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2022年12月12日月曜日

米陸軍の次期強襲機材にティルトローター正常進化型V-280選定。ブラックホーク後継機になるのか。選定を巡り米国内で意見多出の模様。シコースキー=ボーイングは異議を申し立てるか

 A Reality Check On The Army Picking V-280 Valor Over SB>1 Defiant

Bell Screencap


米陸軍の将来型長距離強襲機材Future Long-Range Assault Aircraftの選定には意見があるが、決定には学ぶべきことがたくさんある

来型長距離攻撃機構想(FLRAA)のもと、米陸軍のH-60ブラックホーク後継機として、ベルのV-280 Valorがシコースキーとボーイング共同開発のSB>1 Defiantを破ったことへの反応は、控えめに言っても強烈だった。非常に強い意見が飛び交っているが、裏付けとなる実際の情報や逸話的な主張以上の直接的な洞察はほとんどない。むしろ、競合の目的から見て理にかなったものよりも、自分にとって最もクールでエキサイティングに見えるものを応援している向きが多いとさえ言える。実はこのプログラムは、単にブラックホーク後継機を探すというだけでなく、陸軍航空部隊の任務の存続に関わる重要プログラムであり、そのため陸軍は存在意義のあるプログラムとして捉えられているのだ。

陸軍がブラックホーク後継機として性能や能力の面で何を求めていたのか、陸軍は3年前にFLRAA要求事項を非公開ながら発表している。

しかし、いざ決定となると、どちらの機体についても、膨大なデータやコスト分析、開発・生産の見通し、性能指標などを知ることができなかった。だからといって、陸軍が賭けた馬が正しいとも間違っているとも言えないが、決断用の情報は我々よりずっと多くあったはずだ。

The V-280 Valor head-on. (Bell)

どちらの機体も、従来型回転翼機より性能が大きく飛躍していることを考えれば、このような能力を大量に獲得することのリスクは非常に高い。V-280には成熟度があった。これは避けて通れない。ベルは数十年をかけてV-22オスプレイを開発し、地球上で最も過酷な条件下で膨大な運用時間を積み重ねてきた。オスプレイにはまだ問題があるものの、大量の悪評や極端な論争を乗り越え成功を収めている。今日、MV-22とCV-22、CMV-22が毎日世界中で活躍している。これは事実だ。デファイアントのような複合同軸リジッドローターヘリコプターは、現時点で同じようなことをやっていない。

そして奇妙なことに、10年前にノースロップ・グラマンのB-21レイダーが勝利したように、Valorはベルの「ティルトローター2.0」としてオスプレイの欠点を補う設計だ。信頼性、ナセル設計、取得コスト、飛行時間当たりのコスト、搭載量など、あらゆる要素が含まれる。ベルは、半世紀にわたり、あらゆる試験で何百時間も飛行し、その間に動作範囲の可能性を探り、300ノットを超える速度に達した印象的なデモンストレーターを作りあげた。これは、リスクを大幅にさらに引き下げる非常に印象的な偉業であり、陸軍は、紙上の予測だけでなく、実績の裏付けあるハードウェアを購入したと実感するはずだ。

一方、「デファイアント」は「ヴァラー」以上に人々の心を捉えた。真新しく、未来的でありながら、同時にブラックホークに近い印象だ。それは完全に主観的な概念ではあるものの、多くの人にとって、よりタイトなパッケージであり、比較的複雑でないようにさえ見える。ヴァラーにはない「色気」があり、今やティルトローターは軍用機では当たり前の存在になった。同軸複合型リジッドローター構成は、そうではない。

デファイアントの魅力は、一部の目にはヴァラーに勝っていたかもしれないが、機体とその根本的な設計コンセプトはヴァラーよりはるかに未熟だ。現在ロッキード・マーチンの一部門であるシコースキーは、デファイアントとその小型版レイダーXを支える「X2」技術で十分な経験をしていないわけではないものの、世界中で何百機も飛行中の技術の発展型ではない。また、SB>1のデモ機もほとんど飛んでいない。これは事実だ。もちろん、事実は誰が見ても明らかだが、デファイアントは設計が成熟していない。しかし、能力とリスクのバランスを考え、このプログラムがいかに重要であるかを考慮すれば、陸軍の決断に影響を与えることができたはずだ。

A Black Hawk and the SB>1 Defiant side-by-side. (Sikorsky)

One of the stated advantages of the SB>1 is that it has a similar footprint as the Black Hawk it intends to replace. (Sikorsky)

One of the Defiant's claimed advantages is being able to get into tighter landing zones than its competitor. (Sikorsky)

また、コスト面も重要だ。開発費、取得費、維持費など、各チームがどの程度の価格で入札したかはわからない。大型軍用機を受注できるチャンスが少なくなっている今、各社は契約を獲得するため非常にアグレッシブになる。しかし、これは計画通りに物事が進まないと悲惨なことになりかねない。つまり、今勝利しても、その先に経済的な破綻が待っている。今回、低入札価格であったかどうかは分からないが、もしそうであったとしても、前例はない。

また、物流や性能での懸念もある。航続距離、速度、積載量、機動性など、どの機体が期待以上の性能を持ち、どの程度のコストで導入できるのか。どちらがより簡単に展開できるのか?どちらの機体もかなり大きいため、輸送に時間がかかり、規模が大きくなると問題が発生する可能性がある。

ティルトローターはいまだに一部で評判が悪いが、「ヴァラー」はオスプレイではないものの、オスプレイの数十年にわたる開発と運用の上に成り立っている。ヴァラーの緊急時自動回転能力や、より大きなフットプリントによる狭い着陸帯へのアクセスへの懸念は、まったくもって妥当なものといえよう。また、複合剛体ローター設計に見られる振動やクラッチシステムに関する歴史的な懸念でも同じことが言える。しかし、このような飛躍的な性能向上には、トレードオフがつきものだ。そもそも着陸地点に到達することさえできないのであれば、そんなことはどうでもよくなる。

陸軍航空部隊は存亡の危機を迎えている。陸軍航空部隊は、ヨーロッパと、ある程度は中東での短距離戦闘用に作られたのであって、太平洋の広大な土地で戦うためのものではない。戦闘半径が数百マイルになると、同規模の紛争が発生した場合、何千機ものヘリコプターの出番が突然なくなる。UH-60ブラックホークやAH-64アパッチを、ほとんどの作戦で効果を発揮できるほど近くに配備すれば、警戒心の強い敵の照準に真っ向からぶつかることになる。また、敵の反アクセス空間の奥深くで活動することさえ、従来のヘリコプターは非常に危険だ。射程距離とスピードがあれば、陸軍は戦力を取り戻せる。これは簡単なようで難しい。だからといって、これらの要素が陸軍の回転翼機の意義に関する問題をすべて解決するわけではない。生存率は大きな問題だが、将来の紛争でその価値を証明する長い道のりを歩むことになる。

では、より速く、より遠くへ飛ぶ航空機を手に入れるため、米陸軍は望みをあきらめることができるのか?筆者には、その答えは「絶対」だと思える。でなければ、陸軍の航空部隊の規模を、どうやって正当化するのか。こう考えると、航続距離が、多くの人が思う以上にこの決断に大きな影響を与えたのではないか?

このため、「ヴァラー」が狭い着陸帯に入れない、必要な機動性がない、自動回転できない、といった批判は妥当かもしれまないし、妥当でないかもしれない。しかし、将来の紛争で部隊の中核を担う新しい能力を必要とする場合、これらの批判はあまり気にならないかもしれない。

The Valor demonstrator during a test flight. (Bell)

A rendering of Valor flying in high-speed, low-level flight. (Bell)

それ以上に、この問題はまだ終わっていないことに注意しなければなならない。シコースキー=ボーイングは、おそらく今回の決定に抗議するだろう。そうすることを責めることはできないし、正当な理由があれば勝てるかもしれない。同時に、シコースキーのX2技術が、将来の武装偵察ヘリ候補として非常に有力であることも忘れてはならない。一般的なヘリコプター設計であるベルのインビクタス360より高性能であるため、デファイアントより小型で一般的構成を共有するレイダーXがフロントランナーであるとする説もあるほどだ。もしかしたら、ヴァラーとレイダー Xは、陸軍にとってドリームチームなのかもしれない。もし軍がベルのインビクタスを採用すれば、X2技術はレイダーXとして生産に移されることになる。つまり、オスプレイと「Valor」のように、「Raider X」はリスクを減らすことができる。

Raider-X prototype

Sikorsky's Raider X prototype under construction. (Sikorsky)

A notional image of production-representative Defiant X and Raider X aircraft on the ramp. (Sikorsky)

A render of the production-representative Defiant X. (Sikorsky)

また、シコースキーとボーイングがデファイアントをあきらめたとしたら筆者は驚く。国際的なものも含め、ヴァラーよりその能力に適した他の入札の可能性があります。また、米国の特殊作戦部隊は、歴史的に見ても活動領域が狭く、H-60ブラックホークに長く愛着を持っていることを考えれば、いつでも参入できる可能性がある。ですから、仮にヴァラーが今回選定されても、デファイアントには再参入の可能性もある。

もちろん、機体は、H-60後継機として大量購入できる価格であることが前提だ。また、H-60が陸軍で引き続き使用され、コストと能力の問題から、今後数十年の間にこの新しい高速機と並行して調達される可能性さえある。このように、レガシー・プラットフォームの全面代替を約束されながら、それが実現しなかったことが何度あった。F-15やF-22が思い浮かぶが、他にも多くの例がある。また、垂直上昇機に関しては、さらに大きな技術的飛躍が目前に迫っている。

V-280 flying over water. (Bell)

要するに陸軍がどうして今回の決定をしたのか、正確に理解するのに十分な情報がないということだ。あるデザインに特別な思い入れを持ち、それがどのように機能するかを推測することはよく理解できるが、これは現実ではない。

この決定について、近いうちにもっと情報が得られるよう期待している。■

A Reality Check On The Army Picking V-280 Valor Over SB>1 Defiant

BYTYLER ROGOWAY|PUBLISHED DEC 8, 2022 1:56 PM

THE WAR ZONE

 


2019年3月23日土曜日

新型機登場 デファイアントはシコースキー・ボーイング合作の同軸ローター複合ヘリコプター


Watch Sikorsky And Boeing's SB>1 "Defiant" Compound Helicopter Fly For The First Time シコースキー、ボーイング合作のSB>1デファイアント複合ヘリコプターが初飛行

The long delayed flight is a big accomplishment for team Defiant and marks a new stage in the fight to own the Army's future helicopter order book. 待望の初飛行はデファイアント製作チームに大きな一歩、陸軍の次期ヘリコプター受注を狙う


SIKORSKY

SB>1デファイアントが初飛行した。同軸ローター複合ヘリコプターの同機はシコースキーのウェストパームビーチ工場を3月21日7:47 AM離陸し、およそ三十分飛行し低速での操縦性を試した。推進用プロペラは今回は運転していない。初飛行成功はシコースキー=ボーイングチームに大きな一歩となりSB>1は陸軍の次期垂直飛行機材への採用で量産化を期待し、それ以外の需要も狙う。
同機開発には技術障壁が立ちふさがり、初飛行も一年以上遅れた。 他方で競合相手ベルのV-280ヴァラーが第二世代ティルトローター機として陸軍への採用を狙い、現時点で15ヶ月の飛行実績を有し、280ノットの前方飛行速度を達成したばかりだ。
シコースキー副社長(次期垂直輸送機担当)ダン・スプアは以下の報道発表をした。
「デファイアントは従来のヘリコプターのほぼ二倍の速度で二倍の距離を飛ぶ設計でありながら低速性能やホバリング性能はこれまでのヘリコプターに遜色ない。同機を敵地に送っても高い操縦性、生存性、柔軟性を発揮できる。本日の初飛行結果に高揚感を覚えつつ今後の飛行テストに期待している」
デファイアントはシコースキーの前作X2技術実証機のユニークな機体設計を拡大している。同じく同社がX2から発展させたS-97レイダー武装偵察同軸ローター複合ヘリコプターもSB>1開発の参考となったが、こちらはすでに数年前から飛行中で試作2機がテストに入っている。ロッキード・マーティンがシコースキーを傘下に収めたが、現在もシコースキーはブランドを残し独立事業体として運営されている。
デファイアントとヴァラーは米陸軍の共用多用途(JMR)技術実証機として競合する立場だ。陸軍は当初2017年12月にテストフライトを開始の予定だったがSB>1の製造が遅れ日程を先送りしてきた。
陸軍の狙いはJMRから次世代垂直飛行輸送機(FVL)の要求性能をまとめることにある。SB>1とV-280あるいは改良型がこのうち「中型機」の位置づけでUH-60ブラックホーク、AH-64アパッチ数百機の更新機材となる。シコースキー=ボーイングチームはデファイアントをブラックホーク後継機として売り込み、ガンシップ改装案をアパッチ後継機としたいとする。
LOCKHEED MARTIN
シコースキーのめざす高性能複合ヘリコプターの進展を示す図でSB>1からFVLに発展するとある。また「小型版」FVLはS-97から発展させるとある。


シコースキー=ボーイングチームは以前は2018年12月に初飛行を予定していたがテスト機に見つかった技術問題で先送りしており、その時点でも日程は遅れていた。
2019年1月末にロッキード・マーティンからデファイアントの地上運転状況を示す映像資料が公開された。
米陸軍はブラックホーク後継機の導入は2030年頃と見ている。
V-280 と SB>1がともに飛行可能となり、実入りが多い中型ヘリコプターの採用につながるため両社の競合は加熱するはずだ。他の競合相手の参入の余地はあるもののティルトローター技術が成熟化したとはいえ競合相手が登場し、陸軍以外の需要、外国軍への輸出、さらに民生分野でも大きな需要が期待される。
いいかえれば今回登場の試作機に大きな期待が寄せられている。■

Contact the author: Tyler@thedrive.com

2017年10月4日水曜日

★★目が離せない次世代ヘリコプター競作の行方



Bell V-280 Vs. Sikorsky-Boeing SB>1: Who Will Win Future Vertical Lift?

ベルV-280対シコースキー・ボーイングSB>1
FVL次期垂直離着陸機構想で勝つのはどちらか。

The Sikorsky-Boeing SB-1 Defiant concept for the Joint Multi-Role demonstrator, a predecessor to the Future Vertical Lift aircraft.
Bell graphic
Bell V-280 Valor Joint Multi-Role Demonstrator (CGI graphic)
By SYDNEY J. FREEDBERG JR.on October 02, 2017 at 2:02 PM

AMARILLO, TEX.: 米陸軍の次世代垂直離着陸機事業は現在のヘリコプターに比べ革命的な代替策のt実現を目指しているが、その実現方法は、またそもそもの理由は何なのか。答えは物理原則に基づくヘリコプター速度の壁にある。
  1. 競い合うベルシコースキーロッキード・マーティン傘下)はそれぞれこの壁を越えた画期的な高速回転翼機の実現を目指すのことでは共通だが、模索する方法が異なっている。ベルV-280ヴァラーは主翼がつき、燃料効率と長距離飛行性能でシコースキー=ボーイングSB>1ディファイアントより優れていることはあきらかだが、両陣営ともそれぞれの機体が機動性で優れていると主張している。
  2. では軍はどちらの設計案を採用するだろうか。海兵隊は画期的な回転翼機の導入に前向きで、すでにV-22オスプレイ(ベルとボーイングの共同事業)を導入している。空軍と海軍もオスプレイを導入している。だが陸軍は同機を一機も調達しておらず、米国最大のヘリコプター運用者としてUH-60だけでも2,000機超を運用中で後継機探しが課題だ。そこでベル、シコースキーにはともに陸軍の攻略が課題となる。
  3. そこでワシントンで来週開催される陸軍協会会議に先だちベルが記者を自社工場に招きV-280ヴァラーの利点を説き、SB>1の欠陥を吹き込んだのは驚くに当たらない。記者がシコースキーに対しベルへの反論を聞いてみたところ、同社は上席幹部を24時間もたたないうちに電話口に立たせ説明をしてきたのも驚くに当たらない。
  4. 両機では相違点もあるが、基本的な売り込み方は速力と航続距離で共通している。現在最速の陸軍ヘリコプターはCH-47Fチヌークで最高170ノットだ。つまり毎時195マイルで戦闘行動半径は200カイリ(230マイル)だ。これ以上の速度と航続距離を求めると根本的に違う設計が必要となる。ベル=ボーイングV-22がその答えで毎時270ノット(310マイル)で428カイリ(490マイル)まで進出できる。(これは空中給油なしの場合) これに対しFVL候補の二機種は初飛行をしていないが、ベルV-250が280ノット(320マイル)、シコースキー=ボーイングSB>1が250ノット(287マイル)を実現する。
  5. ヘリコプターは飛行せず、単に空中にとどまっているにすぎない。説明してみよう。
  6. 固定翼機ではジェットであれプロペラであれエンジンで前方へ進む推力がつく。前進で主翼上に気流が生まれ揚力となる。機体全体を前方へ動いて揚力を生むため、長い滑走路が必要となり、飛行中もたえず前方へ移動する必要がある。(速力が低すぎると失速し墜落の危険が生まれる)
  7. これに対しヘリコプターは主翼を回転させて気流を生み、揚力を得る。このため回転翼機と呼ばれる。推進力は回転ローターを傾けて生まれ、どの方向でも同じだ。このため垂直離着陸が可能となり、前後に移動できホバリングも可能だが水平飛行では高速移動できず燃料消費も劣る。
  8. 高速ではヘリコプターの回転翼があだとなる。半分は前進に機能するが残る半分が後退作用をもたらす。前進作用のブレードは確かに高速で揚力を生むが、後退ブレードはヘリコプターの速力を減らす効果を生み、揚力効果も少ない。
  9. 低速では前進後退ブレードの違いはほとんど気にならない。だが速度が上がると前進ブレードの速力は音速に近づき、危険な振動が生まれる。一方で後退ブレードは揚力が足らず失速気味だ。この時点でパイロットには速力を下げるか墜落するに任せるかの二者択一しかない。
  10. このヘリコプター特有の速力上限を打ち破るには二つの方向がある。ティルトローターと複合推進だ。前者がベルV-280、後者がボーイング=シコースキーSB>1で、単純に言うとティルトローターには主翼がつき、ローターブレイドが角度の変化でヘリコプターのローターまたはプロペラの機能を果たす。複合推進では主翼はなく、ブレードを二基つけ一つを回転翼としもうひとつをプロペラとして利用する。
  11. V-22の場合は1970年代に実験機XV-15で知見を積み2007年に軍での運用を開始した。ベルはティルトローターで業界をリードし、高速飛行と燃料消費の向上を一気に実現した。ただし欠点は機械系統が複雑で、ティルト機構が重量増につながること、また飛行中にモード変更の必要があることだ。
  12. シコースキーの複合ヘリコプター実験も1970年代にXH-59実験機で始まり、X2実証機に進化した。(同機はスミソニアン博物館で展示中)S-97レイダーに発展しさらにSB>1になったわけだ。「複合」と呼ぶのはブレード二式があるためで、同軸ローターふたつが反転し、各ローターが生む揚力がバランスを取り、夫々の後退力をうちけすものの高速では過剰振動は消えないが、ローター機構は強固になっており振動制御機構も高性能になっているとシコースキーが説明している。
  13. 次に高速飛行の実現のため機体後部に推進プロペラを搭載している。複合ヘリコプターがホバリングする際は機体上部の双ローターにエンジン出力の大部分を伝えるので従来型と同様だ。高速前進飛行に入るとエンジンは9割の出力を後部推進プロペラに伝え前方飛行の推力とするので従来型のプロペラ機と同様になる。
  14. どちらが優れているのか。答えはミッション内容とともに何を重視するかで変わる。
  15. 複合ヘリコプターは「長距離飛行ではティルトローターより効率がやや劣る」とシコ―スキーのイノベーション担当副社長クリス・ヴァン・ブイテンChris Van Buitenが認めている。「だがミッションは長距離を飛べばよいという単純なものではありません。ティルトローターは確かに巡航時は効率が優れますが目的地近くで苦労することになります」
  16. 現行ブラックホークの後継機として砲火の下で狭い地点に着陸し、兵員を下ろし手から離陸する必要がある。できれば後退方向へ飛行すれば機体を旋回させる必要がない。アパッチの後継機種には低空飛行とともに低速飛行で地形の陰に隠れ敵の対空装備から逃れつつ臨機応変に姿をあらわし機関銃ミサイルで攻撃する能力が必要だ。ローターが傾くまで待っているような余裕はないはずとヴァン・ブイテンは述べる。
  17. ベルは当然ながらこれに反論する。V-22から多大な教訓を学んだとV-280事業主査クリス・ゲーラ―は述べており、「低速域での取り回しは大幅に改良された」と報道陣にアマリロ工場で語っている。このためローターの挙動の変更が必要となり、素材面で進展があり機体に対しローターが大型化された。V-280はV-22と同程度の機体だが重量は半減しており、低速度では「V-22比で制御に回せる出力が5割増えた」とゲーラ―は述べ、ブラックホーク、アパッチをしのぐ水準だという。
  18. 高速域ではティルトローターの利点が生きて複合ヘリコプターより操縦性が高いとゲーラ―は説明する。「現時点の複合同軸ローターでは高速回転がまだ未解決です」という。
  19. たしかに初歩的な複合ヘリコプターではそれは正しいが自社製品にはあてはまらないとヴァンブイテンは述べる。その理由として反転回転ローター二つの効果が大きいという。「高速飛行時にローターが主翼同様の効果を生み相当の機動性が実現しています」
  20. では外部専門家はどう見ているのだろうか。「総じてティルトローターでは複合ヘリの機動性敏捷性は期待できません」とTealグループの航空アナリスト、リチャード・アブラフィアは述べる。
  21. アブラフィアはミッションが異なり運用部隊が違えば機体も異なって当然と記者に述べた。軍としてはティルトローター、複合ヘリコプター、従来型ヘリコプターをそろえるべきという。今のところは陸軍が次世代推力離着陸機事業で中心となっているが、「陸軍回転翼機の圧倒的大部分の任務は輸送で、FVLの利点が生かせません。ただしボーイング=シコースキーのレイダーを偵察攻撃ミッションに投入してはどうでしょう。残存性と攻撃力は十分あるはずです」
  22. 「V-280には海兵隊向けの設計思想が見えますね」とアブラフィアは指摘する。各種作戦や多様なドメインでの戦闘を口にするものの陸軍が速力と航続距離だけに大金を払う意思があるのか疑問視している。すでにV-22でこれは実現しているではないか。そこで次のように推察している。海兵隊はティルトローターを重視し、陸軍は従来型ヘリコプターの改修を続けながら複合ヘリコプター少数を調達し、ガンシップ兼偵察機に使うのではないか。■