2021年11月30日火曜日

オーストラリアSSN選定はここまで困難な作業となる。ヴァージニア級対アステュート級の比較。米設計案の採用が有望に見えるが、2060年代の安全保障を左右しかねない重大な決断。

 

英海軍のアステュート級。. Image: Creative Commons.

 

 

立オーストラリア海軍(RAN)向けの原子力潜水艦の選定は非常に複雑かつ困難な選択となる。現在、二型式が候補にあがっている。米海軍(USN)のヴァージニア級ブロックV、英海軍(RN)のアステュート級だ。

 

ともに優秀な艦で性能は互角といえる。原子炉は燃料交換が不要な点で共通しており、高性能ポンプジェット方式の採用も同じだ。またトマホーク巡航ミサイルを運用できる点も共通する。

 

オーストラリア政府が検討すべき点として何隻を整備するのか、供用期間、国内産業界への裨益などがある。

 

今回は両級の違いに着目し、リスク、サイズ、乗員規模、ペイロード、供用開始時期、また輸出規制について論じたい。

 

 

 

【設計上のリスク】ヴァージニア級ではオーストラリアが運用を望むAN/BYG-1 戦闘システムとMk-48魚雷の運用が最初から可能だが、アステュート級は想定してない。アステュート級を改装すれば、ち密に設定されている艦内配置、重量、浮力、バランス、動力、冷却機能の変更が必要となり、想定外の問題になりそうだ。既存設計の変更は数億ドル相当の作業となり数年かかる。代替策として最初から英装備を受け入れ、英国製戦闘システムとスピアフィッシュ魚雷を採用することがある。

 

【サイズ】両級とも通常型の既存艦コリンズ級を上回るサイズで、オーストラリアのインフラ整備が必要だ。これは低規模予算では実施できない。アステュート級は全長97メートル、排水量7,800トン、ブロックV仕様のヴァージニア級は140.5メートル、10,364トンだ。コリンズ級は77.8メートル、3,407トンにすぎない。

 

【乗員数】RANではコリンズ級の60名の乗員確保にも苦労しているので乗員数は少ないに越したことはない。アステュート級は90名、ヴァージニア級は130名程度が必要だ。

 

【ペイロード】ヴァージニア級がアステュート級より大きく、トマホークミサイルに加え将来の新型装備にも対応する。英艦は魚雷発射管を使うのみで、スピアフィッシュとトマホーク合計38発の発射が可能だ。ブロックVヴァージニア級は65発を搭載する。魚雷発射管から25発、ペイロード発射管からトマホーク12発のほか、セイル後方の大直径ペイロード発射管からトマホーク28発も運用するほか、AIM-9X対空ミサイルや極超音速滑空ミサイルも発射できる。

 

【調達見込み】米国が同意すれば既存のヴァージニア級ブロックV数隻をRANに比較的短期間で提供できる。RANの求める原子力安全運用基準と乗員訓練、運用方針の策定に供される。同時に8隻はオーストラリア南部で建造する。2018年のASPIレポートではSSN10隻を整備すればオーストラリアの要求水準を満たすのが可能で、乗員確保が必要とある。

 

原子炉運転では少なくとも当初数年間はUSNによる指導が必要とされ、米向け建造数隻をRANに回す想定だが、これはあくまでも米国が優先順位の変更を認めた場合のことだ。米海軍はヴァージニア級を66隻まで整備する計画だ。アステュート級では英海軍が想定する7隻での建造中止を改める必要が生まれるが、そのため新鋭ドレッドノート級原子力潜水艦の建造が遅れることになる。

 

ヴァージニア級の維持運用は米海軍実績を見ると容易なのではないか。新鋭技術の研究開発も運用隻数が少ないと長期化したり予算超過となることが多い。オーストラリアが最終的にSSNを10隻整備する場合、アステュート級なら17隻、ヴァージニア級なら76隻がそろうことになる。米海軍では静粛性を高めたヴァージニア級ブロックVの企画をすでにはじめている。

 

【補給体制】有事の補給体制も考慮すべき分野で、ヴァージニア級を採用の場合はオーストラリア海軍艦は米海軍艦とともにオーストラリア、日本、グアム、ハワイ、サンディエゴで補給を受けられる。だが英艦採用の場合は英国はAUKUS加盟国であり、スピアフィッシュ魚雷を一部のRAN/USN施設に確保しておく必要が生まれる。

 

【乗員の確保】アステュート級を選択する場合はオーストラリア国内の艦長副長人材の確保が短縮化できる。英海軍の艦長副長は原子力推進コースを修了しており、専門の原子炉技術士官も補助にまわる。これに対し米海軍の艦長副長クラスは全員が原子炉技術をマスターしており、原子炉運転をまじかに見てキャリアをつでいる。オーストラリアで原子力技術をマスターした士官が潜水艦艦長になるには15年かかるため、英米の扱いの違いが大きく作用する。

 

【技術移転の制約】輸出規制がヴァージニア級を選定した際に大きくのしかかる。米国務省の国際武器取引規制(ITAR)制度では米軍事技術の移転を厳しく制限している。ITARのためオーストラリア国民で二重国籍とみなされるものは米政府承認を取るのが困難となる。そもそも二重国籍市民は最初から対象から外されそうだ。

 

ITARの違反罰則が厳しい。米政府指定のリストに違反すると一回につき100万米ドルまたは10年の懲役が科される。ITARの想定する二重国籍者排除の原則はオーストラリアで問題になる。移民が多いためだ。これに対し、英政府の輸出規制には柔軟性がある。

 

【まとめ】見る角度により、最適な原子力潜水艦の選択はオーストラリアにとって極めて技術面で複雑かつ困難になりかねない。最も楽観的に見ても引き渡しまで数か年がかかり、オーストラリアの乗員が艦運用に自立するまで15年かかってもおかしくない。正しい選択によりオーストラリアにおける2060年代以降のSSNの運用維持が左右されかねない

 

長期にわたり影響を与えかねない政府の決断はそうたくさんあるものではなく、間違いを許容できる余地はほぼない。今回がまさしくその例である。■

 

Astute vs. Virginia: Which Nuclear Submarine Is Best for Australia?

BySam GoldsmithPublished2 days ago

 

Sam Goldsmith is the director of Red Team Research, has a Ph.D. on Australian defense industry innovation, and has published through the US Naval War College. This first appeared in ASPIs the Strategist. 

In this article:Astute-Class, AUKUS, Australia, China, Virginia-class

 


 

歴史に残らなかった機体 番外編 米空愚がこの戦闘機が正式採用されていたら歴史は変わっていた----消えた5機種を見る。

 



F-35共用打撃戦闘機やF-22ラプターの背後に選定に漏れた競合各機があった。米政府は優秀な機体を選択したことはずだが、常に選定は正しかっのだろうか。


過去の選定に漏れた機体は国防総省が対象企業の言う通りの性能の実現を信じられなかった、機体性能がその時点で必要とされた水準に達していなかったため採択されなかった。


理由はいろいろだが、選定に漏れた各戦闘機は生産されなかった。だが、選定されていれば、卓越した、あるいは他に比類なき性能を発揮していたはずの機体がある。では、その5例を見てみよう。



第5位 F-16XL もっと優秀な F-16


F-16ファイティングファルコンは40年超にわたり、米空軍戦闘機部隊の中心だが、F-16供用開始の一年前、F-16をしのぐF-16XLが生まれていた。


同機は技術実証機の域を超えた高性能を発揮し、空軍の求める高性能戦術戦闘機としてF-15Eの有力な対抗策になっていた。


F-16XL (U.S. Air Force photo)


だが製造コストと既存システムの利用という点でF-15Eに軍配が下り、同機は敗退したが、今でもF-16XLの優秀性を論じるものが多い。


主張には議論の余地があるが、F-16XLが実現していたら第四世代戦闘機として最高性能を発揮していたのだろうか。


第4位 A-12 Avenger II:米国初のステルス戦闘機になるはずだった(U.S. Navy)


1988年1月13日、マクダネルダグラス=ジェネラルダイナミクス合同チームにA-12アヴェンジャーIIの開発契約が交付された。同機はロッキードがSR-71派生型で武装型となるはずだったA-12とは別の機体だ。実現すればA-12は全翼機形状となり、ノースロップ・グラマンB-2スピリット、同社のB-21レイダー同様の形状ながらはるかに小型の機体となっていただろう。ただA-12アヴェンジャーIIは全翼機形状を採用したが、機体全容は当時開発中のB-2スピリットとは異なる姿だった。


Artist’s rendering of A-12 Avenger II



A-12は鋭角三角形形状で、「空飛ぶドリトス」の愛称がついた。A-12開発は問題なく進展している観があったが、突然国防長官(のちの副大統領)ディック・チェイニーにより1991年1月に開発中止とされた。



第3位 YF-12: 史上最高速で最サイズの戦闘機


冷戦時にSR-71ブラックバードは最も印象の強い機体だったが、高速飛行と高高度飛行だけを主眼としていなかった。事実、SR-71の前身となったのがA-12で迎撃戦闘機として計画され、その後YF-12となり、理論上は制式採用後にF-12Bとなる予定だった。


YF-12の変更点は機体前方にあり、コックピットが追加され戦闘制御士官が空対空装備の運用にあたるはずだった。


機首は設計変更でヒューズ製AN/ASG-18火器管制レーダーを搭載するとした。これは開発中止となったXF-108ように開発されたものだった。だがA-12とYF-12の最大の違いは高性能カメラ装置その他偵察装備の収容を想定した機内搭載ベイ4つだった。そのひとつに火器管制装備を、残る三つにヒューズAIM-47ファルコン空対空ミサイル3発を収納する予定だった。YF-12開発の背景は以下を参照されたい。


第2位 21世紀の運用をめざしたASF-14スーパートムキャット


F-14Dには「スーパートムキャット」の愛称がついたが、F-14近代化改修は「ST21」の名称で別に開始されており、「21世紀のスーパートムキャット」の実現を目指していた。エイビオニクス改良、推力増加、航続距離延長と全般的に性能向上を目指していたのでこの名称はあながち誤りといえなかった。


ST21、AST21ともに既存トムキャットを再生産する構想だったが、グラマンは海軍にその後まったく新規生産となるトムキャットをASF-14として売り込もうとした。


ASF-14は外観ことF-14同様だが類似点は外観だけだった。


ASF-14は推力60千ポンドでF-14Dをしのぐ重力推力比を発揮するほか、推力偏向制御、機内燃料搭載量の増加、ペイロード拡大、レーダーのほかセンサーポッド各種により状況認知能力の増加をめざし、当時の第四世代戦闘機各種より傑出した性能を目指した。


第1位 YF-23: ラプターと互角の機体


ロッキード・マーティンF-22ラプターの供用が始まり15年ほどになるが、同機には同等の性能を有する対抗機種がないままだ。だが、常にそのままではなかった。1990年代には短期間ながらその後F-22となったYF-22には同等の性能を有する対抗機種があった。それがノースロップのYF-23だ。


YF-23試作型は2機製造された。一号機はブラックウィドーIIと呼ばれ黒色塗装でプラット&ホイットニー双発でマッハ1.43のスーパークルーズを1990年のテストフライト開始時点で実現した。

Both YF-23 prototypes in flight (U.S. Air Force)


二号機は灰色塗装のため「グレイゴースト」と呼ばれ、ジェネラルエレクトリックYF120エンジン双発となった。こちらのスーパークルーズはテスト時に、マッハ1.6となりわずかながらYF-22のマッハ1.58を上回った。


YF-23はF-22のアクロバティック性能と互角だったが、ロッキードが契約を勝ち取った。ロッキード作がダイナミックな飛行ぶりを誇示したためで、同社テストパイロットは高い迎角でミサイルを発射したライ、9Gの飛行ぶりをみえつけた。YF-23でも同じような飛行ぶりを示せたのにノースロップは実行しなかった。YF-22の採択は性能より営業手法によるものと主張する向きが多く、国防関係者の目を奪ったという。■


The 5 best fighters America decided not to buy


Alex Hollings | November 28, 2021


2021年11月28日日曜日

輸送機がミサイル発射機になる。米空軍が進めるパレット弾薬類構想。

 米空軍がめざす戦力分散化の一貫としてこれまで支援機とされてきた機材も戦力を展開する手段となってきました。Breaking Defenseが以下伝えています。


2021年11月3日の空軍によるラピッドドラゴン構想の実証で実弾非装てんの巡航ミサイルが空中で発進した。MC-130Jがパレットのまま同ミサイルを投下した。(US Air Force)


空軍は輸送機を爆弾投下機に変貌させる画期的な演習を来月実施する。▼MC-130Jの標準貨物パレットで巡航ミサイル実弾をパラシュートで空中に投下する。▼この実証で空軍のラピッドドラゴンRapid Dragon 事業の第一段階が終了する。▼これは「パレット弾薬」Palletized Munition 構想の効果を確かめるのが目的だ。



高度戦力を展開する中国のような相手との戦闘の初期段階で空軍は空爆を受けることを覚悟しており、輸送用機材による人員装備の戦闘地への搬送が困難になると見ている。▼さらに、現有の戦闘機攻撃機だけでは打撃戦力に不足が生まれると想定している。▼コスト効果に優れた形で長距離スタンドオフ兵器を大量に多くの機材で運用できれば、戦闘実施の柔軟性が伸び、新たな抑止効果が生まれると空軍は期待する。▼米空軍の未来派クリント・ハイノート中将 Lt. Gen Clint Hinoteが昨年次のように発言している。「爆撃機部隊がいかに充実しようとも合同部隊が求める攻撃能力は増える一方だ」


そこでパレット搭載弾薬類を貨物機から投下する構想が生まれた。▼この考え方では「スマートパレット」をまず作り、外観上は標準パレットと同じだが、標的情報を入れ、内部に搭載する誘導兵器に標的情報発射指令を与える。▼パレットは輸送機から投下されると、落下中に各種装備を発射し、別々の標的を狙う、あるいは時差を設定しばらばらに運用することが可能となる。


ラピッドドラゴン装備をMC-130Jに搭載し空中投下の準備をした。 (US Air Force)


11月3日にホワイトサンズミサイル演習場(ニューメキシコ州)でMC-130Jから投下したパレットには長距離巡航ミサイル分離試験機が入っており、飛行実証に成功した。▼空軍研究本部(AFRL)によれば同実験でMC-130J乗員は見通し線外の中継機から標的データを受信し、情報を機内の戦闘制御装備から試験用巡航ミサイルに転送した。▼実弾を装てんしていないとはいえ巡航ミサイルへ初のデータ転送となったとAFRLは総括している。▼MC-130Jはラピッドドラゴン仕様のパレットを貨物扉から放出し、パレットはパラシュート落下を始めた。▼その後、巡航ミサイルテスト機が発射された。発射後数秒で巡航ミサイルは主翼、尾翼を展開し、上昇してから標的に向け滑空した。


空中投下後のパレット弾薬展開システムには実弾非装てんの巡航ミサイル試験機が搭載されていた。Nov. 3, 2021. (US Air Force)


12月に予定する実証では実弾の巡航ミサイルを用い、事業の開発第一段階を完了する。▼開発用試作型から実用試作型へと技術を成熟させるべく、来月の実証が成功すれば即時に作業開始する。▼ラピッドドラゴンの次の段階では装備の追加を行い、パレット展開システムの能力で兵装品複数を安全に転嫁できるかを試す。


11月3日の実証は空軍特殊作戦司令部の実戦部隊が行たっとAFRL資料にある。▼その他加わったのは海軍水上戦センター、スタンドオフ兵装応用センター、ロッキード・マーティンのミサイル火器管制部門、システィマテクノロジーズサフランエレクトロニクス&ディフェンス等だ。▼このうち、ロッキード・マーティンは25百万ドル契約を昨年交付されており、ラピッドドラゴン事業の継続を任されている。▼同社のロールオン/オフ式のスマートパレットでC-17ならAGM-158B(JASSM-ER共用空対地スタンドオフミサイル射程拡大型)ミサイル32発まで搭載可能とロッキードは説明している。■



US Air Force one step closer to turning cargo planes into makeshift bombers

Next month, the Air Force will see if it can launch a live cruise missile from a pallet that was air dropped by a cargo plane.

By   VALERIE INSINNA

on November 19, 2021 at 12:19 PM


2021年11月27日土曜日

英空軍が合成燃料の作戦運用構想を示し、前線や艦艇内での燃料供給の可能性に触れた。一方、小型機には電動化技術の進歩が著しい。軍もゼロエミッションを目指している。

Zero Petroleum

 

ロンドン---英空軍トップが考える未来の姿では前方作戦基地や艦艇内で航空機用合成燃料を製造し、ネットゼロエミッションを2040年までに実現する。

 

英空軍の環境目標でエコフレンドリーなジェット燃料の実用化がカギとなる。だが、サー・マイク・ウィグストン空軍中将Air Marshal Sir Mike Wigstonはフリーマン航空宇宙研究所での11月24日スピーチで新技術の実用化で生まれる作戦運営上の利点にも触れた。

「再生可能発電は太陽光や小型水素電源とし、莫大な量の燃料や補給活動を不要にし、補給の脆弱性や苦労もなくなる。この動きをさらに進め合成燃料の製造施設を前方配備すれば、基地あるいは艦上でジェット燃料を製造できる。HMSクイーン・エリザベス空母打撃群で燃料を自給できる」

この構想はさほど突飛なものではない。

RAFの迅速戦力室Rapid Capabilities Office (RCO) が合成燃料製造技術に予算を投入しており、試行中の方法のうち少なくとも一方式が移動可能になると期待している。

今月初め、RAFは小型機イカルスC42を世界で初めて100%合成燃料で飛行させた、燃料は英国の小企業ゼロペトロリアムZero Petroleumが製造したと発表した。

ゼロペトロリアム以外の企業が手がける合成航空燃料二つ目の事業の詳細も間もなく発表される。

「RAFは民間技術系企業数社と組んでおり、12月初旬にもこれ以外の燃料プロジェクトの追加情報を開示したい」(英空軍報道官)

ゼロペトロリアムの合成燃料の原料は空気と水だ。まず水から水素を、空気中の二酸化炭素から炭素を抽出する。風力や太陽光の再生可能エナジーで水素と炭素を結合させる。加熱した金属触媒で圧力をかけて合成燃料が生まれる。

同社はスコットランドの小島に製造プラントを数週間で設置し、今回のフライト用燃料を供給した。

RAFではエタノールやリサイクル廃油など飼料を原料のサステナブル航空燃料sustainable aviation fuel (SAF)をと使用しているが、高コストと小規模製造のため、実用性に疑問が出ていた。

「安価かつ供給に心配がなくなれば利用したいが、中短期的には製造規模が低くサプライチェーンも不足気味だ。この関連でいうと、世界規模のジェット燃料消費量は年間およそ320百万トンだがSAFの生産規模は世界全体で10万トン程度で拡大の気配はなく、スポット価格は通常のジェット燃料の10倍程度というのが現状だ」(ウィグストン中将)

RAFでは皇太子をヨルダンまでA330VIPジェットで運んだが、同機にはSAF混合燃料を使用した。

ウィグストン中将は一部機種で「100%SAFでフライトをまもなく実施する」とも述べた。ただし、合成燃料のほうが「期待が持てる代替手段」となり、SAFより効果は大きいとした。

「合成燃料製造方法で新しいアプローチが登場しており環境にやさしく持続可能となる。外国に依存せず確保できる。また化学的に純粋度が高い燃料で排気がきれいとなり、整備も容易となり、長寿命を実現し、騒音排熱など目視上の特徴が低くなる」

サステナブルあるいは合成燃料は石油製品やジェットエンジンをグリーンにする手段として唯一の選択肢ではない。電動や水素推進方式も別の選択肢となり、小型軽量の訓練機への応用が考えられると同中将は述べた。

「初のゼロエミッション運用を2020年代末までに実現するのがねらいだ。機体は訓練生、大学生候補生の飛行訓練初期段階に使うのに最適だ。これに成功すれば、世界初のゼロカーボン機が軍用に登場することになる」

RAF広報官からは「各種技術を比較検証しており、新技術の理解を深めている」とし、「これにより未来のコンセプトと要求内容を賢いユーザーとして深める」との発言もあった。

英空軍は90機残るグロブ製チューダーT1練習機の後継機の選定を急いでいる。

一方ロールスロイスは電動フライトで一定の進展が生まれたと11月19日に発表し、世界航空スポーツ連盟に全電動機Spirit of Innovation で世界記録三つの更新データを報告したという。

データでは同機は最高速度555.9 km/h (345.4 mph)を記録し、従来の記録 213.04 km/h (132 mph)を大きく破った。

英国防省のボスコムダウン試験飛行施設で同機は532 km/h (330 mph) を達成し、高度3千メートルへの上昇も202秒と従来より60秒短くできたと同社は発表。■

British Air Force chief envisions synthetic fuel produced on deployments

By Andrew Chuter

 Nov 25, 04:02 AM

 

2021年11月26日金曜日

建国間もないイスラエルが核兵器開発の発足に成功した背景には国境を越えたたくみな資金調達ネットワークがあった。

 

The Japan Times

 

 

スラエルの核兵器取得の動きは1948年の建国にまでさかのぼる。建国の祖デイヴィッド・ベングリオンはホロコーストの恐怖とあわせアラブ周辺諸国の脅威を痛感していた。核兵器こそユダヤ国家存続のカギを握る最後の手段ととらえ、イスラエルに勝る通常兵力を周囲国が投入した場合をベングリオンは想定した。ただし、創設まもないイスラエルには必要な技術も資材もなく国産核開発がままならないことだった。そこでイスラエルは海外調達をめざした。幸いにもその願いを実現する条件が生まれた。

 

 

1950年代中ごろにフランスはアルジェリアを自国領土ととらえていたが、アルジェリア国内の抵抗勢力がエジプトから支援を受け強力となり、フランスの支配力は危機に陥った。そこでフランスはイスラエルの協力でアルジェリア情勢の情報収集を進め、代償としてフランス製通常兵器類を供与した。1956年には核技術も対象になったのは英仏両国が軍事介入の動きを示したいわゆるスエズ運河危機の発生だ。

 

ベングリオンはそもそもイスラエルをまきこませるつもりはなかった。だがフランスは小型試験原子炉の供与をもちかけた。スエズ侵攻の企ては米国ソ連双方がイスラエル、フランス、英国へゆさぶりをかけたため不発に至った。フランスはイスラエルを超大国から守れないことを露呈した。撤退合意に先立ち、イスラエルはフランスに核協力の強化を求めた。フランスは大型のプルトニウム増殖炉とともに再処理工場の提供に応じた。これでイスラエルは原爆製造に必要なプルトニウム獲得のめどがついた。あとは重水だけだ。

 

核兵器製造に必要な技術を他国にここまで提供した例はそれまでなかった。ただしベングリオンは核合意実施に必要な資金を用意立てする必要があった。ディモナ核施設の建設費用は不詳だが、イスラエルはフランスに1960年時点のドル価格で80から100百万ドルを支払ったとみられる。当時のイスラエルには大金だった。さらにベングリオンの心配は核開発予算を国防費から流用すればアラブ諸国に対し有効な通常兵力の整備がままならなくなることだった。

 

そこでベングリオンは民間資金でフランスとの合意を実現する方法を考えた。この経緯はマイケル・カーピンがThe Bomb in the Basemenで説明している。ベングリオンは「エイブに電話しろ」と側近に伝えた。エイブとはニューヨークのビジネスマン、エイブ・ファインバーグのことだ。成功した財界の人物で慈善活動家としても著名なファインバーグは米国ユダヤ社会の中心人物であり、民主党とつながっていた。米国の第二次大戦参戦に先立ち、ファインバーグは在欧ユダヤ住民のパレスチナ移住の資金集めを展開していた。終戦後にヨーロッパでホロコースト強制収容所を目の前にしたファインバーグはホロコーストの生存者をパレスチナへ移動させたが、当時は英国が不法ユダヤ移住対策で封鎖網を敷いており、これを出し抜く必要があった。この際の活動を通じ、のちにイスラエル国家運営で重要人物となった各人と人脈ができた。帰国するや、ユダヤ国家の独立直後に国家承認を与えるようハリー・トルーマン大統領へのロビー活動を展開した。見返りにトルーマン再選に向け資金集めをした。

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こうして1958年10月にベングリオンがファインバーグにディモナ合意実施に必要な資金調達の支援を求めたのは自然な流れだった。ベングリオンは以前から米国内のユダヤ指導層にイスラエルのため資金集めを依頼していた。独立をめぐる武力衝突を予期してベングリオンは1945年にニューヨークに行き、パレスチナ地区のユダヤ勢力向け武器の調達資金集めをした。この目論見は成功し、カーピンによれば「生まれようとする国家に秘密のうちに在米富裕層17名に『ソネボーンインスティテュート』のコードネームが与えられ、各構成員は数百万ドル相当の寄金を提供し、武器弾薬のほか、機械類、病院器具薬品類さらに輸送用船舶まで調達した」。

 

ファインバーグは17名のひとりだった。1958年にソネボーンインスティテュートに加え北米欧州のユダヤ人指導層にディモナ各プロジェクト用の資金調達を要請した。おおむね成功し、カーピンによれば「極秘のうちに資金集めが2年続き、富裕層25名が40百万ドルを拠出した」。

 

ではファインバーグの貢献はどこまでイスラエルの核開発を助けたのだろうか。再び、カービンから引用する。

 

ベングリオンがファインバーグでここまでの資金規模を各国のユダヤ人社会から調達できると確信を持てなかったら、フランス合意の実現はおぼつかなかっただろう。1950年代60年代のイスラエルには高度技術入手の代金を支払う余裕がなく、ディモナ原子炉や核抑止力を自国資金で賄うのは不可能だった。

 

ただし、ファインバーグの米イ関係での関与はここで終わった。民主党が1960年にホワイトハウスを奪回すると、ファインバーグは非公式大統領顧問となり、ケネディ、ジョンソン両大統領に仕え、1961年にはファインバーグがベングリオンに米国によるディモナ査察を受け入れるよう説得していた。■

 

This Is How Israel Got its Nuclear Program Started


by Zachary Keck

 

November 25, 2021  Topic: Israel Nuclear Weapons  Region: IsraelUnited States  Blog Brand: The Reboot  Tags: IsraelMilitaryTechnologyWorldNuclear Weapons

 

Zachary Keck (@ZacharyKeck) is a former managing editor of The National Interest.

This article is being republished due to reader interest.


2021年11月24日水曜日

RQ-180、SR-72(とおぼしき機体)、さらにX-37も登場させてのISR機材の変遷をたどる米空軍の広報ビデオが公開されています。極秘機材が大好きな向きにはたまりませんね。

 


SR-72米空軍公開のビデオからデジタル採取したSR-72と思われる機体

 

 

の度公開された米空軍の広報ビデオに興味深い対象が登場している。極秘扱いのSR-72とRQ-180だ。



ビデオはYouTube上で2021年11月8日に米空軍のArms Center of Excellence (PACE)が「今日につながる伝統、ISRとイノベーション」の題で公開したもので、米国最先端のISR(情報収集監視偵察装備)の各事業に触れている。

 

https://youtu.be/xbqWdXzV-Bk

 

 

三分足らずの短編でISRミッションの進化を創世期から見せている。2分25秒でRQ-4グローバルホークが飛行する姿を見せた後、ステルス全翼機形状の無人機が現れ、2013年に出たAviation Week & Space Technologyで表紙を飾った想像図とうり二つだ。この機体の姿に次のナレーションがつく。「気球、複葉機のあとを継ぐのがホワイトバットだ」とあり、RQ-180には「グレイトホワイトバット」のニックネーム(あるいは1995年の映画に登場したシカカとも呼ばれる)がつき、独特の形状は新型スパイ機を示している。

 

ただし、最新ビデオに登場した機体形状が本当にRQ-180なのか疑わしい点もある。カリフォーニアで昨年、フィリピンで今年前半に目撃された姿と異なるからだ。つまり登場した機体は実はRQ-180でなく、類似機のものであり、公表に備えているのかもしれない。

 

これがRQ-180ホワイトバットなのか。USAFビデオからスクリーンショットした。

 

その直後に興味深い機体が登場している。2:34時点で、すっきりしたステルス機体が暗いハンガーに写り、これがSR-71後継機として「ブラックバード二世」と呼ばれるロッキードのSR-72なのか。

nd the presumed date for a first flight possibly in 2025.

SR-72は無人極超音速情報収集監視偵察機として、また攻撃機材としてマッハ6飛行を狙う。一部に目撃談がある以外はほとんど情報がないものの、噂だけがとびかい、2025年に初飛行するといわれている。

 

ただし、ビデオに登場した機体はコンピュータグラフィックで実機と細部が異なる可能性もあるが、そもそも同機に関する情報が極めて乏しい中で登場したイメージには注意を払う価値がある。SR-72は空軍が2017年に創設70周年を祝って発表したポスターにも姿を現している。

 

さらに興味深いことに指揮所らしい場面で同じく極秘のX-37B宇宙機の外形が見える。

X-37Bの外形が宇宙機の指揮司令センターと思しき場所のスクリーンに写っている。

 

 

X-37BについてはここThe Aviationistで記事を量産しており、今回は想定される同機のミッションに関するくだりを再録したい。

 

米空軍のX-37BはまずNASAで1999年にテストに供されたが、2004年に国防総省が引き取った。運行可能なX-37Bが2機、X-37Aが一機あるといわれる。各機のミッション内容は極秘扱いで宇宙空間で極秘任務についているとされる。

 

各機のうち、X-37Bが空軍で「運用テスト」に供され、X-37AはDARPAとNASAが同様に極秘任務に使っているといわれるが情報は極めて乏しい。

 

公開情報はX-37BとX-37Aをともに「テスト」機材としているが、X-37Bは極めて長期の宇宙飛行に供されている。

 

X-37Bのミッションとして想定される三つの説がある。

 

まず、X-37Bを宇宙配備武装プラットフォームとする説だ。軌道上から武装を再突入させ標的に投下させる。あるいは宇宙配備の商用GPS衛星群の防衛に供する。ただし、この説は大部分の専門家が否定している。

 

次の説はより可能性が高い。同宇宙機を情報収集機材だとするものだ。通信情報の収集として軍民の通信衛星、監視衛星を対象とする。地球周回軌道上に2,271もの各種衛星があり、各種活動に供されており、この説は現実性が一番高い。また地上マッピング他監視任務についているのかもしれない。

 

X-37Bの搭載ペイロードはセスナ・キャラバン並みと大きく、設定を調整できることから、同機は「ミッション適合型」なのかもしれない。つまり、各種関心活動に応じ仕様を変更できるというのだ。直近のミッションが異例なまで長かったことから同機から地上へ情報伝達が可能となっているを示している。

 

最後が最も可能性が低い。X-37Bは試験機の域を脱していないとするもので、衛星を軌道に放出する、あるいは宇宙空間で衛星を自動支援する機能のテスト用だとする。ただし、同機に投じてきた予算と時間を考えるとこの説が成立する余地は少ない。X-37B運用の大部分はDARPAが担当しており、ヴァージニア州アーリントンに本拠を置く同期間は米政府の秘密機関のひとつだ。

 

 

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November 23, 2021 Drones, Military Aviation

DAVID CENCIOTTI