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2022年3月11日金曜日

ロシア航空宇宙軍は精彩を欠いた活躍を続けるのか、それとも.... 西側と比較にならない低戦力と遅れた交戦概念の限界を晒したロシアは、用兵思想の違いを示している

 ロシアは大国ではありません。経済規模は開戦前ですら南朝鮮なみでした。制裁措置によりロシアは近代前の経済に転落しつつ、核兵器等軍備を備える史上初のアンバランスな体制となります。今回のロシア空軍も砂漠の嵐以来見慣れた西側空軍力のものさしをあてるから、パフォーマンスに疑問が出るのであって、あくまでも地上軍の支援手段とするロシアの西側と非なる考え方からすれば、こんなものなのでしょう。であれば、飛行禁止区域設定を恐れる理由は本当にあったのか疑問が出てきますね。


SU-35 KH31 Russia Ukraine InvasionYOUTUBE SCREENCAP / VIA TWITTER

 

シアのウクライナ侵攻から2週間以上となったが、ロシア空軍の信頼性への疑問が消えない。週末にロシア軍機の損失が急増し、ロシア航空宇宙軍(VKS)の次の戦闘段階が見えないままだ。ウクライナの頑強な抵抗で阻まれ、ロシア軍の戦闘は新たな砲撃の段階に入り、民間人の犠牲が増えるとの懸念が強まっている。一方、米国防総省の評価では、ウクライナ上空は依然として雌雄が決まらず、ウクライナの空戦・防空能力は相当程度残っている。ロシアは、ウクライナの空軍戦力を打倒すべく、防空網の破壊作戦に転じる可能性がある。

2 月 24 日未明に始まった戦争では、数週間にわたってウクライナ国境付近、特にベラルーシに戦力を集中させてきたVKSが最前線に立つと予想されていた。また、VKSが集結させた機材数は、西側情報機関評価では約300機だった。一方、ウクライナ戦闘機は総数100機未満とみられ、完全に作戦可能な機体はかなり少ないと思われていた。

そのため、VKSが地上侵攻の前に「ドアを蹴破り」、はるかに小規模なウクライナ空軍の戦闘能力を圧倒し、ウクライナ地上防空システムを可能な限り破壊すると観測筋は予想していた。ところがウクライナ全土で展開する作戦、それともVKSが地上軍に「回廊」を作る意図があったのか、どちらも実現しなかった。

ウクライナの主要飛行場と早期警戒レーダーが、戦争開始後の空爆リストに載っていた。しかし、VKSの投入は限定的だったようだ。開戦直後の空爆でKh-31P(AS-17クリプトン)対レーダーミサイルの残骸が見つかっただけで、VKSが攻撃活動を行った形跡はほとんどない。その代わり、艦船や地上から発射されたロシアの巡航ミサイルや短距離弾道ミサイルが攻撃を担当した。ロシアの長距離爆撃機の通信が探知されたというが、長距離爆撃機が巡航ミサイル発射に使用された証拠は今のところない。

VKS(および他のロシア軍)司令官は、侵攻命令を受けて驚いた可能性が高い。今回の戦争計画は、軍最高幹部以外には隠されていたのかもしれない。RUSI 研究所の空軍戦力主任研究員で、VKSの戦闘能力を観察しているジャスティン・ブロンクJustin Bronkは、The War Zone にこう語っている。「そのため、VKS 前線戦闘機部隊に、整備スケジュールの調整、航空機の武装搭載、パイロットへの説明、大規模攻撃と(攻撃的対空)作戦の任務計画を策定する時間が少なすぎたのかもしれません」。

AP PHOTO/VITALIY TIMKIV

Su-30戦闘機がロシア・クラスノダ地方で訓練飛行に離陸したところ。 January 2022.

 

開戦直後にミサイル集中攻撃があったが、その後VKSはほとんど姿を見せなかった。ロシアの戦術航空戦力は休眠状態に見えた。ウクライナ空軍の残存勢力は空戦能力を残していた。

ウクライナのMiG-29とSu-27が数的にも技術的にも優れたロシアの戦闘機に一掃されなかったのかは不可解なままだ。ウクライナのSu-25対地攻撃機も、一部地域で飛行を続けていた。逆にロシア地上軍は、近接航空支援を受けていないようだった。

クレムリンはウクライナ指導者の斬首作戦を強く望み、地上軍は抵抗を鎮圧した後、支配権を握る想定だったのだろう。

「その枠組みで、ウクライナの空網の目をくらます巡航ミサイルや弾道ミサイルによるスタンドオフ攻撃は別として、空戦は不要と考えていたのだろう」とブロンクは続ける。「英雄的で統一されたウクライナの抵抗と、ロシアによる暗殺と破壊工作を阻止したウクライナ治安機関のおかげで、どれも計画通りに展開されなかった」(ブロンク)

ウクライナの移動式防空装備は、固定翼機や特にヘリコプターに効果を上げ続けている。一方、侵攻前にウクライナへ大量投入された携帯型防空システム(MANPADS)もVKSに大損失を与えており、ロシアがエアブリッジを設置しようとしたキエフ郊外のホストメル空港での大逆転に貢献した可能性がある。

ロシア軍機の損失が味方によるものかは不明だが、VKSと地上のロシア軍機動防空システムに連携がないことから、その可能性は高い。VKS機を味方の防空システムに接近させて運用すれば逆効果になるとの懸念があるのかもしれない。とはいえ、ロシア地上部隊は上空援護なしに活動し、ロシアの防空システムもウクライナのTB2武装ドローンに攻撃されてきた。

ハリコフやマリウポルのような主要都市でのロシア進軍は一層停滞し、空戦の次の段階として、都市部への無差別爆撃が懸念されてきたが、実際に活発になってきた。これは、クレムリンがチェチェンやシリアなど、これまでの作戦で利用してきた戦術だ。

開戦当日に見られたKh-31Pの残骸や、精密誘導弾の投入を除けば、ロシアの戦術機は圧倒的に非誘導弾を使用してきた。また、人口密集地に落下しており、この種の民間人標的へのロシア軍のロケット砲撃の証拠を見ると、民間インフラへの被害どころか、民間人の犠牲を抑える意欲も皆無といってよい。

VKSが市街地や非戦闘員の近くで抵抗する敵勢力に別のアプローチを採用するかも議論の的だ。最新のVKS戦術ジェット機は夜間飛行が可能で、精密誘導弾を搭載するが、夜間飛行資格を持つパイロットの数、弾薬の備蓄量、兵器の信頼性に疑問符がついている。特に、ウクライナで相次いで発見された残骸は、Kh-31Pが目標を完全に外している可能性を示唆している。

例えば、シリア作戦では、ほとんどのVKS機が「非スマート」兵器しか使用していない。多くの場合、精密誘導兵器の量は限定される。精密誘導弾は非誘導弾より大幅に高価なため、誘導弾を大量保有すれば、予算が圧迫される。

一方、VKSがウクライナの防空力の無力化に向け、別のアプローチが出てきた。

ベラルーシには以前からA-50メインステイ空中早期警戒管制機が配備されていたが、最近1機追加配備された。ウクライナ上空監視能力を改善したいVKSの姿勢を示唆している。ウクライナ空軍の抵抗に効果的に対処できるようになるだろう。

ウクライナ北部と国境を接するブリャンスク州のセーシャSeshcha空軍基地に、VKSのAn-2複葉機が42機配備された。旧式機だが、ウクライナの防衛力を圧倒するだけでなく、レーダーの位置を明らかにし、対レーダー兵器による攻撃、スタンドオフ弾による攻撃を誘導し、デコイとして使用するのが目的ではないかとの憶測が流れている。IL-22PPスタンドオフ妨害機とIL-20M電子情報プラットフォームが同基地に配備されていることがその裏付けかもしれない。

VKSがウクライナ上での制空権を確保するため、態勢を整えているもう一つのシグナルは、名称不明のロシアの空軍基地で最近撮影された、戦闘準備中のMiG-31BM迎撃機のビデオだ。同機のレーダーは、150マイル先の戦闘機サイズの目標を検出するといわれ、R-37Mミサイルは射程124マイルを有する。MiG-31は敵ミサイルの射程を超えた地点からウクライナ航空機と交戦できる。

MiG-31は、ロシアやベラルーシから国境を越えて発射されるロシアの長距離地対空ミサイル(SAM)システムと連動する可能性がある。ポーランドとルーマニアのNATOの戦闘航空パトロール機はSAMシステムに照射されており、同盟に明確なシグナルを発している、とブロンクはThe War Zoneに語っている。MiG-31とSAMの組み合わせによりウクライナ空軍は超低空飛行を強いられ、状況認識が大幅に低下し、地上戦やポイント防空システムに脆弱になりそうだ。しかし、昨日の時点で、米国防総省は、ウクライナ空軍は航空機在庫のほとんどを利用しており、地上防空システムも健在と評価している。

ロシア国防省が最近公開したビデオには、Kh-31Pシリーズの対レーダーミサイルを装備したSu-35S多用途戦闘機も登場しており、ウクライナの防空能力を低下させることに重点を置く方向に再びシフトしているのか。一方で、こうした映像は、作戦実態を反映しないレベルなのも忘れてはならない。結局、利用可能な精密誘導兵器の備蓄が不足していることに加え、利用資格を有する航空機乗員が足りない可能性がある。

だが訓練された搭乗員や精密誘導兵器があっても、VKSが西側諸国空軍並の精度を達成しそうにない。特に戦術戦闘機に照準ポッドが皆無に近い状況を見れば、その傾向は顕著だ。この能力欠如には、歴史的な理由もある。ロシアには空中目標も地上目標双方に対応する多任務戦闘機の伝統がない。高性能ポッドはロシアで技術的な問題となり、広く使用されるには至っていない。

その結果、ソ連時代の地上攻撃専用機の照準システムには陳腐化という欠点があった。現在では、限られた防衛予算と、歴史的な戦術的・技術的な名残から、新世代のマルチロール戦闘機のほとんども、内蔵型またはポッド型照準システムを備えない。このことは、レーザー照準空対地兵器の開発にも影響を与え、テレビ照準が広く採用されている。このため、現有の精密誘導兵器は、複雑な機構ながら柔軟性に欠ける装備となっている。

同時に、ロシアの戦術機による空爆を指揮する前方航空管制官(FAC)が地上に不足しているようだ。これは明らかにドクトリンの問題であり、相互運用性や訓練の問題でもある。高高度での脅威が残り、低高度で目標を目視確認する必要と相まって、戦闘機がMANPADSの適用範囲での活動を迫られているようだ。

一方、空戦の最初の数日間、ウクライナの主張にもかかわらず、VKS固定翼機の撃墜確認は1例だけだった(3月1日にハリコフ付近で撃墜されたSu-34戦闘機は、明らかに地上戦の犠牲)。以降、特に週末に損失が大幅に拡大したのは、VKSの作戦ペースが大幅に上がったのを反映しているのかもしれない。

しかし、ウクライナでのVKSによる空戦は、決して褒められるものではなかった。訓練不足、時代遅れの戦術、精密攻撃能力の限定、統合レベルの低さ、民間人犠牲を避ける原則の軽視など、おなじみの非難が、VKSのパフォーマンスを評価する際に再び前面に出てきている。

挑発的な記事のタイトルで、ブロンクはこう問いかけた。「ロシア空軍には複雑な航空作戦が実施できないのか」で、答えは「イエス」であった。特にブロンククは、NATOや西側諸国の空軍が行える複雑な航空作戦を、VKSが実施できない証拠として、以下の要因を挙げた。

1. シリアでの豊富な経験にもかかわらず、VKSは同一機種の小編隊での作戦に慣れており、防空脅威に対抗する大規模かつ複雑な編隊を組む能力に欠けている。

2. VKSパイロットの年間飛行時間は、約100時間と、欧米のパイロットに大きく遅れをとっている。地上では、ロシアのパイロットは西側諸国のパイロットのように高品質のシミュレーターなど訓練用装備を利用できない。

3. ウクライナに残存する中・低レベルの地上防空システムに対抗する気がない、あるいは対抗できないと、VKSは潜在的な制空権を失うことになる。同時に、低空飛行により、状況認識と戦闘効果が低下し、ウクライナのMANPADSの餌食になる可能性がある。

しかし、VKSやロシア国防省がこうした批判を痛感することはない。伝統的にソ連や現在のロシアは、戦術航空兵力を地上軍に従属する存在と考えている。空飛ぶ大砲に過ぎない。その意味で、これまでの損失は、作戦全体の観点で見るべきだ。ウクライナの防衛軍がロシアの進撃の鉄槌に屈すれば、VKSが重要な役割を果たさなかったとしても問題でなくなる。

数の勝負はロシアに有利であり、高価な戦術機を数機失っても、VKSの戦闘能力に大きな影響は出ない。現在のまま損失が続いても、ウクライナ空軍に対する数的優位を数カ月間維持できる。実際、ロシア軍全体が物資(および人員)の大規模喪失のリスクを甘受しているように見えるため、「西側流」の戦争遂行に慣れている多くの観察者は驚かされている。

一方、クレムリンは、ウクライナ都市への無差別爆撃に焦点を合わせる必要が生じるまで、VKSの攻撃力をフルに発揮させないようにしている、という可能性もある。長距離爆撃機がウクライナ上空で使用されたことは確認されていないが、実施されれば、現時点では各機を危険にさらすことになる。

ブロンクによれば、ロシア回転翼機と地上軍間に、効果的な戦術連携の兆しも見えつつあり、間違いなく最終結果に重要となる。同時に、VKSが大編隊でウクライナ上空を飛行しているのも、協力関係強化のあらわれだ。

この先、どのような紛争が起ころうとも、ロシア航空宇宙軍が何らかの形で貢献することは間違いなさそうだ。ロシア空軍の総合能力は西側諸国の軍と乖離しているかもしれないが、数と打撃力において、ロシア空軍が依然として侮れない存在であることは明らかだ。■

After An Abysmal Start, Here Is How Russia's Application Of Airpower In Ukraine Could Evolve

A rash of losses in Ukraine has increased questions about the competency and role of the Russian Aerospace Forces.

BY THOMAS NEWDICK MARCH 9, 2022


 只今製作中 
ドイツの軍備強化を招いたプーチンの大失策

2022年3月8日火曜日

ウクライナ戦でロシア空軍が存在感を示せない理由を英軍事シンクタンクRUSIが分析。我々はロシア空軍力を過大評価していた。

 


Sukhoi Su-25SM3 of the VKS shot down in Ukraine. Credit: Ukrainian Ministry of Defence


ロシアがウクライナに侵攻し1週間以上経過したが、ロシア空軍はいまだに大規模作戦を展開していない。開戦直後の不活発さには要因がいろいろあったが、大規模航空作戦が行われないままなのは、深刻な問題があることを示している。

 

 

シアのウクライナ侵攻の初期段階で驚かされたことのひとつに、ロシア航空宇宙軍(VKS)の戦闘機・爆撃機隊が航空優勢を確立できず、ロシア地上軍の支援を展開できなかった点がある。侵攻の初日、巡航ミサイルと弾道ミサイルによる攻撃開始の後に、予想されていた大規模なロシア航空作戦はなかった。原因を分析したところ、地上の地対空ミサイル(SAM)のデコンフリクションに問題があった、精密誘導弾の不足、VKSの平均飛行時間が短く、地上作戦支援の精密打撃の専門知識を有するパイロットが不足していたことなどが指摘された。各要因は関連するが、侵攻が2週目に入っても、VKSの作戦が低調なのを説明できない。ロシアの高速ジェット機は、ウクライナの携帯型防空システム(MANPADS)や地上砲撃による損失を最小限に抑えるため、単機または二機で、低空で、主に夜間の限定的出撃に終始している。

 

筆者含むアナリストは、2010年以降のロシア戦闘航空装備の近代化に目を奪われる傾向がある。特に顕著なのは、VKSが10年で最新鋭機約350機を導入したことで、これにはスホイSu-35S航空優勢戦闘機、Su-30SMマルチロールファイター、Su-34爆撃機が含まれる。また、 Mig-31BM/BSM迎撃機約110機と少数のSu-25SM(3)地上攻撃機の再生産とアップグレードとの野心的な近代化運動も行われている。ロシアは通常、ウクライナの射程圏内にある西部および南部軍管区に最新戦闘機約300を配備しており、侵攻前の軍備増強の一環として、ロシア内の他地域から連隊を移動させていた。特に2015年以降のシリアへのロシアの軍事介入では、戦闘空中哨戒や攻撃任務にVKS固定翼機を多用していることから、使用の意図があったことは明らかである。ウクライナの北部と東部でロシアの地上戦がなかなか進まず、ウクライナ軍により車両や人員の損失が続く中、ロシア航空作戦の欠如には別の説明が必要だ。

 

ありえない、あるいは不十分な説明

一つの可能性として、VKSの戦闘機隊は、NATO軍の直接介入への抑止力として保持されている可能性がある。ただ、これは考えにくい。もしVKSがウクライナ上空で迅速に制空権を確立する大規模作戦を実施可能なら、それを実施しないことで、NATO軍への潜在的な抑止力は維持するどころか、むしろ弱まる。ロシア軍が、はるかに小規模で陣容の劣るウクライナ軍を迅速に制圧できず、最新車両と人員を大量に失ったことで、ロシア通常軍事力への国際的認識が大きく損ねられた。NATO抑止力の観点から、ロシア軍参謀本部とクレムリンには、失われた信頼を回復すべく航空兵力を最大活用する動機があるのだ。

 

また、VKS固定翼機は精密誘導弾を効果的に使用できる割合が比較的低いため、制圧・利用したい重要インフラの損傷を避けるため、あるいはウクライナ市民の犠牲を最小限に抑えるため、無誘導弾やロケット弾による大規模攻撃が避けられているとの見方もある。ロシア指導部が迅速な軍事的勝利を目論んでいた侵攻当初なら、これは有効な仮定だった。しかし、この可能性は急速に薄れ、ロシア軍は包囲した都市(特にハリコフとマリウポリ)に重砲と巡航ミサイルで砲撃するパターンに落ち着いたため、この理論では大規模なVKS攻撃の不在を説明できないことになる。

 

ロシア軍の指揮官が、高価かつ威信のある高速ジェット機の大損害リスクを避け、リスク許容度でVKSを抑制しているとの説もある。これも筋が通らない。ロシア地上軍は最新型戦車・装甲兵員輸送車数百両、短・中距離防空システム、精鋭空挺部隊(VDV)や特殊部隊を含む数千人の兵員を1週間で失った。ロシア経済は深刻な制裁措置で急速に疲弊し、ロシア指導部はヨーロッパはじめ世界各地で慎重に築き上げてきた影響力ネットワークと同盟関係を焼失させた。つまりクレムリンはすべてを危険にさらしている。損失を避けるため空軍戦力を抑制するのでは意味をなさない。

 

現時点で有力な唯一の説明

VKSが初期に航空優勢を確立できなかったのは、早期警戒、調整能力、立案時間の不足で説明できるが、継続的な活動パターンは、VKSに大規模で複雑な航空作戦を計画、準備、実施する制度的能力が不足しているとの、より重大な結論を示唆する。この暫定的な説明を裏付ける重要な状況証拠もある。

 

VKSは2015年以降、シリア上空の複雑な空域で戦闘経験を積んできたが、小規模編隊で航空機を運用してきたに過ぎない。単機、二機、時には4機編成が普通だった。異なる機種の航空機が同時運用される場合も、せいぜい2組の構成に過ぎない。戦勝記念日の展示飛行のような威信をかけたイベントは別として、VKSは訓練飛行の大部分を単機か二機一組で行っている。つまり、VKSの作戦指揮官は、脅威の高い空域で多数の部隊が参加する複雑な航空作戦を立案、説明、調整する方法について、実践的な経験を持っていない。過去20年間、イラク、バルカン、リビア、アフガニスタン、シリアで行われた西側の軍事作戦では、統合航空作戦センターを通じ複雑な航空作戦が当たり前に行われてきたため、西側の航空戦力の専門家多数がこの点を見落としがちだ。

 

第二に、ほとんどのVKSパイロットの年間飛行時間は約100時間(多くはそれ以下)であり、NATO空軍の飛行時間の約半分である。また、複雑な環境下で高度な戦術を訓練・実践する近代的なシミュレーター設備もない。ロシアの戦闘機パイロットが得る実戦飛行時間も、NATO軍の飛行時間と比べ、複雑な航空作戦に対応する準備として、価値が著しく低い。英空軍や米空軍含む西側諸国の空軍では、パイロットは、悪天候、低空で、地上や空中の脅威を想定した複雑な出撃に厳しく訓練されている。高速ジェット機の上級訓練に合格するため、こうした訓練を確実にこなし、しかも計画したタイムオンターゲットの5〜10秒以内に目標に命中させることができなければならない。これは、前線任務において、複雑な攻撃パッケージによる複数の要素として、銃撃を受け視界が悪くても、安全かつ効果的に操縦と攻撃を繰り返すために不可欠なスキルである。また、訓練に長時間がかかり、定期的に実戦飛行とシミュレーターで最新の技術を習得する必要がある。これに対し、VKSの最前線での訓練は、比較的無菌状態で行われ、航法飛行、オープンレンジでの無誘導兵器運用、地上防空システムとの連携による目標シミュレーション飛行など、単純タスクがほとんどだ。地中海、北海、カナダ、米国にある十分整備された射場で日常的に共同訓練を行っているNATO空軍に匹敵する訓練・演習体系をロシアは利用できない。また、NATO加盟国が毎年行っている、現実的な脅威を想定した大規模な複合型航空演習(最も有名なものは「レッドフラッグ」)に匹敵するものもロシアにない。そのため、ロシアのパイロットの多くが、熟練度を欠いていて複雑でダイナミックな任務を遂行する大規模な混合編隊の一員として、効果的に活動できないとしても不思議はない。

 

第三に、VKSが複雑な航空作戦を実施できるのであれば、ウクライナ上空での航空優勢の獲得は比較的簡単だったはずである。自国の都市上空で勇敢に防空する少数のウクライナ軍戦闘機は、ロシアの長距離SAMシステムにより低空飛行を余儀なくされており、その結果、状況認識力と耐久力が比較的限られる。ウクライナ国境周辺に配置された、重武装で高性能VKS戦闘機多数なら、比較的容易に圧倒できたはずである。ウクライナのSA-11やSA-15などの中・短距離移動型SAMシステムは、ロシアのヘリコプターや固定翼機に有効だ。しかし、護衛戦闘機と中高高度で飛行するロシアの大型攻撃機部隊は、ウクライナのSAMを素早く発見し、位置を把握し攻撃できる。その過程で一部航空機を喪失しても、SAMを攻撃すれば、航空優勢を迅速に確立できるだろう。

 

ロシアには航空優勢を確立する動機があり、大規模な混合編成でウクライナの戦闘機とSAMシステムを制圧し、追い詰める戦闘作戦を行う能力は、書類上はある。しかし、VKSはウクライナのSAMの脅威を最小化するため、少数かつ低空での作戦しか続けていない。低空飛行では、状況認識や戦闘効果に限界があり、ウクライナ軍のイグラやスティンガーなど高射程ミサイルの射程内に入る。また、苦境に立たされているウクライナ軍に西側諸国が物資を送り、MANPADSは増えている。MANPADSによる損失を避けるため、出撃は主に夜間に行われており、搭載する無誘導空対地兵器の有効性はさらに低下している。

 

以上の説明がまちがっていれば、NATO諸国やイスラエルのような近代的な空軍が日常的に行う大規模で複雑な航空作戦をVKSが突然開始するかもしれない。しかし、そうでなければ、今後数週間でウクライナ軍への戦闘力と、西側諸国への通常型抑止手段としての価値が大きく問われる事態になろう。

 

Is the Russian Air Force Actually Incapable of Complex Air Operations? | Royal United Services Institute

Justin Bronk

4 March 2022

 

Justin Bronk is the Research Fellow for Airpower at RUSI


2016年11月7日月曜日

ロシアはなぜシリアで乱暴な無差別爆撃を実施しているのか


シリアで何が起きているのか正確に把握している方は日本では少ないのではないでしょうか。なじみがない話ではありますが、遠い地とのんきに構えている余裕は実はないのですが。やりたい放題のロシアに各国はなんら手を売っていないというのが現実です。この事態を生んだのもオバマ政権の失策です。
War Is Boring
Russian Su-25 attack planes take off from Hmeymim air base in Syria. Russian Ministry of Defense photo

Does the Russian Air Force Even Know What Is Going On in Syria?

The Kremlin either has poor military intelligence or different — and far more disturbing — priorities in mind

by TOM COOPER

ロシアはシリア介入を始めた昨年から一貫して無差別に住民を標的としている。シリア政府への反抗勢力を一掃する戦略目標なのは明白だ。
  1. ロシアは同じ戦法をチェチェンで実施ずみで、今度はシリアというわけだ。公共施設、学校、病院、食料貯蔵所、給水施設を巧妙かつ継続して空爆し、敵対勢力の統治効果を減衰させ、地元住民に恐怖感を煽り居住地を離れさせ、反乱勢力の力を下げるねらいがある。
  2. ただしロシアの「価値減衰」戦術が2016年10月ほど激烈に行ってきたことはなかった。
  3. 同月にアルカイダ系列のジャバト・アル・ファタ(JAF)勢力がアレッポに移動してきた。さらにJAF勢力が補給品をトルコ国境付近から運送してきたがロシア機の姿はどこにもなかった。
  4. 10月25日になり自由シリア軍の中央師団がイドリブからアレッポに移動したが空爆はさして心配でなかった。
  5. 一方、ロシア航空宇宙軍VKSはアレッポ東方やイドリブの市町村を集中爆撃し、市民に多数の死傷者が発生した。
  6. 10月26日、JAFがアレッポ西方のシリア軍陣地を攻撃しはじめ、275千名の一般市民、11千名の戦闘員の包囲状況を解放しようとすると、ロシア機がイドリブで学校を空爆し、少なくとも22名の学童、教員6名が死亡する一回の空爆でシリア最悪の記録となった。
A Russian air force Su-24M over Hass, Oct. 26, 2016.
  1. シリアアラブ共和国の空軍はこれとはちがう行動をしている。小学校爆撃の同日にSyAAFは自由シリア軍集団の司令部をホム自治区で空爆している。
  2. その結果、自由シリア軍のショキ・アヨブ・アボ・イブラヒム大佐、副官ファイサル・アウド中佐も含む指導層が死亡した。
  3. 10月26日には興味深い写真がインターネット上で浮上し、アサド派のアレッポ軍区司令官ザイド・サレ少将が悪名高い民兵組織砂漠のタカの指揮官モハマド・ジャバと写っている。
  4. 二人の背後には地図があり、シリア軍がJAFの現在位置とアレッポ西方からアルアサド地区への展開作戦を情報収集しているのが分かる。
Major-General Zaid Saleh (centre) with Mohammad Jaber (left)
  1. ロシア軍はどこまで正確で有益な戦場の状況の情報収集をシリアで行っているのだろうか。
  2. 正しく信頼できる情報こそいかなる戦闘で成功要件となる。そのためロシアも努力している。
  3. まずロシアは偵察衛星を使い、シリアの戦場を監視していると公表している。ロシア軍の日刊紙ではシリアではロシア軍は「ネットワーク中心の戦闘」として情報収集と高度通信技術を応用して迅速に敵を突き止め撃破する原則で実施しているとする。
  4. ロシアが構築したシリア内の「ネットワーク」にはイリューシンIl-20M偵察機一機がまずフメイミン基地にあり、70機近くの偵察ドローンが大きいものはヤコブレフ・プチェラ-1から小型のオリアン-10、エレコン-3SVやグラナット-4まで配備されている。
  5. またスパイ機としてツボレフTu-214Rがあり、ロシア最高性能の偵察機といわれる。クレムリンが地上配備の前線航空指揮官を配備しているのはまちがいない。
  6. だが問題がある。VKSが繰り返し、シリア反抗勢力の指揮命令所や司令官の排除に失敗している。ジャバト・アル・ファタやイスラム国対象の作戦も失敗している。
  7. 2016年2月にはTu-214Rがアレッポ上空を飛行したが、イスラム国の大部隊が砂漠を横断しカン・ナシルとアレッポを結ぶ道路に近づくのを探知できなかった。
  8. この失敗により聖戦主義武装勢力が政府軍少数部隊を壊滅させ、その他2万名のシリア政府軍部隊やイラン革命防衛隊向けの補給線が一週間近く切断された。
  9. 一方でシリア政権に近い筋は反乱勢力指導部への空爆はSyAAFが実施しているのであり、ロシアVKSの関与はないと強調している。
  10. シリア空軍情報部は空爆実施に先駆け情報を入手し無線で爆撃機乗員に伝えているがVKS機は目標を変更していない。
  11. 同筋によればロシア情報集能力はシリア国内で不足しており、SyAAFへSu-22M-4Kに使用後40年経過のKKR-1カメラポッドを搭載して送るようロシア空軍が要望しているという。
  12. このためロシアの情報収集能力への疑問が生まれている。ロシアはシリアで何の情報を集めているのか。イスラム国については大した情報は集めていないようで空爆実施は2016年10月は十数回にも満たない。■
  13. シリア国内の主要反乱勢力についての情報収集力が十分でないことは明らかだし、アルカイダ系列のJFSでも同様だ。
  14. クレムリンが考えるネットワーク中心戦はこれから姿をあらわすのかもしれないが、実は全く違う意味に解釈しているのかもしれない。■