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2021年8月6日金曜日

「核を嗅ぎ分ける」特殊改装コンスタントフィーニクスが8月5日にバルト海上空で特異なフライトを展開した背景に核事故があったのか?

 An Air Force WC-135 Constant Phoenix aircraft.

USAF

空軍に1機しかないWC-135Wコンスタントフィーニクス「核嗅覚機」が本日8月5日バルト海上空を異例の形で飛行した。同機は通常は飛行中に集めた大気標本から放射線レベルの急上昇を探知するのが役目だが、核実験後や原子力事故後の情報収集や、放射能物質の拡散を追跡することもある。

このWC-135Wは機体番号61-2667でコールサインをジェイク21とし、RAFミルデンホール基地から離陸したのがフライト追跡サイトADS-B Exchangeで判明している。

ADS-B EXCHANGE

WC-135W コンスタントフィーニクス機体番号61-2667の本日のフライト経路をADS-B Exchangeデータで示した。

USAF

WC-135W コンスタントフィーニクス(61-2667)

同機はオランダ、ドイツ、ポーランド上空を通過してから北に転じバルト海上空に到達した。その後バルト海上空を一定のパターンで飛行してから、同じ航路で帰投した。オンラインのフライトデータを見るとバルト海上空を5千から6千フィートで飛行している。だが往復移動では20千から30千フィートだった。

ADS-B Exchangeのデータでは同機は7月28日にネブラスカのオファット空軍基地を出発し、ミルデンホールに7月31日到着している。英国に移動してから本日まで一回も飛行していない。

だがバルト海上空を飛んだコンスタントフィーニクスの目的がはっきりしない。The War Zoneは第16空軍の空軍技術応用センター(AFTAC)に照会し、詳しい情報を求めた。AFTACは機密性の高い組織でWC-135W機上の各種センサーを運用している。同センターの主たるミッション1963年の部分的核兵器実験禁止条約の関係者へ地上核実験が行われていない裏付けを提供することだが、他の核関連イベントも監視している。

ソーシャルメディアがさっそくとびつき、ロシアの原子力艦艇二隻が今回のフライトに関係していると主張する向きが出たが、関連があるか疑わしい。

今回のフライトのほぼ一週間前にロシア海軍のオスカーII級原子力誘導ミサイル潜水艦オレルがバルト海から北海への移動中に機関故障を起こしていた。

ROYAL DANISH NAVY THIRD SQUADRON VIA FACEBOOK ロシア海軍のオスカーII級原子力誘導ミサイル潜水艦オレルはデンマーク沖合で機関故障に見舞われた。

ロシア海軍も以前のソ連海軍同様に事故を多発させているが、原子力潜水艦オレルの原子炉に問題が発生し放射能漏れが発生した兆候はなく、同艦は自力で航行を続けたものの、推進力喪失の理由は不明だ。また61-2667機が英国に到着したのは同艦で故障が発生した後のことで、同機はその前からミルデンホールに向けて飛行中だった。

ロシアが建造した4隻の原子力砕氷貨物船のうち唯一供用中のセブモルプチがオンライン船舶追跡サイトではフィンランド湾内を航行していたのが判明している。2020年11月ロシア国営原子力企業ロサトムの北海航路局長ヴャチェスラフ・ルクシャは同船のプロペラ四基のひとつが破損したためサンクトペテルブルグの乾ドックに向かうと発表していた。破損の原因は不明だが、同船は今年に入りアンゴラ沖合を航行中だった。

KINBURN VIA WIKIMEDIA

セブモルブチは2020年2月にバルト海を航行していた

セブモルプチの現在の状況はわからず、プロペラ修理を終え公試中の可能性がある。だが、同船の原子炉が原因でトラブルが発生したとの報道は出ていない。61-2667機のフライトはフィンランド湾は対象としておらず、同地より南方海上の飛行経路をとっていた。

バルト海上空のフライトでは天候条件により放射性粒子を捉えるため、さらに北方や東方へ飛ぶことがある。ロシアは原子力推進の核巡航ミサイル、ブレヴェスニクをさらに北東に位置する白海でテストして物議をかもしたのが2019年のことで、開発は北極海のノヴァヤゼムリヤでのテストに変更された。

同地にはロシアの海軍基地数か所があり原子力潜水艦の母港として、民生用原子力発電所、核廃棄物処理場もあり、以前も放射能レベル急上昇の観測結果が得られている。昨年夏にも同じ現象が発生し、原子力発電所あるいは廃棄物処理施設での事故が疑われた。

コンスタントフィーニクス機は世界各地に派遣され空中放射線レベルに異常がないかをAFTACの部分核実験禁止条約に基づき観測していいる。AFTACからは2017年にコンスタントフィーニクスが北極海上空に派遣されたのもこの目的のためだったと説明が出ているが、当時は放射性ヨウ素131が大気中に高レベルで検出され、ロシア北西のコラ半島が発生地とわかった。ヨウ素131は核分裂反応の副産物で、濃度急上昇は核実験あるいは何らかの核事故の発生を示唆する。

61-2667機のフライトが通常の形だったのかはともかく、「核の嗅覚探知」能力が空軍で限られていることがあらためて明らかになった。前述のとおり、WC-135は一機しかなく、もう一機のWC-135C(62-3582)は昨年退役している。

両機とも1960年代の製造機をコンスタントフィーニクス仕様に改装されたもので、現在は運用維持が著しく困難になっている。62-3582では大きな問題がたびたび発生する中で廃止された。61-2667機もオーストラリアのRAAFアンバリー基地で今年初めに機械関係の故障で二カ月にわたり飛行不能状態になっていた。

空軍はKC-135Rの三機をWC-135Rに改装し、コンスタントフィーニクスミッションの実行能力拡張を企画しているが、追加機材がいつ運用可能になるか不明だ。ポッドに収集システムを搭載して別機材での運用もめざしており、無人機で同じ機能を実現する日が来そうだ。

とはいえ、本日の61-2667のバルト海上空飛行には興味が集まり、The War Zoneは追加情報が入り次第、情報を更新する。■

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmailまでご連絡ください。


Curious Mission Flown Over The Baltic Sea By US Air Force Nuke Sniffing Plane

The Air Force only has one Constant Phoenix jet, which is used to collect air samples that could show evidence of nuclear testing or accidents.

BY JOSEPH TREVITHICK AUGUST 5, 2021



2018年3月3日土曜日

ロシア発表の原子力巡航ミサイルに米国が冷静な反応をしているのはなぜか

原発に病的なほどアレルギーを示す人たちがこのニュースに反応しないのはなぜでしょうか。はるかに病的で悪質な「汚染」を生む兵器です。ロシア技術への信頼性が低いこともよくわかりますね。昨年初めのヨーロッパでの放射能異常値検出もこの実験が原因だったのでしょうか。目的のためには手段を択ばず、と言う思考の産物でしょう。


U.S. Has Been Secretly Watching Russia's Nuclear-Powered Cruise Missiles Crash and Burn ロシア原子力巡航ミサイルの墜落炎上の様子を極秘に監視していた米国

Successful or not, if Russia is test flying these weapons, this means it has been repeatedly crashing nuclear reactors into the ground or the ocean.テスト結果問わずロシアは原子炉を地上海中に繰り返し激突させていたことになる


BY JOSEPH TREVITHICKMARCH 2, 2018
RUSSIAN MOD
シアが新型核動力巡航ミサイルを開発中と発表したが、米政府がこの様子をスパイしていたとの報道ではテストは一部あるいは全部が失敗していたという。このことからこの兵器の安全性に疑問が生まれると同時に米側が把握していた事実を秘密にしていたことも疑問視されている。
ロシア大統領ウラジミール・プーチンが3月1日に発表したのは名称不詳のミサイルだ。クレムリンによれば2017年末に打ち上げ、飛翔に成功したという。ロシア当局は同ミサイルの詳細を何ら発表していないが、プーチンは完成型は供用中のKh-101巡航ミサイルと寸法、形状がほぼ同じと述べている。
同兵器は超音速超低空飛行を行い、事実上飛行距離に制約はないこととなる。警告なしで世界中いかなる地点も攻撃可能でミサイル防衛をかいくぐる。
だがプーチン演説の直後にCNNは匿名米政府関係者の話として同兵器がほぼ実用段階にきているとの話は疑わしいと報じた。この人物はさらに「米国はロシアの核動力巡航ミサイルテスト数回の様子を都度監視し、すべて墜落している」と述べた。フォックスニューズは別の筋の話として同装備はまだ研究開発段階でテスト中に少なくとも一発が北極海に墜落したと報じた。
U.S. officials say Russia's nuke powered cruise missile not operational yet, still in 'R&D' phase and has crashed recently in testing in the Arctic, despite claims by Putin today.
米政府が開発状況を認識していたが秘密にしていた点が注目される。米関係者は情報公開で自軍装備整備の予算獲得をすることがよくあり、結果的に相手方の装備に直接間接的に対抗してきた。
ペンタゴンの定例記者会見で3月1日に報道官ディナ・ホワイトがプーチン発表の兵器はすでに実戦配備されているのかとの問いにコメントを拒否した。同報道官は今回発表の装備はいずれも以前から存在を把握していると述べている。「各兵器ともかなり前から開発されているものです。こちらの核兵器整備計画にはその存在を織り込み済みです」
今年2月発表の核装備整備計画(NPR)ではロシアの極超音速滑空飛翔体や核装備無人水中機について述べているが、核動力巡航ミサイルの言及はない。
DOD
NPRの一般公開版では上の図表が乗っているが、核動力順子ミサイルの言及はない
米空軍の航空宇宙情報センターが2017年6月に世界か国の巡航ミサイル弾道ミサイル開発状況をまとめて公開しているが、核動力巡航ミサイルの言及はやはりなかった。また極超音速加速滑空体にも触れていない。
さらに興味を惹かれるのは米国が試作型ミサイルの実験失敗を承知しながら沈黙を保っていたことだ。同ミサイルが原子炉を搭載しており事故になれば人命や環境に危険を生むことはロシア国民のみならず周辺国住民にも看過できない事態のはずだ。
米ロ間の緊張の高まりを考えると自国民とともに他国国民の生命を何とも思わないクレムリンを批判するのに米政府には格好の機会となった。
また米政府は核動力エンジンの機構上の危険性も十分承知している。1960年代に各種実験を行ったためだ。米空軍は超音速低空飛行ミサイル(SLAM)で核動力ラムジェットの搭載する方を模索しており、今回のロシア発表の内容に類似している。
米国の得た結論は核エンジンは技術的に作動可能だが地上発射式・空中発射式兵器には実用的効果が生まれず、逆にロシアとの軍拡レースを刺激するというものだった。原子炉を小型軽量化し消耗品のミサイルに搭載できる単価にする必要があるが、試作品の原子炉は防御シールドをつけず危険レベルの放射線が出ていた。結局、試作品の域を出ず、高さ13フィート、全長52フィートとF-16戦闘機とほぼ同じ大きさになってしまった。
飛翔中は放射能の軌跡を残し、敵味方問わず飛行経路の上空を汚染し、科学技術陣はその効果におじけづいた。
SLAMプロジェクト終了の1964年から原子炉技術は大きく進歩している。またロシアは小型原子力動力源の開発に相当尽力しており、北極圏で実用化しているのも事実だ。ただし、その作動が安全で信頼できるのかで相当の懸念が残る。
だが原子力動力巡航ミサイルに放射性物質を搭載する事実に変わりはなく、ロシアは正常作動しても核物質の放出さを想定ずみなのだろう。米政府が記録したという「墜落事例数件」をロシアが成功したと認識しているのは興味深い。設計内容が信頼できるかを確かめるにはテストを繰り返す必要があり、飛行性能を徐々に引き上げていくはずだ。
LAWRENCE LIVERMORE NATIONAL LABORATORY
米国で1960年代にテストされた原子力ラムジェット試作型
また仮にロシアが試作型テストを完了しているとすれば意図的に原子炉を地上や海上に高速で激突させたのだろう。
だとするとロシアが行った飛翔テストがパレンツ海コラ半島で2017年2月に放射性ヨウ素-131が大気中に急増した現象の原因だったのだろう。米エネルギー省は同様に放射性物質をネヴァダ試験場で1959年から1969年にかけて核エンジンテスト後に探知していた。
ヨーロッパでの放射性物質検出の時点で米空軍は数少ないWC-135Wコンスタントフェニックスをヨーロッパに派遣していた。同機は特別装備で大気標本を集め核活動の兆候を見つけるのが仕事だ。
2017年2月20日包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)は1996年発効した包括的核実験禁止条約の監視機関として声明を発表しヨウ素-131の特段の上昇は「過去数か月見つかっていない」「核実験があればヨウ素-131を放出し同時にその他放射性同位体も放出されるはず」と述べていた
USAF
米空軍のWC-135Wコンスタントフェニックス
核ラムジェットでは放射性副産物多数が生じることは容易に想像できるが、センサーですべて探知できないほどの微量になる可能性もある。エネルギー省によればトロイIIC核ラムジェットの1964年実験で放出された放射能は1,000キューリー以下だった。同じ状態が同エンジンの24時間稼働中続き、結局外気に放出された放射能は1キロトン核兵器爆発時の放射能検出の1パーセント未満だった。
米空軍はWC-135投入と大気中のヨウ素-131増加の関係を否定し、もともと投入は予定されていたものと説明した。「大気の状態は普段から計測しておかないと変化を検出できない」と米空軍ジョナサン・ヴァンノード大佐(AFTAC空軍技術応用センター)が2017年3月にスターズアンドストライプスに語っていた。
AFTACは機密性の高い組織で公的には1963年締結の部分核実験禁止条約の順守状況を監視するのが役目とされる。同時にその他核実験や核事故の情報も集める。米政府が核動力巡航ミサイルの存在を認知していること自体が非公開事項であり、ヴァンノード大佐も部下が同兵器の証拠を求めていたとは認められなかったのだろう。
2017年9月10月と相次いで放射性ルテニウム-106の急増が検出され発生源はロシアと判明した。この同位体をエネルギー省は核動力エンジンと関連付けているが、過去のテストで生成されたのはルテニウム-103と-105だった。専門家からは今回の事態はマヤクの核燃料処理施設からの漏洩だったとの観測が出ている。
IRSN
フランスの核安全組織IRSNが2017年11月に公開した地図ではルテニウム-106の急増の様子がわかる。色の濃い点が正常値より高い状況を示す。ロシア領は濃い灰色で示した。
以上を勘案しても米政府の態度には不明なところがあるが機会の到来を待っていたのだろう。今回発表された装備中でも核動力巡航ミサイルが中距離核兵力条約(INF)含む米ロ間の軍備管理合意に違反するかははっきりしない。
条約では米ロ両国は有効射程が310マイル以上3,100マイル未満の陸上配備の巡航ミサイル生産を禁じられている。射程無制限の兵器はどうなるのかははっきりしない。同時にINFでは陸上配備巡航ミサイルで条約に違反しても研究開発自体は明確に禁じておらず、この抜け穴を米国も利用している。
米政府としてはデータを十分集めてクレムリンが危険水準の放射能を実験で生んだことを証明しようというのだろう。ロシアは原子炉付きのミサイル実験は行っておらず通常型エンジンで飛行させていたかもしれない。ただしこの可能性は低い。こうしなければロシアは放射性物質を大気放出することを防げなかったはずだが、逆にテストの意味がなくなる。
だし今やその存在が公開された以上、次はロシアが性能を自慢し米国が安全性を批判するはずだ。
Programming note: Our analysis of the air-launched hypersonic missile revealed by Putin during his speech is up and can be found here. It turns out that the mysterious weapon is far more familiar than most probably think.
Contact the author: jtrevithickpr@gmail.com