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2020年12月28日月曜日

海上輸送力・兵站の軽視が米軍の南シナ海作戦を困難にする。中国の拡張を食い止めるため新たな投資が必要だ。

 

CH-53K キングスタリオンが共用軽戦術車両を吊り下げる能力を実証した。フック一つで重量l18,870ポンドの同車両を100フィート上空まで移動させた。 (U.S. Navy)


戦場で秩序・無秩序を分ける一線は補給活動にある (孫子)


 勝利の裏には検討に検討を重ね迅速対応した兵站活動があった。1944年のノーマンディ上陸作戦が好例だ。逆に補給をろくに立案せず大敗を喫したのがナポレオンのロシア侵攻だ。1959年、当時のNATO副参謀総長ヘンリー・エクレス海軍少将は兵站をこう定義した。「補給活動は一国の経済力と自国軍の戦術作戦を結ぶ橋である」。この橋の整備・強化につとめないと装備、糧食が不足し勝利はおぼつかなくなる。

 広大な海域に数千もの離島が点在し、インフラが未整備に近いアジア太平洋戦域では米本土と域内展開する米軍部隊を結ぶ課題が多数ある。各部隊は「一国の経済」とは世界最大の大洋で切り離されており、中国は東シナ海、南シナ海の裏庭で影響力を強め、領有権主張も一層激しくなっている。インフラの欠如により大型輸送機や大型補給艦が投入できない。

 中国と開戦となれば兵站活動が難題になるのは避けれない。

 

地理

中国の領土拡張運動の中心はプラトリー、パラセル両島しょにあり、豊富な水産資源、石油ガス埋蔵量が戦略的な狙いだ。また同地域を毎年数兆ドル相当の海上輸送が通過する。こうした島しょは135万平方マイルに数百もの小島・珊瑚が点在し、インフラは皆無に近い。

 CIA調べではスプラトリー諸島に飛行場は8箇所、ヘリパッド5箇所あるが港湾施設はない。中国軍はパラセルのウッデイ島に人工港と飛行場を構築し、人民解放軍1000名が駐屯している。

 中国海軍が隻数で米海軍を上回るまでになった中で、米国は新型垂直離着陸機や海上輸送力の強化でギャップを埋める必要がある。

 

脅威

中国軍は西太平洋での補給活動の重要性を理解している。東シナ海、南シナ海への進出も補給面の優位性を確立する狙いがある。同海域は中国本土への食料、燃料の補給路であり、ここだけで世界貿易の約2割をコントロールできる。南シナ海での中国の野望を放置すれば、同国の影響力が拡大し国際海洋法は形骸化する。

 シンクタンクRandコーポレーションの2020年研究成果では「(中国軍による)占拠を許せば、中国は数千マイル南方間で影響力を行使し太平洋への兵力投射が可能となる」と結論した。

 これにより域内の同盟国協力国が困るだけでなく、これまで対立と無縁だった海上交通路も安全でいられなくなる。とくに中国が接近阻止領域拒否の傘を広げるのが最大の脅威となる。

 

課題

 A2/ADの傘では長距離センサーとミサイルが中核だが、2019年1月のMedium記事では対抗策として「部隊を分散させ兵力を多数地点に展開する」とあった。米装備へのリスク分散とともに影響力を拡散するねらいがある。しかし南シナ海で部隊を移動し分散させるには対応力に富む輸送艦多数と大型垂直離着陸輸送手段が必要だ。

 残念ながら海上輸送部隊は長年に渡り軽視され、予算は空母潜水艦に回されてきた。もちろんこうした艦種が米国に戦略優位性を生んでいるが、糧食や補給部品がなければ作戦継続も不可能だ。海上輸送力整備の軽視で対応力低下が避けられない。

 1月のNational Defense記事が最近行われた海上輸送演習が取り上げ、「輸送艦で対応準備できていたのは64%に過ぎず、期待通りに機能したのは4割未満だった」とある。記事はさらに「大国同士の戦闘になれば海上輸送力が動向を決めるので、これは大問題だ」と指摘した。

 幸い10月16日のForbes記事では海上輸送力整備は中程度の予算で可能であり与野党も国防長官マーク・エスパーを支持するとあった。実現までの道筋は①即応予備部隊中で最新の艦艇の供用期間を延長する。②海外の中古船舶を購入し改修する。③国内造船所で新型補助艦艇を建造する、の3つだ。

 

陸軍の役割

陸軍は地上部隊とされてきたが2014年のRandレポートでは統合部隊の支援が「中国との大規模戦闘では陸軍の最重要任務になる可能性があり、現在の陸軍の装備運用方針では不十分になる」で結論付けていた。

 ただしインフラ未整備の環境では輸送艦に大型垂直離着陸機を搭載する必要がある。陸軍の大型機材はCH-47で、陸上作戦では実用性は実証済みだが、艦上運用では不利な点もあり、空中給油能力の欠如のため航続距離が限定される。

 海兵隊は次世代大型機CH-53Kの運用開始に向け準備を進めており、海上試験も今年6月に完了した。CH-53KはCH-47に対し海上分散地点への運用で有利となる。輸送力は50%多く、空中給油が可能で、艦載運用の想定でフライバイワイヤーのデジタル設計になっている。

 陸軍ではCH-47が引き続き大型機の中心だが、艦上運用可能な大型機があれば陸軍の輸送能力に大きな貢献となり、補給上のギャップも埋まる。

 南シナ海で補給活動のギャップが続けば、中国の拡張リスクも高まる。拡張を許せば中国が覇権を強化し、米国や同盟国が代償を払わされる。

 強靭な兵站インフラ構築は短期では不可能だ。幸いにも戦略海上輸送力の再構築方法は確立されており、陸軍のCH-47をCH-53Kに更改すればよい。ヘリコプター製造と洋上運用に向けた陸軍要員の訓練には時間がかかる。艦船建造や改修・乗員の確保、訓練はさらに長時間を要する。

 

軍の立案部門には時間切れになってきたのがわかっているのだろうか。中国は孫子の教えを守っている。「良い決定はあたかも鷹の降下のようで絶好のタイミングで獲物を襲い、撃破する」

 

 

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

How to solve logistical challenges during a South China Sea conflict

By: Scott Trail 

 

Scott Trail is a retired Marine CH-46 and V-22 developmental test pilot who now works as a senior research engineer for the Georgia Tech Research Institute. He has flown the CH-53E once and deployed twice (once to Afghanistan in 2001) with a squadron reinforced by CH-53E helicopters.

 


2019年1月10日木曜日

米国はこのままではロシア、中国に勝利できない。 その理由とは



The Sad Reason America Could Lose a War Against Russia or China 米国がロシアや中国に勝てない理由



January 9, 2019  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: RussiaChinaMilitaryTechnologyWorld

ぼ20年にわたり中東や北アフリカで戦闘員を相手にもぐらたたきのように戦闘してきた米軍がロシアや中国との「大国間抗争」戦闘へ復帰するには悲惨なほど準備が不足している。理由は簡単だとペンタゴンは分析。必要な場所に以前のように人員装備を自由に搬送できなくなっているためだ。

.ペンタゴンの国防科学委員会(DBS)が一年にわたる現役退役補給業務専門家から事情を聴取した報告結果が昨年11月に公表された。米軍の補給体制は冷戦終結後に萎縮してしまった。

ペンタゴンは必要な人員装備を海空で有効に搬送できなくなっており、ロシアや中国を意識した新対応が迫られる中で課題になっている。

「冷戦後の米国には人員装備展開を妨害するだけの軍事力を持った敵はおらず補給線が絶たれる心配はなかった」と報告書は記述している。「そのため共用補給体制は軽視され予算不足が続きDoDの優先事項に対応できなくなった」。

トランプ政権による2018年国防戦略構想を分析すると米国はロシアや中国との対決となれば「決定的な敗北」を喫するのは確実とあるが、今回のDSB報告では長年にわたる補給業務軽視のためペンタゴンは米軍の兵力投射能力、即応体制を犠牲にしたまま偽りの安心感に浸ってしまったとも指摘。

戦略輸送能力三本柱の再興に必要な施策は以下のとおりだ。

輸送の三本柱は海上輸送、空輸および事前集積装備のことで即応体制だけでなく数量不足が目立ち、このままでは米国は強力な競合相手を打ち負かせない。

軍事物資輸送を補完するはずの民間商船隊は長年にわたり縮小の一途で政府が運用できる輸送力は2033年に今の半分に減る見込みだ。

民間予備航空輸送部隊 (CRAF)が共用輸送体制の鍵としてDoDは人員輸送で活用を期待している。

しかし海上輸送、航空輸送ともに緊急時の実効性を演習で確認していない。損耗分やA2ADの脅威、さらに民間船員、航空乗務員のリスクを考慮すれば演習は必須なはずだ。

民間商船隊の状況がここに来て悪化しているのはDefense Newsが2018年10月に伝えているとおりで即応予備輸送艦で使えるのは46隻しかなく、しかもすべて「老朽船で耐用年数の終わりに近づいている」状況だが、海洋安全保障制度が適用される米国船籍60隻がある。

第二次大戦時には一般商船隊が米海軍の重要な補助機能を果たしたが、今やその機能は期待できない。2018年5月の調べでは米国船籍の外国航路船舶は1951年の1,288隻が現在は81隻しかないという。

2017年の米会計検査院報告では海軍の海上輸送体制、即応対応はともに2012年以降は下降の一歩で反転するには相当の予算が必要だという。

「平均船齢は40年近くで、今後10年で多数が耐用年数の終わりに達すると輸送力は25%超減少する」と会計検査院報告が指摘。米海軍は対策案を完成させておらず、どこまで予算を手当すべきかも決まっていない。

このため通常戦が発生し米陸軍は「受け入られない」悲惨な結果だと警戒している。「早く手を打たないと陸軍の兵力投射能力に受け入れがたいリスクが早ければ2024年に発生する」と陸軍G-4補給本部が下院軍事委員会に2018年2月に書簡を送っていた。「2034年になれば輸送艦は60年以上が経過するものが7割に達し、さらに陸軍の装備人員搬送能力は減少する」

米軍事輸送本部の報道官ケヴィン・スティーブン大佐は報告書の内容に反論せずWashington Free Beaconに以下伝えてきた。

「当方ではDoDのグローバル兵力投射能力の改善方法を引き続き検討中で、この輸送能力が現在でも我が国の優位性の裏付けとはいえ、国家指導層に選択肢を提示し潜在敵国に対する板挟み状況を打開していきたい」■

This article originally appeared at Task & Purpose. Follow Task & Purpose on Twitter .

コメント:湾岸戦争では米民間航空機多数がチャーター輸送に動員されていましたが、海上輸送力はあまり注目されていませんでしたね。人員は先に砂漠に送っても重装備の搬送がリードタイムになっていたわけです。米軍は事前装備集積船も配備していますが、中国、ロシアが相手となると装備の規模も違うのでしょうね。日本では一部カーフェリーが防衛省と契約していますが、民間航空機はどうなのでしょうか。いざというときにどれだけの輸送力が使えるかで戦略も変わってきますね。下地島空港への定期路線ができるそうですが、南西諸島への輸送が日本にとっての第一の課題でしょうか。朝鮮半島は邦人緊急搬送のシナリオが消えそうなので今後は検討に入りにくい気がします。台湾はどうでしょうか。