ラベル 爆撃機 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 爆撃機 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年9月30日火曜日

爆撃機の新時代が到来(Air & Space Forces Magazine)―米空軍はB-21、B-52の二機種を今後運用する予定で、とりわけB-21の調達数がどこまで増えるかが注目されます。B-1はアフガニスタンで機体寿命を消費してしまいました。

 


6月に米国がイランの核開発施設を攻撃した際、130機以上の戦闘機が重要な支援役割を果たした。

しかし、作戦の中核は間違いなく米本土から直行した7機のB-2ステルス爆撃機だった。各機は深く埋設され強化された目標を貫通するよう設計された巨大な通常爆弾を2発ずつ投下した。この任務は、爆撃機が再び米空軍力の運用において中心的な役割を担い始めており、爆撃機と短距離システム間のバランス転換が遅れている可能性がある。

爆撃機の重要性が再燃する兆候は、その他動向にも表れている:

  • 戦闘指揮官(COCOM)は、自軍管区内での爆撃機の存在感強化と爆撃機任務部隊(BTF)の展開を要求している。これは旗を掲げて存在を示すこと、同盟国・パートナーを安心させること、空軍の柔軟性を示すこと、攻撃を実施することが目的

  • 議会は新型B-21爆撃機の生産能力増強に資金を拠出。

  • コスト超過にもかかわらず、空軍と議会はB-52の大規模改修と寿命延長に引き続き取り組んでいる

  • グローバル・ストライク・コマンド(GSC)は、増大する任務(爆撃機増強を含む)に対応するため、最終兵力を増強中

  • 需要に対応するため、退役ずみ爆撃機が再配備

2024年初頭以降、「少なくとも過去5~10年間で最も活発な活動と爆撃機への需要信号を目撃している」と、空軍グローバルストライク司令官トーマス・ビュシエール大将 Gen. Thomas Bussiereは7月のインタビューで述べた。ビュシエール将軍は次期空軍副参謀長候補に指名されている。

同将軍は「爆撃機への需要は揺るぎない」と強調した。

長距離攻撃の価値と重要性、そして「地球上のあらゆる目標を我々が選択した時と場所で脅威下に置く能力」に対する認識が高まっているとブシエール大将は主張した。

需要に対応するため、B-21の増産を検討すべきだと同大将は述べた。その理由は「老朽化した爆撃機の代替が急務であること、旧式爆撃機部隊の維持コストと課題が増大していること」に加え、「率直に言って、誰もが『長距離攻撃能力は減らすべきではなく増やすべきだ』と認識する世界情勢」にある。

AFA ミッチェル航空宇宙研究所の将来航空宇宙構想・能力評価担当ディレクター、マーク・ガンジンガーは、「平時における抑止力(爆撃機機動部隊を含む)と、戦時における長距離攻撃の需要は、現在の戦力の能力をはるかに上回っている」と述べた。

「今保有しているのは、作戦規模ではなく襲撃規模の爆撃機部隊だ」とガンジンガーは述べ、「予算削減による退役が続いているにもかかわらず、この需要は増大している」と付け加えた。

空軍は現在、3 種類の爆撃機 140 機を配備している。冷戦が終わる直前の 1990 年に空軍の爆撃機部隊は 500 機以上を数えていた。

第 8 空軍司令官のジェイソン・アーマゴスト少将は、爆撃部隊は単発の空襲のみを実行する構造にできないと述べている。

「単発の攻撃で十分だとは決して考えられません」と、彼は 8 月にミッチェル研究所のウェビナーで述べていた。

イラン作戦(ミッドナイト・ハンマー作戦)の後、空軍は「次に直面する問題に備える」必要があると彼は述べたが、同等の作戦のために即座に再編成を行うことは容易ではなかった。攻撃の「約 30 時間後に」停戦が成立しなかった場合、空軍は同規模の追撃作戦を展開できなかったかもしれない。「そのような作戦の後、敵対行為がすぐに終結するとは限らない」と彼は指摘した。

ミッドナイト・ハンマー作戦は、「空軍力の基本原則、すなわち、規模が重要で、能力が重要であり、何かを行う能力は、何もないところから革新されるものではない」という原則への回帰を示していると、アーマゴスト少将は述べた。

長距離攻撃能力の不足は、脅威ではなく予算削減が原因だと彼は述べた。「爆撃機部門では、効率化を追求した数十年にわたる戦力削減の『結果の宴』に直面している」とアルマゴストは指摘する。これが「特に過去2年間」の需要急増と衝突しているのだ。

需要増加の兆候

ビュシエール大将によれば、過去18ヶ月間で爆撃機任務部隊は世界中で48回展開された。2018年以降、空軍はオーストラリア、韓国、スウェーデンなど遠隔地へも爆撃機をペアや小規模グループで派遣している。こうした短期間の緊急展開は、爆撃機が迅速に(そして通常は予期せぬ形で)現地部隊と連携し、新たな拠点へ移動する能力を浮き彫りにしている。単一の展開で複数の統合軍司令部(COCOM)管轄区域を横断することもある。

ビュシエール大将が言及した任務には、B-1、B-2、B-52の全運用機種が関与した「8件の事前通知なしの緊急出動」が含まれる。その内訳は、爆撃機が「自国に代わって破壊活動を行う」ために出撃した6件を含む。大半はアラビア半島周辺の船舶・航空機を標的とするイエメンのフーシ派攻撃に関連していた。しかし他のBTF(爆撃機任務部隊)は南シナ海、朝鮮半島非武装地帯付近の空域、欧州全域といった紛争地域へも展開している。

グローバルストライクコマンド(GSC)は今年、イエメンのフーシ派に対する作戦とイランへの「メッセージ発信」を目的に、6機のB-2ステルス爆撃機を数か月間ディエゴ・ガルシアに展開した。ビュシエール司令官は、これがステルス機として史上最長かつ最大規模の展開の一つであったことを認めた。

爆撃機は敵味方双方に「極めて明確かつ独特なメッセージ」を発信するとビュシエールは述べた。これは戦闘機1個飛行隊でも達成できない効果だ。爆撃機は通常兵器・核兵器による大量破壊能力を象徴し、その動きは注目される。同盟国やパートナー国は「我々の爆撃部隊との訓練や統合を好む」と語った。

需要増に対応するため、GSCには人員増強が必要だとビュシエールは述べた。2030年までに最終兵力を15%増強する計画だが、一部はセンチネルミサイルや飛行指揮所といった新システム導入に充てられる。

近年、B-1B部隊は何度か削減されてきた。そのほとんどは、アフガニスタンおよび対ISIS 作戦における長距離飛行任務によるもので、この任務は、想定外の方法で機体に負担をかけ、整備上の課題を生み出した。しかし、同機は依然として非常に高性能であり、B-2 や B-52 より搭載量が大きい。

フリートの能力を維持するため、近年、アリゾナ州デイヴィス・モンサン空軍基地の「ボーンヤード」から 2 機の B-1B が再生され、事故で失われた航空機(2022 年 4 月の火災で 1 機、2024 年 1 月の墜落事故で 1 機)の代替として使用されている。

「ボーンヤードには、必要に応じて引き出すことができる機体がまだ数機残っています」と、ビュシエール大将は述べている。2021 年、B-1 フリーとは 62 機から 45 機に削減された。退役したのは、最も問題が発生しやすい機体だった。退役による節約分は、B-21が導入されるまで残る機体を良好な状態に維持する予備部品や整備要員に充てられている。

B-52(最新機は1962年製造)は大規模改修によりB-52HからB-52J仕様へ転換される。これには燃料効率と信頼性を向上させたエンジン交換(150億ドル規模)、レーダーのアップグレード(34億ドル)、その他構造・通信・ネットワークの改良が含まれる。レーダー改修費の超過にもかかわらず、議会はこれを支持しているが、空軍により厳格な監督と確固たるスケジュールを求めている。

B-21の登場を待て

B-21レイダーは今後数年間で戦力に編入され、戦略爆撃機司令部(GSC)はB-1、B-2、B-21、B-52の4機種を運用する移行期間を経て、最終的にB-1とB-52の2機種に縮小される。

ビュシエール大将によれば、2機目のB-21が近く試験部隊に配備されるが、新型爆撃機の初期作戦能力達成条件は機密扱いだ。ただしB-1とB-2は、B-21が実戦配備前の2031~2032年頃に退役する見込みである。

今予算年度、議会はB-21の生産能力加速・拡大に45億ドルの支出を承認したが、調達目標数の具体的な増加計画は明示されていない。空軍は2018年以降、調達数は「少なくとも100機」と表明している。実際の生産ペースは機密扱いだが、年間約7機と推定される。これは2015年の計画開始時に予算削減から守るため意図的に低く設定された数値だ。

生産拡大に向けた議会の動きは「驚きではない」とビュシエール大将は述べた。「我々は1年余りにわたりこの件を検討してきた。生産ペースを上げるための能力、キャパシティ、コストについて深い理解を得ている」。

ビュシエール大将は空軍が145機のB-21購入を検討すべきと考えているが、「少なくとも100機」が公式目標のままである。同大将は5月に上院軍事委員会で証言し、この目標が2010年代半ばに設定されて以来、戦略環境が変化していると指摘した:中国は爆撃機の一部に対空発射型ICBMを配備し数百基のサイロを建設、ロシアはウクライナに侵攻、 北朝鮮は核兵器を強化した。

米戦略軍司令官のアンソニー・コットン大将は145機がより適切な数だと主張しており、ビュシエールも検討すべきだと同意している。75機のB-52と合わせれば、2030年代半ばまでに空軍の爆撃機部隊は現在の140機から220機となる。

ビュシエール大将は「B-21の生産ペースを『急勾配』にすれば、空軍は爆撃機部隊の近代化を迅速に進められる」と述べた。同氏は、B-21が予算削減の標的になることはないと考えている。プログラムは順調に進んでおり、その進捗に「非常に満足している」からだ。

ガンジンガーは「中国による侵略の可能性が最も高まる可能性があるこの10年間に、より多くのB-21を導入することで抑止力の再構築に貢献できる」と述べ、「国防総省と議会はB-21の調達加速の価値を理解し始めていると思う」と付け加えた。

また、長距離攻撃能力は「我が軍の最大の弱点の一つで、陸軍・海軍・海兵隊の攻撃システムでは補えない」と指摘。陸軍と海軍が開発中の長距離極超音速システムは1発あたり4000万ドル以上かかるのに対し、爆撃機から投下される衛星誘導爆弾は5万ドル以下だと説明した。

「これは単純な計算です」とガンジンガーは述べた。爆撃機は「効果あたりのコストの観点」から見て経済的な手段だ。

旧式機を維持

ミッチェル研究所が間もなく発表する論文「戦略的攻撃:空軍の聖域拒否能力の維持」で、ガンジンガーと共著者ヘザー・ペニーは、「少なくとも 2035 年までは、残存する B-2 および B-1 をすべて軍に維持し、B-21を加速的に購入することは非常に理にかなっている」と主張している。そうすることで、B-21に関する「予期せぬ問題」に対するヘッジにもなるという。

論文で両著者は、空軍には、他の部隊や米国の同盟国が依存する「聖域拒否能力を再構築する、一世代に一度のチャンス」があると主張している。

太平洋での戦争で勝利するには、米国は中国本土のミサイル発射基地を攻撃できる能力が必須だと彼らは記す。B-21やその他の第6世代機のみが「長距離にわたる激しい戦闘環境を突破し、中国軍に安全地帯を与えない」ことが可能だとする。

著者らは、自らの分析及び他者の分析から、中国を抑止するには300機の爆撃機部隊が必要だと結論付けた。この規模であれば、戦時中に信頼性のある長距離攻撃作戦を継続的に実施できるだけでなく、中国が米軍に対して大規模なミサイル集中攻撃を仕掛ける前に、その多数のミサイル発射装置を攻撃できる。ガンジンガーとペニーは議会に対し、中国との紛争で敗北するリスクを低減するため、「少なくとも200機の浸透型B-21を可能な限り迅速に」購入する資源を空軍に提供するよう要請している。

著者らは「2030年代にB-21が100機を超えて完全運用可能となるまで」B-2を保有すべきだと述べる。B-2は「高密度な防空網を突破し、移動式・固定式・堅牢化/深部埋設目標といった最も困難な標的を攻撃できる」現存唯一のステルス爆撃機だと指摘。B-2を「時期尚早に」退役させれば、紛争初期段階で中国人民解放軍(PLA)や他軍が米軍を撃破または「大幅に機能低下させる」リスクが高まると警告した。

また空軍に対し、「効果当たりのコスト分析」を実施し、「長距離浸透型とスタンドオフ型戦闘機・兵装の均衡ある組み合わせ」を確立するよう促している。この分析では「対等な相手との紛争で必要とされる規模において、長距離キルチェーンが回復力と有効性を維持するために必要なシステム・オブ・システムズ全体」を考慮すべきだとする。

この潜在的な再均衡化は、2年以上前にフランク・ケンドール前空軍長官が提起していた。2023年5月、ケンドールは上院軍事委員会で「将来の空軍が現在の姿と大きく異なる可能性がある」と述べ、「短距離戦術航空能力と爆撃機が提供する長距離攻撃能力のバランスが変化する」との見解を示した。

今年1月、ケンドールは『エア・アンド・スペース・フォース・マガジン』のインタビューでこの点を強調した。同氏は「現在、長距離と短距離の投資バランスがやや崩れている」と指摘し、短距離機は爆撃機と異なり、脆弱な前方基地や給油機を必要とするためだと説明した。

ノースロップ・グラマンがB-21の生産ペースを上げるには時間を要するが、「爆撃機部隊の柔軟性」を考慮すれば、その検討は「十分に価値がある」とケンドールは述べた。■


Strategy & Policy: A New Bomber Era Arrives

By John A. Tirpak

Sept. 12, 2025

https://www.airandspaceforces.com/article/strategy-policy-a-new-bomber-era-arrives/




2016年5月27日金曜日

ペンタゴン報告書から中国の核戦力整備の最新状況を読み取る


アメリカ科学者連盟と言いながらしっかりとした情報分析をしているのはさすがです。中国の核関連では進んでいるようで進んでいない開発配備状況が見えてきますが、引き続き日本としても状況を注視していく必要があるでしょうね。ミサイルの中には日本に照準を合わせているものがあるはずですから。

Pentagon Report And Chinese Nuclear Forces

By Hans M. Kristensen
Posted on May.18, 2016 in China, Nuclear Weapons by Hans M. Kristensen

china-DOD2016
ペンタゴン発表の中国軍事開発状況の報告書最新版は通常兵器を多く取り上げているが、核兵力の最新状況でも重要な内容が含まれている。
  • ICBM配備数はこの五年間ほぼ同じ
  • 新型中距離弾道ミサイルの供用を開始した
  • 新型中間距離弾道ミサイルは未配備のまま
  • SSBN部隊が抑止力任務をまもなく開始する
  • 爆撃機の核運用能力の可能性
  • 中国の核政策の変更あるいは現状維持

ICBM開発の動向
中国のICBM部隊の整備状況が関心を集めている。新規開発もあるが、今回のDOD報告書ではICBM配備数はこの五年間に伝えられたものと同じ水準で60発程度とする。DF-31の配備は停滞しており、データからDF-31Aの導入も20から30基と少数と見られる。
china-icbms-gr

2012年度報告では2015年までに「中国はさらに道路移動型DF-31A発射台を配備する」としていたが、その通りに推移していないようだ。
china-icbm-nos
DOD報告が伝えるICBM発射台の数は大幅にばらついており、2003年は30基程度としていたものが2008年以降は50から60程度としている。2011年から2016年の間に25基もの差異がが出ている。これは40パーセントにのぼる誤差でそれだけ不確実だということだがここ数年は10パーセントに落ち着いている。とはいえ中国ICBM本数が大幅に増えていないのは確実だ。
発射台の数は安定しているといえるが、DOD報告書ではミサイル数は増えているとし、発射台50から75に対しミサイル75から100本だとする。これはこれまでのDOD報告と一貫性を欠く。これまで発射台の数とミサイル本数が一致するかわずかにミサイル本数が多かったのは旧型DF-4を再装填するためだった。
2016年度報告が突如としてミサイル本数を発射台数より25本以上多いと述べる理由は不明だ。DF-5ないしDF-31/31Aは再装填型と見られる。これまでのDOD報告ではDF-4のみで再装填すると想定していた。DF-4の発射台はわずか10基しか残っておらず、2016年度版報告での超過本数は10本のはずで、25ではないはずだ。(DF-4で再装填を二本と想定するとつじつまがあう) わかっている範囲での中国のICBMの全体像は下表のとおりである。
china-icbms-tbl
噂では中国が鉄道軌道で移動するICBMを配備済みあるいは開発中といわれるが、DOD報告では鉄道を利用する装備の言及はない。7月に加筆訂正版が公表される。

DF-26は核精密攻撃ミサイルか
最新の核ミサイルがDF-26(ペンタゴンはまだこの新型ミサイルのCSS呼称は明らかにしていない)で昨年9月の北京軍事パレードで初公開されているが、ミサイル部隊に展開していない模様だ。
DF-26
北京軍事パレードに6車軸の打ち上げ車両が登場し、核運用可能との説明があった。ミサイルはまだ供用開始されていない。Image: PLA.
DOD報告では核非核で共通の誘導方式を使うとし、「中国初の核精密攻撃能力が戦域内で利用可能になる」と述べている。
この書きぶりからこれ以外の中国核ミサイルには精密攻撃能力はないとDODが見ていることがわかる。

DF-21で新型登場か
DOD報告は中距離核ミサイルDF-21の新型を取り上げているが、詳細は述べていない。新型はDF-21 Mod 6あるいはCSS-5 Mod 6として報告書に記載されている。
DF-21_ex2016
DF-21が核攻撃演習に参加している。2015年撮影. Image: PLA via CCTV-13.

以前の報告書ではICBM部隊に「道路移動型固体燃料方式CSS-5(DF-21)MRBMを域内抑止ミッションに投入して補完する」としていたが、2016年度版ではICBM部隊は「道路移動型固体燃料方式CSS-5 Mod 6 ‘(DF-21) MRBMで域内抑止ミッションに投入して補完する」と述べ、初めてMod 6の名称が使われた。
DOD報告ではMod 6に関し詳細についても、その登場で既存型 (Mod 1、Mod 2)がどんな影響を受けるかでも言及はない。既存型は老朽化しつつあるのでMod 6が更改用の可能性があるが、実態は不明だ。
DF-21が中国軍で特別な意味があるのは、初の移動式液体燃料ミサイルとして登場したためだ。Mod 1は1980年代後半に配備開始されたが、戦力化は1992年だった。Mod 2が1998年時点で「配備ができていない」状態だったのは両型式で相違点が相当あったのか、両型式をミッションの性質の違いから並列配備しておく必要があったためだろう。
DF-21各型を巡っての議論では混乱が大きくみられ多くの論者が二次資料を引用しているが、原資料を使う向きは少ない。中でも最も多い誤りはDF-21C通常型陸上攻撃版をCSS-5 Mod 3とし、DF-21D対艦攻撃版をCSS-5 Mod 4とするものだ。ここ数年にわたりDODや情報各機関からはDF-21に以下の型式があるとしてきた。
DF-21 (CSS-5 Mod 1):核
DF-21A (CSS-5 Mod 2):核
DF-21C (CSS-5 Mod 4): 通常弾頭対地攻撃
DF-21D (CSS-5 Mod 5): 通常弾頭対艦攻撃
DF-21 (CSS-5 Mod 6): 核 (新登場)
DF-21B(CSS-5 Mod 3)がどうなったのかは不明だ。DF-21は旧型液体燃料方式DF-3Aに替わり中国の地域内核抑止力の中心となっている。DF-21へ変更をした最新の部隊は遼寧省の第810旅団だ。

海洋配備抑止力
各種報道が伝える公式発表は誇張気味あるいは拙速であり、中国潜水艦の作戦能力を高く買いかぶりすぎの観がある。新型の晋級SSBNが抑止パトロールを開始したとの報道があるが、米エネルギー省報告では潜水艦あるいはミサイルの問題で作戦実施可能になっていないとしている。
2015年2月に米海軍作戦部長の議会向け報告ではSSBN一隻が95日間に及ぶパトロールに出港したとあるが戦略軍司令官セシル・ヘイニー大将はSSBNが海上に出ることがあるが核装備しているのか判断できないと述べた。
今回のDOD報告書では晋級SSBNはJL-2SLBMを「ゆくゆくは搭載することになる」と言及しているのは明らかに現時点では未搭載であるということで、「中国は初のSSBNによる核抑止パトロールを2016年中に行う」と述べている。つまり実施実績がないということだ。
この「未実施」評価の背後には国防情報局が「PLA海軍部は晋級原子力弾道ミサイル潜水艦を2015年に就役させJL-2を搭載すれば中国初の海洋配備核抑止力が完成する」と述べたことがある。
一隻あるいは複数のSSBNが何らかの任務で外洋にでたことがあるが、核兵器が搭載されていなかった可能性があることになる。晋級SSBN四隻はすべて海南島の榆林海軍基地に配備されており、五隻目が建造中だ。
Jin-ssbns_yulin2015晋級SSBN三隻、商級SSN2隻が榆林海軍基地に見られる。
DOD報告書では晋級SSBNの五隻追加建造との噂は誤りとする。米太平洋軍司令官は2015年に議会に「最大5隻が追加建造され2020年までに部隊に投入されるかもしれない」と発言しているが、確証はなかったようだ。DOD報告書では5隻目の晋級が建造中だがその後は新型ミサイルJL-3を搭載する次世代SSBN(タイプ096)へ移行すると見ている。

核爆撃機
今回のDOD報告書は爆撃機の核任務の可能性を初めて取り上げている。各種中国国内の資料を論拠にしつつ米情報機関の推論は示していない。
china-bomb1967H-6爆撃機が投下した熱核爆弾。1967年6月
「2015年に中国が長距離爆撃機を開発していると明らかになった。中国軍事アナリストが『戦略抑止任務を実施能力がある』と、PLA空軍部に2012年に与えられた任務に言及している。また中国国内文献では『戦略級』ステルス長距離爆撃機の実用化を目指しているともある。各種報道や文献を総合すると中国が核爆撃機を開発する可能性があり、実現すれば、中国は核運搬手段の『三本柱』として陸上、海、空の整備を完成し、冷戦後にふさわしい残存性と戦略的抑止力を実現するかもしれない」
中国の爆撃機では改修型H-6K爆撃機があるが通常弾頭の対地攻撃巡航ミサイルを搭載し、核任務や「戦略抑止」ミッションは中心ではない。ただし米空軍のグローバル打撃軍団の説明資料では新型CJ-20空中発射対地攻撃巡航ミサイルを核搭載可能としていた。
過去においては中国は核兵器を爆撃機から投下する能力を展開していた。1965年から1979年まで続い板核実験では少なくとも12回が爆撃機による投下であった。実験は核分裂型と核融合型で威力は最大2から4メガトンまでと推定される。投下したのはH-6爆撃機(現在も近代化改修して就役中)、H-5爆撃機(退役済み)、Q-5戦闘爆撃機(全機退役済み)だった。

china-bombs
核爆弾の模型二つが北京で展示されている。左は核分裂爆弾第一号の模型で、右が熱核爆弾だ。右の模型に書かれているH639-23は1967年6月17日の水爆実験で投下された番号H639-6と類似。mage: news.cn

核戦略と核政策
最後にDOD報告書は中国の核政策・戦略について米側の理解する内容をまとめている。
まずPLAが核運用部隊に対する指揮命令統制通信機能を新型に切り替えて、戦場で多数の部隊を統制する能力を引き上げている。「通信能力の改良でICBM部隊はこれまでよりも戦闘状況をよりよく把握し、妨害されにくい通信手段で接続されている。部隊指揮官も命令を同時に複数部隊に下し、これまでのような順々方式ではなくなった」
これは部隊への指揮命令行為の効率性向上を目指したものだが、同時に危機的状況での戦闘効率を上げるる狙いもある。DOD報告書では中国が「平時での即応体制を引き上げようとしている」との報道内容を引用している。この点で中国軍の文書を引用して核部隊が「警告あり次第発射」する体制にあり、敵の攻撃を受けて全滅する前に発射する方式になったとの報道もある。
これが進展すると新たな問題になるが、DOD報告書の結論は今のところ中国が堅持してきた先制攻撃をしないとする安全保障政策に変化の兆しはないとする。
言い換えれば、中国の核政策事態に変化はないようだが、核部隊の運用・作戦方法は大きく変わりつつあるということになる。
さらに以下から追加情報が得られるので参照されたい。
本記事の発表の下となった研究はNew Land 財団およびPloughsharesファンドの助成金により実現した。ここで表した見解は筆者個人のものである。