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2016年6月27日月曜日

ブレグジットとトランプ:なぜエリート層はショックを受けているのか



Why Do Brexit and Trump Still Shock National Security Elites?

Donald Trump supporters at a campaign rally at the Greensboro Coliseum in Greensboro, N.C., Tuesday, June 14, 2016.
BY KEVIN BARONEXECUTIVE EDITOR, DEFENSE ONEREAD BIO
8:29 PM ET
ブレグジットで判ったこと:結局、耳を傾けず、理解せず、意思疎通せず、説明もしていない。

LONDON – 6月23日の出来事を追っていただろうか。ブレグジットは関心を引いただろうか。この記事をご覧の皆さんは国家安全保障専門家あるいは外交政策にご関心の向きだろう。国民投票結果に恐れを感じ、トランプ候補のメッセージにも脅威を感じるのなら、大衆に非を求めるのはやめてご自分のことを考え直した方がいい。
  1. こんなのはいかがだろうか。もう一度各種記事を読んで米国人、英国人が安全保障の専門家知見から距離を置く理由を考えてほしい。その次にこのブログを閉じて周りの人に説明してほしい。どんな仕事をしていてどれだけ重要な仕事なのか。またその政策実施がどれだけアメリカを再び偉大な地位につけられるかを。これはトランプが実行していることだ。トランプは市井の人々を巻き込んでいる。あなたはしていない、あるいはしているつもりでも十分ではない。
  2. ロンドンでこの四月にアスペン安全保障フォーラムがあり、参加者のほとんどがEU離脱に反対の上、離脱の可能性はないとしていた。なぜ英国が世界規模の安全保障、情報利用の機会を放棄し再度自国で作り上げる必要があるのか。ブレグジットに一票を投じるのは自分の顔から鼻を切り取ることではないか。(鼻とは法執行、情報活動、軍事保安作戦の総称だ)
  3. ワシントンの国家安全保障専門家のほぼ全員がドナルド・トランプを最高司令官とすることに反対している。共和党指導部でさえトランプの安全保障観を憂慮している。イスラム教徒への態度、イスラム国へ核兵器投入を許容する姿勢であり、NATO解体もある。先週もネオコンの長老ロバート・ケイガンがヒラリー・クリントン支持に回り、保守派著述家のマックス・ブートもロサンジェルスタイムズ紙上でトランプに苦言を呈している。
「トランプは傲慢な扇動家で人種差別、女性蔑視、陰謀論へ誘導を図っている。貿易保護主義や孤立主義の第一人者だ。だがその考え方が大恐慌と第二次大戦につながったのを忘れてはならない。警察国家さながらに不法移民の一斉取り締まりを望み、イスラム教徒の入国禁止を主張する。支持者に反対勢力を襲うようけしかけ、批判勢力には訴訟や中傷をそそのかす。日本や韓国を見捨てて史上最高の同盟のしくみNATOを解体すると公言。その発言はまるでウラジミール・プーチンのような独裁者の観がある。
「ここまで不適格な候補者が大統領選に党大会で推挙された例は米史上にない。トランプ当選のリスクこそ米国にとって最大の国家安全保障上の脅威だ」

  1. まだそこまでいっていない。トランプは生きており、ブレグジットは起こった。
  2. 「トランプ現象とブレグジットは類似している」とスティーブ・カル(メリーランド大公共政策研究所長)は指摘する。「共通するのは利益を感じられない政策が決められているとの国民感情だ」としさらに「選択の絞り込み作業が民主的でないし、公共の利益の方を向いていない」ため国民の意見を反映していないとする。「そこで国民はトランプかサンダースかの選択に向かう」と政策こそ全く反対方向だが反体制派として共通する両候補に言及している。
  3. 言い換えれば、国民は政策に反対しているのではない。一度も意見を聞かれなかったことを問題視しているのだ。そもそも政策決定の仕組みに組み込まれていないのに負担だけ求められていると国民は感じている。エリート層はアメリカを世界を導く国にしておきたいと国民は感じとっており、意見を聞かれない間にグローバリゼーションは税負担増や歯止めのない移民受け入れ、国境警備の形骸化、失業、その他あらゆる不平不満につながると見ている。読者の中にはこれは孤立主義であり誤った主張だと一蹴する向きもあるかもしれない。
  4. 「国民の動向を孤立主義と片付けるのは正しくないでしょう。アメリカの特別視に反対しているのです」とカルは述べる。
  5. トランプへ票を投じる層はブレグジット同様に国粋主義の最右翼であり良き時代のアメリカが戻るのであればアメリカの力を一部放棄してもよいと考える。カルによれば調査対象のグループで「世界秩序の名のもとにあまりに多くの服従を強いられている」とか「本来より高い負担を強いられている」との主張が繰り返し見られるという。また「外交政策のエリート層の理想、アメリカの支配に対する自信過剰、強迫観念が結果高い出費につながっている」とも聞こえてくるという。
  6. 政界は今こそ目覚めるべき時だ。
  7. ご自分の国家安全保障観が正しいと信じるのであれば、国のためになっているということであり、全米有権者を納得させることができるはずだ。白書、会議、政策サミットなどの手段でワシントンなら有権者向きの仕事ができる。だがワシントンを一歩出ればだれも皆さんに耳を傾けない。国民に接触する方法が見つかれば国民の考えも変わるかもしれない。もっといいのは何もしないことだ。
  8. クルの調査チームは複雑な外交問題を一般大衆に尋ねても回答はほとんど無意味だと突き止めている。だがもし国民を教育すればその判断はエリート層の考えと同様になるとも判明している。クルは「市民内閣」を八州で組織し合計7千名を作業チーム同士の論争に参加させたところ良好な成果を得ている。
  9. 「参加者に争点を説明し、賛否の主張をすべて解説して総合的な観点で提言を求めた」のをTPPのような複雑な問題に応用した。その結果、クルによれば参加者は「実にうまく扱えること」ができたという。
  10. またこの手法を応用すれば真の世論の抽出に非常に有益だという。例としてイラン核交渉がある。クルによれば世論調査では「首尾一貫しない」回答が出ている。質問文を一言を変えるだけで回答結果は大きく変化したが、市民内閣で有権者は政策選択結果を信頼することが判明したという。
  11. この手法ならエリートがすべて決めているとの見方を解消できるのではないか。クルによればTPPでは「企業の利益の名目で中間層に犠牲を求めるのだから企業にとって都合のいいことに反対だ」との声があり、移民問題では米エリート層は低賃金労働で企業に利益を生み出す政策を作っているが、勤労家庭には益がない。だが一般国民に政策の背景を説明すれば、他国との協力も受け入れ、国連の仕組みを尊重し、他国が負担増を受け入れるのであればアメリカ第一の考えも一部放棄してもよい」と考えるようになるという。「トランプはこの手法を使って、有権者に話しかけている」とクルは述べている。
  12. たしかにそうだ。トランプは朝令暮改さながらに英国国民投票についての意見を変えている。「これは英国のヨーロッパ連合からの独立宣言であり、政策、国境、経済で主権を再び回復したのだ。来る11月には全米の有権者にも独立を再宣言する機会がやってくる。有権者は貿易、移民、外交それぞれで一票を投じることができ、国民第一が実現する。今あるルールは世界のエリート層がつくったがこれを白紙に戻し、国民の国民による国民のための政府を実現する機会がやってくる」
  13. お分かりだろうか。トランプは米国民に参加を求めているのであり、有権者には政策云々よりもこちらの方が重要なのだ。
  14. 「トランプの外交政策に有権者がそのまま賛成しているわけではない。アメリカ第一の姿勢は孤立主義の様相を秘めている」とクルは指摘する。「有権者はそれ以上を期待している。参加を望んでいるが、現状のやり方には満足していない。微妙な点です」
  15. 一部は可能だろう。今週末にTruConがある。毎年恒例のワシントンでの会合でトゥルーマン国家安全保障プロジェクトのメンバーが全国から集まり、政策目標を論じ、その後各地に戻り、リベラルより左寄りの外交、安全保障その他の政策を広めるのが目的だ。参加者はおよそ1,500名で次世代の公職者他指導層に福音を伝えるエリート層だ。左翼右翼を問わず国家安全保障問題を国民各層に伝える機会があることはいいことで、共和党OBのネットワークからかい離できるはずだ。だがそれだけでは十分ではない。
  16. もっと有益なネットワークがある。米軍である。軍が隊員勧誘に大金を使うのは理由がある。高校でのROTC勧誘、NASCARレース場、NFLの会場さらに全国各地の入隊勧誘事務所を通じ米軍の姿はどこでも見られるアメリカ精神を形作っている。これを安全保障でも行えないか。
  17. 全米児童は米政府の仕組みを学ぶ。だが米国のグローバルなリーダーシップを学ぶ機会はどこにもない。時事問題、外交政策、国際関係、世界のしくみ、NGO、中東問題、中国の台頭、経済問題、地球気候変動、海外市場、外交、外国の言語文化、限りなくリストはひろがるがすべて学習の必須項目に入っていない。
  18. クルの調査研究成果からもしアメリカ人が「市民内閣」を各種問題で経験すれば相当変化し投票行動も変わり安全保障のエリート層と近くなることこそあれ反発はなくなるという。
  19. そこで読者諸氏も驚いてばかりいるのはなく、ツィッター上で赤面するような意見を表明しEU離脱を求め読者の意見に反対するような有権者、あるいはトランプの視点でものごとを見る有権者を止めるべきだ。ツィッターは全米国民のほとんどは使っておらず、投稿することは自問自答するのと大差ない。
  20. 読者諸氏の安全保障面での指導性により多くの米国民(英国民)の信頼を集め関与させたいのなら、国民の基本的な考え方を変える何かを始めるべきだ。運動を始める、より効果的な発言をする、などだ。自説を強調し熱意をこめて話しかけるべきだ。だがこれは首都を離れた場所で行うことが肝要だ。いかにも驚愕しているとの演技はやめよう。■

2016年6月26日日曜日

★ブレグジット後の英国防衛政策はどうなるのか



なんといっても先週の大きな話題はBrexitで結構な差で離脱が決まりましたね。英国内ではまだ動揺が続いているようですが、英国はNATO脱退まで決めたわけではありません。それでも経済パフォーマンスが落ちることを前提に早くも国防力縮小の議論が発生しているようです。これを機会にロシアが勢力を伸ばすことは許容できませんので、欧州特に西欧の防衛面の結束はますます必要で、EUがだめでもNATOは一層重要性を増してくるでしょう。その中で日本のNATO加盟(NATOの改組が当然必要です)もそのうち議題に上るのではないでしょうか。週明けの金融界は大変でしょうが、経済論理より正当な扱いを受けていないと感じる政治感情の方が強いことが証明された事件で、これから世界は大きく変わるのではと見ています。

After the Brexit, What's Next for Defense?

Andrew Chuter12:10 p.m. EDT June 24, 2016
TOPSHOT-BRITAIN-EU-VOTE-BREXIT(Photo: LEON NEAL, AFP/Getty Images)

英国は未知の世界に突入した。国民投票でEU離脱が決まるとアナリスト、関係者それぞれが国防関連の影響を憂慮し始めた。
  1. 直近の影響は政治面ですでに現れており国防支持派の首相ディヴィッド・キャメロンが辞任を発表し10月までに退陣する。
  2. ジョージ・オズボーン蔵相も辞任と見られる。オズボーンは国防省の実績に不満を持ちながら戦略国防安全保障見直し strategic defence and security review, SDSR で今後五年間の国防支出増を昨年11月の認めた
  3. 欧州残留を希望したスコットランド自治政府も独自に国民投票を実施し連合王国残留の可否で民意を問う可能性が出てきた。
  4. スコットランドが分離独立すれば軍事作戦上で大きな影響が発生する。ファスレーンの原潜基地だけの問題ではない。与党スコットランド国民党の公約は英海軍の弾道ミサイル原潜、攻撃型原潜をスコットランドから追い出すことだ。
  5. だがEU離脱の影響は国防面でもっと緊急の課題を生むとの分析がある。
  1. 「離脱後に歳出見直しは必至な中で国防費が削減対象外というのは非現実的」とマルコム・チャーマーズ英シンクタンクRoyal United Services Instituteの副所長は述べる。
  2. 「財源が減れば政府は戦略の優先を従来のグローバルな役割から欧州同盟国と同じ水準に再調整を迫られるでしょう」
  3. 23日の投票後にチャーマーズが出したレポートでは短期的な支出削減の可能性は十分あるが、国防予算への長期的影響を左右するのは経済実績の悪化の程度次第としている。
  4. 元軍需調達大臣のピーター・ラフは保守党政権は歳出削減に及び腰となりNATO加盟国の防衛費2パーセント水準目標を達成できずに問題を再発させたくないはずと見る。この水準はオズボーン蔵相が昨年の支出見直しで了承している。
  5. 「緊縮予算は必至だったが蔵相が2パーセント公約を守ったのは極めて勇気のいる行為だった」と評価し、「保守党は懸命に国土防衛を継続しており、国会議員からの支援は強い。蔵相人事は見えないが支出削減に動かないだろう。削減が必要なのは事実だが次の首班人事次第でしょう」とラフは述べた。
  6. 予算編成の圧力の中で国防予算水準をどこにおくか疑問が出ている。
  7. 国家監査局による先週の報告では国防予算は256億ポンド(350億ドル)でSDSRでボーイングP-8哨戒機の調達も決まっている。
  8. これに対してチャーマースは政府はSDSR内容を見直し「EU離脱で生まれる新しい状況に国防安全保障政策全般を合わせる好機だ。政府は特にフランス、ドイツと密接に動くべきだ」と主張する。
  9. ラフは2015年度SDSRは現時点で負担不可能で予算調達できないと指摘する。「あくまで願望であり実現は無理」
  10. 「英国は軍事活動の中心をヨーロッパの安全確保に移すべき」とチャーマースは述べる。
  11. これに対し国防コンサルタントのハワード・ウィールドンは英国離脱の直近の影響は最小限と見る。
  12. 「長期的な影響は首相人事で今と同様の国防支出の考え方が続くかで大きく変わります。次期蔵相は国防省にSDSR2015の見直しを強く迫ると見ています」
  13. ウィールドンはEU離脱でP-8およびAH-64E攻撃ヘリコプターの調達契約発表がまもなく開催のファーンボロ航空ショーで取り消しにはならないと見る。
  1. 匿名条件の国防企業幹部は不確実ではあるものの中核事業は政府承認を受け前進するはずと語った。
  2. 「今の勢いを殺したくないです。ビジネスは予定通り進むと見ていますが、途中で変更が発生するかもしれません」
  3. 次期原子力潜水艦事業は総額300億ポンド以上と見られ、国会での審議を待つが、ヴァンガード級トライデントミサイル潜水艦四隻の後継艦は大問題だ。
  4. 上記企業幹部は国民投票結果で英国内及び海外から投資は減速すると見ている。
  5. 「英国向け投資案件は疑問視されるでしょう。英国企業も投資活動に慎重になり、状況がはっきりしするまではそのままとなり、結果として投資低迷が続くと思います」
  6. 「英国に投資しようと考える向きも政治面で不確実性を嫌うでしょう。企業活動でこれまでとは見方が変わります」
  7. ただし英国防産業は全般として「きわめて回復力が高く粘り強いので、問題を直視し新しい政治環境に挑戦していくでしょう」とする。
  8. 同幹部は英国離脱でもヨーロッパ各国とりわけフランスとの共同事業に大きな影響はないと見ている。
  9. 「国防産業の観点ではEUを高く評価していません。ヨーロッパ各国との国防関係協力事業はブリュッセルと無関係です。特にフランスと関係強化につながると楽観視しています」
  10. 「ヨーロッパの反応はこれからですが、ドイツの国防観はフランスと大きく違いますし、フランスは英国よりの考え方ですので、事業の協力関係は自然に続きますよ」
  11. ラフは対欧州協力関係で政治要素が入るのは必至と見る。
  12. 「そうなると英仏協力は一層難しくなりますね。英仏防衛条約が両国のトップによる政治取り決めで成立ずみですが難易度は高くなるでしょう。次期首相がキャメロンと同じ扱いをするかも不明です」
  13. パリではフランス防衛調達部門のトップが英国との強い関係を強調しつつ現時点で中長期的には不明と語っている。
  14. 「国防部門ではランカスター条約で取り決めた二国間協力が基礎で両国の高レベルがそれぞれ支持しています」とローラン・コレ・ビヨン防衛装備調達総局局長が語った。「今の時点ではブレグジットの影響が防衛部門にどう出てくるか不明ですが、短期的な影響は少ないとしても中長期的にはわかりません」
  15. カミユ・グランはシンクタンク戦略研究財団Fondation pour la Récherche Stratégiqueを主宰し短期的には若干の不確実性があるが心配すべきは先が見通せないことだという。「ヨーロッパの防衛に悪材料です」■


2016年6月22日水曜日

★中国がBrexitを恐れる三つの理由



この通りならいよいよ迫ってきた国民投票の結果で中国の目論見が崩れると面白いですね。
僅差で残留が決まると見ていますが。

The National Interest 3 Reasons China Fears Brexit

英国の離脱でEU内経済権益の消失を恐れる中国
June 19, 2016


  1. 疑いなく米国はBrexitで多くを失う。この数か月で多数の評論家がオバマ政権とともにこの点を強調している。だがその中で中国でも同様と指摘したのは皆無に近い。英国がEU離脱すれば、中国にも経済政治上の打撃は大きいため中国政府は憂慮している。中国は静かだが明確にBrexitに反対姿勢を示し、習近平主席自らが昨年10月の訪英時に伝えている。他国の内政へは不干渉を貫くべきという公式な立場を離れて、中国政府は「中国は繁栄の下でEUが団結していくと希望する」との声明を出しており、真意は明白だ。
  2. だがなぜ中国がBrexitの可能性を心配するのか。そこで中国が対英関係を重視する理由三つを理解する必要がある。
  3. まず第一にかつ最重要なのが中国政府が英国との緊密な関係を利用してEUの対中政策に影響力を行使したいと考えていることだ。日米両国の圧力のため、中国はこれまで以上にEUに経済利益の機会を求めており、これが一帯一路構想の原動力になっている。このため中国は英国と経済政治関係を大幅に強化しており、英国を重要なパートナーとしてEU内の代弁者に変えようとしている。中国指導部が英保守党の関心を引こうとしているのは同党が貿易立国をかたくなに信奉しているためだ。中でもジョージ・オズボーン蔵相はデイヴィッド・キャメロン首相の後継者とみなされている。
  4. 早くもこの戦略が二方面で結果を生みつつある。国内外の反対を押し切るかたちで英国政府は中国の市場経済待遇を受け入れるようEUにロビー活動を展開し、中国製品への反ダンピング課税を軽減することを狙った。英国政府は数十億ドル単位のEU中国自由貿易協定の推進を公に進め、ここでも中国は大きく貿易投資をヨーロッパと拡大させる目論見だった。中国の観点では、貿易拡大など追加効果により米国が進める環太平洋貿易投資連携の実現を一掃難しくさせたい。そこで英国がEU離脱となれば中国が狙うEUへの影響力拡大構想が大きな打撃を受けてしまう。またEUもパートナーとしての経済政治力が低下してしまう。
  5. 二番目として中国にとって英国は欧州市場への重要な入口となる。規制が比較的緩い英国に中国企業多数が多額の投資をし、巨大だが規制が厳しい5億人の欧州大陸市場への飛び石として利用している。こういった戦略的投資が近年増えており、中国企業がヴァリューチェーンを構築する事例が特にサービス産業で目立っており、米国など安全保障や技術移転のため投資が思い通りに進まない他国と好対照になっている。当然のこととしてBrexitが実現すればEU市場に英国から入る中国の目論見が崩れる。英国に大規模投資をしている大連万達Dalian Wandaの創設者王健林Wang Jianlinは「Brexitは英国にとり賢明な選択ではない。投資する側には余分な障害が生まれる」と警告している。内部関係者によれば中国企業各社は英国との新規取引を中止しており神経を尖らせながら国民投票の結果を待っているという。
  6. 三番目の理由としてロンドンは中国が進める通貨元の国際化戦略に重要な場所だ。世界有数の金融ハブとしてEU内に位置し、時差の関係から東アジア、欧州、米国をカバーできるロンドンはアジア外で元の利用促進を進めるのに理想的な場所だ。元の国際化は中国政府の大きな目標であることに注意が必要だ。中国は元建て国債を発行し、金融の力を借りた成長が可能となり、外貨依存を減らし、元が安定し自由に取引決済できる通貨になる。また元の国際化で中国は世界の金融秩序を形成できる立場になり真の大国となる。したがってロンドンを元国際化戦略の中心とすることは中国にとって重要事項だ。
  7. すでにこの戦略が効果を上げている兆候がある。ロンドンは香港に次ぐ世界第二位の元取引高を誇り、北京通貨取引市場は中国中央銀行の下部組織としてロンドン支部を開設すると発表している。もし英国がEUから離れたら、元国際化の野望と世界金融界での地位向上がロンドン通じ実現するか確証が持てなくなる。特にロンドンはヨーロッパの金融サービスの中心地であり、英国に本拠を置く金融企業はEU加盟国すべてで追加登録なしで活動できる「パスポート」機能があるので、これがなくなれば大きな打撃だ。
  8. ここまでは戦略レベルの大きな理由だが、中国にはこれとは別にBrexitがEUに即効で与える効果にも気をもんでいる。それは中国にはEUが最大の貿易相手であり2015年には5,200億ユーロ相当の財サービスの交易があった。英国がEUから離脱すればEUへの影響は深刻で世界経済にも同様だ。すると翌年から数年間は世界経済が減速しかねない。輸出依存の経済構造の中国はすでに経済不況にも直面しており、さらにこのシナリオが加わると困難な事態になる。
  9. さらに中国指導部はBrexit国民投票そのものに当惑を隠せない。予想不可能な事態になるかもしれず一度結果が出れば元に戻れない国民投票という賭けにキャメロン首相が出た理由が理解できないのだ。中国専門家のケリー・ブラウンによれば実利を追い求める中国指導部は英国が国家主権だけを理由にEUの恩恵である経済や政治上の利益から背を向ける可能性にショックを受けているという。
  10. 要約すればBrexitは中国にとって何もいいことがなく、戦略経済的に悪い結果をもたらす。そこで6月23日の国民投票を中国指導部はかたづを飲んで待っている。当然だろう。中国にとっては高くつく結果になるからである。

イヴァン・リダレフはキングスカレッジロンドン校で博士号取得予定で、ブルガリア国民議会で顧問も務める。Diplomat,China Brief, Eurasia Reviewで論文を発表しており、専門は国際関係論とアジア安全保障問題である。記事は著者自身の見解である。
Image: Flickr/Number 10 (Crown copyright).