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2025年11月11日火曜日

ロシア軍は危機に直面している(National Security Journal)―泥舟のようなロシアの現状。プーチンという愚かな指導者を抱えたことは悲劇ですが、西側はプーチンにロシアを弱体化させたいと願っているかもしれません

 

Su-57

 Su-57フェロン。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。

要点と概要 – ロシアの防衛産業は、戦争需要と制裁の重圧に耐えかねている。Su-75、Su-57、T-14アルマータ、PAK DAといった大型プログラムは遅延を続け、工場は半導体、資金、熟練労働者の確保に必死だ。

-動員により労働力が枯渇し、士気は低下している。分散した工場から架空の生産ノルマまで、ソ連時代の非効率性が残ったままだ。

-原油価格の低迷と膨張する戦時コストが予算を圧迫し、陸海空軍の要求に優先順位をつけざるを得なくなっている。

-部品が闇市場経由で調達され、生産ラインが停止または減速する中、モスクワは次世代システムを配備する代わりに旧式装備を改修している。結果として、輸出減少、納期遅延、抑止力の衰退が数年間続く。回復は遅くとも緩やかになるだろう。

ロシア防衛産業が破綻する理由

ロシア軍は防衛調達プログラムに問題を抱えている。ウラジーミル・プーチンとその将軍・提督連はしばしば過剰な約束をし、成果が伴わない。ロシアはウクライナ戦争で明らかに苦戦しており、プーチンが重視する「超兵器」の供給に困難を来している。

ロシアはまずソ連崩壊後の混乱に直面した。資金が枯渇し、軍事的必要性が犠牲となった。政府は深刻な混乱状態にあり、新生自由市場経済の生命維持やその他の国内政治課題に重点が置かれた。

その結果、様々な航空機や造船計画が中止・遅延した。防衛産業基盤が回復するには何年も要した。

威信をかけたプロジェクトが苦戦中

現在、ウクライナ戦争を機に、ロシアは再びSu-75Su-57T-14アルマータPAK DAといった高額で野心的な計画の調達努力を再調整せざるを得なくなっている。Su-75チェックメイトステルス戦闘機は量産されておらず、輸出市場でも売れ行きが芳しくない。

Su-57も同様で、ウクライナ上空での戦闘実績は芳しくない。T-14アルマータ主力戦車は高コストで過大評価されている。ロシアは量産化に苦戦している。

T-14 Armata Tank Russia

T-14アルマータ戦車 ロシア。画像クレジット: クリエイティブ・コモンズ。

これは中止される可能性のある失敗プログラムかもしれない。次世代爆撃機PAK DAも度重なる中断と再開で遅延中で、いつ実戦配備されるかは不透明だ。ロシア海軍も機能する空母を欠き、これもまた失望材料である。

士気が低い労働者では高度な兵器システムを量産できない

大きな問題の一つは士気だ。ロシア軍はウクライナ防衛軍との戦闘で直面した困難、そして信じがたいほどの死傷者と破壊された装備に衝撃を受けている。労働者は、戦前と同じレベルの国家への誇りと威信を保てるのか疑問に思っているだろう。

制裁がハイテク機能を破壊している

さらに国際制裁が防衛サプライチェーンを損なった。技術革新の速度は失われた。生産ラインは停止し、労働者はノルマを達成できず責任を負わされている。

米国、欧州、日本からのマイクロプロセッサーは供給されない。ロシアが高度な兵器システムを構築する唯一の方法は、制裁にもかかわらず一部部品を供給する二流国に依存することだ。これらの部品は品質が劣り、ロシアに届くもののしばしば遅延する。

優先順位をつける時だ

ロシアでは同時に運用する兵器システムが多すぎるため、優先順位が混乱しがちだ。陸軍に注力すべきか?新型戦車や装甲兵員輸送車の早期更新が急務だ。

海軍はどうだろうか?黒海艦隊の旗艦モスクワのような主力艦艇の喪失を補う新造艦が必要だ。一方、空軍はSu-57、Su-75、PAK DAの開発が同時進行で進められており、深刻な需要を抱えている。

Su-57 and Su-75Su-57とSu-75。画像クレジット:アーティストレンダリング/クリエイティブ・コモンズ。

時間も予算も資源も、すべて十分に行き渡るわけではない。ロシアは戦争遂行と防衛装備調達に充てる財源を石油価格に依存している。しかし原油価格は今年に入り18%下落している。

ロシアは中国に炭化水素の購入を頼っているが、これらの購入だけでは防衛産業に必要な資金を賄えない可能性がある。

訓練された労働力がウクライナ戦線で失われている

ロシアは質の高い労働力への投資を続けられるのか?軍事装備を製造するには、高度な技能を持つ労働者の採用と定着に重点を置く必要がある。しかし戦争により、防衛産業に労働力を供給できたはずの若く健康な男性たちがウクライナで戦い、命を落としている。

残るのは肉体労働に耐えられない高齢労働者ばかりだ。戦争が終結し、新たな世代の労働者が軍事製造業務に向けて訓練され準備される必要がある。

ロシアはこれら全てのプログラムを維持するのに必要な資金を投資できないかもしれない。戦時需要を満たすには数兆ルーブルが必要だ。

「2023年に26.4%、2024年に31.6%急増した『金属加工製品』の生産は、8月に21.2%増加した後、9月には前年同月比1.6%減少した」とモスクワ・タイムズ紙は報じている

製造業の成長は全般的に鈍化しており、高額商品の納期遅延はさらに深刻化する可能性がある。

「ロシア科学アカデミー経済予測研究所の報告によれば、国内製品の約80%を生産する24の製造業サブセクターのうち18が現在、不況状態にある」とモスクワ・タイムズ紙も指摘した

ロシア政府は戦争資金調達のため、さらに高い財政赤字を計上せざるを得ず、防衛調達部門で資金不足が生じる可能性がある。

これはプーチンにとって全て悪い知らせだ。さらに、防衛産業にはソ連体制の名残がいまも残っている。指導者の意向を満たすため、生産ノルマが水増しされる可能性が高い。

PAK DA Stealth BomberPAK DAステルス爆撃機。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。

この状況は新たな生産技術の開発を阻害している。工場が全国に分散しているため、効率性と規模の経済で問題が生じている。

研究開発は、ロシアの防衛産業を2030年代に導く水準には達していない。ソ連時代の「まあまあで十分」という考え方が今も残っている。クレムリンは大学からのデュアルユース研究成果を促進する必要があるが、米国のような大学科学者が主導する技術生産拠点はほとんど存在しない。

ロシアには課題が山積している。戦争が終わりが見えないまま4年目に突入し、防衛産業従事者が旧式戦車や装甲兵員輸送車に注力する中、新型軍事装備の開発は遅れを取っている。サプライチェーンは課題であり、生産率は低下している。

防衛産業を支えるはずの若く意欲的な労働者は、前線に赴くか、戦死・負傷している。これによりロシアは労働者世代を喪失するだろう。

消耗戦が続く限り、制裁は緩和されず資金は不足する。防衛産業は息切れし、プーチンは自国の超兵器が戦局を変えるほど大量生産できるか疑問に思うだろう。

ロシアの兵器生産の回復には数年を要する。これはウクライナ、米国、NATOにとって好都合だ。彼らはプーチンへの圧力を維持し、ロシアの生産能力を弱体化させたいと考えている。■

著者について:ブレント・M・イーストウッド

ブレント・M・イーストウッド博士は、著書世界に背を向けないで:保守的な外交政策』および『人間、機械、データ:戦争の未来動向、その他2冊の著書がある。ブレントは、人工知能を用いて世界情勢を予測するテクノロジー企業の創設者兼最高経営責任者であった。米国上院議員ティム・スコットの立法フェローを務め、国防および外交政策問題について上院議員に助言を行った。アメリカン大学、ジョージ・ワシントン大学、ジョージ・メイソン大学で教鞭をとった。ブレントは元米国陸軍歩兵将校である。X @BMEastwoodでフォローできる。

The Russian Military Is In Crisis

By

Brent M. Eastwood

https://nationalsecurityjournal.org/the-russian-military-is-in-crisis/



2022年9月3日土曜日

ロシア経済は破綻に向かっているのか。実体はそこまで単純でないが、制裁等の影響がじわじわ効いてきたようだ。Foregin Affairs記事のご紹介

  

 

 

4月、ウクライナ侵攻を開始しわずか数週間後、プーチン大統領は、欧米がロシア経済を締め付けることはあり得ないと主張していた。米国や欧州の制裁措置でロシアを屈服させることはできなかったし、今後もできないだろう。プーチンは、「対ロシア政策は失敗したと、すでに自信を持って言える」と幹部に語った。「経済的な電撃作戦は失敗したのだ」。

ここまでふてぶてしい態度は、プーチンなどロシアの指導者によく見られる。しかし、戦争が始まり、制裁が発動されて6カ月が経過した今、多くのオブザーバーが、西側制裁が立案者が約束した厳しい効果をもたらしたかどうかを疑問視している。国際通貨基金(IMF)など国際的なオブザーバーは、ロシアのGDP予測を今年初めから上方修正した。制裁発動直後の当初予想と比べると、ロシアの巧みなテクノクラート的政策決定と、世界のエナジー市場逼迫による石油・ガス価格の高騰もあり、ロシア経済は予想以上に好調だ。

しかし、ロシア経済の好調さでは背景を考慮しなければならない。制裁数カ月でロシアを紛争から追い出すほどの痛みをもたらすと予想したオブザーバーや政策立案者はほとんどおらず、ロシアの戦争継続は驚きではない。しかし、ロシア経済は痛手を負ったままだ。2008年金融危機時より急な成長減速に見舞われており、危機後の回復の見込みはない。生活水準は社会的支出で支えられているが、その維持は難しく、来年度の政府予算について厳しい判断を迫られそうだ。プーチンはこれまで、国民に厳しい犠牲を強いる戦争ではなく、「特別軍事作戦」を戦うとロシア人に約束してきた。しかし、時間が経てば経つほど、戦争の犠牲と一般ロシア人への制裁の影響は大きくなる一方だ。

ロシアは我慢できるか

ロシア経済の健全性を確認するため、マクロ経済データから見てみよう。ロシアのGDPは昨年比で約5%縮小し、減少率は開戦以来、月を追うごとに高まっている。石油・ガス産業含む工業生産は、エナジー価格の高騰を反映し前年比2%程度の減少にとどまっているが、製造業は4.5%減少している。インフレ率は15%強で、3月にルーブルが暴落し、その後回復した後の18%近いピークから低下している。インフレ調整後の月給は、昨年比で約6%減少している。(ロシアの公式データに懐疑的な意見もあるが、国家統計局が大規模操作を行っている証拠はない)。

ロシアのインフレ統計は、製品の購入が時折困難になったり(iPhoneの場合)、ほとんど不可能になったりしている(レクサスの自動車の場合)現実を十分に捉えていないのかもしれない。同様に、インフレ率のデータも、品質低下の影響を定量化するのに苦労している。例えば、ロシア政府は、制裁措置によるサプライチェーン問題で生産が難しくなったエアバッグやアンチロックブレーキのない車の販売を認めるよう、規制を変更しようとしている。このような品質低下はインフレデータには現れないが、いずれ都市部の裕福なロシア人が入手困難の輸入品を求めるようになるだろう。

政府統計が捉えたインフレ率を考慮しても、賃金は昨年比で約6%減と、大幅下落傾向にある。高齢者の主な収入源の年金など社会福祉費は、開戦以来、インフレに侵食されてきた。政府は6月に年金支給額を8%以上引き上げ補填したが、今後数カ月間にこうした高額な社会支出の増額がなければ、一般的なロシア人の所得は下半期に減少することになる。小売売上高が10%近く減少しているのは、消費者が来るべき厳しい状況を見越して、貯蓄に走り始めていることを示唆している。

石油は流れ続けている

家計は生活水準低下の影響を受け始めたばかりだが、一部産業が大きな打撃をすでに受けている。原材料メーカーと製造業含む工業生産の集計データを見るより、各セクターを個別に分析する方がより深い見識が得られる。原材料部門はわずかな影響しか受けていないが、これは価格が高いことと、欧米の制裁でも石油含むほとんどの物資が自由に流通できることを考えれば、当然だ。

ロシア経済の回復力は、天然資源貿易に負うところが大きい。米国からの静かな外交支援を受けた英国とEUは、今年後半に発動されるはずだったロシアの石油輸出への制裁措置を弱めている。エナジー価格の高騰を防ぐため、西側諸国はロシアが中国やインドなど他の顧客に石油輸出を振り向けるのを阻止する取り組みから手を引いている。現在では、制裁措置の微調整で、欧州企業はロシア産石油を第三者に出荷することができる。

欧米諸国はロシアの石油・ガス輸出に対し制裁をほとんど実施しておらず、EUの石油輸入禁止措置も12月まで有効でないため、ロシアの石油輸出量は制裁発動以来、基本的に変化がない。制裁により、ロシアは世界の基準価格から1バレル20ドル程度のディスカウントで原油を販売せざるを得ない状況になっている。それでも、ロシア政府が発表した石油の税収入に関する最新の月次データによれば、ロシアは1月とほぼ同額の輸出収入を得ているようだ。対照的に、ロシアにとって石油輸出より重要度の低い天然ガスの輸出収入は、クレムリンがヨーロッパへの販売を制限しており低迷している

産業界の苦境

エナジー産業とは異なり、ロシアのその他産業部門は大きく打撃を受けている。影響が特に大きいのは、自動車、トラック、機関車、光ファイバーケーブルなどで、それぞれ生産が半減している。また、繊維や食品加工など、外資系企業や複雑なサプライチェーンの影響を受けにくい分野では、生産量が横ばいか、昨年より増えているものもある。

このような産業界の混乱の原因の一つに、ロシアに工場を持っていた日本、米国、欧州の企業が撤退したことがある。工場の一部は、ロシアの新オーナーシップの下で再開予定だが、単独操業は難しいかもしれない。また、製造業は必要資材の調達に苦労している。海外からの部品調達は、はるかに困難となり、正式な規制対象にない製品でさえ、入手、出荷、支払いが難しくなっている。モスクワの鉄道機器メーカー、トランスマッシュホールディングのCEOは、ロシアメディアで輸入部品の輸送と支払いが困難であることについて、「完全な封鎖に直面しているとは言えない」と述べた。「しかし、摩擦の増加に直面している」。

今後数カ月間の重要問題は、こうした産業界の混乱が激化するのか、収束するのか、ということだ。一方で、ロシアが半年近くかけ代替決済や物流網を整備したことで、無認可の重要輸入品が国内に届くようになる。しかしロシア企業は調査に対し、在庫を使い続けていると答えており、必要な部品を調達するのに苦労していることがうかがえる。月次データでは、ロシアの工業製品・部品の輸入は、戦前水準を大きく下回っている。

一般ロシア人への制裁の影響は、今後ますます大きくなっていくだろう。

ロシア産業界の運命は、いくつかの理由から重要である。特に、ウラルやシベリアのモノゴールドと呼ばれる、単一工場や産業に依存する町では、産業は重要な雇用源である。過去には、このような都市で解雇が行われると、大きな抗議行動や社会的混乱が起こり、政治的に不安定になることがあった。ロシアのシンクタンクによる直近の調査では、制裁によりモノゴールド半数が直接悪影響に直面している。ロシア政府は、財政が逼迫しているため、苦境にある産業の支援用の資金調達に苦慮している。

ロシア政府の財政は、クレムリンが戦費を隠すためと思われる支出に関する詳細公表を停止しているため、解析が難しくなっている。ロシアが詳細データを発表した最後の月となった4月には、国防費が前年比40%増だった。ウクライナ攻撃のための給与や運営費の増加に加え、クレムリンはウクライナの戦場で損傷したり破壊された膨大な装備品の再生産に、将来にわたりかなりの資源を割り当てる必要がある。戦費は中央政府のバランスシートだけでなく、義勇軍の増派を求められる地方政府にも膨らみつつある。

このような財政支出は、これから1年のインフレ圧力に拍車をかける。政府は以前ほど多くの収入を得ているわけではない。6月以降、世界の石油価格は緩やかに下落し、さらにロシアは石油を大幅に値引きして販売しなければならないため、石油税収は侵攻後数カ月間の好調さに比べ普通レベルに落ち込んでいる。石油以外の税収は劇的に減少している。インフレ率を調整すると、2022年の最初の7カ月間で、非石油収入は約15%減少し、今年中にさらに減少すると思われる。

その結果、現在の傾向が続けば、ロシアの予算は大幅赤字に傾く。今後、原油価格が上昇し、税収が増えれば、状況は一変する可能性がある。しかし、戦争が続き、生活水準が低下するままだと、財政支出への要求がなくなることはない。

財政赤字が拡大すれば、クレムリンは複雑な立場に立たされる。クレムリンはほぼ借金せずに戦争に突入したが、西側制裁により、外国人投資機関に債券を新規発行できない。ルーブルを対ドルで下落させれば、ロシア政府の支出はすべてルーブル建てのため、財政均衡の効果がある。しかし、ルーブル下落はインフレを促進し、その過程で生活水準を低下させ、制裁は効いておらず、ロシア経済は安定しているといのクレムリンの目論見を台無しにすることになるだろう。

コスト増がのしかかる

ロシア経済は安定しているとのクレムリンの主張は、ある意味で正しい。銀行は健全で、ほとんどの産業は通常通り操業中で、重要なエナジー部門は石油供給を続けている。高級車が不足しているとはいえ、店頭に食料は十分にある。自動車や洗濯機の生産は予想をはるかに下回るので、消費者はできることなら大きな買い物は先延ばしにするだろう。クレムリンにとって楽観的なシナリオは、ロシア人が我慢してやり過ごすことである。

とはいえ、戦争と制裁のコストは、たとえ最初のインパクトが西側諸国やロシアが懸念したほど劇的でなかったとしても、積み上がってくる。今のところ、ロシア指導層は、6カ月間の西側制裁を乗り切ったことに満足している。しかし、これからの1年、ロシア産業界は、欧米の輸入部品がない世界に適応するため苦闘し続けるだろう。原油価格が上昇しない限り、ロシア政府は社会支出の継続と財政赤字や高インフレの許容の間で、より厳しいトレードオフに直面することになる。ロシア経済は、クレムリンの戦争遂行を停止させるような形で崩壊することはないだろう。しかし、急激な景気後退、生活水準の低下が長く続き、急回復の見込みはほとんどない。■

Is Russia’s Economy on the Brink? Moscow’s Struggle to Sustain Its War in Ukraine

By Chris Miller

September 2, 2022