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1980年代にポップカルチャーの象徴として一躍有名になった『トップガン』の劇場公開から36年、その続編が公開された。『トップガン:マーベリック』は、意外なほどまともな作品に仕上がっている。多くに愛された主人公が、指導者や世話役として成長することに挑戦している。エゴのぶつかり合い、ペーソス、ユーモアに加え、実機による飛行シーンがふんだんに盛り込まれ、スリリングな結末へ向かっていく。
技術的な細かさよりこうした要素のほうが映画を楽しむため重要だ。しかし、この映画からヒントを得た観客は、米国の空軍力を誤解するかもしれない。(以下、若干のネタバレあり)。
明白な解決策
『トップガン』は、エリートパイロットが身を切るような高速操縦で窮地を救うストーリーだ。そのため、優れた技術と根性で勝利することが求められる。
映画の中心となるミッションは、『スター・ウォーズ』のデス・スター攻撃のトレンチ・ランから引用されている。レーダー誘導地対空ミサイルが立ち並ぶ曲がりくねった渓谷を、ステルス機ではないスーパーホーネットが進んでいき、高度を上げる機体はすべて撃ち落とされる。敵の優秀なパトロール戦闘機(詳しくは後述)に迎撃されないよう、危険なほど高速で接近しなければならない。
目標に到達した複座のF-18Fは、わずか数秒で小さな目標にレーザーを照射し、レーザー誘導爆弾を誘導する。この爆弾が、デス・スターの熱排気口に命中した陽子魚雷のように、施設全体を破壊する。
これは明らかにスリリングな飛行シークエンスをつくるレシピだ。ただし、現実とまったくかけ離れたものではない。冷戦時代、長距離防空レーダーを回避する低空侵入戦術が軍事航空で重要になった。この方法は、純粋に挑戦的かつ危険なもので何百人ものパイロットが訓練で命を落とした。
しかし、最近の米軍は、侵入ミッションはほぼステルス機に頼っている状態だ。ステルス機は探知が困難だ。長距離レーダー誘導ミサイルでの交戦はさらに難しい。
米海軍の場合、映画冒頭に登場する『コウモリの翼』を持つF-35Cライトニング空母型ジェット機になる。F-35はスーパーホーネットほど機敏ではないが、強力な防空圏に侵入するため設計された。
トップガンの脚本家は、F-35が明白な解決策と認識しながら、映画では、谷間のGPSジャミングのため、同機では生存不可能であると却下される。しかし、F-35の使用が不可能になることはないはずだ。せいぜい、JDAMSのようなGPS依存の兵器が、ミッションに使えない程度だ。しかし、レーザー誘導や、映画に登場するトマホーク巡航ミサイルのような地形照合と慣性誘導を組み合わせた誘導兵器には、投入できるものがたくさんある。
複座FA-18F戦闘機の兵器システム士官は、地上目標へのレーザー照射などのセンサー操作や兵器運用タスクを簡単に処理できるのは事実だが、2機1組のF-35でもこのミッションに対応できる。危険な速度で渓谷を飛ぶのではなく、より高い高度で飛行し、敵ミサイルの影響を受けにくくできる。また、無人偵察機やB-2ステルス爆撃機でもこの任務を遂行できる。
トップガンとSEADの不在
防空網そのものを攻撃対象とすることも必要だ。これを『防空制圧』(Suppression of Enemy Air Defences、SEAD)と呼ぶ。
アメリカ海軍の空母航空団には、スーパーホーネットの派生型EA-18Gグラウラーという防空抑圧・破壊専用機がある。グラウラーは、レーダーや通信システムを撹乱する強力なジャマーを使用する。また、敵のレーダー信号をロックオンするAGM-88HARMミサイルを発射する。
F-35は、ASQ-239システムで敵の防空センサーの位置を特定し、スタンドオフ兵器で攻撃するSEADミッションも行える。
ちなみに、渓谷を守るミサイル砲台はレーダー誘導式と説明があった。S-125四連装発射機(NATOコードネームSA-3ゴア)に似ており、別の照準レーダーからの無線コマンドで誘導されるV-600ミサイルを発射する。
しかし、これらのミサイルは交戦距離が2.5〜3.5kmで、近距離の戦闘機には効果がない。原子炉は、おそらく赤外線/光学誘導を使用した短距離防空システムに守られるであろう。S-125はもっと遠くに位置するはずだ。
第五世代の敵機
空襲の成否に立ちはだかるのは、空戦における米軍の優位を終わらせたとされる第5世代戦闘機の存在だ。
しかし、米軍が航空戦で劣勢と考えるのはナンセンスだ。スーパーホーネットで第5世代戦闘機と戦うのは難しいかもしれないが、米軍にはステルス戦闘機で圧倒的優勢がある。2000年代に就役したF-22Aラプターでリードを築き、2010年代に数百機のF-35ライティングシリーズのマルチロール戦闘機で拡大した。
これに対し、ロシアは映画で描かれた第5世代機のSu-57では量産型を10機弱受領しているだけだ。Su-57は非常に機敏だが、F-35よりレーダー探知されやすい。
中国にはJ-20ステルス戦闘機が50~100機ある。しかし、J-20は、目標性能の達成に必要な高推力エンジンをまだ搭載していない。(Su-57も同様だ)。
こうした航空機が米軍に突きつける課題は今後大きくなっていく。とは言え、米軍に優位性があり、はるかに優れたパイロット訓練と支援資産がこれを維持強化している。海軍が攻撃部隊に護衛戦闘機、特にF-35Cステルス機を派遣するのを危険すぎると判断するとは信じがたい。
実際、この映画ではレーダー探知機やステルス機はほぼ登場しない。しかし、Su-57が現実でないような回避行動をとるシーンでは、Su-57の性能が表現されている。Su-57は推力偏向エンジンのおかげで、素晴らしい機動が可能で、状況によってはミサイルの回避もできる。
F-22も推力可変エンジンを搭載するが、米国のその他機種のほとんどは同技術を排除している。このような作戦は速度と高度を大きく消耗するため、回避しても航空機はその後、脆弱な状態に置かれる。
イラン軍F-14と『トップガン』の非政治的な政治学
『トップガン』に登場する匿名の『悪者』たちのモデルは明らかにイランだ。テヘランの核開発は、タカ派が長く、先制攻撃のターゲットに提唱しており、なかでも最も特徴的なのは、敵国がF-14トムキャット戦闘機を保有していることだ。
現在、F-14を保有するのはイランだけだ。イラン革命前の1970年代に79機を受領した。米国のF-14より多くの空戦を経験し、イラク軍の少なくとも50機を撃墜してきた。イラン軍トムキャットは、国内でのアップグレードや部品・武器の代用により、数十年経った今でも飛行し続けている。
『トップガン』は米軍事力を讃える作品だが、脚本家は当然ながら、軍事力の行使をめぐる論争に首を突っ込むことはない。確かに、マーベリック同様の軍人は、政治指導者の決定を忠実に実行するのが目的である。トップガンの観客は、戦闘機パイロットのファンタジーとドラマチックなエゴのぶつかり合いを求めて入場料を払うのであって、中東政治を解剖するため来たわけではない。
しかし、映画的な描写と現実を混同してはいけない。イラン核開発は、デス・スターのように1発ないし2発のミサイルで吹き飛ばすことはできない。
映画ではハッピーエンディングが用意されているが、たとえ表向き成功したように見える攻撃でも、その後報復と反撃のサイクルが長く続くはずだ。■
Top Gun: Maverick Imagines a World Where Stealth Fighters Don't Work - 19FortyFive
Sébastien Roblin writes on the technical, historical and political aspects of international security and conflict for publications including The National Interest, NBC News, Forbes.com, War is Boring and 19FortyFive, where he is Defense-in-Depth editor. He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China. You can follow his articles on Twitter.
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