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2017年11月1日水曜日

戦闘機パイロット養成の民営化に向かう米空軍の事情


なるほど米空軍も背に腹は代えられないほど追い詰められてきたわけですか。今回の民間委託対象は高度空戦訓練だけでないようですが、どうせやるならもっと大幅なアウトソーシングはできないのですかね。第四世代機の中古なら日本のF-4という手もあるでしょう。国有財産の処分手続きがこの度変わったのでまんざら可能性がないわけでもないでしょう。民間業者の狙いは中小国の訓練業務の一括業務受注ではないでしょうか。

 

The Air Force is getting ready to privatize a big part of its training program

米空軍は訓練民営化にむけ準備中
pilots flight line air militaryUS Air Force
Foreign PolicyPaul McLeary, Foreign Policy
  1. 米空軍エリック・「ドック」・シュルツ中佐がネヴァダ州での訓練飛行中に9月初め死亡したが、米空軍が事故の事実を認めたのは三日後だった。空軍は中佐の乗機機種で論評を拒んだ。
  2. 空軍が新型極秘機材の存在を明らかにしたくないのではとの観測が生まれた。F-35墜落の事実を軍が隠そうとしているとの観測もあったがこれは軍が後日否定している。
  3. その後、シュルツが外国製機材の飛行評価にあたる空軍部隊に所属しロシア製Su-27で空戦訓練中に死んだとの報道が出ると観測が一気に静まった。
  4. 航空機愛好家がSu-27がネリス空軍基地上空を飛行する様子をとらえることが以前からあり、同基地にロシア戦術を採用した訓練飛行隊があることが知られている。ただし冷戦中と比較すると今のロシア機材の利用は控えめなものに過ぎない。
  5. 1970年代80年代にかけ米空軍は極秘飛行隊通称レッドイーグルズでソ連製機材を飛ばしパイロットに敵対戦に備えた訓練を行っていた。だが同隊は1990年解隊され残存機はテスト飛行隊に移管された。シュルツ中佐が所属したのがはその一つだった。
  6. レッドイーグルズは残存しないが、海外機材をアグレッサー部隊で運用するニーズは残ったままだ。近年のロシア機材の性能向上やウクライナ侵攻(2014年)を受けてニーズはソ連解体以後最高水準になっている。
  7. その結果、米空軍航空戦闘軍団(ACC)は民間企業所有機材を訓練に利用する「敵部隊」“adversary air”の活用を検討している。
  8. 空軍から正式「事前要請書」が今週発出され、業界に正式な競争提案を求めようとしている。契約規模は数十億ドル相当とうまみのある内容ですでに海外機材の買い付けに動く数社があらわれた。
  9. 米空軍の基本業務の一部を民間企業に委託することになり過去からの決別を意味する。
  10. ACC司令官ジェイムズ・ホームズ大将Gen. James Holmesは今回の外部委託の主な理由にパイロット不足の悪化を挙げている。
  11. ISIS相手の航空戦が続く中でパイロットを通常任務から外すのはアフガニスタン情勢の悪化、イラン・北朝鮮との緊張増大の中では考えにくい。「実戦戦闘機部隊のほうがアグレッサー飛行隊より重要だ」とホームズは述べ、20機から24機とパイロットがアグレッサーに取られることに言及している。
AP_041118014814旧ソ連国旗を掲げるのは第64アグレッサー飛行隊のF-16ファイティングファルコンだ。ネリス空軍基地にて。 November 16, 2004. Associated Press
  1. アグレッサー飛行隊は冷戦の産物で国防総省はコンスタントペッグの名称でソ連機材をひそかに集めていた。レッドイーグルズはここから生まれ、MiG-17、MiG-21、MiG-23を運用した。解隊後も空軍はソ連機材をテスト評価用に調達していた。
  2. 各種筋によれば空軍にはMiG-29数機がモルドバ経由で在籍しており、Su-27二機もあり、シュルツ中佐の命を奪ったのがこの一機と見られる。
  3. ロシア機材の取得はソ連崩壊後に容易になったと内部事情筋が述べるが、機材を飛行可能に維持するのは大変だという。スペアパーツ取得が困難だった。
  4. 非ロシア製機材にロシア機のふりをさせることで空軍はこの問題に対処中だ。「政治的判断でソ連製以外の機材に向かっているのでは」とロシア機を取り扱う民間業者のオーナーが述べている。空軍は「大企業により保守点検され運用可能になっている」のが望ましいと考えているという。
  5. だが機体価格だけが契約を推進するのはではない。軍用パイロットが手に入るかも要素だ。米空軍のパイロットで訓練ミッションに回せる余裕が急速に縮まっている。
  6. パイロット不足1,500名になっており、訓練専門飛行隊を維持する余裕がなくなっている。今後のパイロットには新機種を相手に模擬空戦する余裕が減っていることを意味する。
  7. 可能な限り多数のパイロットを飛行させるため契約業者に「最短時間で準備させ費用対効果が最も優れる型」を期待するとACCで航空作戦顧問を務めるスティーブン・ブラネンは述べる。その試算では契約は年間5億ドル相当になる。「あくまでも戦闘機パイロット不足による措置」だという。
  8. 数十億ドル規模の商機を狙い二社が外国機材調達して受注を狙うほか数社も参画を狙っている。
  9. 食指を動かす対象は非ロシア機だけだ。ヴァージニア州に本拠をおく航空戦術優位性企業Airborne Tactical Advantage Company (ATAC) はフランスでミラージュ戦闘機63機購入しており、ドラケンインターナショナルDraken Internationalはスペインから用途廃止ミラージュ20機を導入した。
  10. 民間企業に旧式機でロシアや中国の第五世代機を真似させるのは大胆だがリスクもある。とはいえ空軍が必要と認識しているのはパイロット不足とF-35の大量購入や新型ステルス爆撃機の導入で予算も不足気味だからだ。
  11. 空軍は年間6万時間の訓練のうち約3.7万時間を民間委託に回す案を検討中で、民間企業には150機ないし200機が必要との試算がある。一社で賄いきれない規模で、受注は数社でわけあうかたちになりそうだ。前述のATACとドラケンが業界最大手だ。
  12. ドラケンは80機ほどを所有しており、ネリス空軍基地で運用中だ。一方、業界最大手のATACは90機を持ち、海軍の空母打撃群が長期間配置に向かう前に飛行訓練の相手をしている。
  13. だが各社保有機では最新の中国やロシア機の性能に匹敵しない。アグレッサー飛行隊はF-16やF-15を飛ばしている。
  14. 業者は第二世代、第三世代機を飛ばすことが多いが、軍は第四世代機を望んでおり、実戦の雰囲気をパイロットに味合わせたいとする。ミラージュは不合格だがエイビオニクス改良で第四世代機を真似させようという動きがある。
  15. ATACのCEOジェフリー・パーカーJeffrey ParkerがForeign Policyに「フランス空軍のほぼ全機」のミラージュを予備部品6百万点ともに購入し、空軍海軍の契約を見越し機体改修中と述べており、米国以外にも民間企業による訓練実施のニーズに期待している。
  16. パーカー他は海軍が第四世代練習機を求める要求を急ぎ出してきたのは空軍要求内容が漏れたためと指摘している。空軍が海軍と限られた第四世代機材の争奪戦の様相を示す中でATACやドラケンがフランス、スペインから機材手当てしたことが一層の供給不足につながっている。
  17. だが業界ウォッチャーは空軍の要求内容に業界が答えられるのは数年先と見ており、空軍は当面は妥協を迫られるはずと見ている。「需要が供給を上回っている」とパーカーは言い「中古軍用機の引き合いが増えている」のは新型高性能機材の単価が中小国の負担可能範囲を超えているからだ。
  18. 価格以外にも旧式機と契約パイロットで高性能機の真似ができるのか、さらに高度訓練を受けた空軍アグレッサー部隊の代わりを務められるのかという疑問も残る。「実際の戦闘同様に訓練が必要だ」と元戦闘機パイロットのローレンス・スタツリエム米空軍退役少将 Maj. Gen. Lawrence Stutzriemは述べている。
  19. スタッツリエムは冷戦真っ盛りの時期にロシア戦術を採用した空軍の同僚相手に長年飛んでおり、今何が足りないかを認識している。当時は「最高のパイロットにアグレッサーの任務が与えられたものだ」と言い、ロシアの教義や戦術を懸命に勉強していたことで空軍は「通常より優れたパイロットだと認定していた」という。
  20. 航空戦闘軍団司令のホームズ大将は民間委託企業を募るのは望ましいことではないが予算人員両面で不足に直面する空軍に実施可能な唯一の方策だという。「臨時措置で様子を見たい」とし、「いつかは空軍による実施に戻す」と述べた。
  21. 米パイロットは同等の実力がある敵を想定した訓練を受けてきたが、受託業者が旧式機を飛ばせば「現在以下の水準になるのは明らか」とも述べいる。
  22. だが現時点では予算もパイロットも十分でなく実施案のめどもつかない。少なくともここ数年は空軍内部で実施していた中核業務は受託業者にまかせるしかない。「内部実施に戻すまで数年かかるだろう」とホームズも認めている。■
* Sharon Weinberger contributed reporting to this article.
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2016年7月16日土曜日

米空軍戦闘機パイロット不足700名、空軍長官・参謀総長の対応策とは

景気がよく軍パイロットが残らないため戦闘機パイロットが不足とのことで、空軍にはつらい状況のようですが、無人機の拡充に進む契機のひとつにもなりそうですね。人口減少が加速する日本では大丈夫なのでしょうか。空軍長官も参謀総長も専門サイトに見解を発表するのは米国のすごいところで日本にも参考になるはずです。

The US Air Force Is Short 700 Fighter Pilots. Here’s Our Plan to Fix That.

At Bagram Air Base, Afghanistan, a U.S. Air Force F-16 Fighting Falcon “Triple Nickel” aircraft pilot assigned to the 555th Expeditionary Fighter Squadron from Aviano Air Base, Italy, awaits weapons check, July 14, 2015.U.S. AIR FORCE PHOTO BY TECH. SGT. JOSEPH SWAFFORD/RELEASED
  • BY DEBORAH LEE JAMES
  • GEN. DAVE GOLDFEIN
  • JULY 14, 2016
かつてない多忙な中で規模を大幅に縮小した米空軍はパイロット賞与を増額し、家族と過ごせる時間をより多く与え、民間航空部門や好調な経済と対抗すべきだ。

ペンタゴンの様々なリーダーシップの現場でいろいろ考えさせられる場面がある。その一つに米経済に良いことが全志願制の米軍に深刻な問題となる、ということがある。低失業率で活発な雇用は国にとっては朗報だが各軍には隊員の新規確保と人材つなぎとめが難題となる。

  1. 具体的には戦闘機パイロット不足が拡大中だ。500名から700名が今年度末に不足すると見られ、世界各地で作戦展開の必要水準から21%足りない。これだけの乖離は深刻で注視すべきだ。しかも空軍だけではない。海軍、海兵隊も同様の問題に直面しているのは民間エアライン業界が定年パイロット退職に伴い大規模な採用を続けているせいだ。また新基準でエアラインパイロットの年間操縦時間が1,500時間上限となり軍が養成したパイロットが改めて注目されている。

  1. ただしエアライン業界だけが空軍パイロット不足の原因ではない。飛行時間の大幅削減はペンタゴン予算の削減が出発点だが、海外勤務が終わると急に手取り収入が下がり生活を切り詰める必要があることも一因だ。間違いなく問題は悪化の一方で解決の兆しは見えない。

  1. 筆者両名の責務はリーダーとしてこの課題に正面から立ち向かい、良識ある方法で原因を根本解決し、空軍隊員各位に隊に留まる確たる理由を実感させることだ。軍パイロットも民間パイロットも国の安全と商業活動でそれぞれ重責を担う必要不可欠な要素だ。

  1. 空軍はパイロット不足を以前も経験しており、民生部門の雇用ピークに影響される周期現象と理解しているが、今回の影響は深刻だ。空軍は25年間に渡り戦闘を継続しており、ここまで業務が多忙になったことはなく、一方でここまで規模を縮小したことはない。そのためパイロットのみならず人員全般の不足への対策で判断誤りのk許容範囲がない。民生部門なら既存の労働市場に求人すれば欠員解消できるが、軍では技能専門職を自ら育成する必要があり、相当の期間を要する。

  1. 以上を念頭に現状を逆転しパイロットをつなぎとめる策を果敢に実行に移す。新規パイロット養成を拡大し、第一線飛行部隊で時間を食う間接業務の負担を軽減し、飛行手当の拡充を図る。議会も問題の深刻さを認識し空軍に残る中堅パイロットの年間賞与を増額する提案が議会に提出されている。賞与25千ドルは1999年から据え置きのままだがインフレで価値は下がっている。

  1. 経験から金銭がすべてではないとわかっているが、軍人が民生部門の給与水準に魅力を感じると軍にとどまるか去るかの分かれ目になるのは棒給額だ。今のところ賞与を受け取るのは少数の戦闘機パイロットの男女だけで金額も低い。必要な措置を講じ水準を引き上げ意味のある形にしたい。

  1. 軍の一員が一番幸福感を覚えるのは装備が十分で、予算手当が十分かつ必要な支援を得て持てる力を十分発揮できる時だ。そこで追加措置を取る。戦闘任務から帰還する飛行隊隊員には家族と過ごす時間を十分に与えるとともに操縦訓練予算を潤沢に確保してキャリアを引き上げる道を開く。飛行時間の問題の課題のひとつは整備要員を確保し機材を飛行させることだ。

  1. 人員対策を各種検討し、整備人員不足のため機材を遊ばせておくことがないようにしたい。パイロットも整備員もともに民生部門が狙う人材であり、空軍はエアライン業界と協議し、国防のニーズと民間部門のニーズを調整したい。さらに言うまでもないことだが、健全な方向性に留まる中で予算強制削減措置の再発の余裕はないのだ。

  1. 現時点で特に重要なのはパイロット全体に実行可能な対策を打っていると示すことだ。米国、友邦国にとって世界が危険な場になっている事実そのものは変えられないが、空軍力は統合運用の中で世界各地で安定の実現手段である。経済活況の中で空軍の有能人材が引きぬかれていると嘆くばかりではダメだ。

  1. なすべきは各隊員に任務の意味を思い起こさせ軍に残る確たる理由を与えることだ。


デボラ・リー・ジェイムスは空軍長官、デイヴ・ゴールドファイン大将は空軍参謀総長。