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★F-15Xから思い起こされるF-4ファントム改修構想とその顛末

歴史は繰り返すのでしょうか。ファントムが異例の長寿となったのはやはり大型機ならではの余裕が理由でしょう。F-15も同様に長寿機になっていますが、折角出てきたF-15XをF-35支持勢力が抹殺する愚行が起こらないよう願うばかりです。

In the 1980s, Israel Developed a 'Heavy Hammer' F-4 Super Phantom: What Happened?1980年代にイスラエルが『大型ハンマー』のF-4スーパーファントム開発に走ったがその結果は?

Some fighter history you may not know.あなたの知らない戦闘機の歴史がある
February 16, 2019  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Buzz Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarIsraelF-35
2018年の報道記事で性能改修型F-15X戦闘機調達をペンタゴンが検討中と判明した。F-15C制空戦闘機の更新用だがF-35ステルス戦闘機支持派にF-15X導入でF-35調達への影響を恐れる向きもある。ただしF-35はF-15C後継機ではなかった。新型機メーカーが既存機種の改修型の出現を警戒するのは今回が初めてでない。
F-4ファントムは複座ジェット戦闘機の野獣といった存在でマッハ2飛行しながらB-17爆撃機を凌ぐ爆弾搭載量を誇った。高性能レーダーを搭載し、空軍、海軍、海兵隊で1960年代に採用され空対空ミサイルで視界外の敵機を排除する構想だった。
だが初の実戦となったヴィエトナム戦で設計不良と不利な状況が浮かび上がった。初期の空対空ミサイルは信頼性が極めて低く、交戦規則では米パイロットは有視界内で確認を最初に求められた。さらにMiG各機に比べファントムの操縦性は劣り、米パイロットは視界内での空戦訓練を十分受けておらず、ファントムには機銃が搭載されていなかった。
設計上の不良は修正されていった。20ミリヴァルカン砲がF-4Eから搭載され、ミサイル技術も大幅改良された。さらにパイロットも空中戦闘操縦理論で訓練を受け、主翼にスラットが追加され速力を犠牲にしたが操縦性が向上した。ヴィエトナムでは150機撃墜で41機被撃墜の3対1のキルレシオだったがその後のイラン-イラク戦争やアラブ-イスラエル戦で実績を上げていき、150機程を撃墜し地対空ミサイル陣地の排除で成果を見せた。
1970年代中頃から米軍ではファントム後継機として第四世代機のF-15イーグル、F-16ファイティング・ファルコン、FA-18ホーネットの導入が始まった。各機とも効率に優れたターボファンエンジン、フライバイワイヤで油圧式制御を排除し、ドップラー・レーダーで低空を飛ぶ敵機への対応力を上げ、機体とエンジンの組み合わせと速力と操縦性のバランスが改良されていた。
ただしこうした新技術はファントムにも改修で搭載された。1980年代にイスラエル航空宇宙工業(IAI)がファントム近代化をクルナス(大型ハンマー)の名称で三段階で企画した。第一段階はレーダー更新、ヘッドアップディスプレイ、コックピット計器の更新、スタンドオフミサイル運用能力の付与だった。だがIAIは国産軽戦闘機ラヴィ(ライオン)でもっと野心的な性能向上を狙っていた。
1980年にIAIはエンジンにブラット&ホイットニーを選定しF-15用のF100ターボファンを小型化しラヴィに搭載しようとした。ここから生まれたPW1120はF100より小型だが推力はほぼ同じ、部品互換性も70%を実現した。
1983年にボーイングとプラット&ホイットニーが「スーパーファントム」構想を発表しPW1120搭載で燃料消費効率を大幅に改良しファントムが50年代から搭載中のJ79ターボジェットより推力を3割増やすとした。ボーイングのスーパーファントムは機体一体型燃料タンクも備え飛行距離は倍増し主翼吊り下げ型燃料タンクより抗力を改善するとした。ただし米空軍は1984年に同構想の予算手当を取り下げた。
その後1986年7月にIAIがラヴィ開発を進める一方でF-4Eファントム336号機をテストベッドとし、J79エンジン1基をPW1120に換装した。おそらくボーイングが支援したと思われるが、その後PW1120双発になり1987年4月に初飛行した。
すべての面でエンジン換装後のファントムの性能はずば抜けており、F-4Eの推力重量比は0.86から1.04に変わった。(1.0以上で90度の垂直上昇が可能となる)スーパーファントムは上昇性能が36パーセント向上し旋回速度は15パーセント早くなった。これでF-15Eと同程度の性能となった。エンジンが軽量化したこと、燃料消費が改善されたことでスーパーファントムは航続距離も伸びた。
もっと驚くべきことはスーパーファントムでスーパークルーズが可能となったことで、アフターバーナーを使わずに音速以上の速度を維持できた。現時点でもスーパークルーズ可能な戦闘機はF-22ラプターのみである。
1987年のパリ航空ショーでベテランパイロットのアディ・ベナヤがスーパーファントムを操縦しスピンからの脱出を見せつけた。ドナルド・フィンクがAviation Weekに「むき出しのパワーで垂直方向の機体操縦とタイトな高G旋回を見せ、旧式F-4とは全く異なる飛行ぶりを見せた」と評している。
スーパーファントムの航空ショーデビューでIAIがPW1120改修に向かい各国で販売するとの予測が出てきた。だが結局スーパーファントムは販売されず、その理由には物議をかもすものがある。
スーパーファントム改修は非常に高額だったとの指摘がある。一機12百万ドルとされ、エイビオニクス改修、機体構造強化、特殊燃料タンクまで一式とされた。当時のイスラエル空軍機材がその段階で耐用年数が残っていたことも考慮すべきだ。
さらに二ヶ月後にラヴィ戦闘機開発が中止となったのは米国からの圧力も原因で第四世代戦闘機で競争相手を作りたくないとの思いもあった。PW1120が他機で採用されないことも調達コストの底上げにつながった。
とはいえ当時の噂ではファントムの原メーカーたるマクダネル-ダグラスの横槍でIAIのスーパーファントムが同社の新型FA-18C/Dホーネットの邪魔になると妨害されたとも言われる。スーパーファントムはFA-18Cホーネット(29百万ドル)と同水準の性能だったともいわれる。その段階でドイツ、ギリシャ、日本、イスラエル、韓国、スペイン、トルコ、英国で数百機のファントムが供用されていた。
マクダネル-ダグラスがPW1120を搭載したスーパーファントムの認証を拒みIAIは価格面で競争力のある同機販売ができなくなったといわれる。この噂は当時広く出回ったものの確認できなかった。
IAFは55機のクルナス-ファントムでエイビオニクス改修を行い、スロットルと操縦桿の一体化、APG-76ドップラーレーダーの搭載、ポパイ対地攻撃ミサイルの搭載が実現した。クルナス-ファントムは2004年に退役したがIAIは同様の改修をトルコ空軍機材に行いターミネーター2020の名称とした。この機材がシリア上空で活躍している。
日本がライセンス生産のF-4EJを2019年に退役させると、残る運用国はギリシア、イラン、韓国、トルコのみとなりすべて改修型機材だが2020年代まで飛行する。だが結局スーパークルーズ可能なファントムは実現しなかった。■
Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
Image: Wikimedia

コメント

  1. 日本も初期のF15のアビオニクス、レーダー、エンジンを米国に返却して、機体本体は日本で自由に改造できるように交渉できないですかね。老朽化した機体を新しい物に交換、補強して、F-3で使うレーダー、アビオニクス、エンジンを乗せて、F-3の各種機能の統合運用の母機として性能試験を行うことで、F-3実現が加速できないかなぁと思います。
    老朽機体を整備する手間より、ボディを新規設計したほうが安くて早いかもしれませんが。。。

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  2. 今頃になってこんな旧型機を新規生産して数十年後その維持と用途に苦しむ方がよほどの愚行でしょう。
    F-35の製造が間に合わないなら既存機を改修するなり延命するなりして時間を稼げば良い話。
    既存のインフラが使えるだの人員の教育が簡単で済むだなんて話は今だけの期間限定で、後々寿命がたっぷり残った時代錯誤の旧型機の維持と人員教育に苦労するのが関の山。
    ひょっとするとB-52のように新型機が引退して尚しぶとく生き残る存在になる可能性はゼロでは無いでしょうが、そんな博打に賭けるのはまともな政治家や軍人のすることではない。
    詰まる所この話はボーイングが空軍向け戦術機製造を継続する為の方便でしかなく実行戦力を無視した政治的茶番であると認識します。

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  3. スーパーファントムはネタレベルな話ですね。PW1120はミリタリー6tで500kg軽量なので、双発でミリタリー12tで1t減量ですから、空虚でやっと推力重量比1ギリギリかな。スーパークルーズなんて夢でしょう。どこかイカサマしてるような気がします。
    エンジン冷却にも問題があったという情報もありますし、燃費改善がメインで実現性も低かったのでは。今回のように新造ではなく、あくまで改修計画なので同列には扱えないでしょう。
    こんな話を持ってくるとは。これも当時、戦闘機へ参入したいボーイングの計画がきっかけでしょう。
    イスラエルはいろいろなしがらみで、しょうがない所がありますからね。

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  4. F-15Xは設計思想が今更の旧型機であるのは確かですが、F-35に問題発覚、前機運行停止になったときに、飛べる機体が無くなります。老朽化しているF-16やF15Eを延命しても維持費が更に高くなるだけに加え、では、新機種って何を調達するの?という問題あり。
    独仏の開発機?英国のテンペスト?まさか、トルコや韓国の戦闘機??
    まさかまさかのスホーイやJ-20とか言ったら世界が仰天します。

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  5. 冗長確保で新造機が欲しければ、F-16Vでもいいのでは。価格メリットはないでしょうが、圧倒的に運用費が安いですし。
    所詮は80機ですから、冗長であれば、F-22もあります。
    F-15にこんなに資金を投入するなら、F-22のアップグレードに金をかけた方がいいのでは。
    耐久性とステルス性の高いF-35の新コーティング導入やMADL導入、Link16の送信機能追加、使用可能武装追加などする事はいっぱいあります。

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