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2017年11月3日金曜日

エネルギー価格事情と地政学を結びつける新著「Windfall」


ここのところ原油価格はバレル当たり50ドル台前半で比較的安定しています。世界的な株価上昇の背景に原油価格の心配が必要がないのもあるのでしょう。ただし、いつまでも続かないからこそ、今がWindfall=絶好の好機と米国はとらえるのでしょうか。中東湾岸諸国さらにイランも再び影響力を強める時代がくるのでしょうか。あるいはそれまでに非石油文明が根付くのでしょうか。これからが見ものです。


How the New 'Energy' Affluence Strengthens the United States

エネルギー潤沢時代にあり米国の国力は強化される


November 2, 2017


  1. ドナルド・トランプ大統領はイランに対して制裁を発動させると先週発言して脅かした。イランはOPEC三番目の石油生産国で市場は迅速に反応した。中東で緊張が生まれるのか、外交政策とエネルギー市場の関連に関心が集まった。
  2. ハーヴァード大教授メーガン・オサリバン Meghan O’Sullivan の新著Windfallがこの点を真正面から取り上げ、米国が新たに手に入れたエネルギー自立から米国衰退論へ反論している。
  3. 外交政策をエネルギーの視点で研究する第一人者オサリバンは世界はエネルギー枯渇の恐怖からわずか数年でエネルギー潤沢状況に移行したと明らかにしている。新技術で原油は過剰生産となり、ここに天然ガスの過剰供給が加わる。水圧で岩盤を破砕するフラッキング技術のおかげで米国は今や世界最大の原油・天然ガス生産国だ。
  4. オサリバンの主張は新事態で混乱が生じたのではなくマーケット構造の変化で国力影響力の行使方法が変わった国が多数生まれたというものだ。エネルギー供給過剰でロシア、ヨーロッパ、中国、中東の政治状況が変わった。OPECの原油価格統制機能が揺らぎ、米国の敵ロシアが弱体化した。エネルギー過剰により伝統的な提携関係が逆転し、新しい協力関係のきざしも中国中心に出てきた。
  5. この本の真の価値はオサリバンが外交政策およびエネルギー市場を包括的に見る視点を加えた形でエネルギー問題を提示してくれたことだ。オサリバンはエネルギー地政学には外交政策だけ見ているのでは不十分との仮題を出発点としている。つまりエネルギー供給過剰の現状を外交政策の視点からだけで見るとあらたにエネルギーで自立した米国が中東から撤退するように見える。だが中東での進展の状況はこの仮説の反対なのだ。
  6. オサリバンが提供してくれる別の視点が必要だ。オサリバンの著作はホワイトハウス中枢での外交政策形成過程や国際交渉の経験に裏付けられている。外交政策とエネルギー市場を組み合わせてオサリバンは驚くべき視点もいくつか提供している。
  7. 常識と反するが、オサリバンはシェール革命が米国で進んでも中東の退潮にはつながらないとする。原油価格低下で中東は長期的に今より重要な原油生産地になるという。中東以外の各地で原油生産コストが上がるのでゆくゆく原油生産が商業的に成り立つのは湾岸だけになる。そうなると原油は中東に依存度を高めることになる。
  8. 世界のエネルギー資源に関する著作はたくさんあるが、エネルギーの現実を地政学とむすびつけた本はすくない。オサリバンのWindfallは実務家、政策決定者、研究者に必読書になった。外交政策・エネルギー政策の通念を改めさせる本であり、新エネルギー事情を米国がどう利用すべきかを示している。■
Juergen Braunstein is a research fellow at the Belfer Center’s Geopolitics of Energy Project, which is headed by Meghan O’Sullivan.
Image: The setting sun illuminates the sky behind wind turbines of a wind park near Neusiedl am See, December 22, 2014. REUTERS/Heinz-Peter Bade


興味をひかれる方はamazonで同書を入手されてはいかがでしょうか。

Windfall: How the New Energy Abundance Upends Global Politics and Strengthens America’s Power Hardcover – September 12, 2017


2014年11月24日月曜日

★米空軍:ジェット燃料転換で民生燃料の需給にも影響



あまり知られていませんでしたが、軍用ジェット燃料と言うスペックがあったのですね。今回の改革で民生仕様のジェット燃料が使えるようになったので、供給元も利用側(とくに空軍)もハッピーと言う話ですが、逆に言えばなぜ今までわざわざ微小添加物入りの軍用燃料があったのか不思議です。同じエンジンを軍民両方で使うケースはいままでもあったのにね。


US Air Force Completes Jet Fuel Conversion; Impacts Entire Jet Fuel Market

By JARED ANDERSONon November 19, 2014 at 12:26 PM

F-16 Flies Over New York City
米空軍がすべての基地施設の燃料対応を軍規格から民生用規格に切り替えた。これで、年間燃料支出を数百万ドル節約でき、空軍はこれまでより多くの燃料供給業者から調達が可能となった。

  1. DLA(国防兵站局)が今回切り替えに踏み切ったのは軍が作戦効率を上げて諸経費を削減する必要があったためだと業界筋がBreaking Energyに語っている。
  2. 「JP-8燃料生成が必要なくなるのがカギで、各精油所は民間規格の製品出荷を増やすことができます。また軍の需要に呼応する精油所が増えるので、DLAは供給先を増やして、購入価格を引き下げることができますね。不要となる精油所内の施設は別用途に使えます」
  3. 「また民間規格への切り替えでジェット燃料の調達が楽になる」と空軍大佐カーメン・ゴイエット Col. Carmen Goyette(空軍石油局司令官)が声明で発表した。「軍規格燃料は米国の年間233億ガロンの燃料生産のわずか7%にしか相当せず、これまで競争原理が働かなかった」
  4. 燃料添加物とは:航空燃料で燃焼効率をあげて、望ましくない効果を発生させないため、あるいは航空機の個別条件により添加物を加えることがある。ただしその量はPPM単位である。(シェルによる追加情報)
  5. この結果JP-8は供給網では別扱いとなり、単価が上がり、比較的少量の需要にもかかわらず補給上で別の扱いを受けていた。
  6. 「JP-8を精製し流通させようとすると専用貯蔵施設が必要で、供給業者にはこのため軍用燃料の取扱いを避ける動きが出ていた」とDLAのケビン・エイヘム Kevin Ahern (大量石油製品部長)は語る。「Jet A燃料に添加物を加えるものへ切り替わったことで、競争が発生し、価格は今後下がっていくでしょう」
  7. 米軍の中でも空軍が一番多く燃料を消費しており、その差は大きく開いており、空軍の燃料調達予算は各軍の中で最大規模だ。
jet graph1
2008年度から2014年度にかけてのエネルギー需要見込み(青:空軍、灰:海軍、緑:陸軍)Source: DOD Fiscal Year 2012 Operational Energy Annual Report
  1. JP-8を供給してきた各社は特別扱いを理由とした特別価格を維持できず、その差損を民間規格燃料をもっと多く販売することで相殺すると言われている。さらに民間でJet A需要が伸びても価格を押し上げる効果はないと見られている。その理由としてJP-8供給がJet Aに切り替わり、全体としての供給量が増えるからだという。
  2. JP8切り替え作業は2009年に米空軍の四基地で始まっており、この10月29日にライト・パターソン空軍基地(オハイオ州)で完了したが、予定の2017年を前倒ししたもの。
  3. 今回は軍を代表する形で空軍が動いたが、ジェット燃料市場全体に影響が出そうだ。
  4. 「軍規格燃料の生産が必要なくなれば、ジェット燃料市場全体がこれまでよりも効率よく動くことになりそうです」(上記専門家)■