要だという。

  1. 「対テロ作戦の有効な方法は『雇用創出』だ。国内、国外問わず」とカップスは言う。働き口があれば若者をつなぎとめISISのような過激集団に加わらないようになるというのだ。■