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2025年9月26日金曜日

SR-72「二代目ブラックバード」は米軍の根幹を揺るがす可能性のあるマッハ 6 の機体になる(National Security Journal)

 

SR-72「二代目ブラックバード」は米軍の根幹を揺るがす可能性のあるマッハ 6 の機体になる(National Security Journal)

SR-72 Son of Blackbird

SR-72 ブラックバードの息子。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。

要点と概要 – ロッキード・マーティンのスカンクワークスは、SR-71の後継となるSR-72極超音速機を長年にわたりほのめかしてきたが、米空軍は公式に計画を確認したことは一度もない。

-この記事では、噂と現実を区別する。エアロジェット・ロケットダインのスクラムジェット研究とDARPAの取り組みが示唆すること、トップガンの「ダークスター」がSR-72ではない理由、そして技術的な課題(タービンからスクラムジェットへの推進力、極端な加熱、材料、誘導、JP-7スタイルの燃料ロジスティクス)について解説する。

SR-72

SR-72 ダークスター。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。

-双発の「ブラックバードの後継機」が2030年代まで(仮に実現すれば)実戦配備されなくとも、その基盤技術は既に米国の極超音速兵器を形作りつつあり、中国とロシアの計画を複雑化させている。

ロッキードの謎めいた SR-72「ブラックバードの息子」は、今後数十年にわたり国防総省の兵器庫を形作るかもしれない

いわゆる SR-72 ダークスターは、2007 年以来、現実の狭間に存在している。この年、ロッキード・マーティンのスカンクワークス部門が、伝説的な SR-71 ブラックバードの後継機を検討しているという報道が初めて表面化した。

長年にわたり、研究は行われていたものの、このプロジェクトは単なる憶測に過ぎないと思われていた。しかし、「トップガン:マーベリック」が「ダークスター」の名称を披露し、ロッキード・マーティンが計画しているものについて、世間の好奇心を再燃させた。

しかし、少なくとも筆者の個人的な見解としては、2025年になっても、そのような航空機が実際に存在するかどうかは不確かなままです。

ロッキードは、この計画について大まかな内容については認めているが、米空軍は試作機の認可については確認していない。しかし、アナリストたちは、この計画は存在しており、双発エンジンプラットフォームは2030年代までに運用開始される可能性があると示唆している。とはいえ、その時期が近づき、その実現を示唆する具体的な証拠がほとんどないため、この航空機が実際に登場するかについては、依然として多くの疑問が残っている。

だが、ロッキードの謎めいたツイート、プロジェクト名に関する誤解、そしてプロジェクトが直面する技術的課題など、このプロジェクトについて私たちが知っていることもいくつかある(もし、実際に存在しているならば)。

SR-72 Darkstar Plane

SR-72 ダークスター機。画像提供:ロッキード・マーティン社

SR-72:ロッキードは否定していない

これまで、ロッキードは、極超音速機の研究や、マッハ 5 を超える速度に達するように設計された実験機の開発について、否定したことは一度もない。

それだけでなく、同社幹部は時折、SR-72 の名称に言及し、このプロジェクトが少なくとも何らかの形で存在していることを示唆している。問題は、ロジェクトが現在も存在しているかどうか、あるいはどこまで進んでいるかということだ。

しかし、米空軍は、特定の基準を満たす航空機の必要性を明記した軍による正式な声明、つまり要件を正式に確認したことは一度もない。

詳細…

防衛企業L3Harrisの子会社であるAerojet Rocketdyneは、このプラットフォームの推進システム研究に関与しているとされ、2017年にはDARPAからマッハ6までの極超音速を実現する新型航空機エンジンの開発に選定された。

SR-72計画自体が実現困難なプロジェクトであるとしても、同機の開発を可能にする研究は現在進行中であり、米国の極超音速ミサイル計画に活かされている。

この分野ではすでに一連のブレイクスルーが達成されている。超音速燃焼エンジン(スクランブジェット)推進技術、高温に耐える材料の開発、マッハ5以上の環境下で機能する新型誘導システムの創出などがそれだ。

これらのシステム開発が進行中であることは、SR-72のような計画も進行中であることを示唆している。ただし、それらの計画がどれほど遅れているのか、あるいは2030年までの運用開始という噂の目標時期に正式発表が迫るほど、どのような複雑な問題が発生したのかは全く予測がつかない。

ロッキードはその存在を否定していないばかりか、慎重に言葉を選んだ一連の声明で同機体の存在をほのめかしている。

『トップガン マーベリック』の公開後、ロッキードの公式Twitterアカウントは「SR-71は現在も公認最速の有人空気呼吸ジェット機である」と投稿し、アナリストの活発な議論、憶測、報道を引き起こした。この投稿は、SR-71を上回る速度を達成可能な未公表の航空機が開発中であることを示唆しているように見えた。

「ダークスター」ではない

根強い誤解の一つが、SR-72が「ダークスター」であるという説だ。

両機はしばしば混同されるが、明確に異なる。「ダークスター」はロッキードの協力を得てハリウッドが創作した架空機体だ。全長70フィート(約21メートル)のプロップ機には本物の試作コックピット部品が搭載されているが、実機ではない。

機体外装は実際にはF/A-18戦闘機で飛行シーンを撮影した後、架空の極超音速機としてデジタル合成で置き換えられた。プロップ機自体は飛行実績がなく、観客が実機と誤認するほど精巧に作られていた。

航空宇宙業界では、SR-72は「ブラックバードの息子」としてより広く認知されている。この愛称はSR-71からの継承を暗示している。

技術的課題

極超音速飛行を実現する航空機の開発は容易ではなく、同速度で飛行するミサイル開発とは根本的に異なる課題を抱える。

SR-72はジェットタービンとスクランブルジェット技術を融合したハイブリッド推進システムを必要とする。低速域ではタービンを、極超音速域ではスクランブルジェットを使用する。

しかし技術的課題以上に、エンジニアが直面するのは、この速度域での飛行が機体に及ぼす膨大な温度の圧力だ。

音速の6倍の速度では、表面温度は数千度に達する可能性がある。理論上、無人設計で問題の一部は解決できるが、これほどの高温はパイロットだけでなく、航空機の重要な構成部品にもリスクをもたらす。

一部報道によれば、エンジニアたちはこのレベルのストレスに耐えられる炭素複合材やチタン合金の採用を検討しているという。

ブラックバードの後継機が克服すべきさらなる課題

燃料面でも技術チームは課題に直面している。例えばSR-71はJP-7と呼ばれる特殊混合燃料を使用し、システム冷却剤を兼ねるものであった。効果的ではあったが、JP-7は高コストで物流面でも複雑だった。

仮にSR-72が製造される場合、ロッキードは従来型燃料で要件を満たせるか、あるいは新型燃料の供給が必要かを探ると同時に、運用コスト削減とプログラムの長期安定性を確保するため、サプライチェーンの簡素化も図らねばならない。燃料がなければ、世界最先端の極超音速機も米空軍にとって実質的に無用の長物となる。

ゲームチェンジャーとなる可能性

しかしSR-72が実戦配備されるか否かは、プログラムに付随する技術の発展に比べれば重要度が低いかもしれない。SR-71の開発が材料科学に革命をもたらしたように、SR-72の研究は次世代米国極超音速兵器の基盤を築く可能性がある。

仮にこの航空機が実機化されれば、ブラックバードの直接の後継機となるだろう。しかし仮に実現しなくとも、「ブラックバードの息子」は今後数十年にわたり国防総省の兵器体系を形作る可能性がある。

そして当面の間、SR-72の噂が中国やロシアといった敵対国の対抗計画立案を複雑化させる効果を生む。■



SR-72 ‘Son of Blackbird’: The Mach 6 Plane That Could Shake the U.S. Military To Its Core

Jack Buckby

By

Jack Buckby

https://nationalsecurityjournal.org/sr-72-son-of-blackbird-the-mach-6-plane-that-could-shake-the-u-s-military-to-its-core/

執筆者:ジャック・バックビー

ジャック・バックビーはニューヨーク在住の英国人作家、反過激主義研究者、ジャーナリスト。英国・欧州・米国を報道拠点とし、左派・右派の過激化現象の分析・解明に取り組む。現代の喫緊課題に対する西側諸国の対応を報告。著書や研究論文ではこれらのテーマを掘り下げ、分断化が進む社会への実践的解決策を提言。近著に『真実を語る者:ロバート・F・ケネディ・ジュニアと超党派大統領の必要性』がある。

2025年1月15日水曜日

SR-72「ダークスター」:米軍にSR-71後継機としてのマッハ6の同機は必要なのだろうか?(19fortyfive)

SR-72

SR-72。 画像出典:クリエイティブ・コモンズ


されているSR-72ダークスターまたはSR-72「ブラックバードの息子」は、SR-71ブラックバードの2倍マッハ6の極超音速で、米国の偵察および攻撃任務に革命をもたらす可能性がある。

-ロッキード・マーティンが提案した「ブラックバードの息子」は、スピードとステルス性を兼ね備え、現代の防衛を突破し、精密な攻撃を行うことができる。

-しかし、米空軍にはこのような野心的なプロジェクトに資金を提供する動機がほとんどない。空軍はRQ-180のような亜音速でレーダーを回避するドローンを開発し、他の優先事項に投資している。

-中国とロシアの積極的な軍拡はダークスターの高速偵察のケースを補強しているが、国防総省はステルスがスピードに勝ると判断しており、SR-72のコンセプトが中途半端になっているのか。


ステルス vs. スピード:SR-72が飛ばない理由

この超極秘スパイ機には非公式な呼称がある。『トップガン マーベリック』にも登場し、印象的なファンがいる。唯一の問題は、「ダークスター」のニックネームを持つSR-72戦略偵察機がおそらくまだ存在していないことだ。

 だが、国防総省は同機が必要なのだろうか?必要ないとしたら、誰が必要とするだろうか?


歴史

歴史に名を残す象徴的な航空機のひとつがSR-71ブラックバードである。CIAのスパイ機A-12から派生したSR-71は、マッハ3で巡航し、ソ連や同盟国の防空網を凌駕するほどの速さで飛行し、防空網が反応する前に手の届かないところまで疾走することができた。 適切なタイミングを計り、一連の強力な電子的対抗手段で武装したSR-71は、強力なMiG-25 "フォックスバット "を回避することさえできた。

 SR-71は1989年に退役した。それから1年も経たないうちに、イラクのサダム・フセイン大統領がクウェートに侵攻し、「砂漠の嵐」作戦後の1991年4月、軍の情報将校たちは、SR-71が提供していた「高品質で最新の写真」の戦時中の欠如を嘆いた。

 イラクと旧ユーゴスラビアとの新たな危機がSR-71のユニークな能力の必要性を示したため、1990年代半ばに3機が復帰した。それでも、1999年にはこれらの機体も永久に地上待機となった。


 飛行中止措置の賛成派は、冷戦終結と新たに開放されたロシアとの良好な関係により、同機は不要になったと主張した。 旧ソ連共和国は政治的、経済的、軍事的に混乱し、深刻な戦略的脅威はなかった。 新たな危機が発生した場合、衛星やU-2偵察機がその役割を十分に果たすことができた。

 衛星は予測可能な軌道をたどり、頭上を通過する際に機材を隠すことが可能であり、U-2は飛行速度が遅く、動きの速い危機には対応できない。国防総省は、SR-71を現役に戻すか、代替機を開発するコストを考えれば、このような欠点は我慢できた。


SR-72のコンセプト

2013年、『エイビエーション・ウィーク&スペース・テクノロジー』誌は、ロッキード・マーティンが新たな高速航空機の開発に躍起になっていることを伝える記事「ブラックバードの息子に会う」を掲載した。

 SR-71の開発元であるロッキードは、非公式にSR-72と名付けられた代替機を提案した。SR-72は、タービンとスクラムジェットの両方を動力源とするまったく新しい飛行機で、滑走路からの離着陸はタービン動力で行い、飛行後はスクラムジェットに移行する予定だった。

 飛行速度はマッハ6、つまりSR-71の2倍だ。空対地攻撃能力が図面に残っていたSR-71とは異なり、SR-72は当初から偵察と攻撃の両方の任務が可能であった。


SR-72は、2つの任務を包含することができた。前任機の2倍の速度で移動できる再ターゲット可能な極超音速戦略偵察能力と、極超音速爆撃機としての役割である。同機の攻撃能力は、通常弾頭で武装した弾道ミサイルを使用して、一瞬で一刻を争う標的を狙うという、新たなコンセプトであるコンベンショナル・プロンプト・ストライク(Conventional Prompt Strike)を意識したものである。

 CPSは、遠隔地にいるテロリスト指導者の集まりを狙ったり、発射準備中の核弾頭や化学弾頭を搭載した弾道ミサイルを阻止したりする。 速度は遅いが、SR-72は必要に応じて任務から呼び戻すことができ、弾道ミサイル発射のように核武装したライバルを警戒させることもない。


ダークスターをめぐる論争

SR-72提案は、少なくとも米空軍にとって単なる提案だった。当時、マーク・ウェルシュ空軍参謀総長はこの計画について一切知らなかったと否定したが、彼は間違いなくこの機を空軍の在庫に加えたいと考えていただろう。

 しかし、真新しい極超音速機を開発するコストは数十億ドルにのぼり、F-22ラプターやF-35といったハイエンド・プログラムは、同じような装備を持つ敵がいなかったため、すでにキャンセルされるか、スローロールされていた。

 タリバンやイラク抵抗軍など、9.11後の世界対テロ戦争におけるアメリカの敵対勢力は、ローテクで自国外へ戦力投射ができず、SR-72の能力を必要とするような敵ではなかった。


もちろん今日では、話は変わっている。

中国の軍備増強には現在、空母、核兵器の拡大、4機の第5世代以降の戦闘機と攻撃機が含まれている。 ロシアのウクライナ侵攻は4年目を迎えようとしており、モスクワは嫌がらせだと言ってNATOを標的にすることが増えている。

 SR-72のような航空機は、例えば南シナ海での偵察任務や、世界中のロシアの軍事資産を監視することができる。 しかし、そのような偵察機はすでに存在している。

 2010年代中頃に新しいステルス偵察機の噂が浮上した。RQ-180として知られるこのドローンは、B-2スピリット・ステルス爆撃機に似ており、亜音速で、ステルス性で目標に密かに接近し、情報を収集する。

 冷戦後期、爆撃機業界は超音速爆撃機から亜音速のステルス爆撃機へと軸足を移した。

 亜音速ステルス偵察ドローンが存在している中で高速偵察機が存在できるのかを考えると、偵察コミュニティでも同様の決断を下し、再びステルスがスピードに勝ったことを示唆していない。


国防総省は現実のSR-72ダークスターを必要としているのだろうか? SR-71が空軍で飛ぶ前に、中央情報局がA-12オクスカートという高速偵察機を運用していたことを思い出してほしい。

 おそらく本当の疑問は、より大きなアメリカ情報機関がダークスターを必要と判断したかどうか、そしてそれについて何かをしたかどうかということだろう。■


SR-72 ‘Darkstar’: Does the U.S. Military Really Need a Mach 6 Sequel?

By

Kyle Mizokami


https://www.19fortyfive.com/2025/01/sr-72-darkstar-does-the-u-s-military-really-need-a-mach-6-sequel/


Written ByKyle Mizokami

Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Fransisco. His work has appeared in Popular Mechanics, Esquire, The National Interest, Car and Driver, Men's Health, and many others. He is the founder and editor for the blogs Japan Security Watch, Asia Security Watch and War Is Boring.


2023年1月11日水曜日

米国が開発中の極超音速機3型式は21世紀の空に再びスピードの威力を復権させる



開情報によれば、米国で少なくとも2機(おそらく3機)の極超音速機が秘密裏に開発中であることが明らかになってきた。こうしたプラットフォームが実用化されれば、アメリカが中国やロシアに一貫して負けているとされてきた極超音速兵器競争に終止符を打つことが約束される。

しかし、最も驚くべきことは、再利用可能な極超音速航空機を飛行させるアイデアは今回が初めてではないことだ。ソビエトのスプートニク衛星が軌道に乗る前から、アメリカは有人極超音速爆撃機を開発していた。



X-20 ダイナソアの実物大モックアップ。. (U.S. Air Force photo)


1957年10月のスプートニク発射を前に、ボーイング(ペーパークリップ作戦で渡米したドイツ人技術者も参加)は、極超音速爆撃機「X-20ダイナソア」開発を開始した。ロケットで打ち上げ、ブースターから分離し、リフティングボディ形状を利用し大気圏をバウンドし、マッハ18以上の速度で膨大な距離を移動する(大気圏外での速度をマッハ数で表すことは必ずしも適切ではない)機体だった。

 この頃、ノースアメリカンの有人ロケット極超音速機X-15も実験を開始しており、1959年に無動力で初飛行した。


発射機から引き離されるノースアメリカンX-15。X-15は、1959年から1968年にかけ飛行したロケットエンジン搭載の極超音速機である。 (U.S. Air Force photo)



1960年、空軍はた新型宇宙爆撃機のパイロット選びに着手し、第一陣として30歳の海軍テストパイロットで航空技術者のニール・アームストロングが選ばれた。アームストロングは1962年4月にX-15を操縦した後、X-20プログラムから完全に離れ、新設のNASAでさらに高い速度と高度を追求することになった。そして、4年後に打ち上げられるジェミニ8号の指揮を執り、その3年後に人類初の月面着陸を果たした。

 X-20ダイナソアの最初のモックアップは、全長35.5フィート、翼幅20.4フィートだった。同計画は当時の技術水準で実現可能だった。だがコストがダイナソアの消滅を招いた。


X-20計画で選ばれた宇宙飛行士たち。. (U.S. Air Force photo)



「U-2のようなブラック計画として進めていれば、実現したかもしれない」と、元空軍歴史部長のリチャード・ハリオン博士は言う。同プログラムは、最終的に1963年12月10日に棚上げされ、NASAのジェミニ計画により多くの資金を振り向けることが優先された。


最新鋭ミサイルもコストが制約条件だ


X-20は、現代の極超音速兵器より半世紀ほど古い計画だが、現代の兵器と共通する部分も多くある。実際、ロケットで上空に運ばれた後、無動力で極超音速で地球に降下するX-20は、ロシアや中国が実用化しているブーストグライド兵器や、中国が2021年に実験したフラクショナル・オービタル・ボマーダメント・システムを組み合わせたものと見ることができる。

 そして、X-20と同様に、最新の極超音速システムが直面する最も大きな制限は、高マッハ飛行に特有の大規模な工学的ハードルより、課題を克服するための膨大なコストだ。米国は最近、開発中の極超音速ミサイルのコストが1基あたり1億600万ドルに上る可能性があると評価した。つまり、マッハ5以上のミサイルは1回しか使えない兵器なので、新品のF-35Aよりも数百万ドル高くつく可能性があるということだ。

 このようなコストは、極超音速ミサイルの潜在的な用途を大幅に制限し、ロシアと中国がこれまでに開発した極超音速ミサイルが抑止力カテゴリーに分類される理由にもなっている。抑止力兵器とは、核弾頭ICBMのようなシステムで、主に迫り来る脅威として使用されるる。抑止力の真価は、その使用というより、使用の脅威の中にある。



例えば、ロシアの核ミサイル「アバンガルド」は、アメリカの防空能力に関係なく、核弾頭をアメリカ本土に確実に到達させる。中国のDF-ZFは、太平洋上にあるアメリカの航空母艦を脅かすため開発された。いずれも使えば必ず大規模な戦争になるので、外交交渉でそれぞれの国の大鉈(おおなた)を振るうためのものである。

 つまり、極超音速兵器は単発で使うには膨大なコストがかかるため、大半の作戦では非現実的となる。しかし、再利用可能な極超音速プラットフォームがあれば、低コスト軍需品を同等の速度で輸送できるため、コスト面での価値提案を劇的に変化させることができる。

 現在、国防総省の資金援助を受け活発に開発が行われている極超音速機計画が2つ、そしてまだ確定していないものの、実は最も成熟していると思われる3つ目が公表されている。



極超音速機(1) メイヘム


(オリジナルのボーイング社提供の写真をAlex Hollingsが加工)


最初に紹介するのは、空軍研究本部の「メイヘム」プログラムだ。同計画は、現在国防総省が資金を調達中の極超音速プログラム70以上の中で、世間の注目を浴びることなくひっそりと行われていた。しかし、高速ミサイルの実用化を目指す取り組みと異なり、メイヘムは、単一用途のミサイルよりはるかに価値のあるものを目指している。

 メイヘムの焦点は、極超音速飛行の聖杯を開発することにある。「既存システムより大積載量を長距離にわたって」推進することができる複合サイクルターボファン・スクラムジェット推進システムで、通常の航空機と同様に離着陸できる。

 空軍は、2028年10月15日までに試験を完了することを目標に、メイヘムに攻撃作戦(兵器の運搬)および情報、監視、偵察任務を与えることを要求している。2022年12月、空軍はバージニア州に本社を置くレイドスLeidosに、メイヘムの継続的な開発のため3億3400万ドルを授与した。

 「このプログラムは、標準化ペイロードインターフェースでミッションを複数実行できる、より大型スの空気呼吸式極超音速システムを提供することに焦点を当て、重要な技術的進歩と将来の能力を提供する」と空軍の契約発表に書かれている。

 スクラムジェット(超音速ラムジェット)は新しい技術ではなく、何十年も前からテストされているが、現在までのところ、スクラムジェットをミサイルや航空機に搭載して運用するのに成功した国はない。スクラムジェットを通過する空気は超音速で流れるため、点火が非常に難しく、ハリケーンの中でマッチに火をつけるようなものだと言われる。


NASAによるスクラムジェット解説図。


「スクラムジェットは、まだ未熟な技術です」。テキサス大学サンアントニオ校の極超音速・航空宇宙工学のDee Howard寄付教授、Chris Combs博士は、Sandboxx Newsに次のように語っている。「正しく機能させるのは本当に難しく、起動不能、燃料混合、火炎保持など、未解明の基本的な問題があります」。

 しかし、スクラムジェット運転を成功させた実績はある。米国では2004年にマッハ9.64に達したNASAのX-43Aや、2013年にボーイングのX-51ウェーバライダーなど、スクラムジェット技術実証機で繰り返し成功を収めてきた。最近では、レイセオンロッキード・マーティンが、DARPAのHypersonic Air-breathing Weapon Concept(HAWC)ミサイルプログラムでスクラムジェットのテストを行い、ロッキードがX-51のスクラムジェットによる最長継続飛行記録を破るなど、成功を収めている。

 しかし、スクラムジェットを実用化するだけでは、再利用可能な極超音速航空機の動力源として十分ではない。スクラムジェットは低速では効率的に機能せず、停止状態では機能しないため、これらの推進システムは離陸と加速のために別システムに依存しなければならない。

「ラム/スクラムジェットの問題は、超音速の流れがないと機能しないことです」とCombsは説明する。「ロケットは、ゼロから軌道上速度へ到達できますが、酸化剤を積まなければならないので、相対的に効率が悪くなります。だから、難しい問題なんです」。

 しかし、自力で離着陸可能な飛行機を作るためメイヘムはスクラムジェットと、ターボファンエンジンを組み合わせる。

 メイヘムは、ターボファンで離陸・加速し、おそらくマッハ2を超える速度で飛行する。スクラムジェットが機能するのに十分な速度で飛行すると、気流はターボファンをバイパスし直接スクラムジェットに供給され、航空機はマッハ5を超え、潜在的にはマッハ10をはるかに超える速度まで加速されることになる。


極超音速機(2) ダークホース

極超音速機「ダークホース」。 (Hermeus)


アトランタに拠点を置くハーミウスHermeusが、米軍向けに再利用可能な極超音速航空機ダークホースDarkhorseの実用化を目指しているのが、もうひとつの公開プログラムだ。

 Sandboxx Newsでは、世界初の再利用可能な空気呼吸式極超音速航空機だけでなく、他の注目すべき防衛努力の何分の一かのコストで、ハーミウスが実用化に向け驚異的な進歩を遂げていることは承知している。2021年、ハーミウは米空軍から極超音速推進システムの開発継続に6000万ドルの契約を獲得し、2022年には防衛大手レイセオンが同社に未公表の金額を投資してこれに続いた。

 ハーミウスは、ダークホースの詳細をほとんど明らかにしていないが、いくつかの点については断言できる。極超音速飛行で、メイヘムと異なるアプローチをとり、複合サイクルエンジンにスクラムジェットの代わりにラムジェットを採用している。これにより、極超音速飛行に伴うエンジニアリングの頭痛の種を減らすだけでなく、コストを劇的に削減できる。


極超音速航空機Darkhorseの飛行中のイメージ図。(ヘルメス社) (Hermeus)


 ハーミウスの最高製品責任者兼創業者Mike Smaydaは、Sandboxx Newsに電子メールで次のように語った。「会社設立の柱の1つは、部品やサブシステムレベルで極超音速機を製造できるほど技術が成熟してきたことでした。最大の技術的課題は、任務を遂行するのに十分な効率性を持つシステムに、すべてをまとめ上げることです」。

 ラムジェットはスクラムジェットと非常によく似た機能を持つが、ジェット噴射口内に内部体(ディフューザーと呼ばれることもある)を使用し、流入する空気を亜音速まで減速させ、点火を簡単にする。


ラムジェットの解説図 (Wikimedia Commons)


12月、ハーミウスはプラット&ホイットニーのF100ターボファンを、F-15イーグルに搭載するキメラChimera エンジンのベースとして使用することを発表した。

 2022年、ハーミウスはキメラエンジンがターボファンからラムジェット出力に移行する様子を風洞で実証した。このパワープラントは、今年後半に飛行予定の同社のクオーターホース技術実証機に使用される。キメラはクォーターホースに搭載されるが、ハーミウスはさらに大型で強力なエンジンをダークホースに搭載する予定だ。

 ラムジェットを使うということは、ダークホースの速度はマッハ6以下、つまり時速約4,600マイルに制限される可能性が高い。また、極超音速で弾薬を発射すること自体、膨大な技術的課題を伴うため、極超音速の速度が高くなると、プラットフォームの積載量が制限される可能性がある。

 取材でHermeusはダークホース機を武装する計画をあからさまに示したわけではなく、国防総省のニーズを推測させないよう注意していました。しかし、シューフォードはセンサーノードを搭載する可能性を示唆し、何らかのペイロードを搭載することはすでに視野に入っているようだ。

 Hermeusは、極超音速機Darkhorseを2025年に完全公開する意向という。



極超音速機(3) SR-72SR-72 Lockheed Martin render



メイヘムとダークホースはどちらも秘密主義的とはいえ、共に公に開示された取り組みだ。しかし、リストの3番目の航空機であるロッキード・マーティンのSR-72は、そうではない。このような航空機を論じること自体が「もしも」の領域に近づくかもしれませんが、ブラック予算の幕の後ろに運用可能なプラットフォームが隠されているのではないかと疑うに足る十分な理由がある。

 ロッキード・マーティンは、伝説のSR-71ブラックバードの極超音速後継機を実戦投入する取り組みについて、2013年にプラットフォームのウェブサイトを立ち上げたときから非常にオープンだった。年が経つにつれ、ロッキードはSR-72のウェブサイトを更新し続け、このプログラムへの関心を高め、2015年にはポピュラーサイエンスがカバーストーリーにするまでになった。



Popular Science, June 2015.


 2年後の2017年、Aviation Weekは、カリフォーニア州パームデールにある米空軍のプラント42の近く、それもロッキード・マーティンの伝説的なスカンクワークス本社と同じ場所を飛行する、乗員なしのSR-72技術実証機が目撃されたとの目撃談を報じた。

 Aviation Weekは当時、ロッキード・マーティン社の航空部門担当副社長であるオーランド・カルヴァーリョにコンタクトを取った。

 「具体的な内容には言及できませんが、カリフォーニア州パームデールのSkunk Worksチームは、スピードへの取り組みを倍増させているとだけ言わせてください」と彼は2017年にAviation Weekに語っていた。

 「ハイパーソニックスはステルスのようなものです。破壊的な技術であり、各種プラットフォームがブラックバードの2~3倍の速度で移動できるようになります...セキュリティ分類ガイダンスでは、速度がマッハ5以上であるとしか言えません」と述べていた。

 2018年初頭までに、ロッキード・マーティン関係者はイベントで公然とSR-72について語り、それが既存のプラットフォームであるだけでなく...すでに試験飛行を行ったものであるかのように議論していた。発言で最も注目すべきは、ロッキード・マーティンの戦略・顧客要求担当副社長ジャック・オバニオンが、フロリダで開催されたアメリカ航空宇宙学会のイベントで発した言葉だろう。


Lockheed Martin’s SR-72 page prior to being purged from their website.


 「デジタル変革がなければ、そこにある航空機は作れなかった」と、オバニオンは2018年、SR-72のレンダリングの前に立ち、聴衆に語りかけた。

 「エンジンそのものを作ることはできませんでした。5年前なら、溶けてスラグになっていただろう。しかし今は、エンジン自体の素材に信じられないほど洗練された冷却システムを組み込んだエンジンをデジタルプリントし、そのエンジンが日常運用のために何度も発射されても耐えられるようにできます」。

 後日、ブルームバーグから発言を追及されたオバニヨンは、こう言った。

「この航空機は極超音速でも機敏に動き、確実なエンジン始動が可能です」と彼はBloombergに語った。

 2022年、『トップガン』が公開され、ロッキード社のスカンク・ワークスで実際に製造された「ダークスター」と呼ばれる架空の極超音速機が登場した。映画の製作総指揮者であるジェリー・ブラッカイマーへのインタビューの中で、Sandboxx Newsは、中国がこのプラットフォームをよりよく見るためスパイ衛星の方向を変え、それが実際の航空機であるという明白な前提で話を進めた。

 運用面では、SR-72は空軍のメイヘムとよく似た働きをするとされ、複合サイクルターボファンスクラムジェットエンジンを使用する。2018年、ロッキード・マーティンはSR-72のウェブページで、まさにそのようなシステムでエアロジェット・ロケットダインと協働していると述べている。(興味深いことに、ロッキード・マーティンはその後、このエンジンメーカーを44億ドルで買収しようとしたが、規制上の障害で最終的に失敗に終わった)。

 しかし、その後、状況は一変した。

 2018年3月1日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、以来、現代の極超音速兵器競争の発端とされる演説を行った。プーチンは演説で、ロシアはすでに極超音速ミサイルを1基実用化し、2基目がすぐ後に控えていると主張し、その真偽は議論の余地があるが、米国がkぉの脅しを真剣に受け止めたことは明らかだ。

 その直後、ロッキード・マーティン社は自社のウェブサイトからSR-72計画に関するあらゆる記述を削除し、米国が外国の競争相手と同等以上の極超音速能力を得るために努力を重ね始めたのと同じように、この計画は再び暗黒地帯に追いやられることになった。

 SR-72は単なる噂に過ぎないが、マッハ5を達成できるかもしれない噂の1つである。



米国の極超音速機が実用配備するのはいつになるのか

『トップガン マーベリック』に登場した極超音速機 "ダークスター"。. (Image courtesy of the U.S. Air Force)


 Hermeusは2025年にDarkhorseを正式発表する意向で、空軍研究本部は2029年にメイヘムプログラムのテストを完了させる意向だ。ロッキード・マーティンのSR-72については、すでに飛行しているかもしれないし、飛行していないかもしれない。

 しかし、正確な日付はともかく、極超音速機の導入は極超音速兵器競争における極めて重要な瞬間となる。極超音速は、第三次世界大戦以外の用途には高価すぎて使えない絶妙な抑止力の領域から抜け出し、マッハ5以上の能力がアメリカの通常作戦部隊に正面から位置づけられることになるのだ。

 極超音速機を弾薬運搬に使用すれば、米国は高価な極超音速兵器の開発を制限し、より低コストの既存の弾薬を世界のどこにでも同じ緊急性で運搬できる高速航空機を配備できるようになる。また、極超音速のスピードと機動性のおかげで、かつてのSR-71と同じように、最新の統合防空システムを打ち負かせるだろう。


ロッキード・マーティンによるSR-72のレンダリング画像


 しかし、これらのプラットフォームが米軍に提供できる価値は、兵器運搬だけではない。衛星のカバー範囲が限られたエリアでの情報収集など、必要不可欠な高速運用の手段としても機能する。

 Hermeusのシュフォードは、Sandboxx Newsに次のように語った。「戦略的な競争や、敵対する相手と近距離にいる場合、長距離を素早くカバーする必要があり、ターゲットを素早く見たり、通信ノードがダウンしたときにネットワークを再構築する必要があります。素早く現地に到着し、新しい通信ノードを落とすことができるようになる」。

 20世紀の大部分を通じて、空は音速の2倍から3倍で空を横切ることができるホットロッドが支配してきたが、ステルス革命でそれをすべて変えた - 腕力よりも低観測性を優先させ、動作速度を下げた。しかし、21世紀は、スピードが復権し、ステルスが脚光を浴びそうだ。■


The secretive race to field America's first hypersonic aircraft - Sandboxx

Alex Hollings | January 9, 2023



Feature image courtesy of Hermeus

 

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.