2022年5月30日月曜日

キッシンジャー発言「ウクライナは領土割譲すべき」の真意を考える。

 


NY Times



イス・ダボスで開催された経済フォーラムで、キッシンジャーは重要な発言2点をした。一つは、平和条約を結ぶには、ウクライナはロシアに領土譲渡を覚悟すべきで、プーチン大統領の地位の維持が不可欠とキッシンジャーは述べた。また、「台湾を米中間の大きな問題にしてはならない」との発言は、米国が台湾を問題視しているのを示唆しており、筆者の推測だが、中国が台湾を奪取しても米国は対応すべきではないとキッシンジャーは考えているようだ。



 いずれも、敵対国に便宜を図ることがワシントンの利益になるとの考えだ。アメリカの最大の関心事は世界の安定であり、そのためには地域のパワーバランスを変えようとする国の利害を調整する必要があるとの主張だ。つまり、プーチンの政治的存続を含む旧ソ連の安定が、地域を安定させ、さらに、世界の安定を高めるというのだ。同様に、台湾を中国に譲り渡すことで西太平洋が安定し、世界の安定が高まるという考えだ。

 キッシンジャーは、リチャード・ニクソン大統領やジェラルド・フォード大統領への助言で、このような考えだった。ベトナム戦争では、戦争に勝つことではなく、中国やソ連との対立を避けることが目的とし、キッシンジャーは戦争に勝てないと正しく考えていた。そのために、勝ち目のない戦争でも米軍をベトナムに駐留させ、モスクワと北京にアメリカの決意の固さを感じさせ、同時に北を激爆撃し、アメリカに攻撃的な戦争をする意志があると示した。最終目標は、北ベトナムと同盟国に、アメリカがベトナムから撤退できる合意をさせ、それによりソ連との関係を安定させることにあった。柔軟性を保ちつつ、アメリカの意地を見せる。このようにして、戦争は延長され、敗戦もしたが、ロシアとのデタントという根本目標は達成できた。

 1970年代初頭の中国訪問には戦略的な見返りがあった。ソ連と中国は、ウスリー川沿いで戦闘を繰り広げた。ロシアは中国のロプノール核施設へ攻撃をねらい、中国は共産主義世界のリーダーの座をめぐりロシアに挑戦していた。キッシンジャーは、米中間の理解を求めるため中国に接近した。米国の戦略的懸念は、ソ連の西ヨーロッパ攻撃にあった。中国と手を組めば、二正面戦争の可能性がある。キッシンジャーは戦争に興味はなかったが、脅威はロシアに受け入れがたいリスクを生むことで危険を減らすことができ、逆説的だが共存合意に達し、戦争のリスクを減らし、グローバルシステムを安定させることができた。これが、現代中国の出現の下地にもなった。

 キッシンジャーの思考は複雑で、時には最終目標から遠ざかるように見えるが、彼はソ連の脅威、ひいては世界秩序への脅威という一点に焦点を絞っていた。ソ連はヨーロッパを脅かし、中国を脅かし、さらに核保有国だった。グローバル・システムに対する脅威はソ連だけと見なし、どんな代償を払ってもいいと考えていた。

 ソ連は、核戦争のリスクを受け入れる姿勢をとっていた。この姿勢をマントにして、ソ連を興奮させ、利害の薄い事柄にエネルギーを使わせたのだと思う。キッシンジャーは、繊細なだけに、目指す目的は非常に単純だった。ソ連との直接戦争を避け、ソ連に主導権を持たせることで、米国が対応し、それによってモスクワに自らの意志を示させることだった。キッシンジャーはソ連にこだわっていたので、ソ連がラテンアメリカを支援し始めると、アメリカはそれに応えた。ソ連は自分たちがキッシンジャーが考えるほど強力とは思っていなかったが、チリ、シリア、アンゴラで扇動した。

 ロシアのウクライナ攻撃へのキッシンジャーの対応も、これと同じ論理だ。彼は、イラクとシリアの紛争で、米国の意図についてロシア人を怯えさせられると見ている。ブレジネフ同様に、プーチンを柔軟性が欠けた人物で危険の少ない安定勢力と見ている。その意味で、ウクライナを防衛すれば、事態を悪化させるだけかもしれない。

 中国については、これと別の力学が働いた。キッシンジャーの最大の功績は、中国を開国させ、同盟国にしたことだ。キッシンジャーの頭の中では、これは融和により達成できたことになっているが、実際は中国が米国への恐怖心を失わなかったからだ。朝鮮戦争で米国が中国軍に大量の死傷者を出した後、毛沢東は米国を強力な国と見なし、米国は中国を同盟国と見なし、それぞれが取引に安堵して去って行ったのである。


 敵を過大評価し、最悪の事態に備えることは良い。しかし、誤算も過大となればチャンスを逃し、相手の動きに翻弄されてしまう。キッシンジャーは、英仏がドイツの強大さを理解できなかったことで犯したのと同じ過ちの繰り返しを恐れたのだろう。この考えが、ロシアや中国に領土を譲り渡す主張につながる。弱い立場の者こそ賢くなければならないし、当たり前のことには細心の注意で取り組まなければならない。世界の安定がかかっているのだ。筆者の考えでは、ロシアと中国は衰退する大国であり、米国は躍進する大国だ。ここで、敵に釘を刺せばよい。

 1970年代、ロシアへの筆者の恐怖は人一倍強かったと告白しておく。しかし、時とともに、彼らの軍隊を研究し、同国人と話すうちに、筆者はロシアを違う角度から見るようになった。かなり前のことだ。尊敬する人物を批判する権利は筆者にはない。しかし、キッシンジャーを間違っていると批判することは、無謀さとは違う。本人は、自分がしなければならないと思うゲームをしてきた。今もそれは変わらない。■


Why I Disagree With Henry Kissinger

Thoughts in and around geopolitics.

By George Friedman -May 27, 2022

https://geopoliticalfutures.com/why-i-disagree-with-henry-kissinger/?tpa=NmE3MWM3ODA4ZmRiMmU1MjU1YTFiMDE2NTQ3ODg5MjU5OTFkNDc



George Friedman

https://geopoliticalfutures.com/author/gfriedman


George Friedman is an internationally recognized geopolitical forecaster and strategist on international affairs and the founder and chairman of Geopolitical Futures.



2022年5月29日日曜日

クアッドの課題はインドとの相互運用能力だ。中国のグレーゾーン戦略に対抗すべく、海洋領域でのISR能力整備がカギとなる。

 

 

 

極安全保障対話(Quad)の各国首脳が東京に先週集結した。その後、ホワイトハウスは、日本、オーストラリア、インド、米国の4カ国が、インド洋太平洋を合わせた広大な地域で「海洋領域の認識」を強化する協力の意向と発表した。ホワイトハウスによれば、インド太平洋パートナーシップは、「太平洋諸島、東南アジア、インド洋地域のパートナーが自国の沿岸海域を完全監視する能力を変革し、ひいては自由で開かれたインド太平洋を維持する」ものとある。

 海洋領域認識とは、海に関する偵察、監視、諜報を意味する不格好な言葉だ。2005年、ジョージ・W・ブッシュ政権下の国土安全保障省は、「米国の安全保障、安全、経済、環境に影響を与える可能性のある、グローバルな海洋領域に関連するあらゆるものを効果的に理解すること」と定義した。これは「積極的かつ深層的な海上防衛の重要要素」であり、「実用的な情報とあわせ情報を収集、融合、分析、表示し、作戦指揮官に伝達する能力を向上させる」ことで強化される。

 クアッド構想は、情報機関が目前の問題を解決するため収集すべき情報を計画し、技術的・人的資源から生データを集め、データを処理・分析し有用な洞察を引き出し、結果を正しい利用者に伝え、戦略や作戦の立案・実行を支援する「情報サイクル」の海洋多国間版だ。そして、利用者は計画プロセスにフィードバックを提供し、次の段階を形成する。インテリジェンス・サイクルに終わりはない。

 海外パートナーを情報サイクルに活用することには意味がある。現在は緊迫した平和の時代であり、中国やロシアのような悪党が、武器を使わずに地政学的な利益をねらう時代だ。特に中国は「グレーゾーン作戦」が得意で、劣勢な周辺国をいじめ、不法行為を容認させる。南シナ海は中国のグレーゾーン戦略が最も顕著な場所になっており、沿岸国の排他的経済水域を含む海域の大部分を中国の領海としようとしている。中国共産党の大物が言うところの「青い国土」だ。しかし、中国共産党は陸上でも同じアプローチを展開し、クアッドパートナーのインドに被害を与えている。例えば、ここ数カ月、インド国境沿いの係争地に軍事・民生インフラを建設し、インド指導部に戦争の危険を冒して中国兵をその地から追い出す姿勢を迫った。現地で事実を作り上げ、他国を挑発する。中国のライバルが武力衝突の可能性にひるめば、中国の勝ちとなる。

 これは対抗が難しい戦略だ。しかし、クワッドの情報作戦は、侵略者による不法行為の抑止に役立ちそうだ。行為を探知し、国際的な非難を浴びせることで、北京やモスクワなど犯罪国家では得ることのない影響力を増幅させることができよう。また、海洋領域の認識により、クアッドは海上での不正行為に対してより強力に対応できる。結局のところ、現場がどこで、何が起きているのかがわからなければ、資産を現場に直行させられない。海軍の戦術家である故ウェイン・ヒューズ大佐Captain Wayne Hughesが、指揮統制や兵器の射程距離と並び、戦術的有効性を決定する3大要素の1つとして「スカウティング」(実質的には偵察と監視)を挙げているのも不思議ではない。目標を探知し、追跡し、把握する能力は極めて重要だ。

 ヒューズ大佐は有事の海戦について書いているが、同じ論理が平時の戦略的競争にも適用される。強気の海上外交は、平和的外交で事態を解決できない場合に、潜在的な軍事的オプションを各方面に認識させ、重要地点で優れた戦闘力を発揮する能力次第で効果が変わる。ヒューズの偵察・指揮統制の機能に情報サイクルを加えれば、インド太平洋の海空の抑止や強制機能に、クアッド加盟国が海軍や軍事力という大きな棒を振り回したり、クアッド非加盟のインド太平洋諸国へ自国の権利のため立ち上がれと鼓舞したりでき、質感も増す。そしてもちろん、海域領域認識の論理は、戦時作戦にも当てはまる。平時から有事まで、海洋領域で行うすべての基礎となる。

 だが、リソースと労力をプールするのは大変だ。海上でのクワッド情報作戦での最大の課題は相互運用で、それぞれ異なる軍隊や情報機関が調和して協力する能力を意味する。東京、キャンベラ、デリー、そしてワシントンの意思決定者がまず注目するのは、間違いなくハードウェアだろう。そして、互換性あるセンサーと指揮統制技術の重要性には疑う余地がない。米国、日本、オーストラリアは長年の同盟国で、共同運用に慣れているため、装備の相違を回避できる。しかし、インドの情報機関、軍、法執行機関は、国内外の異なるサプライヤーからハードウェアを調達してきたため、インドとの協力は難易度が高くなりそうだ。インド自体の国家安全保障機関間でも相互運用性に課題があり、ましてや海外との連携は難しい。この格差を克服できれば、大きな成果を生むだろうが、その過程で問題が生じるのは間違いない。

 また、海洋領域認識での共同作業では、共通の利益のため各パートナーの制度的慣行を調整することが求められる。つまり、技術面だけでなく、人間的な側面もある。クワッドのパートナーはそれぞれ異なる社会であり、異なる遺産と文化的特質を持つだけでなく、情報機関や軍部には独自の官僚的文化や世界観がある。そのため、もう一つ複雑な要素となる。海洋領域の認識、ひいては侵略に対する共通の政策と戦略という目標に向かって、各国を連携させることは、関係者の頭痛の種となるだろう。要は、海洋領域の認識には小道具より重要なことがある。それは、協力し合うことを日々の習慣にすることだ。これが官僚の頭痛の種を和らげる最良の方法となる。

 これが海洋外交の複雑な背景事情だ。しっかり対応していこう。■

 

How the Quad Can Take on China in the 'Gray-Zone' - 19FortyFive

ByJames Holmes

 

A 1945 Contributing Editor, Dr. James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs. A former U.S. Navy surface warfare officer, he was the last gunnery officer in history to fire a battleship’s big guns in anger, during the first Gulf War in 1991. He earned the Naval War College Foundation Award in 1994, signifying the top graduate in his class. His books include Red Star over the Pacific, an Atlantic Monthly Best Book of 2010 and a fixture on the Navy Professional Reading List. General James Mattis deems him “troublesome.” The views voiced here are his alone. Holmes also blogs at the Naval Diplomat

In this article:China, featured, India, Japan, Quad, Quadrilateral Security Dialogue

WRITTEN BYJames Holmes

 


米中同時不況の恐怖。バブル崩壊は現実に。国防力の源泉は経済なので無視できない

 

Digital Yuan

Image: Creative Commons.

 

つて、米国経済が風邪をひけば、世界経済は肺炎になると言われた。しかし、米国経済と中国経済が同時に景気後退に入った現在、さらに深刻な問題を提起しなくてはならない。米国と世界第2位の経済大国の中国が共に風邪をひいたら、米国その他の国の経済はどうなるだろうか?

 

 

 2008年のリーマンショック後、中国は戦後最大の不況から世界経済を回復させる重要な役割を果たした。自国経済に対し、予算と金融政策で異常といえるほどの支援を行った。その結果、10年にわたる不動産とクレジット主導の好景気が生まれ、中国は世界経済をひっぱる成長エンジンとなった。

 現在、米国に再び深刻な景気後退に陥る危険性がある。特に、株式、住宅、クレジット市場のバブルで、高インフレを抑制するため、連邦準備制度理事会が金融政策のブレーキを踏むことを余儀なくされているため、これは現実であるように思われる。

 年初来株価の20%下落が示すように、FRBの金融政策スタンスがタカ派色を強め、超低金利が永遠に続く前提だった「何でもあり」バブルに崩壊のリスクが出てきた。「何でもバブル」が崩壊すれば、米国の家計は貯蓄の回復のため支出を大幅削減すると予想され、不況が深刻化するリスクが高まる。

 2008年当時と異なり、中国経済は米国経済を救えない。さらに悪いことに、中国が世界のサプライチェーンをさらに混乱させて、米国のインフレをさらに悪化させる懸念がある。

 中国当局は、中国の経済成長モデルが信用市場と不動産市場に過度に依存していると以前から認識していた。過去10年間、中国の民間部門の信用拡大は、1992年と2006年のそれぞれ日本と米国の不動産バブル崩壊を上回る速度で増加してきた。

 また、不動産部門が中国経済の約3割を占め、中国の主要都市では住宅価格の対所得比率がニューヨークやロンドンより高く、全国で推定6500万戸の住宅が空き家のままになっている。

 信用と不動産が主導する中国の成長モデルの行き詰りが誰の目にも明らかとなったのが昨年末だった。経済成長率はかろうじて4%にとどまり、過去10年間の平均成長率8%の半分程度に減速した。その証拠に、中国の不動産セクターで債務不履行が相次いで発生した。債務不履行には、世界で最も大きな負債を抱えた不動産開発会社長安(Evergrande)の約3000億ドルを含む。

 習近平国家主席は、容赦ないCovid政策を追求することで、経済的苦境に拍車をかけているようだ。この政策により、上海をはじめ4億人近い中国人が行動の制約を受けており、今秋の中国共産党大会までこの状態が続くとみられる。中国の生産高を低迷させるだけでなく、世界のサプライチェーンの回復を遅らせ、出荷の遅れに拍車をかけている。

 こうしたすべてが米国および世界経済に悪い兆候となる。経済が低迷する中国には世界の経済成長の主要なエンジンの役割は期待できない。さらに悪いことに、中国が経済のリバランスを図り、Covidで経済的に有害なゼロ・トレランス政策を追求しているため、世界経済の成長の足を引っ張っている可能性が十分にある。■

 

What Happens if China and America Both Have a Recession? - 19FortyFive

ByDesmond LachmanPublished7 hours ago

 

Desmond Lachman joined AEI after serving as a managing director and chief emerging market economic strategist at Salomon Smith Barney. He previously served as deputy director in the International Monetary Fund’s (IMF) Policy Development and Review Department and was active in staff formulation of IMF policies. Mr. Lachman has written extensively on the global economic crisis, the U.S. housing market bust, the U.S. dollar, and the strains in the euro area. At AEI, Mr. Lachman is focused on the global macroeconomy, global currency issues, and the multilateral lending agencies.

In this article:China, COVID-19, Economy, featured, Recession, US Economy

 

2022年5月28日土曜日

ウクライナ軍が捕獲したロシア装備品から米製マイクロチップがざくざく。経済安全保障に反対する勢力はどう反証するのだろうか。

 

鹵獲・破壊したロシア軍装備品から発見されたとする、米国製マイクロチップのリストをウクライナ情報部が見せてくれた。

クライナ情報部がThe War Zoneに示した部品リストによると、ウクライナ軍が鹵獲または一部破壊したロシア軍装備を分解して、外国製マイクロチップ(特に米国製)への依存が強いことが判明した。

問題のチップは、回収された9S932-1、大型バルナウル-Tシステムのレーダー装備の防空指揮所車両、パンツィール防空システム、Ka-52「アリゲーター」攻撃ヘリコプター、Kh-101(AS-23Aコディアック)巡航ミサイルから発見されたものだ。

今回の部品リストは、ロシアが重要なマイクロチップ、半導体、その他部品をどこでどの程度入手しているかについて、これまでで最も詳細に情報を提供している。リストは、戦闘装備に必要な技術的部品を生産するロシアの能力への疑問とあわせ、米国等の保安能力に深刻な疑問を提起している、と専門家はThe War Zoneに語った。

例えば、バルナウルT防空指揮所車両では、ウクライナ情報部の専門家が、インテルマイクレルMicrelマイクロン・テクノロジーMicron TechnologyアトメルAtmel Corpといった米国メーカーのマイクロチップ8個を通信システムで発見した。 Intel,, and.

また、パンツィール防空システムの方向探知機からは、AMDロチェスター・エレクトロニクスRochester Electronicsテキサス・インスツルメンツTexas Instrumentsリニア・テクノロジーLinear Technologyの米国製チップ5個が発見されている。

Kh-101巡航ミサイルからはテキサス・インスツルメンツ、アトメル、ロチェスター・エレクトロニクス、サイプレスCypress Semiconductor、マキシムMaxim Integrated、インテル、オンセミOnsemiXILINXインフィネオンInfineon Technologies、マイクロンなど、少なくとも35個の米国製チップが見つかった。

Tu-95ベアに搭載されたKh-101

CSIS.org

Ka-52アリゲーターの砲塔型電気光学システムを開けたところ、ウクライナ専門家は米国製チップ22個と韓国製チップ1個を発見した。米国製はテキサスインスツルメンツ、IDTアルテラAltera USAバー・ブラウン Burr-BrowアナログデバイシズAnalog Devices Inc、マイクロンテクノロジー、リニアテクノロジー、TEコネクティビティTE Connectivity製だった。

ウクライナのキエフ郊外の野原に強制着陸させられたKa-52攻撃ヘリコプターの前に立つ男性(2022年2月24日撮影)。AP Photo/Efrem Lukatsky

ロシアが2月24日に全面侵攻を開始した後、米国はじめ各国は、マイクロチップ含む機器を販売できなくする制裁を設けたが、捕獲・破壊したロシア装備品内のチップが禁止規定に違反している証拠はない。メーカーの中には、その後他社に吸収されたものもある。

例えばIDTは、2019年に日本企業のルネサスが買収した。マイクレルは2015年にMicrochip Technology Incorporatedに買収された。アトメルも2016年、Microchip Technologyに買収された。サイプレスセミコンダクターは2020年にインフィネオンテクノロジーズInfineon Technologiesに買収された。アルテラは2015年にインテルに買収された。バー・ブラウンは2000年にテキサス・インスツルメンツに買収された。

ロシアの兵器から見つかったマイクロチップには起源が不明なものもある。製造業者から直接調達したものではないものがある。また、中国由来のリサイクルチップの大規模市場には規制の手が及んでおらず、かなり古いものもあるようだ。

部品リストを提供したウクライナの情報当局者も、チップの原産地を明言できなかった。

しかし、NATOと米軍の対ドローン/指向性エネルギー兵器/電子戦/レッドチームの専門家スキップ・パリッシュSkip Parishは、ウクライナ情報部が提供の部品リストを検討し、問題が多く提起されていると指摘している。

ウクライナ情報局がバルナウルT型防空システムの通信システムから発見したとするマイクロチップの写真。ウクライナ情報局の写真。 Ukraine intelligence photo

ロシアの兵器システムの重要機密部分である標的、航法、通信、攻撃に必要な統合チップセットは、「西側技術に完全に依存している」という。

また、国際武器取引規制における「米国の管理体制の破綻または不在」を示し、「外国兵器で発見された場合、どちらでも調査が必要となる」と述べている。

5月11日、ジーナ・ライモンド商務長官Commerce Secretary Gina Raimondoは上院公聴会で、ロシアは制裁により、主要部品の代替調達先を探さざるを得なくなっていると発言した。

ライモンド長官はウクライナ首相と会談し、「ウクライナから、ロシアの軍事装備に食器洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が詰まっているとの報告を受けた」と証言した。

家電製品部品が悪人の手に渡るのを防ぐのは難しいが、米国当局は、軍事的に重要な用途があると判断すれば、デュアルユースのチップとして出荷を阻止する権限があると、パリッシュは言う。

そして、このことは、「現地に行かずともロシア装備品の成功を止めるための明確な道筋と、同盟国であるオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス(総称して「ファイブ・アイズ」と呼ばれる)からの「技術の出荷を止めるため緊急国内プログラム」の必要性を強調するものだと述べた。

ライモンド長官は、ウクライナはロシア戦車が家電部品を使用していると証言したが、ウクライナ情報部が示した高度システム装備品リストは異なると、パリッシュは言う。なかでも「Ka-52武装ヘリの照準とミサイル誘導の光学システムが最大の懸念」と述べた。

The War Zoneは、今回の記事で名前が挙がった各社に問い合わせたところ、数社から返事を得た。ほとんどが、ロシアと取引を停止したと言っている。多数は、自社のチップの行く先は知らないし、コントロールもできないと回答してきた。また、ある企業は、ロシア装備品からチップが発見されたとするウクライナ情報機関の主張そのものに異議を唱えた。

例えば、オンセミonsemiの広報担当者は、同社のチップは軍用仕様ではなく、簡単に入手できると指摘した。

インフィニオン・テクノロジーズInfineon Technologiesの広報担当グレゴー・ローデヒューザーGregor Rodehüserは「具体的にコメントはできませんが、当社は制裁を遵守すべく適切な措置を実施しています」とし、ウクライナ戦争開始後、「ロシア、ベラルーシならびにウクライナ内のロシア支配地区への直接・間接の出荷をすべて停止しました。技術サポートもここに含まれています」と回答した。

インフィニオン・テクノロジーズは、「ロシアで当社製品が軍事利用されている証拠は見つかっていない」が、「当社製品を調達する顧客や市場を対象に、輸出規制の遵守を審査しています」という。

 

ウラジーミル・プーチンがウクライナに全面戦争を仕掛けたことで、ロシアにマイクロチップ含む厳しい制裁が課された Getty images.

インテルは、チップがどこに行き着くかはわからないが、ロシア、ベラルーシとも取引はないと述べた。

インテルのコーポレート・コミュニケーション・ディレクター、ペニー・ブルースPenny Bruceは、「顧客がどんな製品を開発し、エンドユーザーがどんなアプリケーションを開発するか常に把握しておらず、コントロールもできませんが、インテルは当社製品が人権侵害に使われることは支持・容認していません」と述べている。「インテル製品がビジネスパートナーにより人権侵害に使用されている懸念が生じた場合、当社製品が人権侵害に使用されていない確証が得られるまで、該当サードパーティとのビジネスを制限または停止します」 と述べている。

ブルースは、「インテルは、ロシアとベラルーシ両国の顧客への出荷をすべて停止済みです」とし、さらに、「インテルは、事業を展開する各国で適用されるあらゆる輸出規制と制裁を遵守し続けます。米国と同盟国が出したロシアとベラルーシ向け制裁と輸出規制の遵守を含みます」と述べた。

アナログ・デバイセズは、「輸出規制、貿易制裁、規制を含む米国、EU、その他国の法律を完全に遵守することをお約束します」と、広報担当フェルダ・ミランFerda Millanは述べた。

一方、TEコネクティビティは、ウクライナ情報機関が提示した部品リスト自体に異議を唱えている。

「当社の部品データベースで検索したが、リストの部品番号と一致するものは見つからなかった」と同社広報ジェフ・クローニンJeff Croninは述べた。

制裁にもかかわらず、外国部品がロシアの軍事装備に混入する問題は、以前からあった。

2014年にロシアが初めてウクライナに侵攻した後もロシアは制裁を受けた。しかし、機能しなかったようだ。

ウクライナの情報機関がロシアの防空システム、ヘリコプター、巡航ミサイルで見つかったマイクロチップについて、商務省がどこまで懸念しているかは不明だ。商務省には、金曜日午後までにコメントを求めたが、回答はない。

制裁がロシアの防衛産業に打撃を与えている証拠がでてきた。そしてウクライナは、ロシアが使う古い部品、特にKh-101が効果を下げていると主張している。しかし、ロシアが大量のマイクロチップや半導体部品に依存していること、そしてこうした部品のトップメーカー兼リサイクル業者の中国と密接な関係にあることを考えれば、チップなどハイテク部品での制裁の影響はまだ不明だ。■


Captured Russian Weapons Are Packed With US Microchips | The Drive

BY

HOWARD ALTMAN

MAY 27, 2022 3:47 PM

THE WAR ZONE


2022年5月27日金曜日

ウクライナ支援が浮き上がらせたドイツ連邦軍のお粗末な状態。予算増額で覆るか。日本にとっても他人事ではない。

 Hi, What Are You Looking For?

 

 

 

 

ドイツ軍は将来の紛争に準備できていない

ドイツは、ウクライナへの軍事兵器供給の取り組みを強化するヨーロッパ諸国に加わったが、今週、ベルリンは対空装甲戦闘車ゲパルトFlugabwehrkanonenpanzer Gepard (Flakpanzer Gepard) の引き渡しは7月になると発表た。

 

 

19FortyFive

 

 ウクライナは援助に感謝を示しているものの、納入に少なくとも6週間かかるというベルリンの姿勢は、ウクライナの一部議員に受け入れ難いようだ。

 「7月とは "どういうこと?"という感じです」。ウクライナ議会のアナスタシア・ラディナAnastasia Radina議員は、世界経済フォーラムでロイター通信に語った。「こんな感じです。生まれたばかりの赤ちゃんと一緒に粉ミルクもない地下室に座らされたままの母親にとって7月とはどのくらい先に感じるでしょう?」

 ウクライナへの送付が遅れている理由のひとつは、ドイツ連邦軍に同車両用の弾薬が不足していることがある。このことは、ベルリンが最初に公約した際に分かっていたようだ。

 ゲパルトは全天候型自走式高射砲で、1960年代に開発され、1970年代に実戦配備された。最新の電子機器を搭載するなど改良され、2010年までドイツ軍の防空装備の基幹として活躍した。

 退役した各車両は10年間、倉庫に保管され、ドイツは35mm弾薬を「わずかな在庫」しか維持していなかった。実際、ドイツ政府関係者が「弾薬多数が見つかり、ついにウクライナに対空火砲車両ゲパルトを送ることになった」と述べたのは今週になってのことだ。

 ある軍事産業関係者は、匿名条件でロイターに語り、ウクライナに兵器を送るのは「利用可能な弾薬があって初めて意味がある。それは最初から誰の目にも明らかだった」と言っている。

 

連邦軍のお粗末な現状

ドイツ連邦軍は第二次世界大戦の終結から10年後に創設され、冷戦時代には世界最大級の規模と設備を持つ軍隊となった。しかし、ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦が崩壊すると、状況は一変する。ドイツは友軍に囲まれ、残念な状態に陥ったまま何年も経過した。

 ロシアがウクライナへ無謀な侵攻を開始し、この問題を口にする勇気ある関係者がやっと出てきた。

 アルフォンス・マイス中将Lieutenant General Alfons Maisは、ロシアが攻撃を開始した日にLinkedInへ投稿し、「41年目の平時勤務で、まさか戦争を経験することになるとは思っていなかった」と述べた。「栄光のドイツ連邦軍は、手ぶらの状態で立っているにすぎない。政府が提供できる同盟支援の選択肢は極めて限られている」。

 この発言はベルリンの権力中枢に響き渡り、2月27日、新たに選出されたオラフ・ショルツ首相は、ドイツ防衛のため1000億ユーロ(約1070億ドル)の特別基金を公約し、転換点、すなわち‘zeitenwende’をスタートさせた。

 同基金によって、ドイツの国防費は今後4〜5年で増加し、NATOが義務づける国内生産の2%に達するだろう。また、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによると、ドイツ国防費は米国、中国に次ぐ世界第3位の規模となる。

 だがドイツ議会は特別基金をまだ可決していない。

 「ドイツは二度と軍事大国にならないはずだった」と、議会国防委員会の責任者で、ショルツの3党連合のジュニアパートナー自由民主党(FDP)のマリー・アグネス・ストラックツィマーマンMarie-Agnes Strack-Zimmermannはロイターに述べた。「軍事面でリーダーシップを発揮するよう求められているのです。ドイツ国民は考え方の変化を求められています」。

 誰も帝国時代(1871-1918)の軍国主義ドイツを見たいとは思わないし、ナチスドイツ(1933-1945)とも似ても似つかないはずだが、同盟国同志国の多くは、NATOへ一層の肩入れをドイツに望んでいる。使えない武器をウクライナに提供する約束は望んでいないだろう。■

 

'Sorry State': Germany's Military Has Been Exposed Thanks to the Ukraine War - 19FortyFive

ByHarry KazianisPublished2 hours ago

 

Now a Senior Editor for 1945, Peter Suciu is a Michigan-based writer who has contributed to more than four dozen magazines, newspapers and websites. He regularly writes about military hardware, and is the author of several books on military headgear including A Gallery of Military Headdress, which is available on Amazon.com. Peter is also a Contributing Writer for Forbes.