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2016年10月4日火曜日

オーストラリア次期潜水艦建造でDCNS・ロッキード連合が開発契約交付を受ける


オーストラリア潜水艦選定問題ではストレスを感じた国内読者が多かったと思いますが、太平洋地区の重要なパートナー国のオーストラリア海軍の戦力整備は日本も関心を決して失っていては許されない問題です。引き続き、本問題の進展をフォローしていきます。


DCNS Satisfied With Australia's Pick of Lockheed for Sub Project

By: Pierre Tran, September 30, 2016


PARIS — DCNSがオーストラリ政府が同社およびロッキード・マーティンの設計契約を承認し、バラクーダ・ショートフィン1A遠距離攻撃潜水艦構想が前進することを歓迎する声明を発表。
  1. 「DCNSは第一段階契約がオーストラリア向け次世代潜水艦建造事業で締結に至ったことを歓迎し、ロッキード・マーティンが戦闘システム統合事業者として選定されたことも歓迎する」
  2. 設計および展開契約が調印されたことで事業着手に向かい、ロッキード社および現地業者との統合調整が開始されると同社は述べている。
  3. オーストラリア国防相マリーズ・ペインおよび国防産業相クリストファー・パインから9月30日に報道ではレイセオンが優勢といわれてきたものがロッキード・マーティンが選定されたと発表している。
  4. オーストラリア発表を受けて「長期間に渡るフランスの潜水艦部門での戦略的提携関係の大事な第一歩」とフランス国防相ジャン・イブ・ルドリアンも同日声明を発表している。
  5. DCNSの株式35%はタレスが保有しており、同社はソナー技術で独自の技術力を誇る。
  6. 「DCNSはオーストラリア政府、ロッキード・マーティン社ならびにオーストラリア国内産業界と長期に渡る戦略的関係を築くことに期待している」とDCNS会長兼CEOのエルヴェ・ジローは述べている。「今回の契約によりDCNSはオーストラリア向け次世代潜水艦建造の第一段階に進むことができる」
  7. 同社がインド向けに建造中のスコルペヌ型潜水艦の技術情報が漏洩した事件で国内メディアが表明した懸念は無関係とオーストラリアは主張するつもりなのだろう。
  8. フランス政府はDCNSを支援し、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズおよび日本政府が後押した三菱重工業・川崎重工業案を破り採用されている。■


2016年6月16日木曜日

★★オーストラリア潜水艦問題>フランス案採択の背景には深い理由があった。日本側関係者には冷静に読んでもらいたいです。



いまさらと思われるかもしれませんが、再びオーストラリアの潜水艦建造競争入札結果の分析です。こうしてみるとオーストラリアが狙う方向性に近い内容だったのはフランス案とわかります。日本では採用されて当然と見る向きが多かったのはやはりインテリジェンス不足ですね。官民挙げて積極的に営業しなかったのはこうした背景が事前にわかっていたからでしょうか。そんなことはないですよね。SSBNとSSNは違うという向きもありましょうが、原子力潜水艦のような大型艦の知見は残念ながら日本にありません。日本技術の優位性というのも一定の条件で成立しているのであり、なんでも日本が優秀と信じるのはあまりにも子供じみていることが分かります。


Lethal Alliance Under the Sea: Why France Is Helping Australia Build Attack Subs

June 15, 2016

4月26日の晴れ晴れしい発表でアデレードでの潜水艦12隻建造が決まったが、その後は沈黙が続いている。オーストラリア国防省は今は急いで進めるつもりがなく、同国史上最大の建艦事業は国政選挙後に活発になるようだ。詳細設計の契約交渉は中断したままで当面進展しそうにない。一方で国防省によれば選定業者フランスのDCNSと作業部会を編成中で、科学技術を軸に人選するという。
  1. DCNSを採用した選定結果には異論もあった、特に選定過程にドイツTKMSは不快感を覚えたといわれ、競合評価作業(CEP)は最初から原子力潜水艦に誘導するシナリオだったと見ている。日本はそこまではっきりと言っていないが日本政府が心象を害したのは疑いなく、2013年にトニー・アボット前首相が示した導入願望は何だったのかと思っているはずだが、その後はこの話題を避けているようだ。
  2. DCNS選定には理由がいくつかあるが、決め手は高度潜水艦技術の入手だったようだ。CEPでは狙いは高性能潜水艦設計でオーストラリア国内技術の蓄積に役立つ協力先を選定することで、特定の艦艇の選定ではない。DCNSの知見の背景にはフランス海軍のDGA装備品開発総局や軍事研究部門があり、内容の濃い技術蓄積がある。
  3. フランスがドイツ、日本に対して優位な技術がある。それは14千トンにもなる大型SSBNの推進力問題の解決実績だ。オーストラリアが企画する4,500トン潜水艦をすべての速度域で静かに推進させるのは容易ではない。ドイツと日本は通常型のプロペラ推進を提案したが、フランスは英米と同様にポンプジェット方式推進器を原子力潜水艦で搭載する方向に向かっており、ポンプジェットあるいはプロパルサー推進器技術を提案した。
  4. プロペラは高速でキャビテーションを発生しやすい。プロペラブレイド末端の海水が強力な圧力で沸騰する現象で特徴のあるノイズを発生し敵のソナーで探知される。通常型推進の潜水艦は大半の時間を低速航行や基地内で過ごすのでプロペラもプロパルサーも音響面で相違は生まないが、、危機状態では高速航行が必要となる。最高速度まで加速を静かに行い、同時に方向や深度も変えることで大型潜水艦は危険な状況を乗り切ることができ、これが最大の強みになっている。
  5. 大型潜水艦向けにはプロペラ技術では限界がありDCNSがは機密度が高い原子力潜水艦技術の流用で大きく有利になった。単純に言えば、ドイツと日本は通常型潜水艦で優れた実績があるが、フランスは通常型原子力推進双方で優秀な実績があるということだ。
  6. ピーター・ジェニングス含む専門家からオーストラリアは将来原子力潜水艦に向かうのではとの意見が出ているが、どうやらこの話題が今後公に議論されそうだ。DCNSが加われば原子力潜水艦への移行は比較的容易だろう。
  7. その他フランスに有利に働いた要因がある。ドイツと日本はリチウムイオン電池を搭載する案だったが、フランスは採用を回避した。リチウムイオンへの猜疑心は米海軍も抱いており、今回の選定に大きく作用したようだ。また現行のコリンズ級にはフランス大手ハイテク企業のタレスやSagemのソナーやリング・レーザー式慣性航法装置が採用されている。各社は装備開発の目標を達成し、技術移転や再輸出まで実現している。
  8. 最後に、フランスは営業でも活発でオーストラリア海軍の要求水準の実現に向けて協力的な態度で臨んでいた。DCNSは価格設定を控えめに設定したことがこれが最終的な決め手になっている。コリンズ級潜水艦で開発段階で多額の経費を必要とすることは身に染みているためだ。
This piece first appeared in ASPI's The Strategist here.
Image: Creative Commons


2016年4月27日水曜日

★オーストラリア潜水艦案件、続報、フランスの反応から何を読み取るか



今回のフランス受注は日本にとって痛い結果になりましたね。Defense Newsは以下、オーストラリアとフランスから伝えています。まずオーストラリアから


Australia Chooses French Design for Future Submarine

Nigel Pittaway, Defense News7:12 p.m. EDT April 26, 2016

DCNS Shortfin Barracude submarine(Photo: DCNS)
MELBOURNE, Australia – フランスのDCNSがオーストラリアの次期潜水艦建造契約を勝ち取った。マルコム・ターンブル首相が26日発表した。
  1. ショートフィン・バラクーダ型の選択に本件を見守ってきた外部関係者の多くが驚かされた。DCNSはドイツのティッセン・クルップマリンシステムズや日本政府に対して劣勢だった。だがここにきて日本案が負けたとの情報がリークされていた。
  2. ショートフィン・バラクーダ・ブロック1Aはフランス海軍で就役中の原子力潜水艦バラクーダ攻撃潜水艦をやや小型化する構想だが詳細設計はこれから開始する。
  3. ターンブル首相は「DCNSを国際パートナーとして選定し次期潜水艦12隻の設計案鵜を進める。取引諸条件は今後協議する」と発表し、選定の大きな要素はオーストラリアの求める長距離航行、通常動力型潜水艦の要求内容に一番合致したからと述べた。
  4. ターンブル首相は同時に「オーストラリア国内でまず1,100名相当の雇用が実現し、サプライチェーン含めるとさらに1,700名分の雇用が生まれる」と発表。
  5. 12隻はすべてアデレードのASC造船所で建造する。DCNSは当初一号艦だけあるいは二号艦まではフランス国内で建造する提案をしていた。
  6. 日本政府は不採択理由の説明を求めており、オーストラリア政府はこれに応じる構えだ。

一方、フランスはもちろん今回の受注を大歓迎していますが、その裏でこれまであれやこれやの政府支援があったことがうかがえます。

France Celebrates ‘Historic’ Submarine Win in Australia

Pierre Tran, Defense News7:10 p.m. EDT April 26, 2016
PARIS – フランスはDCNSが387億ドル相当の次期潜水艦建造で事業者に選定されたのを歓迎してフランソワ・オランド大統領自らがパリの同社本社を訪問した。オランド大統領は統合参謀総長、内務相、外務相を伴いDCNSを訪れ本件が政治的にも経済的にも重要な成果であることを示した。
  1. 「これは歴史的な事業、我が国歴史上最大の武器輸出だ」と大統領府は声明を発表。選定の理由として両国政府間の意思疎通がこの五十年間で「戦略的水準」になったことを挙げた。
  2. フランス国防相ジャン-イブ-ルドゥリアンはオーストラリア兵士が倒れたソンムの戦い(第一世界大戦)のアンザック記念日をオーストラリア総督とともに迎えたと伝えている。
  3. 選定により設計業務を期間三年で行う契約の協議がはじまり、2017年早々には締結されるとDCNS幹部は述べている。
  4. 今回の選定はタレスにとっても朗報だ。タレスはDCNSの株式35パーセントを保有する。(残り65パーセントはフランス政府保有 タレスの作業量は今回の事業で10億ユーロ相当になる。
  5. DCNS会長エルヴェ・ジローは仏政府兵器調達本部、海軍参謀総長ベルナール・ロジェル提督、シュナイダーエレクトリック(オーストラリアに相当のビジネス拠点を置くフランスエネルギー関連企業)に謝意を伝えている。
  6. 12隻建造契約によりDCNSは協力企業も含めて4千名の雇用につながり、ブレスト、シェルブール、ロリアンの各事業所が関与するとDCNSは発表。なお、ブレスト、ロリアンはそれぞれブリタニー地方にあり、ルドゥリアンは地域協議会の会長を務めている。
  7. 総選挙が来年に控えるフランスでは雇用は大きな要素で、失業率は10パーセントのまま推移しているからだ。■


★オーストラリア潜水艦建造でフランス案が採択された理由



今回の結果には驚かされましたが国内では、中国の意図が裏にあったのではとの意見(ターンブル首相は中国と近い)、面倒な国外生産にならなくてよかったという安堵の両論が見られますが、選考の仕組みを考えると中国云々を言うのはいかがなものでしょうか。むしろ艦の設計でフランス艦に米系装備を取り入れさらに通常動力化する技術上の課題、国内造船業の救済として国内生産を選択したオーストラリアが予定通りの建造ができるのか、就航したあとの作戦運用が果たしてオーストラリアが想定する広大な海域で円滑に実施できるのかがポイントになるでしょう。日本側は熱意がないと見られていたことがわかりますね。きちんとした選定がされているのがわかりますので負け惜しみはやめましょう。
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French Design Wins Australia’s Next Generation Submarine Competition

By: Mike Yeo
April 26, 2016 9:06 AM

DCNS Shortfin Barracuda Block 1A. DCNS Photo
DCNSのショートフィン・バラクーダ・ブロック1A DCNS Photo

MELBOURNE, AUSTRALIA — フランスのDCNSが注目のオーストラリア総額385億ドル相当のプロジェクトSEA1000新型潜水艦建造計画で受注に成功した。オーストラリア海軍(RAN)のコリンズ級6隻の後継艦となる12隻の建造が始まる。
  1. オーストラリアのマルコム・ターンブル首相はマライズ・ペイン防衛相と並んで発表に臨みフランスのショートフィン・バラクーダ・ブロック1A案がドイツのティッセン・クルップ・マリンシステムズ(TKMS)および三菱重工業が代表の共同事業体を破り採択されたと明らかにした。ペイン国防相は競争評価手順 Competitive Evaluation Process (CEP) に従い厳正かつ規定通りに選考したと述べた。
  2. フランスの支援の下でオーストラリアのASCが南オーストラリア州の造船所で合計12隻を建造する。同社はコリンズ級潜水艦を建造しており、現在は稼働中の各艦の補修契約を受けている。
  3. ターンブル首相は談話で選定チームはDCNS提案がオーストラリアの求める航続距離と航続性で「疑いなく」一番近い内容だと結論を出し、またセンサー性能も優秀でステルス性にも優れ、同時に「価格、日程、実施面、可動期間中の支援および「オーストラリア産業の参画度合」が優秀だったと述べた。
  4. CEPは15か月におよび、新型潜水艦調達事業を率いるグレッグ・サムット少将を主査とし退役米海軍少将スティーブン・ジョンソンが総括役となった。後者はオハイオ級後継艦となる弾道ミサイル潜水艦SSBN(X)も担当している。
  5. 選考過程は中立の立場の専門委員会が監視し、ここに元米海軍長官ドナルド・ウィンター教授が入り、同時にポール・サリバン退役海軍中将およびトーマス・エクレス退役米海軍少将も加わっている。
  6. 入札参加三社にはオーストラリア国内で完全建造、海外で完全建造、海外建造と国内建造の組み合わせの三案をそれぞれ提案するよう求められた。
  7. DCNS案のショートフィン・バラクーダ・ブロック1Aはフランスのバラクーダ原子力攻撃潜水艦を通常動力にしたもので、同社は今年中にも最終設計案でオーストラリア政府の承認をうけたいとするが、実務上の話し合いの行方次第だという。
  8. 新型艦は「全長90メートル超、潜水時排水量4,000トン」とDCNSオーストラリア法人のCEOショーン・コステロは述べた。フランス提案では最新ステルス技術も完全公開するとしている。
  9. オーストラリアは米豪共同開発Mk48 Mod7共用広帯域高性能ソナーシステムCommon Broadband Advanced Sonar System (CBASS)を搭載した魚雷の運用を求めており、戦闘関連のシステムは米国製とし、ジェネラルダイナミクスのAN/BYG-1(コリンズ級で搭載)の発展形の搭載を想定している。
  10. そこでショートフィン・バラクーダ・ブロック1Aが採択されたことで多少のリスクがないわけではない。特に技術面では原子力推進を前提にした艦体に通常動力を搭載することになる。オーストラリア戦略研究所専務理事のペーター・ジェニングスはそれでも「ドイツの新型艦や日本提案にあった大幅な改修」に比べれば大した問題ではないとする。
  11. 今回の結果は日本には特に打撃だろう。安倍晋三首相は日本案に相当の力を入れて、これまでの平和主義から転じて動的な役割を安全保障や防衛面で示す政策の一部ととらえていたからだ。またオーストラリアとの戦略的なつながりを強化して中国の一層の域内拡大を抑えたいねらいもあった。
  12. ロイターによれば中谷元防衛相は今回の選定結果を「大変残念」と述べ、「オーストラリア側へは不採択理由の説明を求めていく」と発言したという。
  13. ただし外部には日本の行政官と民間防衛企業は本国政府の熱意を共有せず、フランスやドイツに比べて営業積極性に欠けていたとの評がある。多分に防衛装備の海外輸出契約の経験がないためだったのだろう。
  14. TKMSからは結果は残念だが、同社としては「誠実かつプロ意識」で行われた選考過程を尊重するとの発言が出ている。■