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2023年11月16日木曜日

核兵器だけではない。北朝鮮の保有する化学兵器、生物兵器も看過できない。

 アナリストは北朝鮮の核兵器の脅威に注目しているが、平壌の化学兵器や生物兵器も心配の種だ

 朝鮮のキム・ソン国連大使は米国が2023年を"極めて危険な年"にしていると非難した。

同大使は核衝突に関するソウルとワシントンの "継続的なヒステリー"は無謀であり、朝鮮半島の地政学的対立を引き起こしていると主張した。

平壌は国連会合で大げさな主張をすることがあるが、今回の大使発言は、隠者王国の挑発がエスカレートしている時期と重なっている。

北朝鮮の指導者金正恩(キム・ジョンウン)政権はここ数カ月、日本、韓国、そしてアメリカとの核戦争や武力衝突を予告している。平壌はまた、この地域でのミサイル発射のペースを上げており、敵対国を挑発する意思と能力を示している。

アナリストは北朝鮮の核兵器の脅威に主に注目しているが、平壌が保有する化学兵器や生物兵器も心配の種だ。

北朝鮮の大量破壊兵器についてわかっていること

北朝鮮は第二次世界大戦後、核開発計画のスタートを切るためソ連を頼った。ソ連が寧辺(ヨンビョン)核科学研究センターを建設し、1960年代半ばまでに完成させ、配当は得られた。

北朝鮮は1985年に核兵器不拡散条約に批准したが、2003年に正式に脱退した。それ以来、平壌は核実験を何度も行っている。

北朝鮮は化学兵器禁止条約にも加盟しておらず、攻撃的な生物・化学兵器プログラムを監督していると考えられている。

米軍韓国司令部の元情報分析官である著者のロバート・コリンズによれば、平壌は1960年代に生物兵器の研究を始めた。この頃、国防科学研究所の下に細菌兵器の研究組織が作られ、北朝鮮は炭疽菌、コレラ菌、ペスト菌を手に入れた。The Hillのインタビューでコリンズは、平壌のハッカーたちが韓国の化学工場を危険にさらしていると付け加えた: 「韓国の化学工場がどこにあり、爆発が起きたら現地でどれだけの被害が出るかを把握する目的で、韓国の化学事故対応情報システムにもハッキングしている」。

韓国国防省が発表した2018年白書では、北朝鮮が炭疽菌、天然痘、ペストを保有していることを概説している。アナリストたちは、北朝鮮が将来戦争になれば、ホスゲン、サリン、マスタード、V型化学剤などの備蓄を武器化すると考えている。専門家によれば、少なくとも12箇所の施設が化学剤開発を担っていると考えられている。 

IHSジェーンによると、2017年の平壌の生物兵器能力に関する分析では、以下の証拠が挙げられている:

-2015年6月17日、韓国国土整備部は報告書を発表し、北朝鮮は炭疽菌や天然痘を含む各種生物製剤を保有しており、10日以内にそれらを兵器化する能力を有していると述べた。報告書はまた、北朝鮮はまだ生物兵器を使用するための核弾頭を保有していないと述べた。

-2015年6月、北朝鮮は、エボラ出血熱、HIV、「多くの癌」、MERSを治療できる「クムダン-2」として知られるワクチンを製造したと発表した。クムダン-2は、『希土類元素』と『微量の金とプラチナ』から作られた肥料で栽培された高麗人参が原材料と伝えられている。ただし研究者の多くは、これらの主張に大きな疑問を抱いている。

-毒性神経剤VXによる2017年2月の金正男の死の余波で、韓国国防省は聯合ニュースを引用し、北朝鮮軍は連隊レベルの生化学兵器部隊を運用していると述べた。

平壌が核による威嚇を続けている中で、核・弾道ミサイル能力を詳細に分析することは重要である。しかし、化学兵器も重大な脅威であると考えておかねばらなない。■

North Korea's Chemical and Biological Weapons Are the Stuff of Nightmares - 19FortyFive

By

Maya Carlin


Maya Carlin, a Senior Editor for 19FortyFive, is an analyst with the Center for Security Policy and a former Anna Sobol Levy Fellow at IDC Herzliya in Israel. She has by-lines in many publications, including The National Interest, Jerusalem Post, and Times of Israel. You can follow her on Twitter: @MayaCarlin


2021年8月22日日曜日

核兵器だけじゃない。北朝鮮の化学兵器の脅威をもっと真剣にとらえるべき。本当に面倒な国になっている原因は目的のためには手段を問わないとする思考方法にあるのではないか。

 

NK News

 

朝鮮には5000トンもの化学兵器貯蔵量があり、有事に使用する可能性は高い。

北朝鮮の化学兵器は核兵器の影に隠れることが多くなっている。しかし、危険度は高いままだ。朝鮮人民軍(KPA)が劣勢になれば、化学兵器の投入が一層重要になる。北朝鮮が化学兵器を使用する可能性はほぼ確実で、群衆制御から致死性の高い神経ガスまでの使用が想定される。

 

化学兵器を前線で使えば、局地的戦術的な優位性を実現できる。また航空基地を攻撃すれば敵戦力を無力化できる。北朝鮮にはミサイルや火砲が豊富にあるので、遠隔地攻撃も可能だ。北朝鮮が化学兵器攻撃を非武装地帯からプサンまで南朝鮮全域を対象に展開する事態が発生しそうだ。

 

有事となれば、KPAの化学兵器脅威の除去は運搬手段が多数あることから不可能になる。

 

北朝鮮の化学兵器使用原則

 

北朝鮮は大量破壊兵器の定義を独自に解釈している。核兵器は戦略抑止力と位置付け、金王朝の存続を守るカギだ。北の核兵器は戦時シナリオでは投入想定がないようだ。使用すれば南朝鮮と米国が北朝鮮政権を崩壊させる動きに出るからだ。

 

これに対し化学兵器投入は実際に想定がある。北朝鮮軍は化学戦環境下での運用を日頃から訓練しており、化学防護装備や検知装置は国産調達している。その一部がシリアで発見されている。

 

化学兵器で期待される効果として、まず敵防衛体制の制圧があり、KPAは米韓連合軍に勝利を収めるつもりだ。化学防護服を着用すれば兵員の動きは鈍くなり、防衛体制は分散して化学兵器の効果を最小化しようとする。北朝鮮は化学兵器を初期段階で投入して、戦闘の行方を有利に進めようとするだろう。戦闘が続けば、不確実性が高まり、化学兵器の投入効果は減るどころか逆効果にもなりかねない。

 

北朝鮮が保有する化学兵器の種類

 

北朝鮮は広範な種類の化学物質をそろえており、任務に応じて選択するものと思われる。化学兵器の効果は一時的な無力化から致死性までそれぞれだ。

 

南朝鮮国防部の2012年推定では北朝鮮は2,500トンないし5,000トンの化学兵器を保有しているとある。年間生産は平時で4,500トン、戦時で12,000トンとの推定だ。

 

北朝鮮の化学兵器は五種類に分類される。騒擾対策、窒息性、血液剤、水疱性、神経性だ。このうち、騒擾対策用にはアダムサイト(DM)、CN、CSの各ガスがある。こうしたガスは「催涙」ガスの特徴があり、群衆を解散させるものの健康な成人なら致死性はない。

 

これと別に窒息性ガスがあるといわれ、呼吸系に悪影響を与える効果がある。吸気が短時間でも病院治療が必要となる。より長く吸気すれば死に至る。KPAは塩素ガス、ホスゲンガスを使用するとみられる。

 

血液剤には水酸化シアンや塩化シアンがある。

 

北朝鮮にはマスタードガスもあり、皮膚に作用し水疱を発生するほか、眼球や鼻などの粘膜も悪影響を受ける。

 

さらに北朝鮮には高度の致死性がある神経ガスもあるといわれ、窒息を起こす。サリン、ソマン、タブン、VM、VXがある。

 

運搬手段

 

北朝鮮にはこうした化学兵器の運搬手段が長距離ミサイルから特殊部隊まで多数ある。南朝鮮以遠も攻撃可能で、理論上はロシアや中国の国境地帯も含まれる。

 

重要なのは戦場使用なら比較的短距離運用で事が足りることだ。朝鮮半島は朝鮮中国国境から南端まで500マイルに満たない。ピョンヤンからDMZまで100マイル、ソウルからDMZも120マイルだ。

 

ロケットやミサイルが北朝鮮が化学兵器投入にまず利用される手段となる。米国防総省の2014年推計では北朝鮮の短距離ミサイル発射装備は100基未満で、そのうちToksa/KN-02は射程75マイルで、スカッドミサイルも最大射程は185マイルから625マイル程度だ。こうした装備品は国境付近に配備する必要がある。

 

だがノドンミサイルは射程800マイルで南朝鮮からさらに日本も標的に収める。

 

野砲も化学兵器発射に利用できる。北朝鮮にはロケット発射機5,100門、自走砲4,400門があるとの推定がある。ロケット砲は122ミリ以上、野砲は152ミリ以上あれば化学砲弾を運用できる。

 

北朝鮮人民空軍は化学兵器運用能力を有するが、機材が老朽化し信頼性が低下しており、南朝鮮の防空網を突破できる可能性は低い。とはいえ、Su-7BMK「フィッター」18機、Su-25「フロッグフット」32機に化学兵器搭載が可能だ。

 

北朝鮮の大規模な特殊部隊には有事に重要な任務が想定されており、化学兵器の運用もある程度行われるだろう。潜入訓練を受けており、化学兵器使用で混乱が生まれそうだ。

 

北朝鮮は探知されずに化学兵器を分散するべく潜水艦や無人機を利用するだろう。さらに未発見トンネルも使い南朝鮮の背後に化学攻撃をしかける想定もある。

 

標的はどこか

 

北朝鮮が化学兵器使用をいとわない理由としてハイテク装備の他国との関係を変えることがある。最重要標的は国境を挟み展開する南朝鮮軍部隊で、地上攻勢支援として化学兵器を投入し突破口を開き、ソウル攻略からその先も狙う。

 

航空基地も攻撃対象で、一時的にせよ航空活動を止めれば、米韓両軍の航空戦力の優位性を無効にできる。テグ航空基地がROK空軍のF-15K戦闘爆撃機の拠点となっており、米軍のクンサン、オサン両基地も北朝鮮ミサイル攻撃の対象になりそうだ。

 

プサンはじめ港湾も攻撃対象で米国の援軍部隊が到着する地点となる。ROK陸軍の補給処を攻撃すれば前線への追加部隊を遅らせる効果が生まれる。

 

北朝鮮特殊部隊が民間を標的にする可能性がある。政治家、重要インフラ他高価値の民間標的が狙われればパニックとなり、政府への信頼も下がる。東京で1995年に発生したサリンガス襲撃事件でも一般市民の士気が下がり、パニックが生まれた。いったんパニックに陥ると市民は厄介な問題となる。道路交通をふさぎ、戦闘から逃避するだろう。

 

さらに朝鮮半島外に展開する米軍施設も化学攻撃の標的になりうる。嘉手納航空基地、三沢航空基地や横田航空基地は日本から米航空戦力を支える重要拠点だ。さらに横須賀基地、厚木基地、佐世保基地も米海軍の重要施設だ。グアムには潜水艦部隊、爆撃機部隊があり、北朝鮮のテポドン長距離ミサイルの射程に入る。

 

結論

 

北朝鮮は化学兵器を本当に使用するだろうか。同国の通常兵力の劣化からガス兵器投入の必要度が高まる。KPAには戦場の行方を左右する決定的な兵器が少なく、まして単独で投入する手段は少ない。

 

これまでは化学兵器を投入すれば米韓両国から「大量報復」を招くだけと思われてきた。だが、米韓連合軍がKPA撃滅を目指し核兵器除くあらゆる手段を投入してくるはずだ。北朝鮮の視点ではこの状況なら化学兵器使用に政治的な障害はなくなるとみるはずだ。

 

シリア国内での化学兵器使用に西側がうまく対応できていないことからガス兵器の「レッドライン」警告の空虚さを露呈してしまった。シリア住民への化学攻撃と米軍部隊への攻撃はまったくちがうが、はっきりしているのは化学兵器使用のタブーが消えたことだ。

 

北朝鮮の化学兵器の脅威は現実のもので戦時に使用される可能性は高い。有事となれば米韓連合軍の最適戦略は北朝鮮の指揮命令系統を寸断したのちに攻勢をかけることだろう。北朝鮮参謀部が命令を下すのも正確な情報も受け取れなくなれば、化学攻撃の立案も困難になる。国連軍が迅速な行動を取れば、移動速度の低い火砲部隊、ミサイル部隊は絶好の標的となる。

 

北朝鮮の化学兵器の脅威を緩和するのに最大の効果を発揮する手段は撤去交渉だろう。化学兵器すべてといわず大部分の廃棄で説得が成功すれば、有事の民間人、兵員への脅威が減る。さらに朝鮮半島内外にも広がる。だが歴代の米政権は関心を払ってこなかった。北朝鮮から化学兵器が消える日を世界が本当に期待するなら、社交性欠如の同国と協議を今すぐにでも開始すべきだ。■

 

 

Its Not Just Nuclear: North Korea Also Has 5,000 Tons of Chemical Weapons

by Kyle Mizokami

August 21, 2021  Topic: North Korea  Region: East Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyNorth KoreaNuclear WeaponsChemical Weapons

Its Not Just Nuclear: North Korea Also Has 5,000 Tons of Chemical Weapons

 

Kyle Mizokami is a writer based in San Francisco who has appeared in The Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and The Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.

This was originally published in March 2015. 


2018年3月4日日曜日

この時期に米政府が北朝鮮が化学兵器を使用したと判定したことの意味

シリアをからめた北朝鮮へのさらなる制裁につながるのか、意外な展開になるのか、この時期に米政府があえて発表することに意味がありそうです。大嘘をついているのは北朝鮮のようですね。

US determines North Korea used chemical weapons 米政府が北朝鮮による化学兵器使用を判定

 Matthew Pennington, Associated Press
  • 北朝鮮が化学兵器使用したと米国務省が判定。
  • 国務省はその根拠を語らないが、以前のVX神経ガス攻撃が関連している可能性がある。
  • 北朝鮮は金正恩の異母兄弟金正男を神経ガスで殺害した疑いがある。




国は北朝鮮が化学兵器を使用したと判定した。金正恩の異母兄弟を殺害した事件が念頭にあるのはあきらか。
国務省は発表を3月2日に行ったが、その根拠は示していない。ただし、金正男がマレーシア国際空港で殺害されほぼ一年が経過し、関係当局はVX神経ガスが使われていたと述べている。
この判定は同省国際安全保障非拡散局が行い、米対外援助や金融、軍事上の援助で北朝鮮をさらに厳しい制裁対象にするものだ。
発表は官報に掲載され3月5日より施行される。
レックス・ティラーソン国務長官は以前から平壌が化学兵器を使用したと述べており、1月には報道記者に「北朝鮮が使用したことは把握している」と語っていた。
ペンタゴンによれば北朝鮮はこれまで長きにわたり化学兵器整備に乗り出しており、神経麻痺、発疱剤、出血効果、窒息を引き起こす各化学製品を製造する能力があり、砲兵隊や弾道ミサイルが運用できるという。
金正男がクアラルンプール空港で死亡した2017年2月13日事件について専門家は北朝鮮が化学兵器を使用したと確認している。脱北者によれば化学製品が服役者、障害者に使われているという。
北朝鮮は化学戦の防護装備や運用技術をシリアやリビアに提供してきたといわれ、国連専門部会が発表する報告書では北朝鮮向け制裁措置が題材だが2016年8月に北朝鮮が特別抵抗弁や温度計を供与したことが分かっており、シリアでの化学兵器開発に使用されている。
北朝鮮技術陣は内戦で荒廃したシリアで化学兵器やミサイル製造に引き続き従事しているとの報告書をAPは入手した。
米国含む西側各国あhシリアが化学兵器を反乱勢力の支配地区に投入したと非難するがシリア政府は否定している。
朝鮮は3月1日にシリアに協力して化学兵器製造にあたっている事実はないと国連代表部が北朝鮮外務省見解として伝え、「化学兵器の開発、製造、貯蔵の実績はない」と述べている。■
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Associated Press writer Matthew Lee in Washington and Edith W. Lederer at the United Nations contributed to this report.

2017年8月15日火曜日

北朝鮮の化学兵器は現実の脅威、しかも戦闘投入の可能性が高い


核兵器は使えない兵器になるとしても化学兵器は先手必勝で投入の敷居が低いようです。日本もこの脅威に立たされているのですね。北朝鮮が化学兵器放棄の交渉に応じるとは思えないのですが、筋道としては当然なのかもしれません。確かに核兵器には関心が集まっても北朝鮮の化学兵器には不思議なほど世間は無知ですね。ここまでのさばらせてしまった責任を誰がとるのか。これから考えるべき課題ですよね。

 


Everything You Need to Know: North Korea's Chemical Weapons Are No Joke
北朝鮮の化学兵器備蓄は本当の脅威だ

August 10, 2017

  1. ここ数年は北朝鮮化学兵器は核兵器の陰に隠れている観がある。ただし危険がなくなったわけではない。朝鮮人民軍(KPA)は化学兵器投入は勝利の条件と強く認識している。北朝鮮が化学兵器を使用するのはほぼ確実であり、騒擾鎮圧から致死性神経ガスまで多様な使用をするだろう。
  2. 化学兵器は戦線で局地的な戦術優勢を生み、敵の航空兵力優位性を中和する効果を生む。北朝鮮が大量保有するミサイルや火砲で化学兵器を戦線をはるか超えた地点に発射できる。韓国にむけ非武装ラインから釜山まで広範囲に化学兵器を打ち込むだろう。
  3. KPAには運搬手段が多数あり開戦となればすべての制圧は不可能だろう。
北朝鮮は化学兵器をどう使うのか
  1. 北朝鮮は大量破壊兵器の分類を説明している。核兵器は戦略抑止力として金王朝の存続のためという位置づけだ。核兵器を有事に投入するシナリオは北にはない。使用すれば韓国、米国が北朝鮮体制を転覆する動きにでるためだ。
  2. その反面、化学兵器は作戦投入を想定している。北朝鮮軍は化学兵器環境での作戦を日常から訓練しており、防護装備や探知機を備えている。一部がシリアに送られている。
  3. 化学兵器は各種使うはずだが、主目標は敵防衛体制の制圧でKPAが米韓軍の突破を狙う。化学防護装備を身に着けると兵員の動きは制約され化学攻撃の効果を下げようと防衛体制は分散される。
  4. 戦場で何が起こってもおかしくなく、化学兵器の場合は特に予測困難だが北朝鮮の投入開戦直後のはずだ。戦況が不透明になれば化学兵器の投入効果は減り、逆効果を生むかもしれないからだ。
どんな化学兵器を使うのか
  1. 化学兵器で北朝鮮には選択が多数ある。また任務に応じ選択し一時的なマヒから死亡まで調整可能だ。
  2. 韓国国防省の2012年推計では北朝鮮の化学兵器備蓄は2,500トンから5,000トンの間で年間生産量は平時に4,500トンで戦時には12,000トンに上る。
  3. 北朝鮮の化学兵器は騒擾鎮圧、呼吸停止、出血、水泡、神経作用と用途別に分類している。このうち暴動鎮圧用にアダムサイト(DM)、CN、CSの各ガスや催涙ガスで群衆を解散させるが通常は生命の危険は発生しない。
  4. また呼吸器系に作用するガスも北朝鮮は保有していると思われる。ガスに短時間触れただけなら入院ですむが長く触れると死に至る。KPAは塩素ガス、ホスゲンガス双方を備蓄している。
  5. 血液に悪作用を起こすシアン化水素や塩化シアンも準備している。
  6. その他マスタードガスは皮膚を刺激し眼球や鼻腔内に粘液を分泌させる。
  7. さらに致死性の高い神経ガスがあり、神経系統の機能を損なうものとしてサリン、ソマン、タブン、VM、VXの各化学品を貯蔵している。
運搬手段
  1. 北朝鮮には多様な化学兵器運搬手段があり、長距離ミサイルから決死隊まで選べる。平壌の攻撃範囲は韓国にとどまらず中露国境まで広がる。
  2. ここで問題になるのが距離だ。朝鮮半島は短く中国国境から韓国南端までは500マイル未満しかない。平壌から非武装地帯までが100マイル、ソウルまではわずか120マイルしかない。
  3. ロケットやミサイルで北朝鮮は遠距離まで化学兵器を投入できる。米国防総省は2014年の推計では短距離ミサイル発射装置は100基未満とし、トクサ/KN-02ヴァイパー(ロシアSS-21スカラブ派生型)が射程75マイル、スカッドが最大185マイルから625マイルとする。ともに国境付近に配備されている。
  4. またノドンミサイルの発射台が50基ほどあり、スカッドをもとに開発したノドンは800マイル飛翔し、韓国や日本を北朝鮮内陸部から狙う。
  5. 砲兵隊が圧倒的に多く、多連装ロケット弾発射機5,100門、その他火砲が4,400門ある。ロケットでは122ミリ以上、火砲では152ミリ以上あると化学砲弾を運用できる。北朝鮮砲兵隊の多くは化学攻撃の能力がある。
  6. 北朝鮮人民空軍も化学攻撃能力があるが、機材が老朽化しており、韓国防空網の突破はほぼ不可能とみられる。通常戦で出動を求められることが多いだろう。とはいえSu-7BMK「フィッター」18機とSu-25「フロッグフット」32機に化学攻撃弾を搭載するだろう。
  7. 大規模な北朝鮮特殊部隊は確実に化学兵器を運用するはずだ。敵潜入訓練を受けており化学兵器投入後の混乱に乗じるだろう。
  8. 北朝鮮は化学兵器を隠匿するだろう。化学剤は潜水艦や無人機でも運び、地下トンネルも使い化学攻撃を韓国国内で展開するかもしれない。
どこが標的か
  1. 北朝鮮の狙いはハイテク兵器を運用する他国軍の動きを化学兵器で鈍らせることだ。なかでも韓国軍がまず標的になる。地上攻勢の突破口を開きソウルさらにその先への進軍をめざすはずだ。
  2. 化学攻撃の標的には空軍基地が選ばれるはずで基地機能を奪い、米韓軍の空軍力の優位性を奪おうとするはずだ。大邱航空基地は韓国空軍F-15K戦闘爆撃機の本拠地であり、米空軍はオサン、クンサン両基地を多用するがともに北朝鮮ミサイルの標的になる。
  3. 米増援部隊が到着する釜山など韓国の港湾各地も攻撃の標的になる。韓国軍予備役の拠点も化学攻撃を受ければ人員増派が困難になる。
  4. 北朝鮮特殊部隊は民間人相手にも化学兵器を使うはずだ。政治家を襲撃し、インフラ等価値が高い民間標的を狙えば社会はパニックになり政府への信頼も揺らぐ。1995年の東京サリンガス襲撃事件と似た事件が発生すれば、民間の士気が下がり社会が混乱する。パニックになった社会で深刻な問題が発生する。民間人が道路にあふれ脱出しようとするはずだ。
  5. さらに韓国国外の米軍施設も化学攻撃を受けるだろう。嘉手納空軍基地、三沢空軍基地、横田空軍基地が朝鮮半島の航空作戦の本拠地となるが(攻撃兵器を保有していないので日本攻撃で心配する要素は皆無に近い)化学攻撃の標的になる。さらに横須賀、厚木、佐世保に駐留する米海軍も標的となり、グアムの潜水艦基地、爆撃機基地も北朝鮮の長距離ミサイルの射程内に入っている。
結論
  1. 北朝鮮が化学兵器を投入する可能性は本当にあるのだろうか。北朝鮮通常兵力の敗色が濃くなればガス使用を必要と感じるだろう。KPAには戦場での勝利を確実にする手段は少なく、化学兵器を投入しても一気に戦況は好転しない。
  2. 化学兵器を投入すれば米韓両軍の「大量報復攻撃」が即座に実施される。米韓両国は核兵器以外の投入可能なすべての手段でKPA侵攻部隊の動きを封じようとするはずだ。北朝鮮の視点から見れば核兵器がでてこないのであれば化学兵器投入を政治的に恐れる必要はなくなる。
  3. シリアでの化学兵器使用に西側世界がしっかり対応しなかったことで「レッドライン」やガス使用への対応は空虚であると判明してしまった。シリア国民へのガス攻撃と米軍隊員へのガス攻撃では大きな違いがあるが化学兵器使用のタブーが消えていることは明らかだ。
  4. 北朝鮮の化学攻撃の脅威は現実であり、戦時に投入の可能性は高い。開戦となれば米韓連合軍は北朝鮮の指揮命令系統機能を低下させながら攻勢をかけないと化学兵器の影響を下げられない。北朝鮮軍令部が正しい情報を受け取れなければ命令を出せず化学攻撃の実施が困難になる。国連軍が迅速に攻勢をかければ鈍足の砲兵ミサイル部隊を捕捉できるはずだ。
  5. 北朝鮮の化学攻撃の脅威を緩和する最善の方法は時間をかけて化学兵器放棄を交渉することだろう。北朝鮮の化学兵器の放棄を説得できれば朝鮮半島や海外で被害が減るはずだ。このため米オバマ政権は全く関心を払ってこなかった北朝鮮への対話が必要で。世界が北朝鮮に化学兵器放棄を望むのであれば対話機会を作る必要がある。
Kyle Mizokami is a writer based in San Francisco who has appeared in The Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and The Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
This first appeared in 2015 and is being reprinted due to reader interest.
Image: Reuters.