2025年9月15日月曜日

欧州は米国抜きで実行力のある欧州防衛が可能なのだろうか(The National Interest)

 欧州にとって唯一の選択肢は戦略的自律体制の確立だ(The National Intterest)

欧州が独自に安全保障体制を構築するのは困難だが、ロシアを抑止する上で他の選択肢は存在しない

州は転換点に立っている。ドナルド・トランプ大統領がウォロディミル・ゼレンスキー大統領にロシアに有利な和平案を受け入れるよう強要するか、あるいは紛争から完全に手を引くかに関わらず、欧州の指導者たち安全保障の保証人として米国に頼ることはもはやできなくなった。各国は安全保障関係が断たれないことを期待して、トランプを褒め称え続け、議会指導者に働きかけ続けることもできる。あるいは、米国の後ろ盾なしに、好戦的なロシアから自らを守る計画を立てることもできる。

1949年以来世界の安定を支えてきた大西洋関係は、貿易と安全保障の面でほころびを見せている。トランプをなだめ、欧州における米国の存在感を維持するため、欧州連合(EU)は7月に米国との一方的な貿易協定に合意した。この協定では、EUの米国向け輸出品の大半に対する関税を15%に上限設定(現行の1.5%から大幅引き上げ)する代わりに、米国産工業製品の関税撤廃と農産物の優遇市場アクセスを認める。フランスのフランソワ・バイル首相はこれを「屈服」の行為と呼んだ。トランプ大統領のNATOの集団安全保障へのコミットメントを確保するため、欧州同盟国は1カ月前のハーグサミットで、2035年までに国防費をGDPの5%に引き上げることで合意した。

しかしトランプ大統領の予測不可能さを考慮すれば、欧州同盟国は大統領の貿易・財政要求が変更されない保証はない。確かにトランプ大統領は欧州同盟国が負担するウクライナへの新たな武器供与を承認し、8月29日のキーウ空爆などロシアによる都市への執拗な爆撃に激怒している。しかしトランプ政権及び多くの国民が中国をより大きな脅威と見なしている現状を踏まえれば、こうした支援がウクライナや欧州同盟国を防衛する持続的な意思の表れだと結論づけるのは軽率である。

大統領はその驚くべき一貫性のなさを8月15日のアラスカでのプーチン大統領との首脳会談で露呈した。事前に要求していた停戦も、停戦が実現しなかった場合のロシアへの「深刻な結果」という警告も、いずれも達成されなかった。また、欧州の指導者たちが求めていたウクライナへの安全保障も会談では得られなかった。

トランプとプーチンの親しげな冗談交じりのやり取りが示すように、この首脳会談はロシアと米国の間の接近が深まっていることを明らかにした。プーチンは約束も譲歩も一切しなかった。戦場でもトランプとの交渉でも、時間が味方だと確信しているからだ。実際、合意の功績を主張したいトランプは、戦争終結の責任をゼレンスキーに押し付けている。これはおそらく、ロシアが軍事的に支配していないドンバス地域の約20%を譲歩することを意味する。

クリミアとドンバスでの領土的獲得は、プーチンにウクライナでの成功を他地域で再現する勇気を与えるだろう。プーチンの目標は常に、1991年にソ連が失った帝国を再建することだからだ。モルドバは次の標的となり得る。ロシア語を話す住民が「保護」を必要としているという同じ口実が存在するからだ。バルト三国のいずれかが標的となる可能性もあるが、直接攻撃はNATOの集団防衛条項(第5条)発動を招く。同条項は加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃と定義している。より広範には、プーチンはスロバキアやハンガリーなど、モスクワとの関係正常化を図るNATO加盟国への影響力拡大を図るかもしれない。

欧州の同盟国は、政府支出の3分の1を防衛に充てているる敵対国の脅威を認識していないわけではない。NATOのマルク・ルッテ事務総長は同盟国に対し、ロシアが2030年までに欧州への攻撃を開始する可能性があると警告している。しかし欧州諸国は心理的に準備が整っていない。

NATOの東側国を除けば、大半の同盟国はリスク回避的だ。意図せず米国を欧州から切り離す措置を恐れている。EU安全保障研究所の分析官が指摘したように、同盟国が再軍備を進めれば進めるほど、「米国政策立案者に撤退の口実を与えることになる」。さらに、台頭するポピュリズムを恐れる政治指導者たちは、ロシアとの軍事衝突の可能性について国民を準備させていない。

欧州の戦略的自律性への支持は近年高まっているものの、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が指摘したように、同盟国は敵対国が恐れる効率的な戦闘部隊を配備できる段階には程遠い。防衛予算は拡大しているが、欧州各国は自国産業を優先している。その結果、複数の型式の戦車や榴弾砲が調達されており、相互運用性を阻害し、協調的な戦闘部隊の構築を妨げている。同様の分断がEUの国際貿易競争力を阻害している点は、元欧州中央銀行総裁マリオ・ドラギの2024年9月報告書でも指摘されている。

独立した防衛力を構築するには、欧州指導者らは狭隘な利己主義を捨て、開発国を問わず最も効果的な兵器システムに注力すべきだ。これらのシステムを共同運用すれば調達コスト削減につながる。ブリュッセルのシンクタンク「ブルーゲル」によれば、バルト三国におけるロシアの攻撃を阻止するには、最低でも1400両の戦車と30万人の歩兵が必要とされる。

欧州はまた、高強度紛争に対応可能な共通戦闘機、空中給油能力、空中電子戦、情報収集能力といった航空戦力の不足を克服する必要がある。これらの分野では現在、米国への依存度が極めて高い。ミサイル防衛システム、目標捕捉用衛星画像、戦時における複雑な軍事編成に必要な指揮統制システムについても同様だ。

冷戦終結時に外交専門家の一部は独立した欧州安全保障機構の創設を提唱した。しかし欧州でも米国同様、軍事費削減と社会プログラムへの資金投入を望む声が強く、実現には至らなかった。同盟国側の米国との切り離しへの懸念と、米国側の欧州における主導的役割維持の意向が、決定的な要因であった。

それから約35年後、ロシアの拡張主義が再燃する中、欧州はもはや安全ではない。また、米国の防衛へのコミットメントを確信を持って頼ることもできない。欧州が自由で民主的なままであるためには、この二つの現実に対応し、独自の防衛能力に頼らざるを得ない。■



Strategic Autonomy Is Europe’s Only Choice

September 6, 2025

By: Hugh De Santis

https://nationalinterest.org/feature/strategic-autonomy-is-europes-only-choice

著者について:ヒュー・デ・サンティス

ヒュー・デ・サンティスはジョージ・シュルツ国務長官の政策企画スタッフにおいて、NATO及び戦略的軍備管理を担当した。後にカーネギー国際平和財団で欧州安全保障プロジェクトを統括した。


1 件のコメント:

  1. ぼたんのちから2025年9月15日 23:25

    欧州指導者達は、高邁な思想を持っているのかもしれないが、行っていることは下劣だ。
    欧州の安全保障は、米国が担うものとの都合の良い誤解は、欧州NATOの軍事力を著しく低下させた。その弊害は、今も続き、自立を著しく困難にしている。
    その典型は、欧州NATOの中核を担うべき、ドイツ軍の少し昔のメルケル時代の惨状を見れば分かる。まともに飛ぶ戦闘機はなく、海を守る、出港できる艦艇や潜水艦が無く、最先端の戦車は売り払われる始末。他の欧州各国も、ポーランド等を除き、似たようなものだ。
    だから、このような欧州の惨状が、プーチンにウクライナはロシアのものとの妄想を抱かせ、NATO弱体化を見てウクライナを容易に侵略させたとも言える。
    ちなみに、その時の米大統領は、最初の2014年がオバマ、次の2022年がバイデンと、共に現実の見えない劣化したリベラルであり、欧州主要国の指導者どもと同じである。
    さらに、現在の欧州政治は、極めておかしなことをしているとの自覚がない。欧州主要国は、右派を「極右」とレッテル張りをしてパージしているが、このことは、右派を支持する数十%の支持者の意志を無視することである。この「村八分」民主主義が、果たして民主主義と言えるのかはなはだ疑問である。
    結局のところ、欧州内部は分断され、ロシアを怖がり、米国の顔色をうかがうばかりだ。まとまれば、欧州は米国に匹敵する力を持てるのかもしれないが、その愚かさゆえにロシアの餌食になるのかもしれない。

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