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2021年10月1日金曜日

オーストラリア海軍の目指す原子力潜水艦はどう実現するのか。現実的な5案を比較してみた。



 

 

オーストラリアが原子力潜水艦取得をめざしているが、どんな選択肢があるのだろうか。以下五つが浮上している。

 

オーストラリアが原子力推進方式潜水艦建造をめざすと9月15日発表するや、その内容の観測が盛んとなった。AUKUSは18カ月かけを検討する。

 

発表後に出てきた情報は少ない。当然疑問が残る。オーストラリア海軍(RAN)が取得する原子力潜水艦はどんな型になるのか。

 

まず、同艦が英国あるいは米国設計となるのは確実なようだ。そこで、以下5案が想定される。

 

最初に来るのが米海軍、英海軍の既存設計の流用で、(1)ヴァージニア級 (2)アスチュート級、そのあとに次世代艦として(3)SSN(X)と(4)SSN(R)がある。最後に(5)として英米の既存技術の応用案がある。

 

英米技術の流用を最小限にした国産設計案がより大胆な選択となる。あるいは次世代艦として三国で同時建造する案もある。ただし、ともに現時点では可能性は低い。

 

その他としてフランスやインドの設計案を採用する選択肢もある。中古潜水艦の導入はどうか。あるいは旧型弾道ミサイル潜水艦(SSBNs) を攻撃型潜水艦に転用する構想はどうか。ただ今回の発表内容からはこうした選択肢はかけ離れており、今回はその可能性について言及しないこととする。

 

1. ヴァージニア級 – 信頼性実証済みの米製攻撃型潜水艦

筆頭に来るのが米海軍のヴァージニア級だ。性能面、装備の共通化が大きな利点で、米海軍としても乗員訓練や運航支援で協力を惜しまないはずだ。 Mk.48 ADCAP魚雷など米製装備品はすでにオーストラリア海軍が導入済みだ。

 

また垂直発射管システム(VLS)でトマホーク巡航ミサイルの運用が可能となる。オーストラリアはすでに同ミサイル取得に動いているが、水上艦搭載を想定している。ヴァージニア級への搭載は自然だろう。

 

ヴァージニア級のVLSにトマホークを搭載しないのなら宝の持ち腐れだ。VLSは現行のブロック-IV艦で12本だが、ブロック-Vでは40本に増える。ブロック-IVで十分に見える。ただし、ブロック-Vではその他性能も向上している。

 

ヴァージニア級案の課題はオーストラリア国内建造立ち上げのコストだろう。オーストラリアが米国建造艦をそのまま取得する案も取りざたされているが、共同声明では読み取れない。米国内建造所ではすでにヴァージニア級建造予定が入っており、あらたに建造施設をオーストラリアに準備することになる。

 

2. アスチュート級

 

英海軍アスチュート級は大まかに言ってヴァージニア級に相当する。艦体の大きさや性能が似通っているが、RANに魅力となる側面もある。まず、ヴァージニア級と異なり、建造用の工具類がそろっていることだ。英海軍建造の最終艦HMSアジンコートは数年後に完成する。そうなると製造用工具類はそのままオーストラリアへ搬送すればよく、費用時間面で節約効果が大きい。

 

さらにアスチュート級の運用は少ない乗員で可能だ。現行コリンズ級より大型だが長距離運用が可能となりながら、ヴァージニア級より運航乗員数は減る。(アスチュート級は98-109名、ヴァージニア級は135名程度、コリンズ級は58名)

 

アスチュート級の課題は原子炉だ。現行のPWR2原子炉は生産が終了している。新型PWR3あるいは米製原子炉を搭載できるが、事態が複雑となる。

 

オーストラリアがアスチュート級を採用すればRANのニーズに合わせる改修も必要だ。その内容としてソナーや米製兵装を搭載し、コリンズ級以後の動きにあわせることがあろう。トマホークは魚雷発射管で運用できる。

 

新世代のSSN(R)で新技術の採用が想定され、次の二つの選択肢になる。

 

3 & 4. 次世代攻撃型潜水艦

 

すでに始まっているSSN(X)、 SSN(R)双方の開発にオーストラリアが参画すれば一気に原子力潜水艦最先端の艦運用が可能となる。改良点には推進系、ソナー、ステルス、量子コンピュータ、無人水中機の搭載などがある。

 

開発を進める英米両国としては開発コスト負担を期待できればメリットがある。もちろん課題は時間枠だ。オーストラリアが必要とする新型艦は2040年代に就役している必要があり、コリンズ級はどう見ても2048年には退役している。SSN(X) 、SSN(R)開発は2030年代に入り本格化する。新型装備品の開発では時間通りに進まないことが多く、ましてや別の国が入り要求内容の追加があればなおさらだ。

 

一つ議題に上がっていないのが極超音速ミサイルだ。米海軍はこの装備導入に向かっており、英海軍も同様だろう。将来装備の運用はどちらの案で可能となるのか。

 

次世代艦は大型化に向かうと予想される。理由の一つに新型推進技術とステルス性能の向上がある。だが、潜水艦建造では大型艦は高くなるのが通常だ。

 

5. オーストラリア国産艦

 

自国設計ならオーストラリアは自国ニーズに対応できる。当然ながら英米の技術を採用する。その結果生まれるのは小型で低価格の艦だがRANは原子力推進の利点を享受できる。

 

もちろん、この選択肢のリスクが最大となる。艦艇設計人材がもともと少ないままで設計を進めることになる。この点は上記の選択肢でも共通するが、完全国産設計案で顕著だ。オーストラリアがSSN(X) や SSN(R)事業の技術陣を引き抜くことが可能だろうか。

 

今後の見通し

いずれにせよ、原子力潜水艦をオーストラリア国内で建造するには長期間の工期が必要だ。その間にコリンズ級は改修し運用を続けるのだろう。

 

RANは米海軍、あるいは英海軍艦のリースも検討するかもしれない。ロサンジェルス級、トラファルガー級艦で今後退役が予定されているものがある。核燃料がまだ残っており数年は運用可能だ。あるいは港湾に係留したまま訓練艦にもできる。あるいは英米艦にRANの潜水艦要員が乗り込む状況が普通になるかもしれない。

 

一歩下がって俯瞰すれば、RANにとって本事業は大規模になる。ただAUKUS協力関係により技術利用が可能となっているのが幸運な面だ。

 

最大の危険は作業工程にある。いずれの艦も優秀で悪い選択にならない。だが優柔不断、あいまいさを残したままだと遅延につながる。

 

RANの動向とは別に原子力潜水艦取得を目指す国が増えるだろう。さらにAUKUS潜水艦整備の狙いである中国はオーストラリアの挑戦を前に手を緩めることはないはずだ。■


The 5 Main Options For Australia's AUKUS Nuclear Submarine Deal

H I Sutton  29 Sep 2021

 

 

2021年9月16日木曜日

速報)オーストラリアの原子力潜水艦取得を後押しする米英両国。ANKUSと呼ばれる三か国の安全保障協力関係はさらに緊密となり、中国への対抗を目指す。

 

おや、ナヴァルグループによる通常型潜水艦建造は断念して一気に原子力潜水艦調達にオーストラリアは向かうのでしょうか。米英豪の強いつながりを感じさせます。韓国がこれで原子力潜水艦調達が現実に近づいたと考えれば大きな勘違いでしょうね。


ンド太平洋の各国が中国への備えを強める中、米国は域内のトップ同盟国へ原子力推進技術を供与する。

AUKUSすなわち米英豪三か国は安全保障取り決めをこの度形成し英米両国がオーストラリアのめざす原子力推進潜水艦実現を支援することになった。

南シナ海での中国との対決では原子力潜水艦の生存性が一番高いといわれる。原子力潜水艦は長距離移動でき、通常型潜水艦より長期間潜航が可能なため、広大なインド太平洋で理想的な装備となる。

「AUKUSとしてオーストラリアが望む原子力潜水艦調達を支援し、三か国共同作業を18カ月続ける。その中で技術分野、戦略、海軍関係の専門チームを組織し、実現に最適な方法を模索する」とバイデン政権高官が報道陣に語り、米国が同技術を供与した例は英国だけで1958年のことだったと解説した。

「オーストラリアは協力関係を深化させ、原子力推進潜水艦取得の方法を模索する。これによりオーストラリアに長期間配備能力が生まれることを強調したい」と同上高官は説明した。「静粛度が高く高性能だ。インド太平洋の抑止力整備に役立つ。そのため原子力技術のベストプラクティスで共同作業を進める。三か国の海軍部隊が共同作戦を展開し、原子力インフラを共有すれば各国間協力はさらに密接になる」

オーストラリアへの技術供与で同国の原子力潜水艦調達は現実に一歩近づく。オーストラリア国内の建造施設は原子力推進艦艇にも対応可能だが、国産建造となるのか、英米いずれかからの調達になるかは不明だ。

米海軍で潜水艦を専門としたある退役提督は原子力推進技術をオーストラリアと共有すれば米国の対オーストラリア関係が大きく変わるとUSNI Newsに述べた。

「オーストラリア海軍が原子力推進を採用すれば西太平洋での対応能力は確実に整備される」「中国へのメッセージだ。中国は経済面でオーストラリアに懲罰を与えており、今回の動きが回答だ」

また、今回の合意でオーストラリアが原子力潜水艦を調達し、米海軍攻撃型潜水艦がオーストラリアで整備を受けることも可能となれば米国のプレゼンスが同地域で拡大すると同提督は指摘する。

「合意内容にプレゼンス拡大につながる要素がある。これまで艦の整備が配備期間を制約してきた」

AUKUS新合意では広範囲の技術共有も盛り込まれており、防衛外交対話も続けると上記高官が述べている。

取り決めでは「新規分野での協力強化としてサイバー、AI特に応用AI、量子技術、および水中運用技術を対象とする。情報共有も深化させ、安全保障・防衛関連の科学技術や産業基盤、サプライチェーンで統合効果がこれから出てくる」「これを維持して各国の機能をくっつけ三か国関係をさらに拡大していく」と同高官は語った。

今回の発表はバイデン政権がインド太平洋特に中国に焦点を当てる中でで出てきた。バイデン大統領はアフガニスタン撤収を正当化するためこの説明を使っている。

「今回の動きはより大規模な対応の一部だ。従来からの安全保障提携国日本、南朝鮮、タイランド、フィリピンに加え、新規相手のインド、ヴィエトナムとも二か国関係を強化しつつ、新しい仕組みを作っていく。クアッドはその例だ」と同高官は今回の安全保障合意の背景を説明している。

2016年にフランス企業が王立オーストラリア海軍のコリンズ級潜水艦の後継艦をフランスの原子力潜水艦バラクーダ級を通常動力に変更し建造する契約交付を受けた。だが、事業は打ち切りとなり、オーストラリアは原子力潜水艦取得に問題なく進められる、とオーストラリア放送協会は本日報道した。■

Australia to Pursue Nuclear Attack Subs in New Agreement with U.S., U.K.

By: Mallory Shelbourne and Sam LaGrone

September 15, 2021 5:04 PM

https://news.usni.org/2021/09/15/australia-to-pursue-nuclear-attack-subs-in-new-agreement-with-u-s-u-k

2017年11月3日金曜日

攻撃型原潜の修理工程が消化しきれない米国の事情


原子力潜水艦は建造してもその後が大変ですね。特にこれまでは燃料交換作業が前提の設計で酷使されていればあちこちが痛みます。退役させるだけでも大変で、ロシアは簡単に海に捨てていました。(日米が資金技術援助して後日処理しています)中国はあとで大変なことになるのではないでしょうかね。国防装備の整備とは経済インフラあってこそ可能と改めてわかるお話ですね。


15 Subs Kept Out of Service: 177 Months Of Drydock Backups

補修作業待ち潜水艦15隻が戦力外で工程遅延合計は177か月に


Navy photo
ドック入りしたUSSグリーンヴィル
By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on October 31, 2017 at 1:54 PM
WASHINGTON:攻撃型原子力水艦の保守点検作業で15隻が順番待ちで、合計177か月相当の作業ができない状態になっており、海軍の打開策が予算不足で立ち往生していると下院軍事委員会スタッフがBreaking Defenseに紹介している。
  1. 待ち時間合計は潜水艦一隻なら供用15年間分に相当し、2018年に補修作業に入る艦が現役復帰するのが2033年になるようなものだ。
  2. 予算案を通過させ支出上限を設けることができるのは議会だけだと同スタッフは指摘の上、解決策の一部は海軍の手にあるとする。民間造船所への業務委託だが海軍には気に入らない選択肢だ。
  3. 潜水艦多数が惨めな状況になっている。好例がUSSボイシーでノーフォーク海軍工廠で大修理を2016年開始の予定だったが今も順番待ちだ。政府は原案を断念しニューポートニューズ造船へ委託事業385.6百万ドル相当の契約を交付した。同造船所は海軍工廠をはさんだジェイムズ河の対岸にある。ボイシーは当初予定より31か月遅れてなお供用不能の状態だ。
  4. だがボイシーだけではない。下院軍事委員会調べで他14隻で影響が出ており、遅延規模は2か月(USSコロンビア、モントペリエ、テキサス)から21か月(グリーンヴィル)までばらついている。保守点検作業をしないと各艦は安全潜航できず現役復帰できない。USSスレッシャー事故(1963年)以降、海軍はこの手順を厳格に守っている。「海軍原子炉部に規則改正を求めるのは至難のわざだ」とスタッフがこぼす。
Sydney J. Freedberg Jr. graphic from Navy data
  1. 海軍に緩和策があるが抜本解決策はない。予算がもっとあれば工程を調整し、有効証明の期間延長他を実施でき、修理作業も迅速に実施でき潜水艦部隊全体の待ち時間も81か月に短縮できるはずだ。
  2. 7年近くも海上で作戦できないことになる。各艦で供用期間の23パーセントをみすみす無駄にしていることになる。7年ムダにするのは2018年予算の新造艦から一隻を外し復帰まで2025年まで待つことと同じだ。
  3. 上図で数字を示した。だがここで見えないのは別のところへのしわ寄せだと議会スタッフは怖いことをいう。中間時点の点検修理を受けられない艦に加え耐用年数が切れた老朽艦の退役が思うようにできないことだ。
  4. 原子力推進艦では供用期間が終わったからと言ってポイと捨てるわけにはいかない。原子炉の稼働中止だけでも相当の手順があり、その後放射能を帯びた艦内部品を除去し、その他放射能と無縁の残り部分を解体する。
  5. さらに原子力潜水艦の耐用年数が終わりに近づくとが炉心出力が低下し、技術科員の尽力でやりくりしている。解体を待つ旧式艦は単純に係留されているわけではなく、ほぼ半数の乗組員が配属されたままなのだ。退役が遅れると予算とともに高度に訓練をうけた乗組員が無駄になる。
General Dynamics
エレクトリックボートの潜水艦建造施設はコネチカット州グロートンにある
  1. そのため潜水艦補修作業の緩和策が実施可能となっても、旧式艦の退役問題が残ることとなる。だが緩和策の実施そのものが困難になっている。一か月前に始まった2018年度予定の補修作業三例で予算手当がついていない。議会はその場しのぎ策の継続決議を通過させて政府支出を自動調整させるため今回のような緩和策向けに回すゆとりがない。議会が予算を認めても今度は予算管理法(BCA)の上限にぶつかり、各種即応体制の維持に必要な予算が確保できない状態が続いている。
  2. 現時点の海軍の問題の原因は過去のBCA起因の予算削減や継続決議にあると下院軍事委員会スタッフは見ており、レーガン時代に建造された艦が多数退役を迎えているのも別の原因だ。今日でも海軍の任務量は変わりがないが隻数は減っているので各艦の展開期間が長くなっている。その結果、当初の修理予定が実施できない艦がふえており、修理作業が混乱を避けられずだけでなく艦の疲弊度が高くなり故障箇所が増えるため作業工程がさらに伸びる。
  3. 攻撃潜水艦部隊でことを複雑にする要因が原子力推進だ。整備作業できるのは装備を完備し訓練を受けた人員がそろったわずか数か所で海軍は内部作業を好むが、原子力対応施設は限られており、さらに弾道ミサイル潜水艦や空母の作業が優先される。点検修理日程がミサイル原潜や空母で変更されると攻撃潜水艦はリストからはずされる。
  4. このため海軍はついにボイシーで修理点検をハンティントン=インガルス工業のニューポートニューズ造船所(ヴァージニア州)に外部委託した。同所は対応可能な民間施設二か所の一つでもう一か所はジェネラルダイナミクスのエレクトリックボート(ニューイングランド)だ。民間施設では作業の余力があり「今後5年間」は大丈夫と下院軍事委員会スタッフは見ている。その後は次期ミサイル原潜コロンビア級の建造が入るため余裕はなくなる。
  5. 民間施設での作業は高価になるのでボイシー除き外注の必要はないと海軍は議会に伝えているが、下院軍事委員会スタッフは真に受けていない。ボイシーは現在機関系の大修理中だが議会スタッフは「潜水艦の供用期間通じて一番複雑な作業が外部委託できる」とし、「今手にしている三年五年の戦略的な機会」を使えば民間施設を活用できるのに使わない手はあるだろうかと述べている。■

2017年10月2日月曜日

韓国が原子力潜水艦運用を開始する日が来るのか


著者の一人は現役韓国海軍潜水艦乗り組み士官です。果たして実現の可能性はあるのでしょうか。虫の良い主張にも聞こえる反面、展開されている効果も実現の可能性はあるように思えます。日本との微妙な関係に配慮した文脈になっていますが、独島と竹島を併記する一方原文では東海となっていますのでやはり韓国だなという感じは残りました。皆さんはどう思いますか。


Should South Korea Start Building Nuclear Submarines?

韓国は原子力潜水艦建造を開始すべきか

September 26, 2017

  1. 北朝鮮が潜水艦発射式弾道ミサイル(SLBM)開発に取り組む中、韓国は米国支援を得て原子力推進式潜水艦(SSNs)の取得に近づいている。国連本部訪問時の協議で韓国大統領文在寅はドナルド・トランプ大統領と韓国が長年目指すSSN建造を議題にした可能性がある。
  2. 韓国国防筋はすでに国産SSN建造費と効果を試算しているが、米国でこの話題はほとんど議題になっていない。米国防政策筋が米韓同盟に韓国SSNsが実現した場合の結果を真剣に検討することこそ重要である。一方で米国支援で韓国がSSNを実現した場合の同盟関係への潜在リスクを検討してみる。
4Dの強化
  1. 韓国国産SSNの一つの効果は同盟軍による「4D」作戦構想の実現が強まることだ。この構想は北朝鮮核ミサイルの「探知、妨害、防衛、破壊」detect, disrupt, defend against, and destroyを行う内容でいわゆる「キルチェーン」の一部として北朝鮮内部深くを攻撃する能力で北朝鮮ミサイルの発射前にこれを排除する構想が4D構想の中心だ。北朝鮮がSLBM開発に進んでいるため、現在のキルチェーンの有効性に疑問が生まれている。同盟側も対潜戦(ASW)能力を向上しないと北朝鮮潜水艦が4D構想そのものを揺るがしかねない。
  2. そこで韓国製SSNsが決定的な役割を果たす。SSNは騒音も大で韓国が供用中の孫元一Son Won-I級およびl張保皐Chang Bogo級ディーゼル電気推進潜水艦(SSKs)より艦体も大きくなるが航続性能や推進力の増加、センサーの能力向上、水中速力の増加で有利だ。米海軍が指摘するようにSSNsは水中無人機(UUVs)の運用、充電が可能で偵察用途に投入できる。
  3. そうなるとSSNは4Dのうち「探知」と「破壊」で威力を発揮する。また海中配備センサーやP-3オライオン哨戒機を補完するほか、同盟国のASW機能にもそのステルス性を生かし北朝鮮沿岸に前方展開することで効果を発揮する。北朝鮮港湾部を監視し、ミサイル潜水艦を追尾する中でUUVsやセンサーの威力をいかんなく発揮できるはずだ。SSKsではバッテリー充電で居場所を露呈してしまうがその心配はない。また必要ならSSNsの高速と武装を生かして北朝鮮ミサイル潜水艦を事前に排除できるので「水中キルチェーン」の基盤にもなれる。
  4. だがそれなら米海軍がSSNsを定期的に黄海や日本海に配備すればすむのではないかという疑問が出るだろう。残念ながら米海軍は世界各地での展開とくに中国ロシアへの対応で潜水艦展開に余裕がない。さらに水中キルチェーン実施の任務を与えれば米潜水艦隊には一層の負担となる。そのため韓国が小規模のSSNs部隊を編成し4D任務を韓国近海で実施できれば米海軍機能の補強戦力になる。
支配力と抑止力
  1. 韓国版SSN部隊には北朝鮮相手の力による交渉力を強化する効果も期待できる。韓米同盟側が4D実施能力を高める中で韓国の北朝鮮核兵器に対しSSNsは「拒否による抑止」の手段となる。北朝鮮がSLBMを投入する可能性を減らすだけでなくSSNsにより北朝鮮はSLBMで有頂天になれなくなる。言い換えれば同盟側の4D機能が充実し効果を上げれば、北は報復を恐れるあまりSLBMでの強硬挑発策に躊躇するはずだ。
  2. 米国による技術移転ならびに韓国の大規模支出を実施するかで同盟側の決意が試される。米韓両国は追加負担を受け入れれば北朝鮮の挑戦に果敢と立ち向かい抑止効果の機能をさらに高められる。
同盟間の結合
  1. 米国支援のもと韓国がSSNs開発に走れば韓米同盟の結合にも好影響が出る。同盟間でたえず付きまとう恐怖が韓国の「放棄」である。この懸念は北が米本土直撃能力を整備するにつれて一層現実のものとなっており、もし北朝鮮が米本土を核攻撃する構えを示せば米国は韓国防衛に向かわないのではとの心配が韓国側に根強い。ただし米国が海軍用原子力利用の支援をおこなえば、米国が韓国防衛にただならぬ決意をしている証となり、韓国も同盟関係への信頼を高めるだろう。
  2. 同時に韓国に防衛上の責任を強化することとなれば韓米同盟関係も好転するはずだ。ワシントンがソウルに負担増加を求めているのは財政、人的資源両面で半島および域内の安全保障上の役割拡大を望んでいるためだ。トランプ大統領は韓国は自国防衛の能力がありそうすべきと繰り返し発言してきた。SSNs小部隊が整備されれば韓国はこの実現に大きく近づく。米海軍SSNsに依存せずに北朝鮮SLBM脅威への負担分担として韓国は自国軍の強化をはかるべきだ。
遠距離運用能力
  1. 韓国SSNsの二番目の戦略意義として韓米同盟の適用範囲を地域からグローバル両面へ拡大する効果が見込まれる。近年の同盟協力関係では安全保障協力範囲を拡大する傾向が大で「グローバルパートナーシップ」を強調しがちだ。しかるに韓国の軍事力投射能力は限定されたままである。韓国ではこれに対して迅速展開部隊の整備として独島級強襲揚陸艦を中心とした装備を企画しているが、展開部隊の護衛には鈍足で航続距離が短いSSKsを充てるしか選択の余地がない。韓国SSNsははるかに高機能の護衛となり、高速かつ遠距離に展開可能となる。
  2. 能力拡大により韓米同盟は域内およびグローバルな安全保障への貢献を朝鮮半島を超えて実現できるようになる。かつてマイク・マレン提督が呼んだ「1,000隻海軍」つまり志を共有する各国海軍の集合で海洋の安全安定を守る構想が有効だ。韓国の迅速展開部隊は核拡散防止構想、シーレーン防衛、海賊対策、人道救難活動の海外展開に有益だ。
水中軍拡の恐れ
  1. 韓国版SSNs整備で別のリスクも発生する。韓国の隣国である日本、中国が韓国の新規能力の整備に警戒する可能性がある。各国との関係が悪化したり韓国の意図を誤解しての軍拡競争につながりかねない。
  2. 特に中国が同盟国の4D機能整備でこれまでも悪い反応を示している。同盟国による高高度採取段階地域防衛(THAAD)の展開に敏感に反応して中国は韓国への自国民旅行を停止させ独自に長距離レーダーの稼働を内蒙古で開始した。
  3. 日本はそこまで過敏な反応はしめさないはずで、北朝鮮ミサイル脅威への懸念を共有していることに加え米韓含む三カ国体制でも利害を共有しているためであるが、もし韓国が独島(竹島)を舞台とした韓日対立にSSNsを展開する事態になれば日本の計算も変わるはずだ。
  4. 水中戦力整備は東南アジアですでにはじまっている。中国の潜水艦部隊の整備が1990年代以来進んだことで各国も独自の潜水艦部隊整備に乗り出している。シンガポール国防省の予測では2025年までに各国保有の潜水艦は合計200隻ないし250隻になる。韓国SSNsの整備が軍拡競争を一層激しくしないよう慎重に事業を進める必要があろう。
核拡散の潜在性
  1. 一方で韓国SSNsは一歩間違えば深刻な核拡散問題を引き起こしかねない。海軍用原子炉には濃縮ウラニウムが必要で使用済み核燃料は貯蔵あるいは再処理が必要となる。このため原子力推進技術でその国の核燃料サイクル技術理解が進み核利用の潜在力が高まる効果が生まれる。問題となるのは海軍用原子炉では高濃縮ウラニウム(HEU)が必要となり、ウラニウム235を90パーセント程度まで高めた燃料を使うが、これは武器にも転用できることだ。実際にイランはSSN開発を言い訳としてHEU製造を過去に行っている。
  2. もし韓国がSSNを利用して核兵器開発に向かっていると周囲国や世界から見られれば、域内の安全保障のみならず世界規模の非拡散方針に重大な影響を及ぼしてしまう。またこれまで北朝鮮に核兵器開発を放棄させようとしてきた努力を無駄にしてしまいかねず、他国も独自核兵器開発に向かいかねない。同盟各国はこの懸念が現実にならないよう十分な配慮して韓国版SSNs推進を理解する必要がある。
リスク緩和と効果の増大をめざせ
  1. トランプ-文間で米韓協力体制でSSN建造が合意できれば、リスクを慎重に避しつつ前に述べたような効果を最大限に実現する方法を模索すべきだろう。韓米同盟も韓国SSNsが実現した場合の効果を最大限に発揮できると強調すべきだ。米国には技術面で韓国を全面的に支援してもらう必要があり、その他人員面や作戦構想面でも韓国が効果的に各艦を運用できるよう支援を期待したい。
  2. 韓米同盟は外交面でも協調して信頼醸成と軍同士の接触を中国とさらに三カ国体制として日本とも確立して軍拡競争に陥らないようにすべきだ。同時に各国は堂々とSSN整備で北朝鮮SLBMを無力化でき、北朝鮮が半島の安全と安定を損なう行動に出るのは許さないとの決意を強調すべきだ。
  3. 韓米同盟は核拡散への懸念の打ち消しにも努力すべきだ。特に米国は韓国に米保有の濃縮ウラニウム購入を許しSSNs燃料とさせるべきで、韓国独自の濃縮化は許すべきでない。さらに米国は今後も韓国とともに使用済み核燃料貯蔵の課題解決に向けた努力をすべきだ。特にドライキャスク方式の核燃料保存技術が再利用に代わる手段として脚光を集めており、核拡散の懸念を生まない技術になっている。■


Jihoon Yu (LCDR) is a submarine officer in the ROK Navy. He earned his PhD in Political Science at the Maxwell School of Syracuse University and MA in National Security Affairs at the U.S. Naval Postgraduate School. He can be contacted at yjhnavy3@hanmail.net.
Erik French is a PhD Candidate in Political Science at the Maxwell School of Syracuse University, an adjunct instructor at American University’s School of International Service, and a young leader with Pacific Forum CSIS. He can be contacted at edfrench@syr.edu. Twitter: @Erik_D_French.
Image: The Ohio-class ballistic missile submarine USS Tennessee returns to Naval Submarine Base Kings Bay, Georgia in this February 6, 2013 handout photo. REUTERS/Mass Communication Specialist 1st Class James Kimber/U.S. Navy/Handout via Reuters