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2020年7月27日月曜日

歴史に残る機体(27)ダグラスA-3スカイウォーリアー(ホエール)

歴史に残る機体27
1972年5月10日、ジェット時代でも最も熾烈な空戦がハノイ、ハイフォン上空で展開した。海軍のF-4Jファントム編隊とヴィエトナムのMiG編隊がミサイル攻撃の応酬を繰り広げる中、空には対空射撃とSA-2地対空ミサイルが猛烈な攻撃を展開した。

24時間で双方の十数機が撃墜された。リック・モーガン著の A-3 Skywarrior Units of the Vietnam War がファントムパイロットのカート・ドセ大尉が遭遇した状況を次のように伝えている。

「SA-2ミサイルが下方から出現し、ブースターを分離していた。私は機首を押し下げ逆Gでミサイルの標的をチェックしたところSAM二発も方向を下げた。つまりこちらが標的だったのだ。7Gで機首を上げたが遅すぎた。こちらに狙いを定めマッハ2で向かってくる。こちらに命中するだけでなくボールペアリングの弾頭部がコックピットを貫通するだろう。
「ミサイルの小型カナード翼が最終調整するのが見え、死ぬ覚悟を決めたが、不発だった。最初のSA-2はキャノピーの5フィート下を通過し、二発目は機首の20フィート前だった。私は右にロールしSAM二発がまっすぐ飛翔するのを見ていた」

ドセは無事空母に帰還した。事後報告で無事生還できたのはEKA-3Bスカイウォリアー電子戦機のジャミングのおかげと知る。

ハノイ周辺にはファンソンミサイル誘導レーダー多数が配備され、EKA-3Bのシステム操作員はミサイル信管へ爆破信号を伝える周波数にジャミングをかけた。無事帰還できたドセは同機搭乗員に感謝の念を込め自分が残していたウォッカ半ケースを贈ったのだった。


ダグラスA-3スカイウォリアー別名「ホエール」は空母運用機材では最大の大きさを誇った。当初は核兵器による戦略爆撃任務を想定したが、これは長続きしなかった。A-3は各種型式が生まれ、米海軍への貢献を長く続けた。爆撃機として生まれ、給油機にもなったが今回は偵察任務や電子戦機材としての側面に触れる。

スカイウォリアーでは給油機として海軍各機をヴィエトナム上空で支援した貢献のほうが爆撃機任務より大きい。ヴィエトナムの地対空ミサイルに狙われる海軍パイロットに電子戦支援は喉から手が出るほど必要だった。そこで1967年に給油型34機をEKA-3B型に改装し、ALT-27ジャミング装置を機体下の「カヌー」に格納した。これで敵通信を妨害しヴィエトナム軍のMiG戦闘機への地上誘導を混乱させた。またALQ-92ジャミングポッドも機体の左右に追加し、長距離低帯域探知レーダーを無効にした。空中給油装置も残したためEKA-3Bの空虚重量は22トンになった。

両方の任務をこなす同機はVAQ-130、VAQ-131に配備され、分遣隊として空母各艦に散らばった。ジェット機へ給油し、沖合20マイルで周回コースを飛びながら、敵ミサイル誘導レーダーや通信を妨害し、敵の迎撃を無効にすることで攻撃部隊の任務を助けた。

ヴィエトナムでは1972年から1973年にかけ空母5隻がEKA-3B三個飛行隊を運用し1975年にEA-6Bブラウラーが登場するまで任務を続けた。

写真偵察機、アグレッサー、VIP輸送機として
ダグラスはRA-3B写真偵察型も30機製造した。高解像度カメラ12台を与圧爆弾倉に納め、写真撮影用にフラッシュ弾も投下した。VAP-61、VAP-62の各飛行隊に配備され、2,100マイルという長い航続距離を生かし地図作成任務にも投入された。

1966年からグアムに配備されたVAP-61に危険な夜間ミッションが命じられ、赤外線カメラでホーチミンルートを撮影することになった。北ヴィエトナムによる南ヴィエトナム内のヴィエトコン支援用のジャングル補給路だ。任務では1,500フィートの超低空飛行を時速400マイルの低速で行う必要があったが、途中の高い山を縫うように飛び短距離防空火器に撃墜されることもあった。

RA-3Bは爆弾破片を受け燃料が漏れた状態で帰還することもあった。戦闘中喪失は4機でうち2機が対空火砲によるものだ。パイロット自らで機体を黒スプレー塗装し、夜間カモフラージュ効果を狙うものが現れた。

RA-3Bの8機はその後ERA-3Bに改装されALT-27、ALT-40、ALQ-76のジャマーを搭載した。VAQ-33、VAQ-34に配備され電子アグレッサー機として、敵の電子戦機役で訓練に投入された。このミッションでいきなり緊張が高まったのは1972年12月のことで英軍ファントム機が空母アークロイヤルを発艦し、誤ってスパローミサイルをERA-3Bのエンジン一基に命中させた。弾頭が実弾でなかったのが不幸中の幸いだった。スカイウォリアーのパイロットは片発のままプエルトリコに何とか着陸させた。

ダグラスではTA-12B訓練機も12機製造し、爆撃訓練機となった。(別呼称A3D-2)訓練生12名が機内に座った。うち6機は高速VIP輸送機として内装を改装され、5-6名を乗せ、当時の海軍作戦部長のお気に入りの移動手段となった。ただし、海軍はVIP機材として議会や米空軍の目に触れないように制式名称のVA-3Bは一部にしかつけなかった。

電子スパイ機、レーダーハンターとして
供用期間が最長となったのが24機のEA-3Bで艦隊航空偵察飛行隊VQ-1(日本配備ののちグアムへ移動)とVQ-2(スペイン・ロタ)の機材だった。EKA-3Bと異なり、EA-3Bにジャミング機能はなく、電磁センサー(ESM)で敵の通信装備、センサー発信情報を識別し、位置を突き止めるのが任務だった。4名の専門員が加わり、乗員は7名になった。

VQ-1はヴィエトナム領空付近に進出し搭載センサーでヴィエトナムの防空体制を調べることがよくあった。

またA-4スカイホークと組んでSAM狩りもよくおこなった。スカイホークのパイロットだったゲアリー・エイロンが次のように当時の戦術を説明している。

「EA-3BはSA-2の標的追跡レーダーのパルス反復周波数に耳を傾けるのだった。うまく捕捉すればこちらはホエールの飛行方向に向けロックオンしシュライクを敵陣地に向け発射した」

長距離電子スパイ機としてEA-3は1980年代通じ共用されたが、高事故率の悪評があり、1987年の事故では乗員7名全員が死亡している。

1990年にVQ-2のEA-3二機がサウジアラビアのジェッダに展開した。1991年の湾岸戦争で、ホエールはイラクのレーダー、ミサイル陣地の標的捕捉に従事した。同年の9月27日に同機は米海軍での供用を終了し、S-3ヴァイキング多用途機が後を継いだ。

民間でスカイウォリアーはエイビオニクスのテスト機になり、さらに20年間飛行した。最後のフライトは2011年6月でペンサコーラの海軍航空博物館への移動飛行でスカイウォーリアー搭乗員協会が資金をねん出した。

核攻撃を想定し大型機となったA-3はジャミング用途や給油機として運用され、数百名の海軍航空要員の命を救い、同時に今日までつながる空中給油や電子戦の基礎を作ったのだった。■

この記事は以下を再構成したものです。空軍も同機をもとにB-66デストロイヤーとして供用していますね。いつかそのエピソードが出てくるでしょう。

But changed roles to a long-range electronic spy jet that remained in service throughout the 1980s.



Sébastien Roblin writes on the technical, historical and political aspects of international security and conflict for publications including The National Interest, NBC News, Forbes.com and War is Boring. He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China. You can follow his articles on Twitter. This article first appeared earlier this year.

Image: Wikipedia.

2017年12月1日金曜日

米空軍が次期電子戦機材と戦術の検討を開始


Air Force Eyes Next-Gen Electronic Warfare 次世代電子戦機の検討に入った米空軍


An EC-130H Compass Call taxis Dec. 5, 2016 at an undisclosed location in Southwest Asia. The Compass Call employs a crew of roughly a dozen Airmen working together to jam Da’esh communications. (U.S. Air Force photo/Senior Airman Andrew Park)EC-130Hコンパスコールが非公表の南西アジア基地でタキシ―中。コンパスコールはISISの通信妨害などに投入されている。 (U.S. Air Force photo/Senior Airman Andrew Park)
POSTED BY: ORIANA PAWLYK NOVEMBER 28, 2017

空軍は電子戦で優勢を確保できる作戦構想の検討を始める。空軍将官が11月28日に述べた。
  1. 「次代の能力協同チームenterprise capability collaboration teamによる作業を開始しており、これをECCTと呼んでいる」と空軍参謀次長スティーブン・ウィルソン大将 Gen. Stephen Wilson が述べた。
  2. ウィルソン対象によればECCTがまず手掛けたのが航空優勢2030構想で二番目が多面的指揮統制機能だという。
  3. 「三番目に電子戦に目を向ける」とし、ワシントンDCで開催されたAssociation of Old Crows年次総会で電子戦部隊関係者の拍手を浴びた。
  4. ECCTチームは物的・非物的両面で解決策を模索し、将来の戦闘における能力不足を理解したうえで解決策を模索すべく技術面を強化する。
  5. 「この課題は長い間先送りされており、一年から15か月でチームに作業させる」(ウィルソン)
  6. ウィルソン大将の発表に先立ち航空戦闘軍団司令官マイク・ホームズ大将Gen. Mike HolmesがEWでECCT方式を活用すると先週発言していた。
  7. 空軍は電子戦能力とともに電子攻撃機材の更新を目指している。
  8. 今年9月、空軍はL3に現行のコンパスコールEC-130H機材の更新契約を更新している。
  9. 「社内解析と空軍との協議を経て、L3はガルフストリーム550空中早期警戒機を機材に使うことにした」と空軍広報アン・ステファネックAnn Stefanek は「新コンパスコールはEC-Xと呼んでいます」と述べている。
  10. EC-XはC-130改造機の後継機となる。L3テクノロジーズ(旧L3コミュニケーションズ)が単独で機体の改造並びに整備を行い、BAEシステムズがミッション装備を搭載する。
  11. ハードウェアが改良されたとしても新型EC-Xは厳しい空域で残存可能なのだろうか。ウィルソン大将は空軍が将来を見越した広範な検討をしているとしながら詳細は述べなかった。
  12. 「将来を見越して万全の機能がほしい」と航空優勢が確保できている、できていない双方の環境に言及した。
  13. 新規装備を迅速に導入して脅威に十分対応するのが空軍の課題だろう。
  14. 「古くて新しい課題である。よりよく効率的に進める点では変わらない。だが新しい課題は多方面での実効性をもとめることだ」
  15. ECCTの検討でサイバーが重要になるのかについては「まだ決まっていない」とだけウィルソンは言う。■

2016年10月25日火曜日

ISIS無人機を電子手段で飛行不能にした米空軍


なるほど現在の無人機が遠隔操縦方式なので途中の接続を遮断すれば無人機が使用不能となるわけですか。これは野戦装備ですが将来自律飛行可能な新世代無人機が登場したらどうなるのでしょうね。(本ブログではドローンという言葉は極力避けています。もともとヒラリー・クリントンが多用して広まった言葉なので。意味はわかりますね)
Defensetech

Air Force Zaps ISIS Drone with Electronic Weapon


Battelle’s DroneDefender is a shoulder-fired weapon that uses radio waves to cut the link between the drone and its controller. (Photo courtesy Battelle)バテル研究所のDroneDefenderは電波で無人機と操縦者の接続を中断させる (Photo courtesy Battelle)

POSTED BY: ORIANA PAWLYK OCTOBER 24, 2016


  1. 米空軍がイスラム国の無人機を電子兵器で撃退したと空軍トップが明らかにした。
  2. 空軍長官デボラ・リー・ジェイムズは10月24日、空軍が小型武装無人機が過激派により飛行するのを「一二週間前に」探知したと述べている。
  3. 「現地の空軍部隊は小型無人機一機が飛行しているのを知り、極めて迅速にこれを激着いてしている。電子措置を使った」とジェイムズ長官は新アメリカ安全保障センター主催の会合で発言している。
  4. 「迅速に攻撃を加える方法の一例」と長官は述べたが、具体的にどんな手段を投入したかは述べていない。
  5. 同長官の発言は陸軍長官エリック・ファニングや海軍長官レイ・メイバスと並んでの場で出たもので軍が小型だが威力を発揮しそうな無人機への対応を迫られていることを浮き彫りにした形だ。
  6. 「現時点で最高の優先順位は中東で無人航空システムの存在が高まっており、安価でインターネット操縦が可能な装備がシリアやイラクで飛び回るようになり損害が発生しかねないことだ」(ジェイムズ長官)
  7. 「そのため知恵を合わせこの課題に迅速に対応し、撃退方法を考えているが、必ずしも新規装備の開発にならない」
  8. ジェイムズ長官によればISISが既存無人機や模型飛行機に時限爆弾をつけた例外楽、シリアで見られるという。先週も米政府関係者が別の事案に触れ、これをニューヨーク・タイムズが先に報じたが、クルド人戦闘部隊で二名が北部イラクで撃墜した模型飛行機を分解しようとする中で死亡している。
  9. 空軍長官が言及したのは米国が電子兵器装備を改造してこの急増する脅威対象に簡単に対応できる点だ。
  10. 電子戦は東部ウクライナでごくあたりまえに実施されている。数ヶ月に渡りロシアが支援する分離独立勢力が電子手段でウクライナ軍の商用無人機による偵察を妨害している。このことは2014年にわかり、米軍がウクライナ軍を訓練する中で警戒している。
  11. 今月始めには米陸軍欧州部隊司令官から対無人機兵器でロシアに対処したいとの発言が出ている。ベン・ホッジス中将は非運動兵器技術から冷戦時の旧式技術までなんでも使いたいと述べている。
  12. 中将は新兵器の名称を述べなかったが、バテル研究所のDroneDefenderは肩載せ発射式で無人機を電波妨害で使用不能とし、イスラエル開発のレーダーと併用し数キロメートル先から探知可能できる装備で陸軍がテスト中だ。
  13. 「非運動手段は多数あり、その他の手段も登場するのは確実だ。だが今この時点で装備が欲しい」と同中将は報道陣に陸軍協会会合で語っている。「これまでは脅威と呼べず短距離防空は心配する必要がなかった」とし、「今やUAVがあり、UAV対抗手段が必要と痛感している」
  14. ペンタゴンは新型無人機対抗手段の研究開発を加速しヨーロッパやISIS戦に投入したいとしているが、上記バテル研究所の装備がすでにイラクで投入されているとの報道がある。■
— Brendan McGarry and Matthew Cox contributed to this report.


2015年6月5日金曜日

米海軍>黒海で米艦を追い散らしたとのロシア報道を否定する


この件は日本では報道がなかったのではないでしょうか。ロシアでは妄想に近いデマが流布しているようですね。ただし電子装備の防御というのは思ったより大変なようです。

VIDEO: U.S. Navy Denies Russian Fighters Chased Off Destroyer USS Ross in Black Sea

By: Sam LaGrone
June 2, 2015 10:18 AM • Updated: June 2, 2015 11:56 AM

USS Ross (DDG-71) transits the Mediterranean Sea on May 4, 2015. US Navy Photo
地中海に入るUSS ロス (DDG-71) May 4, 2015. US Navy Photo

米国防総省は誘導ミサイル駆逐艦USS Ross ロス (DDG-71) をロシア戦闘機編隊がロシア支配下の黒海海域から追い出したとのロシア報道に反論している。
  1. 複数のロシア報道がクリミアとロシア国防省からの情報として米駆逐艦が黒海内のロシア領海に接近していた、あるいは侵入したためスホイSu-24フェンサー戦闘機編隊がスクランブル出撃したと報じた。
  2. 「米艦は挑発的かつ強引な行動を示し、黒海艦隊を警戒させた」と国営通信RIAノーヴォスティがクリミアにいるロシア軍関係者の発言を引用している。
  3. 「(フェンサー編隊出撃で)アメリカ側に我が国境および国益の侵害を認めないわが国の即応体制を示した」
  4. ロシアは昨年3月にクリミア半島を併合し、軍備を増強している。併合を受け米国およびNATOが各種艦艇を黒海に派遣し、監視活動を続けている。ロスは5月23日に黒海いりした。
  5. USNI Newsは月曜日、火曜日と続けて海軍関係者に尋ねたところ、フェンサー編隊は、5月29日、30日、6月1日にロス上空を安全に飛行したと認め、海軍が見るところ「平常且つ安全」な飛行行動だったという。
  6. 「から騒ぎです」と海軍報道官ティム・ホーキンス大尉はUSNI Newsに6月1日午前述べている。
  7. 5月31日発表の米第六艦隊声明文ではロスとフェンサー編隊には「なんら相互作用はなく」黒海で接近しただけだという。
  8. 「航空機が帰還しロスは任務を続けた。ロスが過激な行動をとった事実も予定以外の行動をとった事実もない。乗員は通常通りプロらしい行動をとっている」(声明文).
  9. 第六艦隊発表の映像を見ると、フェンサーの一機がミサイルを搭載せずに同艦の近辺を飛行している。同艦はその時点でクリミア半島から25カイリ地点を航行していたと海軍関係者がUSNI Newsに伝えてきた。.
  10. ロシア側は直近で発生した事件、2014年4月のフェンサーによるUSSドナルド・クック(DDG-75)上空飛行に触れている。
A Russian Sukhoi SU-24 Fencer. スホイSu-24フェンサー.

  1. 「2014年4月の事件で、Su-24は最新の米駆逐艦ドナルド・クックの電子装備を『ブラックアウト』させた」とRIAノーヴォスティはロシア筋の発言を引用している。
  2. 2014年のフェンサー接近飛行の直後にロシア語ブログ数点でSu-24に新型ジャマーが搭載されており、クックのSPY-1Dレーダーが使用不可能になったと説明していた。ただしドナルド・クックは最新鋭誘導ミサイル駆逐艦ではない。
  3. 報道が出た2014年にUSNI Newsは独自にロシアの高性能ジャマーがフェンサーに搭載されていたのかを調査した。.
  4. 複数の航空機及びレーダー専門家がSPY-1Dレーダーを完全に作動不能にするジャマーをロシア戦闘機が搭載する可能性は大変少ないとの見解を示していた。■

ビデオはここから見られます。


2015年3月3日火曜日

★ペンタゴンの電子戦構想で重要なグラウラー、しかしその生産ラインの維持は微妙



電子戦を実施するためのまともな機材がEA-18Gしかないというのが深刻な米軍の事情です。といっても他国でもこれだけの規模の電子戦機材をそろえたところはないので、まだましなのかもしれませんが。

Pentagon Launches Electronic Warfare Study: Growler Line At Stake

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 27, 2015 at 3:41 PM

EA-18G Growler EA-18G グラウラー
CAPITOL HILL: ペンタゴンは広範な電子戦の検討を開始し、EA-18GグラウラーとF-35各型を比較検討する。
  1. 「国防総省内で電子攻撃手段の全般に渡る検討を開始し、わが軍の作戦で必要な電磁戦環境を見極める」とジョナサン・グリーナート海軍大将が下院歳出委員会国防省委員会で発言した。
  2. 研究では個別の兵器システムの枠を超えてアメリカの電磁スペクトラム全体で統制能力を検分する。このスペクトラムにネットワーク、センサー、精密兵器すべてが依存している。
  3. グリナート大将は国防総省全体で見解を聞きたい、という。空軍には少数ながら高性能のEC-130Hコンパスコール機材があるが、多数は退役予定。陸軍、海兵隊には短距離戦術ジャマー装備があり、道路わきの爆弾装置を使えなくできる。だが防空体制の整った環境で生存できる機材を有するのは海軍だけだ。
  4. 2015年度予算要求で海軍はEA-18Gグラウラー追加18機発注を入れたが、議会は15機に査定した。2016年度予算案ではグラウラーは一機も要求していない。そうなると同機を製造するボーイングと議会としては海軍に追加発注の意図があるのか知りたいところだ。質問をグリナート大将と海軍長官レイ・メイバスにはぐらかされた報道陣も同様だろう。
  5. F-35共用打撃戦闘機の調達数を減らしF-18調達を増やすのかとの質問に対しグリナートは2020年代に「JSFとスーパーホーネットが何機必要になるのか査定中だ」と答えている。「この話題は長官とはまだ検討していない」と就任したばかりのアシュトン・カーター国防長官を指して発言したが、今年は調達なしとの記事が多く出ている。
  6. ではボーイングにグラウラー/ホーネットは不要と伝えるつもりなのか、と記者は直接尋ねて見た。「伝えることはしない、まずボスと話す」とグリナートは海軍長官の方を向いた。
Sydney J. Freedberg Jr. photo ジョナサン・グリナート大将とレイ・メイバス海軍長官
  1. メイバス長官は「F-18生産ラインはグラウラー15機が15年度予算で認められていおり2017年までは稼働する。ボーイングとは円滑な生産実施を検討している」と現有F-18の事後改修を追加発注する想定で、「海外採用があればラインは維持可能」と発言。
  2. だがスーパーホーネットの海外営業は精細を欠く。「かれこれ20年で採用はオーストラリア一カ国だけ」と指摘するのはリチャード・アボウラフィア Richard Aboulafia(Teal Group航空産業アナリスト)だ。(旧型F-18AからD型までを保有する国はあるが、これら各型の生産は終了している) 「理由の一つが機体価格」とアボウラフィアは指摘する。「F-15の水準に近づいているが性能ではF-15が航続距離、ペイロード、戦闘効率で優れている」 ボーイングは両機を生産するが「F-15導入に誘導するほうが容易」だとする。韓国、シンガポール、サウジアラビアを想定している。「F-35も圧力になっている。ユーロファイターもあり、ラファールもある」.
  3. 現在の米国発注分が2017年に終了したらボーイングの生産ラインはどうなるのか。「一年半以内になんらかの手を打たないと間に合わないだろう」とアボウラフィアは指摘。2017年に近づくと生産ライン維持がもっと高価になる。というのは部品サプライヤーにはすでに事業精算に動く向きがあるためだ。「今年後半なら楽だろうが、来年初めになれば負担増になり、2016年なら万事休すだね」.
  4. 海軍がF-18/EA-18ラインを確保すべく追加発注すれば国際競争で日程はさらにきつくなる。議会が海軍の希望を無視して追加発注を認める可能性もある。だが予算が厳しい中で可能性は少ない。
  5. 「自国で不要になった装備の海外販売は大変だ」と自らの経験を語るのはローレン・トンプソンLoren Thompson(国防産業アナリスト、コンサルタント)だ。さらに「予算制限がついたままで、もっと予算を投入するからスーパーホーネットを追加発注しろというのは他の装備を犠牲にするということになる」
  6. これまで識者はスーパーホーネット・グラウラーをF-35と比較してきた。三軍の中で海軍はJSF導入に一番消極的だが、ステルス性能の有効性が長期的にどうなるのか見極められないとし、グリナートはF-35の性能にはステルス以外もあると忍耐強く指摘している。
  7. 「ステルスだけでなく他にも重要な機能があります」とグリナートは小委員会で発言。「飛行距離が長く、空母運用でコレまでよりほぼ2倍になり、搭載する兵装は多くなり、探知用レーダーは空対空戦で威力を発揮し、他機・他艦とネットワーク形成も可能ですし、ジャミング以外に情報探知能力が向上しており情報提供できます。相当の進歩です」との発言はF-35を犠牲にしてスーパーホーネット、グラウラーの追加発注をしようという人物のものとは思えないほどだ。
  8. もし議会、海外顧客、F-35削減のいずれでもF-18生産ラインを維持できないとすると、今回の電子戦検討が重要になってくる。
  9. 研究は電子戦全般を対象した広範囲なものだが曖昧さなままだ。記者はペンタゴンにもっと詳細を教えてくれと求めているが、アボウラフィアに言わせれば研究はつきつめれば「各空母に搭載するジャマー機としてのグラウラーを増やすのかどうか」になるのだという。
  10. 電子戦の脅威と対抗手段がそれぞれ進歩する中で、海軍はグラウラーで新戦術を試している。パッシブセンサーを使い、常時発信を避ける。これまではジャマー機を2機飛行させていたが、三機必要になる。常時三機飛行させるには飛行隊の規模を拡大し空母に展開する必要が出る。現状はグラウラー5機を配備しているが、7機ないし8機が必要になる。空母飛行隊は合計10隊あるので各2機ないし3機追加配備で20機から30機の追加発注になる。ただしここには損耗用予備機は含まれていない。
  11. そうなると相当規模の調達になる。だが電子戦の優先順位は高くなりつつあり、海軍だけでなく国防総省全体で必要を痛感している。ペンタゴンの主任研究員アラン・シャファーAlan Shafferは米国が「電磁スペクトラム優位性」を喪失していると警句を鳴らす。この発言はボブ・ワーク副長官の提唱する「相殺戦略」と同じ論調だ。国防科学委員会は電子戦能力の維持拡充で年間20億ドルが不足していると把握している。グラウラーは米国電子戦の最先端手段であり、ペンタゴンの調査結果で増強が必要との結論が出る可能性が高い。予算環境が厳しい中でも調達の実現は大いに可能性があるのは確かだ。■


2014年3月14日金曜日

EA-18G増強で電子戦能力拡充をねらう米海軍の航空戦略は中国を意識したもの


Why the Navy Wants More Growlers

By: Dave Majumdar
USNI News
Published: March 12, 2014 12:59 PM
Updated: March 12, 2014 1:01 PMEA-18G Growler from Electronic Attack Squadron (VAQ) 129 during night flight operations aboard the aircraft carrier USS Carl Vinson (CVN-70). US Navy Photo
EA-18G Growler from Electronic Attack Squadron (VAQ) 129 during night flight operations aboard the aircraft carrier USS Carl Vinson (CVN-70). US Navy Photo


米海軍は電子攻撃機材の拡充により次世代の作戦案である高度な航空戦能力を実現しようとしている。
  1. 海軍はボーイングEA-18Gグラウラー電子攻撃機22機の追加調達を2015年度予算で求めている。
  2. 「現状では各飛行隊に最小限の機数しか配備されていません」と海軍長官レイ・メイバスSecretary of the Navy Ray Mabus は下院軍事員会で発言。「(要求内容は)保険であり、つなぎ措置」.
  3. この要求の裏にあるのは海軍と議会筋によればグラウラー部隊を拡張して、現状の各飛行隊に5機配備を8機にして飛行電子攻撃 airborne electronic attack (AEA) 戦術を海軍が構想する海軍統合火器管制対空作戦実施能力 Naval Integrated Fire Control-Counter Air (NIFC-CA) の一部として整備すること。同構想はロシアや中国が整備を進める高性能な統合防空体制integrated air defense systems (IADS) の無効化が目的。.
  4. 海軍のねらいは電子攻撃飛行隊16個編成にすることで、そのため48機のEA-18G追加調達で各飛行隊に8機のグラウラーを配置する。.
  5. 業界筋によれば海軍は訓練用としてさらに12機が必要になるはずだという。別に損耗補充用に10機が必要で追加調達は70機ほどになる。
  6. NIFC-CAの整備を進める中心はマイク・マナジル少将(海軍航空戦総監) Rear Adm. Mike Manazir, the Navy’s director of air warfare からUSNI Newsに昨年12月に最低でもEA-18G2機を高速データリンクで接続し、さらにノースロップ・グラマンE-2Dホークアイもつなぎ、脅威対象の発信源を正確に探知する時間距離分析 time distance of arrival analysis tを実施するのだという。
  7. マナジル少将によれば海軍はロックウェル・コリンズが開発した戦術目標細くネットワーク技術 Tactical Targeting Network Technology あるいはLink-16方式の並行マルチネット-4で各機を接続するという。
  8. この三機が配置されると複数の脅威対象飛行物体の発する電子信号の場所を狭めて、武器級の電子追跡をリアルタイムで放射できるようになると海軍は期待。
  9. ただし業界筋によればこの戦術が効果を最大に発揮するにはグラウラー三機が同時に連携して飛行する必要があるという。また、2013年夏に海軍はグラウラー3機による電子攻撃実証をおこなっているという。
  10. ホークアイも電子支援装備を搭載しているが、EA-18Gと同等の性能は期待できず、脅威対象に接近して飛行することもできない。
  11. 「EA-18Gなら電磁状況の全体像が把握でき、電子信号を放射している対象を発見し、そのデータから戦闘部隊は脅威対象への対応方法を選択できます。その選択にはグラウラーが搭載するジャミングポッドによるジャミングあるいはグラウラーの目標捕捉能力を利用した電子攻撃も想定されます。」(上記業界筋)
  12. 海軍が想定する戦闘空域とは相手側が高度の統合防空システムを整備した環境で、VHFレーダーでステルス機も捕捉可能で、高機動性の地対空ミサイルとしてロシア製SA-21 グラウラーや中国のHQ-9が多数配備されているというもので、これらを前提とした空域での戦闘には電子戦術は不可欠な存在だ。
  13. 旧式の戦術では敵防空網の制圧あるいは破壊には衛星からの画像情報や長距離情報収集機に依存して固定式SAM陣地を攻撃することになっていた。だが、新型かつ機動性ある敵の防空体制にはこれでは効果がない。
  14. 飛行隊あたり5機の配備では常時3機のグラウラーを滞空させられない。空母が3機のEA-18Gを飛行させれば、次の3機の発進もすぐに準備する必要が出るが、現状の飛行隊の規模を超えてしまう。「最低で8機必要だと提言してます」(上記業界筋)空母が8機のEA-18Gを搭載すれば、3機を空中に送り、次の3機の発進準備を整えることができる。残りの2機は保守点検にあてられる。■


2008年12月1日月曜日

F-35を電子攻撃に投入する考え方



AW&ST電子版1130

米空軍、海兵隊向けの戦術電子攻撃機の後継機では長年の議論があったが、-35が両軍に採用される可能性が高まってきた。今日の戦闘で一番需要が高いのが電子攻撃(EA)を任務とする航空機であるのは軍事運用の専門家の一致した意見である。そのため、より多くの機数と性能向上を求める圧力が存在する。

「電子攻撃は空軍、海軍、海兵隊の核心となるミッション領域だ。電子攻撃がF-35の中心ミッションとなるだろう。」(F-35ライトニングII開発の責任者チャールズ・デイビス少将)

ただ、その開発は先例としての空軍のEF-111レイブンや海軍のEA-6Bブラウラー・FA-18Gグラウラーのアプローチはとらないだろう。

外部ポッドとアンテナアレイによる電子兵装の研究が進行中。この追加電子兵装開発はF-35の特徴である機体間のデータ交換と組み込みずみのEA能力を活用するのが目標という。

F-35は合計80もの異なるプラットフォーム間で相互運用を想定し、140種類以上の情報を地上、艦船、航空機との間で交換できる」(デイビス少将) 電子戦は合計23通りのミッションへの追加にすぎない。

「F-35は第一世代のステルス機F-117の教訓を生かした設計だ。F-117と違うのは戦術情報の共有能力がF-35では最初から組み込まれているが、ステルス性を犠牲にしていないこと」(同少将)

ただし、航空宇宙産業界では意見が分かれている。専門家にはF-35は電子戦能力が不足し、機体内にシステムを追加する余裕がないと見る向きもある。その解決策はジャマーと電力供給を兵装庫内に追加してステルス性を確保するか、追加装備を外部搭載し、スタンドオフの電子妨害任務に戻すかであるという。

「一機で電子攻撃任務の全部を実現することはできません。」(電子戦に長い経験を持つ電子産業界の専門家)

EA-18Gグラウラーは双発で発電機も二基搭載して電力供給も余裕があり次世代ジャマー(NGJ)を搭載できる。NGJは長距離のスタンドオフ電子妨害能力があり、風力発電装置の付いたボッド内に搭載する設計で、多数の機体に搭載可能だ。

 「EF-35も次世代ジャマーを搭載するだろうが、外部搭載では自機の位置を示してしまう。だが、NGJの中核部分を兵装庫内部に入れると、単発機で発電機もひとつの機体では全方位ステルス性を確保する出力が不足してしまうだろう。」(上記電子戦専門家)

「電子戦ではサイズが肝心です。EB-52は大型の開口式、アクティブな電子スキャンアレーレーダーを搭載し、長距離で有効な電子兵器となりえます。攻撃機、爆撃機、給油機に加え、737改造機*もNGJ搭載の候補となります。また、無人機のグローバルホークやリーパーのサイズの機体でも出力やペイロードが確保できるでしょう。」 (同上)(*海軍のE-8ポセイドン哨戒機、陸軍・海軍共用の空中センサー機体、空軍の空中給油機転用構想をさす?

しかし国防予算縮小でJSFが唯一の解決策となるだろう。

F-35の現行三型式はそれぞれアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)のレーダー、電子戦(EW)装備(自己防衛と電子偵察)、電子攻撃装備(偽目標を攻撃に使う、対ネットワーク攻撃、高度電子妨害、アルゴリズム付のデータ・ストリーム他)付で納入される。

-35は現時点でもEW/EA/AESAの各システムで敵目標へ侵攻し、敵レーダーを征圧し、F-35間で情報を共有し、相互に敵に脅威を与えることが可能。

「広く散開した攻撃用ではなく、少数のF-35を目標空域に侵入・脱出させることに焦点をあわせている。敵防空網の制圧あるいは破壊で脅威要素すべてを対象とする」(同少将)

EA-6BやEA-18Gと同程度の電子攻撃を加えるには高性能ジャミングポッドと追加EWアレイが必要になる。ただし、現状では広範囲でスタンドオフのEWジャマー能力はない。今のジャミングシステムは対象航空機を目標空域に侵入脱出させるのに使うだけだ。

海兵隊はICAP IIIEAシステム搭載のEA-6Bプラウラーでの電子攻撃の実用化に取り掛かっており、敵の通信・信号ネットワークを妨害、停止、あるいは開閉するのが目標。海軍のEA-18Gが就役し、ICAP IIIから今後実用化となるNGJにアップグレードとなると、さらに複雑な目標への電子攻撃が可能となる。

電子攻撃はF-35で可能になる高度なミッションのひとつにすぎない。デイビス少将によると、無人機との関連で次の三つの構想があるという。データ・情報を無人機と共有する、無人機の目標捕捉・兵器投下を支援する、無人機編隊とF-35編隊をリンクし攻撃能力を増強することという。

(写真、EA-6B、 EA-18G 空軍には現時点では使える電子戦機がないのですね。)