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2019年11月2日土曜日

JSI仕様のF-15Jはこんな機体になる。影を落とす10年前の政権の考え方とは

Japan gets US nod for $4.5 billion F-15 upgrade package

日本向けF-15改修45億ドルパッケージの内容とは

By: Mike Yeo  

F-15イーグル迎撃機約100機の改修事業に関する日本政府の要請を米国務省が承諾した。老朽化が進む日本の戦闘機部隊の性能向上に道が開かれた。
国防安全保障庁が10月29日発表したもので、海外軍事販売制度で実施し、試算45億ドル規模の事業になる。
今回承認されたのは98機までのF-15Jを「日本向けスーパー迎撃機(JSI)仕様」に改修する内容で高性能電子スキャンアレイ(AESA)レーダー、新型ミッションコンピュータ、電子戦装備のほか新型兵装の運用能力授与が内容だ。
このうち、新型レーダーはレイセオン製AN/APG-82(v)1 複合モードAESAで米空軍がF-15Eストライクイーグルで運用中のものだ。日本の要請は同レーダーに加え、ハネウェルの高性能ディスプレイコアプロセッサーII(ミッションコンピュータ)116基、BAEシステムズ製AN/ALQ-239デジタル電子戦装備101基の搭載の他、妨害に強いGPS装備もあり、より精密な航法、無線交信を実現する。
安全保障協力庁発表にある「機材と兵装の統合化および試験支援」は内容が不明だが、2018年発表の中期防衛整備計画はロッキード・マーティン製AGM-158共用空対地スタンドオフミサイル(JASSM)の導入を明記しており、長距離対地攻撃ミッションをF-15で実施する想定だ。
主契約企業はボーイングだが今回のF15JSI改修では直接民生販売(DCS)の要素も見られる。DCS部分では三菱重工業が主契約企業、ボーイングが二次契約企業となりFMSおよびDCS部分のサポートを行う。
航空自衛隊は単座F-15J及び複座F-15DJ合計200機程度を運用中。すべて防空任務仕様で対地攻撃はできない。訓練飛行隊、アグレッサー教導飛行隊以外に航空隊7個編成としている。
各機は1980年代製造で三菱重工業が大部分をライセンス生産し国産電子戦装備や双方向データリンクを搭載した。うち、90機が数回に渡る改修を受けており、エンジンの改良や対抗装置を搭載している。
これ以外にも改修の試みもあったが、予算や政治上の制約で日本は全機改修を行っていない。そのため仕様が異なる機材が存在している。
直近ではLink 16および共用ヘルメット搭載目標捕捉システム(JHMCS)の導入が2007年に始まったが、2009年に著しく平和志向の新政府に交代すると、この事業は終了されており、赤外線捜索追尾装備(IRST)や一部機材をスタンドオフ偵察任務に転用する案も途中で唐突に中止となった。
そのため今回のF-15改修は機材構成を整備しつつ日本の防衛ニーズに見合う機材にする好機となる。今回の要請ではLink 16およびデジタルコックピット仕様への切り替えが見当たらないが、可能性としてDCSでこの部分を実現するのではないか。三菱重工業はF-2事業でこの分野の知見を有している。
またIRSTでも日本が開発を続けていることがわかる。日本で投稿された写真ではF-4EJファントムIIテスト機が岐阜の実験航空隊で稼働していることが判明しており、主翼下のボッド先端にレンズらしきものが確認され、ロッキード・マーティンのIRST21(ボーイングF/A-18E/Fスーパーホーネット用に開発)に類似している。

Photo thread of an F-4EJ Phantom II assigned to the JASDF's Air Development and Test Wing at Gifu carrying what looks to be a possible IRST pod on its starboard inner pylon #Japan


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IRST開発が成功すれば戦闘機は長距離からレーダーを使わずに敵機を捕捉交戦できるようになり自機の位置を知られるリスクが減る。また日本が進めるF-2後継機の開発にも役立つ。
日本はロッキード・マーティンF-35ライトニングII共用打撃戦闘機の導入では米国以外では最大規模となっており、F-35A105機、F-35B42機を導入する計画で最初の飛行隊がすでに稼働開始している。F-35はF-4EJファントムIIおよび初期型F-15の更新用の位置づけで、短距離離陸垂直着陸型のF-35Bはいずも級ヘリコプター駆逐艦での運用用に確保するものだ。■

コメント:今年の豪雨で露呈した旧民主党の影の影響ですが、F-15でも発生していたのですね。航空自衛隊にとっては「悪夢」の時代だったのでは。もちろん、現役自衛隊員は政治的発言はできないのですが、腹の底では苦々しい思いをされていたのでしょう。日本で意味のある政権交代ができるようになるのはいつのことなのでしょうか。

2019年3月7日木曜日

Su-35はどうやってF-22の探知追尾に成功したのか----ステルス技術は万能ではない

ステルスの過信が危険であることを物語るエピソードであり、技術進歩が現在のステルス機を一気に陳腐化させる危険性を示しています。対抗措置が出ればその対抗....と終わりはないようです。

How did a Russian Su-35 Fighter Track a "Stealth" F-22 Raptor?

Or is this fake news?  ロシアのSu-35がF-22ラプターを追尾できたのはなぜか。それともフェイクニュースだったのか
March 4, 2019  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: F-22MilitaryTechnologySu-57RussiaStealth

シアのスホイSu-35Sのパイロットと自称するものが投稿した写真に米空軍F-22AラプターがフランカーE搭載のOLS-35電子光学赤外線方式捜索追尾装置にその姿を捉えられている。
投稿写真の真贋は定かではない。ただし笑ってばかりいられない。写真撮影の意味を理解しないと判断が下せない。
近接距離ならラプターがSu-35の電子光学赤外線センサーにその姿を捉えられることは可能で、今回がまさしくその例なのかもしれない。(画像が本物だとして)民生用電子光学赤外線装置をFLIRシステムズが市販しているがこれでもF-22を近距離なら捉えることができる。2010年のファンボロー航空ショーで実証済みだ。F-22は遠距離なら赤外線探査装置を逃れる設計だが接近距離では話が違う。
近い距離からだとラプターも他の機種同様に赤外線センサーで探知できる。2009年の演習ではラプターがフランスのラファールの電子光学赤外線センサーにその姿を捉えられている。また2012年のレッドフラッグ演習がアラスカで開かれたがドイツ空軍のユーロファイター・タイフーンがおよそ20カイリ地点からラプターをEuroFIRST PIRATE赤外線探知装置で追尾した。
ロシアのOLS-35はPIRATEほどの性能はないがそれなりの性能のセンサーである。スホイによれば同装置は目標四機を同時に50キロ範囲(27カイリ)で探知でき90キロ(49カイリ)にわたり追尾可能という。精度が高い範囲はアスペクトアングルにより変わり、その他大気の状況によっても変わる。同装置にはレーザーもつき、20キロ以内で標的の距離を正確に測定できる。.
究極的には長波赤外線捜索追尾でステルス機も相当の距離唐揚tんち出来る。これがF-22にとって最大の脅威となる。米海軍のIRSTポッドのブロックIIでは高速度データネットワーク機能と高性能センサー融合を組み合わせてずば抜けた長距離ステルス対応能力が実現している。「個別の実験内容や脅威想定についてお話できないがIRSTは長距離ステルス対抗技術をめざしています」と海軍航空システムズ本部(NAVAIR)のデイヴィッド・キンドリー大佐が説明する。大佐はF/A-18およびEA-18G統括室主幹だ。
問題の本質は大気中を移動する機体が熱を発生することだ。「敵機がこちらに向かってくるとして低レーダー断面積の機体としましょう。それでも発熱は免れません」とボーイングでF/A-18E/FおよびEA-18Gを担当するボブ・コメゲイが語る。「これで敵がステルス機を開発しても対応可能です。Xバンドの有効範囲を外れて移動してもこちらは対抗が可能です」
従来は赤外線では距離データが得られず武器を有効に作動させられかったが、データネットワーク機能とコンピュータにより一変した。「単機のIRSTでビームを出してホットスポットと方角がわかるが距離は不明だ。これでは武器を有効に使えない。しかし2機のビームが二本あれば交差点で武器利用に十分な精度の演算が可能で対象を追尾できる。そのため戦闘には敵のレーダー探知範囲に入る前に敵を探知追尾できる」(コメゲイ)
赤外線がステルス機の脅威となる点を考慮の上、ペンタゴンは今後登場する機体の要求性能をまとめる必要がありそうだ。■

Image: Creative Commons.

2018年10月14日日曜日

☆F-35は現代のF-4ファントムなのか---ステルス機の展望と限界を正しく理解しよう



Good News and Bad News: The F-35 Might Just Be This Generations F-4 Phantom  F-35は良くも悪くも現代のF-4ファントムである

October 3, 2018  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: F-35f-4MilitaryTechnologyAir Forcejet fighter

々は過去を忘れて同じことを繰り返す宿命なのか。戦争では次の戦いの様相が想像できず過去の戦闘イメージで戦うことから脱却できないのだろうか。
軍事戦略の観点では過去の作戦経験に学ぶことは重要だが、将来の戦争が全く同じ様相になると信じ込んではならない。このことを数千機を導入しようとする米国の三軍および九カ国に言いたい。
多任務機の想定のF-35は飛行速度と操縦性で第四世代機やF-22ラプターに劣る。ライトニングは対地攻撃に焦点をあてつつ、視界外(BVR) での空対空ミサイル運用も重視しているが、願わくば視界内 (WVR) ドッグファイトは避けたいところだ。探知され、敵機より操縦性が下回るからだ。
こう言うと米軍がヴィエトナム戦に投入したF-4ファントムと似ているように聞こえるという向きもあろう。

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.F-4ファントムは巨大な野獣のような機体で強力なJ79ターボジェットエンジン双発でマッハ2まで加速し、当時としては強力なレーダーを機首に収めた。武装はAIM-7D、E型のスパロー中距離ミサイルとAIM-9サイドワインダー、AIM-4Dファルコン熱追尾の短距離ミサイルだった。
米空軍が当初期待したのはファントムで数十マイル先から敵機を探知したあ、音速で接近し、スパローミサイル「有効射程28マイル)で撃墜することだった。短距離ドッグファイトは訓練でも想定しなかった。ファントムは操縦性が優れた機体ではなかったからだ。
北ヴィエトナムのMiG-17やMiG-21との遭遇が発生するとこの想定はそのとおりにならなかった。軽量のMiG-21搭載のレーダーは非力でもパイロットには地上から米軍機への誘導があった。これはソ連の軍事原則どおりだった。米国の交戦規則では敵機が確実に識別できるまで発砲が許されず、通常は視界内距離を意味した。
米軍戦闘機に発砲の機会が生まれてもファルコンやスパローは故障が多く撃墜率は10パーセント未満という有様だった。短距離用のサイドワインダーはもう少し高く15パーセントだったが、有利な位置につき熱シーカーを作動させるためすばしこいMiG相手に超接近する必要があった。米軍機材は高価なのに、撃墜被撃墜率が2対1にまで下がったこともある。
そこで米空軍と海軍はスパロー、サイドワインダーの改良型を導入し、旧式AIM-4ファルコンは使用中止とした。その後、機関砲搭載のF-4Eが配備されると近接交戦時に別の攻撃手段が生まれた。一方、海軍はトップガン学校を創設し短距離内ドッグファイト技術を海軍航空士に教え込んだ結果、海軍のファントムで撃墜率が向上した。
その後生まれたF-15やF-16では最初から機関砲が装備され、操縦性も優秀になり、高速高性能エイビオニクスが搭載された。
今日のF-35は長距離ミサイルと強力なレーダーを運用するがファントム並のスピードはない。ライトニングの最高速度はマッハ1.6から1.8程度だ。これはレーダー断面積を減らした代償だ。このため空軍もSu-35など敵機との近接交戦では不利を認めている。理論上はSu-35を長距離で探知し、ミサイル発射を有視界距離で行い撃破することが可能だ。
では今後の空戦はヴィエトナム上空の戦いとどこまで似ている、あるいは異なると予想できるだろうか。
視界外距離で発射したミサイルが敵機を撃墜する可能性は?
ヴィエトナム戦で洗礼を受けた空対空ミサイルはその後相当の進歩を遂げている。今日のAIM-120D、メテオ、R-77といったBVRミサイルは当時のAIM-7Eの域を完全に超えている。
最新BVRミサイルの試験状況を見ると撃墜率は50%が普通で相当向上しているようだ。これには旧世代ミサイルの経験が生きている。もっと重要なのはBVRミサイルの射程距離が伸びているとはいえ、空対空の撃墜実績では視界距離で短距離中距離ミサイルを使う事例が中心だ。BVRでも撃墜実績はあるが相手は装備や訓練が不十分な相手でかつレーダー警報機能がない機体だ。戦力面で互角な大国相手では期待できない事態だ。
ただし、ミサイルの最大有効射程距離の公式発表が実用上の有効距離より相当長いことに注意が必要だ。つまるところ標的になった戦闘機はミサイルが到達する前に全速で脱出すればよいのだ。そうなるとAIM-120Dの名目上の有効射程は110マイルだが、F-35は十分な撃墜のためにはもっと近くへ接近する必要がある。そのため、次の疑問点が生まれる。
ステルス戦闘機は探知されるまでにどれだけ近づけるのだろうか
ステルス戦闘機は透明ではない。探知が難しいだけだ。敵センサーに探知される前にどこまで接近できるのか。
新鋭戦闘機には長距離赤外線探知追尾装備、電子光学センサーが装備され、有効距離は50から100マイルある。ステルス機では熱特徴を極力抑える設計だが、ジェットエンジンの高熱が対策対象になっているだけだ。一方で熱追尾ミサイルは短距離対応が普通である。そうなると赤外線がステルス戦闘機のアキレス腱だといえる。
ステルス機対策にはもうひとつ低帯域レーダーがあり、ステルス機の大まかな位置をプロットできる。ただし、誘導兵器用の精密度は期待できない。地上配備の低帯域レーダーでステルス機の存在を探知し、高速戦闘機を誘導し距離を詰めさせてIRSTであるいは短距離ならXバンド標的レーダーで探知するのだ。
この場合でもステルス機が先に第四世代迎撃機に発砲する可能性は高い。ただし数の面で有利な敵に敗れる可能性がある。離脱しようとしてもF-35より低速な第四世代機は少ない。ただしレーダーの有効範囲から脱出することは容易だろう。
視界外有効ミサイルの時代でドッグファイトに意味があるか
米軍の考え方では操縦特性よりもエネルギー(速力、高度)が重要とされる。高エネルギー状態の戦闘機は敵との交戦あるいは離脱に有利となり、ミサイルを出し抜くことも可能だ。他方で操縦性能でミサイルを回避してもエネルギーを使い果たせば、機体は次の攻撃の絶好の標的となる。
短距離兵器の威力が強まり単純な操縦性能はドッグファイトで重要性を失ったとの意見もある。ここに2つの関連技術の発達がある。ひとつがヘルメット搭載標的捕捉でパイロットがヘルメットを敵機の方向に向ければよい。もうひとつが高度視界外High Off-Boresight (HOBS)ミサイルでそもそも機体が敵の方向に向いていなくても発射できる。
ロシアが先に配備しその後米国もAIM-9Xとして追随したこの種のミサイルの意義は戦闘機が敵に向かって発射位置に付くこと自体を不要としたことだ。標的に向かう位置についた戦闘機はミサイルに速力を与えるあまり逆に撃墜されやすくなる。
最新の短距離ミサイルの命中率はWVR交戦で80ないし90パーセントと見られ、同程度の装備を搭載した2機がそれぞれの存在を探知ずみなら相打ちになる可能性が高い。この回避策として次世代の戦闘機バイロットは長距離からのミサイル発射を優先し、短距離の格闘戦は避けるのではないか。
交戦規則により短距離交戦はむずかしくなるのか
ヴィエトナム上空でファントムのパイロットがBVRミサイルを発射する優位性をみすみす逃した事態はヴィエトナム戦特有の事態と見られがちだが、実際の交戦規則でも有視界内交戦を重視する傾向が残っている。
これはもちろん民間航空機を誤って撃墜する事態を回避するためだが同時に敵味方が混じり合う混乱した空域で交戦許可が中々出ないためでもある。シリア空軍のSu-22を米海軍F/A-18ホーネットが撃墜した2017年の事例、1981年1989年と連続して発生したF-14トムキャットとリビアのSu-22、MiG-23との交戦事例が例だ。
それぞれの場合、F-35が飛行禁止空域をパトロール飛行していれば、敵機らしき機体の近くまで接近し自らの存在を示すことでステルスの優位性をわざわざ捨てることになる。F-15やラファールのような高速かつ操縦性が優れた第四世代機がこのような任務に望ましい。もちろん旧式第四世代機を使い、F-35はあくまでも深部侵攻攻撃や情報収集任務といった本来の得意分野に残してもこの問題は回避できる。
ヴィエトナム戦事例との比較でF-35の弱点が明らかになったが、ライトニングが航空優勢任務に必要な新技術の導入の余地を残しているため弱点だと断言も出来ない。長距離IRSTの有効距離、レーダーやミサイルでの敵ステルス機への対抗といった中核性能は公平に評価すべきだが、情報はすべて明らかにならないだろう。■
Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring .
読者の中にもF-35が万能の機材の用に錯覚されている向きがあるようですが、いろいろ足りない点があるのも事実のようです。ただこれまでの機体と違うのは機能がアップデートされる設計になっていることですが、技術の進歩に対応する余裕が本当にあるのか買い物として妥当なのか、こればかりは実戦がないとわかりません。

2015年3月18日水曜日

★ステルスの有効性はどこまで減じているのか 新型レーダー、赤外線探知装置の進歩に注意



ステルスの神話が急速に凋落してきた、との報告がこれまでもありましたが今回の記事はなんといっても技術的にその理由を説明しているのがすごいところです。(電子技術に詳しい方の精査をお願いしたいところです。)まさしく矛と盾の関係でしょうか。

New Radars, IRST Strengthen Stealth-Detection Claims

Counterstealth technologies near service worldwide

Mar 16, 2015 Bill Sweetman Aviation Week & Space Technology

ステルスが頼りにする低レーダー断面積(RCS)を中心のステルスへの対抗技術が世界で普及の様相を示してきた。複数の新技術が開発中であり、レーダー装置、赤外線探知追跡装置(IRST)のメーカー各社はステルス対抗技術が実用化の域に達したとし、米海軍はステルス技術そのものが挑戦を受けていることと公言している。
  1. こういった新装備は各種センサーを統合して目標の探知、追尾、識別のデータを自動的に融合し、ステルス機への交戦を実現するのが特徴だ。
NNRTの55Zh6M は複数レーダーを組み合わせ車両で移動が可能。単一ユニットとしての55Zh6UMEにはVHFおよびUHFアンテナを備え、配備される。 

.
  1. ステルスが部分的に超短波(VHF)レーダーで効果を失うのは電子物理の観点で説明できる。機密解除となった1985年のCIA報告書はソ連がステルス対抗技術の第一陣として新型VHFレーダーを開発し長波長の不利を補うと正しく予測していた。波長が長いと、機動性が失われ、解像度も低くなり、クラッター現象が生じやすくなる。ソ連は崩壊したが、ニツニー・ノヴォドロド無線技術研究所Nizhny-Novgorod Research Institute of Radio Engineering (NNIIRT)が開発した55Zh6UE Nebo-Uは1990年代に実戦化されており、ロシア初の三次元VHFレーダーになった。NNIIRTはその後、VHF方式のアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)装置を試作している。
  2. VHF方式のAESAは55Zh6M Nebo-Mマルチバンドレーダーとして生産に入り、ロシア空軍向けに100セット以上が調達される。このNebo-M はトラック搭載レーダー3基(すべてAESA)、VHF方式RLM-M、Lバンド(UHF)方式のRLM-D、S(X)バンドのRLM-Sで構成。ロシア文献ではそれぞれ、メートル、デシメートル、センチメートル単位の周波数としている。各レーダーにOrientir 位置割り出し装置がつき、それぞれにGlonass衛星航法受信機を備え、無線あるいは優先で地上制御車両と連結する。
  3. VHFでは走査速度が遅くなる欠点がつきものだったが、RLM-Mは電子走査を機械式走査に重ねるてこれを解決。走査範囲は120度で連続追跡が可能。この範囲だと走査は事実上即座に可能で放射エネルギーを目標上に照射し続けることができる。VHFの利点を保ちながら、中国のDF-15短距離弾道ミサイルのRCSだとXバンドで0.002 m2、VHFだと0.6 m2 になるとNNIRTは説明。
  4. Nebo-Mではレーダー3つのデータを融合して確実に標的を撃破する。初期探知のVHFがUHFレーダーにキューを出すと、つぎにXバンドのRLM-Sにキューが出る。Onetirにより正確なアジマスデータが生まれ三種類の信号をひとつにした標的の姿が浮かび出てくる。
  5. もっと高周波のデータはVHFより正確度が高くなるので標的に集中させれば探知成功の可能性が高くなり、追尾でも同じだ。「停止凝視」モードでアンテナ回転を止め、レーダーを電子的に90度視野で走査させると標的に照射するエネルギー量は連続回転時の4倍になり、有効射程も4割増える。
  6. Saabの新型ジラフGiraffe 4A/8A SバンドレーダーはAESA技術や高性能処理機能で高バンドでも小型標的への対応が可能となった。モジュラー構成によりAESAの利点を最大限に活用し、信号・雑音の区別を可能とする。そのねらいはいかに「純粋度」を高めるか、つまり照射エネルギーを目標周波数に集中させることで極めて小さなドップラー変化でもとらえて移動中の標的を探知することにある。
  7. 処理技術の新動向には「多重仮説」追尾 “multiple hypothesis” trackingがあり、反響が弱くても繰り返し解析して追尾を認識するのか移動パターンから無視するかを峻別することができる。中国もロシアと同様の方法を模索しており、昨年の珠海航空ショーでその一端が明らかになった。大型VHF方式AESA装備JY-27A Skywatch-Vが出展され、ロシアのRLM-Mとほぼ同等とわかった。メーカーは中国電子科技集団公司 China Electronics Technology Corp. (CTEC)。またショーではこれと別のUHF方式AESAが二型式とSバンド方式パッシブ電子スキャンアレイレーダーYLC-2Vも展示されていた。

  1. 出展で中国がアクティブ、パッシブ両面で探知装備の整備を図っていることが判明した。またYLC-20の名称の広範囲指向性ワイドバンドパッシブ受信システムの存在が明らかになった。これはCETC製DWL-002と併用するものと思われる。DWL-002はパッシブ方式コーヒレントロケーション(PCL)方式の三セットをあわせたもので、チェコのERA製 Veraと類似している。これは信号入力の処理で時間差を利用して標的を追尾するものだ。またJY-50「パッシブ・レーダー」の図も展示されていたが、これはVHF帯を利用する。
  2. これまでのPCLは標的の出すアクティブ放射の利用が前提だった。だがPCLを他のパッシブ受信機にアクティブレーダーと組み合わせて接続すると防衛側はバイスタティックあるいはマルチスタティックでの探知が可能となり、低RCSのステルス技術の有効性を減らすことができる。RCS削減技術は通常レーダー(モノスタティック)を想定している。極度の後退角のついた前縁でレーダー信号を偏向させてもマルチスタティックレーダーなら探知可能なスパイクが発生する。
  3. 旧式かつ小型VHFレーダーに改良を加える供給元が少なくとも5社ある。チェコ共和国のレティア Retia 、ハンガリーのアルゼナル Arzenal 、ウクライナのアエロテクニカ Aerotechnicaおよびベラルーシとロシアの数社だ。中国海軍は最新式防空駆逐艦のタイプ52C旅洋II型、52D旅洋III型にVHFレーダーを搭載している。さらに新型のVHFレーダーが今後出現する055型駆逐艦に搭載されない保証はない。
  4. ステルス機が低周波レーダーやその他探知装備で危険にさらされていることは2013年以降、米軍高官なら認識している。米海軍作戦部長ジョナサン・グリナート大将は公の場でステルス機がA2D2に対応できるか疑わしいと発言しており、2014年1月には新しいアメリカの安全保障を考えるセンターが出した報告書で「最近の分析の一つでは低RCS機の探知技術で革命的な進展がある反面、ステルス性能で呼応した向上がない」と指摘していた。
  5. ボーイングはEA-18GグラウラーはVHF帯の妨害ができると宣伝しており、現行のALQ-99低バンドジャミングポッドを指している。さらに次世代ジャマーでは第二次性能向上が予定されている。ただしこの契約交付は2017年の予定で、初期作戦能力獲得は2024年になる。
  6. これと別の脅威は長波長の水平線超えOTHレーダーでオーストラリアが運用中のジンダレーOTHレーダーネットワーク(JORN)が典型例だ。ロシアにはレゾナンスRezonans-NEがあり、中国もOTHを運用中だ。ここでもデータ処理が精度と感度を上げる鍵となる。JORNではフェイズ5で処理能力を向上させようとしている。
  7. OTHの長波長レーダーはもともとステルスに強い。極端に長い波長は標的の物理的サイズに近くなる。通常のレーダー断面積削減技術はこのため無効となる。ジンダレーの設計者はB-2の探知も可能だと1980年代末の時点で公言しており、米空軍はこれを真剣に受け止めた。ただし当時の空軍はOTHの解像度がとても低いため迎撃の段取りは取れないと反論していた。ただし今日では低解像度もネットワーク化レーダー群の活用で緩和され、OTH-Bは高解像度センサー類にキューを出せるようになった。
  8. 米空軍はIRSTを活用しようとしている。先行する米海軍ではスーパーホーネットの中央燃料タンクに搭載するIRSTの初期定率生産が2月に承認された。韓国向けF-15KやシンガポールのF-15SGでも同様の装備が付いている。80年代のF-14D向けに開発されたIRSTが起源のこのサブシステムだ。.
  9. ペンタゴンの作戦テスト技術部門長は海軍装備の追尾性能に批判的だが、空軍もその性能にを素直に認めており、これまでIRSTを無視してきたことと対照的だ。空軍はF-16アグレッサー部隊にIRSTポッドを搭載し運用経験を有する。海軍が調達する第一期分IRSTはわずか60セットでその後改良型を10セット導入する。
  10. 西側でIRSTで知見を豊富に有するのはSelex-ES社でタイフーンのパイレートIRSTの契約企業である。またスカイワード-Gをグリペンに供給している。同社は低RCS標的の探知、追尾にIRSTで成功したと発表している。これは亜音速飛行中に機体表皮の摩擦とエンジンの熱放射や排気噴煙から成功したとする。グリナート提督はこの点を強調した発言を2月にワシントンでしており、「空中を高速度で移動する何かがあれば、大気の分子を乱し、排熱するはずで....探知可能なはずだ」と述べた。
  11. 探知技術が向上したからといってステルスの有効性が即座になくなるわけではない、というのが業界、政府関係者の多数意見だが、それでも将来のステルス技術要素の議論の根底にこの問題が影を落としている。米海軍の艦載無人偵察攻撃機構想ではステルス性をどこまで求めるのかで議論が続いているが、中心はA2ADの進展だ。長い間にわたり一般のみならず専門家にも見られるてきた各種低技術のどれを選択してもステルス性能で大きな差は生じないとの誤解がこれで終止符を打つことになる。■