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2021年12月12日日曜日

2022年の展望② 国家偵察局NRO長官の考える宇宙配備ISR機能の重要性について

 2022年の展望特集の第二回は米国家偵察局長クリス・スコレーズChris Scoleseです。ISRの重要度は高まるばかりで、宇宙空間からの情報収集にあたる専門機関NROは俊英な技術者の集団なのでしょう。

 

 

 

家偵察局(NRO)は60年以上をかけて世界最高水準の情報収集偵察監視装備を宇宙空間に展開してきた。政策決定層に重要情報を提供し、アナリストや軍でも活用されている。悪意の行動する側の意図を理解するとともに、自然災害被害への支援にも役立ち、気候変動にも対応している。

 

 

米国の宇宙空間での優位性は数々の技術革新で達成され、その典型がNROだ。技術革新は創造性を重視する環境あってのことだが、同時にリスクをあえてとる姿勢と、作業に当たる人員を勇気づけ、他国の動静に絶えず気を配ることにより実現する。最良の人材が集まっており、今後の針路を照らす存在だ。

 

NROは空中回収式の小型カメラから地上150マイル上からデータを直接地上へ送る装備へと比較的短時間で進化を遂げた。最近ではパンデミック中でも18カ月で16個ものペイロードを軌道に乗せた。目指すゴールはより良い情報をもっと迅速にかつ利用可能な形で提供し、任務遂行に役立たせること、さらに能力を拡大し高精度情報を提供することだ。

 

今や新しい課題が控えている。わが方の装備は宇宙空間で妨害を試みる勢力から守る必要がある。米国の宇宙利用での優越性に気づき、追いつこうとしている国がある。新技術を開発し、新技法を利用し、技術を組み合わせ最大の難題となるISR問題を宇宙で解決することにかけては米国が世界のどこよりも優れている。

 

だが敵対勢力より先を進むには、わが国は単独では解決できなくなっている。同盟国等の力に頼る時が来ており、従来の想定と異なる新しい協力国を育成すべきだ。単独で対応するよりも優秀性を一貫して維持できるはずだ。

 

そのため、より多様な衛星群、より高い応答性、より予測可能なカバレッジ、よりダイナミックなタスク処理など、より弾力的でミッションに特化したアーキテクチャを実現しなければならない。わが方のアーキテクチャは、NROが開発したシステムだけでなく、現在配備されている高機能な商用および国際的なシステムにも依存する。イノベーションに境界がなく、特定機関のみのものでもない。力を合わせれば、驚くべき進歩を遂げることができる。

 

また、新技術やパートナーシップは地上システムにも適用し、頭上からの大量データをサポート・管理し、さらに多くの宇宙装備を統合し、意思決定を改善し、サイバー攻撃にも耐えられるようにする。

 

調達プロセスで進化を続けねばならない。NROは、従来の長期開発サイクルを短縮する能力を有しており、これは政府内で認知されている。実際に現在軌道に乗っている2つのプログラムは、コンセプトから3年以内で実用化できた。国家安全保障のための宇宙事業では短いタイムラインが常識になるべきだ。

 

より強固な能力をより早く、より低コストで提供できる開発や技術への投資が必要だ。例として、人工知能や機械学習のアルゴリズム改良、宇宙装備内の低消費電力コンピューターシステム、妨害に耐える通信システムなどがある。サプライチェーン全体へデジタルエンジニアリングを導入し、より迅速な開発を可能にする以外に、量子コンピューティング、センシング、コミュニケーションなど新技術へも投資が求められる。

 

また、信頼性の高い、頼れるプライチェーンも必要だ。世界規模のパンデミックで混乱が生じているが、これを二度と起こしてはならない。敵の一歩先を行くためには、宇宙で他に類を見ない状況認識を提供するシステムを構築する部品が不可欠だ。有効なサプライチェーンがなければ、実現はままならない。

 

最後に、平和維持のためシステムを構築するには、強力で有能な人材の確保が必要だ。現在のNRO人材は、任務を果たすことができると確信する。また、将来の人材が、宇宙ベースのISRにおける世界的なリーダーとしてのNROの遺産を引き継いでくれると確信している。

 

国家として今日ほど宇宙に依存したことはなかった。現代の生活様式、経済、軍事、国家安全保障は、宇宙へのアクセスと自由な活動に依存している。

 

.NROの60年にわたる革新とパートナーシップの伝統から、我が国の実力を確信させ宇宙分野における変化に立ち向かわせてくれる。技術を進歩させ、能力を迅速に提供することに成功したNROは、現在のみならず、次の60年、さらにその先も、宇宙におけるアメリカの情報面の優位性を維持するため不可欠な存在といえよう。■

 

 

NRO director: Innovation is the key to America's advantage in space

By Chris Scolese

 Dec 6, 07:10 PM

Chris Scolese is the director of the U.S. National Reconnaissance Office.


2021年12月7日火曜日

2022年を占う。①NATO事務局長イエンス・ストルテンベルグ

 2022年を展望する安全保障各界のリーダーの声をお伝えします。第一回はストルステンブルグNATO事務局長直筆によるエッセイです。

 

 

気流の時代になってきた。世界は競合の度を高め、不安定かつ予測不可能になってきた。ロシアは強硬な軍事ハイブリッド行動を続け、中国は対外的には強硬な姿勢を、国内で圧制の度を強めている。国際民主体制に対し、両国は独裁体制の最先頭を走っている。同時にサイバー攻撃の頻度が高まっており、巧妙に効果を上げている。テロの脅威は消えていない。核兵器の拡散は止まらない。気候変動で不安定度が高まり燃料危機も発生している。

 

こうした現実課題を受けて大西洋両岸の安全保障体制にも影響が出ている。それぞれ事情は異なるが、北米と欧州が共同で立ち向かう方向はひとつしかない。ともにNATO体制で対応するのだ。

 

6月のNATOサミットで各国首脳部はNATO2030の大胆な議題を後押ししてくれた。2030年代以降にも同盟関係を強く維持し、厳しい世界情勢に対応していく。

 

加盟国が30か国になったNATO体制を各国の安全保障の検討決定にもっと活用すべきと決断している。全ドメインで抑止力防衛力を強化する。陸海空宇宙ならびにサイバー空間だ。テロへの戦いを続け、国際社会と協調して国境線保全に努めるが、過去の大きな経験則を参考にする。

 

合わせてその他分野でも強化を目指す。特に回復力、技術、安全保障面での気候変動の影響を重視する。機構全体として各国社会、インフラ、サプライチェーンの回復力を強化する目標がある。弱点を克服し、依存性を減らし外部の干渉に抵抗力を発揮し、攻撃を受けても迅速に反撃し、機構の軍事力を絶えず効果的に運用するのが狙いだ。

 

NATOとして共同行動し、技術優位性を磨き、競争力を維持する。そのため最新技術への投資として人工知能、バイオテック、量子コンピュータを重視する。北大西洋国防技術革新加速化事業Defence Innovation Accelerator for the North Atlantic(DIANA)を立ち上げた。またNATOイノベーションファンドも創設し、民間部門の技術革新を安全保障にも応用し、環大西洋協力で技術共有を進める。

 

さいごに気候変動と安全保障の課題について述べたい。これ自体が脅威であり危機を拡大する効果がある。そこで意識と対応を強めつつある。同盟各国で維持可能な解決方法へ出費が続いている。バイオ燃料でジェット機を飛ばすとか太陽光パネルで電源を確保するとか。さらに初のことだがNATOとして軍用装備の排出ガス削減の方法を検討していることを付け加える。

 

各分野でNATOは各関係先と共同で作業し、価値観、権益を共有する。相手は国家のみならず、組織体、民間企業、学界まで含む。平和を維持し、世界共通のルールとあわせ民主主義下の生活を集団で維持していく。

 

2022年6月にNATO加盟国のリーダーたちが再び顔を合わせる。次回はスペインのマドリードが海上だ。席上でNATOの次期戦略構想を採択する予定で、機構の今後を示す重要な書類となる。前回の戦略構想は2010年のもので、ロシアを戦略パートナーと位置付けて、中国に言及していない。技術と気候変動はごく簡単に触れていた。そこで新規文書では安全保障環境の変化に呼応し、改めて共通する根本価値観を言葉に表し、安全保障と防衛の基礎となる環大西洋のきづなを特記する。

 

今後の展望として環大西洋のつながりを継続し、NATO2030を実行に移す。これにより、不安定さを増す世界の中で加盟国の国民全員に安全と自由をひきつづき保証していく。■

 

NATO chief: The alliance is charting its path forward amid a changed security environment

By Jens Stoltenberg

 Dec 6, 07:55 PM

 

Jens Stoltenberg is the secretary general of NATO.