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2022年6月12日日曜日

ウクライナ戦から最初に得られた知見:統合防空ミサイル防衛体制への教訓

 Neptune Anti-Ship Missile

  ネプチューン対艦ミサイルImage Credit: Creative Commons.

 

シアとウクライナの死闘が新局面を迎えているが、米国と同盟国・同志国はこの熱い戦いから得られた重要かつ新しい洞察に耳を傾けるべきだ。100日以上にわたる激戦の後、米国と同盟国の統合防空ミサイル防衛(IAMD)に対する明確かつ説得力のある見解が明らかになってきた。ミサイルと無人航空機(UAS)双方に対抗するIAMDの有効性は、今回の紛争における重要要素で、発射側と防御側の競争は進化し続けている。この力学と得られる重要な教訓を明確に理解することは、米国と同盟国が欧州、インド太平洋、その他世界各地で作戦アプローチを強化・修正しながら、能力整備し能力不足を緩和するため不可欠だ。ただし、今回はオープンソース情報で得た初期の洞察と予備的な教訓であるため、詳細な評価とより完全なデータからの洞察と修正が今後予想される。

 

 

ミサイルの脅威とIAMD

ロシア=ウクライナ紛争では、大量のミサイルやUASによる攻撃例が確認されている。ロシアは弾道ミサイル(主に短距離弾道ミサイル(SRBM))、巡航ミサイル、極超音速ミサイル、空中発射弾道ミサイルの合計2,100発以上を発射している(2022年5月25日現在)。さらに、各種プロファイルを持つミサイルと補完的な能力(例えば、サイバーやUAS)を投入した大規模かつ複雑な一斉発射が、同時またはほぼ同時にターゲットを攻撃するため使用されている状況には懸念すべき理由がある。

 使用されたミサイル種類の決定的な内訳はまだない。戦前のロシアのSRBM用TEL(Transportable Erector Launcher)の在庫から、TELの大部分(約150基)はイスカンダル(NATO名称イスカンダルMまたはSS-26ストーンなど)用の可能性が高い。イスカンダル砲台はSRBMと巡航ミサイル双方を発射できるが、大半はSRBM用だろう。ロシアの巡航ミサイルは、地上(TELを使用)、爆撃機や戦闘機による空中発射、水上艦や潜水艦による海上発射が可能だ。このため、紛争前のSRBMミサイルの発射台数、初期のミサイル攻撃やミサイル攻撃報告(主に巡航ミサイル攻撃と思われる)に基づき、ウクライナに発射されたロシアのミサイルの60%以上が、各種の巡航ミサイルであった可能性が高い。ロシアが発射した巡航ミサイルは、100日目までに120発と約1割が撃墜されている(ウクライナ政府関係者)との報告から、1000発を超えているとの見方もある。

 以前の報告では、巡航ミサイルが高い比率で目標に命中していないとされていたが、最近の米北方軍司令官グレン・ヴァンヘルク大将General Glen VanHercの証言で、この点に疑問が持たれている。 ウクライナは巡航ミサイル撃墜に一定の成果を上げているが、発射元(あるいは「射手」)を攻撃する能力がない。ミサイル(「矢」)を1発ずつ撃ち落とすことは、対ロシアIAMDの長期戦略として効果的ではない。発射場、発射装置、関連機器(レーダー、BMC2など)の破壊に成功すれば、もっとインパクトがあり、民間人、軍人、重要資産を防護できる。

 米国と同盟国(欧州をはじめ世界各国)が学ぶべき重要な教訓は、適切なIAMD能力だけでは不十分であることだ。IAMDシステムは、十分な規模を獲得し、紛争が始まる前に十分な態勢を整え、攻撃から保護されるべきだ。健全な態勢を整えるには、資産の分散、冗長性のある指示や警告に基づく分散、保護が必要だ。IAMD資産(S-300、PAC-3、THAADなど)の保護には、硬化シェルターやカモフラージュ-コンシールメント-ディセプション(CCD)などの受動的防御手段、対UASや巡航ミサイル防衛などの能動的防御、発射直後の反撃能力、敵発射機に対する報復攻撃能力などが必要である。イスラエルのミサイル防衛計画の父であるウジ・ラビン博士 Dr. Uzi Rabinによると、ウクライナ軍は初期に「S-300ランチャー22基と他の短距離地上配備型航空防衛(GBAD)砲台17基を失った」。 Jane’sのオープンソースのバトル・ダメージ・アセスメント(BDA)では、ウクライナのIAMD資産の防御力が相当低かったのを、受動的能動的両面で示しており、ラビン博士の報告書もこれを検証し、「効果的な防御がないため、ウクライナの空軍基地、物流センター、弾薬庫はロシアの深部攻撃用精密巡航ミサイルに大きく晒された」と述べている。

 

教訓と今後の方向性

ウクライナの能動的な防空・ミサイル防衛は、ロシアの脅威と航空戦力に対し、多くの専門家が戦前に考えていた以上の成果を上げたようだ。原因をロシアの失敗とウクライナの成功に求めてる専門家が多いが、まだ確定していない。とはいえ、紛争初期の数週間で、IAMDシステムと主要航空基地を失ったにもかかわらず、ウクライナ全土の既成事実づくりを阻止する点でウクライナ側の成功が重要要素だったようだ。

 米国、同盟国・同志国は、今回の紛争の終了後も、IAMDの教訓を分析する必要がある。分析から、IAMD資産の受動的防衛と、UAS、巡航ミサイル、弾道ミサイルに対する複合的かつ能動的防衛に関する勧告が出る。発射システムを軽減または排除するため、JP 3-01に規定されているような残存装備からの発射および攻撃作戦のための強化されたアプローチと、報復攻撃能力を開発する必要がある。さらに、この紛争におけるUASと対UASの相互作用、IAMD資産防衛の意味について包括的評価が必要だ。

 

 

 ロシア・ウクライナ紛争は、米国、同盟国・同志国のIAMDへのアプローチ、特に巡航ミサイルと UASに対する能力格差が大きいことを露呈している。米国および同盟国の各軍は、現在のところ、短期解決策をほとんど提供していない。例えば、米陸軍の間接火器防護能力増分2-迎撃ブロック1(IFPC 2-I)は、巡航ミサイル防衛能力や能力を実戦配備しておらず、米国外での配備やプレゼンスに何年もかかっている。対UASでは、米陸軍はIM-SHORADを記録的な速さで配備し、機動低速小型無人航空機統合防衛システム(M-LIDS)など新しい対UASシステムを採用しており、陸軍長距離持続センサー(ALPS)など重要センサーの開発も大きく前進している。その他IAMD能力にも同じような緊急性を促すべきだ。さらに、IFPC 2-I の遅延による能力ギャップを埋めるために、米海兵隊のアイアンドーム、戦略能力局(SCO)の超高速地上兵器システム、国家最新鋭地対空ミサイルシステム、日本の陸上自衛隊の中SAM、指向エナジーソリューションなど、他の選択肢も検討する必要がある。最後に、フランス製ミストラルがロシア巡航ミサイル撃破に成功したなど、携帯型防空システムの報告も少なくない。こうした技術革新も分析すべきであり、米国、同盟国・同志国のため、より専門的なシステムが実戦配備されるまでのつなぎとして追求すべきものもある。

 米国、同盟国・同志国が欧州とインド太平洋における防衛能力を強化するためには、完全統合された戦闘管理指揮統制(BMC2)も開発、実戦配備せねばならない。BMC2は、弾道、巡航、UASの脅威に対する防空とミサイル防衛を統合するよう設計とし、各軍およびパートナー国の統合を含める必要がある。MDAは弾道ミサイル防衛分野で成功を収めており、複数のミサイル脅威に対する地域的な防衛設計をサポートするアーキテクチャの開発で大きな進展を遂げている。MDAは、米国欧州司令部(EUCOM)、米国インド太平洋司令部(INDOPACOM)、国土安全保障省の支援を進めている。進行中の開発は、JADC2(Joint All-Domain Command and Control)の構想を最も具現化したものと言えるそうだ。C-sUASと従来の航空・ミサイル防衛(AMD)をBMC2で接続し、各軍や同盟国を完全統合するため、さらに作業が必要だ。

 

Kalibr Cruise Missile

カリブル巡航ミサイルを発射するロシア艦Image Credit: Creative Commons.

 

限定的ながらウクライナでの能動的防空・ミサイル防衛の成功は、特に巡航ミサイル防衛と対UASのため、IAMDを大規模展開する強力な根拠となる。米国では、対UAS 能力の成功の道筋がいくつか見えてきているようだ。しかし、巡航ミサイル防衛については、本国、EUCOMやINDOPACOMのいずれでも進展がなく、米国具体的な行動はまだないままだし、BMC2による統合・合同IAMD資産を主要同盟国同志国と統合する重要性にも気づいていない。■

 

Integrated Air and Missile Defense: Early Lessons from the Russia-Ukraine War - 19FortyFive

ByCarl Rehberg

 

About the Author: Dr. Carl Rehberg is a Non-resident Senior Fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments. Carl was founder and director of the Headquarters Air Force Asia-Pacific Cell, which played a pivotal role in the development of Air Force strategy, force development, planning, analysis and warfighting concepts supporting initiatives related to Asia-Pacific and the DoD Third Offset Strategy. Carl spearheaded the establishment of the China Aerospace Studies Institute (CASI) and led the development of innovative concepts and capability proposals to improve DoD’s joint resiliency and integrated air and missile defenses. Prior to this assignment, he was the Assistant Associate Director for AF Strategic Planning and Director, Analysis Division in the AF QDR organization, leading multiple assessments of future capabilities and force structure.


2020年1月26日日曜日

米空軍の将来に必要な5項目をCSBAが提言、中露同時対応可能な空軍力の整備へ

今回の報告では中露同時対応を求めており、中国、ロシアが結託する可能性への対応を求めています。かなり空軍の現状の思考に近い内容のようです。新しい用語が出ているので原文併記で示しました。
 ただし、実現に必要な予算をどう工面するのでしょうか、国の借金を再定義しないとお金が足りません。21世紀になり財政理論の再構築が必要なのかもしれません。でないとシンクタンクの報告書は絵に描いた餅となり、我々の常識と異なる行動を展開している中国は冷笑するだけでしょう。

国、ロシアの脅威に対抗すべく、米空軍は戦力増強と近代化を図るべきで、例として高性能長距離無人機の追加や戦闘管理指揮統制 battle management, command and control (BMC2)によるマルチドメイン作戦運用の戦力増強策が必要とシンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)がまとめた。

「将来の空軍戦闘力に求められる優先5項目」の表題でCSBAは現状の難題を2035年までに解決する道筋を示した。難題とは機材老朽化と戦力減少が続いていること、機材の維持か近代化の選択を強いる予算環境だ。

今回の報告に先立つCSBA報告書がある。2018年国防戦略構想(NDS)が想定する大国相手の戦闘に今後の空軍力で勝利をおさめられるかを検討した議会への報告書だ。今回のCSBA提言では空軍に必要なのは有人機無人機の混合編成で二カ国相手でもほぼ同時に対応できる戦力を整備すべきとある。予算、人員双方で追加投入が必要とあるが、試算は示していない。

金額想定を質問された今回の報告書作成に加わったマーク・ガンジンガーは2018年版報告でDoD予算を年3%から5%増額続けると提言しており、空軍予算で言えば年間80億ドル増額に相当と解説している。ただし、その実現可能性は「薄い」と本人は語るものの、空軍装備の充実がないと21世紀型脅威に対応できないと強調している。

「厳しい選択が必要だ」とガンジンガーは空軍に現状の問題に目をつぶることは許されないと述べている。

過去のツケを払わされる

これまでの予算削減で空軍の戦闘機、爆撃機の維持が不可能になっているとし、陸軍、海軍より空軍に予算削減のしわ寄せが大きいとある。

「各軍おしなべて予算および規模が縮小されたが、空軍に1989年度から2001年度にかけ予算削減の大きな部分が押し付けられた」というのが今回の分析だ。空軍の31.6%削減に対し、海軍は28.2%、陸軍は29.2%だった。削減額には情報機関、特殊作戦、医療他空軍が管理できない支出項目は除いてあるという。

中でも空軍の調達予算で減額が目立つ。「調達の真水予算は同時期に52%減少している」という。

現在の調達予算は歴史的規模で低い。2020年予算要求では、F-35Aを48機調達するが、以前の二カ年は各56機で減少している。

調達予算が減少し、戦闘機部隊の即応体制は弱体化していると報告書は指摘する。爆撃機でも同様で「過去二十年にわたり爆撃機戦力の不足傾向が続いた原因に戦力削減や即応体制の低下、さらに近代化改修予算の不足がある」としている。

2018年の実態から作戦行動可能な空軍戦闘機は769機で、爆撃機は「最大で」58機とCSBAは試算。戦闘機総数は2,072機、爆撃は157機だ。(戦闘機の即応体制は2019年にF-35で改善が見られれば若干上昇の可能性がある)

CSBAによれば空軍で供用中の戦闘機の平均機齢は「前例のない水準の28年」に達しており、爆撃機は45年程度だ。国防総省で調達部門のトップのウィル・ローパーが嘆いているが、機材維持に経費と人員投下が増える原因となっている。

CSBAの提言5項目

そこでCSBAは次の5項目を提言している。

1. 中国、ロシアの同時侵攻を防止できる戦闘航空戦力 Combat Air Force (CAF)を実現する

検討では「片方の地域で米軍が忙殺される間に別の大国が侵攻を企てるリスク」が減らす空軍機材の「規模と能力」が必要と提言。とくに長距離侵攻攻撃能力により中国、ロシア他の侵略勢力に聖域を認めさせないことが必要とする。

2. 高性能ステルス機の調達数を増やし、その他CAF機材では残存性を高める

次世代ステルス機は将来の戦場で不可欠とガンジンガーは述べる。

CSBAによれば今後二十年にわたり空軍は「次世代ステルス性能機材の調達を加速化すべき」とし、B-21爆撃機、F-35A、「新型多任務侵攻形制空・侵攻型電子攻撃 Penetrating Counterair/Penetrating Electronic Attack (PCA/PEA)機材」、情報収集監視偵察機材を搭載した「侵攻型」無人機がその対象とする。同時に「F-22の残存性を維持しつつ次世代兵装として極超音速兵器ファミリーの調達」も進めるべきという。

3. 前方戦闘力の確保とともに小規模脅威地区で分散化を

「中国、ロシアによる米軍の前方航空基地への大規模ミサイル攻撃がCAF残存で最大の脅威とは限らない」(ガンジンガー)

今後の空軍機材は「共同作戦を支援し中国ないしロシアの既成事実の積み上げを否定する能力」が必要となり、同時に「ミサイル大量攻撃を受ける可能性が低い地域から出撃し攻撃数波を実施しつつ、前線基地は分散ネットワークで制空任務他を実施する」とある。

この実現には「大規模攻撃やミサイル攻撃を想定した航空基地防衛体制の強化」をDoDは実現すべきで、空軍も「航空基地防衛ミッションに装備人材を追加投入すべき」と提言している。

4. 各種ミッションに投入可能な無人機を開発し、多様な脅威に対応させる

「空軍のCAFではハイエンド戦闘作戦、本土防衛がともに能力不足で2018年国家防衛戦略の要求が同時に満たせない。能力不足は2030年代まで続きそうで、それまでにCAF能力の拡大が必要だ」としている。「不足によるリスクを減らすには空軍は戦闘構想を新構築し、既存及び今後登場するUAS(無人航空システム)の活用を考えるべきだ」とし、MQ-9リーパーの他、「低コスト使い切り装備」を想定している。

ガンジンガーは低コスト無人機の例として国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)のグレムリンズ(小型無人機多数で集中攻撃を想定)、スカイボーグ、クレイトスのヴァルキリーを上げる。

新型無人機各種は「有人ステルス機と組んで制空、長距離スタンドオフ広域偵察、攻撃、電子戦その他作戦を行う。従来型のISR、軽攻撃ミッションも行う」とあり、空軍が描く次世代航空優勢構想 Next Generation Air Dominanceの各種装備と重なる。

5. 戦力増強効果を生む新装備開発を加速化する

ここには「次世代極超音速兵器、巡航ミサイルに電子対抗用の高出力マイクロウェーブペイロードを搭載し、一本で多数標的を攻撃すること、高性能エンジンでCAF機材の航続距離・ミッション時間を延長すること、マルチドメイン作戦支援を過酷環境下でも可能なデータリンクの開発」が含まれる。

供用中のBMC2機材にE-3 AWACSやE-8 JSATRSがあるが、「全ドメインで有効な各軍共用BMC2装備があれば将来の作戦で全部隊の強靭性および作戦効果が高まる」と報告書にある。提言内容は空軍が進めるマルチドメインC2環境での高性能戦闘管理システム Advanced Battle Management System (ABMS)と重なる。

ABMSはJSTARS後継装備としてまず構想され、その後各種システムに変貌しており、ハードウェア、ソフトウェアでローパーが言う「モノのインターネット」を軍に実現する。空軍はABMSをDoDがめざす各軍共用全ドメイン指揮統制構想の柱となる技術と見ており、各軍にABMS対応能力の採用を働きかけている。■

今回の記事は以下を参考にしました。

"Creating a more range-balanced, survivable, and lethal force will require a commitment by DoD and the Congress to significantly increase the Air Force’s annual budgets," CSBA says.

on January 22, 2020 at 2:52 PM