ラベル もし戦わば の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル もし戦わば の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021年6月11日金曜日

2030年米中が台湾をめぐり開戦に....IISSシミュレーションでわかること。中国は台湾防空網を機能喪失させ、米空母も無力化する。

 



How Chinese Unmanned Platforms Could Degrade Taiwan’s Air Defense and Disable a US Navy Carrier

2009年の建国60周年軍事パレードに登場した中国製無人機ASN-207

Credit: AP Photo/Vincent Thian, File


ここがポイント: 台湾をめぐる米中対決の架空戦シナリオで新技術がどう投入されるが見えてくる


国が台湾侵攻に踏み切った場合、米国は台湾を防衛できるのか、いやそもそも防衛すべきなのかと米国内の国防、外交両面で議論がかわされている。軍事技術の進展ぶりのためこの答えが出しにくくなっており、とくに人工知能、サイバー、ロボット、極超音速の分野で海峡を挟む中国、台湾間のバランスが質的量的にどう変わるのかという疑問はそのまま米中間にもあてはまる。


こうした新技術が東アジアの軍事バランスにどんな影響を与えるのかを理解すべく、本稿では台湾をめぐり米国と中国が軍事衝突した想定のシナリオを2030年の想定で提示する。以下のシナリオでは人民解放軍(PLA)が無人機(UAV)を大量投入し、台湾の防空体制の機能を低下させ、無人水中機(UUV)群が米海軍の空母打撃群(CSG)をフィリピン海で標的にすると想定した。2030年の架空シナリオでは新技術が作戦構想に加わり、将来の状況でどんな判断を統帥部が下すかを考察している。また、記事の後半では中国で新技術がどこまで進展しているかを取りあげる。シナリオはあくまでも新技術の威力を示しつつ、作戦概念とあわせ指導部の決断に触れるものであり、2030年代に想定される現実政治の課題解決を示すものではない。


2030年シナリオ:中国無人装備により台湾防空体制が機能低下し、米海軍空母が稼働不能となる


中国中央軍事委員会の統合参謀議長は満足している。議長は空海双方でもっと積極的に無人装備を投入すべきと説いてきたが、「守旧派」が有人機、艦艇こそ攻撃作戦の中核だと主張する前に苦戦してきた。それが台湾、米国を相手に開戦三日目にして議長の推す無人装備が効果を実証している。各司令部にほぼ同時に情報が入ってきたのだ。人民解放軍空軍(PLAAF)のUAVsおよび人民解放軍海軍(PLAN)のUUVsが成功をおさめ、台湾の中長距離防空体制を圧倒し、米海軍フォード級空母USSエンタープライズがフィリピン海で行動不能になっている。



PLAAFはGJ-11無人戦闘航空機(UCAV)を200機近く投入し、ISR、電子戦、兵装とそれぞれ異なる仕様で台湾の中長距離防空陣地40か所を攻撃した。この攻撃はPLAAFが2028年に採択した「敵防空体制制圧」作戦構想の最終段階となった。UCAV攻撃に先立ち弾道ミサイル、巡航ミサイルによる攻撃があり、極超音速ミサイルも投入され台湾の指揮統制拠点を狙ったほか、サイバー攻撃で台湾のレーダーや宇宙配備ISR衛星システムを一時的だが機能低下させた。


議長は洪都GJ-11の活用を強く進め2022年に量産を始めさせたほか、第15期五か年計画の下でGJ-11の第二生産ラインも稼働させ、2030年までに長距離UCAVを200機調達する目標に向かっていた。「消耗品扱い」の各機が真価を発揮した。十数機ずつに分かれたUCAVはPLAAF操作員がひとりで衛星リンクで制御し、台湾に残るMIM-104ペイトリオット、MIM-23ホークのほか天弓II、IIIのSAM陣地を全部攻撃した。


だがもっと大きなニュースがフィリピン海から入ってきた。USSエンタープライズに武装UUVの大群がAI応用のセンサーを搭載し、PLANの093A商II級原子力攻撃型潜水艦 (SSN)群から発進させた。エンタープライズ空母打撃群の探知範囲より外から各SSNが十数機のUUVを発進し、各UUVはCSGの航行予測地点で待機させた。これまでに海中設置センサー網や通信ブイをあらかじめPLANが台湾へ向かう航路に設置していたことでデータは得られた。


議長は「スマート機雷」作戦構想を強く推進し、潜水艦発進式のUUVsを数週間にわたり待機させる、浅海域では海底に待機させ、攻撃命令が下れば、一斉に大群で敵を攻撃する構想だ。この実施を早めようと議長は既存兵装の改造案を提唱し、大型魚雷Yu-9がUUVに転用された。UUV大群はCSGの防御網を突破し、対抗策を数で圧倒し、アーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦一隻が水没し、エンタープライズの各30トンプロペラ四基を稼働不能にし空母は戦闘不能となった。米海軍もこうした攻撃を想定し対抗策を練っていたが、PLAは米民間企業が進める対抗策を諜報活動の対象とし、あらかじめ対抗策を無効にできたのだ。


2021年時点での新技術の現状:中国のUAV


中国の2019年版国防白書では「長距離精密インテリジェントかつステルスの無人兵器装備の開発がトレンドとなっている」と強調していたが、UAV大量投入技術では無人装備を集団で相互連携して使用することが共通の目標だが、現状はまだ開発初期段階であり、今すぐにも戦場の様相を一変せせるわけではない。中国は非武装型、武装型I双方のISRの開発をここ20年展開している。2018年版白書では北京合同軍事技術学院のUAVシステム開発が具体的な目標を設定し、2035年までに軍事UAV技術で世界のトップに立つとしている。第14期五か年計画(2021年-25年)でもUAV開発を重視している。2020年9月には「自殺攻撃無人機」200機の編隊で戦闘攻撃のシミュレーションを実施している。この際は中国電子情報技術学院が発射管方式で各機を飛行させた。同様なテストは2017年にもあり、UAV100機に偵察行動を同時に取らせた。


中国は大量のUAVを艦艇、地上車両、ヘリコプター、爆撃機から展開する構想だといわれる。国際戦略研究所(IISS)による研究では中国国防産業秋はUAV/UCAVを20型式以上開発中とあり、そのうち少なくとも15型式が中国本土から台湾に到達する能力があるという。2030年シナリオに登場したステルス無人機GJ-11はPLAAFの第178旅団によるテスト評価作業を新疆で受けているとの報道がある。


現在の中国におけるUAV開発やPLAによる将来のUAV戦力の著述からPLAがUAVを広範に投入する構想を持っていることがわかる。ISR、空中早期警戒、攻撃、有人機と投入する忠実なるウィングマン機能、サイバー、電子戦用途だ。PLAの著述ではとくにUAV大量投入による攻撃を重視している。中国人戦略専門家二名による分析では、UAV大量投入により「全方位防衛網突破」が可能となり、多方面から飽和かつ合同攻撃を実施し、サイバー攻撃、電子攻撃に加え運動エナジー効果が期待できるとある。



2021年時点での新技術の現状:中国のUUV


中国の軍用UUVに関する公開情報は皆無に近い。PLANが2019年に初公開したUUVはHSU001の名称で水中ISR任務に特化しているようだったが。しかし、HSU001は兵装ペイロード搭載も可能だ。Yu-9魚雷の改装がここに加わるとは思えないが、電動推進は魚雷で応用される傾向が出ており、長距離長時間の稼働が可能となるとUUVに近くなり、長時間水中待機させれば機雷と同じ効果が実現しそうだ。


UUVやUUV大量投入を成功させるためには技術課題が多い。たとえば、通信や航法の問題があり、攻撃用に使おうとすると水中送信に反応時間と低帯域が付きまとい、敵の探知するおところとなる。光通信では有効距離が限られ、UUVの大群を制御するのは複雑な作戦環境ではヒトによる制御が不可欠となる。現在のバッテリー技術では2030年時点でのUUV長時間運用は実現困難だ。PLANのUUV運用は米国等西側各国より遅れる観がある。


中国が整備を進める無人海洋観測ネットワークに近年開発中の各種自律水中グライダーが加わっている、PLAが無人装備に強い関心を示していることがわかる。海洋観測活動に加えPLANは従来から西側海軍の優勢を非対称的に覆す手段として機雷戦を重視しており、UUV運用はISR、対潜戦、機雷戦、補給活動を中心とするPLANは今後は既存の大型魚雷を「スマート兵器」に転用するR&Dを進めるだろう。これにより自律運用型の機雷原が2030年までに出現する。PLANはUUVと有人潜水艦の同時運用で先を行く西側との差を急速に詰めてくるだろう。米国は2020年時点で水中戦力は潜水艦の隻数だけでは評価できないと公言している。


台湾に向けた武力侵攻の課題の解決のためPLAは一貫して米CSG戦力の無効化へ最大の関心を向けている。中国の最新の軍事目標は台湾作戦の早い段階で成功を確保することで、最大の標的が米CSG戦力である。このため奇襲性のある新型兵器を投入することが戦略目標となる。通信、航法、自律運用の技術が進展しており、新たな戦力が今後も実用化されるはずだ。


結語


今回のシナリオで主に二つの点を明らかにした。まず、将来の軍事衝突の行方を決するのは各種要素の相互関係であり、この重要性を強調した。要素には軍民の人間としての動き、新規運用コンセプトや方針、柔軟な戦力構造、新技術がある。二番目に、シナリオでは将来の軍事衝突における技術決定論的は側面に光を当てた。4IR技術で優位であっても将来の戦場で勝利を自動的におさめることにはならない。技術優位性を過信すれば、各種要素による出費となり逆の結果になる可能性もある。


最後ながら、注意点がある。将来の戦闘予測の歴史はひどい結果に終始してきた。ごくわずかの予測が的中したにすぎない。今回のシナリオがそのまま実現しないこともありうる。とはいえ、架空シナリオで今後の姿を予測することは有益だ。ローレンス・フリードマンの著書“The Future of War: A History”を引用する。「想像の産物は今後発生する事態に備える際に選択肢の絞り込みで効果を発揮し、また実際に先見の明を発揮することもある。このため、真剣にとらえる必要がある。ただし、疑い深く取り上げるべきである」■


This article has been adapted from a chapter in the 2021 Regional Security Assessment, which is published annually by IISS.

AUTHORS


How Chinese Unmanned Platforms Could Degrade Taiwan’s Air Defense and Disable a US Navy Carrier

By Franz-Stefan Gady

June 08, 2021

 

Franz-Stefan Gady is a Research Fellow at the International Institute for Strategic Studies (IISS) focused on future conflict and the future of war. Follow him on Twitter.


2017年5月31日水曜日

もし戦わば(14)26億人の戦争:インド対中国



もし戦わばシリーズも11回目になりました。インドが中国を攻撃するとは考えにくく、中国がインド国境を越えて進軍したらどうなるかという想定です。周辺国にストレスを与える中国の存在は中国に近いパキスタンという宿敵を持つインドには特に面倒な存在でしょう。

 

If 2.6 Billion People Go To War: India vs. China 26億人の戦争になったらどうなるか:インド対中国


The National InterestKyle Mizokami May 27, 2017


  1. 仮にインドと中国が交戦すればアジア最大規模の破壊絵図が繰り広げられるだろう。さらにインド太平洋地区全体が動揺をうけ両国の世界経済も影響を免れない。地理と人口構成が大きな要素となり、戦役の範囲とともに戦勝条件が制約を受ける。
  2. 中印国境で以下の地点が注目だ。インド北方のアクサイチンAksai Chinおよび北東部のアルナチャルプラデシュ州Arunachal Pradeshである。中国はともに自国領土と主張しており、それぞれ新疆省および中国が占拠するチベットの一部だとする。中国は1962年に両地点を侵攻し、両軍は一か月交戦し、中国がわずかに領土を確保する結果になった。
  3. 両国とも核兵器の「非先制使用」を是としており、核戦争への発展は極めて可能性が低い。両国ともそれぞれ13憶人ほどと膨大な人口を擁し、実質的に占領は不可能だ。近代戦の例にもれず、インド中国が戦争に入れば陸海空が舞台となるはずだ。地理条件のため陸戦の範囲は限定されるが、空での戦いが両国で最大の損害を生むはずだ。ただし海戦ではインドの位置が優位性を生み、中国経済への影響がどうなるかが予想が難しい。
  4. 次回両国が武力衝突すれば1962年と異なり、双方が大規模な航空作戦を展開するだろう。両国とも戦術航空部隊は大規模に保有し人民解放軍空軍は蘭州軍区からアクサイチンに出撃し、成都軍区からアルナチャルプラデシュを狙うはずだ。蘭州軍区にはJ-11、J-11B戦闘機部隊があり、H-6戦略爆撃機二個連隊も配備されている。新疆に前方基地がないため蘭州軍区からの北インド航空作戦支援は限定的になる。成都軍区には高性能J-11AおよびJ-10戦闘機部隊が配備されているが、インドに近いチベットに航空基地は皆無に等しい。
  5. 中国のインド攻撃には戦術航空機部隊が必ずしも必要ではない。航空攻撃力の不足を弾道ミサイルで補えばいいので、人民解放軍ロケット部隊PLARFが重要だ。PLARFは核、非核両方の弾道ミサイルを扱い短距離、中距離弾道ミサイルはDF-11、DF-15、DF-21の各種を発射できる。ミサイルでインドの地上目標を戦略的に電撃攻撃するはずだが、その間南シナ海、東シナ海の緊急事態に対応できなくなる。
  6. それに対しインドの空軍部隊は空では中国より有利だ。戦闘の舞台は中国領と言えども人工希薄な地帯だが、ニューデリーはチベット国境からわずか213マイルしか離れておらず、インドのSu-30Mk1フランカー230機、MiG-29の69機さらにミラージュ2000部隊は中国機材と互角あるいは上を行くはずだ。少なくともJ-20戦闘機が投入されるまでこれは変わらない。インドはパキスタンを仮想敵とし、二正面作戦も想定して十分な数の機材を整備している。航空基地や重要施設の防衛にはアカーシュAkash中距離対空ミサイルの配備が進んでいる。
  7. インドは空軍力による戦争抑止効果に自信を持つが、中国の弾道ミサイル攻勢は少なくとも近い将来まで食い止める手段がない。中国ミサイルが新疆やチベットから発射されればインドの北側内の目標各地が大損害を受ける。インドには弾道ミサイルの迎撃手段がなく、ミサイル発射地点を探知して攻撃する手段もない。インドの弾道ミサイルは核運用のみで、通常戦に投入できない。
  8. 一方でインド、中国の地上戦が決定的な意味があるように見えるが、実はその反対である。アクサイチン=新疆戦線とアルナチャイプラデーシュ=チベット戦線の両方とも岩だらけの過酷な場所で輸送用インフラは皆無に近く機械化部隊の派遣は困難だ。攻撃部隊は渓谷通路を移動せざるを得ず砲兵隊の格好の目標となる。両国とも膨大な規模の陸軍部隊を擁するが(インド120万名、中国220万名)地上戦は被害も少ないが得るものも少ない手詰まり状態に入るはずだ。
  9. 海上戦が両国の優劣を決するはずだ。インドはインド洋にまたがり中国の急所を押える格好だ。インド海軍の潜水艦、空母INSビクラマディチャVikramaditya、水上艦部隊は簡単に中国の通商を遮断できる。中国海軍が封鎖を破る部隊を編成し派遣するには数週間かかるはずだが、広大なインド洋で封鎖解除は容易ではない。
  10. そうなると中国発着の航路は西太平洋を大きく迂回する必要があるが、今度はオーストラリア、日本、米国の海軍作戦が障害となる。中国の原油需要の87パーセントは輸入に依存し、中東、アフリカからの輸送が重要だ。中国も戦略石油備蓄を整備中で2020年代に完成すれば77日分の需要に対応できるが、それ以上に戦闘が長引けば北京は終戦を真剣に考えざるを得なくなる。
  11. 海上戦の二次効果がインド最大の武器になる。戦闘による緊張、世界経済への影響、さらにインド側につく日米はじめ各国の経済制裁で中国の輸出が減退し、国内で数百万単位の失業者が生まれる。国内の騒乱状態に経済不況が火に油を注ぐ格好となり、中国共産党の支配に悪影響が生まれる。中国の選択肢はインドより少なく、ニューデリー等大都市に非核弾頭のミサイルを撃ち込むしかなくなる。
  12. インドー中国間の戦闘は短期に終わるが、後味の悪い相当の破壊が生まれる。また世界経済にも広範囲の影響を残す。力の均衡と地理上の制約条件のため簡単に決着がつく戦闘にならないはずだ。両国ともこの点は理解しており50年にわたり戦闘がないのはこのためだろう。このまま今後も推移するのを祈るばかりだ。■
Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
Image: French Air Force Mirage 2000D at Kandahar Airfield. Wikimedia Commons/SAC Tim Laurence/MOD


2017年1月30日月曜日

もし戦わば⑨ ロシア巡洋戦艦キーロフ対米最新鋭駆逐艦ズムワルト


もし戦わばシリーズです。⑨回目になりました。しかし、これはどうなんでしょう。あくまでも単艦での一騎打ちということなのですが、キーロフの重装備攻撃手段の方がどう見ても有利な気がしますが、望むらくは実戦で両艦の性能を実証する機会が訪れないことを祈りますがどうなるかわかりませんね。


The National Interest


Russia's Super Battlecruiser Kirov vs. America's Stealth Destroyer Zumwalt: Who Wins?

January 27, 2017

ここに来てロシアと西側の関係悪化で水上艦同士の戦闘が再び真剣に想定されている。中東や中央アジアの地上戦の支援に十年以上も回っていた米海軍が敵艦を沈めるという本来の任務に注力しつつある。米海軍は新型誘導ミサイル駆逐艦USSズムワルトも導入しているが、同艦の主任務な地上砲撃の想定だ。
  1. 一方のロシアはキーロフ級巡洋戦艦を今も供用中だ。艦齢ほぼ30年の巨大艦で老朽化も目立つが今でも強力な武装を誇り、主任務たる敵大型艦の撃沈、特に航空母艦を狙う存在だ。
  2. ではこの二艦が直接対決したらどうなるだろうか。
  3. ズムワルト級は米海軍の最新誘導ミサイル駆逐艦で三隻の陣容となる。アドミラル・エルモ・ズムワルト、マイケル・マンソー、リンドン・B・ジョンソンで艦砲射撃に最適化している。海軍で初の「ステルス」艦で独特の艦形はレーダー反射を抑えるための工夫だ。
  4. ズムワルト級は排水量14千トンで米海軍最大の駆逐艦だ。艦の大きさと重量はステルス性と関連があり、ほぼすべての搭載装備を艦内に収容している。全長610フィートのズムワルトはレーダー上では小漁船にしか映らず、最高速度は30ノットだ。
  5. 重量増の原因には搭載兵装とセンサーがある。AN/SPY-3隊機能レーダーで中高度の探索能力が以前より向上しており、スタンダードSM-2対空ミサイルを運用する。垂直発射サイロが80基あり、SM-2や発展型シースパローミサイル、トマホーク対地攻撃ミサイル、ASROC対潜ロケットを発射できる。
  6. ズムワルト単艦では広面積の対空防御はできない(そのためSM-2搭載も決まったようだが)が、個艦防御は十分可能だ。海軍はSM-2AURミサイルを追加発注しており、射程は短いが発展型シースパローミサイル(ESSM)も各サイロに4発搭載し理論上はESSMが320発まで搭載できる。
  7. 米海軍の対艦攻撃能力が減衰していること、21世紀初頭では地上戦が中心になっていることを考えると、ズムワルトが対艦攻撃能力に劣ることは驚くべきことではない。ハープーン対艦ミサイルはサイロに入らないため搭載しておらず、どうしても搭載するなら主甲板上に斜め発射管をつけるしかない。
  8. 155ミリ高性能艦砲二門は最大射程83マイルで一分間10発の射撃が可能で、対空戦にも投入できる他、水上艦を相手に相当の損傷を与えられるはずだ。
  9. ズムワルトの対戦相手は巡洋戦艦キーロフで過去の遺物といってよい。建造は1980年代末で米空母への攻撃を主眼に攻撃力重視の設計だ。同時に相当の対空能力も有している。
  10. キーロフ級は空母以外では戦後最大級の水上艦である。全長826フィートというのは第二次大戦時の戦艦ビスマルクやアイオワに匹敵するが排水量は24千トンしかない。その理由に原子力推進を採用し、ボイラー含む補機を省いたことがある。最高速度は32ノットだ。
  11. 別の理由もある。アイオワ級戦艦の16インチ砲塔は1,075トンだったがキーロフはミサイルを代わりに搭載している。攻撃手段としてキーロフはP-700グラニット対艦ミサイル20発を搭載する。グラニットは全長33フィートで15千ポンドの無人機の格好をしている。
  12. グラニットの射程は300マイルで速度マッハ2.5で1,653ポンドの弾頭を運ぶ。初期目標情報はキーロフ自体、キーロフの艦載ヘリあるいは地上運用のTu-95ベア含む偵察機から入手する。レジェンダ衛星も活用し、標的情報をキーロフ経由でグラニットに入力する。
  13. キーロフは防空能力も考慮し十分な数の対空ミサイルを搭載し、グラニット攻撃ミサイルを打ち尽くすまで艦を防御できる。S-300F長距離対空ミサイルは96発が外側の防御にあたり、3K95短距離ミサイルと4K33短距離ミサイルがそれぞれ192発、40発で内側防御網を形成する.さらに最後の手段としてAK-630近接防御装備が30ミリガトリング砲で待機する。
  14. ではこの2艦が対峙する想定でどちらが勝つだろうか。公海を両艦が航行中で対艦ミサイルの最大射程としてキーロフのグラニットミサイルの300マイル離れた地点にあると想定しよう。これまでのシナリオとは異なり、それぞれ相手の位置は把握していない想定で始めその後に把握するとする。キーロフはレジェンダ衛星を活用できるが、これはレーダー衛星だ。ズムワルトはステルス駆逐艦で小漁船ほどのレーダー反射しかない。
  15. 両艦は必死になって相手を探知しようとし、ヘリコプターで水平線の向こうを探知させる。この状況でステルスのズムワルトは非ステルスながら堂々たる威容を誇るキーロフ巡洋戦艦より大きく有利だ。ズムワルトのヘリコプターがキーロフを先ず発見し、データ送信してくる。キーロフはこのヘリコプターを発見するがズムワルトの正確な位置はわからない。
  16. ズムワルトのステルス性がそのままなら理論上は同艦はキーロフの対艦攻撃射程内に侵入できる。一方でロシア巡洋戦艦は長距離からズムワルトを一掃したいはずだ。キーロフの搭載システムすべてが衛星目標捕捉からミサイル誘導までレーダー誘導方式であることが悲劇だ。キーロフはズムワルトの推定位置にミサイルを発射するが、グラニットのアクティブホーミングレーダーは米艦の小さなレーダー反射を捉える必要があるのだ。
  17. 仮にグラニットがズムワルトを捕捉してもズムワルトの対空装備は十分対抗できる。SM-2中距離対空ミサイルが少なくとも18発あり、それ以外にも高性能シースパロー短距離ミサイルがあり、ズムワルトはおそらくグラニットの大部分は迎撃できるだろう。
  18. ズムワルトが砲撃をする可能性はあるだろうか。状況次第としかいいようがない。最大射程の83マイルから長距離陸上攻撃弾を高性能主砲システム(AGS)から発射すると161.89秒で目標に到達する。ズムワルトがキーロフの正確な位置を把握していても移動する砲弾が移動する巡洋戦艦に到達するのに時間がかかりすぎる。AGSはGPS誘導能力があるが大して役に立たない。キーロフの移動速度が均一で正確な方位がわかっていれば砲弾の微調整は可能だが初弾のみに有効だ。一旦キーロフがジグザグ航行をはじめれば照準を合わせるのは不可能になる。
  19. シナリオの結末はこうだ。互角に終わる。ともに正確な照準を得られない。ズムワルトは目標に接近できず、キーロフはレーダー誘導兵装を運用できず、ともに決着を別の機会につけることになる。将来、新型長距離対艦ミサイルが導入されればズムワルトが有利になる。また155ミリ砲弾へ最終誘導を無人機が与えるのも有益だろう。
This first appeared in August 2016 and is being reposted due to reader interest.