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2022年8月6日土曜日

米特殊作戦司令部が採択した農業機原型のこの機体が対中国作戦で有効となる理由とは....

 

(L3Harris)



特殊作戦司令部は、L3Harris TechnologiesのAT-802U スカイウォーデンSky Wardenを採用したと8月1日発表た。最新鋭戦闘機では対応できない厳しい環境下で、エリート戦闘員に武装監視を提供する。スカイウォーデンの任務は太平洋の激戦区から遠く離れた場所でも、発展途上国における中国の影響力拡大に対抗する上で、極めて貴重であることが証明されるかもしれない。



米国が近代的なプロペラ機を購入するのは初めてではないが、スカイウォーデン調達はここ数十年で最大規模であることは間違いない。2013年、米空軍はアフガニスタン空軍向けに、エンブラエルA-29スーパーツカノ軽攻撃機を20機購入した。しかし、スカイウォーデンの契約は、航空支援、武装偵察、攻撃の役割を果たすために、米特殊作戦司令部(SOCOM)に75機導入される。


L3Harrisの会長兼CEOクリストファー・キューバシクChristopher E. Kubasikは、「当社の戦略の重要な部分は、戦闘指揮官のニーズを傾聴し、進化する脅威により早く対応することです」と述べ、「当社は、ゲームを変える装備品を提供したいと考えています」と語った。



(L3Harris)


米国が「過去の遺物」の攻撃機を選択した理由


アメリカ軍の焦点は、対テロ戦争から、中国やロシアといった競合相手への抑止に大きくシフトしているが、アメリカ軍は、世界各地で対過激派活動でパートナー軍を支援し続けている。これらの活動は、アメリカの空軍基地や、アメリカの最新鋭機の多くをサポートするために遠隔で厳しい環境で行われることがよくある。


SOCOM司令官リチャード・D・クラーク大将Gen. Richard D. Clarkeは、「アームド・オーバーウォッチは、米国特殊作戦軍が国家防衛戦略の一環で世界各地の作戦を実施するための重要なニーズに応えるものだ」とリリースで述べている。


「頑丈で持続可能なこの機体は、世界中の制空権確保済みの環境と厳しい条件下で運用でき、地上の特殊作戦部隊を保護する」。


そこで、AT-802Uの出番となる。低コストの同機は、厳しい環境の滑走路で離着陸し、最小限の後方支援で飛行運用できる。第二次世界大戦時のような機体だが、かなりのパンチ力がある。



ISRストライクシステムを搭載したスカイウォーデンのコックピット (Courtesy of L3Harris)


L3 Harris社によれば、AT-802U スカイウォーデンは「堅牢な無線機とデータリンクのセット」を提供し、見通し内および見通し外で通信手段複数を提供するのに加え、電気光学/赤外線、情報、監視、偵察(ISR)スイートなどの様々な特殊センサーを搭載でき、現場での特殊工作部隊の支援に適している。


「何が起こっているかを認識し、数歩先を読むことができるCASプラットフォームが欲しい...」と、元空軍の戦闘統制官を勤めたザック・アスムスはサンドボックスニュースのインタビューに答えている。


SKY WARDEN


スカイウォーデンのコックピット (L3Harris)


さらに、半径200海里以内で滞空6時間、6,000ポンドのペイロードを搭載することが可能で、高速ジェット機の法外な運用コストなしに、強力な航空支援機材となる。


「また、滞空時間も重要だ。高性能センサーを搭載した航空機があれば、悪いことが起こる前に警告を発することができ、非常に価値があります」(アスムス)。


スカイウォーデンの契約は、2026年に初期運用能力(IOC)、2029年に完全運用能力の達成を目的とし、170百万ドルの初期契約金と30億ドルのプログラム上限が設定されている。


スカイウォーデンは、紛争空域で生存できなくても、中国への対抗手段としては有効だ


L3Harris and Air Tractor Sky Warden Team Selected for USSOCOM Armed  Overwatch Contract | L3Harris™ Fast. Forward.


(L3Harris)


近年の中国の急速な軍拡は、南シナ海全域の領有権を違法に主張する努力とともに、中国をソ連崩壊以降最大の米国の海外利益への最強力な脅威としている。今後数十年の間に米国に代わり世界の支配的な大国となるのを目指す中国の「2050年」計画がよく知られていることから、両超大国間には今後も緊張が続くと思われる。


しかし、この競争は、今後しばらくの間は、超大国間のおおっぴらな戦争として現れる可能性は低い。過去数十年間、米ソ間の直接衝突を耐え難いものにしてきた相互確証破壊(MAD)ドクトリンは、米中戦争でも有効だ。しかし、核兵器の応酬とまではいかなくても、米中戦争は両国が世界の経済成果物の40%近くを占めると推定されることから、世界経済に対して実質的に核兵器と同じ影響を与える可能性がある。そのため、途上国での代理戦争が復活する可能性が高い。


冷戦時代、米ソはパートナー国や代理軍を活用し、表立った外交と秘密裏の軍事行動や支援を通じ、世界中に影響力と戦略的レバレッジを拡大した。このような競争は、地理的に貴重な場所、あるいは重要な資源が未開発の地域、すなわちアフリカや中東で確実に発生するといってよい。


しかし、米国と同盟国がこれらの地域で作戦経験を蓄積する間、中国は眠ってくれるわけではない。中国は「テロとの戦い」にほとんど関与していないが、経済・インフラ計画を通じ、該当地域で影響力を拡大しつつある。中国としては、そうならないことを望んでいるようだ。債務不履行に陥れば、融資の利子を支払うよりも戦略的な価値が高まるからである。


「アフリカの各都市で進行中の3階建て以上のプロジェクトや長さ3キロメートル以上の道路は、中国が建設・設計している可能性が高い」。中国とアフリカの都市化の専門家で、作家でもあるダーン・ローゲビーンは、次のように説明する。「至るところにあります」。


発展途上地域では、アメリカの特殊作戦部隊は、シリアで見られたような、現地のパートナーと共に戦うこともあるが、顧問的な役割を果たすことが多い。シリアで見られたように、こうした許容範囲の広い環境での航空支援は戦闘作戦の成功に不可欠である。


そのため、スカイウォーデンは太平洋上で中国への対抗に適した機材ではないが、同じ地域や類似の地域で進行中の対テロ作戦でパートナー軍と一緒に動く特殊作戦部隊を支援することで、中国の影響力に対抗する役割を果たすことはほぼ間違いない。このような小規模紛争が、やがてアメリカと中国の支援を受けたグループ間の競争に発展する可能性もあり、スカイウォーデンのISR能力は貴重なものになる。


スカイウォーデンが新たな役割で非常に効果的であることが証明されれば、そのプロペラの回転音は、該当地域のパートナー軍へのアメリカの支援を鮮明かつ有意義に表現するものになる。


Sky Warden™ ISR Strike Aircraft | L3Harris™ Fast. Forward.


飛行中のスカイウォーデン (L3Harris)



SOCOMのスカイウォーデンは、どれほどの性能を持つのか?


AT-802Uスカイウォーデンは、F-15EストライクイーグルのようなスピードやF-35統合打撃戦闘機のステルス機能はなく、高価な機材が活動する紛争で戦う想定はない。その代わり、スカイウォーデンは、最小限のインフラしかない厳しい環境で活動し、現場の特殊部隊に不可欠な支援を提供することを目的としている。


「アームド・オーバーウォッチ・プラットフォームのアイデアは、モジュール式であるため、現在のISR専用プラットフォーム大部分を上回る堅牢なセンサー群を航空機に装備することだ」。空軍特殊作戦司令部のジェームス・C・スライフ中将 Lt. Gen. James C. “Jim” Slifeは4月に議員に「同機は強力な精密弾を装備できる」と述べている。


重要なのは、スカイウォーデンが運用コストが高く、攻撃能力もないU-28ドレイコISR機の28機に交代することだ。


U-28 Draco (U.S. Air Force photo)


AT-802Uスカイウォーデン自体は昨年5月に発表されたばかりの新しい機体だが、原型のエアトラクター製農業用航空機AT-802には、30年以上にわたり各種用途に使われてきた歴史がある。


AT-802は、米国務省が中南米やカリブ海の麻薬畑に除草剤散布で使用している。その他、アラブ首長国連邦、ヨルダン王国空軍(RJAF)などで改造され、武装したAT-802が長年にわたり使用されてきた。既存の生産ラインを活用し、初期調達コストが低く、新規発注までの期間も短いのが特徴だ。実際、今回の契約でエアトラクターと提携したL3 Harrisは、わずか12ヶ月で納入を開始できるとしている。


新型スカイウォーデンがSOCOMに提供する武器やISR性能はまだ確定していない。同機は今後、テストのために新しい生産構成に「迅速に」変更されのに約半年かかると予想される。しかし、SOCOMのスカイウォーデンには任務や作戦環境に応じ迅速に装備等を交換できる。


「『アームド・オーバーウォッチ』は、地上部隊が直面するあらゆる戦術的状況に対する万能薬ではない。しかし、想定される永続的な対過激派組織任務には、適切な投資だと考えている」とスライフ中将は議会証言している。■

 

SOCOM's new prop-driven attack plane can actually help counter China - Sandboxx

Alex Hollings | August 2, 2022

 

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


2019年5月19日日曜日

いざというときに頼りになるデルタフォースはこうして生まれた

The U.S. Army's Delta Force: How This Secret Group of Deadly Soldiers Came to Be 米陸軍デルタフォースはこうして生まれた

陸軍デルタフォースは創設以来30年以上がたち、その間にハリウッド映画数本が製作されたが、今でも一般大衆の眼が届かない最上級の特殊部隊である。ペンタゴンは同部隊の詳細はごくわずかしかあかしておらず、組織の全体像はともかく隊員総数も不明のままだ。
正式には第一特殊部隊作戦分遣隊Dとして陸軍の一部となっており役所仕事のしがらみから脱せず過去の活動記録の一部は公開されている。
米陸軍は当初デルタフォースを「世界各地に展開可能な部隊で国際テロ活動含む重要局面で適切に対応が取れる部隊」として想定していたのが陸軍戦史センター所蔵の1977年の提案説明でわかる。
同センターには陸軍各部隊の出自記録も保存されており、戦史とともに戦功もわかる。これまでの地上戦全てで動員され活躍した部隊を把握している。
だがデルタフォースと海軍のSEALチームシックスの出自を探ると1970年代の政治的波乱状況にたどり着く。当時のワシントンはテロ活動が欧州や中東で激しくなる状況を目の当たりにしていた。
1972年にパレスチナ戦闘員が世界を驚かせた。イスラエルのオリンピック選手をミュンヘンで襲撃したのだ。急進派小集団やバスク民族分離主義派が爆弾テロや暗殺をヨーロッパ各地で繰り広げていた。
そんな中一人の陸軍士官が上部を動かしデルタを創設した。その人の名前はチャーリー・ベックウィズ大佐である。
1960年代にベックウィズは英国の22特殊空挺任務(SAS)連隊に加わりマレーシアにいた。ベックウィズはデルタのヒントをSASから得た。
「今回提案の組織は高度に専門化された部隊として相当の職位の組織として小規模チーム構成で高度訓練を受け、心理的に対応準備ができた隊員で現場判断を下せるものとする」と創設前の資料にある。
こうした目標設定は多分にベックウィズがSAS隊員を参考にまとめたものだ。特に隊員選定方法に好印象を受けた。
「(SAS)連隊とは結局個々人の隊員で構成し、単独になることを楽しめる隊員で自らで考え行動できるものとして強い精神と決意を有するもので構成している」とベックウィズは自叙伝デルタフォースに記したが本人は1994年に死去している。
分析には組織構成案もつき、組織装備表(TOE)とある。陸軍ではこの資料を出発点に配備人員数を決定したり装備品を選定するのが常だ。
デルタフォースも例外ではない。1978年7月時点で正式なTOEがついており将校21名下士官151名とある。
提案の組織は2つにわかれ、事務手続きを担当する部門と実際に作戦投入される部隊だった。状況により医官、情報官、無線通信担当を事務部門から派遣しミッションを実施する。
作戦部門はE分遣隊と呼ばれ20名単位のチーム四個で構成するF分遣隊も指揮下においた。
この呼称は特殊部隊をABCの各分遣隊とする基本構造にならったものだった。12名体制の作戦分遣隊は通常は「Aチーム」と呼び、陸軍のエリート部隊の単位だ。
チームの規模拡大でデルタへ配属される将校が増え、通常の特殊作戦部隊より高位の者が配属された。現在の陸軍歩兵中隊は隊員130名以上が配属で将校は5名に過ぎない。
「作戦の性質上秘匿性が高度で必要とされる特殊技能訓練も高度になるためこの構造が許される」と検討案にある。「必要な能力水準は新兵や任官まもない中尉レベルでは得られにくい」
デルタの将校に大尉未満はいない。下士官では最低でも2等軍曹だ。
F分遣隊の下士官が中心の「実行者」となると検討案は記述。F分遣隊は20名規模のチームであらゆる任務をこなす。
英陸軍のエリート部隊と同様にこうした「組織内戦闘員」は「単独工作員」の行動を求められると検討案は見ていた。
ベックウィズと違い陸軍は特殊部隊隊員は訓練に長時間を使い外国では友軍と共同作戦すべきと考え、強襲作戦の単独実施は想定しなかった。現在でも陸軍特殊部隊は米同盟国と共同作戦体制維持に相当の時間を費やしている。
デルタが当初の組織でいつまで維持されていたかは不明だ。公式戦史は1979年以降の更新がない。
その翌年に同部隊はテヘランでイラン革命以後人質になっていたアメリカ市民の救出作戦に失敗した。強襲作戦は中止され特殊部隊隊員8名が死亡している。
現在の同部隊は高度に訓練を受けた隊員千名程度の構成だろうとNot a Good Day to Die: The Untold Story of Operation Anacondaの著者ショーン・ネイラーが記している。
最近の事例では2014年7月にシリアのイスラム国戦闘員に拉致された米ジャーナリストのジェイムズ・フォーレイ他人質を同部隊が奪還している。ただし翌月にスンニ派過激主義集団がフォーレイを殺害した。

デルタの構成がどうであれ、ベックウィズの遺産が今も影響を与えているのは明らかだ。■