この記事は日本含む「連合国」の視点ですが、見方を変えると包囲され封鎖される中国にとっては不安で仕方ないでしょうね。F-35Bを各国が供用すれば大きな効果が生まれそうですね。日本についてはいずも級で知見を積んで更に大型艦の建造に進むのか、注目です。
F-35Bは短距離離陸垂直着陸(STOVL) 性能を有する第5世代共用打撃戦闘機(JSF)だ。B型はF-35AやC型と異なり、リフトファンと推力偏向エンジンで短い滑走路で離陸し、垂直着陸できる。このため小型空母や強襲揚陸艦でも運用できる。
JSFは大量配備の第5世代戦闘機として世界唯一の存在だ。第5世代機は敵機を先に探知しながら敵に探知されない点で従来型機材と一線を画し、大幅な戦力増強が期待できる。敵を目隠しして戦うようなものだ。
第5世代機の戦力と柔軟性を組み合わせ連合国側の航空戦力運用艦船数は三倍となる。ここから中国への海軍戦力の優位性が生まれる。F-35Bは当初AV-8Bハリヤー後継機として近接航空支援用と見られていたが、同機の性能は底にとどまらず、航空、海洋両面で優勢確保に投入してこそ真価を発揮できる。
ステルス性能、長距離センサー性能に加えレイセオンのAIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを機内搭載し世界最高の制空戦闘機となる。ただし、F-22には劣る。共用打撃ミサイル(JSM)、ロッキードの長距離対艦ミサイル(LRASM)がF-35Bに長距離対水上艦、対地攻撃能力を付与する。JSMは機内兵装庫に搭載可能でステルスを犠牲にしない。
AN/APG 81は戦闘機搭載レーダーとして最高性能で、電子スキャンアレイで海上捜索から空中での敵機捜索まで各種用途に使える。ソフトウェアの継続改良で能力拡張する。高高度でF-35のセンサーは水平線超え探知が可能で、水上艦を上回る探知距離が実現する。長距離攻撃手段と長距離を見通す目が組み合わされF-35Bは敵より先に探知し撃破できる。
米国の原子力空母ニミッツ級10隻はカタパルト発進と拘束ワイヤー着艦対応のF-35Cを運用する。各艦は圧倒的戦力を有する。ただし原子力空母部隊の整備には巨額予算が必要で、米国以外の各国では実現が困難だ。この敷居をF-35Bが下げ第5世代機の艦艇搭載を実現できる。
米海軍にも通常型の強襲揚陸艦9隻があり、STOVL戦闘機運用が可能だ。原子力空母の半分の大きさしかなく、航空戦に特化していないが、各艦で米海軍戦力を大幅増強できる。F-35Bは2015年に初期作戦能力を獲得し、米海軍は第5世代機運用空母が10隻から19隻へ倍増できることを理解できた。
各国の合計11隻の海軍艦艇で第5世代戦闘機運用が可能となる。下にSTOVL運用艦のリストを示す。
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日本* 2
イタリア* 1 (さらに建造中1)
スペイン 1
オーストラリア** 2
韓国 1(さらに海上公試中1)
* F-35B引き渡しが始まっている、あるいは発注中
** F-35B運用に艦艇改修が必要
F-35B運用艦の実現は困難でなく、シンガポールでさえ導入を検討中だ。同国はF-35B十数機の導入を発表し、STOVL空母の国内建造もしたいとする。人口五百万の都市国家でも実施可能ということは同機導入で戦力整備の様相が一変することを意味する。
ここには中国が発足させたばかりの空母部隊が影響を与えている。中国は中型空母二隻を運用するが、発艦方式、機関ともに最低水準だ。
米国の大型空母と違い、中国空母にはカタパルトがない。第4世代のJ-15艦載戦闘機は短距離離陸性能がなく、アフターバーナーをフル稼働させランプから離陸する。このためペイロードと航続距離が制約され、F-35Bの戦闘半径より相当短い距離しか対応できない。中国空母は複雑かつ面倒で低効率の石油燃焼ボイラーを使うため航続距離に制限がつきながら、人員多数を投入する非効率な運用となっている。こうして中国艦は低性能なのに高価格の空母になっている。これでは連合国側の第5世代機運用艦隊に対抗すべくもない。中国が連合国側の空母搭載機に対峙すれば、機体の作戦距離、速力、センサー性能で一方的な戦いになるだろう。
また連合国側のSTOVL運用艦の新鋭推進方式は長期間稼働しながら整備や大修理は最小で収まる。中国艦は連合国側の3割4割の稼働しかできない。この差により米国や同盟国側は中国経済の存続を否定する戦力を今後も維持できる。
中国経済にはペルシア湾からのエナジー、アフリカの資源、欧州米国の輸出市場が不可欠だ。とくにペルシア湾のエナジーがなければ中国経済は数週間で崩壊する。有事の海上輸送を確保するため、中国海軍は西太平洋、インド洋双方で支配権の確立が必要だ。この任務達成はかなり困難で、連合国艦艇の一部が出動するだけで不可能になりかねない。
ヨーロッパ艦艇5隻がインド洋にローテーション配備され、ディエゴ・ガルシアやペルシア湾の基地が支援すれば、創設から日が浅い中国外洋部隊に手に余る存在となる。ヨーロッパ各国が艦艇派遣しなくてもニミッツ級空母打撃群単独で同じ効果を生む。他方で東アジア4カ国のF-35B運用艦が東シナ海への侵入経路を封鎖すれば中国で最重要の海上交通路が打撃を受ける。さらにオーストラリアの二艦でマラッカ海峡の海上交通を遮断する。こうした作戦は南シナ海や中国の沿海部に進入せず中国の戦術機の挑戦を受けずに達成できる。
各国SVOTL艦艇の2割だけ出動しても中国海軍へ対応は可能で、太平洋から紅海に至る中国海運を寸断すれば同国経済は崩壊する。
F-35開発テストの進捗がなかなか完了しないことで複雑な機構のSTOVL型機にこれだけの時間と費用をかける価値があるのか疑う向きもある。ただし、同機でしか得られない効果を考えると連合国側のSTOVL運用艦で10機といわず30機あるいはそれ以上を搭載すれば真価を実証するはずだ。■
この記事は以下を再構成したものです。
Merrick "Mac" Carey is a former senior Capitol Hill aide who is now CEO of the Lexington Institute, a public policy think tank in Arlington, Virginia.