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2021年4月6日火曜日

注目の進展、中国とイランの戦略合意成立はどんな意味があるのか。計算高い両国のこと、思惑がそのまま実現するとは思えず、イランは核合意体制の再開を狙っているはず。

 


今回の合意により、米国主導の経済制裁から脱する機会が長期的にイランに生まれるはずだ。

 

  1. 中国とイランが戦略枠組み合意を調印し、25年の有効期間を想定している。一部観測筋にはこれで中東の構図が一変し、中国は米国に対抗し中東に足場を確保したとの見方がある。また、今回の合意によりイランはバイデン政権への立場を強め、核合意体制再開に展望が開けたとの見方もある。合意により長期的にみて、イランは経済、戦略両面で同国ににらみを利かす米国など各国の狙いから自由になり、そのため中東地区でのイラン影響力を抑え込むもくろみが効果を減ずることになりそうだ。

  2. 今回の合意内容は2016年から検討が進んでいたが、調印が遅れたのはイラン側に米イラン関係への悪影響とともにイラン核合意体制JCPOAにも影響が出て、制裁措置の解除が遠のくとの懸念があったためだ。ドナルド・トランプ前大統領が核合意体制から脱退し、以前より厳しい制裁措置を実行したが、バイデン政権も核合意体制復帰に躊躇し、あらたな経済戦略措置の選択肢が必要との機運が高まっている。

  3. 中国イラン合意の詳細内容は非公表だが、ニューヨークタイムズが昨年入手した18ページ草案と大きな違いはないと見られる。25年間にわたり中国が4,000億ドルを、金融、通信、港湾、鉄道、医療、情報技術等の各分野に投入する。見返りにイラン原油を大幅割引価格で輸入すると草案にあった。さらに、ニューヨークタイムズが正しければ、草案には軍事協力の拡大、兵装開発、情報共有の推進も盛り込まれている。

  4. これだけ大規模の願望が今後25年間にわたり実行に移されるかが注目される。というのは、中国イラン両国は複雑な対外圧力の影響をまぬがれることができないためである。中国にとって今回の合意事項は一帯一路の一環としてイランを同構想に組み込むことを意味する。また米国の独壇場とされる分野に食い込むことを躊躇しないとのメッセージを米国に対し中国は示せる。

  5. イランの観点では、米国による経済戦略包囲網から脱する効果が期待できる。ことにイラン米国間で核合意体制再開をめぐり微妙な駆け引きが続く中、どちらが先に妥協の姿勢を見せるか静視する状態なので今回の合意に意味が出てくる。米国の主張はイランがまずJCPOAで定めた核開発停止を実行すべきで、しかる後に米国は制裁措置の解除に踏み切る、というものだ。だが米議会内外に高まる圧力でバイデン政権は最初の一歩を踏み出すことが難しくなっている。イランは中国との戦略合意により対米交渉力が高まったとみており、経済・戦略面の選択肢が広がり、欧米の善意に頼る代償として現体制の存続を犠牲にしなくてもよくなったと見ている。

  6. ただし、中イラン関係がそのまま拡大する前には大きな制約が存在する。戦略問題特にインド太平洋地区をめぐり米国と緊張が高まる中で、中国は米国との経済関係で動きがとれなくなっており、経済権益を考慮すればイラン支援が全面的に行えなくなる場合も想定される。さらに中国は中東地区で米国と真正面から対立することに積極的になれない。対立が世界規模に拡大しかねず、とくに南シナ海問題への波及を恐れるからだ。さらに中国には湾岸地区で死活的経済権益がある。イランの敵対勢力のサウジアラビア及びアラブ首長国連邦は中国向け原油の大手供給国であり、中国としてはイランとの関係構築で大切な両国との関係を損ないたくないとの計算もある。今回の戦略合意調印式でテヘランを訪問した王偉外相がリヤド、アブダビにも足を伸ばしている事実に注目すべきだ。

  7. 最後に、イランはJCPOA再開により欧米諸国による経済制裁の解除を願望している。その後、各国と経済関係を樹立し、特に貿易、直接投資、技術移転を進め自国の経済再建を狙うからだ。中国資金の流入は長期的には石油収入減少につながり、西側との良好な関係による想定効果を犠牲にしてよいものではない。

  8. 中国、イランは二国間関係の強化で米国へ対抗をめざす。だが、こうした目論見には制約がついてまわり、長期にわたる戦略関係の実現は容易ではない。とはいえ、有効な結果を生むことは長期には可能であり、協力パターンの定着もあり得る。このためワシントンも今回の中国イラン合意内容を精査し、核合意体制から脱退した事実を改めて認識し、遅延なくまた無条件にJCPOAに復帰すべきである。■

 

The New China Challenge: A Game-Changing Strategic Agreement with Iran

April 3, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Tags: IranChinaTradeSanctionsForeign Policy

by Mohammed Ayoob

 

Mohammed Ayoob is University Distinguished Professor Emeritus of International Relations, Michigan State University, and a senior fellow for the Center for Global Policy. His books include The Many Faces of Political Islam and, most recently, Will the Middle East Implode and editor of Assessing the War on Terror.


2020年5月24日日曜日

パンデミック後のPRC⑤ 中国は超大国の座につく試験に不合格

日本国内では緊急事態宣言の解除、営業自粛の撤廃など身近な問題に議論の焦点があるようですが、全く異なる地図になった世界情勢には関心を払う余裕がないようです。こういう事態だからこそ余裕ある向きには未来を設計する能力を発揮してもらいたいものです。

世紀にわたり驚異的成長を達成してきた中国は超大国へあと一歩に近づいていたが、コロナウィルスの犠牲になったようだ。パンデミックは中国に責任ある超大国の姿を示す絶好の機会のはずだったが、目論見は未達成に終わった。
世界がコロナウィルス危機発生前より強い敵意を示すのに中国は気づいている。原因の多くは中国自身にあり、対策の誤りや初期段階で情報を抑制し、他国に責任転嫁し、影響力を誇示するような稚拙な対応も一因だ。▶昨年12月初旬にウィルスは把握されていたようだが、中国官憲は新型ウィルスを話題にした医師団を処分し、標本は破棄させた。▶発症の中心地武漢に厳しい移動制限を課した時点で百万単位の住民がすでに移動していた。

中国は全面的プロパガンダ工作を開始し、自らの過ちを隠し無責任対応から目をそらせるべく、米国が発信元だと世界に告げてしまった。▶世界は中国が無実と信じず、逆に米国は対応を硬化し中国は敵対勢力だとの確信を深めた。中国の大失態やその後のプロパガンダ工作は米国でもまれな超党派合意を生んだ。▶共和民主両党は中国には強硬な態度で臨むしかないと理解し、中国当局は信頼できず、パンデミックは中国に責任があると共通認識に至った。ハード、ソフト両面で大幅な余力がある米国は独裁的な敵勢力に極めて危険な存在だ。


米国外に目を転じると、中国は自国イメージ改善を試みたものの失敗している。ヨーロッパでは中国提供の医療物資で不良品が多数見つかった。オランダはマスク数十万点を受取り拒否した。スペインも検査キットで不良品が相次ぎ返品している。

中国人主人公が米国傭兵を撃破する人気映画にあやかり中国の積極的外交姿勢は「戦狼」と呼ばれるが、対外関係で裏目に出ている。オーストラリアがウィルスの発生原因を尋ねたところ、中国国営メディアはオーストラリアは「中国という靴の底に張り付いたガム」と表現した。オーストラリアが中国との通商関係を悪化させようとしており、「オーストラリア産ワインやビーフはもういらない」とまで駐オーストラリア中国大使に発言させた。これでは戦狼というよりマフィア流の外交ではないか。

中国は米国と親密な協力国の怒りを買ってしまった。ドイツ紙ビルドが中国に賠償金数百億ドルを求め、ベルリンの中国大使館はドイツ国民から白い目で見られる存在になっている。フランスでは中国外交官が同国では介護施設で高齢者を意図的に死亡させていると批判しフランス当局が譴責処分を与えた。

中国国内で外国排斥の動きが高まりアフリカ諸国との関係で悪影響が出ている。広州でパンデミック最中にアフリカ国民排除の声が高まった。アフリカ各国の関係者が警戒の声を上げている。

外交面では中国は世界の大勢と反する動きで悪い結果を生んできた。中国最大の情報機関で習近平の直轄機関といわれる国家保安省とつながる中国シンクタンクの報告書では反中国感情は1989年の天安門事件並のまで高まっていると指摘している。

トラブルは外交面にとどまらない。経済は50年で初の縮小となり、2020年第1四半期は6.8%減少に終わった。小売販売と工業出荷はともに大きく前年比で縮小し、失業率が上昇中だ。経済刺激策があっても今年の経済成長はよくて低調といったところだろう。

低成長が政治安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。中国共産党の統治モデルは経済拡大と生活水準の安定的向上で正当性を維持することにある。経済悪化で国内不満が高まれば、兵力投射も成約を受けかねない。

パンデミックが数ヶ月経過する中で、中国は自国のソフトパワーが減退し、経済が悪化しながら世界が非友好的になってきたのを自覚している。端的に言えば、中国は指導的立場につく試験に不合格となり、超大国の地位を目指す動きも頓挫したのである。

外交では不合格となったが次の課題は中国経済の回復が米国・米国の同盟国より先行し、世界経済を牽引できる強さを示せるかだ。だが世界経済の回復を牽引するため海外で指導力の発揮が必要だが、中国は準備不足を露呈している。■

この記事は以下を再構成したものです。

May 23, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Buzz  Tags: CoronavirusChinaEconomic GrowthPandemic

Jeffrey Cimmino is a program assistant in the Global Strategy Initiative in the Scowcroft Center for Strategy and Security at the Atlantic Council. His writing has appeared in the National Interest, National Review, the Washington Free Beacon, the Washington Examiner, Spectator USA, and other publications.
Image: Reuters.