2022年3月9日水曜日

ウクライナ軍が予想外に奮戦している理由。国防に必要な要素は装備品だけではない。日本にも学ぶべき点が多い。

 



 

強力なロシア軍の前に数日で崩壊すると思われていたウクライナ軍がなぜ今も抵抗できているのか不思議に思う向きも多いのではないでしょうか。ウクライナ軍の改革と訓練、装備品の充実が事前にあったことを実際に支援に従事した米軍関係者が説明しています。今回は非営利ニュース論評サイトThe Conversationからのご紹介です。


広範な軍事改革の成果

2014年、ウクライナ軍を「老衰状態」と表現し、海軍は「残念な状態」とした国家安全保障アナリストがあらわれた。ウクライナ軍の元総司令官ヴィクトル・ムジェンコVictor Muzhenko大将は、「文字通り軍隊の廃墟」とまで言い切る始末だった。

 

 

しかし、それから8年後、2022年2月24日に始まったロシア侵攻でウクライナ軍は、規模が大きく、装備の整ったロシア軍に対し驚くほど強力に対応している。

 

ウクライナの堅固な抵抗は、大きな要因4つの結果だ。

 

最初の2つは、2016年にウクライナ政府が軍事改革に尽力したこと、ならびに欧米の援助と軍事装備数百万ドル相当だ。

 

3つ目の要因は、ウクライナ軍の考え方が大きく変化を遂げ、現場で下級指揮官が意思決定を行えるようになったことだ。それまでは、指揮官が下した命令を変更するには、上級指揮官の許可を得る必要があった。

 

最後の重要な要因は、間違いなくウクライナ人の間で起こった変化だ。つまり、軍に志願する国民文化が生まれた。その結果、軍事攻撃からの防衛に民間人を組織し、訓練する政府機関が創設された。

 

2016年から2018年にかけて、筆者はウクライナの防衛組織の改革を支援してきた。その間、2008年のロシア-ジョージア戦争を研究するため、ジョージアで現地調査も行った。その調査の結果、ウクライナ侵攻に用いられたロシアの戦術には、驚くべきものは皆無だと判明している。

 

驚くべきは、ウクライナ軍の戦果だ。

 

広範な国防改革

2014年、ウクライナ政府は国家安全保障と軍事防衛の包括的見直しに着手した。その結果、戦闘能力の低下に直結する問題が多数明らかになった。

 

サイバー攻撃に対応できない、医療提供の不備に至るまで多岐にわたった。汚職が横行し、部隊に給料が支払われず、基本的な物資は常に不足していた。補給活動と指揮統制も非効率的だった。

 

こうした欠点を改善するため、2016年に当時のペトロ・ポロシェンコ大統領は、指揮統制、立案、作戦、医療・兵站、5つのカテゴリーで部隊を専門的に育成させる抜本的な改革を指示した。

 

わずか4年での完了を目標に掲げた野心的な計画だった。ウクライナ軍は当時ドンバス地方でロシア分離主義勢力と戦っており、最高の環境での努力となった。

 

ロシアが侵攻してくるとの恐怖が、ウクライナ政府を動かし、改革を加速させた。改革はすべて完了していないものの、6年間で大きな進歩があった。

 

成果が、ロシア侵攻への対応に現れている。

 

米国の軍事援助

ウクライナ軍事改革を支援するため、米国は2014年のロシアによるクリミア不法併合とウクライナ東部の分離主義者支援の直後からウクライナへの資金援助を拡大した。

 

2014年、オバマ政権は291百万米ドル支援を行い、2021年末までに米国は訓練と装備で合計27億米ドルを提供した。

 

支援の一環として、米国はヤヴォリヴYavoriv軍事基地でウクライナ軍の訓練を支援した。同基地は短期間で大規模訓練センターとなり、2015年以降、毎年5個大隊が訓練を受けている。

 

2016年、ポロシェンコは米国、カナダ、英国、リトアニア、ドイツから上級軍事顧問を招き、2020年までにNATOの基準、規則、手順に到達するのを目標に、ウクライナ軍の近代化で助言を求めた。

 

重要なNATOの基準のひとつは、ウクライナが展開する際に、NATO部隊と後方支援を統合することだった。

 

欧米の支援には、ハンビー、無人機、スナイパーライフル、敵攻撃源を特定するレーダー、昼夜を問わず目標を確認するサーマルスコープなど、さまざまな武器や装備が含まれていた。

 

ウクライナ側が特に関心を示したのは、対戦車ミサイルの充実だった。2014年にロシアが分離主義者を支援し国境を越えT-90戦車を送り込んだとき、ウクライナの既存兵器ではT-90の装甲を貫通できなかった。

 

2017年、米国はジャベリン対戦車ミサイルをはじめてウクライナに提供した。

 

侵攻の恐れが切迫する中で、欧米諸国はリトアニアとラトビアからスティンガーミサイル、エストニアからジャベリン対戦車ミサイル、英国から対戦車ミサイルなど、武器・軍需品をウクライナに送った。

 

戦場での意思決定

2014年、ウクライナの軍事価値観では、中尉や大尉といった下級指揮者がリスクを取るのを抑制していた。意思決定できない下級指揮者は、いちいち行動の前に許可を得る必要があった。

 

最初の命令がもはや適切でなくなった、あるいは状況の変化に適合しなくなった場合に問題が起こる。現代戦のスピード、機動性、殺傷力を考えると、統制のとれた取り組みが成功と失敗の分かれ目となる。

 

2014年、ドンバス地方でロシア支援を受ける分離主義勢力およびロシア軍と戦っていたとき、ウクライナ軍は、小隊長や中隊長は、すべての動きについて上位司令部の承認を待つことが不可能とすぐに理解した。戦闘のスピードがあまりにも速すぎた。

 

新しい価値観の下で、ウクライナ軍は「目的は手段を正当化する」という新しい形で戦うようになった。プロセスよりも結果が重要だ。

こうした価値観の変化と、ドンバスでの8年間にわたる戦闘が相まって、即戦力となる新世代の指揮官が生まれた。

 

志願者を生む国

2014年、ロシア支援を受ける分離主義勢力と戦うため、ウクライナ全土から志願者がドンバスに集まった。あまりの数の多さに、志願兵大隊創設が必要になったほどだ。

 

しかし、訓練時間はほとんどなく、志願者は、不揃いの迷彩服を着て、急造部隊に放り込まれ、寄せ集めの武器で前線に送り出された。

 

しかし、この志願者部隊がウクライナ軍に動員時間を稼ぎ、ロシアのウクライナ侵入を防ぐため戦線の維持に貢献した。

 

志願兵問題を改善するため、ウクライナは法律を制定し、2022年1月1日に発効した。この法律により、軍の独立部門として「領土防衛軍」が設立された。

 

平時には職業軍人1万人を含み、12万人の予備役を旅団20に編成する。

 

ロシアは、この部隊が完全に発足する前に侵攻を開始したが、戦争が続く中で組織的な対応が生まれている。

 

ウクライナの決意

こうした改革とウクライナの抵抗にもかかわらず、ロシア戦力はウクライナを圧倒している。

 

ロシアへの防衛は困難な課題で、ウクライナ国民が過去8年間、そして今回の戦争の開始から何度も示している決意が今こそ必要だ。

 

ウクライナ人は誇り高く、愛国心が強く、国を守るため必要なら何でもする覚悟がある。■

 

In 2014, the 'decrepit' Ukrainian army hit the refresh button. Eight years later, it's paying off

Published: March 8, 2022 1.18pm GMT

by Liam Collins
Founding Director, Modern War Institute, United States Military Academy West Point

 


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