2021年9月24日金曜日

原子力潜水艦が世界に拡散する日が来るのか。オーストラリアに続き、注目はカナダ、ブラジル、韓国、日本の各国だろう。

 

英アステュート級原子力潜水艦Image: Creative Commons.

 

 

AUKUS取り決めは核拡散にどんな影響を与えるだろうか。答えは今回の結果がオーストラリア外でどう展開するかにかかる。またそれ以外の主要海軍国がどこまでのリスクを甘受するかにより変動する。

 

核兵器拡散への懸念は理解できるが、管理も十分可能だ。オーストラリアは核燃料サイクル問題で懸念の対象国から除外しても問題なく、信頼度高い核使用国である。むしろアジア太平洋ひいては世界各地に原子力潜水艦が普及することのほうが懸念される。

 

ディーゼル電気推進式のほうがより大型の原子力推進潜水艦より好まれる背景が存在する。通常型艦は建造費が安くSSNsより静粛性が高い。原子炉運転に必要な人員の高い教育訓練も不要だし、核燃料取り扱い核事故予防でも同様だ。だが太平洋は広大なため原子力潜水艦が有利なのは明らかだ。

 

 

今回の原子力潜水艦選定でフランスが動揺している。伝えられるところではフランスは原子力推進式への変更をオーストラリアに提案していたが、その時点でオーストラリアは実行見込みに疑念を抱いていた。そのため同国が米国のほうがしっかりしており、長期間にわたる協力関係でフランスをしのぐと結論づけたのは理解に難くない。だがフランスの視点で最大の問題点は建造する予定だった各艦が必ずしも優れた艦とは見られていなかったことだ。

 

潜水艦部隊整備で難しい課題に直面する国は多い。ブラジルはフランス支援で実際に原子力艦の建造を始めている。これもオーストラリアの決定に影響した可能性がある。南朝鮮、日本、カナダは将来の潜水艦調達で難題を突き付けられている。A.B.エイブラムズの分析では南朝鮮、日本の場合はオーストラリアと異なり、SSNsは最終的に不要と結論づけている。南朝鮮、日本には「距離の暴力」はオーストラリアほどに感じられていないのも事実とはいうものの、SSNでしか実現できない性能を享受する事態を長期的にいずれかの国が選択する可能性がないわけではない。

 

カナダが興味深い事例だ。同国は三つの大洋にアクセスし、原子力艦の航続距離を活用できる立場にある。カナダも1950年代に原子力潜水艦保有を目指したものの、通常型に落ち着いた。1980年代に入り再びSSNs取得を目指し、フランスまたは英国との提携を模索した。ただし、米国が反対し、一つには北極海の衝突回避もあったが、英国あるいはフランスの関与の余地を認めたくなかったためだ。

 

ただし、カナダの政治文化はオーストラリアと異なり、原子力技術の取得はもっと困難となっている。他方で、カナダは中国と中国市民の収監をめぐり対立しており、カナダ国民はカナダ艦がオーストラリアやアメリカ艦艇と西太平洋で活動できる状況を受け入れやすくなっている。さらに米国がオーストラリアを支援してSSNs調達が実現すれば、カナダに同様の提案が生まれてもおかしくない。

 

もちろんこの通り進まない可能性もある。今回の調達事業の頓挫の原因の多くがフランス側にあるのだが、一部はオーストラリア自身に原因がある。オーストラリア国内で潜水艦用部品を製造すると大幅な予算超過となり、実現は不可能になる。

 

今後生まれるオーストラリア政権が中国の圧力に直面し、取り決めを中止する決断をする可能性もある。これが現実になれば、核兵器非保有国が原子力潜水艦を保有する夢は消える。逆に今回の取り決めがうまく機能すれば、王立オーストラリア海軍は西太平洋で有力勢力となる。この動向をソウル、東京、オタワの各政府が注視する。■

 

Australia’s Nuclear Submarine Deal: Could More Nations Go SSN?

ByRobert Farley

 

Now a 1945 Contributing Editor, Dr. Robert Farley is a Senior Lecturer at the Patterson School at the University of Kentucky. Dr. Farley is the author of Grounded: The Case for Abolishing the United States Air Force (University Press of Kentucky, 2014), the Battleship Book (Wildside, 2016), and Patents for Power: Intellectual Property Law and the Diffusion of Military Technology (University of Chicago, 2020).


 

2 件のコメント:

  1. ぼたんのちから2021年9月24日 10:56

    オーストラリアは、発表の通り、将来、攻撃型原子力潜水艦を8隻配備できるだろうか。個人的にはオーストラリアには難問が多く、計画通りにならないと予想する。
    オーストラリアの軍事費の規模は日本の半分程度、高度な建艦技術・設備、及び材料製造は皆無、原子力産業も皆無、これでは自国製造、並びに維持はままならない。リースにしても毎年1兆円前後必要となるだろう。無理してでも計画通りとなれば、現在の倍以上のGDP比4%の軍事費が必要となる。これはオーストラリアにとっては過大すぎる。これに加えコリンズ級の延命措置が不可欠となる。この状況は、仏製原潜を選択したとしても同じだろう。
    結果として、オーストラリアは、計画の廃止、見直し、縮小等々をすることになるだろう。オーストラリアがAUKUS後の戦略を維持するならば、超大型の通常潜水艦や、原潜の豪米英、それにもしかするとカナダも加えた共同保有の選択もあるかもしれない。
    日本や韓国の原潜保有は、遠距離展開能力を求められないため現状必要のないものかもしれない。遠い将来、国際状況が厳しくなれば話は別であろうが、それは数十年先のことである。

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  2. 世界の艦船で原潜と通常潜ではソナー等センサーに供給できる電力にも数十倍の大差があるというような記事がありました。
    また海洋監視人工衛星が性能だけでなく量もに急速に向上して、シュノーケル中の通常潜水艦が上から見られてしまうようになっているとの話もあり、日本も原潜保有を検討すべきでしょう。

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