2025年8月4日月曜日

プーチンがウクライナ勝利を今宣言すべき理由(The National Interest) — ロシアの衰退は避けられないでしょう。こんな指導者を抱えるロシア国民は不幸としか言いようがありませんが、「指導者原理」は有効です


ロシアはウクライナで目標地域の大部分を掌握しているが、戦争を長期化させれば国際的な立場が弱体化する。現時点で勝利を宣言すれば、戦略的に多極化世界においてロシアの力を維持できる可能性がある。

シアとウクライナの残虐な戦争は4年目に突入し、終わりが見えない状況だ。ロシアは戦場で優位を保ち、ウクライナの重要なインフラ、防衛産業、主要都市を空爆し、前線を徐々に深く侵食している。ロシアの戦死者と戦車・兵器の損失は莫大だ。死傷者は100万人を超え、物資の損失は計り知れまないが、ロシアの武器在庫は枯渇し、北朝鮮とイランからの追加供給に依存している。

しかしプーチンは、侵攻開始時に設定したすべての目標を達成するまで、この消耗戦を継続すると誓ったままだ。同時に、ウクライナとの交渉担当者は、勝利のため必要であれば、18世紀初頭の北方戦争のように、ロシアは数十年にわたって戦いを続けると誇らしげに語っている。クレムリンは、ロシアが停戦に同意しない場合、ウクライナへの武器供給を強化し、厳しい制裁措置を講じるというドナルド・トランプ大統領の決定を一蹴した。

ロシアはウクライナに対する勝利をなぜ宣言すべきなのか?

皮肉なことに、事実上、ロシアはすでにその目標をほぼ達成しており、戦争を継続することは、今後数年にわたって世界情勢を左右する大国の競争で、ロシアが自国の地位を維持するために必要な力をさらに奪うことになる。賢明な戦略家なら今こそ勝利を宣言すべき時だと認識するだろう。

1年前、プーチン大統領はその目標を明らかにした。ウクライナのNATO加盟の阻止、5州併合のウクライナによる承認、非軍事化、非ナチ化(政権交代を意味する)、そして欧米の制裁解除である。現在の状況はどうなっているのだろうか?

ウクライナが近い将来にNATOに加盟する可能性は現時点で低い。2014年のクリミア併合以来、米国と欧州同盟国は、ウクライナ防衛のためにロシアとの戦争を冒すつもりはないことを明確に示してきた。現在、同盟にウクライナを加盟させることで、まさにそのリスクを負う決意を示すつもりはない。

さらに、ロシアは併合したウクライナ領土の約85%を占領している。アゾフ海沿いのクリミアへの陸橋はほぼ不落の要塞となっている。キエフは法的にロシアの支配を認めないものの、武力による奪還は不可能だと認めている。一方、西側はプーチンが「領土的現実」と呼ぶこれらを受け入れることを学ぶでだろう。これは、冷戦時代にソ連がバルト三国を併合した際と同様だ。

ウクライナ戦争を阻止するアメリカの努力は無駄に終わった

ウクライナの中立性をめぐる交渉は、その軍隊の規模や、ヨーロッパや米国との安全保障上の結びつきの制限につながる可能性があり、ロシアの立場からは非軍事化とみなされるだろう。

さらに、停戦宣言後まもなく大統領選挙と議会選挙が行われ、ウクライナに新政権が誕生する可能性が高い。ロシアは、ウクライナの主要ロシア語圏を支配しており、また、EU 加盟プロセスの一環として、ウクライナはロシア系住民やその他の少数民族に対する差別禁止を約束しなければならないため、ロシア人の権利は保証される。こうした措置は、ロシアが要求する政権交代に向けて大きな前進となる。

停戦が実現すれば、米国と欧州は制裁の段階的な解除プロセスを開始するだろう。

ロシアは、将来的に他の大国と競争するために必要な資源を大幅に消耗することなく、戦争を長期化させることで、現在の状況を大幅に改善することは困難です。つまり、消耗戦が長引くほど、プーチンが主張する「多極化世界」における異なる権力中心地に対するロシアの相対的な弱体化が進むことになる。

実際、これは米国と中国にも当てはまる。一部の米中当局者が指摘するように、両国は紛争の継続に利害関係を有している。米国の立場からは、ロシアの軍事能力を低コストで弱体化させられる一方、中国の立場では、ロシアの対中依存を深化させることとなる。

ロシアはまた、ロシアの侵略への反応と米国離反への懸念から、ハードパワー能力の強化をついに開始した統一された欧州と対峙することになる。一方、インドの経済は今後数年間でロシアを大幅に上回るペースで成長すると予想されている。

ロシアは技術面でも主要国に後れを取っている。これは、資源を非生産的な軍事要件に割り当てているためだ。要するに、戦争の結果、ロシアの国際舞台での行動の余地は今後数年間で狭まるう。2030年代の半ばまでに、ロシアは巨大な核兵器庫を維持しても、主要国で最も弱い存在となる可能性がある。

25年前、プーチンはロシアの大国としての特権を再確立する決意で権力の座に就いた。慎重な政策と忍耐により、彼はその目標を達成した。現在、ウクライナに執着し、完全勝利を追求する中で、彼はロシアの力の基盤を徐々に侵食し、国の未来を短期的な利益のために犠牲にしている。冷静な戦略家なら不完全な勝利を受け入れ、確実に迫ってくる激しい大国競争に備え国の再建に焦点を移すべきなのだが。■



Why Putin Should Declare Victory in Ukraine Now

July 28, 2025

By: Thomas Graham

  • https://nationalinterest.org/feature/why-putin-should-declare-victory-in-ukraine-now

著者について:トーマス・グラハム

トーマス・グラハムは、外交問題評議会の名誉研究員であり、最近の著書『Getting Russia Right』の著者である。グラハムは、イエール大学のマクミラン・センターの研究員であり、米国務省での長いキャリアを経て、ジョージ・W・ブッシュ大統領の特別補佐官兼国家安全保障会議ロシア担当上級ディレクターを務めた。



9 件のコメント:

  1. ぼたんのちから2025年8月4日 20:34

    ロシアが、ウクライナ領である主要ロシア語圏を占領し、プーチンが勝利宣言して、併合を宣言しても、プーチンとロシアの野望は終わらない。
    ウクライナ戦争が始まる前後、プーチンは、ウクライナ全土はロシアのものであると主張していただろう。忘れたかね? 
    今、その目標を達成できないから、矮小化し、ロシア語圏の占領で辻褄を合わせただけである。それでプーチンは、差し当たっておのれの地位とメンツを保ちたいのだ。
    プーチンが妄想するロシア帝国主義、あるいはソ連圏の復活貫徹が、プーチン後も継続すれば、また、ウクライナ占領を試みるだろう。そして、次に東欧や北欧の占領を試みるだろう。
    プーチンは、欧州NATO各国の劣化したリベラル指導者達の足元を、しかと見ている。
    今のところ、プーチンは、欧州NATO各国は、ロシアを攻撃するつもりは無く、いつまでもウクライナ戦争を続けられると確信している。そして次は、欧州NATOとの戦争を試みると言われていて、欧州NATO各国は、恐怖に怯え、軍備拡張に勤しんでいる。恐怖に震える欧州NATOは、プーチンにとって攻略の対象でしかない。
    ならば、今こそ欧州NATO各国は義勇軍を編成し、ウクライナを支援すべきでなかろうか。ウクライナの敗北が、次のより大きな災厄と出血をもたらすならば、ウクライナの敗北を今すぐ止めるために、より少ない流血を選ぶべきではなかろうか。
    だけども、欧州NATO各国にとって、ウクライナ戦争は他人事なのだ。そのような姿勢が、より大きな災難をもたらすにも関わらず、である。 南無阿弥陀仏! 合掌!

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    1. 欧州が今軍拡に勤しむのは結構な事だし。軍拡自体が次の戦争を抑止する事が出来るだろう。ウクライナに兵士を送るのは確かにそうだが、上の記事通りロシアとウクライナで戦ってくれればロシアは国際関係と国内パワーバランスが必然的に弱体化するのでここままダラダラと続けてくれた方がいいかもしれない。

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  2. プーチンはリベラルの指導者の足元を見ているの下りだけど、確かに欧州リベラルは大概にしろとは思いたいけど。それは戦争を続けるプーチンにも当てはまる。上の記事にも書いているが、ある程度戦争に切りがつき次第プーチンが勝手に勝利したと言っておけば今の欧米は手出しができず。プーチンの領土獲得戦争が上手く行った“事実”が今後半永久的に語り継がれる事ができたのに、今でも戦争が続けば、ただでさえ経済と人口に色々脆弱の国なのにさらに疲弊して、今後のロシアパワーバランスに深刻な影響が出るぞ。

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    1. プーチンの思想についてよく調べろよ! プーチンは、戦争を始める前から、ウクライナはロシアのものだと言っている。だから、ロシア語圏の小さな獲物で満足しない。それに旧ソ連圏の復活も狙っている。
      クリミア、ウクライナのロシア語圏、そして次にウクライナ全土か、バルト3国か、北欧か、東欧か。
      ロシア帝国主義の歴史を調べれば、犠牲を顧みず、執念深く、領土拡張の目標を達成してきたことが分かるはずだ。プーチンは、このロシア帝国主義の妄想にとらわれているのだ。

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    2. それはそうだけど、ロシア経済力は韓国以下だし、ロシア人口も後期高齢者だし、その状況で果たしてウクライナとバルト三国と北欧と東欧を占領できるのか?

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  3. あとそう言うことをウクライナ戦争が欧州に取って他人事なら真っ先に対応するべき国は米国🇺🇸であって特に米国が主体になりこの戦争で主導権を握るべきだ。米軍がウクライナに参戦すれば欧州も進んで軍を派遣するだろう。トランプ政権は制裁だけじゃなくてもっと“力”を行使してロシアに対応するべきだ。

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    1. 分かっていないね! 米国やNATOが介入する姿勢を示せば、ウクライナ戦争は起きなかった。
      今から介入すれば、第3次世界大戦になる可能性は、極めて高くなる。しかも、核戦争付きでだ。

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    2. あぁそうだよ、それがをやったのがバイデン政権でその慎重姿勢が結局ロシアをつけ上げらせ、戦争が泥沼化した。もしトランプ政権がウクライナに軍を派遣した場合それが威嚇でもあってもプーチン氏は多分トランプ氏と交渉のテーブルに付けたかもしれない。それには口先だけじゃなく、“力”も見せるべきだ。

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    3. それとロシアの核の脅しは本当はただの“脅し”であってウクライナ軍がロシアの主要都市に爆撃しても尚ロシアはウクライナに対して核を使用できていない(できない)なので多少米軍を派遣しても、ロシアは口では言うが核は使用しない。

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