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2025年4月4日金曜日

SM-6ミサイルが極超音速兵器への迎撃能力を実証する段階に近づいてきた(The War Zone) ― SM-6で能力拡大が進んでいるようです。さらにここに来て何故か日本がSM-6生産での協力を米側に提示しているようです

  

高機動性の極超音速兵器による脅威の高まりに対処するため、米軍にとってSM-6はもっとも手近な選択肢だ

The U.S. Missile Defense Agency has simulated a successful intercept of a mock advanced hypersonic missile by a Standard Missile-6 (SM-6) as it works up to attempt the real thing.

MDA

国ミサイル防衛庁(MDA)は、実戦に向けた訓練の一環として、スタンダードミサイル6(SM-6)による模擬的な先進極超音速ミサイルの迎撃に成功した。今回のテストではSM-6は発射されなかったが、実物大の標的を使用し、極超音速弾道追跡宇宙センサー(HBTSS)衛星と、アーレイ・バーク級駆逐艦(最新バージョンのイージス戦闘システム搭載)を投入した。

MDAは、米海軍およびロッキード・マーチンと協力し、月曜日、SM-6極超音速ミサイル防衛模擬実験(別名:FTX-40、愛称:ステラ・バンシー)を実施した。FTX-40の実射は、ハワイ州カウアイ島の太平洋ミサイル実験場の太平洋沿岸および上空で行われました。

SM-6ミサイルの発射の様子。米海軍


アーレイ・バーク級駆逐艦「USS ピンクリー(DDG 91)」は、最新のイージスソフトウェアベースラインに組み込まれたシーベースターミナル(SBT)インクリメント3能力を使い、先進的な機動性を持つ極超音速標的の探知、追跡、模擬交戦能力を実証したとMDAのプレスリリースが伝えている。「追跡演習には、標的に対する改良型スタンダードミサイル(SM)6の模擬発射、および極超音速標的車両(HTV)1を先端に装着した空中発射の中距離弾道ミサイル(MRBM)が含まれていました。この標的は、さまざまな極超音速の脅威をテストし、撃破できるように設計されています」。

USS ピンクリーはまた、新型の Surface Electronic Warfare Improvement Program (SEWIP) Block III 搭載を完了した初のアーレイ・バーク級駆逐艦で SEWIP Block III が提供する新たな機能に加え、その統合により艦船の物理的構造に劇的な変化が生まれた。MDAは、FTX-40 に電子戦システム一式が組み込まれているとは明示的に述べていない。

USS ピンクリー米海軍

MDAが公開したビデオと写真には、HTV-1の放出前のテストターゲットのみが写っている。ターゲットは空中でも発射され、これは米国のミサイル防衛テストで使用される大型模擬弾道ミサイルでは一般的です。これらの発射には米空軍のC-17輸送機が使用された。

パラシュートで降下するテストターゲット。

MDA主ロケットモーター点火後のテストターゲット。MDA

HTV-1/MRBMの組み合わせに関する説明は、ミサイルのようなブースターを使用して最適な速度と高度に到達し、その後切り離す、いわゆる無動力極超音速ブースト・グライド・ビークルに一致している。その後、不規則な操縦が可能なグライド・ビークルは、極超音速で標的に向かって比較的浅い大気圏飛行経路を進み、通常、マッハ5以上の速度で飛行する。この速度、操縦性、飛行経路の組み合わせは、迎撃を試みる場合だけでなく、探知や追跡においても防衛側にとって大きな課題となる。ここで重要なのは、多くの従来の弾道ミサイルや、特定のタイプが放出可能な個別の再突入機も、極超音速に達することだ。しかし、それらは大幅に異なる軌道を描き、操縦性は劣る。

従来の弾道ミサイルと極超音速ブースト・グライド車両の軌道の違いを非常に大まかに示した図。空気呼吸式極超音速巡航ミサイルも描かれている。GAO(米政府監査院)

これらを踏まえて、MDAのリリースには「FTX-40は、極超音速および弾道追跡宇宙センサー(HBTSS)の実証衛星によるデータ収集の機会も提供した」と付け加えられている。HBTSSの最初の2基のプロトタイプ衛星、L3Harris製とノースロップ・グラマン製の衛星は、2024年2月に軌道に投入された。MDAは、FTX-40でデータ収集を行った衛星がどちらの企業によるものかは明言していない。

MDAは以前、以下の動画を公開しており、そこではFTX-40テストに関与したとされる資産、コマンドおよび制御ネットワーク、将来のグライドフェーズインターセプター(GPI)が、実際の極超音速ミサイル防衛シナリオにおいてどのように連携するのかについて、比較的詳細な説明が提供されていた。

また、ロッキード・マーチンの別のプレスリリースでは、模擬SM-6ミサイルが、今後登場するブロックIAUの派生型であることが明確に示されている。国防総省のテスト・評価局(DOT&E)によると、ブロックIAUの「U」は「アップグレード」を意味し、「陳腐化問題を緩和するための誘導セクション電子ユニットの更新であり、ミサイルへの更新の組み込みを意図している」。スタンダードミサイル2(SM-2)ブロックIIICミサイルは、SM-6ブロックIAと同じ誘導部を備えており、同様のアップグレードが施される予定だ。アップグレードされたミサイルはSM-2ブロックIIICUとして知られることになる。

MDAの発表によると、「FTX-40は、MDAが開発した新しいテスト標的のリスク低減飛行として、また極超音速標的に対するイージス・ベースラインのデータ収集の機会として重要な役割を果たした。今回の演習は、改良型SM-6を使用したMRBM HTV-1標的の迎撃演習の基礎となるものだ。今回のテストは、イージス・ウェポン・システム43(FTM-43)飛行試験として知られる。「FTX-40は、昨年実施され、アーレイ・バーク級駆逐艦がSM-6を使用して飛行終期段階にある中距離弾道ミサイル(MRBM)目標を検出、追跡、交戦、迎撃する能力を実証したSBT Increment 3飛行試験実験であるFTM-32の成功を基にしていた」と発表文は続く。

FTM-32では、SM-6 Dual II ソフトウェア・アップグレード(SWUP)ミサイルが使用された。SM-6 Dual IおよびDual IIは、既存のブロックIシリーズの派生型で、弾道ミサイル防衛に最適化された構成だ。SM-6ブロックI/IAは、弾道モードで使用される場合、固定翼機や巡航ミサイルなどの従来の防空上の脅威に対する能力だけでなく、海上および陸上の表面目標に対する能力も実証している。

レイセオンの生産ラインで製造中のブロックIシリーズSM-6ミサイル。 ・レイセオン

SM-6のブロックIB改良型は、本体が完全に再設計され、より大型の新型ロケットモーターを搭載する予定で、現在開発中である。

既存のSM-6ファミリーは、現在戦闘で実証済みで、弾道ミサイルに対するものも含む。これは、イエメンのフーシ派武装勢力に対する紅海周辺での継続中の作戦の結果である。

MDAと海軍は、少なくとも2021年以来、極超音速の脅威に対するSM-6の能力を明確に実証する方向で取り組んできた。SM-6の極超音速ミサイル防衛テストは、以前は2024会計年度に実施される予定だったが、昨年9月30日に終了した同会計年度には実施されなかったようだ。

2022年、海軍中将ジョン・ヒル(当時MDA長官)はSM-6シリーズは「米国唯一の極超音速防衛能力」であり、現行のバリエーションは「初期段階の能力」を提供していると述べた。既存のSM-6ブロックI/IAは、飛行の終末期における高度な機動性を持つ極超音速の脅威に対してのみ関連能力を有していると理解されている。

ノースロップ・グラマンは現在、MDA(ミサイル防衛)のために、飛来するブースト・グライド車両に対するより広範な迎撃領域を提供する前述のGPIを開発中である。これに対し、SM-6は、カバーできる地理的領域や使用可能な迎撃ウィンドウにおそらく制限があり、より限定的な極超音速迎撃能力への道筋を示すものである。この能力は、特定の極超音速の脅威から、友好国の水上艦艇や陸上の近隣資産を守るために特に有用である可能性がある。

極超音速による脅威の規模と範囲は、世界的に拡大し続けている。 特に中国、ロシア、北朝鮮が活発に動いており、イランも少なくともこの種の能力を獲得したいという野望を表明している。 昨年、ロシアは新型の中距離弾道ミサイル「オレシニク(Oreshnik)」を公式に初公開した。クレムリンは、ウクライナへの攻撃で、「極超音速技術」を組み込んだと述べている。

極超音速ミサイル防衛能力の向上は、ドナルド・トランプ大統領が掲げる新たなミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」の目標のひとつとして特に注目されている。

「弾道ミサイル、極超音速ミサイル、巡航ミサイル、その他の先進的な空中攻撃による攻撃の脅威は、米国が直面する最も壊滅的な脅威であり続ける」と、1月に発表された当初の「アイアンドーム」に関する大統領令は宣言している。「過去40年間、次世代戦略兵器による脅威は弱まるどころか、むしろ、同等の能力を持つ敵国やそれに近い国々による次世代の運搬システムや自国の統合防空ミサイル防衛能力の開発により、より深刻かつ複雑なものとなっている。

「機動性が高い極超音速ミサイルを撃破する能力は、危険度を増す脅威からわが国とわが軍を守るため不可欠です」と、MDAのトップ、ヒース・コリンズ空軍中将は、FTX-40に関する発表に添えられた声明で述べた。「イージス兵器システムは次世代の統合防空・ミサイル防衛システムにおいて重要な役割を果たすことになる。そして、本日のテストは、海軍と協力し我が国の極超音速対応能力を向上させる上で、重要な成果を実証した」。

FTX-40が成功裏に完了したことで、MDAとそのパートナーは、代表的な先進的な極超音速の脅威に対するSM-6の実力を試すテストに一歩近づいた。■

SM-6 Missile Closer To Proving Hypersonic Weapon Intercept Capability After Aegis Destroyer Test

The SM-6 is the U.S. military's most immediate option for tackling growing threats posed by advanced maneuvering hypersonic weapons.

Joseph Trevithick

https://www.twz.com/air/sm-6-missile-closer-to-proving-hypersonic-weapon-intercept-capability-after-aegis-destroyer-test


2021年12月15日水曜日

中国の極超音速兵器開発に先を越された米国は有効な防衛力を実現できるのか



China Hypersonic Missile Testing

PLA Daily



中国のペースにあわせ、米国は極超音速兵器を月産10基以上製造する必要があるが、現状はそこまで行っていない....

 

国がFOB核運用極超音速滑空体のテストを行ったことで米国並びに太平洋地区同盟各国に戦術戦略上の脅威が加わったとペンタゴンで兵器開発にあたっていた専門家が指摘している。

 

マイケル・グリフィン博士Dr. Michael Griffinは研究開発担当の前国防次官補で、中国の極超音速兵器体系が米国を上回ればグアムや台湾のような死活的な地点への米軍・同盟国軍の接近が阻まれると発言。

 

「中国のFOBは戦術装備ながら戦略的な意味があり、手ごわい装備だ。中国がグアム西方に立ち入り禁止区域を設定すれば世界的な影響がでる」と高度核兵器アライアンス抑止力センターAdvanced Nuclear Weapons Alliance Deterrence Center主催の「極超音速兵器が政策と核抑止体制に与える影響」イベントで発言した。

 

中国が一方的に有利な形で極超音速兵器配備を進めると、米軍・同盟軍へ一斉攻撃を行い、戦闘継続できなくなる事態が生まれるとグリフィンは想定している。

 

中国の極超音速兵器の脅威

 

中国に実用レベルの極超音速兵器が各種そろい、米国にないとなると、太平洋に展開する米軍部隊に防衛手段がなくなる、というのがその考えだ。

 

その場合、米軍部隊は極めて脆弱になり、グリフィンは米軍同盟国軍は台湾あるいはグアムへの接近を「阻止される」事態となるのを恐れる。

 

中国の弾道ミサイル、核ミサイル等一斉発射に対し、防衛手段が実質上ない状態を想定している。防衛側を上回る飽和攻撃が「青天のへきれき」シナリオで想定されており、極超音速ミサイルが加われば事態はさらに深刻となる。

 

そのため大量の極超音速ミサイルの飛来を食い止める唯一の手段は、現状では敵に壊滅的被害を与える反撃手段以外にないと考えられている。

 

米抑止力はどこまで


攻撃を受ければ確実に反撃を行うとの抑止効果が極超音速兵器による大規模強襲への唯一の予防手段となる。ここをグリフィンは強調し、米国は中国に歩調を合わせた形で新型極超音速兵器の開発、生産、配備が必要だと主張している。

 

「極超音速攻撃手段では中国がわが国の先を走るのは明らか。こちらには一斉発射の阻止で手段がない。中国を上回る攻撃能力が整備できないと、中国の行動を縛ることができない」(グリフィン)

 

ペンタゴンは極超音速兵器生産を増し、パラダイムを一変させる「価値観を根底から覆す」技術を模索する必要がある。

 

通常・核双方の新型ミサイル生産を加速化する必要がある。

 

 

米装備の現状

 

米空軍では空中発射式迅速対応兵器をAir Launched Rapid Response Weapon と呼び、極超音速発射体として航空機から運用する構想が急進展している。

 

米陸軍は長射程極超音速兵器 Long Range Hypersonic Weapon (LRHW) を2023年までに実用化すると発表した。ペンタゴンは実戦用極超音速兵器の実現だけでは足らず、中国に対抗し、抑止効果をあげるため大量整備に迫られる。

 

中国が核運用可能な極超音速滑空体の試験を行ったことに大きな関心が集まったのは当然で、ペンタゴン上層部の懸念が現実になった。極超音速ミサイルの製造配備で中国は米国に先行している。

 

「現在は月産二基の極超音速兵器製造に向かっている。これを月産10本に増やす必要がある。中国はわずか12本の極超音速ミサイルでは脅威を感じない」(グリフィン博士)

 

同時にグリフィン博士は「既存価値観を覆すような」技術を開拓し現在開発中の極超音速ミサイルを超える新世代装備の開発を訴えており、弾頭部、誘導手段、推進手段で既存の空気吸い込み式や加速滑空型極超音速兵器体系を超える装備が必要と言いたいのだろう。実現のカギを握るのは迅速な試作・試験とグリフィンは見ている。

 

「テストを毎週実施すべきで、三カ月に一回ではまに合わない」(グリフィン博士)

 

中国のFOB兵器実験で緊急度はさらに高まっている。中国の新兵器は軌道上に長時間「留まる」機能があるとの観測があり、これが最大の懸念事項だとグリフィンは指摘する。つまり中国兵器は標的を選択し、飛翔経路を最適化して予想外の方向から攻撃する可能性があるということだ。

 

「軌道上に待機させ、任意の方位角で標的を狙う機能を懸念する」(グリフィン博士)■

 

 

China's Hypersonic Weapons: A Significant Global Security Threat

KRIS OSBORN, WARRIOR MAVEN


 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Master’s Degree in Comparative Literature from Columbia University.

 

 

2021年11月23日火曜日

中国の極超音速滑空飛行体が別のペイロードを放出していた可能性が浮上。中国技術が米ロの先を行くのか。極超音速兵器迎撃技術の開発も米国で始まった。まずグアム防衛をSM-6で進める。

China Hypersonic Missile

DADEROT/WIKICOMMONS/RUSSIAN YOUTUBE SCREENCAP

 

 

国が今夏行った核兵器運用可能と思しき極超音速ミサイルテストでは、大気圏内をらせん状に飛翔する間に何らかのペイロードを放出していたとの報道が出てきた。真実なら、興味深い技術ではあるものの、内容は不明だ。

 

フィナンシャルタイムズ(FT)は7月27日の実験では極超音速滑空飛行体がペイロードを南シナ海上空で放出し、「少なくともマッハ5で標的に向かわせた」との記事を昨日掲載した。

 

これまでこの滑空体は宇宙空間から大気圏に突入し、地球を軌道飛行に似た形で横断し、標的に向かうFOBS(Fractional Orbital Bombardment Syste 準軌道爆撃システム)の一種と思われきた。冷戦時代の構想であるFOBSは早期警戒体制が想定する方向の逆から攻撃でき、飛翔経路も想定よりはるか下となり、警戒態勢の虚をつくことが可能だ。

 

GAO

極超音速滑空飛行体と通常の弾道ミサイルの飛翔パターンの違いを示す図。

 

FOBSの機能とは別に極超音速滑空体自体が予測困難となる飛翔経路を大気圏内の飛翔制御で行う。

 

先にCBSのインタビューでジョン・ハイテンGeneral John Hyten統合参謀本部副議長が7月27日テストを「長距離ミサイル」関連だと評していた。ハイテン大将は「地球一周し、極超音速滑空体を投下し、中国国内の標的に命中した」と述べていた。

 

今回のフィナンシャルタイムズではデメトリ・セヴァストプロemetri Sevastopulo記者が「情報筋に近い取材源」の話として、滑空体が「空中で別のミサイルを分離した」と伝えている。

 

話が混乱しているが、同じFT記事内でミサイルが発射された、正体不明の対抗措置が放出された、と報じ、匿名の専門家がこの対抗装置は中国がロシア、米国より極超音速兵器開発で先を行く姿を示していると評している。

 

他方でホワイトハウスはFT問合わせに応じておらず、7月27日テストは「域内外で平和安定を目指す我々にとって懸念となる」との具体性に欠ける声明を発表しているだけだ。FTは在英中国大使館にもコメントを求めたが、情報はないと拒否された。

 

記事のトーンには総じて深刻さが見られ、「ペンタゴン技術陣は虚を突かれた」とあるが、肝心の装備の詳細では内容が薄く、とくに有事にどう使われるのかについて深く報じず、今回の実験が今後の装備にどうつながるのかにも触れていない。一方で、記事には過激な内容はあらかじめ除去されている。

 

セバストプロ記者は問題のペイロードをミサイルとしながら、記事では「ペンタゴン専門家には発射体は空対空ミサイルだと見る向きがある」ともしており、一貫性がない。同時に記事には匿名の「DARPA専門家」がペイロードを何らかの対抗装置とみており、ミサイル防衛体制を打破するもので、米国が開発中の装備と同じだとする見解を伝えている。

 

さらにDARPA専門家は「中国が対抗装置を極超音速飛翔中の本体からどうやって発射できたのか不明だ。放出そのものは大陸間弾道ミサイルで実用化しているが、今回はペイロードを大気圏内で放出している点が異なる」と述べているのを伝えている。

 

極超音速飛翔中に大気圏内でペイロード放出したとすれば技術面の突破口を実現したことになる。誘導ミサイルを放出したとなればなおさらだ。いずれにせよ、滑空中の本体の飛翔を不安定にさせずペイロードを放出するのは容易ではない。

 

現時点では実際に何が放出されたのか、目的は何だったのか不明だ。FT記事では放出体には「明瞭な標的がなく、南シナ海に落下した」とある。

 

そうなるとFTが報じたテストが本当に初めての実験だったのか疑問が生まれる。あるいは初めて実施が確認されただけなのかもしれない。7月27日テスト後に8月13日にもテストがあったが、その際にもペイロード放出があったかは不明だ。

 

中国側からはFT記事が混乱を招いた、あくまでも平和利用が目的の再利用可能宇宙機を武装装備と取り間違えているとの発言が出ているが、The War Zonはこれを一蹴している。

 

ただし、最新の情報では何らかの再利用可能宇宙機にペイロード運搬能力をつけた者との可能性が浮上しており、米空軍のX-20ダイナソアの爆撃機型に似たものかもしれない。X-20はボーイングが1960年代に開発していたい。この可能性を支持する核政策専門家が出ている。

 

NASA

 

別の可能性としてICBMと同様に大気圏内の飛翔中に再突入体を放出したのか。そうならば、飛翔中二か所以上の標的を狙う機能となる。さらに別の可能性は、飛翔の最終段階の低高度でペイロードを放出したことがある。極超音速滑空飛翔体あるいは宇宙機が速力制御能力を付与されれば、ある程度の自由度でペイロード放出できるかもしれない。

 

興味を引くのは、国防長官官房と米陸軍が何らかの母機から長時間滞空弾薬類を展開する技術を2019年以来模索していることだ。この場合の母機は弾道ミサイルの可能性が高く、極超音速飛翔中に行う。この事業にはVintage Racerの名称がついている。ただし、詳細情報や作動原理はほとんどわかっていない。陸軍は別個に今後登場する精密打撃ミサイル(PrSM)に滞空型弾薬類あるいは無人機多数を搭載する構想を検討している。中国の最新テストとVintage Racerでは構想内容には広い意味で類似点がみられるが、相互に関連があるのかについては語れない。

 

US ARMY

2019年の米陸軍説明資料に掲載されたPrSM弾道ミサイルによる滞空型弾薬類放出機能の構想図。

 

中国の7月27日テストの背景がなんであれ、中国の極超音速技術が浮上しており、DF-17がすでに供用開始されており、これも極超音速滑空技術を応用している。人民解放軍ロケット軍(PLARF)は多用な戦力の整備にとりくんでおり、ICBM部隊の拡充も急速に進んでいる。

CHINESE INTERNET

DF-17のモックアップが軍事パレードに登場した。DF-17ではDF-16B短距離弾道ミサイルをブースターとして利用する。写真では無動力極超音速滑空体が搭載されている。

 

極超音速兵器の進展について米国側が口にすることが増えており、米国装備の実験が失敗していることで中国の進展ぶりが目立つ格好となっている。

 

ハイテン大将はFOBS機能をもつ極超音速滑空体を「真っ先に投入される兵器」とし、「技術面で大きな意味があり、緊急性を痛感すべきだ」と述べた。

 

発言にある「真っ先に投入される」とは第一次攻撃用に最適化された兵器を指し、米中間の核バランスを崩す可能性がある。これまで核兵器への中国の姿勢は「最小限の抑止力」を旨とし、核兵器整備は比較的小規模だった。米側の予想では現在の200発程度が2030年に1,000発までに増えると見ている。

 

他方で9月に空軍長官フランク・ケンドールFrank Kendall も中国軍がFOBSに似た兵器開発に進んでいる可能性を空軍協会主催の航空宇宙サイバー会議の席上で発言している。「この形なら従来型のICBMの飛翔パターンは不要となる」「防衛体制やミサイル警戒態勢を出し抜くものとなる」

 

そうなると、極超音速兵器への防衛体制整備が一層必要になる。

 

米国の例ではトム・ドラガン海軍少将Rear Admiral Tom Drugga(イージス弾道ミサイル防衛事業主管)からSM-6ミサイルを「極超音速ミサイル防衛の中心装備」とし、グアム島にはSM-6による防衛体制が「絶対必要」だとした。グアムが中国ミサイルの攻撃の的になることは十分予想されており、ミサイル防衛庁(MDA)もこの度、レイセオンロッキード・マーティンノースロップ・グラマンの三社を選定し、滑空段階迎撃体Glide Phase Interceptor (GPI)の開発を急ぐこととした。極超音速滑空体が無動力で飛翔する中間段階での対処をねらう。

 

今年6月にMDAはアニメーションによる映像を発表しており、「多層防衛体制を次世代極超音速滑空飛翔体を想定して構築する」と説明していた。飛翔制御可能な極超音速飛翔体の迎撃対応は極めて困難な課題であり、迎撃チャンスは極めて限られる。現時点では有効な防衛体制は存在しない。

 

いろいろ複雑な面もあるが、限られた証拠ながら7月27日には何らかのペイロードが極超音速飛翔体から放出されたことを示しており、中国が画期的な技術の実用化をめざしていることがわかる。ただし、現時点では入手できる情報が少なく、実際のテスト内容や中国相手の戦略構図にどんな影響が生じるかを論じるのは時期尚早といわざるを得ない。■

 

China’s Hypersonic Mystery Weapon Released Its Own Payload And Nobody Knows Why

The mystery surrounding China's hypersonic vehicle test last summer has deepened after the craft reportedly launched its own projectile.

BY JOSEPH TREVITHICK THOMAS NEWDICK TYLER ROGOWAY NOVEMBER 22, 2021


https://www.thedrive.com/the-war-zone/43242/chinas-hypersonic-mystery-weapon-released-its-own-payload-and-nobody-knows-why