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2024年12月1日日曜日

中国のために働く英国の科学者たち(Unherd)―研究資金さえ出す相手なら歓迎する学者には政治・経済や地政学への関心がないのでしょう。経済安全保障の観点から日本でも英国同様の点検が必要です。

馬凱副首相(当時)から「友好賞」を授与されたステファン・キットラー



英国の研究成果が北京の軍産複合体に利用されている


月初め、中国側と会談したキーア・スターマー首相は、習近平の手を握り、「強い」二国間関係の重要性を宣言した。 

 この会談は、ボリス・ジョンソンが2020年に安全保障上の理由からファーウェイを通信ネットワークから締め出す決定を出して以来、冷え切っていた両国の関係を温めるものとなった。 

 北京は中国共産党(CCP)にとって「特に関心のある」分野の研究の確保に追われているという。

 スターマーは、こうした警告に耳を傾けるべきだった。 

 ジョンソンやスパイたちが理解していたように、中国は地政学的な目的のためにテクノロジーをますます利用するようになっている。 

 そして中国はここ資金難にあえぐ英国の大学に目をつけ、中国の怪しげな情報源を経由しプロジェクトに資金を提供している。

 2000年代初期に、中国は問題を抱えていることに気づいた。アメリカは宇宙ベースの通信システムに多額の投資をしていた。イーロン・マスクが開発したスターリンクについて、あるウクライナ軍将校は戦場での通信に「不可欠な基幹技術」と評した。 

 アメリカが先を急ぐ中、中国は遅れをとっていると感じていた。 

 そこで2016年、中国は壮大な規模の技術プロジェクト「宇宙・地上統合情報ネットワーク(SGIIN)」を発表した。 

 これは、宇宙ベースの情報ネットワークとモバイル通信システムを2030年までに包括的に統合することを目的としたプロジェクトだった。  SGIINは、軍事的に重要な意味を持つ民生用アプリケーションという、明確な二重利用の可能性を秘めている。


そこで登場するのがインペリアル・カレッジ・ロンドンのウェイン・ルクWayne Luk教授である。学術界と企業との複雑なネットワークを通じて、ルクは中国の衛星通信計画に深く関わっている。彼のインペリアルでの研究は、中国軍と密接に協力し、中国航天科技集団(CASC)に組み込まれており、「国家重点実験室」からの40万ポンドの助成金によって一部賄われている。後者は中国の「軍産複合体」とみなされ、米財務省の制裁リストに載っている。

 しかもルクの関与は学術研究にとどまらない。かつてインペリアル・カレッジ博士課程で指導したニウ・シンユーNiu Xinyuとともに、深センを拠点とする製造会社クンユン・インフォメーション・テクノロジーKunyun Information Technologyを共同設立した。 ルクは長年にわたり最高科学責任者を務め、同社の5%以上は中国政府が所有している。創業からわずか1年後の2018年までに、クンユンはC919航空機の人工衛星やナビゲーション・システムに採用され物議を醸した超高速AI適応チップを製造しており、産業スパイで西側から盗まれた技術が含まれていると報じられている。 

 ルクの話が中国軍を助ける技術協力を示唆しているとすれば、ステファン・キットラーStefan Kittlerはさらに厄介だ。サリー大学のコンピューティング専門家キットラーは、個人を追跡・特定する能力を大幅に向上させる監視技術の開発に中心的に携わってきた。彼は長年、江南大学Jiangnan Universityの研究者たちと共同研究を行っており、最近、彼の名を冠した新しい研究室が設立された。「パターン認識と計算知能」を専門とする別の江南研究室を共同で設立していた。

 科学的な言葉の裏には厳しい現実がある。ひとつには、キトラーは江南の学者たちと論文多数を共著し、中国軍からの委託研究も行っている。2018年には、インペリアル・カレッジの元博士課程の学生で、現在は中国の国家機密アカデミーの拠点である南京大学で共産党支部の書記を務めるタン・ティエニウTan Tieniuとともに、北京で生体認証に関する会議の共同議長を務めた。


「英国で働く科学者たちが中国を援助している」


『サンデー・タイムズ』紙が2020年に報じたように、ルクのFaceR2VMプロジェクトはイギリスと中国が共同で資金を提供し、マスクをしていても耳や鼻の凸凹や隆起、顔の表情から人物を特定できるようにすることを目的とした研究を行っている。これはまさに、中国の政治的反体制派やウイグル族などの少数民族を追跡するため使われている技術だ。

 キットラーと中国との関係は、研究室の外にも広がっている。2016年、北京で行われた華やかな式典で、彼は当時の馬凱副首相から「友好賞」を授与された。この賞は「中国の経済と社会の進歩に顕著な貢献をした外国人専門家」に与えられるものである。 1月には、香港での人権侵害に関与したとしてアメリカから制裁を受けた友人のタン・ティエンウとともに「ウィンタースクール」で教えることになっている。

 ジョージタウン大学のウィリアム・ハナスが説明するように、ルクとキトラーは特別な存在ではない。 CIAの元中国専門家ハナスによれば、北京は「米国の科学者たちの技術を流用してきた長い実績がある」。同じことはイギリスにも当てはまるとハナスは付け加える。

 英政府関係者は同じようなことを口にしている。 英国研究革新省(UKRI)は最近、科学技術省とともに、英国と中国の大学間のあらゆる研究提携のリストを作成した。匿名を条件に情報筋によれば、そのリストには約500のプロジェクトが含まれており、うちの約10%は国家安全保障や人権に関わる危険性があるという理由で「レッドフラグ」が立てられているという。

 しかし、中華人民共和国のテクノロジー利用方法に対する懸念は以前からあるのに、なぜ英国の機関はいまだに中国から資金を受け入れているのだろうか?その答えは、大学セクターでよくあることだが、そうしなければ倒産してしまうからだ。UKRIが報告したように、中国との共同研究は2007年から21年の間に4億4000万ポンドの追加収入をもたらしたが、英国で学ぶ中国人留学生は2021年だけで授業料と宿泊費に54億ポンドを費やした。

 このような妥協は、政府、特にイギリスのように海外からの投資に熱心な国にとっては、ある意味、糧となる。しかし、野党保守党が懐疑的である理由は明らかで、リシ・スナックの下で研究安全保障担当大臣を務めたジョージ・フリーマンは、英国が知的財産と研究を「よりよく保護」することが不可欠だと述べている。■

The British scientists working for China

UK research is powering Beijing's military-industrial complex
David Rose

November 28, 2024 


https://unherd.com/2024/11/the-british-scientists-working-for-china/



2022年5月28日土曜日

ウクライナ軍が捕獲したロシア装備品から米製マイクロチップがざくざく。経済安全保障に反対する勢力はどう反証するのだろうか。

 

鹵獲・破壊したロシア軍装備品から発見されたとする、米国製マイクロチップのリストをウクライナ情報部が見せてくれた。

クライナ情報部がThe War Zoneに示した部品リストによると、ウクライナ軍が鹵獲または一部破壊したロシア軍装備を分解して、外国製マイクロチップ(特に米国製)への依存が強いことが判明した。

問題のチップは、回収された9S932-1、大型バルナウル-Tシステムのレーダー装備の防空指揮所車両、パンツィール防空システム、Ka-52「アリゲーター」攻撃ヘリコプター、Kh-101(AS-23Aコディアック)巡航ミサイルから発見されたものだ。

今回の部品リストは、ロシアが重要なマイクロチップ、半導体、その他部品をどこでどの程度入手しているかについて、これまでで最も詳細に情報を提供している。リストは、戦闘装備に必要な技術的部品を生産するロシアの能力への疑問とあわせ、米国等の保安能力に深刻な疑問を提起している、と専門家はThe War Zoneに語った。

例えば、バルナウルT防空指揮所車両では、ウクライナ情報部の専門家が、インテルマイクレルMicrelマイクロン・テクノロジーMicron TechnologyアトメルAtmel Corpといった米国メーカーのマイクロチップ8個を通信システムで発見した。 Intel,, and.

また、パンツィール防空システムの方向探知機からは、AMDロチェスター・エレクトロニクスRochester Electronicsテキサス・インスツルメンツTexas Instrumentsリニア・テクノロジーLinear Technologyの米国製チップ5個が発見されている。

Kh-101巡航ミサイルからはテキサス・インスツルメンツ、アトメル、ロチェスター・エレクトロニクス、サイプレスCypress Semiconductor、マキシムMaxim Integrated、インテル、オンセミOnsemiXILINXインフィネオンInfineon Technologies、マイクロンなど、少なくとも35個の米国製チップが見つかった。

Tu-95ベアに搭載されたKh-101

CSIS.org

Ka-52アリゲーターの砲塔型電気光学システムを開けたところ、ウクライナ専門家は米国製チップ22個と韓国製チップ1個を発見した。米国製はテキサスインスツルメンツ、IDTアルテラAltera USAバー・ブラウン Burr-BrowアナログデバイシズAnalog Devices Inc、マイクロンテクノロジー、リニアテクノロジー、TEコネクティビティTE Connectivity製だった。

ウクライナのキエフ郊外の野原に強制着陸させられたKa-52攻撃ヘリコプターの前に立つ男性(2022年2月24日撮影)。AP Photo/Efrem Lukatsky

ロシアが2月24日に全面侵攻を開始した後、米国はじめ各国は、マイクロチップ含む機器を販売できなくする制裁を設けたが、捕獲・破壊したロシア装備品内のチップが禁止規定に違反している証拠はない。メーカーの中には、その後他社に吸収されたものもある。

例えばIDTは、2019年に日本企業のルネサスが買収した。マイクレルは2015年にMicrochip Technology Incorporatedに買収された。アトメルも2016年、Microchip Technologyに買収された。サイプレスセミコンダクターは2020年にインフィネオンテクノロジーズInfineon Technologiesに買収された。アルテラは2015年にインテルに買収された。バー・ブラウンは2000年にテキサス・インスツルメンツに買収された。

ロシアの兵器から見つかったマイクロチップには起源が不明なものもある。製造業者から直接調達したものではないものがある。また、中国由来のリサイクルチップの大規模市場には規制の手が及んでおらず、かなり古いものもあるようだ。

部品リストを提供したウクライナの情報当局者も、チップの原産地を明言できなかった。

しかし、NATOと米軍の対ドローン/指向性エネルギー兵器/電子戦/レッドチームの専門家スキップ・パリッシュSkip Parishは、ウクライナ情報部が提供の部品リストを検討し、問題が多く提起されていると指摘している。

ウクライナ情報局がバルナウルT型防空システムの通信システムから発見したとするマイクロチップの写真。ウクライナ情報局の写真。 Ukraine intelligence photo

ロシアの兵器システムの重要機密部分である標的、航法、通信、攻撃に必要な統合チップセットは、「西側技術に完全に依存している」という。

また、国際武器取引規制における「米国の管理体制の破綻または不在」を示し、「外国兵器で発見された場合、どちらでも調査が必要となる」と述べている。

5月11日、ジーナ・ライモンド商務長官Commerce Secretary Gina Raimondoは上院公聴会で、ロシアは制裁により、主要部品の代替調達先を探さざるを得なくなっていると発言した。

ライモンド長官はウクライナ首相と会談し、「ウクライナから、ロシアの軍事装備に食器洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が詰まっているとの報告を受けた」と証言した。

家電製品部品が悪人の手に渡るのを防ぐのは難しいが、米国当局は、軍事的に重要な用途があると判断すれば、デュアルユースのチップとして出荷を阻止する権限があると、パリッシュは言う。

そして、このことは、「現地に行かずともロシア装備品の成功を止めるための明確な道筋と、同盟国であるオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス(総称して「ファイブ・アイズ」と呼ばれる)からの「技術の出荷を止めるため緊急国内プログラム」の必要性を強調するものだと述べた。

ライモンド長官は、ウクライナはロシア戦車が家電部品を使用していると証言したが、ウクライナ情報部が示した高度システム装備品リストは異なると、パリッシュは言う。なかでも「Ka-52武装ヘリの照準とミサイル誘導の光学システムが最大の懸念」と述べた。

The War Zoneは、今回の記事で名前が挙がった各社に問い合わせたところ、数社から返事を得た。ほとんどが、ロシアと取引を停止したと言っている。多数は、自社のチップの行く先は知らないし、コントロールもできないと回答してきた。また、ある企業は、ロシア装備品からチップが発見されたとするウクライナ情報機関の主張そのものに異議を唱えた。

例えば、オンセミonsemiの広報担当者は、同社のチップは軍用仕様ではなく、簡単に入手できると指摘した。

インフィニオン・テクノロジーズInfineon Technologiesの広報担当グレゴー・ローデヒューザーGregor Rodehüserは「具体的にコメントはできませんが、当社は制裁を遵守すべく適切な措置を実施しています」とし、ウクライナ戦争開始後、「ロシア、ベラルーシならびにウクライナ内のロシア支配地区への直接・間接の出荷をすべて停止しました。技術サポートもここに含まれています」と回答した。

インフィニオン・テクノロジーズは、「ロシアで当社製品が軍事利用されている証拠は見つかっていない」が、「当社製品を調達する顧客や市場を対象に、輸出規制の遵守を審査しています」という。

 

ウラジーミル・プーチンがウクライナに全面戦争を仕掛けたことで、ロシアにマイクロチップ含む厳しい制裁が課された Getty images.

インテルは、チップがどこに行き着くかはわからないが、ロシア、ベラルーシとも取引はないと述べた。

インテルのコーポレート・コミュニケーション・ディレクター、ペニー・ブルースPenny Bruceは、「顧客がどんな製品を開発し、エンドユーザーがどんなアプリケーションを開発するか常に把握しておらず、コントロールもできませんが、インテルは当社製品が人権侵害に使われることは支持・容認していません」と述べている。「インテル製品がビジネスパートナーにより人権侵害に使用されている懸念が生じた場合、当社製品が人権侵害に使用されていない確証が得られるまで、該当サードパーティとのビジネスを制限または停止します」 と述べている。

ブルースは、「インテルは、ロシアとベラルーシ両国の顧客への出荷をすべて停止済みです」とし、さらに、「インテルは、事業を展開する各国で適用されるあらゆる輸出規制と制裁を遵守し続けます。米国と同盟国が出したロシアとベラルーシ向け制裁と輸出規制の遵守を含みます」と述べた。

アナログ・デバイセズは、「輸出規制、貿易制裁、規制を含む米国、EU、その他国の法律を完全に遵守することをお約束します」と、広報担当フェルダ・ミランFerda Millanは述べた。

一方、TEコネクティビティは、ウクライナ情報機関が提示した部品リスト自体に異議を唱えている。

「当社の部品データベースで検索したが、リストの部品番号と一致するものは見つからなかった」と同社広報ジェフ・クローニンJeff Croninは述べた。

制裁にもかかわらず、外国部品がロシアの軍事装備に混入する問題は、以前からあった。

2014年にロシアが初めてウクライナに侵攻した後もロシアは制裁を受けた。しかし、機能しなかったようだ。

ウクライナの情報機関がロシアの防空システム、ヘリコプター、巡航ミサイルで見つかったマイクロチップについて、商務省がどこまで懸念しているかは不明だ。商務省には、金曜日午後までにコメントを求めたが、回答はない。

制裁がロシアの防衛産業に打撃を与えている証拠がでてきた。そしてウクライナは、ロシアが使う古い部品、特にKh-101が効果を下げていると主張している。しかし、ロシアが大量のマイクロチップや半導体部品に依存していること、そしてこうした部品のトップメーカー兼リサイクル業者の中国と密接な関係にあることを考えれば、チップなどハイテク部品での制裁の影響はまだ不明だ。■


Captured Russian Weapons Are Packed With US Microchips | The Drive

BY

HOWARD ALTMAN

MAY 27, 2022 3:47 PM

THE WAR ZONE