2021年2月22日月曜日

米陸軍演習地でT-84戦車が運用されている。ウクライナから入手したのか。だが、いつ、どうやって

 

 

 

クライナのT-84主力戦車(MBT)一両がアリゾナ州ユマ実証場で運用されているが、目的は不明だ。同装備への対応訓練かもしれない。ソ連製T-80MBT派生型である同型戦車が米国内演習地で試験、訓練に投入される様子は以前も目撃されている。

 

米軍はウクライナから同型戦車4両を取得し、以後米陸軍アバディーン試験施設(メリーランド州)でテストしている。ユマに持ち込んだのはT-80UDを改修したT-84との報道がある。

 

 

昨春に流布された写真(上)では同戦車にドロッズ・アクティブ防御システムが搭載されているのがわかる。この車両はユマ演習地の教師装備標的シミュレーション場でその他ソ連、ロシア製戦闘車両に加わってた。ユマに海外製車両が登場し米軍部隊の訓練に供されるのはごく普通のことだが、今回はウクライナ軍が同戦車をテスト・訓練用に提供したようだ。

 

くりかえすが、T-84の原型は1980年代のT-80UDだ。ソ連崩壊後の1990年代にウクライナとパキスタンがT-80UD改良の契約を獲得したが、ソ連時代の軍事産業企業が旧共和国数カ国に分散したたため実施は困難を極めた。このため、ウクライナは国内生産に切り替えることとし、1995年にT-84が実現した。

 

 

新制式名T-84となった同戦車にはT-80、T-80UDから各種の改良が施されているが、資金難のためウクライナは自国用途には大量採用できず、一部には6ないし10両しか軍に納入されていないという筋もある。このため、ウクライナ製T-84の高性能ぶりを認識しつつ、T-64のような旧型戦車の修理、改修に集中した。

 

T-84の兵装はT-80UD同様の125ミリ平滑砲で自動装填式となっている。また9K119M対戦車誘導ミサイルも搭載している。その他兵装には同軸7.62ミリ機関銃、砲塔に12.7ミリ重機関銃を各1門装備する。

 

動力減は6TD-2ターボチャージ・ディーゼルエンジンで1,200馬力を出す。装甲も良好で、全溶接式の砲塔には爆発式反応装甲ブロックをつけ、シュトラ-1対抗装置による防御機能もある。

 

これだけの性能の同戦車がごく少量しか供用されていないのは車両価格のためだが、疑問は米国が一体どうやって入手してユマに投入しているのかだ。ウクライナはタイへ輸出実績があるがこれも少数となりコストダウンが実現できなかった。米国は一両を正価で購入した可能性がある。■

 

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Secret Is Out? Did a Ukrainian T-84 Arrive in Arizona For Testing?

February 9, 2021  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryTrainingUkraineTanksTechnology

by Peter Suciu

 

Peter Suciu is a Michigan-based writer who has contributed to more than four dozen magazines, newspapers and websites. He regularly writes about military small arms, and is the author of several books on military headgear including A Gallery of Military Headdress, which is available on Amazon.com.

Image: Reuters


2021年2月20日土曜日

B-1Bの退役が始まった。B-21導入のための措置で、ここ20年酷使された機体から退役させる。

  

 

The first of 17 B-1Bs to be retired by the USAF prepares to depart from its home station of Ellsworth AFB in South Dakota. The service fields 62 B-1Bs, meaning that 45 will remain operational once this initial divestment is complete (though four of the 17 will be stored in a reclaimable condition, should they be needed again). (US Air Force)

今回退役対象となった第一陣の最初の機体が配属先のサウスダコタ州エルスワースAFBを

出発した。(US Air Force)

 

空軍でロックウェルB-1Bランサー戦略爆撃機の削減が始まり、ノースロップ・グラマンB-21レイダーの導入に向けた準備が進んでいる。

-1Bの第一期退役機材17機が2月17日、配属先のエルスワース空軍基地(サウスダコタ州)を出発した。

米空軍は同型機合計62機を運用中なので、対象機の退役が完了すると45機の戦力となる。ただし、今回対象の17機中、4機は必要に応じ再復帰できる状態に保存される。

「長年活躍してきた同機を退役させるのはB-21レイダー運用を始めるため」とグローバル打撃軍団 (AFGSC)司令ティム・レイ大将が述べている。「ここ20年間酷使されてきたB-1で疲労摩耗が目立っており、原状復帰させようとすれば機体整備は各機数百万ドルにつく。しかもこれは判明している事象のみの対応だ。今後は退役を加速していく」

米空軍が認める通り、B-1はここ20年間連続して戦闘投入された影響が機体構造面で現れている。現時点でB-1Bの機体再整備には一機につき10-30百万ドルかかるとされるが、実施の場合、B-21導入段階と重なる。

今回対象となるのは機体寿命に余裕がない機材で、レイ大将は「B-1削減は近い将来の戦力増強につながる一歩」と強調している。■

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USAF begins B-1B retirements

19 FEBRUARY 2021 by Gareth Jennings


AFGSC paving way for B-21, begins retirement of B-1 aircraft

By Air Force Global Strike Command Public Affairs / Published February 17, 2021



E-4B後継機も747原型になる可能性が濃厚。ただし、新規製造機体の取得は困難なので中古機材でもよいとする米空軍。大統領専用機材は747-8iで装備品等のコスト削減も視野に入っている模様。

 

  •  

An E-4B Nightwatch aircraft.

USAF

 

 

空軍が実現を急ぐのがSAOCすなわち残存可能空中作戦センター機で、老朽化してきた現行E-4Bナイトウォッチの後継機をめざす。

 

NAOC国家空中作戦センターとも呼ばれるSAOCの仕様は極秘扱いだが、空軍は後継機もE-4Bとほぼ同サイズの四発機を想定する。

 

空軍ライフ・サイクル管理センター (AFLCMC)の大統領専用機局がSAOC事業も担当し、契約公告を2021年2月17日に発表した。「政府は引き続き、超大型機を利用してのウェポンシステムの調達戦略を完全かつ開かれた形で希求する」とある。

 

USAF

E-4Bナイトウォッチは国家空中作戦センターとも呼ばれる。

 

 

これに先立ち、企業から民間機改装によるSAOC提案を募集する告示が2020年12月にあった。空軍から具体的情報の開示はないままで、関連のシステム要求内容文書(SRD) は極秘扱いとなっている。

 

Aviation Weekの防衛記事編集者スティーブ・トリンブルが中古民間機の利用の可能性に昨年触れていた。現時点でトリンブルは「超大型機体」との規定を見てジャンボジェット原型案の実現可能性が非常に高いと見ている。

 

SAOCの要求内容に物理的な内容があり、必要なエンジン数も定めており、極めて厳格に管理されているのは驚くにあたらない。よく「審判の日の機材」と呼ばれるE-4Bは四機あり、堅固かつ残存性が高い機体として大統領に国家統帥権(NCA)の実現として核攻撃命令を下す手段となる。その他の軍事作戦でも指揮統制を行い、必要に応じ大規模自然災害でも機能するのが役割だ。

 

大統領がVC-25Aエアフォースワンで海外移動する際にはE-4Bの一機が随行することが多い。E-4Bは国防長官の外国出張にもよく利用されている。

 

4機あるE-4Bのうち3機はE-4A高性能空中指揮所(AACP)として1970年代中頃に供用開始し、1980年代にNAOC仕様に改造された。4機目はNAOCとして取得した。全機が747-200B型を原型とする。なお、2機あるVC-25Aも同様に747-200Bを改修した。

 

空軍が747原型とするSAOCの実現に傾いている兆候は別にある。2017年に米海軍とともにE-4B、E-6Bマーキュリー、C-32Aを共通機材で更新する構想が浮上していた。

 

E-6Bも戦略指令機で、核爆撃機部隊、弾道ミサイル潜水艦やICBM部隊への通信を維持するための代替手段となる。この任務を空軍はABNCP、海軍はTACAMOと呼称している。

USAF

An E-6B Mercury.

 

C-32Aはエアフォースツゥーと呼ばれ、大統領も条件により使用することがあるが、通常は副大統領が使用する。

 

TYLER ROGOWAY

A C-32A Air Force Two.

 

2019年に空軍はNAOC、高官専用機、ABNCP、TACAMOを合わせたNEATの実現を棚上げし、SAOCとしてE-4B後継機の実現に集中するとした。2020年に海軍は次期TACAMOにC-130Jを検討中と発表した。

 

C-32Aは双発のボーイング757が原型で、E-6Bはボーイング707を元にしている。各機材で要求性能が異なり、機材統合案は実現しなかった。

 

次期エアフォースワンVC-25Bの例にも通じるものがある。破綻したロシア航空会社向け747-8i旅客機を改装する決定もこうして下されたのだろう。

 

MATT HARTMAN/SHOREALONE FILMS

この747-8i がVC-25B へ改装される。

 

 

2016年に当選を決めたドナルド・トランプに空軍はVC-25Bが四発機である意義を説明していた。エンジン一基が作動しなくなった場合、双発機では「ただちに着陸」を迫られる、と説明資料にある。トランプへのエアフォースワン後継機調達構想について空軍の説明資料を情報の自由法に基づく情報公開で入手した。

USAF VIA FOIA

エアフォースワンについて空軍が2016年当選したばかりのドナルド・トランプに説明した資料の一部。大統領専用機にしかない要求内容として双発機ではなく四発機が必要とのくだりがある。

 

E-4Bでも空軍が同じ結論にたどり着いたのは想像に難くない。NEAT構想は続いていており、KC−46ペガサス給油機改装案もあったが、同機は双発のボーイング767が原型だ。 

 

次期大統領専用機VC-25Bで747-8i を改装することになったのもE-4B後継機構想に影響している。ナイトウォッチでは充実した通信装備に加え、核爆発で発生する電磁パルス対策等が施されており、新エアフォースワンの改装内容を応用すれば747-8i原型のSAOCで費用節減につながるはずだ。

 

さらに空軍が中古民間機もSAOCに転用可能と発表したのはボーイングから747生産は現時点で受注済みの機体を持って終了するとの発表があったことが大きい。そうなると、今後登場する747原型の空中指揮所機材は中古ジャンボを改装する可能性が高くなる。ボーイングが政府向け機材生産のため生産ライン閉鎖を先送りする選択肢もあるが、その可能性はどんどん小さくなっている。

 

空軍の求める「超大型機」では747以外の選択肢がない。トリンブルは「中古のエアバスA380は対象外」と断言している。エアバスは同機生産を今年をもって終了する予定で、製造機数は17年で300機未満だが、747なら各型合わせ1,500機をボーイングは製造している。A380のサポート基盤は遥かに小さい。また空軍がSAOCを外国製機材にして安全保障や政治面で問題を起こしたくないはずだ。

 

ロッキードから巨大輸送機C-5ギャラクシーの改装提案が出ているのに注目したい。同機も生産は終了しているが、E-6Bの後継機になる可能性がある。

 

無論、空軍がどの機材をSAOCに選択するかは未定だが、747原型案に傾く兆候があちこちに現れているのは事実だ。■

 

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Requirements For New Air Force Doomsday Planes Seem To Preclude Anything But 747s

BY JOSEPH TREVITHICK FEBRUARY 17, 2021


2021年2月19日金曜日

中国がY-20輸送機を空中給油機に改装し、量産開始した模様。空軍戦力の投射効果を増大させそうだ。中国空軍の実戦力不足を侮れなくなりそう。

 Overhead imagery of an airfield in Xi’an-Yanliang, China shows four Y-20s with the shadows of refueling pods on their outer wings, indicating these are Y-20U tankers. (Courtesy of Planet Labs)

西安閻良飛行場の衛星画像でY-20四機で主翼外側に給油ポッドの影が写っており、給油機仕様のY-20Uだとわかる。(Courtesy of Planet Labs)

 

星画像から西安Y-20輸送機を改造した空中給油機が量産開始していると判明した。空中給油能力の欠如が中国の弱点といわれてきた。

2020年12月30日撮影の衛星写真では西安閻良飛行施設で4機のY-20の主翼に給油ポッドの影が見られ、Y-20U給油機であることがわかる。Y-20Uは給油ポイント3箇所をY-20に装着し、両主翼のポッド、機体後部から給油をおこなう。

Overhead imagery of an airfield in Xi’an-Yanliang, China, taken Dec. 30, 2020. (Courtesy of Planet Labs)

西安閻良飛行場の衛星画像。2020年12月30日撮影。 (Courtesy of Planet Labs)

 

給油はホース・ドローグ方式で、被給油機がプローブをホース端に給油用バスケットに差し込み給油を受ける。

Y-20試作機は2018年初飛行しており、今回Y-20が4機揃ったことから試験飛行段階が完了し、量産段階に入っているとみられる。ただし、Y-20が専用給油機なのか輸送能力も同時に保持しているかは不明だ。

Y-20、Y-20Uともにエンジンはロシア製ソロヴィエフD-30KP-2ターボファンを搭載しているが、中国はY-20用にWS-20高バイパス比エンジンを開発中だが生産は2024年以降になるとみられる。

A Y-20 strategic transport plane takes flight Oct. 29, 2016, in Zhuhai, China. The Y-20 is China's first domestically developed heavy-lift transport aircraft. (Getty Images)

Y-20は中国国産開発の大型輸送機だ。(Getty Images)

 

衛星写真の4機中3機は暗灰色塗装が施され、残り1機は最終塗装がない。灰色塗色の1機は試作機あるいは試験機材で、3機は量産機材のようだ。

Y-20U4機も含め閻良飛行場にY−20が16機見られる。西安航空機XACが同飛行場に生産施設を保有している他、航空関連産業が集積している。

中国の空中給油能力強化の意味

人民解放軍空軍PLAAFは現在20機程度の給油機を運用中だが、大多数はH-6U・海軍仕様のH-6DUで西安H-6爆撃機が原型で、もとは1950年代のロシアのツボレフTu-16だ。

PLAAFはイリューシンIl-78MP給油機も3機ウクライナから調達したが、Il-76輸送機の給油機改装には手こずったようだ。

Il-78が少数でH-6の給油能力も限定付きのため、中国の空中給油能力は僅かと見られてきた。

ただし、Y-20U投入で空中給油能力の不足が解消されると、中国航空戦力を増大する効果を生み、兵力投射能力を拡大するはずである。■

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Satellite images suggest China's new tanker aircraft is under production

By: Mike Yeo   

 


2021年2月18日木曜日

変貌するレッドフラッグ演習----もはやドッグファイトの鍛錬だけではなく、キーワードはネットワーク化とデータ共有に。

 

 

 

ッドフラッグ演習で米空軍は近接航空支援、精密誘導爆弾投下、空対空ドッグファイト、偵察行動、敵防空体制の制圧を展開してきた。

 

近年のレッドフラッグ演習はさらに拡大し、サイバー、EW 、宇宙、航空地上間の相互作戦といった新たなドメインに加え、GPSが妨害された環境下での作戦等の課題もとりいれてきた。今年のレッドフラッグで上記すべてを実施することはないが、データ共有、戦闘ネットワーク化、センサー・攻撃手段の最適化などあらたな手法を試す。詳細は不明だが、兵装機材間のネットワーク化が重要となると考えて間違いない。

 

空軍発表によればレッドフラッグ21-1には全米20州および三カ国の人員2,400名、F-22、F-16、F-15E、A-10、KC-135以外にB-1、B-2の爆撃機も加わる。演習はハイテク大国間戦闘を再現し、敵役の「レッドチーム」が米空軍部隊に対抗する。空軍は「ネットワーク化」戦闘をあらゆるドメインで展開する重要性をレッドフラッグで強調する。

 

「レッドフラッグ21-1では全方面での国家安全保障を宇宙電子戦能力により支援し、サイバー攻撃で敵ネットワークを妨害し、データ伝達や機能を正常に行えなくします」(414戦闘訓練飛行隊ケイリー・テイラー大尉、非運動性兵力統合担当)Fighter Doesn't Have 


機材改良ではネットワーク化、通信機能、指揮統制を中心に航空機材、地上指揮所、無人機、宇宙誘導式兵装で進めている。さらに高度戦闘管理システムを爆撃機、無人機、戦闘機、地上情報収集装備に導入し、各機材を同時接続している。最近の実験で高度な監視ネットワーク機能によりセンサー情報取得から兵装発射までの時間短縮を実現し、榴弾砲で超高速弾を発射し飛来する巡航ミサイルの撃破に成功した。防空機能はあらたな次元に入ったといえる。

 

F−15、B−2、第5世代戦闘機間のネットワーク機能がさらに改良が続いており、各装備がつながると戦術面が一変しそうだ。各装備が結節点として各ドメインで活動すれば、標的情報等を即座に共有し、距離は関係なくなる。LINK 16利用等通信環境の改善でF-22とF-35で相互通信が実現すれば、F-35搭載のセンサーで迅速に敵を発見し、F-22で撃滅させることも可能となる。


F-15、B-2では処理能力を高めたコンピュータが導入されており、B-2では従来の1,000倍もの処理速度が可能なコンピュータに換装され、敵機探知センサー技術の向上結果も受けられるようになる。■

 

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Red Flag: How B-2 Bombers and F-22 Stealth Fighters Train for War


February 16, 2021  Topic: Red Flag  Blog Brand: The Buzz  Tags: Red FlagF-22F-16Networked WarfareMilitaryU.S. Militar

by Kris Osborn

 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Masters Degree in Comparative Literature from Columbia University


2021年2月15日月曜日

韓国の軽空母LPX-II建造計画の根拠は相変わらず理解不能だが、国民への宣伝工作を開始しており、説明努力だけは評価したい。

 何回読んでもよく意味がわからない説明ですが、国民の素朴な疑問を想定し、理由になっていない回答とはいえ必死に展開している姿勢は評価しておきます。原文をつくった関係者もさぞや苦しかったと思いますが。


2021年2月4日、韓国海軍はLPX-II軽空母構想を国民に知ってもらおうとセミナーを開催した。セミナーはYouTubeでも中継し、「国の安全保障の中核装備としての軽空母の必要性」をテーマとした。LPX-IIを様々な角度で描いたイラストも新たに公開し、「韓国版空母打撃群」整備のめざす機能等を示す解説画像も同時発表した。


韓国海軍のめざす空母打撃群の姿

ROK Navy's future carrier strike group

韓国が実現をめざすCSG予想図(上)で興味を引くのは構成だ。

  • LPX-II 軽空母

  • KSS III 潜水艦二隻

  • KDX III バッチII駆逐艦

  • KDDX 駆逐艦

  • KDX II 駆逐艦

  • ROKS Soyang 高速戦闘支援艦

航空兵力で以下機種の姿が描かれている:

  • P-8Aポセイドン哨戒機

  • F-35B STOVL機

  • AW159ワイルドキャットヘリコプター 

  • VTOL UAV


  • LPX-II建造費をめぐる紛糾 

韓国の国防省および国防装備調達局が同日に国防事業協議会を開催していた。議題はLPX-II建造のコンセンサスづくりだったが、建造費の天文学的規模をめぐり、意見の対立がまだ続いている。また、軽空母では中国の海軍力整備に対抗できないとの意見もある。

これに対し、韓国海軍は情報公開年と質疑応対により理解を求めようとしている。(下参照)


LPX-IIの大きさ

海軍計画局主任のJeong Seung-gyunによればLPX-IIは全長265メートル、全幅43メートルで基準排水量30千トン(満排水量は45千トン程度)で、フランス海軍のシャルル・ド・ゴールにせまる艦容となり、米海軍のアメリカ級に近い。


Kim Jae Yeop博士との一問一答

Kim Jae Yeop博士はパシフィックリム戦略研究所(PRINSS)の研究員で、Naval NewsはLPX-IIの最新動向について意見を求めた。

今回のセミナー開催の理由は何か。韓国世論は反対しているのか。

必ずしもそうではない。ただ状況が厳しいのは事実だ。まず、当初予算として10百万ドル近くが財務省により年末に拒否された。今年の予算案で韓国海軍が確保できたのは10万ドルにすぎない。今回のセミナー等に使っている。政界では、野党に加え与党にも国民の了解が得られていないとの声が国防委員会に強い。

LPX-IIは韓国海軍の運用方針に合致するのか。北朝鮮への抑止力は海軍の存在意義ではないと思うが。

建造計画の正当化として北朝鮮の脅威は説得力が弱い。韓国海軍は軽空母は陸上航空基地が北朝鮮弾道ミサイル攻撃を受けた際に代替運用手段となると説明している。だが、F-35Bがわずか十数機で、しかも空対地兵器は機内に搭載できない状態では抑止効果が限られる。

 そうではなく、周辺国の中国、日本の海軍力整備がLPX-II建造の理由として説得力がある。韓国が自力で海上通行路を守るべきという理由もある。この場合は近隣海域を超えた地点を想定する。朝鮮半島周辺で海上戦闘が発生すれば、空母より費用対効果の高い対応手段がすでにある。対艦ミサイルは陸上基地運用の機材や潜水艦から発射できる。

海軍装備の調達プロジェクト多数(KSS III、 KDX III Batch 2, KDDX, F-35B など)がある中で、LPX-IIの予算が捻出できるのか。

国防省はLPX-IIは導入可能と言っている。費用は20億ドル程度で今後10年かけ建造するのであり、いきなり実現するわけではない。だが、ご指摘の通り、韓国海軍には大規模調達事業がある。このため、財政面で国防省が言う安易な事態ではない。

 とはいえ、海軍は先に実現すべき事業をLPX-IIより優先すべきだ。軽空母の建造前に整備しないと戦略的価値を産めなくなるからだ。こうした装備がないままLPX-IIを建造しても意味がなく、予算ばかり食うことになり、脆弱な艦をさらすことになる。事業に批判的な向きがこれを懸念している。


二重艦橋構造

LPX-IIの最新版予想図では艦橋を2つとしており、国際協力を反映しているようだ。


海外提携先として英米政府、両国企業が建造に関与するといわれる。米国は強化飛行甲板技術をF-35B購入の見返りとして提供し、英国も技術支援をする。英政府とバブコックインターナショナル(英海軍空母クイーン・エリザベス級建造に参画)が積極的に関与しているといわれる。このため、最新のLPX-II予想図で艦橋がふたつの英海軍空母と類似している説明がつく。バブコックは韓国とKSS-III大型潜水艦事業ですでに関わっている。


LPX-II 事業とは

現代重工業(HHI)が2020年中に構想設計を完成する予定で、海軍編入を2030年代初頭と想定していた。艦設計は既存の独島級強襲揚陸艦(LPX-I事業)を原型としながら、ウェルデッキは採用せず、航空運用を中心に置くことで米海軍LHAと類似する。F-35Bを20機程度搭載できる。設計案は2020年12月30日に完了し、予算は2020年度から2024年度の中期防衛計画で計上することとした。


弾道ミサイル防衛(BMD)対応の多機能レーダー(MFR)が次期駆逐艦用に開発されており、LPX-IIにも搭載されるといわれる。韓国海軍が公表した解説画像ではLPX-IIに新型CIWS(開発中)、K-SAAM対空ミサイル、LIG Nex1製のSLQ-261K対魚雷音響対以降装置(TACM)も搭載するとある。


軽空母にはF-35Bに加え、韓国海兵隊の次期海上運用攻撃ヘリコプターを搭載するとあり、KAIがスリオンMAHを、ベルヘリコプターズがAH-1Z、ボーイングがAH−64アパッチをそれぞれ提案中。


LPX-II解説画像と Q&A

セミナーで韓国海軍は以下の解説画像を公開した。

The Republic of Korea’s

韓国海軍の空母の歴史が始まる!

有事になれば空母戦闘集団が必要だ

空母の役割とは

海軍、空軍、地上軍が統合部隊となる。

北朝鮮の挑発に呼応し、統合部隊は有事に攻勢をかけ、強力な軍事力を誇示する!

1-北朝鮮の挑発を打破史、有事には統合部隊として攻勢をかけ初期段階で勝利をおさめる

2-潜在的脅威国の軍事活動を予防し、海上主権と国益を有事の際に防御する。

3- 非軍事脅威から国民を守る。

4-外交を支援し国際平和の実現に貢献する。


軽空母でこれが大事

Q: 軽空母構想はいつはじまったの?

A: 1996年の大統領報告で軽空母の必要を訴えてから、一貫して推進してきました。国会が戦闘機搭載可能な艦により潜在脅威への対応を2012年の検討で求めています。統合参謀総長は空母建造の必要性を認め、事業の推進を2020年12月に決定しました。

Q: 韓国の国防予算で軽空母一隻とあわせ護衛部隊を整備、運営できるの?

A: 護衛部隊は大部分が完成しており、運用中あるいは中期防衛計画に盛り込まれていますので、予算は大して必要ではありません。軽空母の設計作業は次年度開始となり、2033年までに完成します。建造費は10年以上に渡り各年の防衛予算に計上します。

Q:韓国の防衛力は北朝鮮を上回るのに、軽空母がなぜ必要なの?

A: 戦闘が長期化すると人命の損失、国土の破壊、経済損失は多大になります。可能な限り短期間で戦勝を実現することが重要で損失を最小限にすることが肝要です。軽空母を発信する航空機は敵国の後方から重要標的を精密攻撃することで敵攻撃を分散させわが方の軍が短期で勝利する条件を実現します。

Q: 周辺国と海上戦闘となればどんな結果になるの?周辺国との海上戦闘の可能性はあるの?軽空母一隻で対応できるの?

A: 損害規模と脅威対象を抑え込む最小限の国防力の維持が必須です。軽空母は効果的かつ効率的に脅威可能性のある国の海軍力整備に対抗できます。

Q: 遠隔地で発生する問題には外交力や同盟関係を使う解決のほうが軍事力の行使より望ましいのでは?

A: 外交や同盟関係だけに頼る国家安全保障はありえません。外交関係はすぐ変化しますし、同盟国といえども国益がぶつかる場面があるからです。外交、同盟関係には力の裏付けが必要です。原油、原材料、食料を輸入に依存する韓国には海上交通路を守る能力が国内経済や国民の生活に不可欠です。

Q: 朝鮮半島自体が不沈空母との見方があるけど、それでも軽空母は必要なの?

A: 陸上の航空基地は大規模ミサイル攻撃を北朝鮮が実施すれば損傷は免れません。また開戦当初は陸上基地の航空運用には制限がついてまわります。戦闘機材を軽空母に搭載すれば、移動航空基地として敵ミサイル攻撃を生き残り、航空運用できます。

Q: 軽空母で運用する垂直離着陸機では後続距離、兵装搭載量が限定されるのでは?

A: たしかに空母搭載機の航続距離や兵装搭載量は陸上配備機より制約されますが、海上で再搭載、給油を受けられるので、各出撃の準備時間が短くなり、短い間隔で遠距離地点へ進出が可能となります。また遠隔地点でわが国益を守る任務が実施できるのは軽空母部隊です。

Q: 独島防衛に軽空母がなぜ必要なの?F-15KやF-35Aで対応できるでは。

A: 陸上基地から発進したF-15KやF-35Aでは独島上空に短時間しか留まれません。空中給油を受けても現地には長く留まれません。空母発進の戦闘機なら艦上で給油再装備を受けて迅速かつ高頻度でミッションを実施できます。

Q: 必要なのは70千トン級やもっと大型の空母じゃないの?30千トン空母では搭載機数が少ないでしょ。

A: 英、仏、伊の各国が中規模空母をそれぞれの国力を反映して運営しています。米国も軽空母6隻を整備する構想の実現に向かいます。

Q: 潜水艦やミサイルといった非対称戦力を整備するほうが高額な空母の建造より効率が高いのでは?

A: 非対称軍事力で脅威対象に対応するのは重要ですが、全方位安全保障能力を各種脅威をにらんで整備するのが望ましいのです。軽空母は統合部隊となり、北朝鮮を抑え込む以外に周辺国を対象の各種ミッションを実施したり、海上権益や国民を守り、同時に力の示威で強い抑止力効果を実現できます。


軽空母の実現を:

誰も軽視できない堅固な安全保障体制のため、

国、国民の新しい時代のミッションを

強力な国防と将来の平和のために。


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RoK Navy Issues New Images of LPX-II as it Tries to Gain Public Support for Aircraft Carrier Program - Page 2 of 2

Xavier Vavasseur  11 Feb 2021