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2018年8月11日土曜日

米空軍はステルス過信を捨てることができるのか

今回ご紹介する退役空軍大将のエッセイが意外な波紋を呼んでいるのは米空軍内部でステルス万能、スタンドオフ兵器絶対の思想があまりにも強いためでしょう。予算状況は厳しく米空軍はどんどん機材を整理していきますが、このエッセイを見れば各種機材の超呂を活かした作戦展開のためにはやみくもな機材の用途廃止はおかしいこと、ステルスは切り込み隊であり、F-15等のレガシー機材が攻撃の柱になって航空優勢が確保できることがわかります。では北朝鮮を攻撃する場合はどうなる(どうなっていた)でしょうか。


Defeating modern air defenses is achievable with smart strategies, not only stealth and standoff高度防空体制の撃破は賢い戦略で可能、ステルスやスタンドオフは万能ではない

Senior Airman Klynne Pearl Serrano/Air National Guard)


2019年度国防予算認可法案で議会は空軍に有人版JSTARS新型機の調達を断念し、かわりに大型宇宙配備装備の高性能戦闘管理システム(ABMS)を調達したいとする空軍の言い分を認めた。ABMSは定義もできておらず、経費も配備予定も未定だ。一方で空軍の意向に反して議会は17機残る旧型JSTARSのE-8C廃止を認めなかった。各機は広範囲地区の偵察や小型移動車両の追跡の他戦闘管理に投入されている。
だが今回の決定でもっと大きな意味があるのは空軍内部で高度統合防空網(IADS)の突破で考え方が明らかに変化していることだ。航空戦闘軍団司令官はJSTARS新型機調達中止を支持し、同機が高性能防空体制の厳しい空域では運用不可能なことが理由だという。
ただしこの考え方は古典的空軍戦術を無視しており、「厳しい」空域を「厳しくない」空域に変えるためには圧倒的兵力を投入すれば、空海陸の各部隊に敵空軍力の脅威を感じさせずに運用が可能なはずだ。こうした敵防空体制の制圧破壊は「ロールバック」と呼ばれ敵側装備が近代化されており耐えられない損耗が生まれる予測に反して、これまで数々の効果を上げてきた。
ただし今や空軍の立案部門ではロシア、中国の防空体制は相当整備されており、新型ステルス戦闘機や長距離巡航ミサイルでないと対応できないと見ているようだ。そのためJSTARS、AWACS、RC-135リヴェットジョイント、MC-130コンパスコール、B-2含む既存機種では相当の損失を覚悟したうえでないと投入できないと見ている。航空作戦の新指針では各部隊は一貫して厳しい防空体制の下で作戦展開するとあり、ロールバック戦略はみられず、制空権を短期間で確保しその後維持する構想は見えない。
ではこれまでの高度IADS相手の航空作戦を概観し、ロールバック戦略で総合的かつ永続可能な航空優勢の確保が可能であるか検証してみよう。その典型が砂漠の嵐作戦だ。
バグダッド並びにイラク各地の軍事施設はフランス製KARI防空ネットワークで防衛体制を整えていた。当時の防衛「専門家」からイラク攻撃に踏みきれば15から20%の損耗率を覚悟すべきとの意見があった。実態はどうだったか。イラクIADSを相手にロールバックを行ったが昼夜通した攻撃でイラク上空の航空優勢を3日で確保し、損耗率は1%未満だった。同様のロールバックはイラクの自由作戦(2003年)でも成功を収めている。
1982年6月にイスラエル空軍はシリア・ベカー渓谷でソ連供与のIADSへ対処を迫られた。予想ではイスラエルのF-15、F-16で相当の損耗が発生すると見られたが、イスラエル空軍はUSAFのロールバック戦術を採用し、敵脅威を排除しながら味方損耗は2日でゼロという戦績を上げ、その後の航空優勢を維持した。
損耗予想が過剰になる傾向があるのは予想モデルが現実と乖離しているため実際には対抗策、おとり、攻撃側の戦力規模、現場で優れた決断をする優秀な乗員が状況の変化に応じ戦術を切り替えるのが通例だ。
確かにステルス戦闘機・爆撃機やスタンドオフ兵器が今後の航空作戦の鍵をにぎる。だがステルスやスタンドオフ兵器だけに依存していては効果的なロールバックができない。それは砂漠の嵐作戦、イラクの自由作戦、べカー渓谷の戦闘事例から明らかだ。さらにステルス機材やスタンドオフ兵器で数量は多数確保できない。だが敵防空網をロールバックできれば非ステルス機や支援機も敵の抵抗が時として見られても自由に行動できる。厳しいと思われた空域が厳しくない空域になるのだ。
USAFには時代を見通した指導者がこれまで現れており、過去の戦闘事例から学び、IADSの限界をつく戦術を採用し、紙の上の損耗率試算と実際の戦闘との違いを理解し維持可能な戦力を整備し、迅速なロールバックで永続的に航空優勢を確保する意味を理解できる人員のことだ。今日の米空軍もこれまでの米空軍がしてきたのと同じ仕事が可能となる。すなわち迅速かつ決定的に航空優勢を確保し維持することだ。
マイケル・ロー大将は米空軍参謀次長のほか航空戦闘軍団の司令官も経験している。

2016年4月13日水曜日

★2030年に戦闘機は主役の座から離れる 米空軍の検討結果 



よくわかりません。戦闘機ではこれから必要となる性能を実現できないからなのか、それでは次世代の機材構成はどうなるのか。また戦闘機を頂点とした空軍力の整備が大幅に変わってしまうことで組織は維持できるのか。中露が依然として戦闘機を主力とした構成で西側に対峙してきたらどうするのか。こういった素朴な疑問はこれからの空軍内検討チームが逐一回答を示してくれるはずで、楽しみです。でも答えが出るまで時間がかかりそうですね。
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Beyond the Fighter Jet: The Air Force of 2030

Lara Seligman, Defense News11:48 a.m. EDT April 8, 2016
WASHINGTON — 空を制圧するのはジェット戦闘機ではなく各種機材を束ねた統合システムのネットワークだとする検討を米空軍が進めている。
  1. 米空軍が昨年発足させたチームによる検討結果の初期報告を公表している。チームは将来の空における優位の確立方法を検討した。同チームは航空優勢2030各種能力統合チームthe Air Superiority 2030 Enterprise Capability Collaboration Teamと呼ばれ、最善策は「システムファミリー」を開発し、高度に防空体制が整備された環境下で脅威各種に対応させることと結論した。
  2. ほぼ互角の実力を有するロシアや中国が能力差をうめつつあり、長距離ミサイルを開発し、対衛星兵器、対空兵器を整備している。すべて米軍の侵攻能力の無効化をめざすものだ。米空軍はこの条件で航空制圧をどう実現できるかを模索する必要がある。
  3. 「脅威環境は今後15年から20年で拡散するとみており、現在は想像もつかない状況に地球上あるいは地球外で遭遇するだろう」とチームをまとめたアレックス・グリンケヴィッチ大佐が空軍協会主催の会合で述べている。
  4. そこでシステムファミリーあるいはシステムのシステムという方法論が空軍が提示する米軍の優位性確保の回答だ。新戦略にはスタンドオフあるいは敵防空網突破が可能な装備や宇宙依存をさらに高めること、サイバーで敵の防空網に侵入するとともに自軍ネットワークを防御することが盛り込まれているとグリンケヴィッチ大佐は紹介している。
  5. 「敵が進めているのは各種システムをネットワーク化して統合すること....ここ数年で判明したのはネットワークを相手にするにはネットワークで対抗すればよいということ。ネットワークとともに統合システムのシステムあるいはシステムファミリーで困難な環境へ対応できる」(グリンケヴィッチ)
  6. 米空軍は2017年度予算要求で航空優勢分野での実験および試作品製作用の予算を確保しているとジェイムズ・「マイク」・ホームズ中将(空軍参謀次長)が同じ会場で明らかにしている。
  7. だがそのシステムファミリーに従来通りのジェット戦闘機は含まれるのか。グリンケヴィッチ大佐はそうは思っていないようだ。
  8. 航空優勢2030チームは「第六世代戦闘機」の概念から距離を置こうとしていいる。第五世代機F-35の後継機種、という表現を使っているという。「戦闘機」という言葉も陳腐化しているとし、「センサー・シューター」や「ノード=接続ポイント」という表現を広義の戦闘ネットワークの一部として使っている。
  9. 「戦闘機は航続距離が短い。配備すれば遠隔地から運用する必要があるが、そんな機体にセンサーを付けられるだろうか。それともどこかへ分散配備させるのか。現在『第六世代』として想像している機体からは相当変わるとみている」
  10. 空軍はF-X、海軍はF/A-XXとして共同で代替策検討をするつもりだったが、海軍が検討では先行し、空軍はF-X作業を遅らせると2月に明らかにしている。
  11. 一年遅らせることで空軍は今後の大日程を再検討できるとホームズは4月7日の会合終了後に記者団に語った。当初の構想ではF-Xは開発期間20年ないし30年を想定していた。かわりに空軍はAOAを2017年1月に再設定し、今後20年30年で利用可能となる選択肢を検討するという。構想は「次世代航空優勢」“Next Generation Air Dominance”と呼ばれ、検討作業の完了は2018年の中ごろとグリンケヴィチ大佐が付け加えた。
  12. 空軍は速度、操縦性能、ペイロード、航続距離の最適組み合わせを見つけようとしているとホームズが述べている。ステルス性あるいは低視認性も考慮する。
  13. 航空優勢2030チームの作業内容について尋ねたが、関係者から将来像を示す答えはほとんどなかった。グリンケヴィッチ大佐のチームはAOA分析を多数進めるのだろう。
  14. ホームズ中将の「希望的目標」は2025年までに航空優勢戦略を示すことだというが「まだその目途はついていない」と認めた。
  15. 関係者は脅威対象に空軍が迅速な対応すべきだと指摘する。議会とペンタゴンが進めている調達改革の効果を生かすことも必要だとグリンケヴィッチが述べた。
  16. 「戦略的な敏捷性が求められているのは事実だ」とグリンケヴィッチ大佐も強調している。「これが実現できないと危険な状態になる」■