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2021年11月23日火曜日

中国の極超音速滑空飛行体が別のペイロードを放出していた可能性が浮上。中国技術が米ロの先を行くのか。極超音速兵器迎撃技術の開発も米国で始まった。まずグアム防衛をSM-6で進める。

China Hypersonic Missile

DADEROT/WIKICOMMONS/RUSSIAN YOUTUBE SCREENCAP

 

 

国が今夏行った核兵器運用可能と思しき極超音速ミサイルテストでは、大気圏内をらせん状に飛翔する間に何らかのペイロードを放出していたとの報道が出てきた。真実なら、興味深い技術ではあるものの、内容は不明だ。

 

フィナンシャルタイムズ(FT)は7月27日の実験では極超音速滑空飛行体がペイロードを南シナ海上空で放出し、「少なくともマッハ5で標的に向かわせた」との記事を昨日掲載した。

 

これまでこの滑空体は宇宙空間から大気圏に突入し、地球を軌道飛行に似た形で横断し、標的に向かうFOBS(Fractional Orbital Bombardment Syste 準軌道爆撃システム)の一種と思われきた。冷戦時代の構想であるFOBSは早期警戒体制が想定する方向の逆から攻撃でき、飛翔経路も想定よりはるか下となり、警戒態勢の虚をつくことが可能だ。

 

GAO

極超音速滑空飛行体と通常の弾道ミサイルの飛翔パターンの違いを示す図。

 

FOBSの機能とは別に極超音速滑空体自体が予測困難となる飛翔経路を大気圏内の飛翔制御で行う。

 

先にCBSのインタビューでジョン・ハイテンGeneral John Hyten統合参謀本部副議長が7月27日テストを「長距離ミサイル」関連だと評していた。ハイテン大将は「地球一周し、極超音速滑空体を投下し、中国国内の標的に命中した」と述べていた。

 

今回のフィナンシャルタイムズではデメトリ・セヴァストプロemetri Sevastopulo記者が「情報筋に近い取材源」の話として、滑空体が「空中で別のミサイルを分離した」と伝えている。

 

話が混乱しているが、同じFT記事内でミサイルが発射された、正体不明の対抗措置が放出された、と報じ、匿名の専門家がこの対抗装置は中国がロシア、米国より極超音速兵器開発で先を行く姿を示していると評している。

 

他方でホワイトハウスはFT問合わせに応じておらず、7月27日テストは「域内外で平和安定を目指す我々にとって懸念となる」との具体性に欠ける声明を発表しているだけだ。FTは在英中国大使館にもコメントを求めたが、情報はないと拒否された。

 

記事のトーンには総じて深刻さが見られ、「ペンタゴン技術陣は虚を突かれた」とあるが、肝心の装備の詳細では内容が薄く、とくに有事にどう使われるのかについて深く報じず、今回の実験が今後の装備にどうつながるのかにも触れていない。一方で、記事には過激な内容はあらかじめ除去されている。

 

セバストプロ記者は問題のペイロードをミサイルとしながら、記事では「ペンタゴン専門家には発射体は空対空ミサイルだと見る向きがある」ともしており、一貫性がない。同時に記事には匿名の「DARPA専門家」がペイロードを何らかの対抗装置とみており、ミサイル防衛体制を打破するもので、米国が開発中の装備と同じだとする見解を伝えている。

 

さらにDARPA専門家は「中国が対抗装置を極超音速飛翔中の本体からどうやって発射できたのか不明だ。放出そのものは大陸間弾道ミサイルで実用化しているが、今回はペイロードを大気圏内で放出している点が異なる」と述べているのを伝えている。

 

極超音速飛翔中に大気圏内でペイロード放出したとすれば技術面の突破口を実現したことになる。誘導ミサイルを放出したとなればなおさらだ。いずれにせよ、滑空中の本体の飛翔を不安定にさせずペイロードを放出するのは容易ではない。

 

現時点では実際に何が放出されたのか、目的は何だったのか不明だ。FT記事では放出体には「明瞭な標的がなく、南シナ海に落下した」とある。

 

そうなるとFTが報じたテストが本当に初めての実験だったのか疑問が生まれる。あるいは初めて実施が確認されただけなのかもしれない。7月27日テスト後に8月13日にもテストがあったが、その際にもペイロード放出があったかは不明だ。

 

中国側からはFT記事が混乱を招いた、あくまでも平和利用が目的の再利用可能宇宙機を武装装備と取り間違えているとの発言が出ているが、The War Zonはこれを一蹴している。

 

ただし、最新の情報では何らかの再利用可能宇宙機にペイロード運搬能力をつけた者との可能性が浮上しており、米空軍のX-20ダイナソアの爆撃機型に似たものかもしれない。X-20はボーイングが1960年代に開発していたい。この可能性を支持する核政策専門家が出ている。

 

NASA

 

別の可能性としてICBMと同様に大気圏内の飛翔中に再突入体を放出したのか。そうならば、飛翔中二か所以上の標的を狙う機能となる。さらに別の可能性は、飛翔の最終段階の低高度でペイロードを放出したことがある。極超音速滑空飛翔体あるいは宇宙機が速力制御能力を付与されれば、ある程度の自由度でペイロード放出できるかもしれない。

 

興味を引くのは、国防長官官房と米陸軍が何らかの母機から長時間滞空弾薬類を展開する技術を2019年以来模索していることだ。この場合の母機は弾道ミサイルの可能性が高く、極超音速飛翔中に行う。この事業にはVintage Racerの名称がついている。ただし、詳細情報や作動原理はほとんどわかっていない。陸軍は別個に今後登場する精密打撃ミサイル(PrSM)に滞空型弾薬類あるいは無人機多数を搭載する構想を検討している。中国の最新テストとVintage Racerでは構想内容には広い意味で類似点がみられるが、相互に関連があるのかについては語れない。

 

US ARMY

2019年の米陸軍説明資料に掲載されたPrSM弾道ミサイルによる滞空型弾薬類放出機能の構想図。

 

中国の7月27日テストの背景がなんであれ、中国の極超音速技術が浮上しており、DF-17がすでに供用開始されており、これも極超音速滑空技術を応用している。人民解放軍ロケット軍(PLARF)は多用な戦力の整備にとりくんでおり、ICBM部隊の拡充も急速に進んでいる。

CHINESE INTERNET

DF-17のモックアップが軍事パレードに登場した。DF-17ではDF-16B短距離弾道ミサイルをブースターとして利用する。写真では無動力極超音速滑空体が搭載されている。

 

極超音速兵器の進展について米国側が口にすることが増えており、米国装備の実験が失敗していることで中国の進展ぶりが目立つ格好となっている。

 

ハイテン大将はFOBS機能をもつ極超音速滑空体を「真っ先に投入される兵器」とし、「技術面で大きな意味があり、緊急性を痛感すべきだ」と述べた。

 

発言にある「真っ先に投入される」とは第一次攻撃用に最適化された兵器を指し、米中間の核バランスを崩す可能性がある。これまで核兵器への中国の姿勢は「最小限の抑止力」を旨とし、核兵器整備は比較的小規模だった。米側の予想では現在の200発程度が2030年に1,000発までに増えると見ている。

 

他方で9月に空軍長官フランク・ケンドールFrank Kendall も中国軍がFOBSに似た兵器開発に進んでいる可能性を空軍協会主催の航空宇宙サイバー会議の席上で発言している。「この形なら従来型のICBMの飛翔パターンは不要となる」「防衛体制やミサイル警戒態勢を出し抜くものとなる」

 

そうなると、極超音速兵器への防衛体制整備が一層必要になる。

 

米国の例ではトム・ドラガン海軍少将Rear Admiral Tom Drugga(イージス弾道ミサイル防衛事業主管)からSM-6ミサイルを「極超音速ミサイル防衛の中心装備」とし、グアム島にはSM-6による防衛体制が「絶対必要」だとした。グアムが中国ミサイルの攻撃の的になることは十分予想されており、ミサイル防衛庁(MDA)もこの度、レイセオンロッキード・マーティンノースロップ・グラマンの三社を選定し、滑空段階迎撃体Glide Phase Interceptor (GPI)の開発を急ぐこととした。極超音速滑空体が無動力で飛翔する中間段階での対処をねらう。

 

今年6月にMDAはアニメーションによる映像を発表しており、「多層防衛体制を次世代極超音速滑空飛翔体を想定して構築する」と説明していた。飛翔制御可能な極超音速飛翔体の迎撃対応は極めて困難な課題であり、迎撃チャンスは極めて限られる。現時点では有効な防衛体制は存在しない。

 

いろいろ複雑な面もあるが、限られた証拠ながら7月27日には何らかのペイロードが極超音速飛翔体から放出されたことを示しており、中国が画期的な技術の実用化をめざしていることがわかる。ただし、現時点では入手できる情報が少なく、実際のテスト内容や中国相手の戦略構図にどんな影響が生じるかを論じるのは時期尚早といわざるを得ない。■

 

China’s Hypersonic Mystery Weapon Released Its Own Payload And Nobody Knows Why

The mystery surrounding China's hypersonic vehicle test last summer has deepened after the craft reportedly launched its own projectile.

BY JOSEPH TREVITHICK THOMAS NEWDICK TYLER ROGOWAY NOVEMBER 22, 2021


https://www.thedrive.com/the-war-zone/43242/chinas-hypersonic-mystery-weapon-released-its-own-payload-and-nobody-knows-why


2021年10月17日日曜日

中国が大気圏再突入型極超音速ミサイル実験を実施。従来型ミサイル防衛の不備がつかれる事態を恐れる。中国との戦略兵器制限交渉は可能なのか。

 

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LOCKHEED MARTIN

 

国が核運用可能な極超音速滑空体を宇宙空間に打ち上げ、周回軌道に近い形で移動させて大気圏へ再突入し標的に移動させたとフィナンシャルタイムズが伝えている。この装備が実用化されれば影響は大きいと同紙にあり、関係者5名に意見を聞いたところ、米国はこの事態に虚を突かれた形だという。

試験実施は8月ごろで加速滑空体は長征2Cロケットが打ち上げた。同ロケットは77回目の発射となったが、北京は公表していないが、8月の76回78回の発射は公表している。フィナンシャルタイムズ記事では滑空体は標的から数マイル外れたとあるが、開発中の技術内容のほうが重要だ。

宇宙空間からの爆撃構想は冷戦時代からあり、部分軌道爆撃システムFOBSと呼ばれるが、当時は核兵器を再突入体から投下する構想だった。今回の中国装備では極超音速滑空体の膨大な運動エネルギーを使う。大気圏内で長時間の飛翔制御を行いつつ膨大な速度で標的に向かうのが特徴だ。

FOBSへの懸念が生まれたのは、ミサイル防衛の網をかいくぐるだけでなく早期警戒網で探知できなくなるためだ。通常の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と比べるとFOBSは予測不能の攻撃手段となる。飛翔距離の限界もなくなる。だがこれまでのFOBSは弾道ミサイルの延長で中間段階で追跡すれば飛翔経路は予測ができないわけではなかった。

今回テストされたとされるハイブリッド設計では全く予測不能となる。

CHINESE SPACE AGENCY

長征2Cロケットの打ち上げ

制御可能な極超音速滑空体が高高度から超高速降下すると通常の弾道追跡では対応できない。さらに事態を複雑にするのが、南極経由の攻撃を実施することで、米国の弾道ミサイル早期警戒網は北極越え軌道を想定しているためで、防衛手段も同様だ。この装備への対抗が極めて困難になる理由は、米国の中間段階での迎撃は通常の弾道ミサイルに特化した放物線軌道対応が中心なためだ。

滑空体とFOBSが一緒になれば、大気圏再突入時に防衛側の中間段階対応能力外の距離を方向を替えながら飛翔し標的にむかう。通常の地上配備レーダーの有効範囲では対応できない。そこに超高速が加わり、防衛側の現行装備では対応不能となる。

現時点では極超音速滑空体への対抗は極めて難しい。対抗策の開発が進んでいるものの、迎撃解が得られるかは対象の飛翔速度、飛翔制御、数量、支援にあたる探知機能の効果に左右される。運動エナジーと極超音速の組み合わせで撃破が最大に困難な攻撃手段になる。

フィナンシャルタイムズ記事では米国防総省関係者の驚くべきコメントも伝えており、「非通常型」運搬システムは米国の戦略防衛能力をかいくぐるとしている。

先月だが、米空軍長官フランク・ケンドールは中国が新兵器を開発中とほのめかした。長官によれば中国が大きな進展を示しており、「宇宙からのグローバル攻撃の可能性」があるという。詳細には触れず、中国が「部分的軌道爆撃システム」として旧ソ連が冷戦中に配備しようとして放棄した装備に近いものを開発中だという。これを投入してきたら通常型のICBM想定の防衛手段では探知対応ができないとケンドールは述べている。

北米航空宇宙防衛司令部のグレン・ヴァンハーク大将は8月の会議席上で中国が「高度な内容の極超音速滑空飛翔体運用能力の実証を最近行った」と述べた。中国が示した能力は「わがNoradの対応能力では警戒および攻撃評価が大きな課題となる」

DoDにはかねてから中国の核兵力整備に懸念の声があり、中国が米早期警戒防衛能力をかいくぐる兵器運搬システムの整備に走ることを想定していた。中国が砂漠地帯に数百ものミサイルサイロを構築しており、新型弾道ミサイルを格納し、今回のような滑空飛翔体を搭載する日が来れば、懸念が現実になる。そこでペンタゴンは新型宇宙配備早期警戒・追尾システムをは展開し、極超音速弾道ミサイルへの対応を急ぐとしており、とくに中間飛翔段階でミサイル監視をおこなう「コールドレイヤー」の実現をめざす。

このレイヤーがFOBSに効力を発揮するのは、防衛手段が実行可能かつ戦略的に意味がある場合に限られる。ならず者国家が高性能弾道ミサイル数発を運用する場合を論じているのではない。中国は数十発あるいは数百発もミサイルを同時発射してくるかもしれない。こうした想定では物理的な防衛体制の整備は非常に高額となりながら実効性がないものになりかねない。

とはいえ、今回のテストは宇宙開発用ロケットを使った初期段階のものだった。中国がこの技術を実用化するまでは時間がかかるだろう。高温対応や大気圏内の摩擦問題も解決が必要だ。とはいえ、中国は極超音速加速滑空飛翔体の実現を目指しここ数年精力的に開発努力を展開しているのが現実だ。

今回のフィナンシャルタイムズ記事が正確だとすれば一つ確実なことがある。超高額になっても有効なミサイル防衛能力を求める声が議会筋でも大きくなっている一方で、中国を交渉の座につかせ戦略兵器制限条約を実現するべきとの声も広まっている。

この問題は事態の進展とともに続報をお伝えする。今回のフィナンシャルタイムズ記事China tests new space capability with hypersonic missileはクリックすると読める。■

China Tested A Fractional Orbital Bombardment System That Uses A Hypersonic Glide Vehicle: Report

Such a capability could potentially allow China to execute a nuclear strike on any target on earth with near-impunity and very little warning.

BY TYLER ROGOWAY OCTOBER 16, 2021


2019年1月30日水曜日

速報 日本向けイージス・アショアの販売が承認された





米国防安全保障協力庁が1月29日付で以下発表しましたので早速お伝えします。

https://www.dsca.mil/major-arms-sales/japan-aegis-weapon-system

海外軍事装備販売制度を利用する日本向け装備売却を国務省が以下の通り承認した。
  1. AEGIS ウェポンシステム (AIS) 2セット
  2. 多任務信号処理装置(MMSP) 2セット
  3. 指揮統制処理装置(C2P)更新 2セット
総額21.5億ドルで、日本政府の要望により審査していたもの。

上記金額には海軍仕様無線航法装置、敵味方識別装置(IFF)2セット、グローバル指揮統制装備海上仕様(GCCS-M) 2セット、慣性航法装置2セットを含む。

米国政府は契約企業とともに垂直発射装置6組のモジュール筐体、通信装置その他関連予備部品の導入で技術、工学、補給支援、設営支援、訓練、建設工事、非公開資料、ソフトウェアを提供する。この総額を21.5億ドルとする。

とあり、イージス・アショアと直接言及していませんが、垂直発射施設の構築があるのでイージス・アショアであることは明らかです。

なお、主契約企業はLockheed Martin Rotary and Mission Systemsがイージス戦闘システムと多任務信号処理装置(コンピュータですね)、General Dynamicsが指揮統制装置更新分となっています。

国内ではすでに反対運動に火をつけようという動きが見られますので、政府には十分な説明の上、住民理解を得て事業を迅速に進めていただきたいと思います。


2018年11月29日木曜日

イージスアショアが日本に必要な理由

China Has Built ‘Great Wall of SAMs’ In Pacific: US Adm. Davidson 中国は太平洋に「SAMの長城」を構築した、とディヴィッドソン提督が発言

From militarized atolls in the South China Sea to a growing Chinese navy looking increasingly aggressive, the head of the Indo-Pacom command lays out his needs and concerns.南シナ海の軍事化、中国海軍の行動が一層無鉄砲さを増していることを念頭にインド太平洋方面司令官が警鐘を鳴らし行動を求めている


By PAUL MCLEARYon November 17, 2018

CSIS image
南シナ海フィアリークロス礁に中国が構築した航空施設 (CSIS image)
シナ海のサンゴ礁や環礁を強固な人工島拠点に変えた中国は対空、対艦ミサイルを持ち込み、「わずか三年前は砂しかなかった地点をSAMの長城に変えてしまった」と太平洋での米司令官が発言。
重要な通商航路で軍事化が進むことは米国のみならずアジア諸国の懸念事項だ。だが中国がますます米艦船に攻撃的になっているが米国や同盟国は国際水域と認識している。9月には両国艦船が衝突寸前の事態になった。いつの日か深刻な事故が発生すれば一気に戦闘にエスカレートする恐れがあると言われる。開戦となれば人工島上の基地は米艦船航空機への防衛網となり中国がめざすA2ADといわれる接近阻止領域拒否の手段となる。
中国で海軍艦艇の建造が続き、沿岸警備力が整備されつつある中で、隻数だけ見れば中国海軍は米海軍を凌ぐ存在になっている。ただし中国艦船の大部分は小型、短距離運用の沿岸用艦船だ。今回インド太平洋軍(INDOPACOM)司令官フィリップ・デイヴィッドソン海軍大将が恒例のハリファックス安全保障会議に登壇したため記者は対応案を聞いてみた。
「海軍の規模拡大が必要です」と大将は海軍上層部が現在の286隻を355隻体制に引き上げるべきと発言していることに触れた。中国海軍が拡大する中で「量的拡大は今後も課題」と記者に答えた。
フィル・デイヴィドソン大将
イージス・アショア導入を急ぐ理由とは
太平洋で中国に対応する艦船部隊の負担を軽減する方法の一つが弾道ミサイル防衛任務を現在のイージス巡洋艦・駆逐艦からイージスアショアに任せると提督は述べた。これは海軍作戦部長ジョン・リチャードソン大将や前任のジョナサン・グリナート大将の主張と同じだ。
また中国による地上配備ミサイルの拡充が今回トランプ政権が1987年INF条約から脱した理由となり、米国も同様のミサイル開発を可能にする狙いがある。
デイヴィッドソンは「海軍に行動の自由を復活させたい」とし弾道ミサイル防衛を陸上に移すことがその方法なのだという。そうなるとイージス巡洋艦・駆逐艦は垂直発射管にSM-3対弾道弾迎撃ミサイルのかわりに別のミサイルを搭載できる。たとえばトマホーク巡航ミサイル、LRASM対艦ミサイルで、防衛対象の都市の前後に展開するかわりに太平洋を自由に航行できる。
イージスシステムはもともと水上艦隊をソ連の大規模攻撃から防御する目的で作られた。中国の軍事力が台頭したことで再びこの脅威が復活し、海軍はイージス艦を当初の狙いにあてることとなった。「イージスシステムは海上での対艦弾道ミサイルに対応するなど高性能が期待できます。将来も水上展開する部隊の防御に必要な装備です」(デイヴィドソン提督)
日本はイージス・アショアを二地点に導入すると決めたが、「基本的に日本用のミサイル防衛装備である」とディヴィッドソンは説明。
Navy photo.
今年はじめに日本は20億ドルで地上配備イージス・アショアレーダーミサイル追尾拠点の構築をロッキード・マーティンに求めている。海上自衛隊は同様の能力を水上艦で運用中だ。ルーマニア、ポーランドで同装備が整備されている。
ただしイージス・アショアの稼働開始は2025年以降となる。イージス・アショアは水上艦とリンクされ北朝鮮ミサイル対応策の効果が向上する。
中国は航空母艦、潜水艦初め海軍艦艇を急速に建造しており、ついに昨年に世界最大の海軍国になったがデイヴィッドソン大将はロシアの太平洋地区での動きも注視している。
「ロシア軍事活動は大部分が世界の別の地域で展開されているが太平洋でも動きを強めており、外交活動の妨害を目指している」と述べ、最新弾道ミサイル潜水艦三隻を太平洋に配備していることを取り上げた。

太平洋のロシア軍事力の規模は比較的小さく、ロシアは太平洋で米国あるいは中国に対して海洋支配を巡り挑戦する構想は今のところない。■

2018年9月17日月曜日

極超音速ミサイル迎撃手段の開発始まる---進化するミサイル防衛技術

This Is How the U.S. Military Wants to Shoot Down Russian or Chinese Hypersonic Missiles 米軍は中露の極超音速ミサイルをこう撃墜する

Kill a bullet with a bullet—hypersonic style. 弾丸で弾丸を撃ち落とす---しかも極超音速で

September 15, 2018  


超音速ミサイルが米国のミサイル防衛網を突破する可能性が出てきた中、米ミサイル防衛庁(MDA)が極超音速(マッハ5超)迎撃ロケットを求めるのは当然だ。

MDAは迎撃体で極超音速での高G飛翔制御を可能とする装備開発の研究提案を求めようとしている。

MDAによれば「飛翔制御は最大にしつつ運動エネルギー損失を最小限にして極超音速での飛翔を制御する」方法が必要だとする。

「提案ではマッハ5以上の速度域、高度50キロ以上を想定してもらいたい。迎撃体は1メートル未満あるいは5メートル以上の大きさを想定する」

実に明確に聞こえるが実は違う。極超音速ミサイルが大気圏にマッハ5プラスで突入する様子を想像してもらいたい。(DARPAがマッハ20の飛翔体をテストしたが焼えつきてしまったといわれる)そこにマッハ5プラスの迎撃体が接近する。両者合わせた速度は相当の難題となる。

興味深いことにMDAから「政府はこれまで各種システムに相当の支出を続けてきた」との発言が出ており、飛翔方向を制御するスラスターのことを指しているようだ。

極超音速ミサイルの出現は米国には嬉しくない事態で、現在のミサイル防衛は冷戦時代からつづくICBMや戦域規模の弾道ミサイルへの対応が中心だからだ。ICBMは上昇後は宇宙空間を巡航してから分離した弾頭がマッハ23で大気圏に再突入する。このため宇宙での迎撃が最も望ましい。だが、極超音速ミサイルは大気圏内を高速飛翔しながら回避行動をとり、一定の弾道コースを飛ばないのだ。MDAは2019年度予算で極超音速兵器対策に120.4百万ドルを要求している。

「MDAは現行の迎撃手段では制御可能な極超音速ミサイルへ対応できないと公に認めている。今後は極超音速ミサイルに最適化した手段の開発が必要と認めている」とジェイムズ・アクトン(カーネギー平和財団核政策研究部門)が本誌に語ってくれた。「今回の要望を見ると明らかにその方向に向かっているようだ」「現行の迎撃手段の一部も極超音速飛翔できるだろうが今以上の飛翔制御能力がないと標的を直撃できないのだろう」

ここから生まれる嫌な問題は極超音速迎撃が実現すれば国際軍備管理が不安定となり軍拡競争が生まれるのではないかという点だ。アクトンは迎撃体が非戦略ミサイルを相手にするなら受け入れ可能と見る。「米THAAD(終末高高度広域防衛)は短距離、中距離の弾道ミサイルへ十分効果がある手段であり、こうした弾道ミサイルは同じ距離なら極超音速兵器より高速飛翔する。そうなると極超音速ミサイル相手の局所防衛は十分可能と思うし、それが実現したからと言って不安定化を招くことはないだろう」

ただしICBM相手に極超音速迎撃体を使うと事態は変わる。「広域防衛に極超音速手段を使えば不安定化を招く。ロシアや中国の第二次攻撃能力を危うくするからだ。それでも実施可能だと思う」(アクトン)

一方でDARPAがグ極超音速兵器に対応するライドブレイカーGlide Breaker防衛構想を募集中だ。「グライドブレイカーの目的は超音速、極超音速の脅威全体に有効な米防衛体制を高めることにある」とDARPAが説明している。■

Michael Peck is a contributing writer for the National Interest. He can be found on Twitter andFacebook .

2018年3月8日木曜日

ロシア公表の新兵器の驚くべき内容はどこまで信憑性があるのか不明だが、米側に看過できない内容なのは明らか

プーチン大統領が発表した各種新兵器は常軌を逸した内容のようです。米防衛体制の弱点の裏をかくような内容で米側も見直しを迫られそうですが、前にも指摘したようにミサイルや無人機に核動力を搭載することで副次的な破壊効果も生まれるでしょう。看過できない内容で「反核」主張の人たちが沈黙しているのは理解できません。奇をてらった装備もあり、本当の効果は永久にわからないかもしれません。米側としては新装備導入を訴えやすくなる効果があるのですが、ロシア中国が開発ペースを加速化する中で焦りも米側に見えますね。このため今後は日本、イスラエル、インドはじめとした技術力の取り込みを米国は意識するでしょう。

Aerospace Daily & Defense Report

U.S. Calls For Better Defenses As Putin Touts New Nukes ロシアの新核装備に対応し米防衛体制強化が必要だ

Mar 2, 2018Lara Seligman | Aerospace Daily & Defense Report


Sarmet: NBC News

戦略軍団司令官が追尾監視体制の強化とミサイル防衛能力の引き上げがロシア大統領ウラジミール・プーチンが公開した恐るべき新型核装備の数々に対抗するため必要と求めている。
3月1日演説でロシア連邦議会に向けプーチンは5種類の「無敵」次世代核兵器を紹介し、米ミサイル防衛体制をかいくぐる、通常の弾道コースを通らない「サーマットSarmat」大陸間弾道ミサイル(ICBM)に「アヴァンガードAvangard” boost-glide hypersonic weapon, 」飛翔滑空極超音速兵器を搭載し、核動力巡航ミサイルで無限の飛翔距離を実現し、海中に核無人機を投入し、「キンザルKinzhal」空中発射式極超音速ミサイルに言及した。
プーチン演説は米側が国防長官ジム・マティスの新核戦力整備検討結果でミサイル防衛体制の整備を加速強化すると中で出てきた。ジョン・ハイテン大将(米戦略軍団司令官)はロシアの核戦力は「100%最新装備化」され米国が後塵を拝することになると警告した。
「では米国はどうか。近代化はゼロパーセントに近くこれから始まろうかというところだ」とハイテン大将は2月28日に米陸軍協会会合で講演した。
ハイテン大将は宇宙配備ミサイル警報機能の実現が今後登場する極超音速兵器や大気圏再突入体の追尾に必須の装備として米ミサイル防衛体制に加えることと強調し、現在の体制は弾道ミサイルを中心に想定している。
「センサー探知効果では艦船も太平洋のレーダー施設も十分でなく、宇宙を活用せざるを得ない」(ハイテン大将)
ミサイル防衛庁(MDA)にはこの構想として中間軌道対追尾センサー(MTS)があるが、「あまりにも時間がかかりすぎる」とハイテン大将は述べた。
ハイテンは同時に汎地球規模のセンサー・レーダー網によるミサイル発射探知機能の向上を求めている。同様の装備はMDAがアラスカに長距離判別レーダー(LRDR)として設置ずみだが、もっと信頼性が高くないと確実な破壊につながらず、多数の物体を同時に識別する必要があるという。
だがハイテン大将の最大の懸念は米国が「迅速に事を進める能力を喪失した」ことだ。
「何かしようとすると永遠と思えるほど時間がかかる一方で敵側はこの問題に無縁のようだ。もう一度迅速に進める方法を樹立しないと敵に追いつかれる」
ではプーチンが発表した戦力の内容は以下の通りだ。「サーマット」は200トンのICBMで射程距離11,0000キロで現行のR-36ヴェーヴォダの後継となる。プーチンはサーマットの性能を自慢し加速段階が短時間のため米ミサイル防衛体制で迎撃は困難とした。同ミサイルは極超音速兵器含む各種核弾頭が搭載可能だ。
プーチンの背後の画面ではサーマットの攻撃パターンを北極、南極双方を経由で示していた。
サーマットは「アヴァンガード」地上発射式加速滑空制御可能極超音速兵器の搭載も可能でプーチンは対空網、対ミサイル網に「絶対無敵」と豪語した。アヴァンガードは機体表面が1,600-2,000度Cになり「隕石のような火の玉となって標的に飛ぶ」と述べた。
同時にプーチンは核動力巡航ミサイルを紹介し、飛行距離で制約がほぼ存在せず、「想定外の飛翔軌道」を飛ぶと述べた。米トマホーク同様に低空飛行のステルスミサイルと述べ、小型核ロケットエンジンを搭載するという。ロシアは2017年末にテストに成功したとも述べた。
ロシアは水中核動力無人機も開発し、プーチンは長距離を「極限の深度で」進み、速度は「潜水艦の数倍」と述べた。同兵器は「敵の対抗措置では破壊不可能」で通常型、核双方の弾頭を搭載し各種標的の破壊が可能という。

最後に「キンザル」(短剣)は高精度極超音速航空機搭載ミサイルでプーチンによれば核・非核両用でマッハ10で射程2,000キロのという。MiG-31から発射される様子が示されたが、飛翔中は一貫して制御可能なため米対空ミサイルやミサイル防衛体制をかいくぐることが可能だとプーチンは説明。性能はテスト済みで「試用投入」が昨年12月1日に始まったという。■

2018年1月9日火曜日

ペイトリオットPAC-3最新型MSE登場


Enhanced Patriot Missile Enters Full Rate Production, Will Sell Like Hotcakes

高性能版ペイトリオットミサイルが本格生産開始、人気商品になりそう

Driven by world events, the market for ballistic missile defense is very hot at the moment, and the Patriot PAC-3 MSE's timing seems just right.

弾道ミサイル防衛への注目が増える中、ペイトリオットPAC-3 MSE登場のタイミングは時宜にかなっているようだ



LOCKHEED
 BY TYLER ROGOWAY JANUARY 4, 2018

イトリオットミサイルシステムの最新型PAC-3ミサイル部分性能向上Missile Segment Enhancement (MSE)は昨年11月のホワイトサンズミサイル試射場で複数目標の迎撃に成功した。PAC-3 MES迎撃ミサイルはコスト削減策Cost Reduction Initiative(CRI)型のペイトリオットとともにテストに供された。
テストが順調に推移しPAC-3 MSEの実証段階は終わり本格生産に入る。ペンタゴンは2018年1月2日に数億ドル相当の契約を交付し、米陸軍向け生産が始まり、米同盟国多数にも配備されるはずだ。
新型性能向上版ペイトリオットについてロッキードは以下発表している。
「PAC-3ミサイル部分性能向上(MSE)は実績で証明済みのPAC-3ミサイルの進化形だ。命中すれば必ず破壊するPAC-3 MSEで性能向上が実現し変化し続ける脅威対象に対応する。PAC-3は世界最先端かつ最高性能の戦域防空ミサイルであり大量破壊兵器を搭載した戦術弾道ミサイル(TBMs)、巡航ミサイル、航空機の脅威に対応する防御手段となる。
PAC-3 MSEでは最新技術を導入し大幅に性能を向上している。PAC-3 MSEには大型パルスソリッドロケットモーターを複数採用し、アクチュエーターを改良し、熱バッテリーで性能向上している。射程も伸びた。PAC-3 MSE はキャニスター格納で積み重ね可能なので現地運用が柔軟に行える。PAC-3 MSE12本をペイトリオット発射機に搭載する、あるいは6本とPAC-3ミサイル8本を一緒に運用できる。
さらにロッキードは新システムの長所を以下述べている。
  • 今日の戦闘空間全体で戦力を向上
  • 高度、距離ともにミサイル性能が拡大
  • 発射装置の改修は最小限ですむ
  • 複パルス技術によりさらにシステム性能と信頼性が伸びた
LOCKHEED

MSEの正確な有効距離と高度は極秘事項だが、改良でMIM-104ペイトリオット部隊がはるかに広い範囲でより高い防御力を戦術弾道ミサイルに対し発揮するのは確実だ。ミサイルのモーター、制御部分、ソフトウェア、フロントエンドの熱防御他の改修で一層威力を増やしたのは確実だ。このミサイルが国際顧客向け中距離防空システムMedium Extended Air Defense System (MEADS) の基本装備となる。
戦域弾道ミサイルの普及の中で高性能版ペイトリオットミサイルの需要は高いはずだ。ロシアがイスカンダル戦術弾道ミサイルの配備で再び厄介な存在になってきたこと、北朝鮮の脅威が増えるばかりになっていること、さらにイラン支援を受けたフーシ反乱勢力がイエメンで長距離弾道ミサイルを運用しているため弾道ミサイル防衛は防衛当局の最優先事項に認識されている。このためペイトリオットはルーマニア、ポーランド、スウェーデンにも販路を広げているほか、採用国はこれから増えるだろう。
LOCKHEED
フーシが発射したミサイルにペイトリオットが示した性能は宣伝ほどではなかったが、現実と食い違う「ミサイルの盾」構想とあわせこの問題は前にも解説している。だが弾道ミサイルから国内の重要地区を防御するのは価値がある試みだ。とくに同じ部隊で地域内の防空機能を航空機や巡航ミサイルに発揮しながら小型無人機にも対抗できれば投資価値は十分ある。精緻な専用ミサイル防衛手段もあるがこれだけの柔軟性はない。ペイトリオット最新型は「多層」弾道ミサイル防衛の下級部分として十分な内容になっている。
三十五年ほども供用されてきたペイトリオットが進化を続けていることは朗報で、能力が高まりながら柔軟性を増している。ペイトリオットPAC-3 MSE最新型で性能面が大きく飛躍した。将来の発展の基礎にもなりそうだ。デュアルモードシーカーが今後採用される可能性がある。■
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