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2021年12月15日水曜日

中国の極超音速兵器開発に先を越された米国は有効な防衛力を実現できるのか



China Hypersonic Missile Testing

PLA Daily



中国のペースにあわせ、米国は極超音速兵器を月産10基以上製造する必要があるが、現状はそこまで行っていない....

 

国がFOB核運用極超音速滑空体のテストを行ったことで米国並びに太平洋地区同盟各国に戦術戦略上の脅威が加わったとペンタゴンで兵器開発にあたっていた専門家が指摘している。

 

マイケル・グリフィン博士Dr. Michael Griffinは研究開発担当の前国防次官補で、中国の極超音速兵器体系が米国を上回ればグアムや台湾のような死活的な地点への米軍・同盟国軍の接近が阻まれると発言。

 

「中国のFOBは戦術装備ながら戦略的な意味があり、手ごわい装備だ。中国がグアム西方に立ち入り禁止区域を設定すれば世界的な影響がでる」と高度核兵器アライアンス抑止力センターAdvanced Nuclear Weapons Alliance Deterrence Center主催の「極超音速兵器が政策と核抑止体制に与える影響」イベントで発言した。

 

中国が一方的に有利な形で極超音速兵器配備を進めると、米軍・同盟軍へ一斉攻撃を行い、戦闘継続できなくなる事態が生まれるとグリフィンは想定している。

 

中国の極超音速兵器の脅威

 

中国に実用レベルの極超音速兵器が各種そろい、米国にないとなると、太平洋に展開する米軍部隊に防衛手段がなくなる、というのがその考えだ。

 

その場合、米軍部隊は極めて脆弱になり、グリフィンは米軍同盟国軍は台湾あるいはグアムへの接近を「阻止される」事態となるのを恐れる。

 

中国の弾道ミサイル、核ミサイル等一斉発射に対し、防衛手段が実質上ない状態を想定している。防衛側を上回る飽和攻撃が「青天のへきれき」シナリオで想定されており、極超音速ミサイルが加われば事態はさらに深刻となる。

 

そのため大量の極超音速ミサイルの飛来を食い止める唯一の手段は、現状では敵に壊滅的被害を与える反撃手段以外にないと考えられている。

 

米抑止力はどこまで


攻撃を受ければ確実に反撃を行うとの抑止効果が極超音速兵器による大規模強襲への唯一の予防手段となる。ここをグリフィンは強調し、米国は中国に歩調を合わせた形で新型極超音速兵器の開発、生産、配備が必要だと主張している。

 

「極超音速攻撃手段では中国がわが国の先を走るのは明らか。こちらには一斉発射の阻止で手段がない。中国を上回る攻撃能力が整備できないと、中国の行動を縛ることができない」(グリフィン)

 

ペンタゴンは極超音速兵器生産を増し、パラダイムを一変させる「価値観を根底から覆す」技術を模索する必要がある。

 

通常・核双方の新型ミサイル生産を加速化する必要がある。

 

 

米装備の現状

 

米空軍では空中発射式迅速対応兵器をAir Launched Rapid Response Weapon と呼び、極超音速発射体として航空機から運用する構想が急進展している。

 

米陸軍は長射程極超音速兵器 Long Range Hypersonic Weapon (LRHW) を2023年までに実用化すると発表した。ペンタゴンは実戦用極超音速兵器の実現だけでは足らず、中国に対抗し、抑止効果をあげるため大量整備に迫られる。

 

中国が核運用可能な極超音速滑空体の試験を行ったことに大きな関心が集まったのは当然で、ペンタゴン上層部の懸念が現実になった。極超音速ミサイルの製造配備で中国は米国に先行している。

 

「現在は月産二基の極超音速兵器製造に向かっている。これを月産10本に増やす必要がある。中国はわずか12本の極超音速ミサイルでは脅威を感じない」(グリフィン博士)

 

同時にグリフィン博士は「既存価値観を覆すような」技術を開拓し現在開発中の極超音速ミサイルを超える新世代装備の開発を訴えており、弾頭部、誘導手段、推進手段で既存の空気吸い込み式や加速滑空型極超音速兵器体系を超える装備が必要と言いたいのだろう。実現のカギを握るのは迅速な試作・試験とグリフィンは見ている。

 

「テストを毎週実施すべきで、三カ月に一回ではまに合わない」(グリフィン博士)

 

中国のFOB兵器実験で緊急度はさらに高まっている。中国の新兵器は軌道上に長時間「留まる」機能があるとの観測があり、これが最大の懸念事項だとグリフィンは指摘する。つまり中国兵器は標的を選択し、飛翔経路を最適化して予想外の方向から攻撃する可能性があるということだ。

 

「軌道上に待機させ、任意の方位角で標的を狙う機能を懸念する」(グリフィン博士)■

 

 

China's Hypersonic Weapons: A Significant Global Security Threat

KRIS OSBORN, WARRIOR MAVEN


 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Master’s Degree in Comparative Literature from Columbia University.

 

 

2021年10月31日日曜日

中国の新型極超音速兵器は60年代の米X-20ダイナソア宇宙爆撃機計画の焼き直し?X-37との関連はどうか。ナチドイツの研究成果も関係している。

 

 

中国の新型極超音速兵器は米国の1960年代の宇宙爆撃機構想に通じるものが多い


10月はじめに米情報機関が中国が新型極超音速兵器の実験におおむね成功し、大気圏再突入し、標的から外れたものの直撃に成功したと明らかにした。


中国が高性能極超音速ミサイルを開発したとの見出しが世界にひろがったが、事実は異なる。中国がテストしたのはミサイルではなく、新技術でもなく、実態はソ連が冷戦時に運用したのと類似の兵器システムで、米国が1960年代に運用一歩手前まで進めた極超音速準軌道で移動する宇宙爆撃機に近い。


今回の中国テストはFOB部分軌道爆撃システムと呼ばれるものでロシアの空中発射式キンザルミサイルより米空軍が秘密裏に運用するX-37B無人軌道機と比較すべき存在だ。FOBs の作動原理を説明した図 (WikiMedis Commons)


FOBは低地球周回軌道でスラスターで飛翔軌道を変え、大気圏再突入のタイミングも変えられる。これは米国にとって深刻な脅威となる。米ミサイル防衛ではICBM発射を早期探知してから慎重に軌道計算して初めて迎撃可能となるからだ。中国の新型FOBは軌道を変更しつつ極超音速滑空体を使うため迎撃手段で対抗できなくなり、南極周りの軌道を取れば米防衛網の対応能力ははるかに低くなる。


FOBが実現すれば相当の戦力を有する装備品となる。このため米国も同様の技術を開発しようとしていたがソ連は先にスプートニクを軌道に乗せた。だが、核の相互破壊保証の時代に新規の核兵器運搬手段は必要ないとされた。


現在の地政学環境は変わったが、構想は今でも有効かつ1950年代同様にしっかりしている。


X-20ダイナソアの誕生

第二次大戦中のドイツがニューヨーク爆撃機として開発した技術をもとに生まれたボーイングのX-20ダイナソアは単座機でロケットで打ち上げる構想だった。


第二次大戦中のドイツがニューヨークを爆撃し、そのまま太平洋方面に移動する研究成果から生まれたのがボーイングX-20ダイナソアで、単座でロケットで打ち上げる構想だった。


大気圏ギリギリの高度まで到達し、跳びはねながら移動し、ソ連上空でペイロードを放出する構想だった。当時の世界は冷戦の盛りだった。一部筋は同機が実際に実現したら機能していただろうと話す。


ペーパークリップ作戦、冷戦のはじまり

第二次大戦終結で米ソ両国の関係は気まずいものになっていた。ドイツが大陸各地を席捲した背後にドイツの先端軍事技術があったが米ソは冷戦の幕開けを目の当たりにし、次の大規模戦闘で生き残る策の模索のほうが重要度が高いと認識していた。


ナチ技術でドイツは軍事面で優位性を獲得し、米ソは技術に携わった科学者が戦後の責任追及を逃れようとするとわかっていた。両国とも新技術による戦略優位性の重要性がわかっていたため、ナチに協力した科学者技術者の確保に走ったの。米国はドイツ科学者確保をペーパークリップ作戦と呼び展開した。


ペーパークリップ作戦はドイツ科学者技術者等およそ1,600名を戦後の米国に移動させ、米国での技術開発に参加させた。NASAでサターンVロケット開発にあたったウェルナー・フォン・ブラウンがこの中で最も有名だが、ほかにワルター・ドーンバーガーとクラフト・エーリケもいた。


ナチ関係者からベル技術者へ転身

両名はベル航空機に職をみつけ、垂直発射式の爆撃機ミサイル一体化構想を提案した。ドイツではジルバエルフォーゲル(銀鳥)と呼んでいた。今日でも同構想は極めて理にかなっていると言える。機体はロケットで打ち上げて大気圏外の準地球周回軌道高度まで進み、大気圏に向け滑空し再び「跳ね返され」高度を上げる。これを機体の主翼により実現する。


Diagram of the planned X-20 Dyna-Soar (WikiMedia Commons)


今でこそ再利用可能な宇宙機を準周回軌道に打ち上げるのはごく普通に聞こえるが、ドーンバーガーとエーリケ提案は1952年でソ連が初の人工衛星を打ち上げる5年前のことだ。ペーパークリップ作戦ではドイツ科学者を使い米国の先端軍事装備開発を一気に進展させる狙いがあり、倫理的観点は二の次でとにかく成果を追求していたことが理解できる。


スプートニクの影

1957年10月1日にソ連がスプートニク1号打ち上げに成功し、人類初の人工衛星が誕生した。直径わずか23インチの小型の金属球で無線アンテナ四本でソ連や世界へ信号を送信してきた。これが西側世界で「スプートニクショック」を引き起こした。


第二次大戦が終わり軍事経済両面では米国が事実上のリーダーだったが、スプートニクの成功で米国の優位性に疑問符がついた。ソ連は米核兵器に追いつこうと原爆実験を1949年に行い、水爆実験は1953年に成功していた。今度は米国を追い越し、ソ連がリードをとってしまった。


ウェポンシステム464L

ドーンバーガーとエーリケの構想を米国は三段階で実現しようとしていた。ロケットブースター(RoBo)、長距離偵察機(ブラスベル)、極超音速兵器研究である。スプートニク1打ち上げを受け直ちに米国は事業を一体化させウェポンシステム464L別名ダイナソアにした。


Artist’s rendering of the X-20 Dyna-Soar (NASA)


新たにダイナソアとなった事業では三段階で技術成熟化を狙った。ダイナソア1は研究用機体。ダイナソア2は偵察機能を付与する。ダイナソア3では爆撃機能を実現する。第一段階は1963年までに無動力滑空テストを開始し、翌年に動力飛翔テストを行うとした。その段階でダイナソア2でマッハ18を実現する予定だった。ダイナソア用のミサイルは1968年に供用開始し、宇宙機は1974年の運用開始をもくろんでいた。


(U.S. Air Force image)


ベル、ボーイング両社が提案を出した。ベルが先を進んでいたが、ボーイングが契約交付を受け、X-20ダイナソアとなる装備の開発開始のめどがついた。


ダイナソアの実現

(Boeing photo)



1960年に同機設計はおおむね完了し、デルタ翼に小型ウィングレットをつけ尾翼の代わりととして機体制御する構想だった。大気圏再突入の超高温に耐えるため、熱耐性が高いレネ41超合金を機体に採用し、機体下部にはモルブデン、グラファイト、ジルコニアで熱遮断を図った。


空軍公式歴史家リチャード・ハリオン博士は「ニッケル超合金で高温に耐える構造だった」とし、「主翼前縁部に特殊合金を採用し能動冷却効果をねらった」と解説している。


同年に同機の搭乗員が選出され、その一人は30歳の海軍テストパイロット兼宇宙技術者で名前をニール・アームストロングといい、その後1962年に同事業から去った。


当時の技術でも実現可能だった

同年末に制式名称X-20がつき、ラスベガスで一般公開された。B-52が空中投下式のX-20大気圏内飛翔テストの母機に選ばれ、ロケットブースターによる高高度投下テストも初めて行われ成功した。


同事業は当時としては時代の先を行くものだったが、当時の技術でも十分実現可能だった。1960年代初頭には米国に宇宙爆撃機が生まれると見られていた。


X-20ダイナソアのモックアップが完成し、全長35.5フィート、翼幅20.4フィートになった。着陸には三点式引き込み脚を使った。自機にもA-4あるいはA-9ロケットエンジンを備え、大気圏外軌道に乗る構想だったが、ミッションの大部分は滑空飛行で大気圏まで降下して揚力を稼いでから跳躍で高度を上げ、大気圏をかすめながら移動するとした。最終的に速度が落ちてからパイロットがスペースシャトルのように地表に向かう。


X-20ダイナソアの終焉

(U.S. Air Force)


X-20構想は当時の常識を超えた存在だったが、技術面では実現可能性が十分あり、初期テスト結果からダイナソアは宣伝文句通りに機能するとわかっていた。ただし、事業経費があまりにも高く、新設のNASAはジェミニ計画に中心をおき、政府トップもソ連に対抗し実際の宇宙機の運用を早く希望していたものの、国際的な地位を高める点では貢献度が低い兵器体系の実現は二の次とされた。


ハリオン博士は「U-2同様にブラックワールド事業で進めていれば、実現したかもしれない。事業を止めるような技術的問題はなかった」とする。


大気圏内を滑空するX-20の想像図(WikiMedia Commons)


だが1963年12月10日、X-20事業は終了した。米国は4.1億ドルを開発に投入し、2021年のドル価格では35億ドルに相当する。その時点でダイナソアは宇宙爆撃機への道がまだ道半ばだった。ハリオン博士の記述ではX-20の開発状況は実機完成は2.5年先で追加3.7億ドルの投入が必要だったとある。宇宙爆撃機は世界全体を活動範囲に入れるが、米空軍は1957年にB-52で世界一周飛行を実証しており、高価なロケットを使うまでもなかった。


X-20事業を終了させ、残る予算は有人軌道実験室事業に転用され、ジェミニ宇宙機を使い、地球軌道上に有人軍事プレゼンスを実現するとされた。


ただし、X-20はそのまま飲歴史にみ込まれたわけではない。同事業の一部はNASAのスペースシャトルに応用され、そして宇宙軍の極秘宇宙機X-37BにはX-20を思わせる要素がある。X-37Bは宇宙爆撃機ではないとされ、たしかにそのようだが、再利用可能宇宙機であることに変わりない。米国が運用する最高性能の偵察機材であることは確かだ。■

 

X-20 Dyna-Soar: America's hypersonic space bomber

Alex Hollings | October 24, 2021


2021年10月19日火曜日

軍事用極超音速ミサイル試験を平和目的の宇宙機実験だったと虚偽発言する中国外務省の情報操作をうのみしている日本メディアのおめでたさ。

 中国政府はテストそのものがなかったといい抜けようとしているが、記者会見で触れた宇宙機テストは7月のものでまったく別個のもので、そのまま伝えたNHKなど国内メディアは中国の情報操作に手を貸したことになりました。


An artist's conception of a notional hypersonic boost glide vehicle in flight.

LOCKHEED MARTIN

 

国政府は中国が極超音速滑空体を軌道に乗せたのちに大気圏再突入させ標的に向け飛翔させたとの報道内容を否定した。中国外務省は再利用可能宇宙機だったとし、武器ではないと述べた。しかし、公式声明で宇宙機打ち上げは7月とあり、フィナンシャルタイムズ記事では軌道上爆撃手段のテストは8月とある。

 

 

中国外務省報道官趙立堅は2021年10月18日記者会見でブルームバーグ、AFPからの質問に対し、同記事を否定した。

 

「今回は通常の宇宙機の試験で再利用の可能性を試したものである」「地球帰還に先立ち切り離した後、大気圏内で支持部門が燃え尽き、破片は大洋に落下した」同報道官はこの宇宙機がフィナンシャルタイムズ記事にある飛翔体と同じなのかと尋ねられこう答えた。

 

ブルームバーグのジェイムズ・メイがー、BBCのスティーブン・マクダネル両名がこれを受けて中国外務省から趙報道官の発言は7月の宇宙機の件だったと確認したと伝えている。軌道上爆撃手段システムのテストは8月実施だったことが判明している。

 

国営企業中国航天China Aerospace Science and Technology Corporation(CASC)は7月に再利用可能な宇宙機テストに成功したと発表しているが、その際は準軌道飛翔だったとしている。CASCは同宇宙機の飛翔方式について説明しておらず、内モンゴルの酒泉衛星打ち上げ場Jiuquan Satellite Launch Centerから発射したと述べていた。2020年にも同打ち上げ場から長征2Fロケットが打ち上げらており、「再利用可能試験宇宙機」だったとの説明があった。

 

フィナンシャルタイムズ記事では長征2Cロケットが軌道爆撃システムのテストに使われたとあり、長征ロケット第77回目打ち上げとなったが、非公表のままだ。76回目78回目は7月19日、8月24日に実施されている。

 

趙報道官が言及したCASCによる宇宙機テストはこの売り7月16日にものだろう。さらにフィナンシャルタイムズの取材源によれば今回の軍事装備は標的突入含むすべての飛翔段階を実行したと言い、標的から数マイル外れている。CASCは宇宙機は飛翔実験ののち、空港に着陸したと発表したが、報道通りにともに実行されたとすれば、米情報機関が混同した可能性もある。

 

とはいえ、専門家筋から先に発表のあった再利用可能宇宙機と今回話題に上った軌道爆撃システムがどう関係しているのか疑問点が提示されている。民生用航空宇宙事業が中国で軍用装備とつながっている例はこれまでもあり、軍民両用の開発が展開していることはよく知られている。また、中国が極超音速滑空飛翔体兵器を実際に配備していることも知られている。

 

「今回は米側がX-37Bは兵器ではないと主張していることへの中国の反応なのか」と Secure World Foundationのブライアン・ウィーデンがツイッター投稿しているが、中国のテストに対し数多くの疑問が出ている。X-37B小型宇宙シャトルが宇宙軍が運営しており、実は何らかの軌道爆撃任務を行うものではないかとの噂がこれまで長くありながら実態は不明のままとなっている。

 

「宇宙機はすべてFOBSになるのか」とウィーデンは部分軌道爆撃システムに言及した。

 

FOBSの基本概念は1960年代のソ連にさかのぼる。通常の大陸間弾道ミサイル(ICBM)との比較で、準軌道上に配備するFOBSは射程距離の制約がなく、標的の割り出しが不可能ではないが困難となる。さらにFOBSの低高度弾道は地上配備レーダーでは探知が困難で、敵には対応が課題となる。

 

極超音速飛翔体をFOBSの弾頭部分に組み合わせれば予測不可能な攻撃手段となる。飛翔体は飛行制御性を高くしたままで弾頭を標的に命中させ、敵の防空ミサイル防衛体制を突破する。南極越え攻撃の場合、米ミサイル防衛の想定の裏をかくことになる。極超音速飛翔体の迎撃が極めて難しいことは米国含む各国政府が率直に認めている。

 

そうなると、報道されているような中国版FOBSと宇宙機の関連があるのかないのか不明だが、防衛能力を突破する性能をFOBSにあり、極超音速滑空体を利用することが中国が開発に励む理由なのだろう。また北京政府がFOBS開発を1960年代1970年代から手掛けたが中止されていたのは技術問題が解決できないためだったことが知られている。だが現在の中国航空宇宙産業界は当時より高度技術の実現能力が飛躍的に伸びている。

 

空軍長官フランク・ケンドールは中国軍がFOBSに準じる兵器開発にあたっていると9月の空軍協会イベントで発言していた。「これが実用化されれば従来のICBM軌道は無用の存在になる。ミサイル警報システムや防衛体制が突破される」

 

フィナンシャルタイムズ報道が出ると米空軍のグレン・ヴァンハーク大将(NORAD北米防空司令部司令官)から中国が「非常に進んだ極超音速滑空飛翔体能力を最近実証した」との発言が8月にあり、「NORADの対応能力では早期警戒及び攻撃地点の割り出しが困難となる」としていたことが改めて注目された。

 

米海軍のジョン・ヒル大将は議会で6月に「左右に曲がる飛翔制御は飛翔距離を延ばす意図があるため」と証言しており、各国の弾道ミサイルで飛翔制御能力が向上している様子に触れた。「大気圏再突入すればすべて極超音速になる」

 

中国のFOBSは開発初期段階で実戦化には遠いものの、同国が進める戦略戦力整備の一環でその他にもICBMサイロの整備、弾道ミサイル運用原子力潜水艦部隊の建造もある。米政府は繰り返し、情報から中国が核弾頭の貯蔵を増やしていることが判明していると述べている。

 

北京政府の戦略装備では透明性が一貫して低いままだ。中国との経験が豊かな元国防総省のドリュー・トンプソンは中国がいわゆる「非先制攻撃」方針で柔軟な姿勢を強めており、非核兵器で攻撃を受けても核兵器で対応することを自制してきたのを改めるのは明白としている。

 

FOBS含む技術開発で米側のミサイル防衛体制への対応で自信がつき、各種装備品が充実している。とくに現行の米ミサイル防衛体制では中国が保有中の核兵器を全弾発射した場合に対応できなくなることが重要な点である。

 

米中関係は領土問題、貿易面での意見対立でここ数年冷え込んでいる。米政府はCOVID-19パンデミックでの中国政府の処理を批判しており、ウイグル少数派の新疆での弾圧、香港民主派の取り扱い、台湾への圧力が関係悪化をさらに加速化している。一方で中国国内では強硬派の声が大きくなっている。米中台から有事発生の可能性が高まっているとの懸念が強まっている。

 

「米ミサイル防衛では中国核戦力の技術水準向上を懸念している」が、「米国が台湾とのつながりを強化し、新疆問題で中国を指弾していることが中国の核戦力増強を生んでいる」とカーネギー精華グローバルポリシーセンターのTong Zhao主任研究員がツイッターに投稿し、中国の戦略兵力整備の理由を解説している。

 

こうしたことを念頭に米政府は中国との軍備管理交渉を新たに始めたいとしており、ロシアも含めた三者協議も視野にしている。だが中国からは早くもこの動きを否定する姿勢を示している。

 

まとめると中国のFOBS整備に戦略兵器開発での透明性欠如が加わると今後の地政学上の環境で不確実性がさらに高まりそうだ。

 

Updated 5:45 PM EST:

 

NPRのジョフ・ブルームフィールから軌道爆撃システムに関し興味深いデータが提示された。フィナンシャルタイムズ記事では中国宇宙打ち上げ技術アカデミー(CALT)から長征2Cロケットの77回目と79回目の打ち上げについて公表したものの、78回目の発表がなかったとしていた。ブルームフィールはCALTは76回目打ち上げについても公表がないと指摘。

 

ブルームフィールからはCASCが7月の宇宙機打ち上げでロケットを投入したかで発表をためらっているため情報が錯綜していると指摘。CASCとCALTの間で食い違いがあるため準軌道上の宇宙機と軌道上爆撃システムの両テストの実施時期に関し一層の疑問を生んでいる。■

 

 

China's Claim That Its Fractional Orbital Bombardment System Was A Spaceplane Test Doesn't Add Up

The system could give China the ability to strike any target on Earth unpredictably, but so far Beijing is acting like the test didn't happen.

BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 18, 2021

 



2021年10月17日日曜日

中国が大気圏再突入型極超音速ミサイル実験を実施。従来型ミサイル防衛の不備がつかれる事態を恐れる。中国との戦略兵器制限交渉は可能なのか。

 

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LOCKHEED MARTIN

 

国が核運用可能な極超音速滑空体を宇宙空間に打ち上げ、周回軌道に近い形で移動させて大気圏へ再突入し標的に移動させたとフィナンシャルタイムズが伝えている。この装備が実用化されれば影響は大きいと同紙にあり、関係者5名に意見を聞いたところ、米国はこの事態に虚を突かれた形だという。

試験実施は8月ごろで加速滑空体は長征2Cロケットが打ち上げた。同ロケットは77回目の発射となったが、北京は公表していないが、8月の76回78回の発射は公表している。フィナンシャルタイムズ記事では滑空体は標的から数マイル外れたとあるが、開発中の技術内容のほうが重要だ。

宇宙空間からの爆撃構想は冷戦時代からあり、部分軌道爆撃システムFOBSと呼ばれるが、当時は核兵器を再突入体から投下する構想だった。今回の中国装備では極超音速滑空体の膨大な運動エネルギーを使う。大気圏内で長時間の飛翔制御を行いつつ膨大な速度で標的に向かうのが特徴だ。

FOBSへの懸念が生まれたのは、ミサイル防衛の網をかいくぐるだけでなく早期警戒網で探知できなくなるためだ。通常の大陸間弾道ミサイル(ICBM)と比べるとFOBSは予測不能の攻撃手段となる。飛翔距離の限界もなくなる。だがこれまでのFOBSは弾道ミサイルの延長で中間段階で追跡すれば飛翔経路は予測ができないわけではなかった。

今回テストされたとされるハイブリッド設計では全く予測不能となる。

CHINESE SPACE AGENCY

長征2Cロケットの打ち上げ

制御可能な極超音速滑空体が高高度から超高速降下すると通常の弾道追跡では対応できない。さらに事態を複雑にするのが、南極経由の攻撃を実施することで、米国の弾道ミサイル早期警戒網は北極越え軌道を想定しているためで、防衛手段も同様だ。この装備への対抗が極めて困難になる理由は、米国の中間段階での迎撃は通常の弾道ミサイルに特化した放物線軌道対応が中心なためだ。

滑空体とFOBSが一緒になれば、大気圏再突入時に防衛側の中間段階対応能力外の距離を方向を替えながら飛翔し標的にむかう。通常の地上配備レーダーの有効範囲では対応できない。そこに超高速が加わり、防衛側の現行装備では対応不能となる。

現時点では極超音速滑空体への対抗は極めて難しい。対抗策の開発が進んでいるものの、迎撃解が得られるかは対象の飛翔速度、飛翔制御、数量、支援にあたる探知機能の効果に左右される。運動エナジーと極超音速の組み合わせで撃破が最大に困難な攻撃手段になる。

フィナンシャルタイムズ記事では米国防総省関係者の驚くべきコメントも伝えており、「非通常型」運搬システムは米国の戦略防衛能力をかいくぐるとしている。

先月だが、米空軍長官フランク・ケンドールは中国が新兵器を開発中とほのめかした。長官によれば中国が大きな進展を示しており、「宇宙からのグローバル攻撃の可能性」があるという。詳細には触れず、中国が「部分的軌道爆撃システム」として旧ソ連が冷戦中に配備しようとして放棄した装備に近いものを開発中だという。これを投入してきたら通常型のICBM想定の防衛手段では探知対応ができないとケンドールは述べている。

北米航空宇宙防衛司令部のグレン・ヴァンハーク大将は8月の会議席上で中国が「高度な内容の極超音速滑空飛翔体運用能力の実証を最近行った」と述べた。中国が示した能力は「わがNoradの対応能力では警戒および攻撃評価が大きな課題となる」

DoDにはかねてから中国の核兵力整備に懸念の声があり、中国が米早期警戒防衛能力をかいくぐる兵器運搬システムの整備に走ることを想定していた。中国が砂漠地帯に数百ものミサイルサイロを構築しており、新型弾道ミサイルを格納し、今回のような滑空飛翔体を搭載する日が来れば、懸念が現実になる。そこでペンタゴンは新型宇宙配備早期警戒・追尾システムをは展開し、極超音速弾道ミサイルへの対応を急ぐとしており、とくに中間飛翔段階でミサイル監視をおこなう「コールドレイヤー」の実現をめざす。

このレイヤーがFOBSに効力を発揮するのは、防衛手段が実行可能かつ戦略的に意味がある場合に限られる。ならず者国家が高性能弾道ミサイル数発を運用する場合を論じているのではない。中国は数十発あるいは数百発もミサイルを同時発射してくるかもしれない。こうした想定では物理的な防衛体制の整備は非常に高額となりながら実効性がないものになりかねない。

とはいえ、今回のテストは宇宙開発用ロケットを使った初期段階のものだった。中国がこの技術を実用化するまでは時間がかかるだろう。高温対応や大気圏内の摩擦問題も解決が必要だ。とはいえ、中国は極超音速加速滑空飛翔体の実現を目指しここ数年精力的に開発努力を展開しているのが現実だ。

今回のフィナンシャルタイムズ記事が正確だとすれば一つ確実なことがある。超高額になっても有効なミサイル防衛能力を求める声が議会筋でも大きくなっている一方で、中国を交渉の座につかせ戦略兵器制限条約を実現するべきとの声も広まっている。

この問題は事態の進展とともに続報をお伝えする。今回のフィナンシャルタイムズ記事China tests new space capability with hypersonic missileはクリックすると読める。■

China Tested A Fractional Orbital Bombardment System That Uses A Hypersonic Glide Vehicle: Report

Such a capability could potentially allow China to execute a nuclear strike on any target on earth with near-impunity and very little warning.

BY TYLER ROGOWAY OCTOBER 16, 2021