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2021年1月10日日曜日

イスラエルの核兵器保有は公然の秘密。海中抑止力としてのミサイル潜水艦をイスラエルはこうして調達した。

 



スラエルは核兵器保有を公式に一度も認めていない。

 

非公式には同国は世界に核兵器保有国と認知されるのを望み、現実の脅威を前にした場合には核兵器使用もいとわないとする。イスラエルの核兵器保有数では80発から300発との推定がある。後者だと中国を抜く規模だ。

 イスラエル軍は当初は空中投下式核爆弾、ジェリコ弾道ミサイルを供用してきた。エジプト・シリア軍がイスラエルを攻撃した1973年のヨム・キッパー戦争ではイスラエルはF-4ファントム8機に核爆弾を搭載し、出撃体制を維持した。アラブ軍が前線突破すればカイロ、ダマスカスを核攻撃する計画だった。

 

 

 

 中東唯一の核保有国イスラエルはたえず敵の先制攻撃で核ミサイル、攻撃機が地上で撃破され、報復攻撃手段がなくなる事態を恐れてきた。現時点で先制攻撃能力を保有する敵対国はイラン、シリアに限られる。

 そこでイスラエルはイラク、シリア、イランのミサイル・核技術に強硬な対策をとり、空爆、妨害工作、暗殺まで実施してきた。加えて、第二次攻撃能力、つまり残存性の高い兵器体系を開発し、敵一次攻撃が効果を上げても一定の核報復能力を目指してきた。

 核保有国の大半は原子力弾道ミサイル潜水艦を供用し、数ヶ月潜航し、敵中枢を破壊する弾道ミサイルを発射する体制にある。

 だが原子力潜水艦にSLBMをそろえ整備するのはニュージャージー並の人口しかないイスラエルには耐え難い支出となるので、同国は負担可能な代替策を模索した。


 1991年の第一次湾岸戦争でアラブ諸国への弾道ミサイル技術、化学兵器の拡散でドイツ科学陣の関与が判明した。これでサダムフセインはイスラエルにスカッドミサイルで攻撃を加えた。実はイスラエルは1960年代初頭から工作員をドイツへ送り、アラブ陣営の依頼で働く兵器開発技術者の暗殺、拉致、爆殺を展開していた。

 ドイツ首相ヘルムート・コールはイスラエルが被った被害への補償構想を温めながら、冷戦終結で打撃を受けたドイツ造船業の救済策も狙っていた。ドイツの造船業HDWはディーゼル電気推進潜水艦209型の輸出を1970年代から開始し、世界で60隻近くが採用されている。

 コールは209型拡大版二隻の建造費全額を補助する提案をし、ドルフィン級と命名された。また三隻目でも50パーセント補助が1994年に実現した。ドルフィン級の潜航時排水量は1,900トン、全長57メートル、乗員35名で特殊部隊隊員を10名まで収容可能だ。三隻は1999年から2000年にINSドルフィン、レヴァイアサン、テクマ(「復興」)として就役した。


 ドルフィン級の兵装は533㍉DM2A4大型光ファイバー誘導式魚雷の発射管6門、ハーブーン対艦ミサイルに加え、650㍉の発射管があり、他の艦と際立つちがいになっている。これは特殊部隊隊員用で偵察、破壊工作ミッションに使う。

 ただしこの大型発射管に別の機能として潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)発射があり、核弾頭搭載も可能だ。

 米国は1990年代に潜水艦発射式トマホーク巡航ミサイルの供与を拒否しており、ミサイル技術規制枠組みで射程300キロ超の巡航ミサイルの提供ができないのが理由だった。


 そこでイスラエルは国内開発で対応した。2000年に米海軍はイスラエルのSLCM試射が930マイル先のインド洋標的へ到達するをレーダー探知した。このミサイルがポパイ−ターボだといわれ、200キロトン核弾頭を搭載する空中発射式巡航ミサイルを改良したものだ。ドルフィン級は2013年にシリアのラタキア港を通常兵器弾頭の巡航ミサイルで攻撃したとされる。

 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ政権はさらに三隻のドイツ建造潜水艦ドルフィン2級を調達した。2012年にダーシュピーゲル誌がドルフィン追加調達分の任務に核兵器運用があることをドイツ技術陣が承知していたと暴露し、社会は騒然となった。メルケル首相が売却を承認したのはネタニヤフにパレスチナへ宥和的態度を取らせるのと交換条件だった。イスラエルは二隻、ラハヴ(「ネプチューン」)、タニン(「クロコダイル」)をまず取得し、三隻目ダカールが加わる。

 ドルフィン2級は2,400トンの新鋭212型で大気非依存型推進技術を搭載し、速力は25ノットに伸びた。AIPで静粛な潜航が実現し、低速なら数週間の潜航が可能となった。

 これでステルス政海艦が実現しただけでなく、核抑止長期哨戒任務が可能となった。弾道ミサイル搭載AIP推進艦は中国の清級32型潜水艦が他にあるのみだ。


 ただし、TNIでおなじみのロバート・ファーレイはイスラエルの水中配備核抑止力に地形上の制約を指摘している。現時点で想定する標的はイランのみだが、イスラエルから距離が離れている。イスラエル潜水艦が配備されているハイファからテヘランはイスラエル艦の有効射程930マイルぎりぎりで、巡航ミサイルはシリア、イラク上空を1時間飛翔する必要があり、航法と残存性で課題が残るという。

 ペルシア湾からなら近くなるが、スエズ運河(エジプト管理下)を通過する、アフリカを周回航海する(ドルフィン級では実質的不可能)あるいはイスラエル南端でアカバ湾にのぞむエイラート海軍基地に配備する(エジプト、ジョーダン、サウジアラビアに囲まれる)選択肢を迫られる。端的に言えばイスラエル潜水艦をイラン南方に配備するには中東他国の協力、支援が必要で、危機シナリオでは実現がむずかしい。


 イスラエルの核搭載SLCMより他の核兵器運搬手段の実用性が高いというファーレイの指摘は正しいのだろう。現時点でイスラエルは核兵器を保有する敵国に対峙していないが、第二次攻撃能力の点では海中発射式核兵器は純粋な軍事効果よりも政治的な兵器といったほうが正しいのかもしれない。■

 

と、2018年初出のこの記事はまとめていますが、2020年末にイスラエル潜水艦がホルムズ海峡を通過しペルシア湾に初めて進出しています。この際はエジプトが承認しており、状況は今や大きく変わり、イスラエルの抑止力はイランに照準をあわせています。例によってこの記事は以下を再構成したものです。

 

Known Secret: Why Israel Operates Nuclear Submarines

January 9, 2021  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarIsrael

by Sebastien Roblin

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. This first appeared in 2018.

Image: Reuters. 


2017年11月20日月曜日

イスラエル潜水艦が核抑止力任務を担うのは公然の秘密


周辺国に深刻な対潜水艦能力がないためイスラエルは護衛をつけず比較的安全に潜水艦を運用しているのでしょうか。それにしても巡航ミサイルでは速度、距離、脆弱性といずれも弾道ミサイルより劣りますが、イランの現状を考えるとこれで十分という判断かもしれません。ただいつまでも同じ状況と思えず、本格的な弾道ミサイル潜水艦の取得に走らないとは思えません。


Israel Is a Military Superpower for One Simple Reason: 'Underwater' Nuclear Weapons

イスラエルが第一級軍事力を保有している国と見られる理由は「水中」核兵器の運用だ

October 27, 2017

イスラエル潜水艦部隊は小規模だが公然たる秘密がになってい核兵器搭載だ。ドルフィン級潜水艦5隻はイスラエルの安全保障で究極保証の奥の手だ。核攻撃を受ければイスラエルは核で反撃する。
  1. イスラエル初の核兵器は1970年代初頭に完成し、自由落下式爆弾とジェリコ弾道ミサイルが整備された。1991年の湾岸戦争でイラクのスカッド、アル・フセイン両弾道ミサイルがイスラエル都市部に落下し、イスラエルも空、陸、海配備の核兵器三本柱整備で核抑止力の必要性を痛感した。
  2. 残存性が一番高いのが海洋配備で、潜水艦に核兵器を配備する。潜水艦は数週間、数か月極秘の哨戒につき、発射命令を待つ。いわゆる「二次攻撃力」となり報復攻撃があると分かれば敵国も攻撃前に一度考え込ませる効果を生む。
  3. 湾岸戦争前に潜水艦三隻の建造が認可されていた。ただし建造当初から核兵器搭載が考慮されていたか不明だ。建造はドイツで、ドイツの財政負担で建造が始まった。ドイツは二隻の建造費支援を行い、三隻目ではドイツ自身の非拡散政策の不備でイラクが核・化学兵器開発を行ったことを反省し費用を折半した。
  4. 三隻はドルフィン、レバイアサン、テクマと命名され1990年代に建造されたが、就役は1999年から2000年になった。各艦は全長187フィート(57メートル)、1,720トン(潜航時)で実用潜航深度は1,148フィート(350メートル)だ。センサーにはSTNアトラスエレクトロニクCUS-90-1主ソナー、DBSQS-21Dアクティブソナー、AN 5039A1パッシブソナーを備える。PRS-3-15パッシブ測距ソナーとFAS-3-1パッシブ艦側アレイも搭載する。
  5. 魚雷発射管は計10本で、艦首に533ミリ標準発射管x6と650ミリ大型発射管x4を持つ。またダイバー用チェンバーもあるといわれる。武装はドイツ、米国、イスラエル製混成でシーヘイク大型有線誘導式魚雷、ハーブーン対艦ミサイルを搭載する。権威あるCombat Fleets of the Worldではドルフィン級はトライトン光ファイバー誘導兵器も搭載していると解説しており、有効半径9マイル以内ならヘリコプター、水上艦、沿岸地上目標を攻撃できる。
  6. 大型発射管4本が抑止力に重要だ。大型管から機雷敷設やダイバーの発進回収の他に核巡航ミサイル発射が可能で米海軍が2000年にスリランカ沿岸からミサイルが発射され推定932マイル(1,500キロ)飛翔したと確認している。これと合致するのが改良型ポップアイミサイルである。
  7. ポップアイは空中発射式対地攻撃ミサイルとして1980年代に開発され当初はテレビカメラや赤外線シーカーで750ポンド弾頭を45マイル(72キロ)運ぶ性能だった。米空軍が154発を購入しAGM-142ラプターの名称でB-52爆撃機に搭載した。イスラエルの核抑止力ではポップアイを改装した巡航ミサイルが大きな役割を果たしていると思われる。ポップアイターボと呼ばれターボファンエンジン換装で長距離飛翔を実現した。
  8. あるいはゲイブリエル対艦ミサイルを核弾頭対応にしているかもしれない。ハープーンを核改装したとの報道もある。真偽も核弾頭の規模も不明だが推定200キロトン程度と言われ広島型原爆の14倍だ。
  9. 射程932マイルならシリア沖合から発射してイランの首都テヘラン、聖都コムや北方のタブリズが射程に入る。イスラエルが二次攻撃力整備に走るのはイランの核兵器開発が動機である。シリアは理想的な発射位置ではないが、ミサイルの初発射から17年も経過しており、有効射程が延長されていてもおかしくなく、イランの他都市も攻撃範囲に入れているだろう。
  10. 三隻あれば常時一隻を核抑止力とできる。ドルフィン級は魚雷ミサイル16本まで搭載できるといわれるが核抑止力が主要任務なら半分を核兵器にできるはずだ。その結果、常時テヘランはイスラエル潜水艦の標的となっている。
  11. ドルフィン級第二段はドルフィンII級と呼ばれ2000年代中期に発注された。先代と同じ外観だが大気非依存式推進(AIP)が特徴だ。Der SpiegelによればドルフィンII級は最長18日間潜水できるという。ドルフィンII級は排水量が2割ほど増加し、ダイバー専用のチェンバーも搭載している。
  12. ドイツ政府がさらに三隻のドルフィン級建造を認可した。新型艦は第一世代3隻の老朽化に対応するもので、イスラエルは常時6隻を配備できることになる。イスラエルの海洋配備核抑止力は当面安泰と言えよう。
Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.
Image: Creative Commons.