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2020年1月26日日曜日

米空軍の将来に必要な5項目をCSBAが提言、中露同時対応可能な空軍力の整備へ

今回の報告では中露同時対応を求めており、中国、ロシアが結託する可能性への対応を求めています。かなり空軍の現状の思考に近い内容のようです。新しい用語が出ているので原文併記で示しました。
 ただし、実現に必要な予算をどう工面するのでしょうか、国の借金を再定義しないとお金が足りません。21世紀になり財政理論の再構築が必要なのかもしれません。でないとシンクタンクの報告書は絵に描いた餅となり、我々の常識と異なる行動を展開している中国は冷笑するだけでしょう。

国、ロシアの脅威に対抗すべく、米空軍は戦力増強と近代化を図るべきで、例として高性能長距離無人機の追加や戦闘管理指揮統制 battle management, command and control (BMC2)によるマルチドメイン作戦運用の戦力増強策が必要とシンクタンクの戦略予算評価センター(CSBA)がまとめた。

「将来の空軍戦闘力に求められる優先5項目」の表題でCSBAは現状の難題を2035年までに解決する道筋を示した。難題とは機材老朽化と戦力減少が続いていること、機材の維持か近代化の選択を強いる予算環境だ。

今回の報告に先立つCSBA報告書がある。2018年国防戦略構想(NDS)が想定する大国相手の戦闘に今後の空軍力で勝利をおさめられるかを検討した議会への報告書だ。今回のCSBA提言では空軍に必要なのは有人機無人機の混合編成で二カ国相手でもほぼ同時に対応できる戦力を整備すべきとある。予算、人員双方で追加投入が必要とあるが、試算は示していない。

金額想定を質問された今回の報告書作成に加わったマーク・ガンジンガーは2018年版報告でDoD予算を年3%から5%増額続けると提言しており、空軍予算で言えば年間80億ドル増額に相当と解説している。ただし、その実現可能性は「薄い」と本人は語るものの、空軍装備の充実がないと21世紀型脅威に対応できないと強調している。

「厳しい選択が必要だ」とガンジンガーは空軍に現状の問題に目をつぶることは許されないと述べている。

過去のツケを払わされる

これまでの予算削減で空軍の戦闘機、爆撃機の維持が不可能になっているとし、陸軍、海軍より空軍に予算削減のしわ寄せが大きいとある。

「各軍おしなべて予算および規模が縮小されたが、空軍に1989年度から2001年度にかけ予算削減の大きな部分が押し付けられた」というのが今回の分析だ。空軍の31.6%削減に対し、海軍は28.2%、陸軍は29.2%だった。削減額には情報機関、特殊作戦、医療他空軍が管理できない支出項目は除いてあるという。

中でも空軍の調達予算で減額が目立つ。「調達の真水予算は同時期に52%減少している」という。

現在の調達予算は歴史的規模で低い。2020年予算要求では、F-35Aを48機調達するが、以前の二カ年は各56機で減少している。

調達予算が減少し、戦闘機部隊の即応体制は弱体化していると報告書は指摘する。爆撃機でも同様で「過去二十年にわたり爆撃機戦力の不足傾向が続いた原因に戦力削減や即応体制の低下、さらに近代化改修予算の不足がある」としている。

2018年の実態から作戦行動可能な空軍戦闘機は769機で、爆撃機は「最大で」58機とCSBAは試算。戦闘機総数は2,072機、爆撃は157機だ。(戦闘機の即応体制は2019年にF-35で改善が見られれば若干上昇の可能性がある)

CSBAによれば空軍で供用中の戦闘機の平均機齢は「前例のない水準の28年」に達しており、爆撃機は45年程度だ。国防総省で調達部門のトップのウィル・ローパーが嘆いているが、機材維持に経費と人員投下が増える原因となっている。

CSBAの提言5項目

そこでCSBAは次の5項目を提言している。

1. 中国、ロシアの同時侵攻を防止できる戦闘航空戦力 Combat Air Force (CAF)を実現する

検討では「片方の地域で米軍が忙殺される間に別の大国が侵攻を企てるリスク」が減らす空軍機材の「規模と能力」が必要と提言。とくに長距離侵攻攻撃能力により中国、ロシア他の侵略勢力に聖域を認めさせないことが必要とする。

2. 高性能ステルス機の調達数を増やし、その他CAF機材では残存性を高める

次世代ステルス機は将来の戦場で不可欠とガンジンガーは述べる。

CSBAによれば今後二十年にわたり空軍は「次世代ステルス性能機材の調達を加速化すべき」とし、B-21爆撃機、F-35A、「新型多任務侵攻形制空・侵攻型電子攻撃 Penetrating Counterair/Penetrating Electronic Attack (PCA/PEA)機材」、情報収集監視偵察機材を搭載した「侵攻型」無人機がその対象とする。同時に「F-22の残存性を維持しつつ次世代兵装として極超音速兵器ファミリーの調達」も進めるべきという。

3. 前方戦闘力の確保とともに小規模脅威地区で分散化を

「中国、ロシアによる米軍の前方航空基地への大規模ミサイル攻撃がCAF残存で最大の脅威とは限らない」(ガンジンガー)

今後の空軍機材は「共同作戦を支援し中国ないしロシアの既成事実の積み上げを否定する能力」が必要となり、同時に「ミサイル大量攻撃を受ける可能性が低い地域から出撃し攻撃数波を実施しつつ、前線基地は分散ネットワークで制空任務他を実施する」とある。

この実現には「大規模攻撃やミサイル攻撃を想定した航空基地防衛体制の強化」をDoDは実現すべきで、空軍も「航空基地防衛ミッションに装備人材を追加投入すべき」と提言している。

4. 各種ミッションに投入可能な無人機を開発し、多様な脅威に対応させる

「空軍のCAFではハイエンド戦闘作戦、本土防衛がともに能力不足で2018年国家防衛戦略の要求が同時に満たせない。能力不足は2030年代まで続きそうで、それまでにCAF能力の拡大が必要だ」としている。「不足によるリスクを減らすには空軍は戦闘構想を新構築し、既存及び今後登場するUAS(無人航空システム)の活用を考えるべきだ」とし、MQ-9リーパーの他、「低コスト使い切り装備」を想定している。

ガンジンガーは低コスト無人機の例として国防高等研究プロジェクト庁(DARPA)のグレムリンズ(小型無人機多数で集中攻撃を想定)、スカイボーグ、クレイトスのヴァルキリーを上げる。

新型無人機各種は「有人ステルス機と組んで制空、長距離スタンドオフ広域偵察、攻撃、電子戦その他作戦を行う。従来型のISR、軽攻撃ミッションも行う」とあり、空軍が描く次世代航空優勢構想 Next Generation Air Dominanceの各種装備と重なる。

5. 戦力増強効果を生む新装備開発を加速化する

ここには「次世代極超音速兵器、巡航ミサイルに電子対抗用の高出力マイクロウェーブペイロードを搭載し、一本で多数標的を攻撃すること、高性能エンジンでCAF機材の航続距離・ミッション時間を延長すること、マルチドメイン作戦支援を過酷環境下でも可能なデータリンクの開発」が含まれる。

供用中のBMC2機材にE-3 AWACSやE-8 JSATRSがあるが、「全ドメインで有効な各軍共用BMC2装備があれば将来の作戦で全部隊の強靭性および作戦効果が高まる」と報告書にある。提言内容は空軍が進めるマルチドメインC2環境での高性能戦闘管理システム Advanced Battle Management System (ABMS)と重なる。

ABMSはJSTARS後継装備としてまず構想され、その後各種システムに変貌しており、ハードウェア、ソフトウェアでローパーが言う「モノのインターネット」を軍に実現する。空軍はABMSをDoDがめざす各軍共用全ドメイン指揮統制構想の柱となる技術と見ており、各軍にABMS対応能力の採用を働きかけている。■

今回の記事は以下を参考にしました。

"Creating a more range-balanced, survivable, and lethal force will require a commitment by DoD and the Congress to significantly increase the Air Force’s annual budgets," CSBA says.

on January 22, 2020 at 2:52 PM




2017年2月11日土曜日

★★米海軍の将来戦力構成でCSBAが抜本的改革案を提言



どこでも海軍は保守的な組織で思考方法もともすれ固まりがちです(以前は大艦巨砲主義、今は巨大空母第一主義でしょうか)トランプ政権でこれまでの縮み志向から一気に拡大するチャンスが来た米海軍ですが戦力編成に悩んでいるようです。そこでシンクタンクCSBAが思い切った提言を議会に提出したようです。果たして海軍の本流思考にはどう受け止められるのでしょうか。

Big Wars, Small Ships: CSBA’s Alternative Navy

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on February 09, 2017 at 12:16 PM

Wikimedia CommonsCSBAはスウェーデンのヴィスビ級に類似したコルベット艦40隻の導入を提言。
WASHINGTON: 米海軍には小規模艦船を多数整備した大規模艦隊が必要なのであり、戦力構造検討結果とは違う形にすべきだと議会委託の戦略予算評価センター(CSBA)が独自の検討内容を発表した。
CSBAも海軍には対テロ作戦やプレゼンス示威から大規模戦闘の抑止任務(必要なら戦闘する)への切り替えが必要だとの米海軍の主張では同じだ。ともに攻撃潜水艦を現行55隻から66隻に増やし、ミサイル潜水艦12隻の整備が必要とまでは共通している。ただしCSBA提言では水上艦艇で内容が大きく異なっており、内容は上院軍事委員会委員長ジョン・マケイン議員の私案に近い。
「戦闘部隊」を構成できるのが大型艦だけと定義すると、CSBA案は340隻で海軍案(355隻)より僅かに少ない。(現在の戦闘部隊は274隻で構成)だが小排水量の哨戒艇まで入れると海軍案の368隻に対し、CSBA案は382隻になる。DARPAが開発中のシーハンターのような無人艦艇も入れるとCSBA構想は更に増えて462隻になる。海軍案ではこの種の艦艇はまったく入っていない。
Sydney J. Freedberg Jr. graphic from CSBA data

分野別でCSBA提言ではいろいろな違いがある。
  • 航空母艦:海軍CSBAともに原子力空母12隻が必要だと一致している(現在は11隻)が、CSBAはスーパー空母をより小型の通常動力「軽空母」(CVL)10隻で補完させる点が違う。CVLは現行の「大型」強襲揚陸艦を発展させ、航空機運用のため揚陸艇運用は犠牲にする。マケイン議員も軽空母構想を推すが、海軍・海兵隊は大型空母の柔軟性を好み、この構想に懐疑的だ。
  • 巡洋艦・駆逐艦:海軍案では「大型水上戦闘艦」つまり巡洋艦・駆逐艦を104隻体制にするとあるが、CSBAは74隻で十分とし、全部駆逐艦であり、巡洋艦は不要とする。報告をまとめたCSBAのブライアン・クラークは記者に大型巡洋艦は無駄な存在で高性能の無人装備や新しい作戦概念である「分散型攻撃力」では小型艦艇により多くのミッションが実施できるとする。たとえば空母打撃群に巡洋艦を対空装備の中心艦とするかわりに、CSBA提唱の重フリゲート艦(下参照)を中心にするとする。この新フリゲート艦は同時に低脅威も担当し、駆逐艦に強度の戦闘任務に専念させる。
  • フリゲートおよびLCS: 海軍は一貫して「小戦闘艦艇」52隻が必要と主張し、問題多い現行の沿海戦闘艦と今後登場する「フリゲート」拡大版を想定している。各艦は3,000トン超の大きさだ。CSBAはこれに対して小艦艇がより多く必要とする。新設計のフリゲート(4千から5千トン規模)が71隻でLCSには不可能な機能を実現する。例えば多目的ミサイル発射管のVLSによる広範囲の防空任務がある。大型フリゲート艦は空母護衛の中心であり、揚陸艦や補給部隊も支援する他、無人艦艇や有人哨戒艇と行動をともにする。新企画のフリゲート艦建造は2020年に開始する。マケイン議員も同様にLCSを「超えた」多機能艦が「なるべく早く」必要だと主張。
  • 哨戒艇:現在はサイクロン級哨戒艇13隻があり、300トンの小艦艇だが「戦闘部隊」の勘定に入っていない。単独で大洋横断できないためだ。CSBAはそこでやや大きい規模の艦艇を多数整備すべきと主張し、600トン程度40隻が必要と算出した。コルベットとも言うべき艦となりスウェーデンのヴィスビをCSBAはモデルとしている。コルベットは外国海軍で多用しているが、米海軍には歴史的に異例な存在だ。マケイン議員も排水量(800トン未満)の哨戒艦の建造を2020年に開始すべきと主張している。
  • 無人艦艇:海軍も無人水上艦(USVs)や無人潜水艇(UUVs)の試験をしているが、戦闘部隊の一部とは位置づけていない。CSBAは逆に「超大型」USVを40隻と「超大型」UUV40隻の整備を主張。有人艦艇の代わりとするのではなく、消耗品に近い扱いで高リスク任務に投入する。偵察や電子戦や機雷敷設だ。海軍の遠征派遣用高速輸送艦(旧名称JHSVs)は無人艦艇の母艦に任務変更する。
内容を見た議会スタッフの一人が「これまで30年間の艦艇建造の流れを大きく変化するもの」「艦隊規模を現実的に引き上げる唯一の方法だろう」と感想を述べている。「軽空母」がこの中で一番大きな変化とし、「空母中心主義」の海軍がどんな意見を言うのか読めないとしつつ、歴史を見れば各種規模の空母を運用した前例はあると指摘した。
CSBAのもう一つの提言に艦隊構成を2つに分ける変更がある。艦艇の大部分は「抑止力部隊」としてあらたに編成する10個部隊に所属し、地域別に任務海域を割り当てる。各部隊は大規模戦闘が発生した場合、第一線部隊となる。予備部隊は世界規模の「消防隊」であり、米国に配備する「派遣部隊」とし、ハイエンド機能の艦艇として原子力水推進スーパー空母二隻と護衛部隊を常時展開可能として保持する。
DARPA's Sea Hunter (ACTUV) unmanned ship
DARPAがすすめるACTUV「シーハンター」無人艇
費用はどうなるか。CSBA試算での取得費はオバマ政権が残した2017年度建艦案に年間35億ドルの追加が必要で、18パーセント増となる。(197億ドルから232億ドルへ) 作戦運用維持費で訓練、燃料調達に追加19億ドル(14%増)の165億ドルが必要となる。予算管理法ではこれだけの金額を上乗せするのは困難だが、トランプ大統領は同法を終わらせ国防予算は大幅増とする公約しており財政赤字の増加も甘んじる姿勢だ。■



2015年4月20日月曜日

★海はもう広くない。CSBAが示す近未来の海上戦の様相



CSBAからまた刺激的な論文が出るようです。双方が互角の装備を整備して接近不可能な海域が増えると海洋の広さはどんどん縮小するというのは、一見すると海軍水上艦艇に未来がないように見えますが、実は兵力投射のプラットフォームとしての可能性をあらたに整備する方向性をあんじしているのではないでしょうか。 その意味でUCLASSは積極的な攻撃能力手段につながるのではないでしょうか。また度々ご紹介しているレーザーやレイルガンの技術開発にも新しい時代へ対応すべく海軍の展望がみえかくれします。 そうなると短距離しか飛行できず、かつ安全な陸上機地ないと使い物にならないF-35が太平洋で何ができるのか疑問ですし、その整備に巨額の予算をつかうことが費用対効果で大きく疑問になってくるでしょうね。むしろこの論文が議論の口火を切ることが期待されますし、それが自由な意見を自由に主張できる米国の強みですね。

No Man’s Sea: CSBA’s Lethal Vision Of Future Naval War

By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on April 13, 2015 at 4:25 AM
CSBA graphic of a future war at sea.
WASHINGTON: もはや海は広い舞台ではない。ミサイルが有効射程を伸ばし精密度を上げ、センサー類の感度が向上し艦船に隠れる場所がなくなってきた。「要塞に発砲する軍艦は愚か」とは昔からの海の諺だが、陸上基地は弾薬量や防御力で海上艦艇より優位と言う意味だ。艦隊を陸上配備兵器の射程範囲に近づけるのを喜ぶ司令官はいない。だが、米海軍は新世代の兵器が配備される中で何百何千マイルも離れた海上に残れるのか。
  1. これがアンドリュー・クレピネヴィッチ Andrew Krepinevich がまもなく刊行される研究論文Maritime Competition In A Mature Precision-Strike Regime.「成熟した精密攻撃態勢の下での海洋覇権」(Breaking Defenseはクレピネヴィッチから同論文の写しを事前に入手し、本人へ直接質問をすることができた)の中心課題だ。クレピネヴィッチが率いるシンクタンク戦略予算評価センター Center for Strategic and Budgetary Assessments (CSBA)はこれまで接近阻止領域拒否anti-access/area denial (A2/AD)やエアシーバトルのコンセプトを生んできた。これらは中国他の勢力を遠距離から抑え込むのが目的だ。新しい論文では従来の研究成果をもとに双方が広域ネットワークで同等のスパイ衛星、無人機、爆撃機、ミサイルを整備した世界を想定し、論文の題名である「成熟した精密攻撃態勢」の意味が出てくる。
  2. 海戦も大きく変わる。陸上装備が艦隊に大きな損害を与えるので、もはや海戦とはいいがたい。(そのため論文では海洋、の語句を使っている。) 第二次大戦ではミッドウェイで日米が空母部隊で索敵に広い太平洋で苦労した。地中海では枢軸側と連合国側の艦船は簡単に発見され、陸上基地からの爆撃で大損害を受けた。現在の技術で太平洋は地中海の大きさに縮小されるといってよい。
  3. 「第二次大戦の地中海ではこういう接近できない地帯が生まれ、水上戦の支障になった」とクレピネヴィッチは語る。「精密攻撃手段が成熟化し大洋は地中海の大きさに縮む」
  1. クレピネヴィッチ予測では接近阻止領域拒否地帯が大洋に広がり、アクセス不可能な領土や海域が増え、双方にとってこの地帯では深刻な損害を覚悟しなければならなくなる。これまでの海軍作戦では自由航行が当然だったが、海洋の大部分が事実上通行不可能な危険地帯になる。対立する諸国が極めて近接している例として、日本・韓国・台湾が中国に近く、湾岸諸国もイランのすぐそばにあるが、バルト海諸国もロシアに近く、小国だと国土全体が危険地帯に入る。米国の同盟国が封鎖を受け、直接攻撃を受けるか包囲される可能性を想定すると救援に駆けつける米軍部隊もさながら第一次大戦の西部戦線のような海洋上の最前線を突破しないと到着できなくなる。
  2. 「例えば台湾の援護が必要になり、十分な事前準備ができない場合は重要な利害対象国である台湾を失うか、自軍部隊に高い損耗を覚悟するかのどちらかになる」(クレピネビッチ)
  3. 危険地帯を無事に突破できるだろうか。第一次大戦の現場指揮官と同じく、各種の新規手段を組み合わせて(英軍の場合はタンク)、戦術も組み合わせ(ドイツは突撃部隊)、多様な方法が考えられるとクレピネビッチはいう。
  4. 一番簡単なのは現地派遣をあきらめることだ。逆に敵を封鎖し、敵を自軍が設定した危険地帯へおびき出す。巧妙に敵に協力させることだ。「オフショアコントロール」構想では中国の長大な貿易海上ルートに着目し、中国から遠く離れた地点を封鎖し、輸出をまひさせ中東産原油が中国に届かなくすればよいと海兵隊退役大佐T.X.ハマーズ T.X. Hammesがエアシーバトルの代替策として提唱している。時間があればこの構想はとても魅力的だとクレビネヴィッチも認める。しかし米国の同盟国が敵の有効な射程範囲で身動きが取れなくなった場合(例 日本)では遠隔地の封鎖をしたところで肝心の同盟国が長く持たない。
  5. 反対にもっと積極策が考えられる。米軍の弾薬備蓄は長く維持できないかもしれない。ハイテク装備を有する敵との交戦はミサイル、無人機、有人機を消耗する。当然人員の損害も想定する必要があり、損耗率はこれまでのリビア、アフガニスタン、イスラム国相手の場合よりはるかに高くなる。いまでさえ米軍司令官は精密兵器の在庫が少ないことに危機感を持っており、米国では高性能兵器を迅速に生産できない。
  6. 「中華人民共和国と交戦した場合は弾薬類の補充生産はおろか主要装備品の増産は不可能だ」とクレビネヴィッチも認める。「そこで中国の立場で見れば、石油数カ月分の備蓄を前提に作戦立案すればよい。長期的視野にたてば中国は備蓄をするかパイプラインを陸上に構築すればよいことになる」
  7. 石油備蓄の方が精密兵器の備蓄よりずっと容易だ。もし中国等敵性国家がわが方の弾薬を使い果たすことに成功できるのなら、逆にわが方も相手の備蓄を使い果たすことができるのではないか。IPhoneの時代の技術で高性能ミサイルも低価格化できるはずだとクレピネビッチは指摘する。ただし長距離兵器ではそうはいかない。大国といえども強力な兵器の配備数には限りがあるということだ。
  8. 敵の武器備蓄を使い果たす方法としてむだな発射をさせることがあり、おとり、電子戦、敵ネットワーク侵入でありもしない目標を生み出す。反対に実目標に敵が発射してきたら飛んでくるミサイルを撃ち落とすのが効果的だ。これはミサイル防衛の課題であり、高価格の迎撃手段を有する艦船も搭載可能ミサイル数はごくわずかだ。レーザー兵器あるいは電磁レイルガンなら安価にミサイルに対抗でき、敵に高価なミサイルを使い果たさせられる。
  9. 長距離ミサイルだけが貴重な装備ではない。長距離センサーも目標探知に必要だ。衛星はどんどん脆弱化しており、直接攻撃手段としてのレーザー目くらましや関節攻撃としてのハッキングで地球へのダウンリンクが狙われる。あるいは小型爆発物で地上の管制施設が狙われるかもしれない。宇宙がだめなら、高高度飛行無人機を偵察と通信中継に使えばよいとクレピネビッチは説く。だがこの無人機も高レベルの自律性能で飛行できないと長距離データリンクが敵に狙われるとクレピネビッチは指摘する。
  10. 総じて無線ネットワークが大きな標的になる。サイバー諜報活動はかつてのナチや日本の暗号解読(ウルトラおよびマジック案件)の事例のように重要になるかもしれない。サイバー攻撃で偽データを配信するとか敵の中核システムを大事な時に使えなくさせることができよう。しかしこの種の戦闘には多くの不確定さがついてまわるのでクレピネヴィッチも注意するよう発言。
  11. 「ある程度までサイバーは20年代あるいは30年代の航空戦力と同じ位置づけです。重要だとわかっていても実際にどのように重要なのか誰も理解できていなかったのです」
  12. ただし航空戦力の場合は実際に撃ち合いが始まれば不確実性は急速に消えた。撃墜される機体が目に見えるし、都市は火に包まれた。サイバー戦や電子欺瞞作戦では攻撃する側、防御する側ともに目には見えない。敵が長距離ミサイルの発射を中止した時点で備蓄がなくなったのかわが方のサイバー電子攻撃で発射できなくなったのか、あるいはわが方がもっと近寄るのを待って発射しようとしているのか見極められない。
  13. 最終的に米軍部隊は接近せざるを得ない。ただし敵が長距離兵器を使い切った場合に限るが。では21世紀の危険地帯で生き残りができる部隊とはどんなものなのか。クレピネヴィッチはステルスは依然として重要だと見るが、今後もセンサーの性能向上とビッグデータの解析で挑戦を受けるだろう。潜水艦や陸上配備爆撃が中心的な精鋭部隊になるだろうとする。その補強に長距離陸上発射ミサイルが使われる。
  14. ということは水上艦艇には大きな役割は期待できないということで、現時点でも航空母艦は大きな目標にすぎないといする。潜水艦より目だち、脆弱性もあるが、水上艦のペイロードあたりの建造コストは低いが強力な火力を提供する。だが重要な問題点はそのペイロードだ。クレピネヴィッチも空母から反撃できないほどの長距離から空母を狙う巡航ミサイルを潜在敵国が発射できると指摘している。(この場合空中給油は危険すぎ選択肢に入らない) そこで長距離空母艦載機(有人である必要はない)で海軍の主力艦の威力を保つことになるのだろう。
  15. クレピネヴィッチは軍事上の革命的な進展は末端から始まることが多いと指摘し、従来通りの装備が大部分の中で最新鋭装備は少量ではじまることがあるという。これは軍の予算とも関連がある。電撃戦を展開したドイツ軍も当初は戦車よりも軍馬が引く車両のほうが多かったのだ。1941年12月7日時点の米海軍では戦艦の方が空母より多かった。攻撃を生き残った戦艦には対空砲を追加装備し、その後は空母を護衛する役割にまわった。新技術は比較的わずかでも新戦術に応用されると決定的な違いが生まれる。ここでもどの新技術、新戦術を重視するのかということだ。
  16. 議論に火がつけばクレピネヴィッチとしても嬉しいという。
  17. 「現状はバージョン1.0という段階」と報告書に記述。「いまのところこれが最良の予測であり、現在の傾向をもとにしたもの」というが、変動要因は非常に多く、これまでの軍事史上で経験がないほどの多さだという。とはいうものの、「それでもこのほうがよい。なぜなら今のまま未来に突入するよりも何かを失った方がよい」
  18. これは「対話の始まりを示すものであり、終わりではない」とクレピネヴィッチは指摘した。