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2021年9月3日金曜日

中国戦闘機の弱点は国産エンジン。打開策を画策する中国だが、知的財産権尊重の姿勢はない。欲しいものはカネで買え、という姿勢が問題か。

 

戦闘機エンジン技術をマスターしたいPRCは困難な選択をせまられそうだ。だがこれをしないと戦闘機の性能は引き上げられない。

国の国防産業界は海外技術を「借用」することで悪名高く、特に航空宇宙産業でこの傾向が強い。

 

中国で供用中の戦闘機部隊ではほぼ全数が海外技術を公然と借用あるいはそのままコピーした機材だ。J-10の原型がイスラエルIAIのラヴィであり、さらに元をたどれば米ジェネラルダイナミクスF-16であることは公然の事実だ。J-11はsロシアSu-27のクローン、JF-17はソ連時代のMiG-21を近代化したもの、J-20ではF-22と奇妙な類似性があり、J-31はF-35共用打撃戦闘機の技術を流用していると広く信じられている。中国は研究開発で時間と費用を節約し、PLAAFは本来の負担のわずか数分の一で機材近代化に成功した。

 

ただしこの借用戦略には一つの欠陥がある。そのボトルネックとはテストデータの欠如であり、産業界エコロジーの不在だ。ここに中国が国産エンジンで高品質製品を実現できていない原因がある。

 

技術面で不釣り合いな事態が生まれているのは技術上の秘密事項並びにシステム完成に必要な人材がともに不足していることが理由だ。このため海外技術をコピーは高価かつ長時間作業になっている。泥棒国は製造基盤を一から作る必要がある。最悪の場合、大幅に基準を下回る部品が生まれ、システム全体の機能や信頼性が損なわれてしまう。

 

中国は1990年代から2000年代にかけロシア製ジェットエンジンをリバースエンジニアリングして実際にエンジンが完成したが、極端に短い寿命だありながらロシア製の性能水準に及ばない結果になってしまった。今日でもPLAAF戦闘機ではエンジンは依然として障害のままで、中国製第五世代機の初期型は大きく出力不足だった。問題をさらに深刻にしたのがロシアがエンジン供給に難色を見せたことだ。だが中国にはこれを回避する方法がある。

 

選択肢の一つが国産エンジンの改良だ。2016年の第13次五か年計画で戦略新産業開発方針で国産ジェットエンジンの改良を通じ航空宇宙産業の発展をめざすとの項があった。

 

これはある程度成功したようで、J-20試作機には性能向上型WS-10エンジンが搭載された。だが中国国産エンジンに関する公開情報が欠落しているため、同エンジンの性能は確認できない。WS-10初期型は中国製フランカーに搭載され、ロシア製AL-31の性能に遠く及ばないことを露呈した。民間企業の成都航空宇宙超合金技術公司 (CASTC) でターボファン技術がここにきて大きく進歩しているものの、超高温に耐え効率に優れたエンジンはまだPLAAF第一線機材に届いていない。

 

民間部門が航空宇宙分野の技術上で突破口を開く存在になるのであれば、国営企業も追随するかもしれない。国営航空宇宙企業は政治的に優遇されている。CASTCのような民間企業が優れた成果を出せば、政治への影響力が高まり、既存の国営企業は影響力を減らすか、民間企業との共同体制に向かうかもしれない。いずれにせよ、中国の国防産業界には大きな意味があり、今後のイノベーション体制も大きな影響を受けそうだ。

 

より簡単な方法は高性能エンジンを搭載しあt外国製戦闘機の買い付けだ。PLAAFがSu-35をロシアから購入したのがこの例だ。同機のALS-117エンジンに中国は関心を示し、エンジン単体での購入を持ち掛けたがロシアに拒否され、Su-35の購入になった。ロシアは知財保護の安全策をALS-117に講じており、中国のリバースエンジニアリングを封じている。だが、中国に知的財産権を尊重する姿勢が希薄なことから、ALS-117でもリバースエンジニアリングに走る可能性がある。ただこれは実際には困難だ。ロシア筋はエンジン核心部を入手するにはエンジンを破壊するしかないと述べている。

 

さらにWS-10で懲りた中国は外国製エンジンを入手してもすぐに同様のエンジン国産化につながらないことを承知している。またロシア知財を守るとの誓約を破ればロシア製高性能エンジンの入手は今後困難になる。

 

最後に、ALS-117エンジンの核心技術はエンジンを破壊しなければ入手不可能というロシア側の言い分通りなら、PLAAFには高性能エンジンなしの機材しか残らないことになる。そのため、PRCはALS-117のリバースエンジニアリングで短期的には利点を確保しても、金の卵を産むガチョウを殺すことになりかねない。

 

ただし、ロシア武器産業の見通しが暗いため、中国は別の可能性を試すことになりかねない。ロシアの影響力は減少気味で、中国の産業基盤は拡大中のため、ロシアからの輸入の必要性は減る。中国としては国力の差を意識してロシアを軽視しかねない。が、これを行えば両国関係を損ないかねず、両国は相当の外交努力をこれまで投じてきた。

 

最後に中国は民生航空機部門を利用して軍用用途で一気に進展を図る選択肢がある。これには利点がある。民生航空部門では西側企業との協力関係構築の可能性が高まり、他方で中国航空産業界に輸出機会が生まれる。例としてドイツが中国製タービンブレイド購入に関心を示しており、ドイツ製品より優秀だと注目している。(皮肉な事実は中国はもともとドイツ技術を吸収していることだ)

 

さらに国内ニーズもある。中国は民生機市場の規模で世界最大だ。だが欧米企業は技術移転で厳しい制約で運用を迫られいるため、有益な技術情報の提供もままならない。さらに政治圧力あるいは知財窃盗により西側航空宇宙企業は中国での生産に及び腰になっている。この知財窃盗事案が原因となり米中関係がさらに悪化し、貿易戦争の火種になりかねない。これにより中国の産業基盤そのものに実害が生まれてもおかしくない。

 

こうした障害が残るものの中国は軍事航空分野で今後も進展を示していくはずで、航空機エンジン分野でもいつまでも遅れたままではないはずだ。3Dプリント技術展で試作、開発が加速化するかもしれない。3Dプリント技術はすでに各国で航空機部品の製造に使われているが、軍用仕様のターボファンジェットエンジンはまだ製造できない。ジェットエンジン製造の複雑さを考えると、技術の成熟化には数年が必要となりそうだ。今のところ、PRCは戦闘機エンジン技術を自分のものとし自軍戦闘機機材の戦力の最大化には困難な選択を迫られそうだ。■

 

Why China Struggles to Produce an Indigenous Jet Engine

by Robert Farley

September 2, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: ChinaAir ForceMilitaryTechnologyWorld

 

J. Tyler Lovell is a graduate of the University of Kentucky's Patterson School of Diplomacy and aspiring PhD student. He has been previously published in the popular defense website Foxtrot Alpha and the foreign policy blog Fellow Travelers.

Robert Farley, a frequent contributor to TNI, is a Visiting Professor at the United States Army War College. The views expressed are those of the author and do not necessarily reflect the official policy or position of the Department of the Army, Department of Defense, or the U.S. Government.

This piece first appeared in 2018 and is being republished due to reader's interest


 

2016年1月14日木曜日

イランは拿捕した米パトロール艇から秘密装備を入手したのか


これは微妙な問題です。米海軍水兵の解放ばかりが注目されていますが、議員先生がいうような秘密装備がそのままイランの手に入ったのか、それともそもそもそんな装備が搭載されていなかったのか、議論を呼びそうです。

Lawmaker to Pentagon: Did Iran Seizure of US Navy Boat Net Classified Tech?

By Joe Gould and David Larter, Defense News 4:23 p.m. EST January 13, 2016
WASHINGTON — 米下院軍事員会の委員一名がペンタゴンに対し米海軍艦船及び乗員がイランに拿捕された際に艇内の機密装備品をイランが入手したのかを調査報告するよう求めている。
  1. ダンカン・ハンター議員はイラク戦の従軍した元海兵隊員で、「テロリストを支援」するイランは米国にとって脅威対象国だが今回の事件で米国の暗号関連機器、衛星通信機器、センサー、ジャマーにアクセスしていると述べた。米海軍の警備艇2隻にイランは乗り込んできた。
  2. 「イランが手を付けていないと考える向きはないはず」とハンター議員(共、カリフォーニア)は述べた。「乗員が無事解放されたのは嬉しいが、イラン軍が各艇にに何もせずに停泊させていたはずがない。技術をリバース・エンジニアリングされるか、コピーされるのではないか」
  3. 13日午前にイランは米水兵合計10名を解放した。河川用舟艇2隻がイラン海域に入り込み拿捕されて交渉が16時間も続いていた。
  1. 解放はイランと米第五艦隊(在バーレーン)が発表した。乗員はファルシ島を現地時間11:45に河川用強襲艇に分乗し出発し、軍用機が回収したと発表。
  2. イランは2隻がイラン領ファルシ島でイランの活動を「嗅ぎまわっていた」と非難している。同島はイランのエリート準軍事部隊の基地で、10名は同地で一夜を過ごした。
  3. イラン軍は司令艇からGPS装置を押収したとの報道がある。艇は全長49フィートでジェット推進で42ノットで進み、秘密通信装置が指揮命令用に搭載されている。
  4. ある米国防関係者の言では2隻が機微装備を搭載していたか確認できないという。
  5. ハンター議員は今回の事件の詳細は知らないとしながらも、両舟艇はハイテク機器を搭載し、イランが拿捕したのなら当然手を付けているはずと見る。
  6. 「自分だったらそうする。我が国もそうするだろうし、ロシアや中国も同じだ。皆んな同じことをするはずだ。そうではないと考えるのはあまりにも甘い」
  7. 国防総省には議会あるいは議会内関連委員会に対し非公開審議でイランがどの装備を入手したかを伝える義務があり、イランの軍事力にどんな影響がでるのか、米軍将兵の安全を守るために取るべき対策も伝える義務があると同議員は述べた。
  8. 「イランが各舟艇が搭載した装備すべての秘密を知っている環境で作戦を展開することになる。ニュースで見ると小舟艇は相当の装備を搭載しているようだ」
  1. イランにはリバース・エンジニアリングで前例がある。2011年のこと、墜落した米軍のRQ-170を分解し複製を作るとイランが発言している。同機は亜音速偵察用無人機でロッキード・マーティンが製造し、CIAが当時は運用していた。
  2. クリストファー・ハーマーは戦争学研究所の上席海軍問題専門家でパトロール艇2隻が高度な監視偵察装置やハイテク兵器を搭載していた可能性は低いと見る。乗員は標準的な海軍用無線装置を運用していたはずで、拿捕の場合は極秘装置は船外に捨てるのが標準対応で、まず無線装置の極秘ソフトウェアのコードを消去することになっているが、「パトロール艇はスパイ用ではない」と発言。■

2015年11月22日日曜日

★Su-35を導入する中国が最新技術をコピーする可能性



石油価格の低迷で経済が苦しいロシアとしては軍事装備ぐらいしか輸出品がないので、中国向けのスホイ輸出はなんとしても実現したいのでしょう。背に腹は代えられないとはいえ、わずか24機だけの輸出はどう見ても胡散臭く、これまでの苦い経験から今回の最新鋭Su-35には安易なコピーを防ぐ工夫があるのではないでしょうか。日本にも火の粉がかかりそうな案件で目をそらしているわけにはいきませんね。

Russia-China Su-35 Deal Raises Reverse Engineering Issue

By Wendell Minnick 8:12 p.m. EST November 20, 2015
635836156624475829-DFN-Russia-China-su-35.jpg(Photo: United Aircraft Corp.)
ロシア製Su-35多任務戦闘機の初の輸出先は中国となったが、中国が同機技術をリバースエンジニアリングするのではとの懸念が出ている。前例があるためだ。
  1. 商談は20億ドルで24機売却でまとまったとロシア日刊紙コメルサントおよびTASS通信が伝えている。
  2. 中国は2006年から同機に関心を示してきたが、2012年珠海航空ショーで導入を真剣に考えているとロシア側が理解した。Su-35は2014年珠海ショーに展示され、契約成立は時間の問題と言われてきた。
  3. 中国は商談成立を確認していないが、政府系メディアの環球時報が契約調印を重要な一歩とみる中国航空軍事専門家の見解を紹介している。
  4. 実は中国向け機体の製作は正式契約調印前から始まっていると明かすのは中国軍事関係の専門家ワシリー・カシン(戦略技術分析センター)だ。
  5. 「引き渡しは来年遅くにはじまり、最終号機は2018年あるいは2017年遅くには納入されるだろう」とカシンは言う。契約は技術移転は含まないが、ロシア側は「中国製コックピット装備」の一部使用を認めているという。
  6. しかし24機しか調達しないことが逆に中国がリバースエンジニアリングで同機をコピーするとの観測を呼んでいる。Su-27Kの前例がある。1995年に中国は25億ドルを出して生産ライセンスを得てSu-27Kを200機生産することとした。同機はJ-11Aの呼称が与えられた。2006年にロシアは契約を破棄している。95機が完成した時点で中国がリバースエンジニアリングし、秘密のうちにJ-11Bとして中国製エイビオニクスと兵装を搭載して生産している。
  7. またSu-35が搭載する高性能エンジン、サトゥルンAL-117Sを中国がJ-20ステルス戦闘機に転用する恐れもある。なお同エンジンはロシアのステルス戦闘機T-50も搭載する。
  8. 「中国が24機購入する理由は技術を自分のものにするためだろう」と語るのはロジャー・クリフ(アトランティック・カウンシル主任研究員)だ。「Su-35の機体構造はSu-27やSu-30とさして変更がない。中国は両方とも導入済みだ。むしろ新技術として推力方向変更やパッシブ電子ッスキャンアレイレーダーや赤外線探知追跡システムを狙っているのでは」
  9. これに対しロンドンの国際戦略研究所の軍事航空担当の主任研究員ダグラス・バリーは中国がSu-35を小規模導入する理由は「比較研究をするため」だという。瀋陽J-11Dの開発が進んでおり、Su-35とほぼ同等になる見込みだ。中国空軍は両機種を逐一比較できるわけだ。
  10. 「エンジン技術の入手以外にも中国はSu-35の兵装技術にも触手を伸ばすだろう」(バリー)
  11. カシンはSu-35の内部構造に触れることは中国には大きなチャンスになると見る。Su-35はSu-27ファミリーの集大成であり、機体を改良し新型エンジン、新型エイビオニクスやレーダーを搭載する。これに対し中国のJ-11Dもアクティブ電子スキャンアレイレーダーを搭載する。
  12. カシンは「中期的には中国の空軍力整備には同機ファミリーの発展のほうがステルス機より重要だ」とJ-31やJ-20を念頭に発言。「Su-35飛行隊はこれからの大型戦闘機の方向性を示すものだ。どこまで国内調達でき、ロシアからの支援が必要な分野はどこかがわかるはずだ」
  13. クリフは新著で中国軍事力の現状と将来の評価をしており、Su-35導入で中国の技術獲得が心配されているが、一気には実現しないとみる。
  14. 「新技術導入の搭載例を購入しても自国で技術をものにすることにつながりません」という。その好例がAL-31エンジンでSu-27、Su-30が搭載している。
  15. 「中国はこのエンジン技術の研究をこの20年以上できたのに、いまだに国産高性能ターボファンエンジンを実用していません」■