2月の「気球」事件で中国外務省が「飛行船」と発言していた背景に、解放軍からの情報が錯綜して外務省が背後にあるもっと大型のISR用プラットフォーム開発事案と混同したのか、あるいは単に語彙が不足していたのか、いずれにせよ、今年はじめの事件で中国の遠大なプロジェクトの存在が改めて注目されているわけです。ではThe Warzone記事を御覧ください。
米国とカナダの領空で数回撃墜されたが、あらためて中国の広範な飛行船と気球計画が精査されている
民間の衛星画像・地理空間情報会社BlackSkyは、中国北西部の巨大な格納庫の前にある涙滴型の飛行船またはエアロスタットと思われる写真を公開した。2021年、The War Zoneは同施設に関する詳細な特集を組み、情報収集プラットフォームやミサイル防衛のための早期警戒システムなどとして機能する高高度飛行船に関する中国の研究との関連を発表していた。
今年初め、中国の飛行船能力整備への関心が注目されたのは、2月に中国のスパイ気球が米国とカナダ領空を数日かけて通過した後、米軍が撃墜したときだった。翌週には、アメリカ軍の戦闘機がアメリカやカナダ上空を通過した未確認飛行物体3つを撃墜した。
BlackSkyは、本記事の上部と下部に見られる、中国西部の新疆自治区の格納庫の外にある飛行船/エアロスタットが映る画像を本日未明に公開したが、これは2022年11月4日に撮影されたものだ。同社によると、その2日後に再び同じ場所で機体を捉えたという。8月には、同社の衛星が、格納庫前の舗装されたアクセスストリップに大きな長方形の揺りかごを発見している。CNNが、BlackSkyの最新画像を、まっさきに報道した。CNNは、飛行船/エアロスタットの全長を約100フィートと推定している。これは格納庫やクレードルに比べればはるかに小さい。格納庫は長さ約1,150フィート、幅約450フィートと、最大級の大きさで、ニミッツ級スーパーキャリアを中に入れても、左右に約100フィートの余裕があるほどの大きさだ。
2020年11月25日の衛星画像で、格納庫の前方にクレードルが写っている。photo © 2021 planet labs inc. All rights reserved. 許可を得て転載
BlackSkyの画像に写る飛行艇は、中国が長年にわたってテストしたとされる成層圏飛行船ほど大きくはないようだ。全長75メートル(約246フィート)とされる元孟Yuan Mengと呼ばれる機体や、全長100メートル(約328フィート)と報告されたBNST-KT-02がある。
元孟飛行船に関する中国語のインフォグラフィック。中国のインターネット
興味深いことに、BlackSkyの画像に写っている飛行船/エアロスタットは、中国北東部のアルクサリーグAlxa Leagueの別の場所にある格納庫の内部を撮影したとされる写真に写っているものと、少なくとも一般的な形や大きさがある程度一致しているようだ(2013年から2014年の間に撮影されたもの。他の衛星画像によると、同施設は2016年までに荒廃が進んでいたようだ。)
2013年から2014年の間にアルクサリーグの飛行船基地の格納庫内で撮影されたとされる写真。新華社
新疆ウイグル自治区にある巨大な飛行船格納庫の建設は2013年に始まり、2015年頃に完了したようだ。2022年、私たちのDownlinkチームは、Planet Labsの当時の新しい画像を分析し、以下のように格納庫の別棟の可能性を含む、サイトの大幅な拡張を示した。格納庫に隣接する施設は、作業用レーザー、高出力マイクロ波、電磁パルスに関連する施設を含む、より大規模なハイエンドテスト複合施設。また、人民解放軍空軍(PLAAF)の主要な試験・評価拠点である秘密施設マラン基地にも比較的近い場所にある。
写真 © 2022 planet labs inc. All rights reserved. REPRINTED BY PERMISSION / @SimTack
2022年11月にBlackSkyが撮影した画像に写っている飛行船/エアロスタットの詳細がどうであれ、新疆の格納庫がもっと大きなものを格納するために建てられたことは明らかだ。このことは、大型クレードルの存在によって示されていた。格納庫の前にある舗装部分は、クレードルを使い大型飛行船やエアロスタットを発射場へ出し入れする誘導路のようだ。
CNNの今日の記事で、BlackSkyは、このクレードルに関する中国特許から、より大型の空気より軽いデザインで設計されていることを示す図面を提供した。
CNNは、モントレーにあるミドルベリー国際問題研究所(MIIS)の中国研究者であり、長い間、中国の軽飛行機開発について研究してきたイーライ・ヘイズの言葉を引用して、「飛行船技術に関する特許多数が、最近、新しいPLA(人民解放軍)グループ-63660部隊に割り当て直された」と報告している。「CNNが中国特許を調べたところ、新部隊は飛行船技術と貯蔵に関する他の特許多数を保有しており、以前のPLA部隊から配置換えされたことが確認された」。
The War Zoneは、特許図面に関する追加情報、および新疆ウイグル自治区の現場の画像について、BlackSkyに連絡を取っている。
このサイズの格納庫は、複数の軽量航空機を格納でき、また通常使用されていることを指摘しておく。新疆ウイグル自治区にある中国施設が、複数の飛行船、エアロスタット、バルーン計画などをサポートするため使用されていることは、理にかなっていると言える。比較的最近行われた施設の拡張工事は、この特定の場所が重要性であることを際立たせている。
2月に米軍が米国とカナダの領空を通過する高高度の大型中国スパイ気球と評価されるものを追跡していることを公表して以来、この話題への関心が急増している。気球は、ペイロードを下に吊り下げた球状のデザインであることが特徴で、新疆ウイグル自治区サイトの涙滴型の飛行船/エアロスタットと異なる。さらに、そのような気球の打ち上げ場所は、中国北西部の格納庫やその他の施設とデザインが異なる。
2023年2月16日に撮影された、海南島の中国の気球発射場と関連施設の衛星画像。PHOTO © 2023 PLANET LABO INC. All rights reserved. 許可を得て転載
同じく2023年2月16日に撮影された、同国北東部のドルボド・バナー地方にある別の中国の気球関連施設の衛星画像。photo © 2023 planet labs inc. All rights reserved. 許可を得て転載
2月4日、アメリカ空軍のステルス戦闘機F-22 Raptorが、北米を横断していた中国のスパイバルーンを撃墜し、その一部が回収された。その後、米国とカナダ上空を飛行していた3つの物体が、同様に空軍戦闘機によって墜落された。米国政府は、これらの未確認物体は良性である可能性が高いと主張しているが、各事例では何も回収されておらず、この評価を裏付ける画像も現在まで公開されていない。
2022年2月、アメリカ中西部上空でアメリカ空軍のスパイ機U-2Sドラゴンレディから撮影された中国のスパイバルーンの写真。国防総省
余談だが、2月の事件は、近年、米軍のパイロットなどが目撃したいわゆる原因不明の航空現象(UAP)の報告の少なくとも一部が、外国が情報収集、監視、偵察(ISR)などの目的で使用しているドローンや空気より軽い航空機である可能性が非常に高いと強調している。2023年1月発表の米国情報機関による報告書によると、2022年に新たにカタログ化されたUAP事件は366件で、そのうち163件が気球または気球類似物と評価された。
マサチューセッツ州空軍のジャック・ダグラス・テイシェイラ一等兵がネット上に流出させた文書などから、中国のスパイ気球の写真やその他の詳細を見ると、太陽光発電で自走式であることがわかる。また、天候に左右されずに画像を取得できる合成開口レーダー含むセンサー多数と、遠隔地の管制官が操縦し、収集した情報データを受信する通信システムが搭載されているようだ。
2022年2月に米国上空を飛行した中国の気球の下に吊るされたペイロードのクローズアップ写真。国防総省
2月以降、フロリダ、ハワイ、グアム含む米国の複数の州や地域、世界中のさまざまな場所の上空やその付近で、類似した気球が飛行しているのが確認されている。こうした事件は以前も報告されていたが、中国政府の高高度監視プログラムとの関連は明示されていなかった。テイシェイラによるリーク文書によれば、別の気球が米海軍空母打撃群の上空を通過したと評価され、別の気球は極めて戦略的な南シナ海を飛行中に墜落したと判断されている。
昨年、フィリピン最大の島で首都のあるルソン島と南シナ海の近くで、中国起源と思われる飛行船のような軽量航空機が目撃されていた。
中国の組織が、ここ数年、より近代的な高高度飛行船、エアロスタット、気球の設計に非常に積極的に取り組んでいることは周知の事実だ。研究の多くは表向きは民間の研究機関や商業企業が行っているが、潜在的な軍事利用を明確に視野に入れている。また、中国では、国営研究機関や各分野の先端技術企業が、長い間、中国空軍と非常に密接な関係を保ってきた。中国政府の高高度監視気球計画に関しては、2月以降、民間研究機関、特に北京航空航天大学Beihang UniversityとPLAの具体的なつながりが精査されている。同大学は新疆ウイグル自治区の格納庫と関係がありそうな成層圏飛行船プロジェクトに関与していることが知られている。
また、同大学は、ドローンを発射したり、地上の遠隔操作センサーを含む他の消耗品ペイロードを展開するプラットフォームとして、高高度軽量飛行システムにも直接関与している。
中国の研究論文に掲載された、高高度気球からドローンを発射し、衛星で数千キロ離れたコントロールノードに情報を中継する一般的なコンセプトの図解。中国科学院(International Journal of Micro Air Vehiclesより引用
現代の高高度飛行船や気球は、長距離を移動し指定場所に到達し、偏西風に逆らい留まることができるため、情報収集やその他ミッションに非常に有用なプラットフォームだ。米軍もこのような軽量機体を、浮遊弾薬やドローンの発射台、監視・偵察、通信中継など、さまざまな用途で使用すべく真剣にテストしている。
BlackSkyが新たに公開した新疆ウイグル自治区の衛星画像は、中国の高高度飛行船と気球の開発におけるこの施設の役割を示す新たな証拠となり、軍や情報機関にとってこうしたプラットフォームが各種用途で非常に有用な装備となることを強調している。■
Airship Spotted Outside Giant Secretive Hangar In China | The Drive
BYJOSEPH TREVITHICK|PUBLISHED MAY 1, 2023 3:55 PM EDT